心と体

2018年6月20日 (水)

医師の働き方改革と応召義務の微妙な関係

厚労省では医師の働き方改革についても議論を重ねていますが、先日こんなニュースが出ていました。

自民・医師の働き方改革PT「裁量労働制」の検討方針(2018年6月15日医療維新)

 自民党の厚生労働部会「医師の働き方改革に関するプロジェクトチーム」は6月14日、全国医学部長病院長会議と日本私立医科大学協会へのヒアリングを実施した。会議後、座長を務める参議院議員の羽生田俊氏は、医師への裁量労働制の導入に関して「どういう形なら可能なのかをPTとして方向性を出したい」との見解を示した(前回のヒアリングは『「医師の働き方、ベテランと若手で意識に差」』を参照)。

 羽生田氏はヒアリングの結果について、裁量労働制について「国立大学は適用しようとしているのが多い。私立は少ない」と説明。「専門業務型裁量労働制(※)」にはさまざまな制約があるとし、医師にも適用できるかについては、「今のままだと無理。プログラマーなどとは違う。医師の場合は、生きている人間(患者)が対象で、常に連続して対応しなくてはいけない。それを考えた上で裁量労働制ができるかどうか、それは今後の課題」と説明した。
 次回以降で、若手医師や他職種からの意見をヒアリングする方針。

※専門業務型裁量労働制:業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令および厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度。19業務に限り、事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定を締結することにより導入することができる。厚労省ホームページより引用。

ちょうど先日は高度プロフェッショナル制度が成立の見込みと報じられていて、幾ら残業を強いられても報酬は変わらず過労死を強いる制度だと労組等からも反発の声が根強くあるようです。
年収1075万円以上に相当する層は労働者の1%と言いますが、相対的にその中で多くを占めるはずの医師に関してはかねて高プロ制導入は難しいとされ、その理由としてやはり応召義務の存在は小さくなさそうです。
患者から求められれば診療に応じる義務が法律上課せられている以上、自分で適正な労働管理を行うことが不可能であることは自明と言え、逆に高プロ的制度導入を強いるなら応召義務撤廃も必要に思えます。
他方で昨今話題になることの多い医療現場での労基法違反の違法労働の横行と、応召義務との関連に関しては様々な解釈が成立する余地があるようで、先日こんな興味深い記事が出ていました。

医師の働き方改革は「病院管理者の働かせ方改革」、全医連シンポ(2018年6月12日医療維新)

 全国医師連盟は6月10日、「医師の働き方改革と応召義務ー勤務医の場合ー」をテーマに都内で第11回集会を開催した。登壇した4人のシンポジストは、医師の過労死防止と医療安全のために、医師の働き方改革を進めるべきであり、その責任は医療機関の管理者や行政にあると指摘。応召義務についても、撤廃するか、あるいは医師個人ではなく、医療機関の管理者の責務とすべきとの意見が出た。

 同連盟代表理事の中島恒夫氏は、「勤務医の働き方改革は、病院管理者の働かせ方改革。例えば、夜勤回数を減らすには、夜勤医師を増やすか、夜間受診を制限すればいい。診療体制というシステムを変革できるのは、病院管理者」と指摘した。長時間の時間外労働をさせる病院管理者は、その管理能力の法的責任を問うべきとし、「労使でともに進めるのではなく、病院管理者が先頭に立って、働かせ方改革を行う必要がある」と提言した。
 厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」では、病院勤務医の場合、男性医師の41%、女性医師の28%が「過労死基準」(週60時間以上の勤務)を超えていることを紹介。厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の今年2月の論点整理で、「必要な医療ニーズに対応できる医療提供体制を維持できるような上限時間とすべきではないか」としているのに対し、「逆の発想が必要ではないか」と指摘し、「できる医療提供体制に対応した医療ニーズとすべきではないか」と提言した。
 さらに働き方改革が進まない、あるいは改革を進めない理由として、中島氏は、「医師は、応召義務に応じなければならないことを挙げる病院管理者がいるものの、現状の社会状況にそぐわない」との考えを述べた。応召義務を定める医師法19条を全廃するか、「医療機関の管理者は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とし、応召義務を、個々の医師ではなく、医療機関の管理者に課す内容に改正すべきと提案した。
(略)
 田辺総合法律事務所の三谷和歌子氏は、弁護士の立場から応召義務について解説。「応召義務は、『正当な事由』があれば、診療の求めを拒絶することができる。『時間外労働の上限超過』は、法律上では不可能であり、応召義務を免除する『正当な事由』になり得るのではないか」と私見を述べた。「応召義務は神聖不可侵とされてきたが、そうではないというところから出発して考えて行かざるを得ないのではないか。医療安全、医療勤務環境改善のためにも、医師の長時間労働は是正しなければいけない。応召義務と医師の労働時間の調和を図っていけるよう、応召義務の解釈について検討していくことが必要だろう」(三谷氏)。
(略)
 弁護士の三谷氏は、「正当な事由があれば拒否ができる。どんな場合に正当な事由があるかが問題になってくる」として、(1)医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない、(2)診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない――とした厚労省の1949年9月通知を紹介。その後、1955年、同省は長野県の問い合わせに対し、「医師の不在または病気等により事実上診療が不可能な場合に限られると解される」との回答を出している。
(略)
 三谷氏は私見と断り、「救急患者の対応は病院の業務であり、病院は、勤務医に対し、36協定の上限を超える労働をさせてはならない。災害等の例外規定(労働基準法33条)の適用は難しく、時間外労働の上限を超えた医師に対して、救急患者の診療をさせることは、論理的に考えれば難しいのではないか」との見解を示した。その延長線上で考えれば、時間外労働の上限超過は、応召義務を免除する「正当な事由」に該当し、救急患者に対する診療患者に対する診療を拒否してもいいことになる。「しかし、患者を見捨てるのか、といった話にもなりかねない」とも三谷氏は指摘し、「応召義務と医師の労働時間の調和を図っていけるよう、応召義務の解釈について検討していくことが必要だろう」と提起した。

弁護士の三谷氏が最後に提示した概念が非常に興味深いのですが、その根底にあるのが応召義務規定があろうが無かろうが、労基法違反の労働を病院は医師らに強いることは出来ないと言う大前提です。
仮に医師の通常業務がすでに労基法違反の状態にまで達していた場合、さらに上限を超えて時間外救急を命じることは法律違反であり、応召義務を免除される正当な事由に該当すると言う考えです。
要するに普段から多忙な医師に関しては、時間外救急を拒否することも許容されると言うことなのですが、院内の医師全てが過剰な超過勤務を行っているわけではない場合、組織として応召義務は生じるでしょう。
当直の割当等を普段の労働時間によって決めると言うのも難しいとは思いますが、少なくとも組織管理者としてはスタッフ間の業務量の平準化を図る必要があるだろうとは言えるでしょうね。

なお医師個人ではなく組織としての義務であると言う応召義務の解釈については、すでに事実上広く採用されているものではないかと思うのですが、実臨床の現場においてそれが何を意味しているのかです。
担当医・主治医のいる患者であっても、時間外救急対応は当直医がまず診ると言うルールを導入したとしても、当直医の専門外の疾患であればやはり担当医・主治医が呼ばれてしまう可能性も高そうです。
今後新臨床研修制度の下で各診療科の横断的なスキルを身につけた先生が増えてくれば、理想的には何科であれ初期対応くらいは任せられるかも知れませんが、まだまだ10年20年と言う歳月が必要でしょう。
医師の人数の多い施設であれば、各診療科毎にグループで時間外当番を決めて対応すると言ったことも可能かも知れませんが、ベテランの先生の中には自分の患者を他人に任せるなと反対する方もおられますね。

こうして考えて見ると、院内での各スタッフ間での適正な労働の割り振りがかなり大きな課題となってくるのではないかと思うのですが、どこの職場でも同様でしょうが仕事が出来る人に仕事が集中するきらいはあります。
ただ一方で組織内での権力の無い若手スタッフにばかり仕事を押しつけると言ったことは許容されるはずもないので、特に管理職医師の方々などは積極的に当直を買って出るくらいの覚悟が必要になりそうですね。
また以前から同じ院内でも内科・外科などのメジャー診療科と、マイナー診療科での労働量格差も指摘されますが、むしろ労働量ではなく年功序列傾向の強かった医師の報酬体系を問題視すべきかも知れません。

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2018年6月18日 (月)

増える外国人無保険患者、巨額医療費は誰が負担すべきか

外国人を巡る医療費の問題が近年注目される機会が増えていますが、先日こんなニュースが出ていました。

病院悲鳴! 訪日外国人の医療費未払い続出で「経営圧迫」 一人数百万円も(2018年06月13日産経新聞)

 訪日客の増加を受け、けがや病気で病院を受診した外国人患者が医療費を支払わないケースが続出している。一人の未払い額が数百万円にのぼる例もあり、病院経営への影響を危惧する声も出始めた。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、訪日客数が増えれば混乱はさらに深まる恐れもある。(社会部 三宅陽子)

 東京医科歯科大学病院(東京都文京区)は昨年1月、国内旅行中に倒れた20代のタイ人女性の救急搬送を受けた。病名は「虚血性心不全」。手術を含めた懸命な処置を行い、命を救った。
 だが、治療にかかった約1500万円の扱いに患者も病院側も苦慮することになった。女性は旅行保険に入っておらず、費用は自己負担となることに。タイ大使館から約800万円の立て替え払いがあり、募金なども受けて一部の返済が行われたが、帰国した今も完済には至っていない。
 「女性はタイから支払いを続けてくれているが、医療費の未回収分は病院が負担するしかない。同様の事例が続けば経営は確実に圧迫される」。大川淳病院長はこう危機感を募らせる。

 外国人患者をめぐる医療費のトラブルは各地で相次いでいる。厚生労働省の調査によると、平成27年度に外国人患者を受け入れた1378病院のうち35%で医療費未払いがあった。
 近畿運輸局が行った調査(28年5~7月)でも、回答した大阪府内の147病院のうち20病院で27人分の未払いの発生があり、未払い総額は1547万円にのぼった。1人の未払いが約800万円という例もあった。
 一方、本人や家族の所持金から医療費の一部を回収できても「帰国後に送金する」とされた残金の支払いが果たされていないケースもある。未払いの一因は旅行保険に未加入であることや、医療情報の説明不足などがあるとみられるが、現場からは「出国されてしまえば打つ手がない」「適切な対応方法が定まらない」との戸惑いの声も漏れる。

 こうした中、国立国際医療研究センター(東京都新宿区)は約3年前から外国人患者の対応支援に当たる専門部署を立ち上げ、成果をあげている。力を入れてきたのは未払いの“芽”を摘むことだ。
 例えば、これまでややおざなりにされてきたパスポートによる本人確認や、旅行保険加入の有無などの情報収集を徹底。医療費の高額化が予想される場合、早期の支払いを促すなど担当者が取るべき手順も明確化させていった。現場の調整に当たるコーディネーターも置き、通訳や大使館への相談といった関係機関との連携にも力を入れている。

 ただ、こうした取り組みは医療機関ごとに温度差がある。
 政府は平成32年に訪日客数を4000万人とすることを打ち出しており、「セーフティーネットの構築を含め、国や自治体、関係機関が連携して対応策を講じていかなければ、対処しきれなくなる病院も出てくる」と同センターの大曲貴夫副院長は懸念する。
(略)

今回の記事の対象になっているのは一時的な訪日を行う旅行客の話題ですが、過去には在留無保険外国人の未収金が問題になり、先日は日本の保険医療制度を利用し高額医療費を免れる外国人も報じられています。
ただいわゆる高額医療タダ乗り問題に関しては、医療機関の側としてはおおむね自己負担分も含めきちんと支払いは受けているようで、やはり未払いが多くなるのは無保険の外国人患者のケースですよね。
以前は一部の地方公立病院などを中心に、地域外国人の間に無料で診てくれると言う評判が広まってしまっていると言ったケースもあったようで、やはり意図的に支払いを拒否している事例は困ったものだと言えます。
こうした問題は政府としても把握しているようで、先日医療費未払い外国人の再入国を拒否するなどと言った対策が報じられていました。

医療費未払いの外国人 再入国を拒否へ(2018年6月15日zakzakニュース)

 訪日した外国人が病院にかかった際に医療費を支払わないまま帰国する問題に対応するため、政府は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年度までに取り組む総合対策をまとめた。未払いの外国人の再入国を拒否することが柱。

 医療機関が保有する情報を厚労省から法務省に提供し、入国時の審査に活用。過去に一定額の未払いがある外国人は厳しく審査し、再入国を原則的に拒否する。19年度にも運用を始める方針。英国では500ポンド(約7万4000円)以上の未払いがある場合は再入国拒否の対象としている。

年々増える外国人旅行客の中から急病人も出てくるのは当然で、意図的未払いに関してはこうした対応も必要でしょうが、ただ今回のような旅行者がたまたま大病にかかった場合には再入国拒否はあまり意味がありません。
旅行者の立場からしても旅行保険等にも加入していなければ巨額の自己負担が強いられるのは当然で、また日本人が海外旅行中に同様の事例に遭遇する可能性もあり、日本だけの問題ではないとも言えますね。
意図的な未払いも含めて、外国人無保険者が社会的に問題なのであれば、入国人に税金なりの形で一定額を徴収しておいて、医療費の少なくとも保険負担分程度はこうしたプールから出すと言う方法もあるでしょう。
歴史的には明らかに支払い能力のない行き倒れ患者等への対応と言った類似の問題もあって、こちらは緊急避難的に生活保護支給を認められる場合が多かったようですが、自治体レベルでの負担は反対も多そうですね。

またこの種の問題が頻発し経営を圧迫することが増えれば、外国人無保険者の診療を実質的にお断りする施設も出てくるでしょうが、その場合最終的に誰が面倒を見るべきなのかと言う問題も出てくるでしょう。
救急患者受け入れなどと同様、地域内で最後に受け入れる施設を決めておくと言うやり方もあるでしょうが、高確率で未払いになる以上病院としてもおいそれと受け入れは出来ず、補助金なりが必要かも知れません。
外国人患者の場合言葉の問題や国毎の標準的な治療方針の違いもあって、医療行為そのものに関しても実は非常に面倒な難題が多く、単純に普段通りの対応をしていれば事足れりと言うわけにはいかないはずです。
無論大学病院などであればこうしておけばよいと言う指針なりをお持ちなのでしょうが、近ごろ日本の片田舎であっても妙に外国人受けする観光地も増えていると言いますから、地方の医療機関には課題も多そうですね。

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2018年6月13日 (水)

聖地奈良県、全国に先駆けて県内診療報酬一律カットをもくろむ

今春に財務省がまとめた社会保障改革案の中で、都道府県単位での診療報酬設定を認めるではなく推進すると明記されたことが話題になりましたが、それを受けてこんなニュースが報じられています。

県単位の診療報酬は大いに試す価値あり/社説(2018年6月8日日本経済新聞)

 健康保険が利く医療サービスの公定価格である診療報酬は原則、全国一律だ。これに対し奈良県が独自の診療報酬を自ら決めたいと政府に提案している。
 医療の値段に大きな地域差が出るのは望ましくなかろう。他方、国民健康保険の運営主体が市区町村から都道府県に移り、医療費の抑制に県当局が関わりを深めるのは当然である。その利点・欠点を探るためにも県単位の診療報酬を試す価値は大いにある
(略)
 改定率に応じ厚労省は一つひとつの医療行為に値づけする。たとえば基本項目のひとつ初診料は、一般患者が通常の診察時間にかかった場合は282点、深夜だと762点だ。1点の単価が10円なので深夜に病院に駆け込んだときの初診料は7620円になる。
 奈良県はこの単価を県の判断でたとえば9円90銭に下げ、県内の医療機関に適用するよう求めた。この場合、県全体の医療費は全国水準より1%下がる計算になる。
 診療報酬を議論する審議会、中央社会保険医療協議会を所管する厚労省は否定的だ。引き下げがほかの都道府県に広がり医療政策への同省のグリップが弱まるのを心配してのことだろうか。日本医師会も認められないという姿勢だ。

 高齢者医療確保法には、医療費抑制のため必要なときは地域の実情をふまえて合理的な範囲で、ある県について他県と違う診療報酬を厚労相が決められるという趣旨の規定がある。地方主権の観点からも、この規定を尊重すべきだ。
(略)
 これはいわば社会実験である。医療費の動きや隣接府県におよぼす影響を探るためにも、実現を後押しする責務が厚労省にある。

奈良だけ「1点9円」は実現するか 地域別診療報酬、裏で糸を引く財務省(2018年6月1日医薬経済)

(略)
 荒井正吾知事は3月28日の記者会見で、もしも医療費目標より上振れするような場合には「保険料を上げるのか、診療報酬を下げるのか。二者択一というか、折衷案かもしれない。気持ちとしては保険料を抑制する方向でやりたい」と発言した。具体的には、診療報酬単価(1点10円)を一律で引き下げることをイメージしている。
個別の診療、例えば整形外科、糖尿(病関連点数)を下げるといった器用なことは県ではできない。やはり全体を一律で下げるのかなと思っている」(荒井知事)
 地元記者から「地域別診療報酬は最終手段か」と問われると、荒井知事は「そうかもしれない。発動の条件をもう少し詰めていきたい。発動ありきではない」と返答している。こうした県の方針表明を受けて、奈良県の医療関係者の間では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。

 奈良県医師会は5月24日、臨時代議員会を開き、地域別診療報酬の導入に反対する決議を全会一致で採択した。懸念したのは「医療従事者の県外への流出」「医療機関の経営悪化による廃業」だ。結果として「県民が安心して良質な医療を受けられなくなる」と導く。
 冒頭の例でいけば、仮に奈良県が、地域別診療報酬の活用で「1点9円」に設定した場合、府県境にある高の原駅周辺では、京都府側の「1点10円」医療機関と、奈良県側の「1点9円」医療機関が近接することになる。同じ診療内容でも「奈良県側は10%オフ」という状況が生まれるわけだ。
(略)
 さて、地域別診療報酬を採用する場合、どんな手続きを経ることになるのか。その言葉の響きから、都道府県知事は、その権限で自由に診療報酬点数を変えられそうだが、幾多のハードルが課されているため、実際に適用するのは難しい建付けとなっている。
 都道府県が、保険者・医療関係者が参画する保険者協議会での議論も踏まえて国に地域別診療報酬に関する意見を提出。その意見に基づき、中央社会保険医療協議会での諮問・答申を経て、厚労省が検討することになるのだ。厚労省は4月19日の社会保障審議会医療保険部会に提出した資料で、留意点を示し、これまでの議論で「慎重に検討すべき」との意見が出ていることや、過去に「制度の適用事例はない」ことを強調した。

 厚労省が慎重姿勢を見せるのは、次のような危機感があるからだ。
「こちらは1点10円でなく9円、あちらは8円と広がれば、全国一律で診療報酬を決めている意味が失われる」(保険局元幹部)
 一方で、財務省は硬直化した診療報酬体系で個別の点数をいじるよりも、都道府県ごとに1点10円を下げるほうが効果的とばかりに、攻勢をかける。4月11日の財政制度等審議会で、地域別診療報酬について「具体的に活用可能なメニューを示すべき」と、厚労省に求めた。「地域別診療報酬の活用を検討するなど医療費適正化に向けて積極的に取り組もうとする都道府県も現れている」とも指摘。奈良県の名前は出さずに、奈良県の取り組みを紹介している。

 厚労省に先んじて財務省がイメージする地域別診療報酬の活用例としては、1点10円という単価の調整以外に「病床過剰地域での入院基本料単価の引き下げ」「調剤業務に見合わない供給増(薬剤師や薬局数の増加)が生じた場合の調剤技術料引き下げ」を例示した。
 ある奈良県医師会元幹部は、「奈良で地域別診療報酬を走らせて、全国に横展開しようと、財務省が糸を引いている」と憤る。
 そうした見方の根拠になっているのが、財務省から出向し、副知事に就任している一松旬氏の存在だ。一松氏は95年に大蔵省(現財務省)に入省し、主計局で厚生労働担当の主査を務めるなど、国の社会保障予算全体に目を光らせる立場にいた。15年7月に奈良県地域振興部長となり、16年6月から総務部長、17年7月からは副知事を務めている。

 その一松氏は17年5月、社会保障審議会医療部会に荒井知事(全国知事会)の代理として出席し、こんな発言を残している。
「診療報酬の全国一律の体系やその水準につきまして、都道府県のめざす方向と齟齬が生じるといったことが、生じないと思っておりますが、万が一生じた場合には、何らかの対応を検討せざるを得なくなると思っております」
 見え方とすれば、地方に“刺客”を送り込んでレールを敷き、中央でそれに基づいた提言を行う手法を取っていることになる。
 財務省の思惑どおり、奈良が蟻の一穴となるのか。それとも、奈良県医師会などの抵抗で話自体が潰れるのか。何やら反対の声が強まれば強まるほど、耳目を集め、全国的に議論が喚起されているようにも映る。
どちらに転んでも、財務省が利するという寸法か。

制度的に可能なことをやらせないと言うことであれば岩盤規制云々と言われても仕方がありませんが、ここで注目すべきなのは話を進める中心が医療行政を統括する厚労省ではなく、財務省であることです。
記事の末尾に何故奈良県なのかと言う裏事情も示唆されていますが、基本的に厚労省としては控えめに言っても全く乗り気ではない様子であり、今後省庁間での駆け引きも激しくなってくるかも知れません。
いずれにせよお金を出す側からすれば診療報酬を一律カットすればその分医療費が安上がりになるわけで、財政難の厳しい折にその魅力が抗いがたいものであることは言うまでもありませんが、問題はその影響です。
単純に考えれば奈良県では医療費が安上がりと言うことになれば、今後越境して他県から奈良県に通ってくる患者が増える可能性がありますが、昨今多いと言う外国人患者のケースと同様経済現象として当然のことですよね。

ただ有名な大淀病院事件などを見るまでもなく奈良県と言えば決して医療リソースの豊富な地域とは言えず、外部から患者が流入すれば単純にキャパシティーオーバーになる可能性が極めて高そうに思います。
一般に顧客が増えれば経営的には上向くはずですが、この場合診療報酬は安く切り下げられる上に、一段と過酷な労働に追い込まれるスタッフには超勤手当等も必要ですから、むしろ経営的には悪影響でしょう。
奈良県内での医療行為ではなく、奈良県居住者への医療行為に限定して割引きをすると言った方法論も考えられますが、収入は割安になる一方で業務は増えるだろうと言う点では同じ問題が発生します。
その結果奈良県内の医療機関がバタバタと連鎖倒産し地域利用は崩壊、結果的に地域内で消費される医療費が激減すると言う遠大な計画を描いているのかどうか、知事の胸中を問いただしたいところですね。

財務省としては奈良県内だけに留まらず、全国的にこうした割引き価格での営業を広めたい意向なのでしょうが、その背景に恐らくは厚労省が医療業界に配慮してか?診療報酬削減に及び腰な事情もありそうです。
厚労族や医療系団体との間で雁字搦めになっている診療報酬改定よりも、都道府県単位で勝手にコストカットをやっていただける方がよほど話が早いと言うことでしょうが、逆に診療報酬を上げると言う考えもあります。
周囲自治体より実入りが良いとなれば医療機関も進出しやすく、またスタッフに手厚い報酬も可能となれば人材招致もやりやすくなる可能性もあって、その地域内での医療リソース充実に一役買う可能性があります。
住民サービス向上に必要なコストと割り切るのであれば、特に財政的余力のある自治体が医師らの囲い込むのに有用な手段にもなり得る理屈ですが、かくして今後自治体間の格差が拡大して行くのでしょうか。

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2018年6月11日 (月)

孤独な人が増えている時代に敢えて逆行する病院の姿勢が話題に

言われてみればと言う気もするのですが、先日こんなニュースが出ていたことをご存知でしょうか。

「身元保証人」がいないと 医療機関の8%余りが入院認めず2018年6月8日NHK)

患者が入院する際、「身元保証人」などを求める医療機関が全体の3分の2を占め、このうち8%余りが、保証人がいない場合、入院を認めないとしていることが厚生労働省の研究班の調査でわかりました。厚生労働省は「身元保証人」がいないことを理由に入院を拒否するのは医師法に違反するとして、こうした対応を取らないよう通知しました。

山梨大学大学院の山縣然太朗教授が代表を務める厚生労働省の研究班は去年からことしにかけて、医療機関が入院患者を受け入れる際の対応などについて調査し、全国のおよそ1400か所から回答を得ました。
その結果、入院の際、「身元保証人」などを求めると答えた医療機関は65%を占め、ベッド数が20床以上の病院では93%に上りました。
さらに、保証人を求める医療機関のうち8%余りが、保証人がいない場合、入院を認めないと回答しました。
保証人に求める役割を複数回答で尋ねると、「入院費の支払い」が最も多く、次いで「緊急の連絡先」、このほか「医療行為の同意」や「遺体・遺品の引き取り」などを挙げる医療機関が半数以上を占めました。

厚生労働省は身元保証人がいないことだけを理由に入院を拒否するのは、正当な理由なく診療を拒んではならないと定める医師法に違反するとして、こうした対応を取らないよう全国の都道府県などに通知しました。
山縣教授は「入院を拒まれて病気が悪化するようなことは絶対にあってはならない。一方で医療機関がためらうことなく患者を受け入れられるようにする制度も求められる。少子化や家族関係の希薄化で頼れる人がいない高齢者などが増える中、早急に解決策を見いだす必要がある」と指摘しています。

介護施設は3割“入所拒否”

「身元保証人」などを求める傾向は医療機関だけでなく、介護施設でも見られます。
民間の研究機関「みずほ情報総研」は、厚生労働省の補助金を受け、去年からことしにかけて全国の特別養護老人ホームや介護老人保健施設などを調査し、2300か所余りから回答を得ました。
その結果、入所の契約を交わす際、「身元保証人」など本人以外の署名を求めていると答えた施設は96%に上り、このうちの31%は署名がなければ受け入れていないとしています。

保証人に求める役割としては「事故が起きた時などの連絡先」が最も多く、「亡くなったあとの遺体や遺品の引き取り」、「入院の際の手続き」、それに「施設利用料の支払い・滞納時の保証」などが続いています。
厚生労働省はこうした介護施設についても「身元保証人がいないことはサービスの提供を拒否する正当な理由にはならない」として、受け入れを拒むことがないよう求めています。

さすがに救急患者を身元保証人がいないから入院させないと言うこともないのでしょうが、そもそも入院拒否の施設は最初から救急車を受けるような施設ではないと言う可能性もありそうですね。
実際のところ医療費未払い問題はずっと以前から医療機関を悩ませているのですから、入院コストの回収が確実に出来るようにと言う気持ちも理解出来ますし、実際当事者に支払い能力なしと言う場合もあるでしょう。
全く身寄りもなく資産もない場合は案外生保申請などで何とかなるもので、支払い能力がある踏み倒しケースの方が面倒かとも思うのですが、こうした場合も保証人がいることが一定程度心理的ストッパーになるかもですね。

介護施設などは基本的に亡くなるまで入所するわけで、月々の支払いや亡くなった後の始末も確実にあることから一段と深刻でしょうが、ただ当然ながら善意の利用者でも身寄りも友人もいないと言うケースはあるわけです。
最近ではまさにこうした事例を対象に、組織や団体が身元を保証すると言うビジネスも成立しているそうですが、深刻な病状の説明や意志決定に当たって家族の立ち会いを求めたいと言う場合もあり得るでしょう。
こうした部分でもきちんと常識的な対応をしてくれる組織であればお金を支払ってでも利用したいでしょうが、中には単に書類に名前を書いて一定の手数料を受け取るだけと言う組織もあり得ないでもないのでしょうね。
コスト的な面を担保するだけでよいのであれば、例えば診察券にキャッシュカード機能を持たせ、診察費は全てカード払いと言うことにすればいいのでしょうが、利益率の低い医療機関にカードの手数料が負担できるかと言う問題はあります。

本来的には病院が身元保証など求めるのが間違っていると言われればその通りですが、実際に紛争化するケースが多発し病院の経営も立ちゆかないと言うことになれば、地域医療にとってより大きな損害ともなりかねません。
そうなれば次善の対応として誰かがいざと言う場合の責任を引き受けることもやむなしかなと思うのですが、利用者の立場に立って考えてもある程度公的な組織が間に立ってくれた方が安心なのは確かでしょう。
地方の自治体病院などであれば、例えば住民の入院に当たっては役所が全て責任を持ちますと言った制度にしてくれるならば、病院と患者双方にとって安心とメリットの得られる体制が出来上がる可能性がありますね。

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2018年6月 4日 (月)

医師の働き方改革、立場による意識の差が顕著に

医師の働き方改革に対してもっとも熱心に抵抗しているのが一部医師であると言う奇妙な現実がありますが、その実態がうかがい知れる興味深い記事が出ていました。

「医師の働き方、ベテランと若手で意識に差」自民・医師の働き方改革PT、四病協と全自病にヒアリング(2018年5月29日医療維新)

 自民党の厚生労働部会「医師の働き方改革に関するプロジェクトチーム」は5月29日、四病院団体協議会と全国自治体病院協議会へのヒアリングを実施した。会議後、座長を務める参議院議員の羽生田俊氏は、「意見はかなり出尽くしている」とし、「若手とベテランの医師では、考え方や意識の違いがあり、この辺りをどう考えるかが大きな問題」との認識を示した。
 さらに「病院や地域によっても異なるため、『医師の働き方』として一括りにすることができるのか」とも述べ、現状の問題は明らかになってきたものの、その解決策を見いだすのは容易ではないと示唆した。
 次回の医師の働き方改革PTでは、全国医学部長病院長会議と日本私立医科大学協会へのヒアリングを行う。さらに次回以降、若手医師の意見も聞く方針。

 5月10日の会議では、日本医師会へのヒアリングを実施している。また羽生田氏自身、直近では秋田県と新潟県を視察したという。医療者から出てくる意見として、仕事と自己研鑽との関係、宿日直の定義とその扱い、労働時間をどのように把握するかなど。「時間外の自己研鑽でも、上司から命令された場合には時間外労働に含め、自らが実施する場合には含めない、といった考え方も出ている」(羽生田氏)。
 さらに羽生田氏は、「また医師の働き方改革をめぐる議論は現在進行中であるため、労働基準監督署の立入調査は、『少し考えてもらいたい』というのが、(厚労省)医政局の立場。一方、労働基準監督署は、医療機関に集中的に調査しているわけではないが、情報が入ってくると労基署は法律に則って、行かざるを得ない状況」と現状を分析した。

 四病協は、加藤勝信厚労相に4月18日に提出した「医師の働き方改革」についての要望を説明、「医師の働き方については、医師の労働の特殊性を明確にした上で、現行の労働法制とは異なる医師労働法制を制定する」ことなどを求めた(『「独自の医師労働法制」を要望、四病協』を参照)。
 全自病は、2017年7月から8月にかけて会員病院を対象に実施したアンケートを基に、医師の働き方の実態を紹介(『上限規制で「手術、年4000件を半減する必要」の病院も』を参照)。「医師に対する時間外労働の上限規制の適用が、地域医療の崩壊を招くことにならないよう、慎重な検討が必要」と要望。労基署に対しては、さまざまな諸課題が検討会で議論されているところであるため、謙抑的に対応するよう要請した。

「若手とベテランの医師では、考え方や意識の違いがあ」ると言いますが、この場合若手とベテランで違いがあると言うよりも、働かされる側と働かせる側では違いがあると言うべきではないかと言う気もします。
無論新臨床研修制度導入以降はかつてのような医局中心の人事ではなく、医師個人が自ら条件の良い就職先を探すと言う当たり前のやり方が主体となっているため、組織への帰属意識等は変化があるでしょう。
労働者としても世間並みの常識的な考え方がようやく滲透してきたと考えると、今どきの若手医師の考え方はどこの企業の従業員にもごく当たり前に見られる労働者としての当然の認識に近づいていそうです。
そして他人に使われる末端労働者の意識と、他人を使う管理職側の意識が異なると言うことはどこの企業でも当たり前にある話で、「どう考えるか」も何も働き方改革の目的をどこに置くかと言うだけの話でしょう。

今年2月の社保新医療部会で病院会や医師会など各医療団体からは「長時間労働でも、生きがいを持って仕事をしている医師たちは山ほどおり、そうした医師のことが考えられていない」等々のコメントが出ています。
これら業界団体の論法がまさに労基法違反で是正勧告を受けた某企業社長のコメントとあまりにも相似形で驚くほどなのですが、結局のところ何を目的とした議論かと言う認識に根本的相違がありそうに感じます。
働き方改革にももちろん二つの側面はありますが、少なくともその一面を占めているのは労基法違反の過酷な労働を強いられている労働者の権利保護で、極言すれば法律くらいは守ろうよと言うことですよね。
医療に限らず全国的に人手不足の深刻な時代だけに、そろそろ労働者を過剰酷使する以外の別なやり方も登場しそうな気配ですが、医療の世界だけはいつまでも昔ながらのやり方で続けるつもりでしょうか。

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2018年5月30日 (水)

医師不足解消後から偏在対策が新たな国策に

先日は厚労省が医学部定員削減を言い始めたと言うニュースがありましたが、基本的にその方向で決まった気配です。

厚労省検討会が医学部定員削減の方向性を了承(2018年5月23日日経メディカル)

 厚生労働省は5月21日、医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会に第3次中間取りまとめ(案)を提示し、大筋で了承を得た。
 2020年度と2021年度の医学部定員は、2019年度の医学部定員を超えない範囲に設定。2022年度以降については将来的に医師供給が過剰になることを鑑み、医師の働き方改革の議論や医師偏在対策の効果を見ながら医学部定員を「減員」する方向性を示したもので、医療従事者の需給に関する検討会との合同会議で了承が得られれば、正式に取りまとめられることになる。

 検討のベースとなったのは、4月12日の分科会で示された労働時間別の医師需給推計(関連記事)。この推計では、医師の労働時間を週60時間以内に制限し、医学部定員が2018年度の9419人のまま推移したとすると、2028年ころには約35万人で医師需給が均衡し、2040年には医師供給が3.5万人過剰になるとしている。2022年度の医学部入学者が初期臨床研修を終えるのは2030年度以降となる。また、いずれのパターンでも長期的には供給過剰になることが予測されたことから、今回の取りまとめ案では、減員する方向で検討を進める方針を打ち出した。
 ただし、2008年以降に実施された医学部の臨時定員増の多くは、地域医療を担う医師を養成するための「地域枠」だ。全国的に臨時定員を削減するとしても、地域間での医師偏在が解消していない地域では地域枠のニーズが残る。そのため今回の取りまとめ案には、「地域医療の実情に応じた医師偏在対策などの側面を踏まえた配慮が必要」と記した。
 また、2022年度以降の医師養成数の議論については、全国レベルのマクロの医師需給推計だけではなく、「将来の都道府県毎の医師需給、診療科ごとの医師の必要数、長時間労働を行う医師の人数・割合の変化等についても適切に勘案した上で、定期的に検討をしていく必要がある」と記した。

 同日の分科会では、2022年度以降の医学部定員の検討に際し、医師偏在対策の議論をより深める必要があるとの指摘もあった。日本医師会副会長の今村聡氏は医師の働き方改革、医師需給、医学教育などに関し、厚労省の各検討会で議論するだけでなく、「厚労省が全体を見渡しながら議論を深められるようにしてほしい」と要望した。また、産業医科大学医学部教授の松田晋哉氏は「(当事者である)若手医師や医学生がどのように考えているのかが重要」とコメント。若手医師を対象とした意識調査の実施を要望した。

医学部定員、「2022年度以降、減員に向けた議論が必要」(2018年5月21日医療維新)

(略)
 医師需給分科会は、医学部の臨時定員増の期限を迎える2020年度と2021年度分については、早急に結論を出すことが求められていた(『2020年度以降の医学部定員、5月にも結論』、『医学部定員、2020、21年度分「速やかに示して」』を参照)。
 医学部定員の問題は、2019月3月末までに結論を出すことが求められている「医師の働き方改革」や、今国会に法案提出された医療法改正法案に盛り込まれた医師偏在対策と密接に関係する。第3次中間取りまとめ(案)では、「マクロの医師需給が均衡することは、必ずしも地域や診療科といったミクロの領域でも需給が均衡することは意味しない」とし、2022年度以降の医学部定員については、「働き方改革や労働実態、医師偏在対策や医師偏在の状況等を勘案し、定期的に医師需給推計を行った上で、将来的な医学部定員の減員に向けて、医師養成数の方針等について見直していくべきである」としている。

 構成員から主に出たのは、2022年度以降の医学部定員の検討に当たって、医師偏在対策等についての議論を深める必要性だ。今後の議論の進め方についても、幾つかの注文が付いた。
(略)
 日本医師会副会長の今村聡氏は、医師の働き方改革、医師需給、医師養成などについて、厚労省内で複数の検討会があることから、バラバラに議論していくのではなく、厚労省が全体を見渡してコントロールし、有意義な議論とするように要望した。
 産業医科大学医学部教授の松田晋哉氏は、「これからの議論では、当事者がどう考えているかが重要なポイントになる」と指摘し、若手医師への意識調査の実施を要望。さらにフランスでは医師に定年制があり、団塊世代がリタイアした後、医師が減り、医師養成数増になったことから、60、70代の医師への意識調査も併せて要望した。
(略)
 権丈氏は、「医師偏在問題を何とかしなければ、どうしようもない。ようやくスタート地点に立っているというのが、今の状況」とも指摘した。医師偏在対策についての意見は、地域ごとの医師偏在の度合いを示す医師偏在指標など、今後の議論のたたき台になる資料と、医師の診療科偏在に関するものが多かった。

 医療法改正法案では、医師偏在指標を基に、都道府県が「医師少数区域」等を設定して、対策を講じることになっている。聖路加国際病院副院長の山内英子氏は、「この指標が非常に重要」と指摘し、その検討の進め方について質問。
 厚労省医政局地域医療計画課の佐々木健氏は、「医師偏在指標は、法案が成立したら、本分科会で議論していく予定になっている」と説明。医師偏在指標は、人口10万人当たりの医師数ではなく、患者の流出入など、地域の実情を踏まえたものになるとした。
 全日本病院協会副会長の神野正博氏は、「医師の診療科偏在も当然あり、新専門医制度の医師偏在対策にも絡んでくる。診療科偏在も、医師偏在指標に入るという理解でいいか」と質問。厚労省医政局医事課は、「そうした方向で議論していきたい」と回答した。
(略)
 医師の診療科偏在対策について、聖路加国際大学学長の福井次矢氏は、「医師需給は、現在の診療パターンの継続を前提としているが、国全体としてジェネラリストとスペシャリストはどのくらいの割合が妥当であり、それを目指して国がどう取り組んでいくかによって変わってくる」と述べた。「今のように、専門性を自由に選択できる状況は、国全体としての効率的な医療の提供という視点がない。個々の選択に今後も任せるのか否かによって、医師の需給や専門性の分布が変わってくる。国全体として望ましい専門性の分布を考え、そこを目指して調整していくことも必要ではないか」。
 神野氏は、「今のままで(臓器別の)専門医志向は強いので、専門の選択が自由のままであれば、まだまだ医師数は足りない。強い診療科別の偏在対策を視野に入れないと、将来的な医師不足対策にはならない」と指摘した。

国の公式見解として医師不足は終焉し、今後仮に不足を感じることがあったとしてもそれは偏在であると認定したと言う形ですが、末端臨床現場の皆様方にはまた別な考え方もあるのではないかと思います。
偏在していると言うなら過剰な領域・地域もあるはずですが、勤務医が過剰で職を失い食えなくなっていると言う話は未だあまり聞かないことを考えると、やはり開業方面で過剰が生じていると言うことでしょうか。
ただ以前と比べると特に非常勤医や俗に言うフリーター医師などを中心にして、契約を打ち切られただとか更新されなかったと言う話は聞くようになってきた印象で、充足してきた領域は相応にあるのでしょうね。
ただ社会問題化しているのは偏在の結果不足している急性期や救急診療と言った領域なので、これら領域の人不足感が解消されないのに何を言っているんだとは正直な感覚としてあるかも知れません。

日医ならずともいわゆる医師強制配置に関しては根強い反発があり、偏在解消に何らかの強制的な対応を取ることは今のところ考えられていないようですが、そうなるとどう偏在を解消していくのかが問題です。
この場合不足している領域にインセンティブを付けると言う方法と、過剰な領域で何かしらペナルティなりを設けると言う方法がありますが、専門医取得・維持の制限や地域内の開業規制などは当然考えられる話です。
仮に過剰な診療科については診療報酬を削減し廃業に追い込むと言った強硬な対策が講じられるのかどうかですが、そのためには議論の前提として誰もが納得出来る客観的なデータが必要になってくるはずですよね。
厚労省は医師の卒業からその後のキャリアを一貫して把握するデータベースを構築中ですが、将来こうしたデータを元に診療報酬等で誘導が行われるとすれば、固定客の少ない新規参入者ほど厳しくなるはずです。

医師過剰地域で議論される新規開業規制などもそうですが、結果的に先に開業した者が一方的に有利となりかねず、先輩開業医が廃業しない限り新規参入出来ないと言うことになると妙な話ですよね。
住民的にも地域の医療リソースが何十年も変わらず同じ顔ぶればかりで固定されるのもどうかですが、その種の弊害を避けようとすれば偏在対策の一環として既存の医師を排除する仕組みも求められることになります。
その場合何の指標を用いて選別を行うのかで、理屈の上では優秀な医師が残りそうでない医師が淘汰されるのが理想とは言え、実際優秀かどうかを何の指標を用いて客観的に評価すべきかと言う議論はありますね。
しばしば言われることに藪○者ほど無駄な検査や治療を行うために、診療報酬が高くなり経営的に安定してやっていけると言う逆説もあり、NHS式の定額報酬制度の導入などもたびたび議論に上るところです。

ちなみに先に述べた厚労省のデータベースは将来的には都道府県にも提供される方針だそうですが、地域医療構想に基づいて地域内の医療供給体制を決める主体は今後自治体になってくるようですね。
この点で(形ばかりとは言え)地域内に拘束される地域枠の意味が大きいのは当然ですが、現実的に医師免許が全国共通の単一資格になっている以上、都道府県単位での医師管理は難しいところでしょう。
さすがに都道府県限定とは言わずとも、将来的に例えば道州単位での医師免許なりはあり得るものなのかどうかですが、全国を飛び回って広範囲に活躍する優秀な先生ほど仕事に支障を来しそうです。
高度な技術を持つ専門医に限って越境就労を認めると言った話になれば現状名ばかりの専門医資格にも箔が付くと言うものですが、ともかくもどういう手段で偏在を解消するつもりなのかに注視していきたいですね。

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2018年5月28日 (月)

外国人の健康保険不正利用疑惑が話題に

以前から断続的に報じられている件ですが、改善が見られないどころかますます広く横行しつつあると言うのがこちらのニュースです。

海を渡って日本に治療を受けに来る 「タダ乗り患者」が増殖中(2018年5月20日現代ビジネス)

 「週刊現代」が外国人による国民皆保険の「不当利用問題」について、キャンペーンを行っている。第一回目は、入国制度の盲点を突き、日本の健康保険に加入し、高額治療を安く受ける外国人の実態に迫っている。
(略)
 いま日本の医療保険制度を揺るがしかねない事態が起きている。ビザを使ってやってきた外国人が日本の公的保険制度を使い、日本人と同じ「3割負担」で高額治療を受けるケースが続出している、というのだ。
(略)
 日本の医療費は危機的状況にある。その要因が高齢者医療費の高騰であることは論を俟たないが、冒頭のように日本で暮らしているわけでもない外国人によって崩壊寸前の医療費が「タダ乗り」されているとなると、見過ごすわけにはいかない。
 法務省によれば、日本の在留外国人の総数は247万人('17年6月時点)。
 東京23区内でもっとも外国人が多い新宿区を例にとれば、国民健康保険の加入者数は10万3782人で、そのうち外国人は2万5326人('15年度)。多い地域では、国保を利用している4人に1人が外国人、というわけだ。もちろん、まっとうな利用ならなにも咎めることはない。だが、実態をつぶさに見ていくと、問題が浮かび上がってくる。

 そもそも医療目的(医療滞在ビザ)で日本を訪れた外国人は、国保に入ることができない
(略)
 なぜ彼らは国保に入ることができるのか。
 一つは「留学ビザ」を利用して入国する方法だ。
 日本では3ヵ月以上の在留資格を持つ外国人は、国保に加入する義務がある(かつては1年間の在留が条件だったが、'12年に3ヵ月に短縮された)。つまり医療目的ではなく、留学目的で来日すれば合法的に医療保険が使えるのである。
 多くの在留外国人が治療に訪れる国立国際医療研究センター病院の堀成美氏が語る。
 「うちの病院で調査をしたところ、明らかに観光で日本に来ているはずなのに保険証を持っているなど、不整合なケースが少なくとも年間140件ほどありました。
 国保の場合、住民登録をして保険料を支払えば、国籍は関係なく、だれでも健康保険証をもらえます。そうすると保険証をもらったその日から保険が使えるわけです。
 来日してすぐの留学生が保険証を持って病院を訪れ、しかも高額な医療を受けるケースがありますが、普通に考えれば、深刻な病気を抱えている人は留学してきません
 来日してすぐに、もともと患っていた病気の高額な治療を求めて受診するケースでは、治療目的なのかと考える事例もあります」

 さきほど「医療ツーリズム」の話に触れたが、日本の病院を訪れる中国人の間で、とりわけ需要が高いのがC型肝炎の治療である。特効薬のハーボニーは465万円(3ヵ月の投与)かかるが、国保に加入し、医療費助成制度を活用すれば月額2万円が上限となる。
 肺がんなどの治療に使われる高額抗がん剤のオプジーボは、点滴静脈注射100mgで28万円。患者の状態にもよるが、1年間でおよそ1300万円の医療費がかかる計算になる。
 仮に100人が国保を利用し、オプジーボを使えば1300万円×100人=13億円の医療費が使われることになる。ところが、国保に入っていさえすれば高額療養費制度が使えるので、実質負担は月5万円程度(年間60万円)。たとえ70歳や80歳の「ニセ留学生」でも保険証さえあれば、日本人と同じ値段で医療サービスを受けられるのだ。
(略)
 また、留学ビザのほかに「経営・管理ビザ」で入国する方法もある。これは日本で事業を行う際に発行されるビザで、3ヵ月以上在留すれば国保に入ることができる。
 この経営・管理ビザを取得するには、資本金500万円以上の会社を設立しなければならない。ただし、この500万円を一時的に借りて「見せガネ」として用意すれば、ビザ申請のためのペーパーカンパニーを立ち上げてくれるブローカーが存在する。さらにそういったブローカーとグルになって手引きする日本の行政書士もいるという。
 日本の医療の信頼性を求めて、自由診療をいとわない中国人の富裕層が、こぞって日本に押し寄せていることは前述した。しかし、じつはそんな富裕層のなかにも、治療費を安く抑えようと、日本の保険証を取得する中国人は少なくないという。
(略)
 残念ながら、こうしたタダ乗りも日本では「合法」なのだ。

 留学ビザや経営・管理ビザだけでなく、外国人が日本の公的医療保険を簡単に利用できる方法がある。本国にいる親族を「扶養」にすればいいのだ。
(略)
 たとえば子供が日本企業で働いていた場合、本国の両親や祖父母を扶養とすると、この両親や祖父母は日本の保険証がもらえる。日本に住んでもいないのに健康保険証を所有することができるのだ。
 もし親族ががんになったとすれば、「特定活動ビザ」などを利用し、日本に呼び寄せ、日本の病院で高額な手術や抗がん剤治療を受けさせる。もちろん保険が利くので自己負担は1~3割で、高額療養費制度も使える。治療が終わればとっとと帰国しても、問題はない。
 さらに本国に戻ってから治療を継続した場合、かかった医療費を日本の国民健康保険が一部負担してくれる「海外療養費支給制度」まである。
 ほかにも日本の国保や社保に加入していれば、子供が生まれた際、役所に申請すれば「出生育児一時金」として42万円が受け取れる。これは海外で出産した場合も問題ない
(略)
 身分や活動目的を偽って国保を利用しようとする外国人について厚労省は、「入国後1年以内の外国人が国民健康保険を使って高額な医療を受けようとした場合、『偽装滞在』の疑いがあれば入国管理局に報告するよう各自治体、医療機関に通達を出した」というが、そんな悠長なことを言っている時間はない。
 外国人用の保険を作るなど、もう一度制度を見直さないと、日本の医療制度が先に崩壊するだろう。

この外国人の医療保険タダ乗り問題についてはすでにかなり以前から報じられているところですが、記事にもあるように高額な医薬品が増えてきていると言う背景事情もその一因であろうと思います。
こうした制度の悪用?事例は外国人絡みに限らず何にでもあり得ることですが、やはり最初からそれを目的に偽装留学などを行うと言うのはやり過ぎであり、何らかの規制が求められるのではないかとも思います。
ただ日本人が海外に出かけた際もまず現地での医療事情が気になるのは当然であり、海外滞在のガイド本などにも医療保険等の制度説明は掲載されているのですから、言ってみればおあいこですよね。
例えば外国人労働者の扶養家族が保険にタダ乗りしていると言う点については、そもそも論としてこれはありなのか無しなのかと言う話で、これを問題視するなら日本人親族も同様にタダ乗りを批判されかねません。

他方で医療機関としてはむしろ無保険外国人の医療費未払いの方が大きな問題になっていた経緯があり、原則的に外国人も含め全ての患者は保険に入ってくれていた方がありがたいと言う立場になるでしょう。
民間保険会社も外国人向け商品を拡充してきており、国保加入義務が生じる期間が1年から3ヶ月に短縮されたのもこの観点からは評価すべきだとも言えますが、医療財政に負担が増しているのも事実です。
記事も新宿区の外国人国保加入者増加を取り上げていますが、興味深い話として荒川区では人口比で中国人はわずか3%なのに、出産一時金支給の1/4、海外出産では実に2/3が中国人向けだったそうです。
出産証明書なるものの書式は無論国毎に異なっているわけで、早い話が海外で産みましたと書いた紙切れでも一時金が支給されてしまうと言うことですから、悪用する気になれば幾らでも出来るとは言えますね。

仮に保険料未払いでも1年間は3割負担で受診出来ることを利用して、加入だけして保険料は支払わない外国人も少なからずだとも言い、しかも帰国してしまえば実質後日の請求は無理になってしまいます。
記事にも出ているC型肝炎の高額な抗ウイルス薬治療などは通常短期間で済むものですから、まさに医療保険制度タダ乗り目的での来日に極めて適していますし、高価な抗癌剤も利益が大きいでしょう。
実際のところこうした外国人によりどの程度医療財政に影響があるのか数字的なものは見当たらなかったのですが、国としても事態を問題視し加入や給付における審査・確認を厳重にする方針だと言います。
医療現場には期限切れの保険証による不正給付問題などもあり、保険受給資格に関するチェックはいずれにせよ厳格化、迅速化する必要があるもので、制度的な対応も急ぎ講じていただきたいですね。

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2018年5月23日 (水)

真面目に働く者ほど損をすると言う哀しい現実

飲食業界での人手不足は深刻なものがあるようですが、幾ら何でもそれはいささかどうよ?と話題になっていたのがこちらのニュースです。

「長時間労働で交通事故」元アルバイトがすき家提訴 鳥取地裁(2018年5月18日産経新聞)

 人手不足の店舗を手伝うよう指示され、3店舗掛け持ちの長時間労働に伴う睡眠不足で交通事故を起こし精神的苦痛を受けたとして、鳥取県湯梨浜町の元アルバイトの男性と家族が18日までに、中国・四国地方で牛丼チェーンを運営する「中四国すき家」に、慰謝料など計約1240万円の支払いを求め、鳥取地裁に提訴した。4月19日付。

 訴状によると、同県倉吉市の店舗に勤務していた男性は人手が足りない店舗を手伝うよう指示され、平成27年4月19日夜から20日朝にかけ岡山県津山市の店舗で約12時間半勤務。そのまま片道1時間以上かかる鳥取県境港市の店舗に直接、車で向かう途中、居眠り運転で追突事故を起こした
 原告側は「事故前の3日間、労働時間外に十分な休息や睡眠時間が確保できなかった。会社は安全配慮義務を怠った」と主張している。

 すき家を展開するゼンショーホールディングスは「提訴案件のため、コメントは差し控える」としている。

ご存じない方のために申し上げれば岡山県津山市と鳥取県境港市は100km以上離れた遠隔地にありますが、しかしアルバイト店員をこんな遠距離店舗間で使い回すと言うことをやるものなのですね。
すき家と言えばかねて何かと労使問題で話題が多いとは言え、さすがにこれはやり過ぎな労働環境だろうとは思うのですが、そもそも何故アルバイトがこんな無茶な勤務体系を強いられていたのかと言うことですよね。
すき家では人手不足を補うため、早朝や深夜を中心に他の店舗に出張する「ヘルプ勤務」を頻繁に命じられるのだそうですが、原告氏は長距離移動を伴うヘルプ勤務を3日間で5回強いられ事故に至ったそうです。
この超売り手市場の中で何故そんな現場で働いていたのかと言う疑問もあるのですが、このところ連続時給引き上げで同業他社と比べトップクラスに時給は高いそうで、その辺りも理由の一つであったのでしょうか。
法外に厳しい労働環境はどうなのかですが、せめて厳しいのに見合った報酬は求められるだろうと言うことなのですが、こちら厳しい状況で頑張った結果給料がカットされたという笑い話のような実話が報じられています。

除雪がんばったら給料カット!? 福井市職員 猛反発(2018年5月21日FNN)

今年2月の記録的な大雪による除雪費膨張の影響で、財政が危機的な状況に陥ったとして、福井市が職員の給与を削減する方針を決めたことに対し、市の職員組合は18日、反対を申し入れました。これを受け自治労福井県本部は21日、総決起集会を開き、この福井市のケースが全国的な広がりを見せないようくさびを打ち込むつもりです。
体力の限界まで頑張った見返りが給与カットとは!」「信じられない仕打ち」「来年も今年以上の積雪があったらどうなる」「除雪業務、もう頑張れない」「子育てでお金がかかるのに……」。除雪費が膨らんで財政悪化し、給与カットを打診された福井市職員の声です。

37年ぶりの記録的な大雪に見舞われた福井市。によりますと、今年2月の大雪に伴って昨年度の除雪経費は、当初見込んでいた4億円余りの10倍以上となる50億円に膨れ上がりました。
国の補助金や市の貯金にあたる「財政調整基金」全額を充てたほか、大型公共事業を先送りするなどして予算を捻出しましたがそれでも8億円が不足し、そのため▽一般職員2300人の給与や管理職手当を10%▽市長ら特別職の報酬を20%、それぞれ7月から9カ月間削減してまかなう方針を、市の職員組合に提示していました。
これに対し、組合側は「給与で被災財源を補填するのは不合理極まりない」として、▽給与削減提案の撤回▽労使合意のないまま給与削減に関する条例改正案を議会に上程しないことなどを、東村市長あてに申し入れました。

福井市職員の平均給与は月額32万円余り。10%削減されると月3万円ほど減る計算です。
17日夜の組合員の緊急集会では給与削減の提案に反対する方針を確認しました。また、福井市の提案に他の自治体も同調しないよう自治労県本部や県内のほかの市町の組合のメンバーらも応援に駆け付け反対の輪に加わりました。
福井市職員組合が加盟する自治労福井県本部は、財源不足を職員の給与で補填するといった提案が全国に波及しないよう、21日夜、総決起集会を開き、県内のほかの市町の組合員らと連携を取って、反対の方針を確認する予定です。

普段公務員と言えば社会から目の敵にされやすい傾向があって、公務員給与カットなどと政治家が訴え当選すると言ったケースもまま見られるようですが、しかしさすがにこれは気の毒と言うしかありませんね。
市側としてはもともと財政が厳しい中で同市職員の給与水準は例外的に高く、適正な水準に引き上げたいと言う意向を持っているようですが、引き下げるにしてもやり方言い方と言うものがあっただろうにとは思います。
他方で組合側としても市に金が無いと言う現実の中で不足する財源についての代案もないそうで、どこから金を捻出するかを考えなければ方針を受け入れざるを得ないだろうと思うのですが、職員にはお気の毒です。
ともかくもこうした行為が行われるとなれば当然職員の士気は下がるでしょうし、適当に手を抜いて仕事をしない方がいいのだと言う公務員体質をますます助長しかねませんが、来年以降除雪作業がどうなるのかですね。

人手不足もありどこの職場も仕事が楽と言うことはなかなかない時代で、それだけに働いた分はきちんと酬いて欲しいと言うのは労働者として当然の要求ですが、現実にはそうなっていない場合も少なくありません。
こうした場合嫌なら辞めろと言うのも一つの真理なのでしょうが、真面目でよく働くタイプほどこうした場合最後まで残りがちで、冒頭の記事のように余計な割を食ってしまうと言うのは何ともいただけない話です。
医療の世界でも似た構図はしばしば見られると思いますが、いわば組織に対する忠誠心が高い者ほど損をすると言う構図は士気を低下させるもので、組織管理者としては危機感を抱くべきところですね。
医療の場合年功序列で横並びの待遇が今どき珍しいほど強固に残っていますが、こうしたシステムがうまく機能するためには、スタッフ一人一人が自主的に滅私奉公すると言う危うい前提が求められるのでしょう。


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2018年5月21日 (月)

横浜市で保育士の逃散事例が発生し話題に

待機児童問題や保育園建設反対運動など、近年保育所の存在にフォーカスが当たる機会が増えていますが、先日横浜発のこんなニュースが話題になっていました。

横浜の保育士“一斉移籍”、保護者の涙と怒りとその顛末(2018年5月14日NEWS ポストセブン)

 63人──これは神奈川県横浜市が2018年4月に発表した待機児童の数である。約1070世帯に1人の子供が保育園に入れない計算になる。同市は対応策として今年度は予算1462億円を投じ、約2800人分の児童受け入れ枠を拡大する計画を実施した。この4月から新たに認可保育園32園が新設され、「待機児童ゼロ」に向けて大きく舵を切った形となった。
しかし、その中の1つ「鶴見中央はなかご保育園」は前代未聞の形で誕生している。

「職員のかたがただけでなく、私たち親子も、この保育園にかかわる人みんなが裏切られた、その一言です」
涙ながらに語るのは、横浜市鶴見区にある認可保育園「寺谷にこにこ保育園」に子供を通わせていた保護者だ。
3月末、同園は、園長と主任を含む保育士11人が一気に退職した。その結果、4月からは認可保育園にもかかわらず、運営を縮小せざるを得ない状況に陥っている。新3~5才児クラスが廃止され、37人の園児たちは市内の別の保育園への転園を余儀なくされた。多くの被害者が生まれる中、思わぬ事実が発覚した。
「寺谷にこにこ保育園」を退職した11人のうち、園長と主任を含む7人は、前述した4月に新設されたばかりの「鶴見中央はなかご保育園」で働いているというのだ。

この問題を市議会で取り上げた横浜市議の古谷やすひこ氏が解説する。
「最初に辞職を申し出た園長に続いて、1か月もしないうちに主任も辞めると宣言し、その後、数名が同じように退職願を出しました。今回の問題は、単に保育士が辞めたから保育園を縮小するという単純な問題ではない。新しい保育園を開設するにあたって既存の保育園からごっそり職員を引き抜いたということが、騒動の発端だと聞いています」

◆「子供に、『早く帰りたい。いつ元の保育園に戻れるの?』と聞かれて…」

園長をはじめとする保育士たちはなぜ子供たちを置いて新しい保育園に移ってしまったのか。「寺谷にこにこ保育園」の前園長で「鶴見中央はなかご保育園」の新園長を務めるA子さんは、本誌の取材に対し、頭を下げながらこう語った。
「途中で園を移ってしまったことでお子さんや親御さんには迷惑をかけて申し訳ないと思っています。保護者のかたからも『子供たちに一生消えない傷を残した』と言われましたし、それは本当におっしゃる通りで、恨まれても仕方ないことをしたと思っています」
だが、「引き抜きがあった」という指摘に対しては否定する。
「私は筋を通して辞めたつもりですし、辞めた理由も決して引き抜きではありません。『寺谷にこにこ保育園』には10年勤めましたが、その中で代表と育児法をめぐって意見の食い違いがあり、心機一転して新しい場所で仕事をしたいと思っていました。
そんな時に『鶴見中央はなかご保育園』の募集を知って、転職しただけです。一緒に転園した他の保育士たちも無理矢理引き連れていった訳ではなく、私と同じ気持ちで、新しい場所で働きたかったのだと思います」
(略)
今回の2つの園はともに私立である。
「また、職業選択の自由が憲法で保障されている以上、保育士が別の保育園に転園すること自体に規制をかけることはできませんが、同園のように大量に保育士が転園するケースは前代未聞でしょう。事業者の責任も大きいですが、保育の実施責任は市にあり、監査も行っているはず。閉鎖する前に行政が真摯に対応すべきだったと思います」(猪熊氏)
「寺谷にこにこ保育園」では、大人数の退園が判明した時点で、この事態を打開すべく、同園の代表が、横浜市に園を運営する方法を探してほしいと掛け合った。
しかし実際に横浜市が動いたのは相談から2か月たった後だったという。前出の同園関係者が言う。
「それも『新しく保育士を採用するならば、こんなふうにしたらいい』などのアドバイスを少しくれた程度で、何の解決にもなりませんでした。そのうえ、市からは引き抜きのことは隠してほしいと言われてしまったのです」
前出のA子さんは“引き抜き”を否定していたが、横浜市は“引き抜き”と認識していたことになる。前出の同園関係者が続ける。
「市が引き抜きを隠そうとしたのは、この事実が明らかになって、市が掲げた保育園の数を増やし、児童受け入れ枠を拡大する計画が頓挫してしまうことを懸念したからではないでしょうか」

市内の保育園を管理、運営する横浜市保育・教育運営課に今回の一件について話を聞いた。
「鶴見中央はなかご保育園に関しては、引き抜きではないと聞いています。また市が寺谷にこにこ保育園に引き抜きの隠蔽を依頼したということは、一切把握しておりません

記事にも出ている古谷市議が事態の推移経過を掲載しているのですが、一人二人と抜けたら後はバタバタと言う印象で、人手不足で一杯一杯だった職場であればしばしば発生する現象だなと言う印象を受けます。
実際に集団離職による運営の破綻自体は他地域でも報じられているようなのですが、今回の場合離職したスタッフ一同が近隣別施設にまとめて勤めることになったと言う点が珍しいと言うことでしょうかね。
また興味深いのは今回引き抜かれた側の法人代表と、引き抜いた側の法人代表とは親戚関係であるそうで、こうした騒動に至るまでに何かしら親族間でのやり取りなどがなかったのかどうかです。
この辺りの事情も含めて一番不思議なのは、何故一番の責任者であるだろう同園の代表に取材しないのかと言う点なのですが、現場を仕切る園長以下のスタッフに責任を押しつけたいと言う意図でもあったのでしょうか。

別な記事では当該保育園を運営する「株式会社にこにこ」代表取締役社長にインタビューしているのですが、何ら実態がはっきりしない通り一遍のコメントだけで、意見の食い違い云々の詳細ははっきりしません。
同記事では待遇面にも触れているのですが、寺谷にこにこ保育園の短大卒の正社員の基本給は16万5000円、手当などを含めた総支給額は20万円だと言い、保育士平均給与額の21万4200円に比べ低めに見えます。
ただ同系列で運営している他の施設も似たような待遇であるはずなのに退職者が出ていないことから、何かしら待遇面以外の事情もあったのかと推測していますが、園長のコメントは想像をかき立てられますよね。
園長が退職を決めた直後に他のスタッフも続々後を追って退職し、いわば園長に追随しているように見える点からすると、経営者よりも園長の方に現場スタッフの支持があったのかなと推測はされるところでしょうか。

冒頭の記事の中略部分でさんざん利用者家族からの恨み言が書き連ねてあって、それは年度途中で保育園が立ちゆかなくなれば困りもするでしょうが、基本的には退職は仕方のないことであり、労働者の正当な権利です。
近所の行きつけのお店でスタッフが大量退職して休業になったとして、普通辞めた従業員よりも店の経営者に責任を問うべきだろうと思うのですが、退職した従業員を責めるかのような論調はいささか意外な気もしますね。
普段労働者の権利擁護に努めているはずの進歩的マスコミであれば、労働者をこうまで追い込んだ経営者側の責任を厳しく糾弾しそうなのですが、見た限りそうした論調をとるメディアはないようでした。
保育園を巡っては先日スタッフの妊娠の順番まで決められていると言うびっくりニュースも報じられていて、保育士の労働環境にも注目が集まっているだけに、何故こうした報道の方向性になったのかと言う点は興味深いことですね。


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2018年5月16日 (水)

トラック業界では事業者に寝不足チェックを義務付け

ちょうど働き方改革関連法案の審議が進んでいる中で、興味深いニュースが報じられています。

睡眠不足は乗務禁止 トラックやバス、6月から義務化(2018年5月14日朝日新聞)

 トラックやバスの運転手は6月から、乗務前に必ず睡眠状態のチェックを受け、不足の場合は乗務できなくなる。輸送業界は人手不足が深刻で、運転手が過酷な勤務を強いられ睡眠不足による事故も目立つことから、国土交通省が事業者への義務化を決めた。

 貨物自動車運送事業法などに基づく省令を改め、事業者がドライバーを乗務させてはならない項目に「睡眠不足」を新たに盛り込む。「疾病」や「疲労」などはあったが、睡眠不足は明記されていなかった。

 事業者は、乗務前に運転手の健康状態や飲酒の有無などを確認する「点呼」の際に睡眠が十分かを確認することが義務となる。睡眠時間には個人差があるため具体的な時間についての基準は定められていないが、睡眠不足のまま乗務を許可したと認定されれば運行停止など行政処分の対象となるため、事業者は厳しい対応を求められる。具体的には、運転手と対面などでやり取りし、睡眠不足による集中力低下など安全に支障がでる状態にないか丁寧に確認して結果を記録として残さなければならない。

 ドライバー側に対しても、睡眠不足についての正直な申告を義務化する。

バス・トラックで「睡眠不足」は乗務禁止へ…“人手不足”と“明確な基準”が課題か(2018年5月14日IRORIO)

バス・タクシー・トラック事業で6月1日から、「睡眠不足」状態の運転手を乗務させることが禁止される。
旅客自動車運送事業運輸規則などを改正し、「睡眠不足の乗務員を乗務させてはならない」ことを明確化。また、点呼簿の記録時刻に「睡眠不足」の状況を追加する。
事業主に対して、乗務員を乗務させてはならない事由等に「睡眠不足」を加え、乗務前などに行う点呼の確認事項に「睡眠不足で安全な運転をすることができないおそれの有無」を追加。点呼時の記録事項にも「睡眠不足の状況」を加える。
(略)
睡眠不足の運転手を乗務させてはならないと明確化することで、「睡眠不足による事故防止」と「働き方改革」に繋げる狙いだ。

国土交通省が2017年に行ったアンケートによると、バス運転手の4分の1は睡眠時間が1日5時間未満
また、全日本トラック協会によると、トラックドライバーの年間労働時間は全産業平均より約2割長く、常態化した長時間労働が睡眠不足や休養時間不足になり健康に悪影響を及ぼしているという。
睡眠不足に起因するとみられるバスやトラックの事故もたびたび発生しており、運転手の労働環境の改善が課題とされている。
(略)
高速バスなどを運行する「WILLER EXPRESS(ウィラーエクスプレス)」は2016年から、走行中の運転手の脳波を計測し、自分でも気づかない疲れや眠気の予兆を検知して本人に知らせる運転者用眠気検知機器「FEELythm(フィーリズム)」を導入。
導入後、事故による車両損傷額が74%低下するなどの効果が出たという。
同社は他にも、乗務員の宿泊棟を新設するなど、さまざまな角度から安心・安全なサービスの提供に取り組んでいる。
事業主の確認だけでなく、同社のような取り組みを検討しても良いかもしれない。

交通事故の原因は多種多様ですが、業務で日常的に運行しているプロドライバーが睡眠不足であれば周囲も不安でしょうし、ましてや大型車両となれば事故時の影響も小さくないものがあります。
「睡眠不足で安全な運転をすることができない」状態を客観的に定義することが難しく、事業所によってその判断は分かれそうですが、睡眠不足による事故を起こした場合今後事業者が責任が問われるのでしょうか。
いずれにせよ単に労働者の自主的な努力に委ねるのみならず、雇用者側への義務として課した点で睡眠不足状態をどう解釈するのか、各事業所がどのように対応するのかは注目されます。

このニュースで注目されるのはプロドライバーの労働環境が厳しく、また過労や睡眠不足によって重大な社会的影響が起こり得ることが規制強化の理由になっている点ですが、同様の事情があるのは他業界も同じです。
ドライバーに対してはこうした保護政策を打ち出しておいて、他業種での睡眠不足をスルーするのでは職業間の平等性が問われますが、医療業界などまさに導入が待望される業界の一つと言えますよね。
誰しも寝不足でふらふらの医師に診療して欲しくないのは当然で、各病院に睡眠不足のチェックを義務づければどうかと思うのですが、この場合どの時点でチェックするのが妥当なのかと言う問題があります。
業務開始時では日勤・当直・日勤の連続勤務をしている多くの医師にとって、当直明けの一番眠い時間帯がスルーされかねないわけですが、各業界の事情に沿った実効性ある対策は一律の手法では難しそうです。

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