心と体

2019年12月11日 (水)

記者氏の言うところの『「大学勤務医は低賃金」を所与とした議論続く』状況はおかしいと思うのですが

来年度の診療報酬改定の議論が進んでいて、本体部分は横ばいか微増、薬価も含めて全体としては減額と言うありがちな結論になりそうだと報じられています。
今後団塊世代の高齢化が進み医療費など社会保障全般の財政的、人材的な逼迫が懸念される中で、永続的な医療供給体制をどう構築していくべきなのかと言う問題はきわめて重要かつ難しい課題ですね。
ちょうどそのタイミングで医師ら医療専門職の働き方改革の議論も進んでおり、特に医師を雇用し働かせる側である医療系諸団体にとっては、稼ぎ手である医師が働いてくれなくなることを懸念しているようです。
単純に医師が働かなければ病院の収入が減って困るだとか言う理屈では説得力がないとは自覚しているのでしょうが、見ていますとどうも少し奇妙な論理で医師を働かせ続けることを求めているようです。

医師の働き方改革「健康は確保、収入は確保できず」、地域医療への影響も(2019年12月9日医療維新)

 社会保障審議会医療部会(部会長:永井良三・自治医科大学学長)は12月9日、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」と「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」の議論の報告を受けたが、時間外労働の上限規制が厳しくなると、大学等からの医師派遣が少なくなり地域医療に支障が生じたり、医師個人の収入が減少するなど、副業・兼業をめぐる懸念が相次いだ

 「副業・兼業によって収入を得て生活をしていた医師が、上限規制で兼業に影響が出ると生活ができなくなる。健康が確保できても、収入を確保できなければ問題であり、その辺りのバランスをどう取るかも考えていかなければいけない」(国立病院機構理事長の楠岡英雄氏)、「大阪では、2次救急医療機関の当直の4割は、大学からの医師に頼っている。こうした状況が急に破壊されることがないように、副業・兼業のことをしっかりと考えてもらいたい」(日本医療法人協会会長の加納繁照氏)といった意見だ。
 副業・兼業の在り方は、厚生労働省内でも労働基準局の検討事項であるため、「医師の副業・兼業を一般労働者と同じように扱うのか。医師がいない中で、物事が決まることに危機感を覚える。医師の働き方について、何らかの形で意見を言う立場、機会を設けるべき」(日本医師会副会長の今村聡氏)といった要望も挙がった。
(略)
 9日の医療部会で議論の口火を切ったのは、楠岡氏。医師の時間外労働の上限規制の根拠となった調査は、副業・兼業を含めたものかどうかを確認。厚労省医政局医事課長の佐々木健氏が副業・兼業を含んだものであると答えると、「それでは副業・兼業先に医師が行かなくなるケースは少ないと考えていいのか」と尋ねた。
 佐々木課長は、「現時点でも約2万人の時間外労働は、年1860時間を超えている。まず年1860時間未満にしなければならないことを考えると、さまざまな取り組みをしていかなければいけない。単純に今の役割分担、業務をそのままにし、何もしなければ影響が出てしまう。各医療機関および地域での取り組みが必要」と回答した。それを受けて、楠岡氏は「(時間外労働時間が減って)健康が確保できても、収入が確保できないと問題であり、その辺りのバランスをどう取るかも考えていかなければいけない」などと述べたのだった。
 加納氏は、「大阪府では、2次救急医療の8割は民間病院が担っている。その当直の4割は大学からの医師に頼っている。こうした状況が急に破壊されることがないように、副業・兼業のことをしっかりと考えてもらいたい」と求めた。
 早稲田大学人間科学学術院准教授の松原由美氏も、「大学病院の勤務医が、時間外労働の上限を課せられ、生活ができるのか。家族を持っている医師など、大学病院を辞めざるを得ない医師が出てくるのではないか。大学病院が最後の砦になっている地域では、地域医療が崩壊しかねない」と述べ、医師の働き方改革により、医師の収入や病院経営がどう影響するのかについてのシミュレーションを要望。
(略)
 政策研究大学院大学教授の島崎謙治氏は、「医師の働き方改革の影響は甚大で、相当丁寧に議論していくことが必要。“巨大なスポンジ”、言ってみれば無尽蔵の働き方で医療ニーズを吸収してきたが、それが吸収できなくなれば、ニーズがこぼれる」と、たとえを交えながらコメントした。日本の約1.2倍の面積のスウェーデンでは、病院数も外来受診回数も日本よりも格段に少ないというデータを紹介しながら、「国民もある程度、我慢しなければいけない」「医療資源を再編するしかない」などと述べ、地域医療構想も念頭に地域ごとに丁寧に進めて行くことが必要だとした。
(略)

もちろん地域医療への影響など様々な議論が必要であることは言を待ちませんが、大前提として医師の大きな供給源となっているのが大学病院であると言う現実があります。
その大学病院の医師がアルバイトを制限されると困るだろう、だから働き方改革を厳しく進めすぎると大変だと言うのもごもっともなのですが、何か違うと言う気もします。
本来的に問題なのは大学病院の給与が生活も出来ないほど低すぎることであり、それ故に多忙であるにも関わらず夜間休日のアルバイトを強いられてきたことでしょう。

未だに大学病院勤務医の低待遇があったからこそアルバイトの需要があり、地域への医師派遣機能が働いていたのだと、妙に前向きに評価する声も根強く残っています。
他の業界で企業経営者らがそんなことを口にすれば、たちまち国民と進歩的マスコミ諸社の集中砲火を浴びて当然ですが、未だに医師の常識は世間の非常識なのでしょうか。
今回の記事を見ても、社保審の場では大学病院の低待遇を問題視する声すらないようですが、こうした方々によって医療のあり方を巡る議論が進んでいると言うことです。

これを「そうは言っても現実問題としてそうなっているのだから仕方ないじゃないか」と言うなら、何故大学病院医師の低待遇だけ聖域視するのかと反論されるでしょう。
診療報酬や働き方改革、あるいは医療のあり方など様々な難問は単独で解決出来るものではなく、相互に関連づけて一体的に改革を進めなければならないでしょう。
場合によっては現状を破壊する勢いで抜本的に改革しなければならない困難な状況で、特定の問題だけは現状がこうだから仕方がないと言うのはおかしな話ですよね。
それをあえて許容しているとすれば、議論している方々にとってはその現状こそが都合が良いと言うことですが、現場の医師達の声は届いているのかと不安になります。

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2019年12月 9日 (月)

今の時代危ないことは一定確率で起こると言う前提での対策が必須

身につまされる人も多いのではないかと思うのですが、先日こんな記事が話題になっていました。

ダイアモンド ユカイが母親の免許返納体験を語り称賛の声が続々(2019年12月6日アサゲイビズ)

 ダイアモンド ユカイが実力行使で85歳だった母親に運転免許を返納させたことが反響を呼んでいる。
「婦人公論.jp」によると、ユカイの母は2年前に90歳で亡くなったそうだが、免許返納は説得を始めてからおよそ5年もかかったという。それを踏まえて、「親が自分の衰えを自覚し自ら返納してくれる」と夢を見てはいけないと警鐘を鳴らしている。

 ユカイは免許返納を納得してくれない母親の車が、何度か損傷していることを見ていたため、数回目のキズを発見した時に「目立つから修理に出す」と言って車を持ち出して処分。母が新車を買うために連絡しそうな近所のディーラーに事情を話し、車を売らないよう頼み込んだという。さらに親戚や友人など、母親の手助けをしてくれそうな人に手を回して協力を仰いだそうだ。
「ネット上では『この人の発信力って地味にすごい。高齢者に免許返納させるための具体的なアドバイスは絶対に役に立つ』『何年か前に男性不妊治療の体験談もすごいためになったし、今回の高齢ドライバーに免許返納させる方法もすごく参考になる』『この人の勇気は本当に愉快』など、称賛の声が相次いでいます」(女性誌記者)

 高齢ドライバーの自主的な免許返納が難しいことを教えてくれたユカイ。彼の体験を知り、自身の親と向き合う決意をした人も多いのではないだろうか。

近年危険運転行為に対する社会的対応の重要性が話題になることが多く、先日も危険運転動画の通報を開始し初の検挙につなげた岡山県警の取り組みを紹介したところです。
また認知症や身体能力の低下などによる高齢ドライバーの危険運転に関しては、特に逆走や暴走など危険性の高い事故がたびたび報じられたこともあって注目されているところですね。
他方で以前から持病を持っている方々による事故のリスクも注目されていて、特にてんかんなど意識消失を来す可能性のある疾患に関しては、社会的にも厳しい目線が向けられるようになってきています。
ただ意識消失を来す疾患とは別にてんかんに限らず、糖尿病や高血圧などでも意識朦朧とする可能性があるのですが、先日こうした誰にでも起こり得る事故の恐さを知らしめるニュースがありました。

死亡事故起こした「はとバス」運転手はインフルエンザで高熱(2019年12月5日NHK)

東京 新宿区で4日夜、観光バスの「はとバス」が停車していたハイヤーに追突し、ハイヤーの運転手が死亡しました。バスのドライバーはインフルエンザにかかっていて、事故当時、高熱があったということで、警視庁は詳しい状況を調べています。
(略)
バスを運転していた37歳のドライバーはその場で逮捕されましたが、いったん釈放され、病院に入院して検査を受けました。
警視庁によりますと、検査の結果、ドライバーはインフルエンザにかかっていて事故当時は38度を超える高熱があったとみられることがわかりました。
バスのドライブレコーダーには、事故が起きる数秒前からドライバーの頭が前後にゆっくりと揺れている様子が写っていたということです。
(略)
「はとバス」によりますと、事故を起こした37歳のドライバーは、4日午前6時半すぎに出勤し、同7時前に出庫前の点呼を受けたということです。
この点呼では、アルコールの呼気の検査や、本人からの健康状態の申告のほか、チェック役の担当者が対面でドライバーの様子を確認することになっていますが、本人から体調不良に関する申告はなく、対面の確認でも異常は見られませんでした
(略)
はとバスによると、事故を起こした運転手は会社の聞き取り調査の中で、自身の体調について「事故の前日、少しかぜ気味だったため、漢方のかぜ薬を服用して午後8時に寝た。事故の当日は午前5時に起床し念のため再度、漢方のかぜ薬を服用して出勤した。その後も若干、かぜ気味だと感じていたが、それ以上の症状だとは思わず、警察病院での検査で初めてインフルエンザに感染している事が分かった」と話しているということです。
そして、事故については、「事故を起こす前後の記憶がなく、気が付いた時には街路灯に激突していた」と話しているということです。
(略)

事故により亡くなられたドライバーのご冥福をお祈りしますが、インフルエンザの場合この時期誰にでも発症し得るもので、また今回のように短時間に急速に悪化することも全く珍しくはないものです。
もちろん早期から軽い症状が出ている場合もあるでしょうが、どこの業界でも人手不足と言われ代替人員の確保もままならぬ中で、軽い風邪かな?程度でインフルエンザを疑って休養と言うのも難しいでしょう。
その意味では今回の事件、どこの業界でも一定の確率で起こり得る事故が起こるべくして起こってしまったと言うべきものですが、ではこうした事故をどうしたら防ぐことが出来たのかと言うことですね。

誰しも思いつくのは自動ブレーキ装置などの装着で、特に大型車両や業務用車輛には早急に強制化すべきだと言う意見もあり、また高齢者など運転スキルに問題のある人々にも装着させろと言う声もあります。
ただ工事現場で活躍する特殊車両や列車、航空機なども同様のリスクはあり、また特殊な業界であるほど代替要員の確保にも困難があるはずで、ついつい無理をしてしまいがちなものですよね。
医療現場の場合ちょっとしたミスが文字通り命取りになる場合もあり、またインフルエンザなどは職場に広げてしまう方がよほど痛手になるものですので、体調不良を推しての出勤など本来あってはならないはずです。
職場の状況から1人欠けても回らないと言うのであれば、それは突発事態に対応出来ない危険な職場環境であると言うしかなく、働き方改革が推進される中でこうした面も併せて見直したいものですね。

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2019年11月26日 (火)

改革の抵抗勢力、断固たる態度で改革に反対

社会保障制度改革は喫緊の課題が山積していますが、年金や雇用に優先してまずは真っ先に医療制度改革を前倒しで推進すべきだと、国が方針を固めたと先日報じられていました。
その原動力となるのが団塊世代が後期高齢者に突入する令和4年以降の医療費膨張の予測で、とりわけ高齢者と現役世代における負担と給付の見直しがキーワードになると考えられています。
この点に関連して受益者負担の推進と言う点からも、安易な過剰受診の抑制の観点からも導入が期待されているのが受診時定額負担ですが、日医はかねてこんな主張を繰り返していることが知られています。

日医横倉会長「定額負担、容認できない」と直訴(2019年11月26日医療維新)

 政府は11月25日、第2回全世代型社会保障検討会議(11月8日に開催)の議事録を公表した。第2回会議には、日本医師会会長の横倉義武氏、日本歯科医師会会長の堀憲郎氏、日本薬剤師会会長の山本信夫氏が出席し、意見を述べた。横倉会長は安倍首相ら構成員に対して、「財政論に偏って議論を進め、結論を急ぐべきではない」と訴え、受診時定額負担の導入などに反対する姿勢を示した。一方、民間の構成員からは、「後期高齢者が大幅に増える時期が迫る今こそ、給付と負担の見直しが必要だ」などの声が上がった(資料は、首相官邸のホームページ)。

 横倉会長は、会議内で必要性が検討されている受診時定額負担を巡って「将来にわたり 患者の療養給付を最大でも3割までしか負担を求めないとしてきた、これまでの原則を破って患者に負担を求めていくものであり、容認できない。社会保障としての国民皆保険の理念に反する」と批判。予防医療に力を入れ、健康寿命を延ばせば、結果として社会保障の支え手が増えるとして「従来の医療は、診断・治療に重点を置いてきたが、病を防ぐということも医療の大きな役割で、しっかり取り組んでいきたい」と述べた。
(略)
 横倉会長らの意見に対し、構成員からは厳しい声が上がった。
 日本総合研究所理事長の翁百合氏は「多くの国民は今後も医療の恩恵を受けられることを望んでいるが、医療制度の財源面が、持続可能なのか不安を持っている」と強調。横倉会長が受診時定額負担にしか明確に触れていなかったことから、「低所得者に十分配慮すれば、後期高齢者の窓口負担引き上げはやむを得ないと考えているのか」と質問した。
 日立製作所会長の中西宏明氏は「やはり今、高齢者の方が優遇されていて、若い人に閉塞感があるという現実を踏まえて、負担能力のある高齢者に負担をお願いしていくという方向性については、はっきり今出すべき時期ではないか」と迫った。

 横倉会長は「当然現役世代に負担がかかっていることも、十分に理解し、低所得者に十分配慮しながら、国民が納得できるよう十分な議論を尽くしていくべきだろうと考えている。国民が納得するような形で、負担ができる方には負担を上げていくことには私も賛成をしている」、「負担ができる方を上げることには強い反対は申し上げていない」と応じた。

 東京大学公共政策大学院客員教授の増田寛也氏は、日医が自己負担の増加による受診抑制が健康への悪影響を及ぼすと主張していることを挙げ、「(受診時定額負担を)仮に100円とすると、診療報酬30点強に相当する。このレベルの点数の新設、かさ上げというのは、診療報酬改定で行われており、診療報酬のプラス改定では当てはまらないけれども、受診時定額負担ではこういう悲劇が起こるというのはちょっと無理がある」と指摘した。

受診時定額負担に関してはかねて受診機会の多い高齢者をターゲットにした制度だと言う批判があり、日医もかねて後期高齢者の負担増と言う観点からこの制度導入に反対しています。
ただ今回興味深く感じたのが本音では後期高齢者の受診抑制は困ると言うことであるのに、患者自己負担は最大で医療費の3割までとの既定の原則に反していると主張している点でしょうか。
そもそも後期高齢者は自己負担率の点でも未だに1割負担が続くなど優遇されているのですから、定額負担が加わっても3割になどなるはずがないと思いますが、日医としても反論に苦労していると言うことでしょうか。

ちなみに日医自身も認めているように、自己負担増加による自主的な受診制限ではなく、自由な受診を制限し予約制にするなど医療側による受診制限によって医療費を管理する国もあります。
イギリスなどがその代表格で、日本でも昨今基幹病院などは実質的な受診制限を敷いている例がありますが、応招義務と言う法的制約に加えて、日医ら医療系団体が受診の自由を断固主張しています。
要するに患者が医療をどの程度利用するかは完全な患者側の自主的判断に委ねられているのが日本の現状であり、まずはこれを制限するべきかどうかが議論の出発点にならなければなりませんね。

今後医療の提供体制に関しては自治体が主体となる地域医療構想に従って構築されることになりますが、施設間の機能分化が推進されれば、急性期を担当する医療機関は額面上減ることになると思われます。
他方で患者側からすれば調子が悪い時には救急を扱うような急性期施設に真っ先に受診したいはずで、こうした施設は今まで以上に多忙になる恐れが強そうですから、現実的にも無制限な受診は困るでしょう。
医療のコスト、クオリティー、アクセスのうち国民が最も受け入れやすいのはアクセス制限だと思われるのですが、それに反対するなら日医はどこを制限することで医療の永続性を図ろうとしているのか知りたいですね。

 

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2019年11月25日 (月)

なにが上手な医療のかかり方かは、立場によっても正解が異なる

先日厚労相主体でこうした活動が始まっていると言うニュースが出ていました。

デーモン閣下「医療現場の実情、もっと知らなくては」上手な医療のかかり方大使に任命、3児の母・中村アナも(2019年11月18日医療維新)

 患者の受診行動を適正化し医師の負担軽減につなげようと、厚生労働省は11月18日、アーティストのデーモン閣下とフリーアナウンサーの中村仁美氏を「上手な医療のかかり方大使」に任命した。医療機関や自治体などの優れた取り組みを表彰する「上手な医療のかかり方アワード」を開催するほか、電話の相談窓口などをアピールして、不要不急の受診を減らすのが狙いだ。
 任命証を手渡した厚生労働大臣の加藤勝信氏は「医師は一人の人間でもある。働き方改革は現場だけで実現できるわけではなく、社会全体で考えなくてはいけない課題だ。患者は医療機関を自由に選べる仕組みにはなっている。しかし、医療のかかり方には、いろいろと改善できる余地があるのではないか。国民が正しい知識と相談できる窓口を持ち、上手なかかり方を実践することが大事だ」と述べ、2人の発信力に期待を寄せた。加藤厚労相はデーモン閣下に白衣もプレゼントし、笑顔を見せていた。

 厚労省は2018年度に開催した「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」での検討結果を踏まえ、上手な医療のかかり方アワードを創設。11月1日から12月20日まで、各団体からの応募を受け付け、2020年2~3月頃に表彰式を行う。
 11月1日に開設したサイト「上手な医療のかかり方.jp」では、休日・夜間に子どもの症状について相談できる「#8000」や、救急車を呼ぶべきか迷った際に相談できる「#7119」(一部地域)などを紹介しており、今後、内容を充実させる予定だ。
 同懇談会のメンバーでもあったデーモン閣下(『「国民全体が医療危機に取り組むべき」デーモン閣下、宣言発表』を参照)は「医師が大変だということを、国民はもっと知らなくてはいけない。知ることによって、もう少しかかり方を考えようと思うはずだ。どうやって病院に行くのか、相談してから行くのか、正しいプロセスを実践するだけで、医療現場の負担は軽減していく。多くの国民にぜひ知ってもらいたい」と意気込みを語った。
 3児の子育てをしている中村氏は「(病院に連れて行かず)子どもに何かあったときに親の責任としてつらいと思うので、夜でも病院へ行くことがある。自分のことではないので、どれくらいつらいのか分からず、余計に心配になる」と母親としての真情を吐露。子どもの症状などを相談できる電話窓口「#8000」の取り組みを紹介されると、「プロの意見を聞いて安心したいという親御さんは多い。ぜひ勧めたい」と語った。

 東京女子医科大学東医療センター救急救命センターに勤める救急医の赤星昂己氏も登壇し、「救急出動件数は10年間で100万件以上増えている。一方、医師も増えてはいるが、救急や外科は増えていないのが現状だ。ドクターなので全員を助けたいと考え、救急患者は絶対に断らないつもりでやっているし、どんな症状でも来てほしいと願っている。それでも現場はギリギリで、必死に頑張っている。緊急度の低い方がたくさん受診すると、受け入れられなくなる恐れがある」と実情を訴えた。
 株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏は、「本当は翌朝に通院すればいいが、勤務先のプレッシャーが強いと、夜間のうちに救急へ行き薬だけもらって、這ってでも会社へ行くということがある」と、一般企業の働き方改革も重要だと指摘した。

しかし赤星先生もお忙しい中で昨今医療現場以外でも大活躍の御様子ですが、小室氏の言うところの日中受診出来るよう一般企業の働き方改革をと言う意見も、まことにごもっともと言うしかありませんね。
公的なスタンスとしての患者の受診抑制への誘導に関しては、以前から一部医療系団体の熱烈な反対もあるようですが、受診行動の適正化と言うことに関して少なくとも表向き反対することは難しいはずです。
とは言え、経営的観点から未だにどんどん救急車を取れ、患者は断るなとスタッフに強要する病院もいないでもないようで、今後医師の働き方改革との絡みでこうした施設がどうなっていくのかも注目されますね。
そんな中でスタッフ数の制約などから物理的にこれ以上の応需は難しく、医療需要を制限せざるを得ないと言う場合も当然あるはずですが、地域にとっては必ずしも歓迎される話と言うわけでもないようです。

内科の初診外来を制限 県立八重山病院、医師が不足(2019年11月20日琉球新報)

 【八重山】県立八重山病院(篠﨑裕子院長)は医師不足のため、12月2日から内科の初診外来を原則、紹介状のある患者に制限する。期間は未定。同院は「まずは地域のかかりつけ医で受診してほしい」と呼び掛けている。

 八重山病院の内科では19日に医師1人が退職するほか、12月2日以降は常勤医不在となった西表西部診療所に同院内科医を週4日常勤で配置し、週末なども別の医師を派遣する。そのため19日現在で13人いる内科医は、12月2日以降、実質11人に減少する。
 2018年10月の新病院開院以降、外来患者数も増加傾向にあるとしており、地域の一次医療と二次医療の役割分担を進める観点からも内科外来の制限を決めた。救急患者は従来通り24時間受け付ける。

 篠﨑院長は「内科医の減少で医師の負担が重くなるため、理解してほしい。従来通り地域の病院とは連携し、何かあれば紹介を受ける。責任持って二次医療を担いたい」とした。

県立八重山病院内科 来月2日から診療変更(2019年11月20日八重山毎日新聞)

 県立八重山病院(篠﨑裕子院長)は内科の医師が14人から2人減り医師が不足するため、12月2日から内科の診療取り扱いを変更することが19日、分かった。紹介患者、救急患者を優先させるため、紹介状を持たない内科初診患者は民間の医療機関を受診するよう促している。医師の過重労働軽減に対応し、1次医療や2次医療のすみ分けを行う考え。開業医等の診療所を介することで「かかりつけ医師」の定着を図る。

 中核医療を担う同院はこれまで、すべての外来患者を診察してきたが、変更により急患や紹介患者に専念できるほか、地域の病院・診療所などを後方支援することで地域医療支援病院を目指す。
 同様の体制は、県立の北部、中部、南部でも取っている。今後、宮古病院も変更を計画している。

 内科は消化器、呼吸器、腎臓、感染症など各専門に分かれ、それぞれの専門医が所属している。同院の医師は当直、急患ヘリ添乗、オンコール待機など業務負担が大きいなか、限られた人数で業務を行っているという。今回、医師の退職と西表西部診療所へ代わりの医師を派遣するため、内科医は12人に減る。
 篠﨑院長は「開始直後はトラブルも予想される。医師に負担がかかり過ぎると、今後、当院に医師が来ないかもしれない。土日や夜間の救急医療を守るためにも協力をお願いしたい」と求めた。

 2日以降、民間の医療機関に患者の集中が予想される。八重山地区医師会(会員37人)の上原秀政会長は「理事会で理事の方々に伝えた。『仕方がない』という意見や『患者さんのためにならない。八重山病院に頑張ってもらいたい』という声もあった。医師会としてどうこう言えない。あとは会員個々が判断すると思う」と話した。

ちなみにこうした場合応召義務云々はどうなるのかと思う方もいると思いますが、先日も紹介した通り緊急性のある場合を除き、昨今は通常営業時間内においても緩く解釈する方向で厚労省見解が示されています。
マンパワー等の限界から現実問題として対応困難であり、かつ他に適切な医療機関を案内出来ると言うことであればまず問題ないと思いますが、しかしHPを見ると制限とは言ってもその実効性が怪しく思えてきますね。
紹介状を持たなければ予約をして受診をと言うことですが、2200円を払って待ちさえすれば診察はしてくれると言うことですので、どの程度受診抑制に有効なのかは地域住民の意識にも関わってくることでしょう。

しかし今回の場合住民よりもむしろ地元医師会会員の反応がかなり興味深いと感じたのですが、「患者さんのためにならない。八重山病院に頑張ってもらいたい」とは率直な反応と言いますか、色々と意味を考えさせる意味深なコメントです。
一般論としてこうした場合飛び込みの患者が受診そのものを中止することは多くはなく、ほとんどの場合他の医療機関に回っていると思うのですが、当然その分周囲の医療機関には負担がかかる理屈です。
もちろん患者が増えて嬉しいと言うクリニックもあるでしょうが、今現在一杯一杯でやっている施設は他にもあるはずですから、最悪の場合各地で見られたように地域医療崩壊の連鎖現象が発生する危惧もありますね。
ただ基幹病院と開業医とどちらが地域医療に必須かと言えば当然前者だと考えると、その機能は最後まで最優先で保持されるべきと言う考えは妥当性があり、意識改革は地域医療関係者の間でも必要でしょう。

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2019年11月20日 (水)

医師不足が叫ばれる中で医学部定員が削減に転じた理由

先日取り上げました来年度の診療報酬改定の話題に関して、今回も薬価に関して厳しい改定が予想されそうだと紹介しましたが、厚労省の調査では薬局は未だ黒字であることが報じられています。
薬価改定で経営的にどのような影響があるかは単純には言えない話ですが、今後薬局に関しても厳しい目線が注がれる可能性が高く、場合によっては新規解説規制などもないとは言えない状況だと言いますね。
以前から日本医師会などは薬局が儲けすぎだと目の敵にしていて、医薬分業自体の意義を問い直す声も根強くありますが、薬局の場合保険外の商品取り扱いで儲けは出しやすく、経営上有利とは言えるでしょう。

ところで薬剤師の供給元となっている薬学部の定員は年々増加を続けていますが、長期的に見ればいずれ減少に転じるはずだと言う予測があります。
薬学部6年制への変更やドラッグストアへの薬剤師配置などで当面売り手市場となっていたとは言え、今後法科大学院や歯学部と同様に過剰となるだろうと言うことですね。
現時点ではもっとも不足感が強い医療職は医師と看護師だと思いますが、その医師にしてもそろそろ過剰の懸念がささやかれる中、先日はこんな記事が出ていました。


2020年度の医学部地域枠、12大学で計77人減(2019年11月18日医療維新)

 文部科学省は11月13日、2020年度医学部入学定員を大学設置・学校法人審議会に諮問、臨時増員計画による地域枠の定員が2019年度と比べて12大学で計77人減少することが明らかになった。過去の充足率が低い大学で定員削減が目立ち、旭川医科大学と山形大学は、同計画による地域枠を廃止。一般やAO入試によって地元に定着する卒業生の確保を目指す。一方で、3大学で計13人増加し、臨時増員による地域枠は計65大学で計863人(2019年度比64人減)だった。

 医学部の定員は臨時増員計画が始まった2008年度以降、増加傾向が続き、直近3年間は2017年度が9420人、2018年度9419人、2019年度9420人とほぼ横ばいだった。地域枠の減少もあり、2020年度は90人という大幅減の9330人となった。今月内にも答申を受けて、正式に認可される見通しだ(資料は、文科省のホームページ)。
(略)
 勤務地が制限されることもあり、地域枠で入学しても、奨学金を返却するなどして義務年限を果たさない学生が少なからずいる。厚生労働省の調べでは、2018年の地域枠の定員充足率が81.6%にとどまっていた(『2018年度の地域枠充足率81.6%、24府県が「8割未満」』を参照)。
 厚労省は、地域枠だけの試験を実施する「別枠方式」と比べて、一般と同じ枠で試験を行ってから入学前後に希望者を募る「手挙げ方式」では、卒業後に指定された地域や診療科で勤務しない割合が高いために問題視。「別枠方式」に統一するよう改善を求めていた。
(略)
 医学部の定員は2008年度以降、地域枠や研究医枠の創設、歯学部からの振り替え、東北医科薬科大学医学部(定員100人)と国際医療福祉大学医学部(定員140人)の開設によって、大幅に増加。2017年度から2018年度に1人減ったのを除いて、毎年増え続けていたが、2020年度は大幅に減少に転じた
 医学部入学定員は、2020 年度と2021 年度については、厚労省の医師需給分科会の2018年5月の第3次中間取りまとめで、「2019 年度の医学部定員を超えない範囲で、その必要性を慎重に精査していくこととする」となっていた(『医師需給の「第3次中間取りまとめ」、了承』を参照)。

この地域枠問題、本来的には基本的人権を無視した御礼奉公を強要されるからこそ不人気であると捉えるべきと言え、一般枠が高倍率であるにも関わらず地域枠は定員が埋まらない大学も多いそうです。
その意味では医師過剰とは本来別の問題であるはずなのですが、注目すべきは地域枠定員を削った分をまるまる医学部定員削減としていることで、結果的に医学部定員の大幅減となっている点ですね。
医師不足が今後も長く続くと言うことであれば、一般枠に振り分けるなどしてでも定員総枠を維持すべきところでしょうが、文科省としては現時点で医学部の定員削減にゴーサインを出したと言う形です。
医療行政は基本的には厚労省の管轄であり、医師の需給予測に関して厚労省と文科省でとらえ方が違うと言う可能性もありますが、この種の問題では両者がある程度協議した上で決めていると思われます。

要は厚労省としても少なくとも定員削減に反対ではないと思われるのですが、地域枠の減少は医師の勤務地について強制力を発揮出来る手駒の減少に直結する問題で、本来あまり歓迎できないはずです。
他方で2018年より新専門医制度がようやく実施の運びとなりましたが、実質的な勤務先の制限など医師配置についてより強力な規制手段としても活用出来るものであり、地域枠よりよほど有用とも言えますね。
必要な場所に適切に配置されるなら同じ医師総数であっても効率的な医師の活用が可能になるはずで、仮に全医師が最善の効率で活用されるなら医師数をこれ以上増やさずともすむ可能性もあります。
不人気の地域枠を強いて維持する必要性に乏しい体制が整った以上、奨学金など余計なコストもかかり不確実な地域枠が次第に減少、廃止されていくことは既定の路線なのかも知れないですね。

 

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2019年11月18日 (月)

診療報酬改定作業、甘い話にはなりそうにないと言う予測根強く

来年度の診療報酬改定に向けた議論が始まっていますが、例によって財務省筋からはマイナス改定への強い圧力があるようです。

診療報酬マイナス改定へ 医師の人件費焦点 年末予算編成向け調整(2019年11月14日共同通信)

 政府は13日、医療機関にサービスの対価として支払う診療報酬に関し、医療費抑制のため2020年度の見直しで全体の改定率をマイナスにする方向で検討に入った。薬代などの「薬価部分」を引き下げる。今後は医師らの技術料や人件費に当たる「本体部分」への対応や具体的な数値が焦点。本体部分はプラスを維持するとの見方が強く、年末の政府予算編成での最終決定に向け、関係団体や政府、与党内の調整が本格化する。

 医療費は増加傾向にあり、四十数兆円規模が続く。診療報酬は税金と保険料、患者の窓口負担(原則1~3割)が財源となっている。改定率がマイナスの場合は医療機関などの収入が減り、プラスになれば医療費が膨張し、国民の負担増にもつながる。
 診療報酬は本体部分と薬価部分で構成され、原則2年に1度改定される。全体では過去2回、マイナス改定が続いており、前回の18年度は0・9%引き下げた。内訳を見ると、人件費など医療機関の収入に直結する本体部分は、自民党の有力支持団体である日本医師会(日医)の強い要望を受け0・55%引き上げたが、薬価は市場価格に合わせる形で引き下げ、マイナス1・45%とした。

 厚労省はこの日、医療機関の経営状況を調べた2018年度の「医療経済実態調査」を公表。一般病院全体では、1施設当たりの利益率はマイナス2・7%で、17年度に比べ0・3ポイント改善したものの赤字が続いた。病院以外では、一般診療所が12・9%、歯科診療所20・5%、薬局5・5%と黒字を維持した
 病院の赤字の一因は人件費の増加とみられ、日医などは本体部分の引き上げ圧力を強めそうだ。複数の自民党閣僚経験者は「プラス改定にする」と語った。
 一方、財務省は薬価だけでなく本体も引き下げ、全体で2%台半ば以上のマイナス改定を目指している

政治巻き込み駆け引き激化 医療費抑制か赤字改善か 2020年度診療報酬改定(2019年11月14日共同通信)

 医療サービスの公定価格を決める来年4月の診療報酬改定を巡り、関係者の攻防が始まった。財務省は医療費抑制の観点から引き下げを求めるが、医療機関が全体で赤字経営に陥っているとして、医療団体や自民党の厚生労働族議員は引き上げを主張する。年末の予算編成に向け、政治も巻き込んだ駆け引きが激化する。
(略)
 「国民医療費の抑制を図るためには、診療報酬のマイナス改定は不可欠だ」。財務省は1日、財政制度等審議会の分科会で、医療費膨張の実情をグラフで示して訴えた。2年に1度の改定は、財務省にとって医療費削減の貴重な機会となる。
 本体部分は2008年から18年まで、6回連続のプラス改定。財務省は「デフレ期にも上昇を続けた結果、医療機関の人件費や物件費を賄う本体部分の水準は、一般的な賃金や物価の水準と比べて高くなっている」と指摘。引き下げを強く主張する。

 これに医療団体は猛反発した。政治的影響力の大きい日医の横倉義武(よこくら・よしたけ)会長は1日の分科会直後、緊急記者会見を開催。政府の要請を受けて他産業が賃上げを行う中で「医療だけが取り残されることがないようにしなければならない」と反撃した。
 そうした中、病院は赤字との調査結果が出た。医師の働き方改革も課題となる中、さらなる人件費増や設備投資が避けられず、本体プラスへの流れが強まるのは必至だ。与党の厚労族議員からは「今回はプラスだろう」と楽観視する声も漏れる。

 財務省は、医療費削減に向けた医療制度改革と合わせて水面下の交渉を進めたい考えだ。日医は改革案のうち、外来受診時に一定額を上乗せする「受診時定額負担」に強硬に反対する。定額負担は医療費削減効果がより大きい。ある財務官僚は「日医が定額負担実現を受け入れなければ、プラス改定にはできない」と話す。

記事にもあるように先日厚労省から診療所は黒字、病院は赤字と言う調査結果が出たと報じられていて、普通に考えれば診療所には厳しく、病院にはやや緩めの改定が落としどころなのかとも感じられます。
ただ個人経営の診療所の場合赤字となれば即廃業ですから、基本的に黒字の施設でなければ存続出来ないはずなので、単純に平均して黒字だから診療所は儲かっているとも言い切れない話ではありますね。
医療費総額を抑制したい財務省の思惑からすると、より巨額の医療費を使っている病院の方が抑制の旨味は多いとも言え、赤字なのだから病院には報酬を手厚くと言うことにもならないはずです。

他方で厚労省としては医師の働き方改革とも関連して、非効率な中小医療機関を統廃合したいと言う以前からの野望もあるのですから、経営的な側面から締め付けを強くすることは必ずしも悪い話ではありません。
要は財務省、厚労省とも一致して、赤字経営の病院を積極的に救済することに利点を感じていない可能性が高く、医療系諸団体や族議員は新たな理論武装に基づいた主張が求められそうですね。
ところで医師の働き方改革と言えば病院経営に極めて大きな影響を与えると医療系諸団体の抵抗も強い昨今の課題ですが、それに関連して先日興味深い調査結果が報じられていました。

常勤医の平均勤務時間が月6.6時間減少 診療報酬改定結果検証、2017年と2019年6月を比較(2019年11月15日医療維新)

 厚生労働省は11月15日の中医協の診療報酬改定結果検証部会と総会で、2018年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査の結果を報告した。「医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進に係る評価等に関する実施状況調査」で、施設調査では常勤医師の1カ月間の平均勤務時間が2017年6月の182.8時間から2019年6月には176.2時間に減少したことなどが明らかになった。一方、医師調査では1年前と勤務時間が「変わらない」との回答が73.4%に上った(資料は厚労省のホームページ)。
(略)
 施設調査によると、常勤医の1カ月間の平均勤務時間は2017年6月の182.8時間から2019年6月には176.2時間に減少。病床数別に見ると減少幅が大きかったのは100~199床で178.2時間から169.8時間、次いで400床以上が190.2時間から182.0時間だった。非常勤医も全体で47.2時間から46.0時間に減少した。
 1カ月間の平均当直回数は常勤医が2.6回から2.5回に減少する一方で、非常勤医が1.4時間から1.5時間に増加。病床数別に常勤医を見ると、99床以下では4.0回から3.7回に減少し、それ以上ではほぼ横ばいだった。1カ月に連続当直を行った医師数(行った医師がいない施設は0人として含む)では、常勤医が1.2人で横ばいだったが、非常勤医が0.8人から1.0人に増加した。
(略)
 実施している医師の負担軽減策(複数回答)では、「医師事務作業補助者の外来への配置」が51.0%で最も多く、次いで「医師の増員」が50.3%、「院内保育所の設置」が46.9%。上位には当直翌日の業務内容の軽減(当直翌日の休日を含む)、医師が出席する会議の所定就業時間内での開催(開始時刻の前倒し等)などもあった。全ての項目で、医師事務作業補助体制加算を届け出ている病院の方が、実施率が高かった。
 実施したもののうち「特に負担軽減の効果がある取り組み」を最大3つまで尋ねた項目では、「医師の増員」が35.2%、「医師事務作業補助者の外来への配置」が31.7%でこれら2つが突出。「医師事務作業補助者の病棟への配置」が15.0%、当直翌日の業務内容の軽減(当直翌日の休日を含む)が14.6%だった。

 医師調査には1300人が回答した。2019年7月1日から7日の1週間の勤務時間では、医師事務作業補助体制加算の届出がある施設では50.9時間で、うち診療時間が39.2時間、そのうち事務処理に係る時間が8.2時間。診療時間に占める割合は20.9%だった。届出がない施設では42.5時間で、うち診療時間が32.7時間、そのうち事務処理に係る時間が7.5時間で、割合は22.9%だった。
 今回の調査対象施設以外の病院でも勤務している医師は33.4%で、特定機能病院に限れば80.3%が他の病院で勤務していた。2018年9月の時点で対象施設以外に勤務している医療機関数(回答者418人)は平均1.5施設。そこでの1カ月間の勤務時間は平均23.7時間で、当直回数は0.6回、そのうち連続当直回数は0.1回だった。
 1年前と比べての勤務時間は、全体では「短くなった」が11.7%、「変わらない」が73.4%。ただし、「短くなった」が医師事務作業補助体制加算の届出ありの施設では12.4%、なしの施設では8.9%で、加算を取っている施設の方が少しだけ勤務時間短縮を実現できていることがうかがえる。勤務状況の変化も同様の傾向で、届出ありの施設で「改善した」が11.0%、なしの施設で9.4%だった。

施設に対する調査と医師に対する調査で労働時間に関する結果が異なっているのが興味深いのですが、恐らく実感を反映しているだろう医師調査を重視すれば、2年程度で大きな変化はないと言うことでしょうか。
診療報酬の仕組みを考えれば、徐々にではあれ医師の労働量が減少傾向にあるとすれば、当然それに伴って発生する診療報酬も次第に減少すると推測されますが、他方で医師数自体の増加もあるはずです。
現時点では医師の年収は未だ減少傾向とも言えませんが、医師数が増える一方労働量が減れば1人当たりの稼ぎは減っていくのが当然で、近い将来勤務医も収入減少局面を迎えるだろうと予想出来ます。
多くの勤務医が未だ昔ながらの年功序列の報酬体系で働いていると思いますが、今後は労働量に応じた収入体系の設定などに改めていかなければ、現場で様々な不満が蓄積していきそうには感じますね。

他方で雇用者の立場から見ればこの状況、ただでさえ人手不足の上に今までのように医師をこき使うことも出来なくなってくるとなれば、病院経営上はまさに危機的状況が目前に迫っていると言えます。
経営者目線で医療を語る日医などがこぞって働き方改革に抵抗するのも理解出来る話ですが、落としどころとして厚労省が進めようとしているタスクシフトの大々的推進も一つの対策としてあげられそうです。
医師としては仕事量が減り、施設トータルでの人件費も抑えられるとなれば悪い話ではないはずですが、そもそもコメディカルスタッフも人手不足だと言う面もあり、現実的には難しいと言う意見もあります。
医療は底堅い需要が今後も見込まれる安定的産業ですが、結局は社会全体の中で医療にどの程度マンパワーを投入すべきかから考えないと、医療に投じるべきコストの総額も見えてこないのだろうとは思いますね。

 

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2019年11月14日 (木)

疑似医療行為の宣伝戦略に突っ込み、荷担した方々も炎上騒動に

医学的根拠の怪しい疑似医療行為の類いには周期的流行があるように思いますが、最近話題だと言う血液クレンジングなる行為に関して、少し目新しい観点からの肥胖があると報じられています。

著名人の来院写真、個人の体験談、誇大広告...... 血液クレンジング 医療広告ガイドライン違反のおそれも(2019年10月25日Buzzfeed)

科学的根拠に乏しいのに、アンチエイジングや疲労回復のみならず、がんや心筋梗塞、HIV除去など適切な治療を受けなければ命にも関わる病気に効果があると宣伝し、批判を浴びている「血液クレンジング」。
この療法を提供しているクリニックのウェブサイトやSNS投稿、体験談を掲載している著名人の発信を見てみると、著名人が来院していることを写真入りでアピールしたり、個人の体験談を掲載したりなどしている。
これは医療法に基づく「医療広告ガイドライン」に違反しているおそれがあることがBuzzFeed Japan Medicalの調べでわかった。

不当な広告によって、一般の人の健康や命に害が及ばないように医療機関の広告は厳しく制限されている。
(略)
ガイドラインでは、(1)患者の受診などを誘引する意図があること(誘引性) 、(2)医業や歯科医業を提供する人の名前や医療機関名が特定可能であること(特定性)がいずれも満たされれば医療広告とみなされ、規制の対象となる。
例えば、来院した著名人の写真などを、クリニックがホームページやInstagramに載せていることなども医療広告のガイドラインに違反する可能性がある。
(略)
”著名人との関連性を強調するなど、患者等に対して他の医療機関より著しく優れているとの誤認を与えるおそれがある表現は、患者等を不当に誘引するおそれがあることから、比較優良広告として取り扱うこと。(「医療広告ガイドライン」より)”

医療広告ガイドラインを管轄する厚生労働省医政局総務課の課長補佐、山内由紀枝氏も「お話を聞く限り、比較優良広告に当たりそうですね」と話す。
(略)
医療広告ガイドラインでは、国内未承認の治療や適応外で医薬品を使う自費診療の内容を広告することは原則禁じている。
ただし、医師の診療上の裁量権に配慮して、自由診療であることや、治療内容、標準的な費用、治療期間や回数などを明示していれば掲載できるとする「限定解除」という要件がある。
この点をチェックすると、副作用やリスクについてはあまり書いていないクリニックが目立つが、概ねクリアしている施設が多い。
だが、以下のような形で科学的な根拠が乏しいにも関わらず、病気への効果や効能を過大ともとれる表現でウェブサイトに書いているクリニックが目立つ

「基本的には万病に効くと言われます」
「身体中をめぐる血液の浄化改善は、どんな不調にも良い効果を与えるのです」
「オゾンにより活性化された血液を体内に戻しいれることで、体全体の活性化を実現する若返り治療です」
(略)
これについても厚労省の山内課長補佐はこう答える。
「虚偽広告とまで言えるかどうかわからないですし、個別の事案については見ていないのでなんとも言えませんが、一般論で言うと、お話を聞く限り、一般の人が広告された内容から受ける印象や期待感と、実際に提供される医療行為に相違がある場合、誤認を与える可能性があるならば誇大広告であると考えられます」
「これは患者が明らかに誤認したという結果がないとしても、常識的な判断として誤認させ得る内容だと判断されれば、広告ガイドライン違反と認定されます。実際にどのように書かれているのか、ウェブサイトなどに表示されているもの全てを見て、総合的に判断することになります」
(略)

最近Buzzfeedさんではこの問題を積極的に取り上げていて、サブタイトルで広報活動に協力していると思われる芸能人名を片っ端から列挙するなど、宣伝協力者を厳しく追及する姿勢が話題になっていました。
問題の血液クレンジングなる行為の医学的な意味合いについてはここで取り上げるものではありませんが、一般にこの種の行為について取り上げる場合、効果が期待出来ないことを批判するのが一般的でした。
ただその場合は気は心と言う言葉もあるくらいでプラセボ効果と言うものは否定出来ず、当事者がこれが効くと信じ込んで用いるだけなら赤の他人が口を出すことではないだろうと言う反論もあったわけです。
今回は治療効果が期待出来ないと言う点への批判もさることながら、こうした行為の宣伝に力を貸していると思われる芸能人達や、彼ら彼女らを活用する宣伝活動そのものを批判している点が新しいと言えますね。

今の時代うっかりしたことを口にすればすぐにネット経由で拡散し、盛大な炎上騒動に直結するケースが珍しくありませんが、実際にブログやSNS等で積極的に情報発信していた芸能人も批判を受けているようです。
芸能人の側からも謝罪コメントや投稿の削除、あるいは反論など様々なレスポンスがあるようですが、SNS等での言及や情報発信に対して彼らが某かの報酬を得ていたとまでは断定できないようです。
他方でこうした著名人の発信を利用して医療機関側が広告宣伝活動を行うことは明らかに問題で、今回こうした行為が医療広告ガイドライン違反であると指摘されたことは意味があると思いますね。
とは言え、まっとうな医療機関であってもネット上を検索すればいくらでも口コミがあふれているので、そのうちのどれほどがサクラなのかと言われると判断が難しく、当の本人ですら意識していないのかも知れませんね。

 

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2019年11月11日 (月)

医師に過酷な労働を強いる病院と知られると患者が敬遠してしまう…だから?

当事者の誰もが思っていたことなのだとは思うのですが、医師の労組と言うべき全国医師ユニオンの研究会でこんな疑問が呈されたと報じられています。

研修医に「年1860時間」時間外特例認める根拠は何か?(2019年11月4日医療維新)

 全国医師ユニオンは11月3日、第9回医療労働研究会を「医師の働き方は変えられるのか?~医師の過労死裁判報告より~」をテーマに都内で開催した。医師の働き方改革の動向に注目が集まる中、研修医に時間外労働の上限規制の特例として「年1860時間以内」まで認めることを問題視する声が相次ぎ、「長時間労働がより良い研修につながるエビデンスがあるのか」と、根拠なき決定への懸念が呈せられた
(略)
 その一人として登壇したのが、医療法人寛明会山田内科クリニック(埼玉県三芳町)理事長の山田明氏。山田氏の娘である研修医(当時26歳)は、2年目に入ったばかりの2006年4月に過労自殺した。同年7月に労災申請し、2007年2月に労災認定された。「当直は年間77回、1カ月の時間外労働は150~200時間に上っていた」。勤務先の大学病院の就業規則では、平日の勤務時間は午前9時から午後5時で、当直は月4回、日直が月1回だった。
 山田氏は、「職業別に見て、医師だけが特別の体質を持っているというのか」と問いかけ、「年1860時間以内」という特例について、医師だけに認める医学的根拠のほか、長時間研修が良いという根拠もないと問題視した。山田氏が声を上げるようになったのは今年に入ってからのことで、「異常な数値が独り歩きする状況を何とか改善してもらいたい」という思いからだったという。「医師の命を守らずして、医療は守れない。“ドクターファースト”が当たり前だろう」(山田氏)。
 フロアからも、「臨床研修制度では、研修医は早く返さなければいけないはず。研修医はミスをしがち。だから労働時間を短縮し、守られているはずではなかったのか。にもかかわらず、C-1の基準があるのは違和感を覚える」、「他の業界では、新入社員は3カ月、6カ月などの期間、研修するが、研修医については、ほぼいきなり現場に出るのは乱暴すぎるのではないか」、「自分の心身にある程度、余裕がある状態でないと、学ぶことができない。新人ほど余裕が欲しいはず。どんな環境で研修すれば、最も効率がいいのかについてのエビデンスを出すべき」といった意見が上がった。
(略)
 ディスカッションでは、司会を務めた全国医師ユニオン事務局長の土谷良樹氏が、「なぜ医師だけが長時間労働をすることがよしとされているのか」と問いかけた。
(略)
 山田氏は、「最終的には研修医が全てをやって当たり前という、封建的な物の考え方がいまだに残っている」と述べ、スポーツ選手では練習量と成績が比例するとは限らず、医師も同様だとした。医師増員、医師の偏在解消、患者教育など問題解決にはさまざまな取り組みが必要だと指摘した。
 中原氏も、「国民の理解が得られていないのが、一番大きな問題ではないか」と述べたほか、「医師の敵は、医師」とも提起。2007年の東京地裁判決で利郎氏の死が労災認定された際、ある高名な小児科医がそれを問題視したことが耳に入ってきたという。「裁判の過程でも、中原(利郎氏)の勤務は過剰だったとは言えないと言った人がいる」。

研修医は勉強が必要だから長時間労働をして当たり前だと言うのであれば、長時間労働をすることで研修の効率が高まると言うエビデンスを示せとは、過労時にどれだけまともに頭が働くものかと考えると理解しやすいですね。
先日は厚労省から過労死基準の見直しについて来年検討会を開くことが発表されましたが、現在の残業月100時間と言う基準をより厳しい水準に改める方向で見直すことになるのではと予想されています。
そんな中で医師だけ年1860時間の時間外労働を許容すると言う報道に疑問を感じる医師も多かったと思いますが、一応は期間限定での暫定的措置であり、かつ医師の労働時間管理の厳格化が前提と言いますね。

要するに現状ではそれ以上に働かされている医師も多いのだから、現時点ではまずは最低限ここまでが上限と言う数字を示したと言うことですが、気になるのは自ら労働管理を行えない研修医の扱いです。
仕事中毒の偉い先生方が好きで過労死水準の労働をしていると言うならともかく、上から命じられた労働を拒否できないヒエラルキー最下層の研修医に、強制的に過剰労働を押しつけると言うのは如何なものかです。
過労死裁判のたびに「俺たちの若い頃は」式の意見が出ることを見ても、働かされる側視点では「医師の敵は、医師」とはその通りだと思うのですが、働かせる側にはまた別な論理があるようです。

働き方改革の評価、構成員が病院名公表に難色「ブラックと言われ大学病院離れ」「患者が敬遠」(2019年11月7日医療維新)

 厚生労働省は11月6日、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(座長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)に、医師の時間外労働上限の特例医療機関を指定する際に前提となる「医師の働き方改革」を評価する機能についての案を提示した。労務管理体制や医師の労働の実態などを書面、訪問により調査するものだが、その評価結果を公表することについて、構成員から「ブラックと言われ大学病院離れ」「患者が敬遠」などと難色を示し、慎重な対応を求める声が相次いだ。この日の案は評価体制や指定の枠組みについて大まかなイメージにとどまっており、厚労省は今後詳細を示す(資料は、厚労省のホームページ)。
(略)
 北里大学医学部教授の堤明純氏は、厚労省案の評価結果を公表することにより「医療のかかり方を見直すきっかけとなることが期待される」との記述について、具体的にどのようなことを想定しているかを質問し、厚労省医政局医事課は「年960時間以上(時間外に)働いている医師がここにはどれくらいいるということが地域の患者に分かり、受診の仕方などの啓発にも寄与するのではないかと考えている」と回答。堤氏は「ポジティブに伝えられて学んでもらえるのはいいが、患者が病院を敬遠してしまう情報に取られると、医療機関には困る。出し方、うまい評価のされ方が大切だ」と述べた。

 日本医師会常任理事の城守国斗氏も、「公表によって医師が『あそこは長時間労働させられる』となって(敬遠し)、時短ができにくくなる」と同調。日本医学会副会長で九州大学大学院消化器・総合外科教授の森正樹氏は、「(地域医療構想の)424病院のリストでも、地域の人たちも背景が分からずに見ることになって『病院がなくなってしまうのではないか』などとなった。長時間になっているところには行きたくないという患者の心理で、病院格差を助長する可能性もある」と続き、日医副会長の今村聡氏も「公表の仕方など、全てこれからの日本の医療提供体制に大きく影響する。慎重の上にも慎重を」と注文を付けた。

 国立大学附属病院長会議常置委員長で千葉大学医学部附属病院病院長の山本修一氏は、「大学病院は軒並み『あの病院はブラックだ』と名前を挙げられて、大学病院離れを助長する。もちろん努力はするが、公表の時期の問題もある」と指摘。最初に評価結果が出た時点では医療機関と都道府県にのみ通知し、改善後に公表することを提案した。

各施設の労働の実態はよく判らないのですが、基本的に仕事が多すぎるから長時間労働を強いられていると考えるのが自然で、現場の医師からすれば公表で患者に敬遠されて仕事が減るのであれば歓迎でしょう。
しかしそれでは病院側としては困る、もっと医師には馬車馬のように働いてもらわなければ儲けにならないと言うのであれば、これはまさにブラック企業と同様の論理であって、患者にも医師にも敬遠されて当然です。
このあたりは働き方改革の議論でありながら、大病院の幹部ばかりが医師代表のような顔で参加している点にも問題がありますが、まさに患者はそんな病院にかかりたがらないと当事者も認識しているわけです。
過労が仕事の質を低下させ最悪事故を誘発することにはすでにエビデンスがあるのですから、それでも過酷な労働を課してまで患者を集めたいと言うのであれば、患者や医師が納得出来る理屈づけが必要でしょう。

 

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2019年11月 8日 (金)

「お客さまは神様です」なる言葉はひどく誤用されていると聞きますが

クレーマーだとかモンスターだとか言われる方々の話題も昨今ではむしろ当たり前のものになりすぎて鎮静化してきた印象もありますが、最近話題になりがちなのはこの種の話であるようです。

理不尽なクレームに毅然と対応した病院 命を守る仕事をする人にも必要なのは健康!(2019年11月6日おたくま経済新聞)

 突然の病気やケガで救急に駆け込んだ時、患者と付き添いの人は不安を抱え、待ち時間が長いとイライラも募ります。だからと言って理不尽なクレームは問題外。そんなクレームに毅然とした態度を示した病院の態度が人々を考えさせています。

■ 理不尽なクレーム

“病院の投書で
救急受診で待たされている間に医師がコンビニで買い物をしていた
という苦情があって
それに対する病院の答えが
医師も看護師も人間ですので休まないと仕事はできません。よりよい医療を提供するためにも当然許されることと思います」
と毅然と対応してて、少し嬉しくなった。”

 と、総合病院に置いてある投書箱からの意見に対し、病院管理者側が毅然とした態度を示して医療者を守る発言で返しているの見てツイッターに投稿したのは、肝胆膵と内科救急を得意とする消化器内科医の、ふろ仙人さん。
 こういった投書箱に入ってくるクレームは、大概が「医療者の態度が悪い、設備に不満がある」といった内容で、回答する側は「申し訳ございません、善処します」という内容が多いものです。
 しかし、ツイートの内容のように、救急担当以外の医師なのか、担当医なのかも分からないだろう投稿者からの「告げ口」ともいえるような内容は、病院で健康と命を預かる仕事をしている側からしたら、こんなことでなぜ苦情を言われなければならないのか、と理不尽を覚えます。
 それだけに、病院の管理者側としての回答が医療者をきちんと守るという態度を示してるのは、そこで働いている人たちにとって大きな安心感となります。

 病院で救急外来をやっていると、時には当直の間、一晩中患者さんが途切れないこともあります。そうした現状を知っている人や、心ある人たちからは、「医者が顔色悪くて体調悪そうなら逆に大丈夫なのかなと思います」「むしろ、コンビニで済まされているのが気の毒なくらい」「人として尊重し合えないんですかねー?安全な医療のためにも休憩が必須ですよ」と、当直医を気遣う声が多くリプライに集まっています。
 そして、「医師も看護師も消防士も救急救命士も警察官もみんな人間ですからね!」「警察も、自衛隊、鉄道やバスの運転手なども同じクレームを受けていますよね」などなど、人の命を預かり助ける職業に対する理解を示す人からのリプライも。不特定多数の安全や健康、命を守る仕事をするには気力も体力も精神力も必要です。
(略)
 どこの総合病院でも普通にありがちな医師の超長時間労働。担当医である自分の代わりがいない上に、勤務医の待遇の悪さや経営陣側が働く側を守ろうとしない姿勢など、様々な問題を抱えているのが実情。病院の運営が良くないと医師は自分の身を守るために離職し続け、結局残った人たちで命を守ることになってしまいます。病棟の一部閉鎖や病院自体を閉鎖する、あるいは統合してしまう、ということもあちこちで起こっています。
 これで結局、一番にツケが回っていくのは患者側となるでしょう。突然病院を退職し、前触れもなく開業したという医師も実際にいました。その医師は敢えて病棟での受け持ちを作らず、外来のみ担当という姿勢を崩さなかったツワモノでしたが、外来でその医師に定期的にかかっていた患者さんにとっては大きなショックとなってしまいました。
 結局、理不尽なクレームを入れて医療者側に無理をさせることは、患者として診察を受ける側全員の首を絞めることにつながりかねないのです。だから、病院の管理者は「患者さんのために」医師を守るべき行動を取る必要があります。
(略)

医療に限らず警察や消防救急、自衛隊など、このところ休みもなく働いている多忙な方々に対してこの種のクレームが多いとたびたび報じられているとのことです。
業務の合間に食事や水分摂取をすることの何が悪いのかちょっと理解できませんが、コンビニのトイレに立ち寄るのもケシカランだとかのクレームがあるようですね。
消防救急や自衛隊などはすでに組織として問題ない行為だと表明していますが、記事にもあるように医療現場では今までクレームに反論することは珍しかったようです。

雇用者側には労働者の食事や休憩の時間を確保する義務があり、本来病院側の責任が問われる問題ですが、下手をすると現場に泥をかぶせようと言う病院もあるようですね。
アメリカの調査では医師の職場への満足度には周囲との人間関係の影響が大きかったそうですが、同僚や部下と同等以上に上司、あるいは職場組織そのものとの関係性も影響は大きいのではないかと思います。
理不尽なクレームへの組織としての対応次第で職場の働きやすさも大きく変わるはずで、上司や職場組織が自分を大切にしていると感じられなければ職場への忠誠心が高まるはずもないのは当然です。
今の時代どこの病院もスタッフ不足で大変だと聞きますが、守るべきは正当とは言いがたいクレームを入れてくる一部顧客なのかスタッフなのか、正しく判断しなければ経営も立ちゆかないはずですね。

 

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2019年11月 5日 (火)

80~240円払えば専門家がやってくれる仕事とは

本日まずはこちらのニュースを紹介してみましょう。

紹介状なし負担「200床以上」に…厚労省検討、来年度から 初診5000円以上 義務化拡大(2019年10月29日読売新聞)

 厚生労働省は来年度、紹介状なしで大きな病院を受診した患者に定額負担を義務化する制度について、現在の「400床以上」から「200床以上」を軸に対象を拡大する方向で検討に入った。軽症者には身近な「かかりつけ医」への受診を促し、大病院や中核病院が専門性を生かした治療に集中できるよう、役割分担を進める。
 厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)で今後、検討し、2年に1度の診療報酬改定の具体的な内容に盛り込む。

 定額負担の義務化は、原則1~3割の窓口負担とは別に、初診で5000円以上、再診で2500円以上を徴収する仕組み。軽症でも大病院や中核病院を受診する人が少なくないため、定額負担を求めることで自宅近くの診療所などで受診する患者を増やし、大病院などへの患者の集中を緩和する狙いから導入された。
 救急患者ら一定の条件に当てはまる患者は対象外で、定額負担を求められない
 2016年度に「500床以上」で始まり、18年度に400床以上に拡大された。現在は420病院が対象になっている。200床以上にすれば、対象病院が250程度増える
 200床以上の病院は現在でも、初診の追加料金を徴収することができ、厚労省によると、200~399床の病院では平均2500円程度を徴収している。これを5000円以上に義務化する方針だ。
 厚労省は、症状が軽い場合は、地域の診療所を受診してもらうように理解を求める。

 厚労省の調査によると、18年度から定額負担が義務化された病院では、同年10月時点で、1年前と比べて紹介状なしの患者が4・4ポイント減少した。大病院や中核病院は患者数の減少により、専門的な技術を生かした治療に専念しやすくなる利点があるとされている。

現時点では徴収可能と言う扱いの200床以上の中規模病院においても、一定金額以上の窓口負担徴収を義務づける内容で、地方の地域基幹病院も大規模病院並みの受診抑制を図ると言うことでしょう。
この定額負担制度の効果については、地域医療機関で紹介状を書いてもらうのが二度手間だとか、実際には大して患者は減らないと言った不満の声もありますが、一定の効果はあったと言う意見が多いようです。
窓口に直接来る飛び込みの初診患者を抑制し紹介・予約と言うワンクッションを挟むことで、外来診療をある程度計画的に回せると言う効果もあり、過度の患者集中を防ぐことにある程度有効と言えそうです。

この件に関しては厚労省から出た話ですが、このところ財務省主体で患者負担引き上げを求める意見が強く、以前からの懸案となっている後期高齢者の窓口2割負担への引き上げなどが議論されているところです。
経営者の権益を代弁する日医などは例によって反対姿勢ですが、現役世帯の医療費負担が今後も一向に減る見込みがない以上、少なくとも負担能力のある高齢者にも応分の負担をいただくのが筋でしょう。
他方では厚労省の主張する診療報酬本体マイナス改定などは現場の医療従事者にとっても看過できない話ですが、産業全体で給与引き上げが議論される中で医療業界だけ例外はおかしいと言う意見もごもっともと言えます。
現実的には政策誘導的に何らかの加算なりで色をつけることで限りなくプラマイゼロの改定くらいになりそうですが、この種の新設された加算の算定に関連して先日興味深いやり取りがあったと報じられていました。

診療側と支払側、機能強化加算の患者説明を押し付け合い「保険者の仕事」「診療前の説明要件化を」、中医協(2019年10月31日医療維新)

 中医協総会(会長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)で10月30日、診療側と支払側が2018年度診療報酬改定で導入された、かかりつけ医機能を評価する点数である機能強化加算について患者への説明を押しつけ合う場面が見られた。診療側は「医療費を意識した受診行動、かかり方について説明するのは、基本は保険者の仕事だ」と主張し、もともと機能強化加算に批判的な支払側は「診療前の説明の要件化」を提案した(資料は、厚生労働省のホームページ)。

 機能強化加算(80点)は「かかりつけ医機能に係る診療報酬を届け出ている医療機関において、専門医療機関への受診の要否の判断等を含めた、初診時における診療機能を評価する」として、2018年度改定で新設された。厚労省保険局医療課の調査では2018年6月審査分で 1048の病院、1万1793の診療所が届け出て、178万3064回算定された。
 健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は、支払側の意見をまとめたとして代表して発言。診療報酬は患者が受けた医療行為に対する対価ということが基本的な考え方であるとした上で、「機能強化加算はかかりつけ医を推進するために必要であることは百歩譲って理解する」と、基本的には懐疑的な見方であることを強調。医療課調査で機能強化加算を届け出ているにもかかわらず、他の医療機関の受診状況やお薬手帳を見せていない、薬の服用状況を説明していない患者が一定程度いるとの結果から、これらを「見ていない、確認していない医療機関が一定ある。また、かかりつけ医の役割さえ説明していない医療機関が過半数存在している。体制は有しているが、機能を果たしているとは言いがたい」として批判した。こうした理由から、かかりつけ医機能を有していることを院内掲示した上で、診療前に文書を用いて患者に説明することの要件化を求めた

 日本医師会常任理事の松本吉郎氏は、機能強化加算の届出がある医療機関の患者では74.4%、届出のない医療機関の患者では66.9%が「かかりつけ医を決めている」と回答したなどの調査結果から、「かかりつけ医を持つ意義が国民に浸透してきたのではないかと感じるとともに、現場でかかりつけ医が頑張っていることが垣間見られることは喜ばしい。さらに努力をすべきだとは思うが、改定でもかかりつけ医の一層の充実が図れるような対応をすべきと考えている」として全く逆の見解を表明。体制への加算は他にも多くあるとして、「たくさんの体制加算について全て説明すれば、患者1人1人に30分、40分かかることを理解していただきたい。かかりつけ医に関する説明を実施し、同意を得た旨を診療録や文書に記載することは働き方改革という流れにも矛盾している」と指摘し、事前の周知で十分との考え方を示した。

 これに対し、幸野氏は「この機能強化加算は(他の加算と)意味が違うと思う。かかりつけ医機能を持っていて、この病院でかかりつけ医として決めるとこんなにいいことがありますよ、こんなこともしてもらえますよと説明するわけだ」と述べると、日医常任理事の城守国斗氏は「機能強化加算だけは他と異なると言うが、個別の診療報酬とは別にそれぞれの体制を整えていることにコストがかかっているので評価する体制加算がある。他の体制加算と何も変わるところはない」と反論。医療費を意識した受診行動、かかり方について保険者が周知して、それに基づきかかりつけ医機能を持つ医療機関であることを示すのが良いとして、「それ以上、医療機関に求められるというのは筋が違う」と述べた。

 このやりとりに対し、経団連社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理の宮近清文氏は、「複雑なことをたくさん並べるのではなく掲示の仕方を工夫して、普及のことも考えながら診療所がかかりつけ医機能をもっていることを示してもらえればいい」と助け船を出した。松本氏は「宮近委員の発言には、医療機関としてはほっとした」と謝意を示し、今後さらに工夫が必要とした。

こうした政策誘導的な各種加算の算定については年々ややこしい制度が新設され、特に小さな開業の先生などにおいては大変な労力になるだろうと思うのですが、経営上も加算は適宜とらないわけにはいきません。
そもそも論としては過去にも政策的誘導の失敗は数多く見られたことで、より効果的かつ簡潔な制度を目指して適宜効果の検証と制度の改定が必要ですが、まずはどこを目指すのかを明確にする必要があります。
かかりつけ医の役割にしても病院勤務医と開業医の立場の差から求める機能も違う場合もありますが、正直厚労省の描くかかりつけ医機能を十分果たしているとは言えない施設も少なくないように思えますよね。
実際に理想通りのかかりつけ医機能を満足しようとすれば大変な労力で、とても初診時80点程度の報酬では割に合わないと思うのですが、逆に言えばその程度の仕事で十分と言うことなのかも知れませんね。

ともあれ真面目にかかりつけ医機能を果たそうと頑張っている地域の開業医にとって、たった80点でどこまで仕事を押しつける気かと不満が募るのは当然で、制度の説明くらい保険者がやれとは納得出来る話です。
昨今のご時世なら胃カメラ(1140点)をやります、CTをとります(1470点)と言ったことなら相応の説明もするでしょうが、採血よりも安い点数でどれだけ丁寧な説明を期待出来るかは推して知るべしですよね。
この辺りの労働量と報酬との乖離は日本社会全般の課題としても指摘される問題ですが、つまり国としてもかかりつけ医制度の存在意義などその程度だと考えているのだと言うメッセージでもあると言えます。
支払い側は制度自体に反対していると言う点も示唆的ですが、では地域医療体制の在り方をどのように考えているのか、政策的誘導をするならするで目指す方向性くらいは明確にしていただきたいものです。

 

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