心と体

2019年6月19日 (水)

大津市民病院で連鎖的逃散発生中

先日話題になっていたのがこちらのニュースですが、興味深く感じたのが記事を読んだ一般市民の方々が非常に生暖かく事態の推移を見守っていらっしゃる点でした。

市民病院で救急医が一斉退職へ 診療体制の維持に危機(2019年6月8日朝日新聞)

 大津市の地方独立行政法人・市立大津市民病院で、救急医療に携わる医師の大半が一斉に退職することが、滋賀県幹部らへの取材でわかった。院内の救急以外の医師で対応する一方、近接する複数の病院に応援を打診している。しかし医師不足を解消し、診療体制を維持できるかは不透明な状況だ。

 市民病院は、救急外来「ERおおつ」が24時間態勢で、休まずに救急患者を受け入れている。集中治療室(ICU)に8床あり、屋上のヘリポートではドクターヘリが離着陸できる。

 市消防局によると、昨年1年間に救急搬送した約1万6千人のうち、24・7%にあたる4044人は市民病院が受け入れたという。

救急担当医の大半が退職へ 大津市民病院(2019年6月11日中日新聞)

 大津市の地方独立行政法人・市立大津市民病院で、救急医療に携わる医師の大半が、今月末で退職することが分かった。同院は、県内外の医療機関に応援を依頼しており、「今後も救急体制を維持できる」と説明している。

 同院によると、同院は二十四時間体制で救急患者を受け入れている。救急診療と集中治療室については医師七人が担当しているが、うち六人が今月末で退職するという。診療部長の医師が退職するのに伴い、指導を受けていた若手医師らが退職することになった。
 同院は「県内外の大学と病院に医師の派遣を打診して、非常勤で来ていただけることになった。院内のほかの医師も救急を担当することにし、来月以降も救急の受け入れを維持できる」としている。

 同院ではこの春、産婦人科で医師の退職が相次ぎ、六月から分娩(ぶんべん)の受け入れを休止する問題も生じていた。

記事にもあるように同院では今春の段階で産科医退職が相次ぎ分娩取り扱い休止も発表していて、典型的な連鎖崩壊の様相を呈していますが、驚くのはこの状況で救急体制を維持できると公言していることです。
もともと救急は常勤3人+後期研修医4人で回していたそうですが、それで年間4千件ですから決して暇であるとは思えず、その担当医が一斉退職した以上どうしたって体制縮小が必須ではないかと思われます。
病院長としては全く縮小の意図はなく今まで通り回すと言う固い決意でいらっしゃるそうで、その辺りも今回の一連の事態に至った理由の一つかとも愚考するのですが、非常勤の先生が頑張ってくれるといいですね。
ともあれ、いきなり救急を担当させられることになった院内他科の先生方も暇ではなかろうですから、今後も逃散が相次ぐのではないかと言う印象を受けるのですが、しかしそもそも何故こうなるまで放置していたのかです。

風の噂には色々と聞くところもあるのですが、話題になっていたのが独法化に伴い赤字山積する経営面の改善を迫られ、より多くの患者受け入れと人件費削減を推進した点に根本的な原因があると言う声です。
時間外勤務手当縮減などにより人件費率を5年間で62.6%から55%以下に引き下げると言うのですから、仕事が増える一方で報われるところが少ない以上よほどトップに求心力がなければ破綻は目に見えています。
何ら経営改善をせず赤字垂れ流しでは病院の存続自体が危ういと考えたのでしょうが、地域医療構想に伴う病院再編が喫緊の課題となっている時代に、赤字病院は優先して潰すべきと言う意見も少なくありません。
全てを守ろうとして結局全てを失うよりは、医療リソースの集中と集約化で強みを特化した方が生き残る可能性が高そうに思いますし、こうした都市部の病院でこそそうした取捨選択は容易なはずですけれどもね。

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2019年6月16日 (日)

国がようやく無給医の存在を公的に認定

今さら感のある話題ではあるのですが、医師の働き方改革と関連してこのところにわかに世間的にも注目を集めているのがこちらのニュースです。

ある無給医の死(2019年6月4日NHK)

白衣で笑顔を見せる若手医師。大学病院で徹夜で緊急手術にあたった後、アルバイト先の病院に向かう途中に交通事故を起こして亡くなりました。この医師、「無給医」でした。(社会部記者 小林さやか)
無給医とは、大学病院などで無報酬で診療にあたっている若手医師のことです。取材した当事者たちは、生計を立てるため、病院のアルバイトを掛け持ちし、疲弊し切っていました。
「うつになった」「心身共に限界」「いつか死ぬのではないか」
そんな悲痛な声も数多く聞きました。そこで、無給医が過去に最悪の事態に至ったケースはなかったか取材したところ、今から16年前の前田伴幸さんという若手医師の死にたどりついたのです。
(略)
そんな伴幸さんが交通事故を起こしたのは医学博士の学位取得も決まり、大学院の卒業を目前に控えた2003年3月8日のことでした。
午前8時ごろ、伴幸さんが運転する車は鳥取県倉吉市の道路で、対向車線にはみだし、トラックと正面衝突。事故で車は大破し、伴幸さんは命を落としました。
当時、遠く離れたアルバイト先の病院に向かう途中だった伴幸さん。警察の調べで、現場にはブレーキ痕はなく、伴幸さんの居眠り運転が原因とされました。

なぜ息子は事故を起こしたのか。三女子さんの脳裏をよぎったのが生前の伴幸さんの異常なまでの働きぶりです。
実家には、弟の結婚式と父親の還暦祝いの時しか顔を出しませんでした。その式でさえ、途中で帰っていました。
気になって訪れた下宿の部屋は散らかり放題だったといいます。

そんな生前の息子の様子を聞こうと、三女子さんは夫とともに、事故後、医局の教授に面会を求めました。そこで教授の態度に大きな衝撃を覚えます。
 あまりにショックで何を言われたか覚えていません…。
こう話す三女子さん。記憶にあるのは若い医師を医局の駒としか見ていないかのような教授の態度だったといいます。
こんなところで息子は働いていたのかと本当にショックを受けました。このピラミッド構造の中、誰も何も言うことができず、息子も限界を超えて働いていたのではないかと直感的に感じたんです。
(略)
私は裁判を担当した松丸正弁護士に当時の話を伺いました。
判決から10年。しかし松丸弁護士は法廷で明らかにされた事実を鮮明に覚えていました。
 伴幸さんは、大学院での『演習』として無報酬で診療行為を行っていました。しかし『演習』といってもそれは名目で、実態的には勤務ですよ。しかも、尋常じゃない長時間労働だったのです。
松丸弁護士らは、勤務記録すら存在しない中、大学から電子カルテの記録などを取り寄せ、実態を明らかにしました。
時間外勤務は月に200時間。一般に過労死ラインと呼ばれる月100時間の2倍を超えていました。
さらに事故前の1週間は、徹夜勤務を4日間こなし、そのまま通常勤務を行っていたことも分かりました。
亡くなる直前も、徹夜で緊急手術にあたり、そのまま仮眠さえとらずにアルバイト先に運転して向かおうとしていたのです。

この異常な勤務を伴幸さんが働いていた大学側はどのように裁判で説明したのか。
以下が大学側の主張の概要です。
▽診療行為はあくまでも院生だった本人が選択した「演習」であり勤務ではない
▽アルバイトは、本人が希望し、自ら進んで行っていた。大学の業務とは関係がない。事故について大学には責任がない。
▽アルバイト先への移動は公共交通機関を使うように指導していた。車で移動したのは自己責任だ。
 これを聞いて、私自身強い憤りが湧いてくるのを抑えることができませんでした。それは大学の主張に対してでもあり、16年もたった今でも、無給医たちが私に訴える状況と、あまりにも似通っていたからです。

裁判では「実態としては勤務医に近く、自由意志で業務を辞めることができたとはいえず雇用契約がなかったとしても、大学側には安全に配慮する義務があった」として、大学側の責任を認め、損害賠償の支払いを命じる判決が出されました。
しかし、この裁判で私にはどうしても引っかかる点がありました。
それは大学での診療が無給で行われていたことが裁判では一切争われていなかったからでした。大学で生活できるだけの給料が支払われていれば、伴幸さんもアルバイトに行く必要はなく、事故を起こすこともなかったのではないかと感じたからです。
この疑問を松丸弁護士にぶつけてみました。すると、少し考え込んだあと、こんな言葉を口にしました。
 確かに、『演習』だから無報酬というのは違和感はありました。しかし、当時はそういうものだと思っていて、そこに問題があるということを私たちも気付くことができなかった。今思えば、きちんと裁判で争い判例を作るべきでした。
(略)
松丸弁護士も「今の社会情勢であれば、無給であることを裁判で争えば違法だと認められると思います。誰かが勇気を出して声を上げ、裁判を起こせば確実に世の中が動くと思うし、そうした支援をしたいです」と話しています。

「無給医」少なくとも2000人 国が初めて存在を認める(2019年6月7日ライブドアニュース)

大学病院などで無給で診療にあたっている「無給医」について、国は長年その存在を否定してきたが、全国の大学病院を調査した結果、少なくともおよそ50の大学病院に2000人を超える無給医の存在が確認できたとして、近く明らかにする方針だ。NHKニュースが報じた。

医局は教授を頂点とし、准教授、講師、助教と連なるピラミッドのような構造となっていて、最も下に位置する大学院生や医局員などは、医師として診療にあたっていても無給だったり、わずかな給与だったりすることがあるという。

2003年と言えばちょうど現行の臨床研修制度がスタートする直前だと思いますが、当時はまだ大学医局に所属してのストレート研修の時代であり、まだまだ大学医局の権威が強かった時代です。
翌2004年春からの卒業生は自ら勤務先を探して現在の研修を行うスタイルとなり、その後は各病院間での研修医の奪い合いを通じてずいぶんと待遇も改善され、また大学医局の力も弱まっていった経緯があります。
その意味では16年前だったからこそ起こった不幸な事故とも言えますが、しかし現代においても程度の差はあれ同様の状況はある一方で、国もつい最近まで無給医など存在しませんが何か?と言う態度でした。
ともあれ、こうした話を聞けばそもそも論として何故ただ働きをしているのか?と言う疑問も湧くところなのですが、外科医である中山裕次郎先生からかつての当事者からの見解としてこんな記事が出ていました。

なぜタダで働くのか?「無給医」たちの現実 ~医師の視点~(2018年10月28日yahooニュース)

(略)
 ここで3タイプの無給医を紹介しましょう。順に説明します。
1. 「勉強したいから無給」医
2. 「大学院生で無給」医
3. 「医局の都合で無給」医

1. 「勉強したいから無給」医
 「勉強したいから無給」医は、言葉のとおり「この病院で働きつつ高度なスキルを勉強したいから、無給で働かせて下さい」というもの。実は私も若い頃、月15日の給料のみという契約でしたが勉強したかったので月22日勤務していたことがあります。事務方からは、「その7日は趣味で来ているということにして下さい」と言われていました。私の先輩医師には、完全フルタイムで働きつつ無給で勤務した医師も数人います。
 この「勉強したいから無給」というスタイルは、医師の世界ではそれほど特殊なことではありません。なぜなら後述するように、医師は超長時間労働さえ覚悟すればアルバイトで生計を立てられるからです。

2. 「大学院生で無給」医
 次に、大学院生で無給というスタイルがあります。医局に入局した医師の多くは、だいたい卒業まで最短で4年かかる大学院に入学します。そこで大学院生として講義に出たり研究をしたりしながら、その4年のうち1、2年は大学病院で給与は出ないまま医師の仕事をするパターンが非常に多いのです。
 調査したわけではありませんが、耳に入ってくる医師の大学院生は8割以上がこれに当たります。下手をすると、「人手が足りないから」という理由で大学院に進学したが研究をする時間を与えてもらえず、ずっとタダ働きをしていたなんてこともあるのです。その結果研究が進まず論文が完成しないため、大学院には行ったが卒業できなかった、又は博士号が取得できなかったというケースも存在します。

3. 「医局の都合で無給」医
 最後は医局の都合で無給医をやっている医師です。このタイプが人数としては一番多いかもしれません。こちらは、医局が「大学病院に有給職として雇えるのは○人」と決まっており、しかしそれでは人手が足りないため無給医として大学病院に勤務させるというもの。
 そんなひどい話があるのか、それなら医局を辞めればいいのでは、という声も聞こえてきそうです。が、やはりアルバイトで生計がある程度立ってしまうのと、医局をやめることは大学病院医師としてのキャリアを失うことになります。さらには医局の人間のつながりがあり、「人助け」が信条の医師はついその立場に甘んじてしまうこともあるでしょう。また、大学病院でしかできない病気の治療や高度な治療、そして稀な病気の治療や研究に携わりたい人もいます。
(略)
 この無給医、なぜ今まで問題にならなかったのでしょうか。重要なポイントは2つあります。
 1点目は「医師はアルバイトで食っていける」という点です。医師には、アルバイトというシステムがあります。医師がするアルバイトは、普通のアルバイトと同じで時給か日給で一日~数日間など病院で働いてアルバイト代をもらうもの。中には金曜日の朝から日曜日の夜までぶっ通しで働くものがあり、割がいいのです。これだけ毎週やっていれば、年収は800万円を超えます。詳しくは日経ビジネスオンラインの記事にも書きましたが、アルバイトだけで生計が立つのです。ですから、本業(フルタイムの仕事)は無給でもやっていけるという事情があります。もちろん、労働時間は超長時間にはなりますが
 もちろん、「食っていけるからフルタイムは無給でいいだろう」という論理は誤りですが、場合によっては無給医みずからがそう考えていることもあります。

 2点目として、私は労働体制に文句が言えない業界体質を指摘します。医師の大多数は大学医学部の医局という組織に所属し、基本的にその医局の人事で動いています。医局とは教授をトップとするピラミッド型の構造で、多くの場合給与や階級(職位)はおおむね年功序列です。
 私は大学病院と無縁に働いているためこういった発言ができますが、大学病院勤務、あるいは医局に所属する医師にはまず不可能でしょう。大学病院を辞めても他の病院で働けばいい、という話はありますが、大学病院は多くの都道府県では1つしかなく、県内じゅうの大きな病院は医局が強い影響力を持っています。医局との関係が悪くなれば、そのエリアでは働きづらいという状況に陥る可能性もあるのです。
(略)

文字通りの無給となると大学病院以外の市中病院ではまず考えにくく、医局に所属せず大学と関わりのない医師には無縁な話かも知れませんが、逆に今の時代であれ大学で出世したい先生もいるはずです。
組織の中で這い上がっていこうとすれば、どれだけ組織に貢献し目上の覚えがめでたいかが問われることは医療の世界に限らない話で、逆に言えばギブアンドテイクの関係として成立する余地もあることなのでしょう。
ただ大学教授を目指すわけでもなく、ただたまたま学位取得を目指しているだけの大学院生が無給医として動員されている事例が多いなら問題で、得られる利益に対して代償が大きすぎると言えそうです。
臨床研修制度が変わって以来、大学など関係なく病院を渡り歩く先生も増えていて、こうした無給の兵隊候補も減っているはずですが、それだけに残る少数の医師が以前以上に酷使されかねません。
大学病院で医師の待遇改善が進まない最大の理由に医師の給料が最も安上がりで、だからこそ雑用に酷使されると言う説がありますが、医師の働き方改革を考える上でも放置は出来ない問題と言えますね。

個人的には冒頭の記事とも関連して、大学当局が雇用契約を締結しておらず労働者ではないから無給であると言うのであれば、この方々の診療行為に関連した報酬なりはどう扱われているのかが気になります。
大学病院であれば電子カルテが当然で、何をするにも誰がやったかの電子的記録が残るはずですが、存在していないはずの医師が何かしら行った場合に診療報酬を請求するなら、下手すれば詐欺行為ですよね。
そうでなくともこうした医師の診療行為で何かしらトラブルがあった場合、話が非常にややこしいことになると思いますが、それもあってか完全な無給ではなく限りなく無給に近い薄給と言う扱いの場合もあるようです。
大学の偉い先生方の中には医師の働き方改革に抵抗されている方もいらっしゃるようで、その背景にはこうした事情もあるのかと思えば納得はするのですが、世間的に受け入れられる話とは思えません。
百万歩譲って地域医療崩壊を避けるためだとか医師技能向上のためだとかで労基法無視の長時間労働をさせたとしても、だからといって医師をただ働きさせていい理由には全くならないはずです。

 

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2019年6月10日 (月)

結局のところは医療の沙汰も金次第と言う現実

傍目に感じる素朴な疑問と言うことでしょうか、先日こんな記事が出ていました。

なぜ?医師数は過去最多32万人でも“医師不足” 「地域医療が成り立たぬ」現場の声(2019年6月2日FNN)

全国各地で医師不足が深刻化している。
(略)
厚生労働省のデータによると、全国で医師の数は過去最多となる約32万人。その一方で、専門家は問題を指摘する。

医療ジャーナリスト油井香代子氏:
医師の数は地域によって違いがあり、医師が集中するのは大都市です。
最先端の医療技術があり、情報が多くあるので都会に集中する傾向があります。
その影響で人口の少ない過疎地には、どうしても医師が不足するということになります。

医師不足 の背景に“県内格差”
人口10万人に対する医師の増減データをみると、「大都市医療圏」にくらべると、「過疎地域医療圏」では医師の数が減少している地域が多いことがわかる。
(略)
医師不足が更に深刻な地域では、自治体が主体となって非常勤の医師を雇っているという。
ある女性医師は、住居のある埼玉県や東京都内の医療機関に勤務しながら、定期的に北海道などで非常勤で勤務しているという。
(略)
そんな中、秋田県湯沢市唯一となる市立の診療所・皆瀬診療所で、3年以上にわたる常勤医師不在が解消され、ついに常勤の医師による診療が始まった。
岩手から赴任した55歳の男性医師は内科と外科が専門で、傷の縫合手術や胃の内視鏡検査も可能に。今後、湯沢市は必要な設備を充実させていくという。
湯沢市福祉保健部の佐藤恒雄部長は「お医者さんがいなくなってからの3年間で6割程度患者さんが減少し、少ない時で10人というような状態になっていた。人口も減っていて、これから医療は少しずつ変わっていくと考えているが、地域の住民が安心して生活できるような医療を目指し、医師と一緒に市全体の医療を作っていきたい。」と話す。

総務省と厚労省は今後、医師の確保が困難な地域の公立病院に対して、財政措置を拡充していくということだ。
(略)

お金を出せば集まるうちはまだしもですが、歴史的に見れば医師不足とは医療需要の増加、多様化と言う需要増大の要因と、医療の提供側の要因とに大別出来ると思います。
前者については数十年前であればまだ全国で医者の顔を見るなど死亡宣告の時だけと言った地域もありましたが、今やどんな僻地のお年寄りでもその気になれば定期的に医療機関を受診出来る時代です。
それもかかりつけの町医者で何でも診てもらうと言うのではなく、耳が悪ければ耳鼻科専門医、白内障なら眼科専門医と専門分化も進んでいるのですから、多様な需要に応えようと思えば医師数は幾らでも必要です。

他方で医療を提供する側でも年々医療を行うこと自体が手間暇かかるようになっていて、昔なら簡単な説明で即治療だったものが、今は何度も丁寧な説明を繰り返し理解と了承を得る必要があります。
手術にしても昔ながらの開腹手術なら1時間で済むものを内視鏡で何時間もかけて切ったりするのですから、治療そのものも高度化・複雑化して一件当たりの手間暇がかかるようになっているとは言えますね。
さらに言えば結局不足しているのは内科や外科で年中休みなく働く医師ですが、かつて何も考えずに大部分が内科外科に進んでいた学生達が、今はQOMLも考慮しながら多様な進路を選択する時代です。
診療科別の医師数推移を見てみれば判りますが、医師総数は増えていると言っても内科、外科、産婦人科、小児科のいわゆるメジャー診療科はむしろ年々減少を続けていると言うのが現実ですよね。


いずれにせよこうした時代にあって医師を集めることも一苦労で、各地の病院ではそれぞれに工夫したやり方で医師集めを行っていますが、話として判りやすいのは労働環境改善と金銭的待遇の改善でしょう。
メディカルクラークを導入するなど、医師の労働環境改善は今の働き方改革推進の議論の中でも当然話題になってきたものですが、医師が増えれば仕事も楽になる好循環も期待出来るでしょう。
他方でその医師集めの有力な手段ともなり得る金銭的待遇改善はどうしても先立つものが必要ですが、先日こんなニュースが話題になっていました。

救命救急センターが医師不足解消のためクラウドファンディング 2000万円調達へ(2019年6月5日MBS)

 大阪府高槻市の三島救命救急センターが医師不足を解消するため、クラウドファンディングを使って資金調達を行うと発表しました。クラウドファンディングで病院が運営資金を募るのは全国初だということです。

 大阪府三島救命救急センターは緊急性の高い患者を24時間体制で受け入れていますが、10年前と比べると医師の数が半減するなど近年医師不足が深刻で、患者の受け入れを制限せざるを得ない状況が続いています。
 「さらに離職者が増えて、培ってきた救命救急の知識や技術がこれから先につなぐことができなくなってしまう」(大阪府三島救命救急センター 福田真樹子副所長)

 収益が大幅に減る中、病院としては全国で初めてクラウドファンディングを使って運営資金2000万円を募る計画で、集まった資金は人材募集の費用などに充てる方針です。

医師人件費をクラウドファンディング 大阪の救急病院(2019年6月5日朝日新聞)

 深刻な医師不足を解消しようと、大阪府三島救命救急センター(同府高槻市)がクラウドファンディング(CF)で医師らの人件費を集める試みを始める。センターとCFサイト運営会社「レディーフォー」(東京)が5日発表した。同社によると病院が人件費を募るCFは全国的に珍しいという。センターは「病院だけではもう限界」と協力を呼びかけている。

 センター(41床)は公益財団法人が運営。命に関わる重篤な患者を24時間態勢で受け入れている。だが近年は慢性的な医師不足に陥り、2010年度の27人から今年度は14人とほぼ半減。17年度は院内感染で1カ月間、患者の受け入れを停止したほか、整形外科医の不在で3カ月間、外傷患者の受け入れを止めた
 その結果、財源の6割超を占める医療収入が大幅減に。10年度の13億8400万円から17年度には9億5900万円に落ち込んだ。人件費も削減され、離職者が相次いだ。

 施設の老朽化の問題もあり、22年度に市内の大阪医科大学内に移転する予定。それまで安定運営を続けるため、CFの活用を決めたという。センターの福田真樹子副所長は「悪循環に陥り、病院だけではもう限界。安全に患者の治療、看護を続けるために応援をお願いしたい」と話した。

記事を見れば全国どこでもありがちな激務の救急医療機関で医師の逃散が起こっている状況とも受け取れるのですが、病院側としてはこうした状況に対応すべくある程度の診療制限なども行っていたようです。
その結果収入が大幅に減り人件費も削減され、さらに離職者が相次ぐ事態になっていると言うのですから悪循環そのものですが、そもそも論として地域で必要な施設であるから整備されたのではないかと言うことです。
地域住民が必要だと思うリソースの整備には本来地域住民がお金を出すべきだと思いますが、言ってみればそれを可能にする手段としてクラウドファンディングと言う手法は合法的な抜け道にはなり得るものでしょう。
公的病院が多く、地域性を無視した全国一律の公定価格を強いられ、営利目的での運営も禁じられた日本の病院では、まずは経営的自由度を高めるための努力と工夫から始めなければならないのでしょうね。

ただ現実的にこれだけ収益も減り人員もさらに減少を続ける中で、たかだか2000万円で何が出来るのかと言う疑問は誰しも抱くところでしょうが、2000万円で人材を募集してもしょせん一時的なものにしかなりません。
安定的な経営を続けるとなれば固定的な収入を確保しなければなりませんが、判りやすいのは公的資金の導入で、全国各地の公立病院は自治体からの支援がなければ運営が出来ない状況です。
ただ自治体の財政問題を抜きにしても、医療機関の場合高齢者の利用が最も多く、働いて税金や保険料を払っている現役世代は利用が少ないと言う点で、過度の公費投入も世代間の不公平感につながります。
今後医療の規制緩和なりで安定的な収入を確保出来たとしても、経営的観点から現場に介入されることを喜ぶ医師も少ないはずですが、病院毎に受け入れ可能なやり方を個別に工夫するしかないのでしょうか。

 

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2019年6月 3日 (月)

医師の働き方改革、診療報酬上の手当はなく自助努力が求められる方向に

長崎の病院で33歳の勤務医が2014年に死亡した件に関して先日過労死と認められ、病院側に1億6千万円余の支払いが命じられた判決が出ていました。
亡くなる直前1カ月の残業は159時間だったそうですが、単純計算で12倍すると年1908時間と、このところ話題の年1860時間と言う数字にほぼ相当する時間なのが気になるところですよね。
いずれにせよこの働き方改革と言うもの、実現に向けては資格専門職である故に数が限られた医療のマンパワーの問題に加え、金銭的な負担増加が懸念されるところですが、このところ気になるニュースが出ています。

医師の働き方改革、診療報酬上の扱いは?(2019年5月29日医療維新)

 中央社会保険医療協議会総会(会長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は5月29日、次期診療報酬改定のテーマの一つとして「働き方改革と医療の在り方について」を取り上げた。診療側からは働き方改革に必要な財源を診療報酬で手当てすることを求める声が上がったが、支払側が反論し、激しいやりとりになった(資料は厚生労働省のホームページ)。

 医師の働き方改革に関するこれまでの議論の経過や政策的な対応について、104ページに及ぶ資料について約1時間にわたって厚労省保険局医療課長の森光敬子氏が説明した後、議論に入った。
 全日本病院協会会長の猪口雄二氏は、医師に先立ってそれ以外の職種では今年の4月から働き方改革関連法が施行されたことで、これまで当直として扱ってきたものを夜勤として時間外手当を支払わなければならなくなるなど、「医師以外は働き方改革で勤務体系が変わってきている。夜勤を置かなければいけないため、明らかに人件費が増えている」と指摘。病院運営が厳しくなるとして、「入院基本料がどうあるべきかを議論しないといけない」と求めた。
 これに対し、健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は「基本料にまで言及されたが、これは誰が負担するのかを考えていただきたい。医師の働き方改革を患者が負担することには違和感を覚える。全く違う論理だ。全ての企業で働き方改革が行われており、経営トップがマネジメント改革をするところから始まる。基本料や加算を拡大するのは働き方改革とは違う方向だ」と反論した。

 医師の働き方改革と診療報酬の関係については、2017年11月8日にも幸野氏と日本医師会副会長の今村聡氏との間で議論が繰り広げられた経緯がある(『診療側、働き方改革で診療報酬上の対応求める』を参照)。このときも幸野氏は「働き方改革のために診療報酬上の対応をするのは違うのではないか」と反対を表明していた。
 今村氏は今回、マネジメントの改善がこれまで十分でなかったことは同意しながらも、「医師の働き方は医療を受ける国民の医療安全に資する話だ。それを支えるには一定の財源が必要で、どんなに改革をしてもコストはかかる」と指摘。日医常任理事の松本吉郎氏も「幸野氏には明確に反論する」と強い口調で表明。「中医協では医療技術の適正な評価をし、それに伴って患者は一定の負担をする。これは明確なルールだ。それを保険者から被保険者に説明する視点が欠けているのではないか。診療側も説明していくが、支払側も説明していってほしい」と求めた。幸野氏は「各論に入り、『これならば必要であろう』という加算は議論しなければいけないが、入院基本料という話が出て、それは違うのではないかということだ」と再度反論した。

「最初から診療報酬で手当て」は想定せず - 迫井正深・厚労省審議官に聞く(2019年5月29日医療維新)

――今後、労働時間管理、さらにはその縮減に向けてタスクシフティングをはじめ、さまざまな改革に医療現場が取り組む中で、行政としてどんな仕掛け、支援を想定しているのでしょうか。予算や診療報酬上での支援を求める声もあります。

 まずは各医療機関で、医師の働き方の実態と具体的な課題を個別に把握していただくことから始めないと、何をどう改善するのか、現場で対応すべき具体策が見えないのではないかと思います。そのためにも、まずは労働時間の管理を徹底していただく。その上で、地域のニーズや他の医療機関の状況も踏まえて、何を変えなければいけないのかなど、個別の課題に対応していただく。働き方改革は、マネジメント改革そのものです。行政による支援ツールはそう多くはありませんが、マネジメントに必要な専門的知識の提供、ノウハウや事例の紹介などが想定されます。
 また何をすべきかが整理できても、すぐにはできない場合があります。永続的な支援は難しいですが、将来の姿を目指していくに当たって、「どうしてもこの部分が不足している」などといった場合に、例えば、マンパワーの配置換えに伴う事業的な経費を支援することもあり得るでしょう。その場合、地域医療介護総合確保基金や各種補助金などの既存事業の活用も含めた対応を検討することになると思います。
 一方で、最初から診療報酬で全国一律に対応することは、「ちょっとないだろうな」と。個々の現場の状況があまりに異なるため、先ほど触れたような、まず着手すべきことをやっていただくことが先決でしょう。その上で、現場の動きを見ながら、「ここは全国共通で、何らかの手当てが必要」といったものが出てくれば、そこをどう支援するかを考えるという手順になると思います。
まず現場でできる範囲で、できることをまずやっていただく
(略)
――これまで医師の労働時間管理をしていなかった医療機関の中には、新たに時間外手当を支払わなければいけないケースもあると思います。それまで支払っていなかったこと自体問題ですが、経営的には難しいとの声も現場にはあります。

 医療サービスが改革により充実するなど、国民の皆様にプラスの負担をお願いするのに値するような見直しがあるなら、そうした相談があってもいいとは思います。でも、まずは「これは、本当に必要なサービスなのか、必要なら誰が担うべきか、効率化はできないか」など、医師の働き方、そして病院内のマネジメント全体を吟味してください、という話だと思います。
 金融業や製造業をはじめ、他のセクターはここ20、30年、サービス残業や無駄な作業をなくすなど、生産性を上げる努力を死に物狂いでされてきたのだろうと思います。その結果として、従業員の給与を引き上げた場合で、サービスや商品の価格を引き上げた企業もあるでしょう。ただそれは、さまざまな努力をまず行ったあと、やむを得ずの値上げに消費者が理解を示した場合でしょう。最初から値上げありきで対応したわけではありません
 まず現場でできる範囲で、できることをまずやっていただく。それでもなお、どうしても採算が取れないといった事態になれば、診療報酬上の手当てはあっていいと思います。しかし、最初からそれをしないで、国民の皆さんに負担をお願いするのは、理解が得られないでしょう。
(略)

支払い側が新たな医療費支出増加につながる診療報酬負担に拒否感を示すことはいわば当然で、他業界でやっているようにまずは効率化や経営改革を進めるべきだと言うのは予想された反応でしょう。
ただ診療報酬を決めている厚労省側もほぼ同じロジックで語っている点は気になるところで、少なくとも当面のところ診療報酬上の手当がなされる見込みはないと考えてよいでしょうね。
もちろん他の業界から見れば医療の世界は経営上の無駄が多いと言う指摘は過去にも繰り返されてきたことで、今後その辺りをどれだけ効率化出来るかは国民から業界全体に突きつけられた課題です。

医療の側から見れば当然反論の余地もあり、全国一律の公定価格で全てが縛られ、しかも広告規制など営利的運営は実質的に禁じられ、かつ混合診療と言う利益追求手段も断たれている状況です。
手足を縛られ活かさず殺さずの経営を強いられている中で、何でもフリーハンドで行える民間企業と同様の経営改善をやれと言うのは虫が良すぎると言うことですが、改革の余地自体はむしろ少なくなさそうです。
判りやすい例で言えば名ばかりの総合病院で、さして需要もない診療科でもとりあえず一通り取りそろえておく必要があるのかどうか、緊急性がないことであれば必要時に他の施設に紹介してもいいはずですよね。
この辺り、自治体病院などは町長や議員が集票対策の一環で医者を呼んできた面もありますが、医療は利益追求だけの話ではないとして敢えて医療側自ら赤字部門も抱え込んできた側面も少なくありませんでした。

このところ医療側から医師働き方改革の前提条件として、国民の受診行動変容が求められていますが、不要不急のコンビニ受診を控えろと言うことはすなわち、国民の利便性を犠牲にせよと言うことでもあるわけです。
医師が疲れるからコンビニ受診を控えろが通用するなら、医療リソースが無駄になるから無駄な赤字部門は削減しろも通用するはずですが、興味深いのは医療の側から後者の話はあまり主張されていないようです。
薄利多売を強いられる診療報酬制度下ではとりあえず患者を大勢集めろ、そのためにどんどん手を広げろと経営側が要求してきた経緯がありますが、儲けにならないことに幾ら手を広げても意味がないのは当然です。
医療リソースは無意味に薄く広く分散配置すると、肝心の中核的施設で医師不足から過労や医療事故の原因となりかねないことは自明の理ですが、医療側に求められているのはこうした面での意識改革でもあるのでしょうね。

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2019年5月27日 (月)

給料が安い人ほど多く働かされるのは経済原則の上では当然で

医師の働き方改革を巡る議論を通じて、そもそも議論の前提となるはずの医師の労働の現状に関するデータにろくなものがないことも明らかになってきましたが、先日興味深い数字が示されていました。

時間外「960時間超」6.8%、「1860時間超」0.1%、全自病調査(2019年5月23日医療維新)

 全国自治体病院協議会は5月23日の記者会見で、会員病院を対象に実施した「医師の働き方改革に関するアンケート調査結果」を公表、時間外労働が「年960時間超」の医師は、2018年は6.8%で、2017年の7.7%から0.9ポイント減少していることが明らかになった。「年1860時間超」は、2017年0.2%から、2018年は0.1%に減った
 2018年の結果を見ると、初期・後期研修医は9.5%、非管理職医師7.8%、管理職医師2.2%と職位による差があった。診療科別では、救急科が9.9%で最も多く、次いで外科系8.0%。一方、最少は精神科1.2%であり、診療科による開きも大きい。

 調査では、厚生労働省が2018年2月に打ち出した「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」の進捗状況も尋ねた。2024年度から医師に適用される時間外労働の上限規制で、努力義務あるいは義務となる「連続勤務時間制限(28時間以内)」や「勤務間インターバル(9時間)」は、「実施済」が1割程度、「検討中」が約5割で、「対応不可」が「連続勤務時間制限」25.6%、「勤務間インターバル」31.9%を占めた。一方、「客観的な在院時間管理方法等の導入」「在院時間の実態把握」「労働時間短縮に向けた取組」「36協定の締結・届出」などは、「実施済」と「検討中」の合計で9割以上だった。
 「年960時間超」になる要因としては医師不足等が挙がり、医師の働き方改革に関する課題・要望は、「医師不足、地域・診療科偏在の解消」が最多で、54.0%と半数を超えた。次が「交代制勤務の推進には、経費増が避けられず、診療報酬での対応または補助金制度が必要」と「コンビニ受診の抑制等、国民の理解が必要」が各10.0%だった。
 全自病会長の小熊豊氏は、「年960時間超の医師が年々減っている。医師自体が、時間をいかに上手に使うかを考えるようになったのだろう。意識を変えることでも、労働時間は減る。また個々の病院がマネジメントを改善した結果とも言える」と語り、「医師の働き方改革は、やはり医師不足が最大のネック。次は経費の問題になる」と対策の必要性を訴えた。
(略)

数字の読み方にも色々な考え方があると思うのですが、特に見ていて興味深いと思ったのが研修医から次第にステップアップし、管理職になるほど労働時間は短くなっていると言う点です。
過去の厚労省の調査でも20代、30代で最も労働時間が長く、そこから年齢が上がるほど労働時間は短くなると言う傾向が見て取れますが、今回の調査でもこれを裏付けられた形ですね。
技量未熟な若手であれば、同じことをやってもベテランよりずっと手間暇が余計にかかると言う意見もあって、特に大学など高度医療を行い教育も同時に進めている施設ではそうした傾向が強いのも事実でしょう。
とは言え一般の職場環境から考えると、やはり労働において裁量権の強い上級職に比べて、職場内ヒエラルキーの下位に位置するスタッフほど様々な仕事を押しつけられやすいのではないかと言う推測も成り立ちます。

この点で思い出すのが医師の働き方改革を巡る議論の中で、働かせる側の管理職などエラい先生ほど労働時間制限への反対意見が強く、その理由として医師は働きたいから働いている云々の意見があったことです。
無論何の仕事であれ働きたいから働いていると言う人間は一定数いるでしょうが、多くの医師がやり甲斐を感じるからこそ働いているのであれば、長年医師を続けているベテランほど労働時間が長くなりそうなものです。
特に若手医師はもっと働きたがっているのだと、その労働時間を無制限に延長させようとしている先生方などは自らも寝る間も惜しんで働いていて当然だと思いますが、この辺りの数字を調べて見ても面白そうですよね。
ともかく年1860時間に達するような医師の多くは現状の労働量は過大だと考えているのだとすれば、それを引き下げるためには当事者に働くなと言っても無駄で、働かせる側に規制をかける必要があることになります。

一連の議論を通じて見えてきたことは、一つには働き方改革を推進しようとすれば現状の医療需要に応えることは難しく、いずれにせよ何らかの形で需要の抑制が必要になりそうだと言うことだと思われます。
そしてこれと表裏一体の関係なのですが、労働時間短縮にせよ需要抑制にせよ医師一人当たりの稼ぎも減るはずであり、病院の経営上収入減少に対する何らかの対策が必須であると言うことも自明でしょう。
議論の経過を見ているとほとんどの医療側関係者は働き方改革とセットで診療報酬上の手当を期待しており、そして支払い側はそんなことは出来ないしやるつもりもないと考えているらしいと言うことも見えてきます。
ただ多くの医療側も敢えて言及せずにいることですが、労働時間短縮によって当然ながら医師の収入も減るだろうことも予想されますが、その受け止め方については現場の医師各人でもっとも意見が分かれそうですね。

現在でもより多くの収入を求めて、常勤先以外にアルバイトをかけ持ちしている先生は少なくないと思いますが、生活に困るレベルの低給与の若手だけでなく、収入を多く得ているベテランの先生も珍しくないようです。
この辺りは労働量とその対価のバランスと言うこともあるでしょうが、例えば寝当直で支払いが良ければアルバイトで行きたいと言う先生は多いでしょうし、条件の悪い場合には人集めにも苦労するのは当然でしょう。
医師の働き方改革が進むと言うことは、こうした労働条件の善し悪しと人材が集まるかどうかの関係がよりシビアに問われることでもありますが、今後どんな職場が生き残っていくものかには注目しておくべきですね。
多忙で給料が安くても人が集まる職場や、仕事は楽で支払いもいいのに人が集まらない職場など、全国各地の求人求職状況を調べてみれば現場の医師の本音が最も明確に現れてくる気がします。

 

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2019年5月22日 (水)

国家公務員は労基法適用外だそうですが、医師はそうではないはずなので

中央省庁の官僚が多忙だとはかねて聞くところですが、先日こんな気になる記事が出ていました。

厚労省で妊婦が深夜3時まで残業!働き方改革はどこに…(2019年5月16日NHK)

霞が関の働き方について取材を続ける私たちに、ある省庁で「妊娠中の職員が深夜3時まで残業している」という情報が。その職場を調べてみて、驚きました。(霞が関のリアル取材班記者 松尾恵輔 福田和郎)
妊娠中の職員が深夜まで働いていたのは、厚生労働省でした。
(略)
実際、省内の取材を進めると、驚きの実態が明らかに。
ある課では、妊娠中の女性職員が午前3時を過ぎても働いていました。彼女は国会待機や法案の対応をしていました。
そのため月の半分以上、午後10時以降まで仕事をし、タクシーで帰宅する日が続いたといいます。
女性も、「妊娠しているため勤務を配慮してほしい」と訴え上司も人事課に増員を求めていました。
しかし、「不祥事の対応などに人を割いているため増員はできない」として、改善はみられなかったといいます。
女性を知る40代の職員は「少子化対策をしている厚生労働省で妊婦を守れないのはシャレにならない。もし体に影響があったら、どうやって責任を取るんだ」と憤りをあらわにしていました。
(略)
そこで人事院にも取材しました。すると、こんな回答でした。
国家公務員には、労働基準法は適用されていません。つまり民間と同様の長時間労働の規制はあてはまりません」
国家公務員の働き方を規定しているのは、人事院規則です。
この規則は、新年度の働き方改革のスタートにあわせて見直され、残業の上限も原則月45時間と明記されました。
しかし、民間企業と違って罰則はありません。しかも、他律的な業務の比重の高い部署は月100時間未満の超過勤務が行えるという例外規定もあります。その部署をどこに定めるかも各省庁に委ねられているため、過度な勤務をどこまで規制できるのか、疑問が残ります。
(略)

この官僚の長時間労働問題、国会議員の答弁の準備が一番大変だとも聞くのですが、遅い時間まで質問が出なければ資料集め等の準備も遅れるのは当然で、優秀なはずの官僚なのに質の低い仕事をせざるを得ない理屈です。
そもそも質問を出す時間をもっと早くするようルールを決めるなりすればよさそうなものですが、官僚の都合で政治がどうこうされるのはケシカランとでも考えているのか、そうした動きはあまり表立ってこないようですね。
結果的に掘り下げの足りない国会論戦を見せられる国民が一番迷惑していると言うことですが、どうもこの辺りの話を聞くと残業夜勤当直と過重労働で疲れた医師と、その医師に診療される患者の構図と似ています。
こちらも結果的に迷惑を被るのは国民である患者と言うことなのですが、その医師の働き方改革に関して最も遅れていると言われる大学病院について、先日の外科学会でこんな正論が出ていたそうです。

「外科医こそ率先して働き方改革を」、迫井厚労省審議官(2019年4月22日医療維新)

 厚生労働省大臣官房審議官の迫井正深氏は4月19日、大阪市で開催された第119回日本外科学会定期学術集会の特別企画「国民が期待する外科医療―行政の視点も考慮して―」に登壇、外科は産婦人科、救急と並んで長時間労働の“御三家”であり、外科医不足の中核要因は「変わらない職務環境」であるとし、外科医が率先して「働き方改革」に取り組む必要性を訴えた。
(略)
 「大学病院の外科医は、術後の患者管理、教育、研究もやっている。もう少し大学に対する手当てが必要」という要望には、迫井氏は「そんなに予算が増えるわけではない。まして人口は今後、増えるどころか、足りなくなる。やり方を変えよう、という話だ。そこを変えてもらわないと、若い人達が来てくれないのではないか」と回答。

 フロアからは、民間病院と異なり、大学病院でタスク・シフティングが進まないのは、「給与体系の問題だと思う。民間病院では医師の給与が一番高いので、安い給料の人達をたくさん雇用してカバーする。一方、大学病院では、看護師などの給与は結構いいが、医師の給与はそれほど高くはない」との意見も挙がった。迫井氏は、「働き方改革を進めるには、時間管理をしていくことになる。長い目で見ていくと、今の給与体系がフィックスされるとは、私は考えていない」と答え、時間管理を実施し、全ての職種で労働時間と仕事の内容の把握ができれば、給与体系の変更にもつながり得るとした。

 さらに、「しらばくれていれば、何とかなると考えている管理者が多い」など、働き方改革に消極的な病院を問題視する意見も出た。迫井氏は、「今までは、(未払いの時間外手当を支払うなど)お金で済んでいたが、労働基準法に違反すれば、5年後には刑事罰の対象になる」と、今回の労基法改正の内容を説明した。
(略)

大学病院では医師の給料が安いから過剰労働をさせられていると言うのは非常に実感のある先生も多いと思いますが、実際看護師らコメディカルなどは労働環境改善について熱心な印象があります。
とある大学病院では夕方定時を過ぎると手術中だろうが何だろうが手術場の看護師らが帰ってしまうので、医局や病棟から手の空いている医師を呼んできて道具出しをさせる、などと言う話もあるとかないとか。
当然ながらそんな贅沢な使い方をしていれば医師が何人いても足りませんが、大学病院の内部に限って言えばタダ働きの医師など幾らでもいるが、看護師を時間外に働かせると高い超勤代がかかると言う理屈です。
当然ながら経営的視点から考える病院幹部のエラい先生方もそこは承知しているわけですから、これではいつまでたっても医師の労働時間を短縮しようと言う動きにつながらないのは当然ですよね。

今回の医師の働き方改革を巡る議論において、まずは医師の労働時間をきちんと把握することが大前提だとは何度も言われてきたところですが、誰であれ働かせればそこに給与が発生するのは当然のことです。
医師もタダ働きではなくコストがかかる労働力であると経営側に認識されれば、そこで始めて労働時間短縮の動機付けが出来る理屈ですが、実際のところこの辺りが非常に不明瞭だったのが医師の世界です。
例えば実際にはフルタイムで働いているにも関わらず、週20時間未満の非常勤扱いの先生なども未だにいらっしゃると思いますが、働かせていないはずの時間に何かあった場合は一体誰が責任を取るのかですね。
今後実際の労働時間を元に働き方改革の議論がさらに深まっていくことを期待したいところですが、最終的には医療も経済原則に従って、経営上もっとも安上がりになる方向に現場改革が進んでいくはずです。

 

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2019年5月20日 (月)

医療費は思ったほど増えないと言う意見が次第に優勢に

国として医療のどこにどの程度のお金を投じるかは永遠の課題で、国が豊かになるほど医療費も増える傾向があるとも言いますが、日本でもこんな議論が出ているそうです。

財政審、増加医療費の半分「政策的に対応可能」保険給付範囲の見直し、医療体制改革案におおむね同意(2019年4月24日医療維新)

 財政制度等審議会(会長:榊原定征・経団連元会長、東レ相談役)は4月23日、分科会で社会保障改革について議論し、財政審が近く取りまとめる建議(意見書)の方向性に関して委員からおおむね賛同を得た(資料は、財務省ホームぺ―ジ)。医療分野では、高額医療に対する保険給付範囲の見直しや、地域医療構想の推進に伴う医療提供体制の適正化などが重点項目に掲げられた。

 同省が提出した資料では、現在の社会保障制度に対して「給付と負担のバランスが不均衡の状態に陥っており、制度の持続性を確保するための改革が急務」と警鐘を鳴らした。医療費に関しては、「高齢化と高度化等で国庫負担が急増」し、「医療費・介護費の伸びを放置すれば、雇用者の実質賃金の伸びは抑制される」と指摘している。
 医療費の増加の理由として同省は、高齢化の影響は「半分程度」だと説明。残り半分の要因としては、「新規医薬品等の保険収載」、「医師数、医療機関数の増加」、「診療報酬改定」、「高額な医療へのシフト」──などが考えられ、「政策的に対応できる余地がある」として、要検討を求めた。

 財政審は、今後の医療改革の方針として(1)保険給付範囲の在り方の見直し、(2)保険給付の効率的な提供、(3)高齢化・人口減少下での負担の公平化──の3つの視点で進める方針を打ち出した。
 (1)では、「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」の原則を徹底し、有用性の低い医薬品の自己負担率の引き上げや受診時定額負担の導入、高額な医療や医薬品への公的保険の在り方の検討などを盛り込んだ。
 (2)では、地域医療構想を巡って、病床数の再検討や、同構想の実現と診療報酬の適正化に向けた「都道府県に転換命令などの実効的な手段・権限を付与」、「結果に応じた強力なインセンティブ」などを示した他、薬価制度や調剤報酬の抜本改革を求めている。
 (3)では、75歳以上の高齢者に対して負担能力に応じた窓口負担の引き上げ実施などを掲げた。
(2019年4月23日「財政制度審議会財政制度分科会」資料)
 委員からは「地域医療構想の県単位の計画が進んでおらず、政府からの対策が必要」、「医療のダウンサイジングの議論が十分に進んでいない。供給体制が変わらないと他の改革が進まない」などの意見が出たという。
(略)

第30回日本医学会総会 2019 中部「医療を守るには、そんなにお金のかかることではない」財源確保で議論(2019年5月7日医療維新)

 第30回日本医学会総会で4月27日、学術プログラム「超少子高齢社会を乗り切る医療制度改革と財源選択」が企画され、医療費の財源確保について議論した。座長の二木立氏(日本福祉大学名誉教授)は「医療費は対GDP比で見るのが適切であり、今後漸増するが、急騰はしない」と強調した。
 二木氏は冒頭に「医療費・社会保障給付費の規模は対GDP比で見るのが適切であり、政府の公式推計では、この比率は今後漸増するが、急騰はしない。そのため、医療費の抑制ありきの行き過ぎた改革は避け、国民皆保険制度を堅持しつつ、良質で公平な医療を効率的に提供するための改革を着実に進める必要がある」と強調した。

 慶応義塾大学商学部教授の権丈善一氏は「今後の日本を乗り切る医療制度改革と財源選択」として、自身が担当した2013年の社会保障制度改革国民会議の報告書や日本医師会・医療政策会議平成28・29年報告書『社会保障と国民経済』について解説した。「先入観を変えてもらわないといけない」と強調し、日本の生産年齢人口一人当たり実質GDPは世界的に見ても健闘していると説明。「デフレ下でも日本の経済はしっかり成長しており、日本はそんなに大きな病ではない」と述べた。
 2018年に公表された「2040年の社会保障給付は現状の1.6倍の190兆円」という内閣府の推計についても、「名目値で見ると1.6倍だが、GDP比で見ると1.1倍ぐらいにしかならない」と説明。医療に関しては1.2倍になる見込みとして、「なんとか財源確保していかなくてはいけない」とし、消費増税の必要性などを指摘した。国の債務が増加の一途にあることについては「孫、ひ孫にどのように素晴らしい社会保障を残していくか。もう守れなくなっている」とした上で、「医療を守っていくのはそんなにお金のかかることではない」として財源調達の議論の重要性を指摘した。
(略)
 高額薬剤の問題については、二木氏は「公的医療が多い国では、医療費は低い。(オプジーボ登場時のように)大騒ぎすることも医療のシステムであり、高額薬剤が個別に出てくることがあるが、いつの間にか公的医療保険が価格を調整する」と説明。迫井氏も「経験則だが、法外な値段をつけると売れない。インターフェロンや透析が出てきたときにも破綻すると言われたが、破綻していない」と述べた。

急激な医療費抑制策は「参院選で与党に厳しい審判」日医会長(2019年5月9日医療維新)

 日本医師会会長の横倉義武氏は5月8日の定例記者会見で、財務省が財政制度等審議会財政制度分科会で医療費抑制政策を打ち出していることについて「急激な制度変更による医療費抑制政策を取れば、国民の理解を得られず、社会保障制度改革への取り組み次第では7月の参院選で国民から与党が厳しい審判を突きつけられることになりかねない」とけん制した。

 横倉氏は、日本の財政が厳しいことは認識しているとした上で、「流動資産である金融資産を多く保有する方に応分の負担を求めることも必要だと考えている」と述べ、所得や金融資産の多寡に応じた応能負担導入を改めて求めた。これについては4月23日の財政審で財務省が提出した資料でも言及されている。
 従来から反対している外来受診時の定額負担については、「経済的な誘導を行うことは、経済格差が受療行動に影響を与えることにつながるので非常に大きな問題だ」と述べて改めて反対の意向を強調。定額負担を目指す理由として財務省が挙げているかかりつけ医への誘導については、研修制度を推し進めることや国民への教育・啓発によって促すことを主張した。

 紹介状なしで大病院を受診する場合に選定療養費を徴収できる制度については、財務省の資料で「全額病院独⾃の収⼊となるため、外来患者の増加が収⼊の増加につながる構造」という記述があるが、医療経済実態調査において損益差額に反映されることから、「結果として保険財政の負担軽減にもつながっていることになる」と指摘。あまり活用が進んでいないという点は認め、「対象の大病院の要件や負担額について現状を分析した上でさらに検討していくことも必要だ」と述べた。
(略)
 地域医療構想推進に関しては、財務省は「⾃主的な取り組みが進まない場合には、保険医療機関の指定等に当たり、⺠間医療機関に対する他の病床機能への転換命令に係る権限等を付与するなど都道府県の権限を⼀層強化すべき」と資料に記載。これについては、「知事の権限強化で強制的に機能分化を進めていくと、現場に混乱を招き、かえって医療提供体制を崩壊させかねない」と指摘。地方、特に公立病院で病床利用率が低調で、医療提供内容が民間医療機関と競合している場合があることも懸念されているとの認識を示し、「まずは確実に 公立病院の在り方について検討して、その地域にふさわしい病床数にしていくことが重要だ」と主張した。

それぞれの立場でそれぞれの考え方があるとは思いますが、しかし今さら日医あたりから「国民から厳しい審判をつきつけられる」などと凄まれても、与党としてもどうなんでしょうね。
ただ基本的な論点は幾つか共通認識が出来ていて、医療費増加の要因としておおまかに1)高齢化に伴う医療費増、2)高額な新薬の登場、3)非効率な医療提供体制が挙げられるかと思います。
このうち最も危惧されていた構造的要因が1)の人口高齢化ですが、これに関しては近年終末期医療の見直しなどが図られてきたこともあってか、かつて考えられていたほどではないとの認識が広まっているようです。
むしろマスコミなどで相次いで報じられているのが2)の超高額薬問題ですが、これらはほとんどが癌治療薬など人の生死に直結するものだけに、世間的にもこれ以上高い新薬を認めるなとは言いにくいものですよね。

今後財政上の理由から薬価決定の仕組みが見直される可能性がありそうですが、国際的相場に比べ国内価格が安すぎると海外の新薬が入ってこないことにもなりかねず、どこでバランスを取るかは重要です。
以前に高額な抗HIV薬を使えない発展途上国で売り出された無断コピー薬が、結局は国際社会から認められた経緯がありますが、この場合あくまで支払い能力のない低所得な国民が多い国々であったからこそです。
他方で先進医療として混合診療を認めても、超高額薬を自費で使える人もそう多くはなく、先発品の特許権が切れるまで使わせないと言ったことも無理となれば、適応を絞って使用を制限するのが現実的でしょう。
現時点でも多くの高額薬が在来薬の効果がない場合に限って使用が認められていますが、将来はまずは遺伝子検査などを行った上で有効性がありそうな場合にだけ使うと言うことになるのでしょうか。

医療給付の効率化については恐らく最も意見が分かれるところだと思いますが、地域医療構想に基づく医療機関の機能分化などは受診の自由絶対至上主義の日医などにとって、本来面白くない話でしょう。
地域医療構想に基づいて行政が強制力を発揮する機会も今後増えそうですが、最近ではまず公立病院が身を切るべきだと言った言い方をしていて、さすが業界利権団体らしく活発に活動されているようです。
この点は医療費負担の在り方についても同様に日医に取って重要な問題で、特に受診を減らすことになる窓口負担の引き上げなどは飲めない話でしょうが、多忙な病院勤務医などにとってはまた別な話でしょう。
医療費のどこを削ってどこに回すかと言う話は患者の受診行動にも直結し、多忙な医療現場の負担感を大きく左右しかねないだけに、医師の働き方改革の視点からも検討が必要な問題であるはずですね。

 

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2019年5月13日 (月)

男女に差をつけるのはケシカランと言われがちな時代ですが

先日の連休中、こんな奇妙な事件が発生していたと報じられています。

トイレが「男性→赤」「女性→青」に 意図めぐり推理合戦、その真意を探ると...(2019年5月10日J-CASTニュース)

トイレ表示の色が逆――。男性用は青、女性用は赤に塗り分けられるのが一般的だが、その逆のトイレが見つかった。
SNS上で拡散され、さまざまな憶測が飛び交っているがその理由は?設置してある大学に聞くと...。

トイレは、九州産業大(福岡市)の芸術学部生らが利用する棟に設置されていた。なぜか男女の表示板とピクトグラム(絵文字)の色が通常と逆で、男性用は赤、女性用は青になっている。
一般のツイッターユーザーが2019年5月7日、困惑の声とともに写真を投稿すると、3700以上(10日現在)拡散され、驚きの声が相次いだ。推理合戦も過熱する。

「社会実験?」
「『先入観は危険!』の周知キャンペーンかな?」
「まさか、『赤が女性を表すなどという偏見を排除』なんて理由じゃないでしょうね」
「現代アート的なやつ?」

この中に答えはあるか。九産大の総合企画部広報課は10日、J-CASTニュースの取材に、「誰かが無断で塗り替えたものであり目的は不明です」と明かした。
ゴールデンウィーク(GW)中に被害があり、大学側は連休明けに発見した。現在は貼り紙を貼って間違いが起きないよう対応しており、5月中には原状回復する予定だ。
なお広報課によると、警察への被害届提出や、大学による調査は考えていないという。

元記事の画像を見ても判る通り相当な完成度で気合いの入った仕事ぶりですが、記号ではなく赤青の色の違いでトイレの男女別を認識していた方々なら間違っても全く不思議ではないですよね。
そもそも男が青で女が赤と決まったルールはなく、子供のランドセルの色など様々な方面で進歩的な方々を中心に従来の固定観念を打破すべきだと言う運動が繰り広げられてきた経緯があります。
従来暗黙の了解的に男女それぞれに割り振られてきた色や記号なども言い出せば切りがないのですが、このところその男女差と言うことを巡って大きな話題になっているのがこちらのニュースです。

女性だとAEDが使われない? 救命処置の男女差(2019年5月8日NHK)

心停止となった人の心臓の動きを正常に戻す医療機器AED。しかし、倒れた人が女性だと、男性よりAEDが使われにくい。そんな調査結果がまとまりました。ネットの声を探ると女性の服を脱がせてAEDを使うことに抵抗やおそれがあるようです。

調査結果をまとめたのは京都大学などの研究グループです。全国の学校の構内で心停止となった子ども232人について、救急隊が到着する前にAEDのパッドが装着されたかどうかを調べたのです。(2008年~2015年)
学校にはAEDの設置が進んでいて、もしもの時にはすぐに使えるケースがほとんど。小学生と中学生では男女に有意な差はありませんでしたが、高校生になると大きな男女差が出ていました。
AEDのパッドが貼られた割合は高校生・高専生で男子生徒83.2%、女子生徒55.6%とその差は30ポイント近くになります。
AEDのパッドは2枚あり、右胸の上と左の脇腹に直接、装着します。
「倒れた人が女性の場合、素肌を出してAEDを使うことに、一定の抵抗感があるのではないか」
研究グループはそう分析しています。このニュースが報道された後、ネット上でもそうした声があがっていました。

トラブルおそれる

「乳房があるので、正直どこへパッドを貼っていいか悩むし…服を脱がす事に抵抗がある
助けたいけれど、消極的になってしまうという声。
「どうせ助かってもセクハラとか言って訴えられる
社会的地位を失う可能性のデメリットの方がデカイ」
(略)
男性と比べて女性はAEDなどが使われにくいという研究はフランスにもあり、欧州心臓病学会が3年前の「国際女性デー」(3月8日)で発表しています。
2011年から2014年にパリ周辺で心停止となったおよそ1万1000人のうち、女性でAEDの使用や心臓マッサージといった救命措置がとられたのは60%。男性より10ポイント低い結果で、残念ながら救命の可能性に、男女差が出ているのが現状です。
“倒れた人が自分の家族だったらどうするのか”
もしもの場面に遭遇した時、助かる命を確実に助けるために、そんな想像力を働かせてみてください。

素人にも使える救命救急の手段であるこのAED、つい先日も医師である姫路市長が市中で活用し救命し得たケースが報じられていましたが、今や市中のみならず医療現場にも完全に定着しています。

当然ながらAEDを使う局面で躊躇している場合ではないのですが、特に素人の場合そもそもAEDを使うべき場合かどうかの判断が難しく、とりわけ女性の胸をはだけて装着するのに抵抗感があるのは理解出来ますね。
女性のために胸を隠す装具をセットで配備している場合もあるそうですが、特に今回気になるのが仮に救命し得たとして、後日セクハラだとして訴えられるリスクを当然視している声が想像以上にあると言う点です。

以前から女性にAEDを使ったところ警察を呼ばれたとか言った噂は聞くところですが、実際にはデマとして否定されているものがほとんどで、少なくとも訴訟沙汰になった事例は確認はされていないようです。
ただAEDの使用に当たっては女性の羞恥心にも配慮すべしと言うことも広く言われるようになっていて、特に周囲の目線の中で医師ら専門家が使用した場合、今後こうした点を突っ込まれる可能性はなしとしません。
そもそも日本においては緊急時の免責を認める善きサマリア人法がないことも以前から問題視されていますが、仮に法律なりで刑事免責を規定しても民事で訴えられるリスクは残るのは難しいところですよね。

 

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2019年5月 7日 (火)

確実で失敗がないと言うことは一般には良いこととされています

10連休中は大きなトラブルがなかったのか、医療関連ではさほどに目立ったニュースはなかったようですが、本日まずは先日目にしたこんな記事を紹介してみましょう。

畳めなかったエアリズム 全自動折り畳み機、事業解散へ(2019年4月25日日経ビジネス)


 世界初の全自動衣類折り畳み機「ランドロイド」の事業化を目指してきたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(東京・港)が23日、東京地裁に自己破産を申請し、破産手続き開始決定を受けた。開発が難航し、資金繰りが行き詰まった。子会社と合わせ、負債総額は約31億8000万円に上る。同社の阪根信一社長はテック系ベンチャーの旗手と目されていただけに、衝撃が広がっている。

 ランドロイドは、AI(人工知能)や画像認識、ロボットアームの技術を駆使し、洗濯後の衣類を1枚ずつ「つかむ」「広げる」「折り畳む」「仕分ける」「収納する」といった工程を経て整理する機械だ。大型冷蔵庫ほどのサイズで、1台200万円ほどの価格を想定していた。
 以前は17年度中の発売を目指してきたが開発が難航し延期。続いて、18年度中の発売を目指してきたものの、それもかなわなかった。
 同社はこれまで、海外の投資家も含めて105億円余りの資金を調達しており、パナソニックと大和ハウス工業も出資してきた。阪根社長は両社に追加出資を要請してきたが、発売目標の期日を再三守れない状況下では追加出資を受けられず、ついに資金が底をついた。
(略)
 では、開発を難航させたものは何だったのか。
 「私はひとまず発売すればいいと思うんですが……」。1年余り前、阪根社長は日経ビジネスの取材に応じ、そう漏らした。ロボットアームの開発に苦戦しているという。アームは様々な種類の布を持ち上げられるが、どうしてもつかめない素材があるとのことだった。
 それが、カジュアル衣料品店「ユニクロ」の人気商品「AIRism(エアリズム)」だった。シルクのような肌触りが特徴だが、それだけにロボットアームが扱うのが難しかった。完全な製品を世に出したいと考えるパナソニックは、この点を重く受け止め、発売に難色を示したという。破産手続きの開始を受けて、「ランドロイドの事業は解散する」(セブン・ドリーマーズ広報)。
 新市場の創造に挑んだ著名なベンチャー起業家が倒産に追い込まれたことで、成長の可能性があるベンチャーに「リスクマネーを投じることを敬遠する投資家が増えかねない」(証券アナリスト)と、懸念の声も上がる。

以前に開発中と言うニュースを目にして、なかなか応用の利きそうな面白い機械だと言う印象を受けていたものなのですが、残念ながら開発中止に至ったのは仕方がないとして、問題はその理由です。
開発中の折りたたみ機はほぼ実用化の域に達していたように見えるのですが、唯一特定の衣料製品だけはうまくたためなかったと言うことで、スポンサーが発売に難色を示した結果事業自体が頓挫したと言うことです。
記事を見て海外なら絶対出すだろうし、国内でも作業効率次第で業務用の需要はあっただろうと思うのですが、話に聞く国内メーカーがロボット掃除機発売で出遅れた事情などとも何やら通じるものを感じます。
さて、話変わって医療の世界でも技術革新は非常に重要で、特に常に逼迫するマンパワー節約の意味でも自動化が今後の課題になりそうですが、先日こんなニュースが出ていました。

日本初、全身麻酔を自動制御 福井大学など開発、臨床試験開始(2019年4月17日福井新聞)


 福井大学などのチームは4月16日、外科手術などでの全身麻酔を自動制御する日本初の「ロボット麻酔システム」を共同開発し、臨床試験を始めたと発表した。麻酔薬の投与量を自動調節するシステムで、麻酔科医の負担軽減が期待される。同大学医学部の重見研司教授は会見で、自動車の速度を一定に保つ自動運転のように麻酔科医を支援するシステムと説明し「麻酔科医の働き方改革にもつながる」と述べた。

 麻酔科医は、呼吸や血圧など患者の全身状態を管理しながら麻酔薬の量を調整し、異常が見られれば適切な処置を行う。全身麻酔の手術件数が年々増加傾向にあり全国的に不足しているという。
 福井大学、国立国際医療研究センター、医用電子機器開発の日本光電工業の共同研究チームは2017年に開発に着手。18年度に日本医療研究開発機構の事業に採択された。
 同システムは手術中の患者血圧や脈拍などをモニターして、「意識レベルを下げる鎮静薬」「痛みを抑える鎮痛薬」「筋肉の収縮を止める筋弛緩薬」の3種類を状態に合わせて適切に投与する。麻酔科医の負担が軽減され患者の状態管理に集中でき、ヒューマンエラーの防止にも役立つ。麻酔薬の過剰、過小な投与を防ぎ、患者のリスク軽減にもつながるという。

 4月16日に厚生労働省で開かれた会見には、福井大学からは重見教授、松木悠佳助教が出席。松木助教がシステムの概要を説明。重見教授は「システムの最大の特徴は、患者の状態を監視して、状況に応じて調節する機能を持っていることだ」と強調した。
 3月に臨床試験に着手した。患者約60人を対象に行い、有効性と安全性を検証する。22年度の製品化を目指している。

一昔前なら外科医が自分で麻酔をかけていた施設も少なくなかったと思いますが、現在では真っ当な病院であれば麻酔の専門医が麻酔をかけるのが当然であり、手術件数も麻酔科医の数次第とも言えます。
それだけにこうした麻酔管理の自動化は大変にありがたい技術だと思うのですが、問題となりそうなのは麻酔科学会の「安全な麻酔のためのモニター指針」にこんな記載があると言う点です。

[麻酔中のモニター指針]
①現場に麻酔を担当する医師が居て、絶え間なく看視すること。

これ自体はまあ確かに御説ごもっともと言う話なのですが、文字通りに解釈すると手術室一つ一つに常時一人の麻酔科医が張り付いている必要があると言う話で、実際そうした対応を行っている施設が多いようです。
ただ大学病院など常勤麻酔科医が大勢いる施設ならともかく、市中の中小施設では選任の麻酔担当者を常時用意することは難しく、外科医の数は揃っていても手術が出来ない場合も少なくないと聞きます。
新しい児童麻酔制御のシステムが開発されても、指針がこのままであれば相変わらず麻酔科医が常時張り付いていなければならない理屈で、正直さほどに有り難みがなさそうには感じますね。

別に麻酔科に限らずこうした話は各診療科で幾らでもあるのでしょうが、学会のガイドラインなどは医療安全を第一に考えたものであっても、現場のリソースに関してはさほど配慮していない場合も少なくないようです。
かつて帝王切開のいわゆる30分ルールが医療訴訟とも絡んで大変問題視されたことがありますが、現実的にほぼ達成が不可能な目標だけが掲げられると、現場が大変な苦労をする羽目になるのは当然です。
無論学会なども個別の問題に関してはデータを元にルールを決めていることなのでしょうが、限られた医療リソースをどこにどう使えば国民の健康を最大限守れるのかは、かなり複雑で簡単には判断し難い課題なのだろうと思いますね。

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2019年4月24日 (水)

働き方改革、素直に改革を進めた場合と進めない場合の格差

先日は医師の働き方改革に関する最終報告書が公表されましたが、改革を強いられる雇用者側の立場からは未だに不平不満の声が山積しているようです。

医師の労働時間短縮と地域医療維持は両立するか(2019年4月15日日経メディカル)


 3月28日、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が最終報告書を取りまとめた。これを受け、医療界は残業時間の削減など、働き方の改革にようやく動き出すことになる。医師の過重労働解消の一方で、地域医療の崩壊を懸念する声も根強い。
(略)
 1年8カ月の議論を経て、2019年3月28日に取りまとめられた報告書では、原則として勤務医の時間外労働の上限時間を年間960時間・月100時間(休日労働含む)とした。遵守できない場合は雇用する医療機関に対して6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられることになる。ここまでは一般の会社員の時間外労働の規定と同等だ。
 ただし医師には一部例外が認められた。例外は(ⅰ)から(ⅲ)の3種類。(ⅰ)地域医療に影響があると認められる場合、(ⅱ)初期・後期研修中や(ⅲ)6年目以降の医師で高度技能習得など技能向上のための診療が必要な場合─については特例として、年間の時間外労働を1860時間(月155時間)以下と基準を緩めた。また、罰則を伴う働き方改革法案は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されるが、医師は2024年4月。医師だけが4~5年遅れで改革が進むことになる。
(略)
 今回の報告書に対して、現場の医師の反応はどうか。一部の例外の扱いとはいえ、労災認定される過労死ラインである「月80時間(複数月平均)」を大きく上回る「月155時間」が示されたことで、若手産婦人科医師を中心とした「医師の働き方を考える会」などが反対の署名活動を実施した。一方で、現場の医師からは「アルバイトの時間を入れると妥当な時間」「今よりは労働環境が間違いなく改善する」「今まで支払われていなかった残業代が支払われる」と好意的に捉える向きもある。

(略)
 医療提供体制への影響も懸念される。時間外労働時間を960時間以内に抑えるために、夜間の救急対応を中止する病院が出てくると、「それだけで地域医療が崩壊する可能性がある」と相澤病院最高経営責任者で日本病院会会長の相澤孝夫氏は懸念を示す。救急対応を中止することで、特定の病院に救急患者が集中。その病院は医師数を増やすことが必要になる。だが、「救急患者増加に伴う収入よりも人件費による支出の方が多くなり、救急体制の維持が困難になる病院が続出するのではないか」と相澤氏は指摘する。
(略)
 医師自身の健康を守るためにも働き方改革を進めるのは必須だ。だが、これまで日本の医療は、医師の長時間労働という表に出てこない犠牲の下に成り立っていた。医師の長時間労働を制限することで、地域医療の崩壊などの問題が噴出すれば、改革の流れが揺り戻される可能性もある。
 事実、自由民主党厚生労働部会「医師の働き方改革に関するプロジェクトチーム」の座長を務めた羽生田俊氏は、上限時間を含め、報告書の内容をこれから変更する可能性についても含みを持たせる。「せっかく2024年3月末まで猶予があるのだから、他職種への業務移管など、2月末に示された『緊急的な取り組み』の効果を含めて検証した上で修正していけばよいのではないか」(羽生田氏)。
 今回の報告書は、医師の働き方改革の方向性を示したにすぎない。今後の議論や取り組みに注目したい。 

一般論として現場労働者を過労死レベルに追い込まなければ維持できないような職場が本当にあるのであれば、それは職場の在り方の大前提から根本的に見直してみるべきだと言う気がします。
その意味で今回の記事や各方面からのいわゆる危惧の声なるものを見る限りでは、どうも現状維持と言うことが大前提にあるように見えて仕方がないのですが、まず変わるべきなのは医療そのものの在り方でしょう。
検査待ち、手術待ちの期間が今までより少し伸びることでどれほど影響があるのか、もし影響があるなら急ぐ症例だけを先に回すシステムなどを用意すべきで、急がない業務は遠慮なく先送りすればよいわけです。
医療のコスト、クオリティ、アクセスのうち、現状でどれを抑制するのが最も許容されやすいのかと考えると、不要不急の医療におけるアクセス低下などは世間的にも十分受け入れられるものだと思うのですけれどもね。

とは言え、今回の働き方改革は未だそのとっかかりに過ぎず、今後状況を見ながらようやく世間並みの労働環境を目指していくことになるわけですが、その点で気になるのが改革の実効性です。
特に気になるのが医療にだけは改革スピードの緩和など特別扱いを強要しながら、罰則規定などは全く他業界と変わらないと言うことなのですが、これに関連して気になるニュースを取り上げてみましょう。

労基署の指導で夜勤手当が年9000万円も増額に(2019年3月29日日経)


 尼崎中央病院(兵庫県尼崎市)は2018年6月に労働基準監督署からの是正勧告を受け、それまで当直料として払っていた人件費全てを時間外労働扱いとし、割増賃金をプラスして支払うように求められた。これを実行すると、当直(夜勤)の医師1人当たり、これまでよりも年間3000万円の人件費増を余儀なくされるという。同病院の当直医師は3人体制なので、合計9000万円の増額。「これでは経営が成り立たない」と嘆く理事長の吉田氏は、このたび公表された「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書に願いを託すが……。

――労働基準監督署はいつ入ったのか。
吉田 2018年6月5日だ。事前の連絡もなく、午前10時に尼崎労働基準監督署から監督官2人が現れた。「何かありましたか?」と尋ねたところ、「日常の状態を見させていただきたいので来ました。いろいろと資料を見せてほしい」と言われた。
(略)
 当院の1日当たりの外来患者数は500人ほどで、309床の3分の2が一般急性期病床(7対1看護)、残りは回復期リハ病床、地域包括ケア病床、療養型病床だ。スタッフのワークライフバランスに配慮した病院であるという自負はあったし、看護師の時間外労働時間が月平均で5時間ほど、有給休暇消化率が約9割ということで、2011年に兵庫県から表彰されたこともあった。出退勤などの労働時間管理もICチップで行っており、所属長が毎月チェックして管理していた。だから、労基署から特段の指摘を受けるようなことはないと思っていた
(略)
吉田 是正勧告書で改善を求められたのは12項目だが、1点を除けば問題なく対応できる是正勧告だった。対応しきれないと感じたのは、労働基準法37条違反に関するものだ。
(略)
 その勧告内容は、(1)労働者に対し、1日8時間、1週40時間を超える時間外労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分増しの率で計算した割増賃金を支払っていないこと、(2)労働者に対して休日労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間または労働日の賃金を計算額の3割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと、(3)労働者に対して、午後10時から午前5時までの間において、労働させられているにもかかわらず、割増賃金を支払っていないこと――を指摘したものだった。
 つまり、これまで支払っていた「当直料」を、「全て時間外労働時間扱いで支払え」ということだ。当直は、医師3人、外来当直看護師は2人、診療放射線技師と臨床検査技師が1人ずつ、事務が1人で合計7人体制だった。看護師だけは1967年に宿日直の許可を得ており、今回は勧告の対象になったのは、宿日直許可を届け出ていなかった医師、放射線技師、事務員のみだった。遡って1カ月分の時間外労働の割増賃金支払いを命じられた。「医師、技師、事務員の当直業務は通常業務なので、宿日直手当にはならない。当直手当を時間外労働に換算して支払ってください」と労基署には言われた。その後、医師と技師、事務員についても、看護師同様に宿日直の許可を得ようと申請したが、却下された。

――それまでは、医師の当直に対してどのような形で手当てを支払っていたのか。
吉田 1回の当直で17時から翌9時まで、15時間を勤務してもらうことになるが、平日の当直は6万円、日曜は13万円を「当直料」として支払っていた。医師3人の当直体制で、年間2200台の救急車を受け入れてきた。ちなみに特別条項付き36協定は結んでおらず、時間外労働上限は月45時間に設定している。
(略)
 それまでは、年間の当直料として医師1人当たり年間3000万円ほどかかっていたが、これが労基署の指導の通りに支払うと、6700万円になる。当直医師1人当たり3000万円以上支出が増えることになる。3人だから1億円近い出費増だ。
(略)
――医師については今後どうするのか。
吉田 医師については、まだ決着がついていない。8カ月間ほど労基署と協議を続けている状況だ。もし過去1カ月分を支払い、さらには今後、すべての医師の当直(夜勤)を時間外労働扱いで支払うとなれば、医師当直の人件費は倍以上に膨れ上がり、病院経営が成り立たない。これまでの当院の経営状況は良い方だと自負しているが、現在の診療報酬体系のままでこの人件費を払うのは非現実的だ。国や自治体に、何らかの形で補助してもらえないと支払えない。
 労基署には「医師の働き方改革については今、まさに検討会で議論しているのだから、その結論が出るまでは今まで通りの形で運営させてくれないか」と話している。それに対して労基署は「医師の働き方改革に関しては今後どうなるか不明であり、現時点では何ら考慮するつもりはない」と言われた。
 医師の人件費について、今の倍額以上かかることを伝えたら、「そんなにかかるのですか、しかし法律違反なので仕方ないです」と一蹴された。「高額な医師の給料を時間外労働で支払えというのであれば診療報酬で担保しないと無理だ」と訴えたら、「それは労基署の考えることではない。今後の体制については医療業界が考えること」と言われ、唖然とした。
(略)
――勧告通りに全額支払ったら経営が成り立たず、病院が潰れる可能性があることについて、労基署は何と言っているのか。
吉田 それを言うと、一貫して「我々の感知するところではない」としか言わない。
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 打開策としては、年俸制の医師の給料に、残業代や当直代を含む形に変更するといった方法も考えられる。当直の回数が月によって異なるので、そこをどう考えるのかは難しいが。
 大学病院やDPC2群の基幹病院は、シフト制を導入する病院もでてきているが、それ以外の多くの救急指定病院は当直料で支払っていると聞く。実際、シフト制を取るのは簡単なことではない。今後もし「シフト制」を導入した場合は、技師の時と同様、夜勤前後は休みとなることから、当直医1人当たり医師2人の補充が必要で、年間約3000万円ほど人件費がアップする。現状、当直医3人体制のため、医師6人補充となり、年間9000万円も人件費がかかることになる。
(略)


同病院の給与体系がそう特別なものだとも思いませんが、記事にもあるように実労働を反映したものとは必ずしもなり切っていないようで、年俸制から給与体系を変更すると言ったところが当面の対策になるでしょうか。
ただここで気になるのが労基署が法律に基づいて適正な給料支払いを命じるだけで、何千万円もの支出の増加が発生すると言う点ですが、先ほどの働き方改革の罰金30万円とは桁違いですよね。
今後働き方改革の考え方に基づく制度や運営の大改革が各施設には求められるはずですが、それに要する膨大なコスト増加を考えると、罰金の方がずっと安上がり…と言う考え方も成り立つかも知れません。
医療は基本的に性善説に基づいて制度設計がなされているとはよく言われることですが、スタッフに対して雇用者側がどれだけ性善でいられるものなのか、今後の改革の成り行きが明確に示すことになるのでしょうね。

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