心と体

2020年7月22日 (水)

「地域枠離脱者は専門医認定せず」は初めの一歩になるか

以前から義務年限を途中離脱するなどその存在意義が危ぶまれるところも多かった医学部の地域枠に関して、先日厚労省からこんな注目すべき対策が打ち出されてきたと報じられています。

「専門医認定せず」、都道府県の同意なき地域枠離脱防止策(2020年7月17日医療維新)

 厚生労働省は7月17日、医道審議会医師分科会医師専門研修部会(部会長:遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)に対し、従事要件が課されている地域枠医師等について、離脱防止のため、都道府県の同意を得ずに専門研修を開始した者については、日本専門医機構の専門医認定を行わない方針を提案、了承を得た。認定する場合も、都道府県の了承を得ることを必須にする。7月中にも都道府県の地域医療対策協議会に諮り、意見を聞いた上で国として同機構に正式に要請、2021年度専門研修開始分から適用される見通し(資料は、厚労省のホームページ)。

 医師不足対策として、2008年度以降、医学部の地域枠は増加。2020年度研修開始の専攻医の場合、地域枠制度利用者は973人で、地域枠離脱者は15人(1.5%)。日本専門医機構の専門研修システムでは、「地域枠」であるかどうかを自己申告する欄があるが、「いいえ」と回答したのは11人、「未登録」4人。15人のうち、都道府県の同意を得た離脱者は9人だが、同意を得ない離脱者も6人いた。2019年度の736人中、29人(3.9%)からは減少したものの、離脱防止は完全ではない。

 具体的には、▽専門研修システム登録時に本人の同意を取得した上で、地域枠離脱に関する都道府県の同意の有無について、専攻医募集時および研修開始後に日本専門医機構が都道府県に対して確認、▽研修開始後に都道府県の同意を得ていないことが判明した場合は、専門研修中に従事要件を満たした研修を行うよう、プログラム統括責任者が指導し、ローテーションにおいても変更することを含め配慮するよう努める――という対応を行う。それでもなお、「都道府県の同意なき地域枠離脱」に該当する場合には、専門医として認定しない

 委員からは、地域枠の離脱医師に対し、「地域枠として入学するときに、相当の説明を受けているはず。嘘をついて、専門研修を受けるのはとんでもない。約束違反に対しては、厳しく取り締まった方がいい」(全国市長会会長、相馬市長の立谷秀清氏)など、厳しい対応をすべきとの意見が相次いだ。ただし、聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内英子氏からは、より良い指導医の下での研鑽を求めて離脱する医師もいると想定されることから、都道府県が離脱を不同意とする場合、その理由を明らかにするなど、慎重な対応を求める声も上がった。
(略)
 日本医師会副会長の今村聡氏は、まずは大学入学時点で、地域枠の従事要件を認識してもらうため、「大学と本人の口約束ではなく、説明の仕方をある程度統一し、第三者が入った中で署名」といった方法を提案。日医常任理事の釜萢敏氏は、地域枠医師か否かの確認で、日本専門医機構の事務負担が増えることから、関係機関が連携して取り組む必要性を指摘した。

 日本病院会常任理事の牧野憲一氏は、臨床研修でも地域枠離脱防止に取り組んでいることから、その情報を専門研修に引き継ぐ可否について質問。加藤室長は、「(臨床研修から)そのまま個人情報として継続するのはハードルが高い」と答えた。

 日医常任理事の羽鳥裕氏は、臨床研修の場合、都道府県の同意なき地域枠離脱者を採用した病院を、厚労省の審議会という公開の場でヒアリングを行うことから、同様な仕組みを専門研修でも採用することを提案した。この点については、厚労省医政局医事課長の佐々木健氏が、次のように回答した。「臨床研修は法律に基づく制度であり、国の補助金も出している。国の制度として適切な運用しているかどうかを確認するために、ヒアリングを行っている。一方、専門研修は、地域医療の確保という観点から、国が日本専門医機構に意見を言う仕組みはあるが、機構で運営している制度。今の話は機構の中でどうすべきかについて議論すべき問題」。

二つの側面がある話だと思いますが、まずは厚労省としては地域枠は重要であり維持されるべきものであると言う認識で、今後も一定の強制力を持って継続する方針であると言うことがうかがえると思います。
地域枠に関しては黙っていても一定数の医師を安定的に確保出来ると言う点で、特にいわゆる医師不足の地域では非常に重宝する制度ですが、かねて志願者割れや途中離脱が問題になっていた経緯があります。
制度そのものも往年の看護師の御礼奉公などと同様、法的に突っ込まれれば問題必ずしもなしとしない危ういシステムですが、厚労省は地域枠学生が枠外地域に就職しないよう通達を出して来た経緯があります。
学生から初期研修にかけて及ぼしてきた影響力を、今回その後の専門研修にまで広げてきたという形ですが、いわゆる医師強制配置論の視点から今後その対象がどこまで広がっていくのかです。

もう一つの側面として、新専門医制度がこうした医師への強制力の担保として実際に活用されるのはこれが初めてのケースではないかとも思うのですが、これもかねて予期されていたことではあります。
各学会が独自に認定していた従来の制度であれば、医師が主体的に組織する学会が定めた内部ルールだけで専門医になれると言う点で、外部から見ればなかなか介入しがたい制度であったと言えます。
これに対して専門医機構はほとんどの医師が加入する巨大な組織であり、厚労省の検討会に基づいて組織された経緯や幹部に医師以外が含まれている点など、公的性格が強められたシステムになっています。
公的組織であれば公的な規制や介入も行いやすいだろうし、今後も専門医制度を利用して医師に対する各種の強制力を発揮していくのだろうとは容易に想像出来るところですね。

今回厚労省佐々木医事課長のコメントとしては、この介入は厚労省の意向ではなく専門医機構の内部での議論であるとのことですが、今後厚労省が何かしら意見を出してくれば機構側も無視は出来ないでしょう。
地域枠を絡めて初期研修医に対しては強制力を発揮してきた厚労省が、今後専門研修に対しても同様に影響力を発揮していく第一歩と言えますが、専門研修だけが専門医機構の管轄ではありません。
今後新専門医制度のもとで多くの医師が何かしらの形で専門医機構の統制下に置かれるとなれば、弁護士に対する弁護士会とまでは行かずとも、医師会などよりはるかに強力な権威を持つ組織と言えますね。
厚労省に限らず誰がその強力な権威を活用し医師に影響力を及ぼしてくるのかですが、医師の世界ではこうした権威は今まで存在しなかっただけに、支配下に置かれる側もなかなか実感は持ちにくいかも知れません。

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2020年6月22日 (月)

深夜にラーメンを食べさせてくれる介護施設は確かにありがたいのですが

先日話題になっていたのがこちらのニュースですが、各方面から意見が提示されなかなか興味深い議論になっているのではないかと思います。

深夜に96歳の男性が「ラーメン食べたい」と言ったら、どうしますか?(2020年6月6日Buzzfeedニュース)

まずは、難しいことは考えずに、この動画を見てほしい。

ラーメンのスープをすすって一言。
「あーうめっ」
脇で、この近藤角三郎さん(96)の様子を見守っていた付き添いの金子智紀さん(25)も笑顔になる。
「ね?これでいいじゃないですか。この声さえ聞ければ、これでいいんだってわかるでしょう?」

近藤さんは1ヶ月前、半年の病院生活から退院したばかり。入院中はペースト食しか食べられなかった。
今は、神奈川県藤沢市の看護小規模多機能型居宅介護「ぐるんとびー駒寄」で一時滞在しながら、リハビリを受けている。
この近藤さんがラーメンを楽しむ姿を巡って論争が起きているのだ。

「夜中のラーメン」の動画が炎上

記者が近藤さんの取材をしてみたいと思ったのは、事業所を経営する株式会社「ぐるんとびー」の代表取締役で理学療法士の菅原健介さんがツイートした動画が炎上しているのを見たのがきっかけだ。
10日前までペースト食だった利用者の求めに応じて、深夜に、普通のラーメンを提供している。
この姿に、介護関連の専門職が批判の声をあげた。
(略)
でも、実際にラーメンを食べているこの男性の美味しそうな表情はどうだ。OKサインを指で作って喜んでいる。
自分だったら、「もう深夜ですし、ラーメンは食べることができないか今度検討してみますから、今は我慢してくださいね」と言われるのがいいか。それとも今、作ってもらって味わえるのがいいか。深夜のラーメンはうまい。
その後、Twitter上で対話が生まれ、利用者の「食べたい」に応えるための努力があったことを理解し合うところまで達したのもさすがプロだなと思った。
(略)
近藤さんがラーメンを食べるまでを知っている介護福祉士の斎藤恵さんが、5月1日の退院直前に菅原さんと病院に顔合わせに行った時のことを教えてくれた。
「病院からはペースト食の指示が出ていると聞きました。でも、近藤さんにうちのパンフレットを見せると、お弁当を食べている利用者さんの写真を指差しながら『うまそうだな』と言ったのが第一声でした。近藤さんの場合は、食が生きる意欲につながるのではないかと気づいたんです」
退院後、リハビリのために一時的に滞在することになった近藤さんの体の状態を、嚥下機能に詳しい看護師や理学療法士、介護福祉士らが評価し、「一段階ずつ食形態を上げていきましょう」という意見で一致した。
(略)
退院から1週間後、斎藤さんが近藤さんと一緒に公園に散歩に行くと、突如、近藤さんが「ラーメン」「ラーメン」と連呼する。
「何ラーメンがいいんですか?と聞くと、『味噌ラーメン』と言う。連休中ですし、お店はどこも営業自粛中でしたから、『カップラーメンでもいいですか?』と聞いて、一緒にお店に買いに行って選んでもらったのです」
疲れて一度昼寝をした後、起き出してきた近藤さんにカップラーメンを出すと、全部食べ、スープまで飲み干した。
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「病院は治療するところであって、暮らしを楽しむところではありません。病院は誤嚥防止のために安全を最優先にせざるを得ないのでしょうし、訴えられるのは怖い。一方で、在宅は暮らしを楽しむところです」
「そして生きる意欲と機能は連動します。食べたい、とか何かをしたいという欲求、生きる意欲が湧くと、機能は上がる。病院は間違っていると言っているのではなく、病院と在宅は役割が違うということなんです」
近藤さんの主治医も、「ご本人が食べたいものを食べてもらっていいです。必要なら意見書を書きますよ」と、菅原さんたちの姿勢を支持してくれているのも心強い。
(略)
菅原さんは言う。
「大切なのは何を目指すかだと思っていて、僕らの目標の最上位は、『ほどほどに幸せな暮らし』です。『安全』を最上位にはしない。ほどほど幸せが実現できるなら、安全性は最低限確保しながらも多少下げてもいいと思っています」
最初の契約の時に、本人と家族に「本人主体でほどほどの幸せを目指すので、リスクをある程度引き受けていく」ということを説明し、了承してもらっている。
「拘束しても安全を優先しなければならないことはありますが、100%の安全を求められるなら引き受けるのを断ることもあります。本人の望んでいないことを続けるのは虐待です」
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「リスクゼロを目指すと管理でガチガチになり、ほどほど幸せな暮らしができなくなります。ほどほどの幸せは、安心できる場所と信頼できる人がいることで成り立ちます」
「そのために、専門性を振りかざすことなく、全ての職種は対等な立場で本人のハッピーを創るために、違う意見の人と対話をしながら、余白をどう生み出すか考える。〜もあるを受け入れ、間違いをその都度、変更することも頭に入れながら、個別に『ほどほどの幸せ』をカスタマイズしていきたいと考えています」

実際には一足飛びにラーメンをすすらせたのではなく、段階を追って順次嚥下機能を確認しながらステップアップしていったそうですが、96歳の超高齢者が深夜にラーメンと言う動画は確かにインパクトがあります。
実際に各方面から寄せられたコメント多数が掲載されていて、それぞれ現場に関わる立場から納得出来る意見が多く、何が正解と言うことも間違っていると言うこともなくただ見方の違いとしか言いようがないことです。
記事の末尾で施設の責任者である菅原氏がおっしゃっていることも同様にまことにごもっともであるし、恐らく多くの一般利用者や家族の方々からはもっとも賛同を得られる考え方であろうかとは思いますね。
ただ他方で全国の介護従事者から批判の声が殺到したと言うのも理解出来る話で、求められればリスク無視で何でもやっていいのかと言った意見も、マンパワーに制約のある現場だけに無視出来ない話ですよね。

介護現場の考え方としては、こうした場合に真っ先に考えることは何かあったときに責任を取れるのか、誰が責任を取るのかと言う点でしょうが、菅原さんとしては契約時に家族の了承を得ていると言います。
ただ現実的にはそうした了承があってもトラブルにつながることは少なくないのも経験から想像出来ることですが、恐らくこの施設はかなりの人気施設であり、相対的に強い立場であると言うことなのかと思いますね。
無論いざと言う時の保険など様々な対策は講じていることでしょうが、零細な事業者であればそうしたリスクを到底負うことが出来ず、結果的に利用者や家族にとって満足感の乏しいサービス提供となりがちです。
医学的に正しいかどうかとはまた別な次元でサービス業として考えると、顧客満足度を高めることがクレームやトラブルの可能性を結果的に下げられるのであれば、サービス提供者にとっても望ましい話ではないでしょうか。

一方で別な視点で考えると異なった意見もあると感じられるのですが、医療の立場でも一見すると主治医は好きなものを食べさせていいと言っているのだから構わないじゃないかと言う意見もあるでしょう。
ただこうした施設入居の超高齢者の主治医を急性期基幹病院の勤務医がしていることは通常ないはずなので、恐らくこの主治医氏も嘱託医や近隣開業医などと言った立場である可能性が高そうです。
もしも利用者が夜中にラーメンを食べて誤嚥したとして、施設内あるいは主治医が対応すると言うのであれば良いのですが、実際には直ちに救急車を呼んで全く無関係な他施設に搬送されることが大多数でしょう。
そうした搬送先の医師にしてみれば、夜中に超高齢者にラーメンを食べさせて誤嚥したからと送りつけられてくるのは決して愉快な話ではないでしょうし、医療リソースの観点からも歓迎できない話でしょうね。

結局のところそれぞれの立場によってそれぞれ正解と思える意見があるはずですが、どの立場が最も尊重されるべきかと考えると、一義的には被介護者本人およびその家族と言うのが基本ではあると思います。
ただその意思決定においてこの場合介護側や主治医側の意見が反映される一方、いざと言う時にケツ持ちしてくれるはずの救急受け入れ施設の意見はと言えば、まさに退院時の指示がそうなのだろうと言うことですね。
このあたりのミスマッチは地域内での力関係など様々な要因も絡む話ですが、少なくとも救急搬送が逼迫している地域でこんな患者が次々と運び込まれてくれば、受け入れ側としては穏やかではいられないでしょう。
リスクを引き受けると言っても実際に何かあった時に施設側がどう引き受けられるものなのかで、願わくはいざと言う時のバックアップをしてくれる救急医療機関とも十分な意思疎通をした上での話であればとも感じました。

 

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2020年6月15日 (月)

コロナ大規模抗体検査の結果公表、やはり医療関係者は陽性率が高かった

ある程度バイアスのかかっているものと思われる民間企業の調査ですが、先日新型コロナ抗体検査の大規模調査結果が公表されていました。

抗体検査、陽性0・43% ソフトバンク、4万人対象 医療従事者は高い傾向(2020年6月10日共同通信)

 ソフトバンクグループ(SBG)は9日、社員や協力を得た医療機関などを通じ約4万4千人を対象にした新型コロナウイルスの抗体検査を実施した結果、0・43%の人が陽性だったと発表した。医療従事者の陽性率は1・79%で、ソフトバンク社員などの0・23%よりも高い傾向を示した。国内で最大規模の抗体検査とみられ、単純比較できないが、これまでの海外の検査例よりも陽性率が低い結果となった。
 感染の診断に使われるPCR検査では陰性だったにもかかわらず、抗体検査では陽性が出たケースが複数あった。インターネットのライブ中継で解説した国立国際医療研究センターの大曲貴夫(おおまがり・のりお)国際感染症センター長は「(それぞれの)検査を組み合わせることが必要。症状のある人が早く検査を受けられる環境づくりが最優先だ」と述べた。

 抗体検査は5月12日~6月8日に実施。SBGや取引先の社員など3万8216人に加え、医療従事者5850人を対象にした。陽性者数はそれぞれ86人と105人だった。
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 爆発的な感染拡大が起きた米ニューヨーク市では、抗体陽性率が平均で約20%という報告がある。スペイン政府は6万人を対象に行った抗体検査で陽性率が約5%だったとの暫定結果を5月に発表している。
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医療従事者5850人抗体検査、陽性率は1.79%(2020年6月10日医療維新)

 ソフトバンクグループは6月9日、グループ各社従業員や医療従事者ら計4万4066人を対象に実施した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体検査結果の速報値を公表した。医療従事者5850人のうち105人が陽性となり、陽性率は1.79%だった。職種別では、受付・事務等が2.0%、医師が1.9%、看護師が1.7%などの順だった。全体では191人が陽性となり、陽性率は0.43%。医療従事者を除くと0.15%と下がる。PCR検査の結果が陰性でも、抗体検査で陽性となった例もあった。

 検査はグループ内の感染状況を把握するとともに、社会貢献などのために、医療機関や取引先を対象とし、2020年5月12日~6月8日に実施した。検査にはINNOVITA社とOrient Gene社の迅速検査キットを使った。結果は動画と資料で公表している。
 全国539施設が参加した医療従事者の陽性率を都道府県別(検査件数100件以上)に見ると、最も高いのが東京都の3.1%で、千葉県(2.8%)、広島県(2.2%)、大阪府(2.2%)、北海道(2.0%)、京都府(1.9%)、福岡県(1.9%)、兵庫県(1.7%)と続いた。検査件数が100件未満のため、数値は公表されていないが、石川県でも陽性率が3%以上に上った。今回の結果は、厚生労働省が集計しているPCR検査の結果に基づいた感染分布とおおむね一致しているという。
 医療従事者の年代別では、60歳以上の男性が3.34%、女性が3.40%で最も高かった。50歳代は男性2.62%、女性2.32%、40歳代は男性2.49%、女性2.53%、30歳代は男性2.54%、女性1.25%、29歳以下は男性0.53%、女性1.26%だった。

大曲氏、歯科医の陽性率の低さに「驚くべきデータ」

 職種別では、医師、看護師、受付・事務の陽性率が1.7%以上となる一方、歯科助手は0.9%、歯科医は0.7%と比較的低かった
 ソフトバンクグループが配信した動画に出演した、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫氏は、「驚くべきデータだと思う。歯科では口の中を処置するため、飛沫を浴びることが多く、リスクが高いと非常に心配されていた。この間に、どういう感染対策をやっていたのか、どういう患者を診ていたのか深掘りしてみたい」と感想を述べた。

陽性者の大半はPCR陰性・未検査

 ソフトバンクグループ社員らを含めた全体の陽性者191人のうち、6月8日までにPCR検査を受けているのは42人にとどまり、13人が陽性、29人が陰性だった。
 4月以降に肺炎の症状があったが、PCR検査で陰性となってCOVID-19と診断されなかった30歳代の男性が抗体検査の結果、IgG陽性と判明したケースもあった。
(略)
 PCR検査の陽性者で、抗体検査が陰性となった例はなかった
 ソフトバンクグループ会長の孫正義氏は「民間の試行錯誤なので、専門家からアドバイスいただきながら、よい対策ができるよう進めたい」と述べた。

先日厚労省が公表した1000人規模の抗体検査の結果が都内で0.6%で、昨年の検体でも0.4%の陽性が出たことから偽陽性の可能性があるとの結論でしたが、今回の全体値もおおむね同程度の値と言えます。
やはり現時点でその程度は感染していると見るべきなのでしょうが、諸外国の報告と比べると比較的低いようで、日本の感染者数が比較的低く抑えられているとの観測の傍証の一つになりそうですね。
インフルエンザなどは毎年国民の10人に1人は感染していて、おおむね200人に1人と言えば少ないようですが、通勤電車やスーパーなど人の多い場所に行けば誰かは感染している計算です。
直接的な飛沫だけではなく環境の汚染もあり得ることですので、マスクのみならず手洗いや手指消毒などもしっかり行うことが自分を守るだけでなく、周囲に感染を広げないためにも重要だと言うことですね。

今回の結果で当然ながら注目されるのが、ある意味予想通りではあったものの医療関係者の陽性率が一般の数倍に上っていると言う点ですが、年齢が上がるほど陽性率が高いように見えることは興味深いですね。
さすがに今時ベースン法で済ませている年配の先生がいるとも思えませんが、手洗い手指消毒の頻度や日常的な衛生観念の差などと相関があるものなのか、データが出せれば面白いかも知れませんね。
個人的にもう一つ注目することとして男女差があまりなさそうだと言うことなのですが、医師と看護師の差がないこととあわせて、現場ではどのような状況で感染が起こっているのか知りたいところです。
また記事にもあるようにハイリスクと思われる歯科関係者が案外低いのですが、患者層や数の違いなのか歯科領域での感染防御策に何かポイントがあるのか、こちらも理由が検証出来れば有益でしょう。

末尾のPCR検査と抗体検査の結果に食い違いが見られると言うのは、それぞれ陽性になりやすい時期の差もあるでしょうが、臨床現場での診断の限界として考えるとなかなか示唆的なデータだと言えます。
発表資料を見ますと今回の抗体検査では発症8-10日目以降でほぼ確実に検出出来るようですが、PCR検査に関してはすでに発症後初期の3-4日間が最も検出しやすいことが明らかになっています。
例の発症後4日間ルール(ではなかったそうですが)の意味がここでも問われるところですが、これだけ検査法による不一致があるなら今後発症後の日数に応じて検査法の使い分けを考えるべきなのかと思わされますよね。
ただ発症後10日以降ともなればコロナ感染症としてはそろそろ治癒に向かう時期ですから、隔離の解除などと関連して抗体検査陽性と言う結果をどう解釈すべきなのかは取り扱いの難しいところだと思います。

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2020年6月 9日 (火)

コロナ感染症においても再燃する陰性証明・治癒証明問題

コロナウイルス感染症について、先日は厚労省からようやく唾液でのPCR検査を容認するとの発表があり、今後はPCRの検体採取もずいぶんと安全かつ簡便に行えるようになるのではないかと期待されるところです。
その一方で岐阜県では県内医師の7割以上が保健所に検査を断られたことがあるとの調査結果が公表されていて、「医師が必要と思ったら全て検査をしている」との従来の県の発表と食い違いが注目されています。
ともかくも国としても検査自体は増やしていく方針と伝えられていますが、このところPCR検査の限界を思い知らされる報道も相次いでいるようです。

新型コロナ:新型コロナ 無症状でPCR「非効率」 発症前日、陽性的中33% 米チーム研究(2020年6月1日毎日新聞)

 新型コロナウイルスの感染者が、発症する前日にPCR検査(遺伝子検査)を受けても、「陽性(感染者)」と判定されたのは3人に1人にとどまるとの分析を、米ジョンズ・ホプキンズ大のチームがまとめた。発症4日前では皆無だった。新型コロナは発症前でも感染力が強く、症状のない人も広く検査すべきだとの声もあるが、PCR検査だけでは感染者の特定に非効率で、今後、慎重論も出そうだ。

 チームは、欧米や韓国などで行われた7研究(患者数計1330人分)のPCR検査データを基に、発症前後で感染者を陽性と判定できるかどうかを分析した。
 その結果、発症4日前に陽性だったのは0%で、前日でも33%にとどまることが分かった。発症日でも62%で、3人に1人は陽性と判定されなかった。的中率が最も高くなったのは発症3日目の80%で、それ以降は低くなった。
 理由について、ウイルス量の変化や検体の採取方法上の課題が考えられるという。チームは「PCR検査だけに頼らず、医師の判断や濃厚接触の有無などを総合的に検討することが重要ではないか」としている。
 成果は5月13日付の米内科学会誌(電子版)に掲載された。【渡辺諒】

 ◇検査拡大に慎重論も 専門家「高額費用無駄の恐れ」

 発症前にPCR検査を受けても感染者の特定が難しいことが明らかになった。感染対策を目的に症状がなくてもPCR検査をすべきだとの声が医療機関などから上がり、検査を広げようとする動きがある。だが、発症前に感染者が「陽性」と判定される割合は少なく、「陰性」でも感染者が紛れ込む可能性も大きく、感染していないことの証明にならない。専門家は「検査をするなら、せめて精度が高まる発症者に行うべきだ」と指摘する。
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 1回当たりの検査費は1万3500~1万8000円。感染症に詳しい大阪大病院の森井大一医師は「発症前にPCR検査をしても、患者を効率よく見つけられない可能性が高い。無駄に終わるかもしれない検査が、税金や保険料で賄われることは問題だ」と指摘する。【渡辺諒、河内敏康】

PCR陰性の感染者から広がった院内感染 精度に限界(2020年6月2日朝日新聞)

 PCR検査で新型コロナウイルス感染は「陰性」と判定された入院患者が実は感染しており、相部屋に移って集団感染につながった。そんな事例が神奈川県で起きた。PCR検査は拡充が求められている一方、精度には限界がある。感染を把握する確実な手段がない中、医療機関は院内感染が起きないよう、対応を模索している。

 救命救急センターを構え、地域医療の中核を担う小田原市立病院(神奈川県)。4月12日、発熱があった患者に医師の判断でPCR検査をした。新型コロナとは違う病気で入院予定だった。結果は陰性。念のために個室に入り、CT検査もしたが肺炎の疑いはみられなかった
 検査から1週間後、患者は他の患者もいる大部屋に移り、数日過ごして退院した。しかし、発熱が続いて再入院すると、PCR検査で陽性と出た。病院は翌日、前回の入院で患者が過ごした大部屋にいた患者や担当の職員を検査。計7人の感染が判明した。

 同様のことは後日、別の大部屋でも起きた。5月2日に新型コロナの感染疑いで入院した患者は、PCR検査で陰性。CT検査も異常はみられなかった。2日後に大部屋に移り、その後、この部屋の患者で発熱が相次いだ。大部屋に移った患者を含め、患者計7人の感染が確認された。
 感染拡大の詳しい経緯はわかっていない。ただ、病院側は、感染しているのに検査で「陰性」と出た偽陰性の患者が、個室から大部屋に移って感染を広げたとみている。
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今も一部メディアなどではとにかくPCRをと言う主張を繰り返しているようですが、PCRに限らず何の検査であれ限界と言うものはあり、それを超えた部分では検査をすることの弊害も出てくるものです。
特にインフルエンザなどにおいても見られることですが、コロナウイルスに関しても感染していないことを証明するために検査をしてくれと言う受容は一定数あり、それを請け負っている医療機関もあるのだそうです。
そもそも論としては非科学的な陰性証明を求める職場などが非常識と言うことなのですが、流行前にたまたま国外に出ていた方々が陰性証明がないと再入国出来ないと言った事例もあると言いますね。
検査の限界を知っていれば陰性証明など無意味だと理解できる話ですし、むしろ危険な免罪符を与えかねないリスクすらある話で、せめて国内においては公的に禁止していただきたいものです。

この点でコロナウイルスの場合、流行の初期段階で感染者の隔離の様子が全国的に日々報じられ、最終的にPCRで陰性を確認すれば隔離解除と言う流れが知れ渡っていることが混乱の原因でもあります。
この場合はあくまでも感染者を対象とした話であり、なおかつ現在では隔離解除に当たっても必ずしもPCRでの確認を行わない場合もあると言うことで、いずれにせよ専門家による判断に基づくものですよね。
なお厚労省としては感染者の場合も治癒証明の類いは出さないし、請求させないと言う通達を出していますが、興味深いのは大学など公式サイトで堂々と治癒証明書を出せと言っている事例も多いことです。
医療現場としては証明書は出さない、職場等から求められた場合は保健所等に相談をと言う病院が増えているようですが、場合によっては出すと言う施設もありで、対応にも迷いがあるようですね。

インフルエンザの場合ですが厚労省の通達もあり、各地の自治体で公立学校での登校再開にあたって治癒証明の要求は止めにしようではないかと言う話は、すでに以前からあったと言います。
興味深いのはこれに反対したのが地域の医師会であったと言う説があることですが、地域の開業医にとっては流行期の証明書発行も立派な手間賃であり、一定の収入源であったと言う側面もあるでしょう。
これに対してコロナの場合はそもそも地域の開業医が扱う状況にはなく、大規模基幹病院に患者が集まっている関係上、いわば医療機関側が強い立場で主張出来るとも言えます。
ただでさえコロナ対応で忙しいのに、厚労省がいらないと言っている治癒証明まで書けるかと言えばそれが通る状況ではあるでしょうが、板挟みになった学生さんなどは困る状況でもありますね。

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2020年6月 1日 (月)

早くも語られ始めたコロナ後の医療危機

先日はコロナ診療に従事する医療関係者に感謝するためブルーインパルスが飛んだそうですが、その医療界隈では早くもコロナ後の医療のありようが危機感を持って語られています。

地域医療は「6月危機」 院内感染を警戒し外来離れ、減収続出(2020年5月29日産経新聞)

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、病院や診療所が経営悪化に直面している。患者受け入れに伴う感染防止対策の費用負担のほか、院内感染を警戒した外来患者が受診をためらう状況が続き、減収に陥るケースが各地で続出。流行の第2波、第3波が危惧される中、閉院を検討する医療機関も出てきており、地域医療は「6月危機」の試練にさらされている。

 「感染患者、疑い患者を受け入れているか否かにかかわらず、圧倒的に多くの医療機関で患者減、収入減が起きている。資金破綻するか、借金漬けになるかという重大な局面にある」
 約1770の病院や診療所などが加盟する「全日本民主医療機関連合会」の山本淑子(よしこ)事務局次長は28日、厚生労働省内で開いた会見で危機感をあらわにした。加盟事業所が所属する医科法人を対象にした3、4月の実績調査(111法人集計分)では6割強が「経営へのマイナス影響が深刻」と回答約半数は影響が長引けば「上半期のうちに資金破綻する」と答えた。
 ある病院では一般病棟の一部を感染患者らの受け入れ専用に転換。個室対応が必要でベッド数は33床減ったが、実際に入院したのは4人だった。感染防護具の費用負担や、感染防止対策で確保した職員用アパートの借り上げ代なども加味すると、合計1億円を超える減収となったという。
 感染拡大で各種健康診断がストップしたことの影響も甚大で、「健診事業が中心なため、4月収益は前年同月比で75%減。5月に至っては収益ゼロの見込み」との報告もあったという。調査では6割を超える法人が、緊急融資を実施もしくは予定していた。

 診療所にも逆風が吹く。
 「一般患者との動線を分けることはできず、感染患者を受け入れるのは困難な状況だ」。よしだ内科クリニック(東京都練馬区)の吉田章院長は新型コロナ対応の限界をこう訴える。
 都内で感染患者が増え始めた3~4月ごろから、一般の外来患者が減少。感染リスクを避ける心理が働いているとみられるが、高齢患者らの体調の変化を見逃さないかと不安が募る。
 手術などが必要な患者らを紹介してきた周辺の病院が集団感染に見舞われ、外来を休止させる事態も発生。地域医療の現場は綱渡りの日々が続いている。
 医科と歯科の開業医約6割が加入する「全国保険医団体連合会」が4~5月に行った調査(約3600件集計分)では、前年4月比で医科・歯科ともに8割超が「外来患者が減った」と回答。「保険診療収入が減った」も各8割台で、減少幅30%以上が4分の1を占めた。自由記載では「治療が必要な患者も来ない」「赤字が長期化すると人件費も重くのしかかる」などと悲痛な叫びが並んだ。

 減収が深刻だった4月分の診療報酬は6月の収入に反映されるため、目先の経営上の不安が渦巻く。
 厚労省は医療機関への当面の資金繰り対策として、6月下旬に5月分の診療報酬の一部も前払いで受け取れる特例措置を公表。だが、後から実際の額に基づき精算する必要があり、医療機関側からは「前払いはあくまで一時的な措置で7月には返済が必要。これではとても対応できない」との声が漏れる。
 全国保険医団体連合会の住江(すみえ)憲勇(けんゆう)会長は「地域医療は病院・診療所の連携、役割分担で営まれている。個別の医療機関が立ち行かなくなれば地域の医療提供体制にも影響する」と説明。「当面の減収分の公的補填など緊急の助成が必要」と訴えている。
(略)

この医療機関の減収問題、医療機関側による受診の制限や不要不急の処置の延期、キャンセルなどに加え、院内での感染リスクを懸念した患者側による自発的な受診の抑制も起こっていると言います。
医師に対する調査では過半数が患者が減っていると答えていて、特に小児科などは壊滅的と言うほど患者が減っているそうですが、当然それに応じて収入は大幅に減っているはずですよね。
これに対して支出は感染防御対策など今までよりも圧倒的にかかるのですが、この種の感染防御対策に関してはいつまで続ける必要があるのか何とも言えず、今後も止めるに止められない状況が続くと予想されます。
この結果として早くも経営体力の弱い地域の中小医療機関が早晩廃業せざるを得ないと言い始めているそうですが、その限界が早ければ6月に訪れるだろうと考えられていると言うことですね。

無論こうした結果として今後の地域医療のあり方が大きく変わり、場合によっては立ちゆかなくなる可能性もあると言うことは重大事ですが、本当のコロナ後の医療危機とはもう少し違ったものであるのかも知れません。
例えば開業医などは診療報酬体系上初診再診料で収入の多くを得ていて、多忙な勤務医が3ヶ月分も処方することがあるのに対して2週間毎の受診なども珍しくありません。
今回のコロナ騒動で開業医もやむなく長期処方するケースが増えていると思いますが、患者からすれば長期処方でも別に問題ないじゃないかと気づかされた格好ですよね。
今後コロナが落ち着いた後も前のように頻回受診をしてくれるものかどうか、場合によっては常連固定客からの収益がそれこそ何分の一に激減する可能性もありそうです。

それ以上に今回の騒動で不要不急の処置がキャンセル、延期されるケースが目立ちますが、どこの病院でも手術や検査の件数が大幅に減っているのは事実として、これが不急だっただけなのか不要だったのかです。
単に不急の検査や手術が先送りされただけであれば、コロナ騒動が落ち着いた後でたまった分を一気にこなさなければならないはずですが、案外このまま件数が減ったままで終わってしまう可能性もありそうに思います。
逆に言えばそれだけ不要の検査などが多かったと言う証明になりますが、この点に関しては出来高制の診療報酬体系に基づき、医療自体が医療需要を喚起し仕事を増やしていたと立証されてしまう形ですよね。

医療現場でも議論されている働き方改革の視点で見れば、不要な医療が激減すれば残業も減り医療関係者の心身の健康も保たれやすい理屈で、労働者としては仕事が減るのは歓迎な側面もあります。
ただ元々利益率の低い医療機関としては収入減少に対応出来ず、結果的にスタッフの大量解雇や経営破綻に至ってしまうともなれば、被雇用者の立場からは全く歓迎できる話ではないとも言えますね。
理想的にはこの機会に診療報酬体系の抜本的な見直し議論を平行して進め、従来の薄利多売を強いられる制度から脱却できればいいのでしょうが、今のところこの種の議論が成されているようではありません。
このコロナ騒動明けに医療需要がどの程度まで増えるものなのか現時点でははっきりしませんが、恒久的に従来よりも減少した状態が続くとなれば、嫌でも医療現場の有り様は変わらざるを得ないように思います。

 

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2020年5月26日 (火)

コロナ騒動で医療の世界も収入源の問題が

コロナ騒動で医療現場も受診抑制が起こっている中、先日こんなニュースが出ていました。

コロナ重症者の受け入れ、診療報酬3倍に 厚労省方針(2020年5月24日朝日新聞)

 厚生労働省は、新型コロナウイルスの重症者の入院治療をした病院を対象に、収入となる診療報酬を通常時の3倍にする方向で調整に入った。新型コロナ感染者を受け入れた病院の経営が急激に悪化しているため、4月に報酬を倍増させた特別対応を強化して感染の再拡大に備える。

 新型コロナは指定感染症のため、入院料について患者の自己負担は発生しない。厚労省は月内に中央社会保険医療協議会を開き、重症者を受け入れる集中治療室(ICU)の入院料を通常時の3倍となる1日24万~42万円に引き上げるといった案を示すことを検討している。

 すでに4月18日からICU入院料を通常時の2倍にするとともに、重症者以外の新型コロナ患者を治療した病院への報酬も上積みする対応をとった。ただ、今月に入り、病院団体がコロナ感染者を受け入れる病院の4月の平均利益率が10%を超える赤字に転落したとの調査結果を発表。重症患者の治療に人手がかかるうえ、院内感染を防ぐために受け入れ患者の数を減らしたことが収入減につながっており、報酬をさらに上乗せすることにした。(久永隆一)

患者側の自粛と医療機関側の受診抑制の双方が相まって、昨今どこの医療機関でも収入が大幅に落ち込んでいると聞きますが、これに対して感染防御対策などでコストは今まで以上にかかっていると言えます。
コロナ患者を診療しているか否かに関わらずこれらの問題は共通で起こっていることで、今回のようにICU入院料だけを引き上げても意味がないと言う指摘も少なからず出ているのは当然と言えば当然でしょう。
ただ世間的にはコロナ騒動の影響で収入が激減した、職を失ったと言う人も全く珍しくない中で、医療現場にだけ無制限に公費を投入できる状況にもないこともまた認めるしかないところではありますね。
国が意図的に残したい医療を重点的に救済しているのか、それとも単にイメージだけで適当に対策を講じているのか現時点では不明ですが、その影響はコロナ以降に顕在化するだろうと言う予測もあります。

コロナの影響と言えば医療現場の人材流動性が非常に活発化しているとも言えますが、早い話が感染リスクが高いのに待遇面で報われることが少ないと言った、割に合わない現場からの逃散だとも言えますね。
ただ前述のようにコロナ騒動でどこの医療機関でも収入激減に見舞われており、今の段階で転職先を探そうとしてもなかなか好物件が見当たらない可能性が高く、悩みながら勤務を続けている人も多いようです。
他方で非常に弱い立場であるが故に過度のリスクを背負い込まされながら働かされている人達もいて、その代表格として昨今取り上げられるのが大学院生などいわゆる無給医の立場にある方々です。

大学院生医師、動員に困惑 不安定な立場、収入ゼロも コロナの医療従事者(2020年5月18日共同通信)

 感染したら無収入になってしまうのでは―。大学病院で新型コロナウイルスと闘う大学院生の医師たちが、不安を抱えながら最前線に動員されている。現場を支える一員でありながら、都合の良い労働力として扱われることもある不安定な立場。労災が認められるかどうかも分からず、支援を訴える声が上がる。

 ▽「非常時だから」

 院生の多くは研修医を経て博士課程に進んだ30代。学費を支払い大学院に通いつつ、複数の病院でのパート勤務やアルバイトで生計を立てており、感染すれば収入が一気に絶たれる可能性がある。
 大阪大病院でパート医師として勤務する30代男性の院生によると、院生たちは発熱がある患者の診察や、PCR検査の検体採取に駆り出されており、感染リスクは高い。子育て中の人もいて「家族への感染や一家の大黒柱としての収入がなくなることに危機感を持つ同僚は多い」と話す。

 厚生労働省は4月下旬、業務中に感染した医療従事者については原則、労災を認定する方針を明らかにした。だが男性は「複数の病院で勤務しており、どこで感染したか特定できないのではないか。仮に労災が認められても、一つ一つの病院からの収入は少ないため、生活の足しにはならない」と悲観的だ。
 懸念を抱えたまま、男性らは病院から新型コロナ患者専用の病棟勤務を求められている。男性によると、院生の大半は週5~20時間労働で契約しているため、病棟勤務となれば契約を大幅に超過する見込みだ。
 残業代を申請しても無給の時間が発生する恐れがあり、他の院生と共に契約時間の拡大などを病院側に求めたが「非常時だから」と断られたという。

 ▽行政に支援要請を

 労働実態がありながら給料が支払われない「無給医」問題に詳しい荒木優子(あらき・ゆうこ)弁護士(第二東京弁護士会)は、大学病院では院生の診療が労働と扱われず給与や補償が不十分な場合があると指摘。感染拡大防止のため、大学病院からバイトを禁止されて新型コロナの診療に専従させられるケースも出ているという。
 「特別手当を支給しなければ、生活不安から大学を辞めてしまう院生も出てくる。そうなれば、病院の医療態勢にも影響する」と話す。
 大阪大病院は、院生を含め新型コロナの診療従事者に1日当たり4千円の特別手当の新設を急いでいるが、一般患者の受け入れや手術数を制限したため病院全体の収入が減っており、総務課の担当者は「不安解消に対応しきれていない面はある」と認める。
 荒木弁護士は「労働実態に見合った補償を受けられるようにするのは、病院として最低限の措置だ。予算面で難しい場合は行政に積極的に支援を求める必要がある」としている。

しかし1日4000円とはふざけているのかと思うような話ですが、それすらも支払われない方々も大勢いらっしゃるようで、「非常時だから」などと言う言い訳に至っては意味不明としか言い様がありません。
嫌なら辞めろと言うご意見も少なくないのですが、そもそも無給医などが発生する理由として学位などをネタに弱い立場を強いられていると言う前提があるので、これもパワハラ、アカハラの類とも言えるかも知れません。
問題なのは国としては先の記事のように診療報酬などで一定の手当をする意思はあるのでしょうが、それはあくまでも施設に対して支払われるもので、現場で苦労しているスタッフの手に渡る保証がないと言うことです。
特に医療の場合ガチガチの皆保険制度に縛られている以上この根管部分を易々と改めることは出来ず、実質タダで使いつぶせる労働力を手に入れられるのですから病院としても止められないのは当然ですね。

こうした状況を打開する方法論として何があるのかで、一例としてはスタッフにきちんと還元された場合のみ施設に割り増し報酬を支払うと言うシステムですが、確認がきちんと出来るのかどうかです。
医師の場合はドクターフィーを認めて働いた分だけ収入も得られるようにする方法もありますが、日医あたりが断固ドクターフィー導入に反対していることを考えると、何かしら名目は改める必要があるでしょうね。
金銭的な見返りもさることながら、こうした強制的動員によって感染した場合収入の道を絶たれいることが最大の問題で、万一の感染時の保証制度こそ最も急ぐべき対策と言えるかも知れません。
とは言えこうした保証なども含めてきちんとシステムを整備してくれるような施設なら最初から問題は少ないはずなので、こうした逆境でこそ勤務先としての各施設の信頼性があからさまになっているとも言えますね。

 

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2020年5月14日 (木)

コロナウイルスを拡散する人と、コロナデマを拡散する人

コロナウイルス感染症の広がりに絡んで、全国的に馬鹿げた逮捕者が続出しているようです。

また愛知で… 「これコロナ」発言男逮捕、威力業務妨害容疑(2020年5月12日夕刊フジ)

 また愛知県で…。名古屋市中村区のマッサージ店で受付台をたたいて、女性店員らに「これコロナ」と発言して営業を一時不能にしたとして、愛知県警中村署は威力業務妨害の疑いで、同県犬山市の自称自営業、杉山淳容疑者(78)を逮捕した。「このやろうと言って机をたたいたが、コロナとは言っていない」と容疑を否認している。

 逮捕容疑は4月7日午後0時5分ごろ、名古屋駅近くの地下街にある同店で、たたいた受付台を指さして、店員2人に「これコロナ」と発言し、店内の消毒作業などをさせた疑い。

 同署によると、杉山容疑者はそのまま立ち去り、行方を捜していた。店から連絡を受けた地下街の管理会社が約1時間後に中村署に通報し、複数の署員が防護服を着て対応に当たった

 県内では、4月に大治町役場で男が女性職員に「俺、コロナ」などと言いながらせきをしたとして同容疑で逮捕されるなど、同様の事件が相次いでおり、県警は「今後も厳正に対処する」とコメントした。

通常であればこの程度の行為は逮捕にまで至らないのかも知れませんが、今回のコロナ騒動の場合多大な経済的実害が生じるのですから民事賠償ものですし、警察としても厳しく対処する方針だと言うことです。
この「俺コロナ」騒動が続発する理由については、馬鹿発見機騒動などと同様に空気を読まないで発せられるジョークの失敗例であるとか、自粛続きのストレスから来る憂さ晴らしであるなど各種考察があるようです。
いずれも少なからず当たっている部分もあるのでしょうが、幸い今のところ日本ではまだ本当のコロナ感染には至っていないとは言え、本人も知らない無症状感染者がいつ加害者になるのか誰にも判りませんね。
日本だけではなく海外でも同様の事例は発生しているようですが、中には単なるジョークではなく実際の感染者が悪意を持って感染させようとするケースもあるようで、先日こんな悲劇が報じられていました。

唾かけられた鉄道職員、新型コロナで死亡 英国(2020年5月13日AFP)

【AFP=時事】英国で、新型コロナウイルスに感染していると主張する男から唾とせきをかけられた鉄道職員の女性が、新型ウイルス感染により死亡した。女性が所属する労働組合が12日、明らかにした。

 この女性はベリー・ムジンガ(Belly Mujinga)さん(47)。運輸従業員労組(TSSA)の発表によると、ロンドンのビクトリア(Victoria)駅で3月22日、同僚と共に被害を受け、2人とも数日後に新型ウイルス感染症を発症した。
 TSSAは「2人はコンコースの切符販売窓口そばにいた際、一般市民の男に襲われ、唾を吐きかけられた。男は2人に向かってせきをし、自分はウイルスに感染していると告げた」と説明している。

 ムジンガさんは体調を崩した後、4月2日に病院に搬送されて人工呼吸器をつけられ、3日後に亡くなったという。ムジンガさんは2000年にコンゴ民主共和国から英国に移住し、夫と11歳の娘がいた。
 衝撃的なこの事件に対しては大きな批判が湧き上がり、英政府も「卑劣」と非難。英鉄道警察(British Transport Police)は、事件の捜査を開始したことを認め、目撃者に情報提供を呼び掛けた。

感染が蔓延している世界各国では公共交通機関の職員にも死亡例が続々と出ており、必要不可欠な社会的インフラ維持に従事する人々の感染リスクの高さが深刻に懸念されているそうです。
ここまで来ると直接的な殺人とまでは言わずとも、意図的な傷害致死と言うしかありませんが、日本においても実際に感染が確認されているにも関わらず敢えて世間に出歩く人々が存在すると報じられています。
無論全く褒められた行為ではないことは当然ですが、他方ではこうした方々に対する過度の誹謗中傷や脅迫的行為なども過激化し、中にはコロナ感染自体への攻撃とも取れる言動もあるようです。
コロナ感染を知りながら感染を広げかねない行動を取ることへの批判と、コロナに感染してしまったこと自体の不運は厳密に区別しなければ、過去のライ病患者やAIDS騒動などと同様の感染者差別につながりかねません。
医療従事者もコロナ感染の高リスクだとして社会的に差別を受けやすい状況になってきているだけに決して他人事ではありませんが、特に根拠のないデマを広げ社会不安を煽ることもウイルスを拡散させることと同等以上に問題と言えますね。

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2020年4月27日 (月)

利益と不利益のバランスが崩れると、人は割に合わないと感じる

医療関係者のみならず話題になっていたのが、先日発生したこちらの事件です。

【独自】妻「たらい回しを懸念した」…男性がPCR検査隠して外科受診、医院は外来休止に(2020年4月22日読売新聞)

 新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査を受けた事実を隠して受診した患者がいたため、茨城県古河市の松永外科医院が、14日から外来診療を休止していることが分かった。患者は翌15日に陽性と判明。たらい回しを懸念したといい、同医院の松永弘之院長(59)は「医療崩壊につながりかねない。感染が疑われているのに、連絡なしに来るのはやめてほしい」と訴える。

 患者は埼玉県の初診の男性。松永院長によると、足首の痛みなどを訴え、14日夕、妻に付き添われて訪れた。他の疾患は「ない」と回答したが、医院を出た後、妻から「実は今日PCR検査を受けた。たらい回しになると思い黙っていた」と電話があった。

 院長は埼玉県内の保健所に確認し、外来診療を取りやめた。ほかの患者はいなかったが、院長は濃厚接触者とされた。感染している可能性があるとは思わず、不足するマスクを使えなかったという。特段の症状はないが、一部の患者に電話診療で対応している。

昨今ピロリ感染疑いの患者が肩身が狭いのは事実で、救急搬送なども各地で受け入れ不能と断られた事例が報じられているだけに、心情的には理解出来る行動と感じます。
一部では患者が出た家庭に投石されると言った論外の事件も発生しているそうで、一昔前のエイズ差別などに通じる感染症絡みの差別が久しぶりに顕在化した印象ですね。
ただ今回の場合医院としては非常に大きな損害を受け、下手をすれば閉院ですから損害賠償ものですし、これが大病院であれば閉鎖で地域医療に多大な影響もあるでしょう。
このところ医療現場の混乱が報じられることで各地でサポートの動きも出ている一方で、現場スタッフに少なからず影響を及ぼすこんな困った風潮も出ているそうです。

医療従事者や家族へ差別か 「子どもの登園拒否された」(2020年4月26日朝日新聞)

 静岡市内の医療従事者とその家族らが、保育施設への登園を拒否されたり、タクシーの配車を断られたり、差別的な取り扱いを受けたとする複数の報告が市に寄せられていることが分かった。いずれも新型コロナウイルスの感染が拡大した4月以降の事例だという。

 市によると、市内の複数の医療機関から「医療従事者の子どもの登園を拒否された」や、夜勤後に病院にタクシーを呼ぼうとしたが「配車を拒否された」などの訴えがあった。病院職員の同居家族が会社から休むことやテレワークを指示された事例もあったという。

 市はHPを通じて偏見防止の啓発を行う一方、保育施設には差別防止を促す通知を出す予定だ。(中村純)

別に静岡だけではなく全国的に同様な風潮が少なからず見られるようで、先日も東京都知事がわざわざ懸念を表明したように決して軽視できる状況ではないようです。
明確な比較データはまだ出ていないと思いますが、海外ではすでに医療従事者の感染率が高いと言う話が報じられていて、患者に多く触れるのですから当然ではありますね。
ただ世間一般から見れば、医療関係者と言えばそれだけでコロナ感染のハイリスクとも言え、可能な限り接触を避けたいと考えるのもこれまた当然とは言えるでしょう。
この辺り人間心理としては当たり前の行動ですが、当然医療従事者へのサポートが減れば現場での仕事に支障を来し、事実離職者が急増しているとも報じられています。

コロナ疑い患者の救急搬送困難事例なども同様ですが、現状ではハイリスクの人間を受け入れることの利益に対して、ほとんどの場合不利益が大きすぎると言えます。
先日軽症患者も宿泊施設に収容するとした埼玉県で、当の宿泊施設業界から受け入れられないとのコメントが出たのも、利益と不利益のバランスがとれないからでしょう。
医療業界としてもこれだけリスクをとって患者の診療に当たっているのに、マスクやガウンなど満足な防御装備すら整わないと言うのでは、全く割に合わない話ですよね。
この辺りは国や自治体がある程度強制力を持って、各方面のバランスを調整していくしかないと思いますが、国内生産分のマスクくらいは流通完全管理でよいかと思います。

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2020年4月20日 (月)

新型コロナ、日本でも医療崩壊のリスク上昇中

コロナ感染者急増でにわかに医療崩壊の危惧される状況となっていますが、先日から話題になっているのがこちらのニュースです。

「無給医」も新型コロナ患者治療の前線に 医師不足のため(2020年4月16日NHK)

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、患者の治療にあたる大学病院で、医師不足のため、大学院生などのいわゆる「無給医」も、その前線に立たされ始めていることがNHKの取材でわかりました。労働者としての権利が認められにくいことから、現場からは不安の声も上がっています。
(略)
NHKの取材に応じた「無給医」によりますと、所属する関東の大学病院では今月から、新たに100人以上の医師が交代で新型コロナウイルスの患者の治療にあたることが決まり、医師のリストが配付されましたが、このうちおよそ3分の1が大学院生で、いわゆる「無給医」だったということです。
この大学病院では「無給医」の待遇改善を求める国の指摘を受けて去年から給与が一部支払われるようになりましたが、雇用契約はないままで、雇用保険への加入もないといいます。

職場からは新型コロナウイルスへの対応を指示されただけで、危険手当が出るかどうかや感染した場合に労災が認められるかなどについては説明がないということです。
さらに、感染を広げないため外部の病院でのアルバイトを断られる事例も出てきているということで、長期化すると生計を立てられなくなると懸念しています。
この「無給医」は「感染を確認するPCR検査を必要なときに受けられるかどうかや、感染した場合に労災が適用されるかもわからず、守ってもらえるのか不安だ。社会全体が危機に直面する中、医師として新型コロナウイルス対応にあたる責務があると感じているが、せめてきちんとした補償をしてほしい」と訴えています。
(略)

先日はイタリアで医学部生の医師国家試験受験を免除し、卒業を前倒しした上で現場に投入する「学徒動員」が報じられていましたが、日本にもこうした状況があります。
基本的には従来の無休医問題の延長線上にある話ですが、今回感染症に暴露され自ら罹患するリスクを負ってのことだけに、補償もないままの強制動員は問題ですね。
他方でこれら無休医を労働者だと認定してしまうと多大な財政的負担が発生するだけに、大学当局としてもどう扱うべきか迷っているところではないかと想像します。

いずれにしても労働者として弱い立場にある無休医を搾取する構図には違いありませんが、医師として見れば他にも働き先はあるだけにまだましだと言う意見もありますね。
この点は従来から待遇が気に入らなければ辞めればいいとは言われてきたものですが、昨今大学病院に限らずこの感染リスクに恐れを抱く医療従事者は少なくないようです。
特にマスクやガウンなど防護のための装備も不足がちで、十分な自己防衛を出来ない状況での診療を強いられているのが現状ですが、国もようやく動き出したようです。

医療機関支援へ診療報酬倍増=医療マスク、週内に1000万枚配布―安倍首相会見(2020年4月18日時事通信)

 安倍晋三首相は17日の記者会見で、新型コロナウイルスの対応に当たる医療従事者への支援策として、医療の公定価格となる診療報酬について「倍増するなど待遇の改善にしっかり取り組んでいく」と表明した。

 診療報酬を2倍にするのは、新型コロナウイルスに感染し、体外式膜型人工肺(ECMO)や人工呼吸器が必要な重症患者が集中治療室で入院している場合や、中程度の入院患者への対応など。医療機関がECMOなどの使用により通常より手厚い人員配置が必要になることから報酬を増やす。患者の追加負担は発生しない

 首相方針を受け中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関、中医協)は持ち回りで総会を開き、対応策を了承した。18日から適用される。

 また、首相は会見で、緊急事態宣言が当初出された東京都など7都府県を対象に、今週中に医療用サージカルマスクを1000万枚配布すると述べた。 

診療報酬に関しては仮に増やそうが医療機関の収入になるだけで、現場のスタッフに回らないと言う批判もありますが、実際外出自粛で患者数は減っていると言います。
施設の収入もそれだけ減っている以上、スタッフの待遇が改善する見込みも乏しいだけに、収入面で当面の補償が得られるなら助かると言うのも事実でしょう。
他方でコロナ感染者を受け入れている施設は今まで以上に多忙なはずで、感染リスクも高いだけにより高い水準での診療報酬の手当が必要になるのは当然です。

今回のコロナ騒動を受けて、このところ医療機関の診療の継続性に国民の関心が高まっているのを感じますが、無論先立つものの担保は極めて重要です。
加えて世間から漏れ聞こえるように、医療従事者は危ないからと差別されるようなことはあってはならないのですが、その前提になるのが厳重な感染防御対策です。
この点ではマスクなど必要な装備がきちんと現場に届けられるかどうかですが、従来の市場原理に基づく流通に頼っていては買い占めや売り惜しみが発生するでしょう。
国は今後こうした物資の流通に関してもきちんと管理を行うべきではないかと思いますが、どこにどれだけと言う配分に関しても紛糾する余地はありそうですね。

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2020年4月13日 (月)

新型コロナが当たり前の感染症になりつつある結果

まあそうなんだろうなと思うのですが、先日救急系学会が合同でこんな文書を公開したそうです。

2学会「感冒・肺炎患者受け入れ増で救急崩壊」日本救急医学会・日本臨床救急医学会(2020年4月10日臨床ニュース)

 日本救急医学会と日本臨床救急医学会は4月9日、学会員や救急医療関係者に向け、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する文書を公開した。救命救急センターでは肺炎疑い患者の受け入れ増加に伴い、本来の重症救急患者の診療が不可能になる「救急崩壊」も起きていると説明。一方で、救急患者は全て、COVID-19患者として対応するよう求めている。
 「学会員からの救急医療体制の崩壊に伴う窮状を訴える声が寄せられている」と両学会。文書で、学会員ならびに行政関係者らにCOVID-19に関わる救急医療の現状と課題を整理している。また、学会員に対し、院内や自身の家族への二次感染リスクを減少させるため、全ての救急患者は発熱などの症状がない場合でもCOVID-19患者として対応するよう求めた。

発熱や呼吸器症状のある患者は、一般診療所等での診療を断わられることが多くなったため、救急医療機関とくに初期救急医療施設や ER 型救急施設では、COVID-19 疑いの外来患者への対応の負担が著しく増加している(COVID-19 の影響)
救急隊からの搬送依頼の中で、発熱や呼吸器症状を訴える患者を受入れる病院が少なくなっており、救急搬送困難事例が増加している(救急搬送困難)
その結果、肺炎疑いの患者等は、ほとんどの場合救命救急センターで受入れざるを得ない状況となっており、本来の重症救急患者の受入れができなくなっている(救急崩壊)


特に、心筋梗塞、脳卒中、多発外傷などの緊急を要する疾患においては、治療のタイミングを逸することが危惧される(救急崩壊)
その一方で、無症状、あるいは COVID-19 ではない疾患や外傷として受入れた救急患者が、後にCOVID-19 であったと判明する事例も増えつつあり、迅速検査の必要性が強調されている(迅速コロナ検査の必要性)
このような現状のなかで、救急医は外来診療から集中治療室での重症コロナ肺炎治療まで、初期、二次、三次救急のいずれの場面においても最前線に立って COVID-19 に立ち向かいつつ、救急医療体制を維持するために日夜奮闘している(救急医療体制の維持)
しかしながら、陰圧室の数は十分でなく、サージカルマスク、N95 マスク、ガウンなどの個人防護具は圧倒的に不足しており、救急医療に携わる医療者の安全が確保できないため、COVID-19患者への対応が極めて困難な段階に至っている。これは救急崩壊を加速しかねない重大な懸念事項である(個人防護具の不足)
(略)

関連各学会も相次いで類似のコメントを打ち出しているそうですが、これだけ患者数が増えてくれば医療現場のマンパワーに大きな負担がかかるのは当然です。
すでに海外では人工呼吸器を誰に使うかなど、限られた医療リソースをどう使うかに関してトリアージがなされており、患者の選別が行われている状況です。
これに対し日本では検査の段階で一定の選別が行われていて、先日もさいたま市の保健所長が軽症者で病床が埋まらないよう意図的に検査を控えていたと公表していました。
これも新型コロナを指定感染症とした結果、感染していると確認されれば入院隔離を行う原則があったからですが、今後はこの原則が順次改められることになりそうです。

東京 軽症患者などのホテルへの移送始まる 新型コロナ(2020年4月7日NHK)

東京では新型コロナウイルスに感染して入院している人のうち、軽症の患者や症状のない人の宿泊施設への移送が7日から始まり、都が借り上げたホテルに11人が入りました。
(略)
今後は、都の職員と看護師が24時間態勢で対応するほか、日中は医師も常駐し、毎日検温や健康状態の観察を行います。

滞在する人たちは基本的に客室の中で過ごし、食事の際は1階のフロントに置かれた弁当を自分で取りに行く形になるということで、午前中報道陣に公開された客室の内部はふだんと変わらず、廊下には「居室内でお過ごしいただき、出歩かないようお願いします」と書かれた紙が貼られていました。
費用は全額公費で賄い、24時間間隔を空けて2回検査を行い、いずれも陰性なら自宅に戻れるということで、滞在期間は平均で1週間程度になる見込みです。

東京都感染症対策課の岡本香織担当課長は「このホテルでノウハウを確立して取り組みを拡大し、重症の患者がきちんと医療を受けられる体制を作りたい」と話していました。

軽傷者を病院で受け入れずとも良くなったことで、病院の病床管理としては楽になると思いますが、その結果検査数を制限する方針がどう変わっていくのかです。
感染者であっても軽症であれば入院させずともよく、自宅なりホテルなりで隔離しておけば良いとなると、今後は検査件数を増やし積極的に感染者を把握するべきでしょう。
この辺りは従来の季節性インフルエンザなどと同様の方針と言えますが、そうであっても従来になく多くの感染症患者が医療現場に押し寄せてくることになります。
すでに各施設でも不要不急の検査や手術などを先送りする対応を取っていると思いますが、こうした動きが今後の働き方改革にどう影響するかも注目されますね。

すでに他の業界でも在宅勤務の推進に伴い、従来のような就労時間や残業代の計算方法では対応出来ないなど、数多くの課題が明らかになってきています。
医療現場の場合でも何が不要不急の医療行為か考える習慣を身につけた上で、従来少し無理をして行っていた行為も不要不急なら先送りする習慣が定着するかどうかですね。
日本同様国民皆保険制度を持つイギリスでは、一頃予定手術は数ヶ月待ちが当たり前だったそうですが、数ヶ月待てる手術であれば実際のところ急ぐ必要はないわけです。
診療ガイドラインなども今後は実際的なマンパワーの限界を加味した上で、無理なく現場で受け入れ可能な医療水準と言うものを見直す必要が出てくるかも知れませんね。

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