心と体

2019年2月14日 (木)

インフルエンザ蔓延する中でもマスクをしないことが顧客サービス?

ある方面では好評であったと言うのですが、多方面からは批判が殺到したと言うのがこちらのニュースです。

窓口の“マスクなし対応”むつ市に批判の声 「職員を感染の危険にさらす」「マスクしてると失礼は時代遅れ」(2019年2月6日BIGLOBEニュース)

不快な印象を与えかねない」などの理由から窓口応対の職員に対しマスクをつけないよう求めていると報じられた青森県むつ市に、ネットでは批判や疑問の声が多く寄せられている。
朝日新聞デジタルによると、“ノーマスク”での窓口応対は、「表情が見えづらく不快な印象を与えかねない」「会話が聞き取りづらくなって説明の内容が十分に伝わらない恐れがある」との理由から、マナー講師とも相談し昨年12月中旬から開始したという。一律にマスク着用を禁止しているわけではなく、アレルギーなど健康上の理由や業務上必要な場合、抵抗力の弱い小さな子どもが家庭にいる職員は例外としているとのこと。また、市民からは評価する声が寄せられていると伝えている。

報道を受けてネットでは、マスクを禁止する理由に不快感を挙げていることに疑問を呈する声や、職員の健康を気遣う声が相次いでいる。
「マスクが失礼の意味が分からない」
「マスクするもしないも個人の自由だし、別に不快な印象なんて感じたこともない」
「『マスクしてると失礼』という風潮をまず変えてかないと。時代遅れ」
インフルが流行ってるこの時期にわざわざ?
「マスクなし対応のほうが今の時期逆にやめて欲しい
体調不良の職員を休ませるなんて事は当たり前。その上で、職員・来庁者双方がマスクを着用するべき」
職員の人を感染の危険にさらす
「好評、不評関係なく、まずは人を守ることが大事
「役所の窓口はきちんと仕事をしてくれるのが第一で表情は三の次四の次レベルでは」
「市役所にこういう対応されると民間もこれと同じノーマスクにしないといけなくなる」
一方では、「マスクが失礼なのは分からなくはない」と一定の理解を示す声も寄せられている。

失礼かどうかは人それぞれの価値観も絡む問題で一概には言いにくいのですが、インフルエンザを始め感染症の蔓延する時期にこうした対応を職員に強いることに、少なからず批判が寄せられているようです。
この場合二通りの意味合いがあり、一つには不特定多数と接する職員がインフルエンザ等への感染防御を徹底することで、間接的に職員を経由しての市民への感染蔓延が防げると言う意味合いがあるでしょう。
他方で職員自身がすでに罹患していた場合、市民への暴露を防ぐと言う観点もありますが、本来的にこちらの目的であればマスクで誤魔化すのではなく、職場として休養を命じる等の対応が本筋であると言えます。
とは言え人手不足の時代に風邪でなかなか休めるものではないと言う事情もごもっともなのですが、それを職場の側からスタッフに強要するとなると問題で、こんなびっくりニュースも報じられていました。

インフルエンザでも出社を強要するブラック上司。感染拡大でひどいトラブルに…(2019年2月8日女子SPA!)

(略)
 体調管理に人一倍気を使い、ここ数年はカゼすらひいたことすらなかったという竹村晴美さん(仮名・28歳/ゲーム制作会社)ですが、昨年インフルエンザに感染。これも同僚にうつされたことが原因だったといいます。
(略)
 昨冬のある日、制作部門の20代半ばの男性社員Mさんが顔色も悪く、激しく咳き込むなど見るからに体調が悪そうでしたが、心配して声をかける同僚もいたものの、チーフは見て見ぬフリ
 実は、このとき納期が複数重なっていつも以上に忙しかったうえ、作業も予定より遅れていたため、制作チームは連日の深夜残業を余儀なくされていたそうです。
「翌朝、Mさんから病院に寄ってから出社するとの連絡があり、私が対応したのですが電話越しにも体調が悪いのが伝わってきました、本来は上司であるチーフに直接連絡するのですが、まだ会社に来てなかったので出社後に伝えると、表情はみるみるうちに険しくなりました
 その後、診察を終えたMさんから連絡が入りますが、今から出社するという内容ではなく、インフルエンザと診断されたことによる欠勤の申し出。それに対してチーフの口からは部下の体調を案じる言葉は一切出ず、「作業はどうするの?」、「このままじゃ間に合わないよ?」と納期のことばかりを気にしてばかり。しかも、作業の引き継ぎを行うためにMさんに出社を命じます
「それを聞き、社内で感染が広がる恐れがあるからMさんに自宅に帰るように伝えたほうがいいとチーフを説得しました。ですが『すぐに帰すし、ウチらも全員マスクをするから』と聞き入れてもらえませんでした
(略)
 そんな彼女の懸念は、残念ながら的中することに。そこから社内ではインフルエンザにかかる社員が続出。20人程度の小さな会社ですが、6人が感染してダウン。そのほとんどはチーフを含む制作チームのスタッフでしたが、晴美さんも感染してしまったそう。
(略)
 ちなみに納期はすべて間に合わず、営業担当でもあった社長が先方に頭を下げて事なきを得たそうですが、Mさんの一件を聞いて激怒。チーフは復帰初日、社長から「社内でインフルエンザが流行した原因の一端は君にある」とガチ説教を食らって涙目に。
 相変わらず欠勤の連絡があるとムスッとした表情を見せるそうですが、以前と違って休みが取りやすくなったとのこと。
(略)

結果的に上司の判断は大いに間違っていたと言うことになるのでしょうが、しかし程度の差はあれ同様の事態は全国どこの職場でも発生していることでしょうし、仕事の都合上休みにくい局面も幾らでもあるでしょう。
人員やスケジュールに余裕を持って仕事をしろと言われればその通りなのですが、現実的にそこまで余裕が持てない職場である場合がほとんどでしょうから、さてこうしたリスク管理を職場としてどう行うべきかでしょうね。

この種のエピソードはブラック企業の実例として定期的に取り上げられますが、当事者であるスタッフのみならず顧客にも直接間接の影響がある話で、特に接客担当が顧客にうつしてしまうことはあってはならないことです。
ちなみに医療機関の場合顧客として病弱な患者さんが相手ですから、感染症の蔓延は時として致命的な結果を招きかねないこともあり、職場管理者もよほど神経質な対応をしなければならないのは当然ですね。
この辺りは医師の過労問題とも通じるものですが、誰しもふらふらになった過労医師に命を預けたくはない以上、顧客である患者・市民の側からそれはNOであると言うことを訴え続けなければならないはずです。
昨今の医師の働き方改革の議論の場においても、一部に診療への責任のあり方を勘違いしたかのような主張が見られますが、世間の多数派が求めているのは疲れ果ててふらふらになりながら超勤2000時間をこなす医師なのかです。

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2019年2月12日 (火)

舞台裏の話よりも、今後どうするかの方が重要なのですが

「残業2000時間」のキャッチーな見出しで各方面で絶讚炎上中の医師働き方改革を巡る厚労省での議論ですが、検討会副座長の渋谷健司東大国際保健政策学教授が改めて釈明しています。

「医師は死ねと?」 炎上した残業上限2000時間案が出てきた舞台裏(2019年2月5日Buzzfeed Japan)

厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が取りまとめに向けて佳境を迎えています。
ところが、地域医療を守る病院などに対する特例として、時間外労働の上限が一般労働者の過労死ラインの2倍以上となる「1900~2000時間」とする案が提示されたことに、医師たちから批判の声が殺到しています。
(略)
ーー懇談会では、医師の過酷な労働環境をこれ以上放置してはいけないという姿勢を明確に打ち出したはずです。渋谷先生をはじめ懇談会のメンバーが4人も入っているこの働き方改革検討会で、なぜ時間外労働の上限1900~2000時間なんて案が出てくるんですか? 過労死ラインの2倍ですよ。

これは事務局案ですから、これでいいなんて全く思っていません。まず誤解してほしくないのは、あくまでも目指す目標は960時間なんです。検討会でも審議官に国としてどこを目指すのか確認する質問をしましたが、目標は960時間と明言しました。
(略)
まず、伝えたいのは、全員が2000時間働くわけではないし、そこまで働かせて良いということでもないということです。労働者の視点に立つ社会保険労務士の委員、福島通子さんも『2000時間の労働を容認するかのように報道されていますが、36協定(法定労働時間を超えて働く場合に労働側と使用者側で締結する協定)で違反とされないための上限時間』だということを強調しています。

そもそも36協定を結んでいない病院はたくさんあります。これまではどこまで働かせてもいいのか基準さえなかったんです。
これでは、医師の労働時間に歯止めが効きません。医療は特殊だからという論理で、長時間労働が当たり前だという風潮がそもそもおかしいのです。疲弊している現場の先生方に訴えたいのは、全く労務管理をしない病院はあり得ない、今までのいい加減な労務管理は通用しないということです。
36協定を結んだ上で、どうしても特別な事情があって、労使が合意した場合に、刑事上の責任は問わないという基準であって、決してここまで働かせていいと言っているわけではないんです。
(略)
ーー一番長時間働く世代は、20代、30代の若手ですね。労使の合意があった場合と言いますが、実際に働く人は組織の中で強制があった場合、嫌だと言える発言権もないでしょう。

確かに大学病院で若い医師が教授に指示されてNOと言えるかというと無理でしょうね。社労士の方も、「労働時間を短くする努力を全力で行わなければいけないのは当然だが、絵に描いた餅にならないような計画を出させてモニタリングしていくのが必要だ」と話しています。現実的な案ですし、その通りだと思います。
(略)
ーーしかし、今回の数字を出した根拠となったのは、実態調査から出てきた1920時間という数字なんですよね?

そうです。一つ重要なのは、この実態調査の時点から、医師の労働環境はかなり変化しているということです。2016年には聖路加国際病院に労基署が調査に入って、是正勧告を受けました。土曜日の外来を廃止し、今まで若手ばかり行なっていた当直を40、50代も担うなど大きく診療体制を変えざるを得なくなりました。
あの有名病院の働き方にメスが入ったことで、他にも労基署が入ったと聞いています。あの時とは労基署の考え方も、病院経営側の意識もかなり変わったはずです。 1920時間という数字は2年前の数字ですし、労基署が入る前の数字です。その時の時流と今の時流は違うので、時間外労働は減っているはずです。
(略)
今のままでは、目標の2035年度末まで17年間先延ばしにしておいて、とりあえず混乱を避け、後の人に引き継ぐという姿勢がありあり見えます。医師の働き方改革は医療の大きなターニングポイントです。現場からの声を取り入れ、もっと議論を尽くし、前向きに将来を考えてやるべきです。そうでないと大きな禍根を残します。
(略)
もう一つ言いたいのは、病院経営者の方からすれば、できるだけゆるいほうが良いという発想で、2000時間でも仕方ないじゃないかと考えていると思います。でも、そうした病院は、本当に特例に当てはまるんですかとまず問いたい。思うに多くの病院は特例にならないし、そもそも36協定をちゃんと結んでいない病院が多い。
特別な事情があって、36協定では運営できないということになれば特例に認定されるかもしれないですが、そもそも36協定も結んでいない病院でその上を認めることは難しいと思うんですよ。
2000時間など、時間外労働の上限設定を維持するために抵抗する、あるいは特例を例外規定で骨抜きにすることを考えるよりは、もっと自分たちの病院の経営をどうしていくかを考えて、前向きに働き方を変えていかなければ。そうしなければ、そもそもその病院は生き残れなくなるのではないかと思いますよ。
(略)
昔は聖職者と医者と弁護士が、プロフェッショナルであって、神へ誓いをたてる存在だとされてきました。プロフェッショナルとは、今は社会に誓う存在だと思います。時代は変わりましたし、プロだからこそ、彼らの健康を無視していいという議論にはならないと思います。

ーーその通りですね。専門性を社会のために発揮してもらうには、疲れ果ててもらっては困るし、睡眠不足でも困るし、本人がまず健康であってほしいです。

そうです。聖職だから、何時間働いてもいい、こき使ってもいいとしたら、医師の専門性を損なうことになる。日本の場合、いつでもどこにでも受診できるフリーアクセスはいいことなんですが、それが専門家としての医師の力を弱めていることに気づいてほしいのです。そして、それは国民の側に不利益として返ってきます。
患者も自分の健康や体のことを一人一人が理解しないといけないし、かかり方も考えてほしい。医師の働き方改革には、医療側だけでなく、患者側の意識改革も必要です。

一連の議論を見ていて、とかくまず現状維持ありきが大前提に聞こえるのですが、他業界で過労死レベルの労働環境がある場合、経営者がいくら「顧客に迷惑がかかるから」と言い張ろうが現状容認はあり得ない話です。
その意味では経営者側の視点ばかりで議論されていること自体おかしな話ですが、実際に長時間労働を強いられている現場労働者の声をどう取り上げるのか、本来厚生省より労働省の管轄になるべき問題です。
医師の労働時間を制限すれば地域医療が崩壊すると言いますが、患者の命が大切なのと同様医師の命も大切なのであり、患者のために医師は犠牲になるのが当然と言う前提で議論されるのはおかしなことですね。
そんな労働環境ではまともな仕事は出来ないと言うエヴィデンスが各方面から出ているにも関わらず、未だに労働時間の長さでしか評価軸がないのがおかしい話で、本来患者こそ医師長時間労働の犠牲者と言えるでしょう。

こうした点から渋谷氏らが主張するべきなのは観念論的な釈明ではなく、上限規制をどう遵守させるかと言う方法論であろうかと思うのですが、まさにこの点で何らの罰則もない努力義務になりかねない懸念があります。
先日の検討会では厚労省側から、特例医療機関において医師の健康確保措置を実施しない場合、特例の対象外とする案が出されたそうですが、当然ながら医師会などは特例解除に反対する姿勢です。
なおこの検討会の場において働き方改革について病院経営者に説明をすると「勤務医の労働者性などの話はなかなか分かっていただけないが、院長たちは応召義務になると食いついてくる」と言う話も出たそうです。
黒澤一東北大教授からは「管理者、経営層に対する教育も必要」と言う意見が出たそうですが、検討会の場でそうした層を代表している医療系諸団体幹部らの理解もどの程度あるのかが議論からも透けて見えますね。

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2019年2月 6日 (水)

働き方改革を巡る誤解に対して厚労省担当者も言及

働き方改革を巡る最近の議論について、厚労省側の担当者である迫井正深氏も「年2000時間の残業」は全くの誤解だと主張しているそうです。

「2000時間の残業を強要される」は全くの誤解だ 厚生労働省審議官の迫井正深氏に聞く(2019年2月4日日経メディカル)

――1月11日に労働時間上限に関する事務局案が提示された(関連記事:医師の時間外労働の上限規制案は「1900~2000時間」)。この案に対する不満の声も聞かれるが。
迫井 数字だけが大々的に報道され、一人歩きしてしまったことで、様々な誤解や不満を生んでしまったようだが、今回の提案で最も重要な点は、5年後の2024年には大多数の医療機関において時間外労働時間の上限を「年間960時間以内」にするということだ。
 数字だけではピンとこないかもしれないが、「時間外労働の年間上限960時間」の働き方というのは、毎日ほぼ定時に帰り、当直は週1回、月2回は週休2日を取得するペースの働き方だ。しかも、これは「上限」であり、これ以上働く医師が各医療機関に1人もいてはいけないということだ。
 一方で現状はどうなっているかというと、アルバイトを含め、時間外勤務時間が年間1900時間以上となっている医師が全国に1割ほど存在している。こうした医師が1人でもいる医療機関は大学病院の約9割、救急医療センターがある病院の約8割にも上る。ちなみに、時間外勤務時間が年間960時間を超える医師は4割を占め、3000時間以上の医師は数千人レベルで存在している。
 こうした現状をこの5年間をかけて、大多数の医療機関で「年間時間外労働時間が960時間以上の医師は一人もいないようにしていただく」という提案であり、かなりの大改革といえるはずだ。
(略)
 提案の背景には、医師10万人を対象にしたアルバイト込みの実態調査のデータで、約1割の医師が、時間外勤務時間が年間1900時間を超えていたという実態がある。
 そして、これはあくまで「経過措置」であって、一定期間後には「年間960時間以内」を目指すということに変わりはない
(略)
 今回、「例外」(暫定特例水準)が適用される医療機関で働く医師にも、上記のインターバル時間の確保と連続勤務時間規制については義務化するし、その実施状況は厳しく確認することで過労死を防ぐ仕組みを構築したい。

――「宿日直」はどのように管理するのか。
迫井 労働時間における「宿日直」という扱いは、労働基準法に基づく、いわゆる「寝当直」とも言われるような、労働時間に算入されない働き方のことで、労働基準監督署に申請して許可(宿日直許可)された場合だ。許可されれば一晩当たり数万円程度の宿直手当を払えばよいことになっている。
 一方で、宿日直許可が得られていない場合には、一晩に労働した時間、例えば15時間全てが「労働時間」となり、夜間勤務であることから「割増賃金」を支払う必要がある。
 現時点では、実態として労働密度が過密で、宿日直といえないようなケースでも「宿日直」扱いで一晩数万程度の手当てだけ支払われ、労働時間にカウントされていないケースもあることが指摘されており、是正する必要がある(関連記事:残業代が正しく支払われていない医師は26%)。
 宿日直は医療機関ごとの個別許可なので一概には言えないが、当直で患者対応が多い医療機関や、いつお産があるか分からない患者が多いような医療機関では、よほどタスクシフトしない限り、「寝当直」のような状態にはなり得ず、宿日直許可を得るのは難しいのではないか。検討会でも、そのような観点から基準を見直すよう2018年秋に提案し、その方向でまとまっている。
(略)
――働き方改革を進める上で、病院管理者に対する要望やメッセージはあるか。
迫井 大きく分けて2点ある。1つは、改めて「労務管理」の徹底を心して取り組んでいただきたい。残念ながら、きちんとした労働時間管理さえなされていない医療機関は多い。「客観的な在院時間管理方法の導入」や「在院時間の実態の把握」は、医師の労働時間短縮の土台となるものだが、実施率は約4割で、3~4割の病院が検討に着手さえしていない(1月11日の検討会資料)。また、いつも救急患者がひっきりなしにきているのに、時間外手当を払わず、宿日直手当しか払っていない例があると聞いている。宿日直基準については今回、明確化する予定で、今後はこのようなことは許されない
 もう1つはタスクシフトだ。いまだに大学病院を中心に、点滴や診断書の作成など、医師でなくてもできることを医師にやらせている例が見受けられる。厚生労働省の公表した緊急対策にもはっきり明示しているが(関連記事:医師の時短に向け直ちに実施すべき事項を明示)、長時間勤務で疲弊している医師にそのようなことを院内で押しつけるようなことはあってはならない。これについては今後も厚生労働省から注意喚起し、徹底する予定だ。
 今、2つのことを申し上げたが、これらは互いに絡み合っている。労務管理がなされていないから、残業代も払われない。残業代を払わなくても済んでいるから、仕事を効率化するインセンティブが働かず、本来医師にやらせなくても良いことをやらせる、という“悪循環”になっている。「労務管理」と「タスクシフト」、これが最大のテーマで改革の両輪だ。
(略)

正直前半部分は何がどう誤解されていると言うのかよく判らない話で、現状でも一部基幹施設などに極端な過重労働が蔓延している以上、大多数の医療機関では労働時間を短縮する見込みだと言われても有り難みのない話です。
こうした例外を是認し超過しても罰則も設けないとなると、やはり今後も末永く長時間の時間外労働も許容するとしか読めないのですが、後半部分はなかなか意味のある内容だと考えますね。

宿日直ついては時間外労働に算定するかどうかなどかねてからの課題ですが、これに関して少なくとも実労働が続く多忙な施設においては労働時間とし、宿直手当だけで済ますようなことは認めないと言うことです。
この点で一気に医師の労働時間が見かけ上増加する可能性もあると思いますが、ひとまず労働時間と認定されることで働いた分だけは支払いの義務も生じるわけで、正当な報酬が得られるようになればいいですね。

もう一つ、タスクシフトに関してもかなり突っ込んだ発言がありますが、特に大学病院等が追加支払いの必要ない医師に余計な仕事を押しつけている現実に関して、はっきり許容されない行為であると明言しています。
この点はまさに宿日直の扱いと同様、労働時間を正しく労働時間として扱うようになることで自然とコスト削減の意識が改善の動機になると思いますし、労基署などもさらに厳しく追及いただきたいものです。
いずれにせよ厚労省としてこうした認識を持っている以上、労働を所轄する省庁としてその実現努力を怠るようなことが責任を問われざるを得ませんから、今後数年間で何がどう変わるのかを拝見したいところです。

この問題に関して当の勤務医にはあまり発言機会はあまりないのも現状ですが、医師の労組的な活動を行っている全医連はたびたび独自の提言を行っており、先日は勤務医の一般外来廃止を主張していました。
過去にも病院での外来診療報酬を切り下げると言う患者誘導策がとられたこともありましたが、患者にとっては病院受診が安上がりになっただけでますます患者が病院に集中したと言う笑い話のような黒歴史があります。
応召義務の存在とフリーアクセスの保障が続く限りはどのような患者誘導策も限界があるもので、最終的にはイギリスのNHS式の受診制限導入しかないのかも知れないですが、医療系団体の反発は強そうですね。

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2019年2月 4日 (月)

開業医だって忙しい

医師の働き方改革が主に勤務医の労働環境を中心に議論される中で、先日個人事業主である開業医に関してもこんなニュースが出ていました。

4人に1人過労死ライン超 開業医の働き方調査(2019年1月28日共同通信)

 神奈川県保険医協会が県内の開業医(院長)に働き方のアンケートをした結果、4人に1人が、過労死ラインに相当する週60時間=月の時間外労働(残業)に換算すると80時間=を超えて働いていると回答したことが26日、分かった。休日は、3人に1人が「週1日以下」と答えた。

 病院勤務医に関しては「4割が週60時間以上働いている」という国の調査結果がある。診療に加え、保険請求など経営実務にも追われる開業医も長時間労働を余儀なくされる実態が浮かび上がった。

 厚生労働省は勤務医には残業規制などを検討しているが、事業主の開業医は対象外。協会は「地域医療の要となる開業医だけに早急な改善が必要だ」としている。

 調査は昨年10月、協会会員3364人を対象に郵送で実施、2割に当たる690人が回答した。

 週60時間を超えて働いていると答えた人は25・2%(174人)で、100時間超の人も8・6%(59人)いた。6割弱が夜間診療に従事し、4分の1が訪問診療に当たっている。半数以上が保険請求実務や患者情報の照会・応需(書類作成を含む)を行っている。

 労働時間について「かなり加重」「やや加重」と答えた人が計51・9%。27・1%が直近1年間に健康診断を受けていなかったという。自由意見として「まとまった休みが取れない」「代わりがいないのが一番きつい」との声も寄せられた。

6割は週60時間以下なのだから、やはり開業医とは楽な商売だと考える方もいらっしゃるでしょうが、開業する平均年齢が41歳、開業医全体の平均年齢が55歳と言いますから、高齢開業医には相応にきついでしょう。
ともかく勤務医の不足が言われる一方で開業医はすでに過剰傾向にあるとも言われ始めていて、実際ある調査では勤務医の65%が医師が足りないと回答している一方で、開業医の59%が足りていると答えたそうです。
単純に考えればひと頃の医療崩壊や逃散ブームの流れを受けて、過酷な勤務医稼業から開業に流れた医師が多いと言うことが考えられますが、開業医も決して楽を出来ているわけではないとも言えそうです。
この理由として一つには単純に競争が激化した結果より薄利多売に走らざるを得ないと言う現実もあるかと思いますが、実際今やよほどの軽装開業か親からの継承ででもなければ開業はペイしないとも言いますね。

病診連携が推進されている中では、各種検査などで多くの診療報酬を得られるような上顧客は病院に回りがちで、開業医に回ってくるのは定期的な投薬や風邪など日常診療の患者が中心になるでしょう。
一件当たりの売り上げが少なければより多くの患者を診るしかありませんが、最近ではこれに加えて地域の医師会などが主導して、開業医が持ち回りで夜間救急当番を担当する地域も増えています。
これも忙しい日中の診療に加え夜も働くとなると過酷なものですが、勤務医の先生であれば当たり前にやっている当直業務と同じことで、特記するような悪条件ではないと言う意見も根強くあります。
無論医師の感覚ではそうでしょうが、開業医の元で働いているスタッフにはまた別な感覚もあるはずで、夜間も開院するためにスタッフに手厚い報酬をとなれば下手すれば赤字にもなりかねません。

いずれにしてもトータルとしての医師数は今後もしばらくは増えていくものとされていますが、実際には長年のかかりつけだけを見ている高齢開業医などもいて、本来こうした方々はそろそろ引退も考える世代です。
厚労省データによれば医師全体の1/4は60歳以上の高齢医師ですが、当然ながら病院勤務医では同年代の比率は2割を下回る一方で、開業医では実に半数近くが同年代に属すると言うことです。
医師不足対策として勤務医から開業医への逃散ルートを縮小閉鎖させよと言う意見も根強くありますが、新規参入が引退を下回るようになれば町の開業医もあっと言うまに消えていく可能性もあると言うことですね。

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2019年1月31日 (木)

未だに蔓延する治癒証明書の呪縛

毎年この時期になると報じられる話ですが、未だに少なからずそうしたものが求められているからこそ記事にもなると言うことでしょうか。

患者も病院も負担「インフル治癒証明書」は必要か(2019年1月27日毎日新聞)

 自分や子どもがインフルエンザになった。何とか熱が下がって症状も治まった。そこで出勤、登校となりますが、その際に、会社や学校から「治癒証明書」の提出を求められてはいませんか。治ったのにまた病院に行き、発行してもらうために時間やお金がかかります。忙しい医療機関の手もさらに煩わせます。そして実は「治癒した」との証明は医師にも難しく、それを承知で「証明書」を書いてもらうことになります。厚生労働省は昨年11月から、会社や学校に対して「治癒証明書提出を求めないで」との呼びかけをホームページに掲載しています。【毎日新聞医療プレミア・高木昭午】

 治癒証明書は、インフルエンザにかかった患者が、熱や症状が治まった後に医師の診察を受けて書いてもらいます。医療機関によっては数百円から数千円の料金を求めるところもあります。
 東京都新宿区教育委員会は、区内の小中学校の児童・生徒計約1万1000人に、インフルエンザが治った後、登校する際に治癒証明書を提出するよう求めています
 インフルエンザになると子どもは学校を「出席停止」になります。学校保健安全法の施行規則は、インフルエンザの場合の出席停止期間を「発症後(翌日から数えて)5日を経過し、かつ、解熱した後(翌日から数えて)2日(幼児は3日)を経過するまで」と定めています。
 新宿区教委は「出席停止の後、治癒証明書を求めるべきだという法律上の定めはありませんが、区の医師会と協議して、『学校でインフルエンザがまん延するのを防ぐために必要な証明書』だと考えています」と話します。証明書は学校医などでもらえば保護者負担は無料。代わりに区が年間66万円を「新宿区医師会学校医会」に払っています
(略)
 これに対し、医師で厚労省結核感染症課課長補佐の繁本憲文さんは「本当は不要な証明書です。インフルエンザは熱が下がって数日で自然に他人にうつらなくなります。そのことを見込んで出席停止期間を定めています」と話します。
 さらに、証明書を求めたとしても実は、「治った」との証明は医師にも難しいのです。
 鼻やのどの粘液を採ってインフルエンザウイルスの有無を調べる検査はありますが、検査の性質として、ウイルスがいても結果が“陰性”に出ることもあります。「検査精度から『ウイルスがいない』ことは証明できないのです。そもそも治癒証明に使う検査ではありません」と、繁本さんは指摘します。
(略)
 厚労省は先月、治癒証明書提出を求めないよう呼びかける「インフルエンザQ&A」を同省サイトに掲載しました。「提出を求めることは望ましくありません」との見解を示しています。この内容は昨年9月末に、感染症の専門家が集まる同省厚生科学審議会 の感染症部会で了承されました。
 学校と幼稚園を管轄する文部科学省も、同じ考え方です。取材に対し、同省健康教育・食育課は「不要と考えています」と明快に答えてくれました。「せっかく治ったのにまた病院に行き、ノロウイルスなど、はやりの病気をもらってくる方が心配です」。
 文科省は新型インフルエンザが流行した2009年、「治癒証明書を取得させる意義はない」という通知を各都道府県に出しました
 「新型でなく季節性インフルエンザでも同じ事。その後の通知は出していませんが、自治体との会議で繰り返し『意義はない』と説明しています」(同課)
(略)

「インフル治癒証明って必要ですか」 広島県内15市町、登校に不要(2019年1月29日中国新聞)

 「インフルエンザの治癒証明書って本当に必要でしょうか」。広島県内の主婦(40)が編集局に声を寄せた。「もう一度受診すると時間やお金がかかる上、混雑する病院で別の病気をもらう心配もある」と案じる。県内の23市町の教育委員会に尋ねると、15市町が「不要」とし、各学校や医師の判断に委ねている市町もあった。

 医師が書く治癒証明書は、感染拡大を防ぐ観点で学校や企業で求めるケースがあるが、法的に必須ではない
 県内23市町で治癒証明書が「原則必要」とするのは、呉市や三原市など5市町。一部の医師や、わが子への感染を心配する保護者が証明書を必要と訴えていることなどが理由だ。
 「不要」としたのは広島市や福山市など15市町で、県内の大半を占めた。三次、廿日市両市は一律の指針を定めず、世羅町は各医療機関の判断に委ねている。
 「不要」の市町の多くは、2009年に文部科学省が出した「治癒証明書は意義がない」との事務連絡を根拠に挙げる。12年改正の学校保健安全法施行規則は、出席停止期間を「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで」と規定しており、この基準をクリアすれば医師の証明は必ずしも要らないとの考え方だ。

 ただ、市教委レベルで「不要」としつつ、校長判断で証明書を求める学校もあった。広島市内のある公立中の校長は「発症して2、3日なのに『熱は下がった』と登校する生徒がいた。流行期は受験シーズンでもあり、周りの子のためにも基本的に証明書を求めている」と明かす。
 医学的にはどうだろう。県感染症・疾病管理センター(広島市南区)の桑原正雄センター長は「法定の出席停止日数は、それ以降は他人に感染させる力がないという意味だ」と説明。「証明書をもらいに通院し、別の型に感染する恐れもある。停止期間が過ぎる前に登校させる場合を除き、治癒証明書は不要だ」と言い切る。
(略)

毎年この時期になるとどこの医療機関でもこの種の証明書なるものを求められることがあるかと思いますが、さすがに近年では記事にあるような無意味であると言う事実が知られるようになり、以前より減っているでしょうか。
ちなみに出席停止を指示されるいわゆる学校感染症については学校保健安全法第十八条に規定されていますが、インフルエンザや風疹、麻疹などごく一般的な学校感染症は第二種に規定されています。
同法第十九条ではこの扱いについて次のような記載が為されていますが、登校して良い状態についての規定は日数や症状などにより明確に示されており、特に医師の治癒証明が必要と言うルールはありません。

第十九条 令第六条第二項の出席停止の期間の基準は、前条の感染症の種類に従い、次のとおりとする。
(略)
二 第二種の感染症(結核及び髄膜炎菌性髄膜炎を除く。)にかかつた者については、次の期間。ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りでない。
イ インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)にあつては、発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日(幼児にあつては、三日)を経過するまで
ロ 百日咳 にあつては、特有の咳 が消失するまで又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで。
ハ 麻しんにあつては、解熱した後三日を経過するまで。
ニ 流行性耳下腺炎にあつては、耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹 が発現した後五日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで。
ホ 風しんにあつては、発しんが消失するまで。
ヘ 水痘にあつては、すべての発しんが痂 皮化するまで。
ト 咽頭結膜熱にあつては、主要症状が消退した後二日を経過するまで。
(略)

医学的に見れば全く不要かつ証明自体が困難であるとされるこのインフルエンザの治癒証明なるもの、年々廃止する自治体が増えているとは言え、未だに自治体や学校によっては求めて来る場合もあるようです。
学校や自治体に関しては関係省庁から強力な指導を行っていくしかないのかも知れませんが、そもそも論として何故無意味なものが続いているのかと言う点に関して、未だに一部医師の求めがあると言うことです。
こうした先生方は証明書記載による手間賃収入も気にしていらっしゃるのかとも思うのですが、EBMがどうのとうるさい現代医療において恣意的な文書記載を地域住民に強要するのもいささかどうなのかですね。

他方で保護者側から求める場合に関してはそれなりに明確な事情があるようで、ちょうどインフルエンザ流行の時期は受験シーズンに重なることから、少しでも早く出席停止を解除されたいと言う気持ちは理解出来ます。
この点で前述の学校保健安全法第十九条に「ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りでない」と記載があることが、話をややこしくしている一因ではありますね。
昨今では強力な抗ウイルス薬出現で発症直後から症状が消えるケースも多く、5日間も待っていられるかと考える保護者学童が病院に押しかけ、治癒証明を求めると言うケースも少なからずあるとも聞きます。
入試に関しては厚労省が別途配慮すべしと通達も出していますが、授業に関しても教室にスマホを一台置いておけば自宅で視聴は出来るわけで、毎年大騒ぎするならさっさと抜本的に対策してもいいようには感じますね。


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2019年1月28日 (月)

世間に蔓延する誤解に対して日医や日病が釈明に追われる

先日以来続いている医師の働き方改革を巡る議論で、年2000時間の超勤容認のニュースはかなりショッキングだったのでしょう、医療以外の各方面から疑問視する声が相次いでいる状況です。
これに対して働かせる側である医療系諸団体の方々が必死の抗弁を繰り広げており、思いがけず世間に広まってしまった「誤解」を解くのに苦労しているようです。

日医会長「全医師に暫定特例水準を強いるものではない」「これまでおざなり、医師の健康確保により重きを」(2019年1月23日医療維新)

 日本医師会会長の横倉義武氏は1月23日の定例記者会見で、厚生労働省が「医師の働き方改革に関する検討会」で提示した時間外労働上限の「地域医療確保暫定特例水準1900~2000時間」案について、「正しく伝わっていない側面があった。全ての医師に暫定特例水準で働くことを強いるものではないと確認したい 」と述べ、「2000時間働かされるのか」などの批判の打ち消しに努めた
 2000時間という数字については、「(改正労働基準法が医師に適用されるまでの)5年間で減らすべきだ。5年後には960時間を上限とするくらいの環境を整備するべきだ」と述べた(厚労省案については『時間外上限「地域医療確保暫定特例水準」1900~2000時間』などを参照)。

 医師の働き方改革に当たっては、医師の健康への配慮と地域医療の継続性の2つを両立することが重要との考えを示し、「現状はものすごく地域医療の確保に重点を置いた形で、医師の働き方はおざなりになっていた。5年間で医師の健康管理の方により重きを置いていくことが必要だ」と述べた。環境改善には個々の医療機関の努力だけでは難しく、「地域ぐるみでやらないと、一つの病院ではなかなかできない。地域の医師会の役割も大きくなってくる」と説明した。

 厚労省案の基となった2016年の調査で、時間外労働が年間1920時間超の医師が勤務医の約10%に当たる約2万人いたことについては、「調査後の取り組みにより徐々に少なくなっていると思われる」と指摘。その上で、地域医療を守る最後の砦として頑張っている2万人を最優先で守ることに焦点を当て、追加的健康確保策を取りつつ、地域医療への影響を最小限に食い止めていかなくてはならない」と話した。
 改正労基法で規定された、上限を超えた場合の罰則については、「生命の危機に瀕している急病患者の受け入れ要請や、手術が通常より長時間に及んでしまった場合など、避けることができない状況では、上限を超えても罰則が適用されない仕組みが必要だ。罰則適用で地域医療が崩壊することがないような制度設計にするべきだ」と述べ、例外を設けることを求めた

 日医に対し、「これでは勤務医の健康を守れない」、「5年間何も変わらないのではないか」、「2000時間も働かせるのか」などの声が多く寄せられていることも紹介。2009年に「医師が元気に働くための7カ条」と「勤務医の健康を守る病院7カ条」のリーフレットを作成して配布していることやワークショップの開催などで勤務環境改善に取り組んできており、「医療の安全と質を確保するために、勤務医の勤務環境改善をさらに進めるよう、改めて医療界に取り組み推進を求めていく」と強調した。
(略)

日病協議長、時間外「上限ありきでいいのか」次期議長は日精協長瀬氏、副議長は日病相澤氏(2019年1月25日医療維新)

 日本病院団体協議会議長の山本修一氏(国立大学附属病院長会議常置委員長)は1月25日の記者会見で、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」で議論されている時間外労働時間の「地域医療確保暫定特例水準1900~2000時間」について、「先に上限ありきという発想が本当にいいのか。5年後の段階で上限設定したときに、地域医療が回るのかという懸念がある」と述べ、出席者の間でおおむね同様の意見が出されたことを明らかにした。2019年度の日病協議長は日本精神科病院協会副会長の長瀬輝諠氏、副議長は日本病院会会長の相澤孝夫氏が務めることも発表した。

 山本氏は、「不確定要素が多く、宿日直や自己研鑽の扱い、病院の統合や集約化などの議論がある。それらが決まっていないなかで上限だけ決まって大丈夫なのかという懸念だ。皆さん同じだし、私自身もそう思う」と説明。上限案の数字自体については、「それ自体が多いか少ないかという話ではない。安全域を見越した時間設定がいいのではという意見だ」と評価を避けた。1月21日の「医師の働き方改革に関する検討会」でアルバイトを上限に含めるのか否かの議論が出たことについては、「多くの病院が大学病院からの派遣で当直を賄っている現状で、どうなるだろうかという懸念の声は今日の会議で上がった」と述べた。
(略)

例えば電○社長が同じことを言った場合に世間がどう反応するだろうかと考えると、こうした発言が許容される医療の世界と言うのは様々な意味で業界として未成熟で甘いのだろうなと言う印象はあるでしょうかね。
日医会長にしても5年後にどうやって時間外労働を減らすかのアイデアは一切なしですから、5年後も全く何も状況は変わらず暫定的に再延長を主張することが目に見えていると言うコメントが殺到するのも当然です。
公的な場でこうした働かせる側のロジックばかりが取り上げられ、現状肯定的な議論ばかりでは働き方改革など何も進まないのは当然ですが、では改革のネックになっているものは何かと言う点が問題でしょう。
働かせる側に改革を進める意志も能力もなく、それが応召義務やフリーアクセスの保障と言った制度的側面に起因すると言うのであれば、そこを改めない限り何も現状から変わらないと言うことですね。

ところで一連の議論に関連して、労使の関係において使われる側である医師は労働者として比較的立場が強いものであり、早い話が嫌なら辞めれば良いのだと言う意見も根強く、これはこれで正論と言えます。
他方で法的に見ると、応召義務のためむしろ労働者として立場が弱いのだと言う意見もあり、仮に応召義務が医師個人に課されたものではなくとも、当直をしていれば来た患者を診なければならない道理ですね。
医療が身近な存在ではなかった1948年制定の医師法に規定された義務など現代にふさわしくないと言う意見もありますが、被選挙民たる政治家としてはこの種の法改正に動くのは難しいのではないかとは感じます。
となると省令や通知のレベルで運用上の改善を図るべきかと言うことになりますが、いずれにせよ具体的にどういうルールであれば現場が働けるのかについては、現場の方から提言していくしかないように思いますね。

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2019年1月23日 (水)

石巻赤十字病院トリアージ訴訟、始まる

先日から話題になっているのがこちらの訴訟です。

治療優先度誤りで死亡と日赤提訴 津波被災の90代女性遺族(2019年1月21日共同通信)

 東日本大震災の津波で被災した宮城県石巻市の90代女性が搬送先の石巻赤十字病院(同市)で死亡したのは治療の優先度の判断を誤ったためとして、遺族が病院を運営する日本赤十字社に約3220万円の損害賠償を求めて提訴し、21日、仙台地裁(小川理佳裁判長)で第1回口頭弁論が開かれた。病院側は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。

 訴状によると、女性は震災前、最も程度の重い「要介護5」と認定された。震災3日後の2011年3月14日、津波で水没した自宅周辺で救助、搬送された。病院は治療の優先順位を決めるトリアージで女性を軽症と判定したが、同17日に脱水症で死亡した。

<被災搬送後死亡訴訟>石巻赤十字「対応した」 請求棄却求める(2019年1月22日河北新報)

 東日本大震災で被災した石巻市の女性=当時(95)=が同市の石巻赤十字病院で必要な介助を受けられずに死亡したとして、遺族が病院に約3220万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が21日、仙台地裁であり、病院は請求棄却を求めた。
 病院は答弁書などで「震災時は傷病者や避難者、要介護の被災者が殺到し、限られた医療資源でできる限り対応した。当時の状況を踏まえれば、女性の死亡は病院の対応に原因があるとはいえない」と反論した。
 遺族は「病院の主治医は女性が自力での飲食が困難だと震災前から把握していた。病院は女性の生命維持に必要な措置を講じる義務を負っていた」と主張している。

 訴えによると、女性は2011年3月14日、自宅周辺が津波で水没し孤立していたところを救助され、病院に搬送された。震災前、日常生活に全面的な介助が必要とされる要介護5の認定を受けたが、病院は治療の優先度を決めるトリアージで、女性を軽症患者を意味する「緑」と判定。女性は搬送から3日後の同17日に脱水症で死亡した。
 閉廷後に仙台市内で記者会見した石橋悟院長は「当時は震災前のカルテを参照する余裕がなかった。トリアージに法的根拠はなく、緊急的な対応の結果で責任を負うことになれば、災害医療が萎縮しかねない。遺族と認識にずれが生じているのは残念だ」と述べた。

この件に関しては以前にも紹介したことがありますが、要介護5の認定を受けた女性が被災し病院に搬送されたところ自力で飲食可能と判断され、点滴等の処置を受けられず放置され亡くなったと言う訴えです。
もともと女性は要介護の認定を同病院の主治医意見書に基づいて受けており、病院は自力で飲食出来ないことは判っていたはずだと言う主張で、確かに通常であればそれはその通りと言うしかない話ですよね。
問題は被災者が次から次へと搬入され、病院自体も恐らく被害も受けていただろう混乱状態の中でトリアージが為されたと言う点で、恐らくかかりつけ医や顔見知りの看護師がトリアージを行ったわけではないのでしょう。
こうした場合当然ながら搬入された時点での身体的状態だけで当座の判断をせざるを得なかったのでしょうが、その後時間経過に伴い適切な見直しが行われていたかどうかと言う点が反省点になるのでしょうか。

通常の診療であればまだしもでしょうが、未曾有の災害の最中にあって当然ながらと言うべきでしょうか、世間的には必ずしも好意的ではない意見も少なからず見られるようで、これまたもっともな反応だとも言えますね。
震災時同病院は石巻医療圏で唯一稼働していた病院だったそうで、当事者の話を聞くと震災後極めて迅速にトリアージを開始していたと言い、災害拠点病院としても極めてよくトレーニングされていた印象です。
市内14台の救急車のうち11台が流され、救急搬送自体不可能な状況でよくこれだけ対応出来たものと思いますが、当然ながら全ての患者に普段通りの医療を提供することは不可能であったはずです。
この裁判で病院の責任が認められた場合、今後の災害医療の萎縮にもつながりかねず、緊急時の対応についてどこまでの責任が問われるか司法判断の行方次第で影響は大きなものになる可能性もありますね。

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2019年1月21日 (月)

ブラックな労働環境に対する技術的な打開策

なるほどこういうものがあったかと得心し感心もしたのが、先日出ていたこちらのニュースです。

付近にブラック企業があるとプッシュ通知で教えてくれるアプリが登場(2019年01月16日キャリコネ)

周囲にブラック企業があるとプッシュ通知するアプリ「ブラックアラート」が1月13日、リリースされた。同アプリは厚労省が公表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」を元に作成されており、ブラック企業1000社以上が登録されているという。

全国のブラック企業を地図上でマッピングした「ブラック企業マップ」が昨年12月、ネット上で話題になった。このアプリは「webサイトにはできないプッシュ通知を利用して面白いアプリができるのではないか」と思い開発に至ったという。
キャリコネニュース編集部も実際にインストールをしてみた。アプリを起動させて位置情報の許可をタップすると、即座に「近くにブラック企業があります」というプッシュ通知が表示された。巨額の残業代未払いで問題になったヤマト運輸の営業所だ。
アプリ機能は至ってシンプルで、労働に関する法令違反を起こした企業がマップ上にピンで指し示されている。タップして詳細を見ると、企業名、住所、法令違反の公表日、違反法令、事案概要などが確認できる。概要は、

「労働者4名に、36協定の延長時間を超える違法な時間外労働を行わせたもの」
「労働者2名に、1か月間の時間外労働の割増賃金合計約15万円を支払われなかったもの」
「ウインチの回転する歯車部分に覆い、囲いなどを設けることなく労働者に作業を行わせたもの」

といった長時間労働、賃金未払い、安全面の問題や、「多量の発汗を伴う作業場に労働者に与える塩を備えていなかったもの」など多岐にわたる。ツイートボタンもあるので、気になる企業があったらツイッターに投稿することも可能だ。普段の散歩や外回りの際に使ってみると新しい発見があるかも知れない。

就職活動の実際を考えるとこれだけでは使いにくいと言う意見もあるでしょうが、しかしこうした情報が簡単にアクセス出来るだけでもありがたいもので、思いがけない発見もあるかも知れませんね。
医師の世界もこのところ働き方改革の議論が行われていますが、先日以来報じられている残業上限2000時間と言う厚労省の骨子案は医師自身よりむしろ一般社会の方でこそ大きな反響があったようです。
当然ながら批判的な意見が多数なのですが、人間誰しも2000時間の残業をこなしている医師に診療してもらいたくはないわけですから、顧客サービス向上の面からも対策は急がれるところですね。
医師の労働時間削減も規制強化だけではなく、実際の業務量を減らすための努力が欠かせないのは当然ですが、その点で先日日本同様の皆保険制度をとるイギリスからこんなニュースが出ていました。

利用者の半数が受診をやめたAIチャット・ドクターは医療費抑制の切り札になるか(2018年11月22日MITテクノロジーレビュー)

日本と同様に高齢化が進む英国では、医療費の抑制が課題だ。そこで現在、ロンドンでは約4万人が、医師に代わって患者を診断する人工知能(AI)チャットボットのアプリを利用している。AIが診断することで、自己治療で済む人々が病院に行かなくなり、医師の過重労働を軽減し、医療コストを削減できるという。

「胃が痛くて死にそうです!」
「それは大変ですね」と、女性の声が答える。「いくつか質問をしますが、答えていただけますか」。
診察の始まりだ。どこが痛むのか?どれほど痛いのか?痛くなったり和らいだりするのか? 少し間が空き、診断が下される。「消化不良のようですね。消化不良とは、胃もたれの医学用語です」。

医師がしゃべっているように聞こえるかもしれないが、話しているのは医師ではない。その女性の声は、バビロン・ヘルス(Babylon Health)が開発した新しい人工知能(AI)アプリによるものだ。医師の不必要な事務処理や外来診療の負担を軽減し、患者の待ち時間を短くするために作られたこうしたアプリが、普及し始めている。体調が良くないと感じたら、病院に行く代わりに、スマホを使ってAIとチャットすればいい
症状に関する助言をグーグル検索するのと同じくらい簡単に得られ、ずっと役に立つ。それがこのチャットボットの発想だ。ネットを検索して自己診断をするのと異なり、こういったアプリは病院で実際に使用されるレベルのトリアージ(治療の優先順位づけ)をする。緊急処置が必要な症状だと判断すれば、その旨を患者に伝える。安静にして消炎鎮痛剤の一つであるイブプロフェンを服用すればことたりるなら、そのように指導する。アプリはさまざまなAIの手法を取り入れて構築されている。ユーザーが普段の話し方で症状を説明できるようにするための自然言語処理能力、巨大な医療データベースから情報を取り出すエキスパート・システム、症状と体調を関連付ける機械学習だ。

ロンドンに拠点を置く「デジタルファースト」の保健医療サービス会社であるバビロン・ヘルス(Babylon Health)には、大切にしている社訓がある。地球上のあらゆる人が利用できる手頃な価格の医療サービスを提供することだ。バビロン・ヘルスの創業者アリ・パーサCEO(最高経営責任者)は、そのために一番良い方法は、医師に診てもらう必要性をなくすことだという。
診断に確信が持てない場合、アプリは常に、人間の医師によるセカンド・オピニオンを受けることを勧める。だが、アプリがユーザーと医療専門家の間を取り持つことで、健康管理の最前線が変わる。バビロン・ヘルスのアプリが自己治療の方法についての助言を与えるようになると、アプリを利用する患者の半数が、病院に行く必要がないことに気づき、病院の予約を取るのを止めたのだ。

こうしたアプリを提供しているのはバビロンだけではない。「エイダ(Ada)」、「ユアMD(Your.MD)」、「ドクターAI(Dr. AI)」などがある。だが、バビロンは英国国民健康サービス(NHS)と協働して、サービスの運営方法や支払い方法を変える可能性を示してきており、先陣を切っている。2017年、バビロンはロンドンの公立病院自主トラストと一緒に試験的な運営を開始した。症状が急を要さない場合、111に電話をかけるとNHSの助言を受けられるが、その一部をバビロンのAIが担当している。111に電話をかけると、人間のオペレーターが電話に出るまで待つか、バビロンの「NHSオンライン:111」のアプリをダウンロードするかを尋ねられる。
約4万人がすでにアプリのダウンロードを選択した。2017年1月下旬から10月初旬の間に、アプリを使用したユーザーの40%が、医師ではなく自己治療を選択した。この割合は、電話で人間のオペレーターと話した人の約3倍だ。だが、AIと人間のオペレーターが緊急治療を受けるように助言した人の割合は同じだった(21%)。

現在バビロンは、「GPアット・ハンド(GP at Hand:身近な家庭医 )」と呼ばれる英国初のデジタル医師による診療サービスを共同で開始したところだ。ロンドン市民は、地元の医師に登録するのと同じように、同サービスに登録できる。患者は、予約を入れて仕事を休んで医師に診てもらう代わりに、アプリとチャットするか、ビデオリンクでGPアット・ハンドの医師と話せる。多くの場合、診察を受けに行く必要はない。人間の医者は、最初ではなく、最後の手段になるのだ。
GPアット・ハンドは好評だ。最初の2〜3カ月間で5万人が登録し、その中にはマット・ハンコック英国保健相もいた。現在バビロンは、英国全体にサービスを展開しようとしている。このサービスはルワンダでも利用可能だ。バビロンの創業チームの一員であるモバッシャー・バット医師によれば、ルワンダでは、成人人口の20%がすでに登録しているという。カナダでも準備中で、米国や中東、中国でも同様のサービスの提供を計画している。
(略)

イギリスでは日本と異なり、病院にかかるためにはまずかかりつけである家庭医の診察を受け、確かに病院にかかる必要があると認められる必要がありますが、お金を出せば自費での受診は可能と言うシステムです。
フリーアクセスを金科玉条とする日本の医療から見ると迂遠なやり方にも見えますし、実際手術まで数ヶ月待ちと言うことも珍しくないそうですが、平等であると言う一点で国民からの評価は極めて高いようですね。
ただその結果としてゲートキーパーとなる家庭医の役割が重要であることは明らかで、特に医療とは社会が発展するほど需要が増すと言う側面がある以上、年々多忙さは増しているのだそうです。
この辺りは勤務医と家庭医の差こそあれ、自由に受診出来る限り医療現場は年々多忙にならざるを得ないと言う日英共通の課題ですが、それに対して実質的な軽減策として機能しそうなのがAIと言うことですね。

日本でも今どきスマホを持っていない人の方が珍しいくらいですし、特に若い世代であれば何かあれば取りあえず検索してみると言う習性が身についているはずですが、その結果妙な医療情報も蔓延しつつあります。
これに対して公的な権威付けのあるサイトの必要性も言われていますが、119番などに準じた公的なサービスとしてこうしたAIによる診療サポートが受けられると言うのであれば、需要は相応にありそうに思いますね。
興味深いのはAIと人間のオペレーターが緊急受診を指示した比率に差がなかったと言う点ですが、人間とAIの判断にどれだけ差異があるのかと言うことは当然ながらもっとも気になるところです。
日本でこうしたシステムを運用するとなると、またぞろ万一にも重大疾患を見落としたら云々の批判もあるのでしょうが、万一の危惧よりも日常的な過重労働の方がよほど国民の健康に悪影響を及ぼしている現実も見るべきでしょうね。

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2019年1月17日 (木)

勤務医の働き方改革の行き着くところ、開業医のあり方も問われることに

このところのいわゆる医師の働き方改革を巡る議論について、各方面から様々かつ主に批判的な意見もあるようですが、厚労省における当の議論の場でこうした声が取り上げられる機会は乏しそうです。
その理由の一つに議論に参加しているのが医師会や病院会など、働かせる側の意見に偏りすぎている点が挙げられますが、これに対して医師の労組を自称する全医連が先日こんなコメントを出していました。

病院勤務医の一般外来診療をやめるべし 全医連、「医師の働き方改革」への提言(2019年1月6日医療維新)

(略)
 厚生労働省内で医師の働き方改革が検討されていますが、大前提として「勤務医の長時間労働は仕方がない」という風潮を感じます。しかし、看過できないほどの過重労働による弊害(医療事故や過労死など)が後を絶たずに発生し続けています。
(略)
 開業医は約10万人、勤務医は約20万人います。しかし、それでも勤務医は足りません。これには、診療科の細分化や都市部への偏在などのさまざまな理由もありますが、医師の約25%が65歳以上で占められている「高齢化」という理由もあります。そして、日本の病院独特の風習ですが、外来診療があります。
 欧米では、開業医が外来診療を担い、病院勤務医は手術・検査と入院対応を主に担っています。救急医療の現場においても、欧米の場合は専任者がいますが、日本は救命センターでもない限り、一般の勤務医が対応をしています。日本の勤務医は、外来診療や病棟業務の最中に搬送された救急患者を診療し、それが終わったら、外来診療や病棟業務を続け、必要であれば、検査の指示を出し、外科医ならば手術もこなします。
 欧米と日本では医療制度そのものが異なりますが、昨今の診療報酬では、一定規模以上の病院での外来診療をやめ、病院は入院診療を、開業医が外来診療を、とすみ分けを促す診療報酬体系になっています。欧米と同様に、一般外来診療を禁止にすることで、勤務医の労働環境は良くなると考えます。
(略)
 勤務医にとってどうしても外せない業務とは、外科医にとっては手術であり、内科医であれば検査やカテーテル治療、内視鏡治療などです。入院患者の診療はもちろん外せません。二次三次救急医療も病院でなければ難しいでしょう。手術時間が延長することもあります。私たち全国医師連盟も、また全国の勤務医の皆さんも、医師として患者さんに必要な医療を提供する時間を削減してほしいわけではありません。医療者としてのプライドと使命感をもって、医療に取り組みたいと考えています。ただ、あまりにも多岐にわたる膨大な業務に追い立てられている現状であり、その効率化にも限度があり、そのために医師の仕事の役割分担をしてほしいと考えているにすぎません。
(略)
 今回の提言である「病院勤務医の外来診療を完全に廃止すること」を、「単純計算である」と議論の檀上に上げることはどうかと疑問視される方もいるかと思います。しかし、大多数の病院勤務医は専門医です。開業医と比べて総合診療は得手とは言い難いのではないでしょうか。いわゆる一般的な外来診療を各専門医が診療することも、医療資源の無駄とも言えるのではないでしょうか。専門家が専門家としての実力をいかんなく発揮できる環境を作ることは、医師だけでなく、国民全体に対して非常に有益なことです。
 自分の専門外の愁訴を訴えられることに対して、苦手意識を有している病院勤務医は私一人だけでないはずです。『ガイドライン』をはじめとした診療マニュアルを、各専門学会がいくつも発行しています。医療安全を考えれば、病院勤務医は、外来診療を自分よりも長けている開業医に託すべきではないかと、考える次第です。

開業医が勤務医よりも外来診療に長けているかどうかは異論もあるところだろうと思うのですが、不定愁訴等も含めたいわゆる一般外来診療についてまずは開業医にと言うのは国策とも合致する話ですね。
ただ逆に何故勤務医が外来まで手がけているのかと言う点について、来た患者は拒めないと言う応召義務もありますが、勝手にどんどん紹介されてくる患者は診なければならないと言う現実もあります。
また他方ではいったん受けた患者を逆紹介したがらない勤務医がいるのも現実ですが、外来枠を空ければ余計に患者が増えると言う点で、入院ベッドをどうでもいい患者で埋める心理と同じようなものかも知れません。
他方ではそもそも開業医が多すぎるのではないかと言う声も根強くあり、実際昨今では開業医自身が開業医余りを感じつつあるようですが、この点に関して先日こんなニュースが出ていました。

「外来医師多数区域」での新規開業、2020年度以降厳しく(2018年12月26日医療維新)

 厚生労働省は12月26日の「医療従事者の需給に関する検討会」の第25回医師需給分科会(座長:片峰茂・長崎大学前学長)で、外来医療(診療所医師)の偏在対策として、「外来医師多数区域」(二次医療圏単位)を設定、同区域で開業する場合には、届け出を行う際に、在宅医療、初期救急医療、公衆衛生など「地域で不足する医療機能」を担うことを合意する旨の記載欄を設ける方針を提示した。合意欄への記載がないなどの場合、行政が開催する協議の場への出席を求め、協議結果を公表する(資料は、厚労省のホームページ)。
 「外来医師多数区域」として「可視化」することで、競合が激しい地域であることが分かる。その上、在宅医療等を担うことが開業のハードルになる。厚労省は、これらを通じて「外来医師多数区域」での開業を減らし、外来医療の偏在解消を狙う。厚労省医政局地域医療計画課は、「一種の駆け込み開業は、危惧している」と述べつつ、「外来医師多数区域ではなく、それ以外での区域での開業を促す。多数区域で開業するのであれば、在宅医療などをやってもらいたいということ。開業制限ではない、という点に気を付けて議論してもらいたい」と求めた。
(略)
 診療所の新規開設は増加傾向にある。人口10万人当たりの無床診療所数には都道府県格差があるほか、同じ都道府県内でも、特別区、政令指定都市など、都市部に多い。外来医療の約7割は診療所、約3割を病院が担う。厚労省はこれらの現状を踏まえ、二次医療圏単位で設定する「外来医師偏在指標」は、診療所医師数、性・年齢階級別の外来受療率、昼間人口などを調整して計算する方法を提案。
 その結果、上位「○%」(2019年3月末までに決定)を「外来医師多数区域」に設定。都道府県がホームページなどを通じて、新規開業希望者等に情報提供する。
 「外来医師多数区域」で、新規開業する医師に対しては、冒頭に紹介したように、届け出を行う際に、地域で不足する医療機能を担うことに合意する旨の記載を求める。行政の「協議の場」は、二次医療圏単位が原則だが、市町村単位も可能で、入院医療と同様、地域医療構想調整会議を想定。作業部会(ワーキンググループ)を設けるなどして、柔軟に対応できるようにする。
(略)
 これに対し、日本医師会副会長の今村聡氏は、「病院と診療所の外来はかなり違う。多様な診療科の診療所が、多様な疾病を診ている。診療科別に細かく分析するのは難しいのではないか」と指摘。ただ、二次医療圏でも、地域によって人口規模が違う上、診療科によっても診療圏が違うことから、「外来医師多数区域」を二次医療圏として一律に考えることには疑問も残るとした。
 慶應義塾大学商学部教授の権丈善一氏は、「外来医療が5、10年後にどんな方向に行くのか。病院と診療所の関係をどのようにしていくのか、また診療所には、かかりつけ医機能を担ってもらいたいといったビジョンを明確にしておいて、指標を作ることが必要」と、将来を見通した対応の必要性を指摘。
 その他、全日本病院協会副会長の神野正博氏からは、「開業する際には、単に医師数だけでなく、何歳のドクターがいるのか、後継者がいるか、経済的な理由で廃業した数など、いろいろなデータをマーケティングする。単純に数だけを提示しても、非現実的ではないか」など、より開業判断に資するデータの必要性を指定する意見も挙がった。
(略)

 津田塾大学総合政策学部教授の森田朗氏は、「サービスを調整する方法は3つある。規制、情報提供、経済的なインセンティブ」とコメント。「日本は需給調整については、経済的なインセンティブを使ってやってきた。このツールなしに議論しても、いい解決策がでないのではないか」と診療報酬等を絡めた議論が必要との意見だ。さらに「外来医師多数区域」での開業に当たって、「協議の場」の結果を公表することは、「社会的な抑制効果、強力な制裁手段であり、一種の規制になりかねない」と指摘しつつも、「新規開業医師への情報提供だけではちょっと難しく、次の一手の布石を打っておかなければいけないのではないか」と提起。
 神野氏も「外来医師多数区域」で新規開業しても経営が成り立つ場合、医療需要が多い、あるいは診療報酬に問題があるのかのいずれかであるとし、診療報酬の観点からの検討が必要だとした。

単純な医師数比較だけではなく診療報酬の多寡など、需給バランスの観点も入れるべきだと言うのはごもっともなのですが、いずれにせよ従来のような自由な開業はいずれ規制されそうであると言うことですね。
開業医に逆紹介する勤務医の観点からすると様々な疾患を幅広く診てくれるだとか、日常診療に加え多少のトラブルには対応してくれる開業医がありがたいでしょうし、そうした開業医が増えて欲しいところです。
この点で単に定期的な投薬だけの医師よりも、各種検査や処置を行う医師の方が顧客単価は高いはずで、診療報酬の分析によって医師の診療行動を評価出来る可能性があります。

ただ従来は特に開業医の場合、顧客単価が高ければ高いほどレセプトの査定で目を付けられやすいと言う面もあって、出来ることでも敢えて診療を手控えしている先生もいただろうと考えるともったいない話です。
この辺りは審査をする保険者の側にも意識改革が求められるところですし、扱った症例数などを競い合ってきた勤務医とはまた違った開業医なりの評価のあり方についても考えておく必要があるでしょうね。
いずれにせよ今後タスクシフティングの一環としても逆紹介増加は必須であり、多忙な勤務医ほどいかに開業医や他医療機関など、地域の医療リソースをうまく使いこなすスキルが求められるようになりそうです。

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2019年1月15日 (火)

誤ったメッセージが伝わってしまったのか、真意が伝わりすぎてしまったのか

先日以来出ている医師の残業時間を年間2000時間まで認めると言った話に関して、世間的にはさすがにいささかそれはどうよ?と言う当然の反応が出ているようです。
しかし議論をしている側のエライ先生方にはまた別な考え方もあるようで、問題視する方が問題だと逆ギレする向きもあるようですから面白いものですね。

医師の残業、年2千時間 上限規制で厚労省が制度案(2019年1月10日共同通信)

 医師の働き方改革を巡り、2024年4月から勤務医に適用される時間外労働(残業)の上限を規制する厚生労働省の制度案が9日、関係者への取材で判明した。地域医療を担う特定の医療機関は、特例として勤務医一般の上限の約2倍となる「年1900~2千時間」を35年度末まで認める
 特例の上限は休日労働を含む。1カ月に換算すると約160時間で、過労死ラインとされる「平均80時間」の2倍。労働者側から強い反発が出そうだ。医師の負担軽減を議論する11日の検討会で示される見通し。

 制度案によると、勤務医一般の上限は「年960時間」。ただ、急激な労働時間の削減となり、地域医療の体制が崩壊する恐れもあるとして特定の医療機関に特例を認めた。対象は、地域ごとに必要な医療に対応できるかを基準に検討。救急や周産期を担ったり、高度のがん治療など専門技術を提供したりする医療機関を想定している。
 また、若手医師などが技能向上を図るため、別の年間上限も特例として設ける
 いずれの場合も月の上限は100時間未満とする一方、医師の面談を受けることで上限超えを可能とする。特例措置を受ける場合も、勤務と勤務の間に9時間の休息の確保や、連続勤務を28時間までとすることが義務

 厚労省の調査によると、年間の残業が1920時間を超える勤務医は約1割。


時間外上限「地域医療確保暫定特例水準」1900~2000時間(2019年1月12日医療維新)

 厚生労働省は1月11日の第16回「医師の働き方改革に関する検討会」(座長:岩村正彦・東京大学大学院法学政治学研究科教授)に、診療に従事する勤務医の時間外労働時間の具体的な数字として「年間960時間、月100時間(例外あり)」と、地域医療を適切に確保するための「地域医療確保暫定特例水準」として「年間1900~2000時間、月100時間(例外あり)」を提案した。いずれも休日労働を含む数字で2024年度から適用し、「地域医療確保暫定特例水準」は2035年度末までに解消することを目指すもので、次回以降も引き続き議論する(資料は、厚労省のホームページ)。

 厚労省はこの日の議題として、ここまでの議論に関する「とりまとめ骨子(案)」と時間外労働時間の上限を提示し、この順番に議論した。前回(2018年12月19日)の会議で骨子案のたたき台を議論し、岩村座長がそれを基に骨子案と数字の案をそれぞれ用意するよう事務方に指示(『働き方骨子案たたき台「現場の医師の声盛り込むべき」副座長が苦言』を参照)。
 骨子案には勤務医に適用する上限水準(A)、地域医療を適切に確保するための水準(B)、一定の期間集中的に技能の向上のための診療を必要とする医師を対象とする水準(C)を設けて、BとCはAよりも高い水準とする枠組みが記載された。Bが「年間1900~2000時間、月100時間(例外あり)」で、Cについては、今回は具体的な時間数は示さなかった。
(略)
 1900~2000時間の根拠は、病院の常勤勤務医の時間外勤務時間が、1920時間を超える医師が約1割いて、それが1人でもいる病院が全体の約3割、大学病院の約9割、救急機能を有する病院の約3割、救命救急センター機能を有する病院の約8割と、必ずしも一部に偏ってはいないこと、2024年度以降の上限が罰則付きで「絶対に超えてはいけない」基準となることなどを挙げた。BとCは、Aの健康確保に関する努力義務を「義務」と強くすることで、健康確保を図る。

 上限時間の議論の冒頭、岩村座長は「労働時間を減らすことだけではなく、日本の医療提供体制をどうするかと合わせて考えないと実現できない」と指摘。日本医師会副会長の今村聡氏と日本病院会副会長の岡留健一郎氏からは、「2000時間」の数字が9日に報道されたことを受けて「数字だけが出ると、『そこまで働かせるのか』という誤ったメッセージになる」(今村氏)などと、報道が先行したことへの苦言が呈された
(略)
 千葉大学医学部附属病院院長の山本修一氏は「一時的であれ、医療の質が低下することが許容されるのか。(1920時間超の)1割は医療の高度化によって生じている部分がある。この人達がいることで救える命があることも直視しないといけない」と述べた。一方、自治労総合労働局長の森本正宏氏は「2000時間は(960時間の)2人分働いていると認識する必要がある。長すぎる。短くする検討を」と事務局案に反対を表明した。
 東京女子医科大学東医療センター救急医の赤星昂己氏は、救命救急センターが数人の医師で回っているという自身の経験に照らし、「現場では勤務間インターバルは不可能だ。そうすると、集約化となる」と指摘。また、BやCの医療機関が指定されて公表された場合に、上限時間が長いことから医師に避けられてしまうのではないかという懸念も示した。

(略)


残業規制、厚労省案 医師の「献身」に依存 上限2000時間、一般労働者の2倍 (2019年1月13日毎日新聞)

 ◇「地域」盾に日医主張

 昨年6月に成立した働き方改革関連法で適用除外になっていた医師の残業規制について、厚生労働省は11日に地域医療を支える勤務医は年1900~2000時間を上限とする案を示した。一般労働者の約2倍に当たり、過労死した人の遺族や労働団体などの反発は避けられない。一方、医師不足地域では、医師の「献身」で救急など過酷な現場を支えている実態があり、規制を不安視する声も上がる。医師の働き方改革には、負担の軽減や偏在の是正が不可欠だ。

 「医師は人の命を扱うため、精神的な負荷は高い。一般労働者より残業規制は厳しくてもいいぐらいだ」。2016年に過労自殺した新潟市民病院の後期研修医の女性(当時37歳)の遺族側代理人を務める斎藤裕弁護士は、厚労省の規制方針に憤る。
(略)
 今回の厚労省案は「働き方改革」どころか、過重労働を容認しているように読める。一般勤務医の上限は他の労働者と同様に年960時間(月平均80時間)だが、地域医療の核となる医療機関に従事する医師はその約2倍。そのレールを敷いたのは、日本医師会(日医)と、日医の支援を受ける自民党だ。
 日医には勤務医も加入しているが、活動の中心は病院経営者や開業医で、使用者団体の側面が強い。勤務医の労働時間が縛られると人員確保や人件費の負担が膨らむことを意味する。
 厚労省関係者によると、自民党の厚労族議員の間では、高収入の専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の医師版導入を求める声もあったという。法改正が必要で国会対応が難しいとして見送られたが、日医は水面下で残業の上限を年2000時間と訴え続けてきた
 厚労省内でも、地域医療への影響を避けたい医療部門は日医の意向をくんで調整に動く一方、労働部門は規制の例外を作るのに難色を示した。綱引きは緊迫化し、予定していた昨年末の提案は見送られたが、最終的に「病院を閉じろというのか」と詰め寄る族議員に押し切られた形だ。
(略)
 実際、既に一部医療機関では、働き方改革に合わせた「自衛策」も広がりつつある。毎日新聞が昨年6月、大学病院など全国85の特定機能病院を調査したところ、少なくとも21病院が診療体制や患者サービスを縮小するか、縮小を検討していた。深夜帯の軽症患者の受け入れをやめたり、患者や家族への説明を平日の勤務時間帯に限定したりと、比較的影響の小さい対策にとどまるものの、ある病院幹部は「上限に達したからといって代わりの医師がいるわけではなく、病院を閉じない限りは(規制を)守れない」と強調する。
(略)
 地域や診療科間の偏在是正も課題となる。厚労省調査では、産婦人科や救急科、外科などの勤務医は半数前後が月80時間(年960時間)以上の残業をしている。特に医師不足の地域では、交代要員も少なく過労が常態化しやすい。村上正泰・山形大教授(医療政策学)は「地域医療を担う病院は『労働条件が厳しい』と敬遠され、医師確保が難しくなる悪循環に陥りかねない。重症患者向けの急性期医療は集約し、かかりつけ医との機能分担を進めて負担を減らすべきだ」と訴える。【酒井雅浩】

しかしすっかり日医は悪者になっている感がありますが、日医に限らず働かせる側のロジックだけで労働規制を行おうと言うこと自体に無理がある話で、労組的な組織のない医師と言う職業の課題であるとも言えます。
ただ一方で医師の場合は自分で職場を選べる自由も高いと言え、特に今回議論されているように年2000時間の残業を強いるような施設で働くかどうかは自らの裁量であり、自己責任であると言う意見もありますね。
実際に過労死推奨施設扱いされることになる指定医療機関が今後どうなるのかですが、しかし未だに「一時的であれ、医療の質が低下することが許容されるのか」などと言う先生もいるわけです。
昨今の医療費抑制の流れとも関連して医療にも制約があることは自明である以上、国民もさることながら医療従事者自身も意識改革が必要なところですが、むしろ後者の方が固定観念に囚われているかも知れません。

制度の面からの労働規制が困難である理由として、応召義務よりも日医が長年主張してきたアクセスの自由の方が効いている印象もありますが、この点は経営側の裁量も大きい部分です。
記事にもあるように一定の診療制限を実施すればある程度対応出来る部分でもありますが、出来高払いで常にフル操業でなければ赤字になる診療報酬設定が根本的原因だとも言えますね。
そうした制度的制約の中でスタッフを大切にするため創意工夫する施設ほどより多くのスタッフが集まり、長期的に見てより繁栄していくと言うことになれば理想的ではあるでしょう。
ただ現実的にはナショナルセンターなどを中心として、少なくとも当面は厳しい罰則で規制せざるを得ない部分も多いと思いますが、どのような罰則が実効性があるのかです。

医療のあり方が診療報酬次第で誘導されるように、経済的な面からの罰則がもっとも有効性が高いと思われますが、要するに日医が嫌いそうなペナルティを設定すればいいわけです。
地域医療計画では自治体が地域内の病床配分も決めていくことになりますが、例えば超過労働が多い施設から病床数削減していくなら自然と労働時間の平準化も進んでいくかも知れません。
過労死水準の倍という緩い労働時間規制ですら守れず超過させたり、あまつさえ実際に過労死など出してしまった施設には保険診療停止などのペナルティも考えてもいいでしょう。
この辺りは単純に罰則と言う意外に、営業停止的処分がそのまま超過労働対策にもなるわけで、スタッフの心身の健康維持が患者の健康を守ると言う観点からも意味がある話でもありますね。


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