心と体

2018年8月20日 (月)

働き方改革、医療現場にも続々影響

印象的にも非常に目立ってきていると感じていたのですが、実際にこのところ急増していると言うのがこちらのニュースです。

残業の賃金不払い446億円 1年で319億円の異常な急増、「働き方改革」影響?(2018年8月10日産経新聞)

 残業などの割増賃金を支払っていない企業に対し、労働基準監督署が是正指導した結果、平成29年度は総額約446億円が労働者に支払われたことが、10日公表された厚生労働省の調査で分かった。前年度は約127億円で、1年間で319億円の急増。過去最高の数値となった背景には、「働き方改革」が影響しているという。

 厚労省によると、割増賃金を支払わなかった企業(1企業で合計100万円以上の不払いが対象)は1870(前年度比521増)で、対象労働者は20万5235人(同10万7257人増)と、いずれも過去最多を更新。割増賃金の不払い総額はこの10年間、120億円前後で推移しているが、29年度は異常な急増値を示した。

 厚労省によると、働き方改革で、残業や賃金の見直しが急速に拡大し、企業の改善の意識が高まっている。監督指導の対象となった企業では、タイムカードやパソコンのログ記録と実働時間との隔たりがないか確認するなど、対策が行われているという。

このところの労働力不足を背景に労働者側の発言力が強くなってきている印象がありますが、長年賃金も低く据え置かれてきた中で労働力の搾取に対する不満もさぞやたまっていたのだろうとは感じます。
一方で取り締まる側としても近年労基署が空気を読まずに?現場に踏み込んできている印象がありますが、いわゆる働き方改革の影響であるとすれば歓迎すべき流れであり、雇用者側の意識改革を期待したいですね。
こうした動きに医療業界も全く無関係ではありませんが、各種医療系団体が経営者目線から必死で現状維持を図ろうと抵抗している中で、医療現場の改革は外圧を中心にして進んでいきそうな気配があります。

九州内14中核病院に労基署勧告 違法残業や未払い 西日本新聞調査(2018年08月02日西日本新聞)

 九州の35中核病院のうち、少なくとも14病院が、違法な長時間残業や残業代未払いなどで労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが、西日本新聞の調査で分かった。回答した病院の約6割に上る。さらに長時間労働を是正した結果、10病院で患者に影響が及んでいる。医師不足に悩む地方の医療が、医師の長時間労働で支えられている実態が浮き彫りになった。
 7月上旬、特定機能病院や救命救急センター、総合周産期母子医療センター、基幹災害拠点病院に認定されている九州の35病院にアンケートを実施。24病院が回答した(回答率69%)。

 2013~17年度に是正勧告を受けた14病院は、新別府病院(269床、大分県別府市)から聖マリア病院(1097床、福岡県久留米市)まで規模はさまざま。勧告内容(複数回答)で最多は、労使協定(三六協定)で決めた上限を超えて労働させる違法残業で11病院。済生会福岡総合病院(福岡市)や北九州市立医療センターなどだった。複数の病院が「過労死ライン」の月80時間を超える協定を結んでおり、聖マリアでは月150時間の協定を上回っていた。
 次いで、残業や深夜労働で2割5分以上の割増賃金を払わなかったとする残業代未払いが、国立病院機構嬉野医療センター(佐賀県嬉野市)など4病院。「8時間超の労働で1時間以上の休憩」「1週間に1日以上、もしくは4週間に4日以上の休日」など、休みの規定違反も4病院あった。
 是正に向けた改革(複数回答)では、10病院は患者に直接影響していた。本人・家族への病状説明を原則、平日日中の診療時間内に限定したのが6病院、主治医が入れ替わる複数主治医制導入が5病院あった。聖マリアは今春から、外来診療の縮小や手術数の制限に踏み切った。済生会福岡総合は土曜外来を廃止した。

 医師の働き方改革を巡っては、厚生労働省が昨年8月に検討会を設置し、議論を続けている。6月末成立の働き方改革関連法は、残業時間の上限を原則「月45時間かつ年360時間」と定めるが、医師への適用は5年間の猶予が認められた。

百歩譲って当面医療現場の違法残業を何とか容認するとしても、残業代をきちんと支払わないことに対してどのような抗弁の余地があるのか疑問なのですが、労基署には引き続き空気を読まない介入を期待するところです。
かつては「労基署に相談しても医師と判った途端電話を切られた」などと言う都市伝説もあったそうですが、今後こうした外圧によって違法行為を平然と継続する病院には厳正な社会的処罰が下されていくことになるのでしょう。
その結果何が起こるのかですが、すでに高度な医療を提供する特定機能病院の1/4が診療体制や患者サービスの縮小を実施・検討しているとも言い、ようやく身の丈に合った運営に改善する動きが出てきました。
全国統一の公定価格により日本の医療現場は今まで顕著な薄利多売を行ってきましたが、リソースの制約から多売がこれ以上困難であるとなった場合、どのように利益を確保していくべきかが今後の課題になりそうですね。

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2018年8月15日 (水)

教育現場では一足早く公的未収金対策がとられそうな気配

以前から問題となっている給食費未納の件について、先日こんなニュースが出ていました。

給食費管理、学校から市区町村へ=教員の働き方改革で指針―文科省(2018年8月14日時事通信)

 文部科学省は、教員の働き方改革の一環で、給食費の徴収・管理業務の負担を減らす方法に関するガイドラインを今年度中に作成する。

 給食費を学校内で管理する私会計ではなく、市区町村が管理する一般会計として扱い、教員の負担を軽減している事例を収集。人口規模に応じた徴収の工夫などを紹介する。

 給食費の徴収・管理は、未納者への対応がネックとなっている。保護者に督促するため、教員が夜間や休日に個別面会することもあり、時間外労働の一因となっている。 

以前から断続的に取り上げて来たこの問題ですが、公立小中学校では約半数の学校で未納学童が存在すると言い、全体平均での未納率はおよそ1%弱であると言います。
その程度であれば大したことはないと思うかも知れませんが、給食の経費自体が昨今非常にギリギリのものとなっていて、給食費を値上げしなければ質が保てないと言われる中で、未納者の存在は小さくありません。
日本では悪質な保護者に限って弁護士に回収を委託するなどの対策が始まったばかりですが、アメリカでは未納者には給食が出なくなると言いますし、イギリスでも先日親の名前を公表すると言う学校が出たそうです。
イギリスの事例では賛否両論あるそうですが、興味深いのは学校側がもっと対策を講じるべきと言う意見もある点で、多忙過ぎて給食費の回収どころではない日本の学校現場とはまた事情が違うのでしょうか。

さすがに教師職の激務がこれだけ世間的に報じられている中で、日本ではこれ以上教育現場の負担を増やせとは言い出しにくい現状であり、今後自治体が対応するとなれば基本的に歓迎すべき方向だと思いますね。
今回のニュースを見て同様に未収金問題に悩んでいる医療現場でも同様の対策が取れないものかと感じるのですが、病院が一定の努力を払っても回収出来ない場合保険者が回収すべしと言う強制徴収制度があります。
これも実際には保険者が言を左右して実施しないとも聞くのですが、本来的には保険者が対応すべき問題であると言う声は少なからずあり、またそもそも保険証を出している保険者こそ最も強制力を発揮しやすいはずです。
医療側にも応招義務との絡みで、患者側が未払いだろうが何だろうがとにかく公平平等に診療しなければと言う誤解も未だ解けていませんが、医療とはあくまで契約関係に基づく行為であると言う原則を再認識すべきですね。

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2018年8月13日 (月)

東京医大女子冷遇問題、女医達からは意外な?反応も

先日以来延焼が続いている東京医科大学の入試問題ですが、先日興味深い調査結果が出ていました。

女性医師の6割「東京医大の女子減点に理解」背景に無力感か(2018年8月8日NHK)

東京医科大学の入試で女子が一律に減点されていた問題について、女性医師を対象にアンケート調査をした結果、大学の対応に何らかの理解を示す人が6割を超えたことがわかりました。専門家は、医師の長時間労働に女性医師が無力感を感じていることの表れだと指摘しています。

東京医科大学は10年以上前の入試から女子の受験生の点数を一律に減点し、合格者を抑制していたことが明らかになりました。
この問題について、女性医師向けのウェブマガジンを発行している企業がネット上でアンケートを行い、103人から回答を得ました。
このなかで、大学の対応について、意見を聞いたところ「理解できる」と(18.4%)「ある程度理解できる」を(46.6%)合わせた回答は65%に上りました。
その理由を聞くと「納得はしないが理解はできる」とか「女子減点は不当だが、男性医師がいないと現場は回らない」といった意見、さらに「休日、深夜まで診療し、流産を繰り返した。周囲の理解や協力が得られず、もう無理だと感じている」など大学の対応がおかしいと感じながら厳しい医療現場の現状から、やむをえないと考える女性医師が多いことがわかりました。

これについて、産婦人科医で、日本女性医療者連合の対馬ルリ子理事は「医療現場はそんなものだという諦めが強い。医師は24時間人生をささげなくてはいけないと信じられてきたので、少しでも戦力から離脱するとキャリアを諦める医師が多かった。働き方の工夫で男女問わず早く帰れるようにすることは可能だ。今回の事をきっかけに、医療現場を変えなければならない」と話しています。

今回の騒動が医療現場を変えていく一助になればもちろん良いのでしょうが、現場の状況にしんどさを感じているのは別に女医だけではなく、男性医師も全く同じように感じていることは各方面から聞こえてきます。
要するに女医に限らず医療現場全体の問題であることは明白なのですが、その現状に対する対策として何らかの入り口での規制なり誘導なりについて、少なくとも現場当事者からは一定の理解は得られそうだと言うことでしょうか。
今回の東京医大の方法論はさすがにいささかどうよですが、当の女医の側からも男女間の不平等な取り扱いに一定の理解を示す発言はあるようで、先日はこんなコメントが賛否両論を呼んでいました。

西川史子、東京医科大学の女性一律減点は「当たり前」と発言し物議 賛同の声も(2018年08月05日しらべぇ)

5日放送の『サンデージャポン』(TBS系)で、東京医科大学が女性受験者の点数を一律に減点していた問題について、西川史子が独自の見解を展開。
その内容が物議を醸している。

■一律減点は「当たり前」
池田エライザや壇蜜が東京医科大学の対応を批判するなか、話を振られた西川史子は、「当たり前ですこれは。(医科大に限らず)全部がそうですよ」と発言。スタジオを驚かせる。
続けて西川は、
「上から採っていったら女性ばかりになってしまうんですよ。女の子のほうが優秀なんで。だから眼科医と皮膚科医だらけにになってしまうんですよ世の中が。重たい人の股関節脱臼を背負えるかといったら女性は無理なんですよ」
と指摘し、さらに、
「外科医は少ない。やっぱり外科医になってくれるような男手が必要なんですよ。お腹が大きくては手術はできないんです。だからやっぱり女性と男性の比率は考えておかなければいけないんです」
と語った。科によって「少ない、多い」があり、男女で採用比率を考えなければならないため、女性受験生の一律減点は「ある程度仕方ないのではないか」と持論を展開した。

■男性のデーブ・スペクターが反論
これに反論したのが、男性のデーブ・スペクター。
「これは悪いけど、6万円の受験料も取っていて、不正ではなくて詐欺です。そのために勉強しているわけですよ。そういう(労働)問題は、すぐ辞めていくとか、妊娠したら休むとか、日本だけじゃなくて欧米でも起きている問題で、医療現場の働き方改革が必要。
男性だって100時間働かされて、寝不足で判断力が鈍って男性も問題になっている
と指摘する。西川はこれにも「男性と女性でできることは違うから、それは比率として…」と反論するが、デーブは「でも受験段階で(減点)は良くないですよ」とバッサリ。
なお細野弁護士によると、東京医科大学の措置は提訴があれば「人権侵害になる可能性が高い」とのこと。テリー伊藤が「事前に言っておけば大丈夫?」という質問には「それなら不公平ではない」とコメント。
西川史子も、「事前に比率をアナウンスする」という提案には賛同。東京医科大の対応がすべて正しいとは考えていないようだ。
(略)
西川史子の意見に賛同するか否かは個人によって判断が分かれるところだが、医療の現場に「男性と女性でできることは違う。男性も必要」と考えている人が存在することは、間違いない様子。
一方で、「入学試験で女性だけ一律減点する」東京医科大学のやり方は、理解を得られていない
「医療の現場で何が起きているのか」を踏まえ、今後医師を目指す若者をどのように採用していくのかなどを、感情に流されず冷静に議論し、現場に則したシステムを構築する必要があるのではないだろうか。

西川氏の発言自体も取り上げられ方に賛否両論あるようでかなり報道バイアスが加わっているようですが、全体として解釈すれば方法論に問題はあるものの、現状ではいわゆる必要悪であると言ったところでしょうか。
厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査(2016)」によれば、医療施設に従事する医師は男が240,454人で女は64,305人ですが、興味深いのは増加率が男1.7%に対して女は6.3%と差が大きい点です。
この理由として若年層ほど女医比率が高く、29歳以下では34.6%となっていることが上げられますが、医学部学生の男女差は各大学で極端な差があり、私学に限らず国公立でも格差が大きい場合があるようです。
例えば東大、京大、阪大などの一流大学では女性比率が2割以下と極端な差が見られますが、これらが東京医大同様の忖度の結果なのかどうかで、事実過去には年齢による差別的対応も報じられていますよね。

こうした極端な男女差に関しては厚労省も今回問題視し、緊急に全医学部に男女差の理由を確認するとのことですが、昔は医学部志望の女子自体少なかったことを考えれば隔世の感があります。
ちなみに診療科の偏在ですが、比較的に男女差があるのが内科(21.2対15.5)、外科(5.6対1.3)、整形外科(8.4対1.6)、小児科(4.6対9.0)、産婦人科(2.9対6.0)、皮膚科(2.0対6.7)、眼科(3.4対7.8)などです。
救命救急などにも大いに関係する麻酔科も2.3対5.5と女性上位で、必ずしも女性がメジャー診療科を回避しているとか当直のない診療科ばかり選択していると言うわけでもないようですが、外科系忌避とは言えそうですね。
体力的に厳しい科を避けるのはケシカランと考えるか、出産や妊娠など生理的な理由でキャリアが中断することを見越しての選択と受け取るのか、女性に限らず医師にも個人差があることを前提にした議論が必要でしょう。

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2018年8月 8日 (水)

働かされすぎた医師と、働きたい医師のニュースが話題に

本日まずは大きな話題になったあの事件について、ある意味予想されたとも言えるこんな続報が出ていました。

新潟市民病院で研修医過労自殺、市側は争う姿勢…第1回口頭弁論(2018年8月2日読売新聞)

 新潟市民病院の女性研修医(当時37歳)が2016年1月、長時間労働などが原因で自殺した問題で、病院を運営する市に安全配慮義務違反があったとして、遺族が市に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が1日、新潟地裁(今井弘晃裁判長)であった。市側は「自殺は予見できなかった」などとして請求棄却を求め、争う姿勢を示した

 原告代理人によると、研修医は15年4月から市民病院に勤務。月100時間超の時間外労働が続き、最長の8月には162時間に上り、9月頃にうつ病を発症。16年1月に自殺した。新潟労働基準監督署は17年5月、研修医について「過重労働が自殺の原因」として労災認定した。

 遺族側が昨年9月に労働審判を申し立てたが、不成立となり、訴訟になった。遺族側は「自殺と長時間労働には因果関係があり、市は是正する義務があった」と主張。市側は「勤務状況からはうつ病を確認できず、自殺は予見できなかった」としている。

新潟市民病院の女性医師過労自殺 遺族が安全配慮義務違反と提訴、市は争う姿勢

 新潟市民病院(新潟市中央区、写真)に勤務していた女性医師(当時37歳)が「極度の長時間労働」の結果、うつ病を発症して自殺した事案で、遺族が病院を運営する新潟市に安全配慮義務違反があったと提訴。これに対し、新潟地裁で8月1日に行われた第1回口頭弁論で市側は、因果関係が明らかでないなどと争う姿勢を示した。

 遺族は2017年11月2日、新潟市民病院が実施した労働環境改善策で、医師の自己研鑽時間を一律に労働時間から除外した点を問題視し、このままでは労働環境の是正が期待できないと労働審判に申し立てた。
 しかし、新潟市がうつ病の罹患、過労とうつ病罹患との因果関係、さらに安全配慮義務違反などの点で真正面から争ったため、和解成立の余地がなく、労働審判は不成立となった。第1回期日で労働審判は終了となり、労働審判法の規定によって自動的に提訴へと移行した。
 8月1日の第1回口頭弁論で、遺族側は改めて、女性医師が自殺に至ったのは病院を運営する市の安全配慮義務違反に当たると主張。これに対して、市側は過労と自殺との因果関係は明らかではないなどとして、争う姿勢を示した。

月160時間以上の「極度の長時間労働」でうつ病を発症

 女性医師は後期研修医として、2015年4月から新潟市民病院消化器外科に勤務。9カ月後の2016年1月に、市内の公園で死亡しているのが発見された。警察は自殺と判断したが、その原因を明らかにしたかった遺族は代理人を通じて調査を実施。その結果、同病院での時間外労働時間が4カ月連続で月200時間を超え、勤務開始から9カ月間の月平均時間外労働時間は190時間以上だったことが分かった。このため遺族は、「自殺したのは過重労働が原因」として2016年8月、新潟労働基準監督署に労災認定を申請した。
 同労基署は2017年5月31日、厚生労働省が「極度の長時間労働」と定める「月160時間以上の時間外労働」が認められ、その結果、うつ病を発症して自殺に至ったとし、過労死と認定した。
 同年6月2日、労基署は新潟市民病院に対して長時間労働の是正勧告を行った。これを受け新潟市は同年6月6日、市長が臨時の記者会見を開き「新潟市民病院緊急対応宣言」を発表した。

 実は、同病院に対する長時間労働の是正勧告は2009年にも行われていた。遺族らは、自殺という労働災害の発生以前に是正勧告を受けていたにもかかわらず、過労死を防げなかった点を問題視。労災認定後も、市に対して過労死の再発防止策の徹底を求めていた。

新潟市民病院については研修医の自殺を受けて自己責任であり、改善策は講じないと公言した経緯もあり、医療機関から史上初めてブラック企業大賞にノミネートされ、見事業界賞受賞の快挙を達成されたと言います。
そもそも何故労基法で労働時間の上限が規定されているかを考えると、予見出来なかったという言い訳はかなり苦しいものがありますが、この状況から市側がどのような反論を行っていくのか注目したいですね。
いずれにせよ都市部の基幹病院の多くは多忙で過労死レベルの労働を強いられる一方、暇な病院ではそれなりに良からぬ心も働くと言うことでしょうか、こんなニュースが話題になっていました。

徳島県職員の医師バイト 3年余3800万円、免職(2018年8月3日共同通信)

 徳島県は2日、県職員として採用され、県内のへき地の病院に派遣されていた男性医師(35)が3年余りの間、勤務時間外などに、県内外の民間病院で診療のアルバイトをして約3800万円の報酬を受けていたとして、懲戒免職処分とした。地方公務員法で定める職務に専念する義務や営利企業での従事制限違反に当たるとしている。

 県によると、医師は2014年10月から今年2月、計324日間、同県や香川県の病院でアルバイトをしていた。昨年4月から今年2月には、週1回の参加が必要だった徳島大での研修に参加せずアルバイトをしていた。
 医師は自治医科大を卒業。主にへき地医療に従事する人材として採用されていた。医師は「自分の技量を高める欲求に勝てず、他の病院のアルバイトに行っていた」と話している。

バイト診療か 公務員医師を免職(2018年8月3日NHK)

自治体が運営する過疎地の病院に派遣された県職員の医師が、別の民間病院でアルバイトで当直などを行うために合わせて40日以上無断で欠勤していたなどとして懲戒免職処分になりました。
医師は3年余りにわたってアルバイトを続け、およそ3800万円の報酬を得ていたということです。

懲戒免職処分になったのは、県医療政策課の主任で那賀町が運営する過疎地の病院に派遣されていた35歳の男性医師です。
県によりますと、医師は平成26年10月から今年2月にかけて、知事の許可を得ずに勤務の時間外に徳島県と香川県の4つの民間病院で324日間、外来や当直のアルバイトをしていたということです。
このうち去年4月から今年2月までの間は、大学病院で週1回研修を受けるとうそを言ってアルバイトをし、職務にあたる研修をあわせて42日間欠勤していたということです。

県は2日付けで医師を懲戒免職処分にしました。県によりますと、医師はアルバイトをしていた3年余りの間でおよそ3800万円の報酬を得ていたということです。
県に対し医師は「違反だとわかっていたが、技術を高めたいという欲求に勝てなかった」などと話しているということです。
県保健福祉部の三好誠治副部長は「県民の信頼を損ない申し訳ない。研修を行うなど再発防止を徹底したい」などと述べ、謝罪しました。

色々と言いたいこともあろうかと思いますが、一般論として僻地自治体病院では給料自体はかなり優遇されていて、都心部の病院と比べて1.5倍~2倍程度の高給が担保されている場合が珍しくありません。
この点で都市部で加算が付いたりする一般の職業とでは給与体系の常識が異なると言えますが、興味深いのは一般に多忙な病院ほど給料が安く、暇な病院ほど給料が高いと言う法則が成立しそうだと言う点でしょうか。
今後医師数が増えてくるにつれてこの種の逆転現象が解消されていくのかどうかですが、要するにそれだけ高給を支払わなければ僻地病院に医師などやってこないと言うことで、需要と供給から成り立つ市場価格だとも言えます。
そうした前提を承知した上で考えると、記事では高いバイト代を取っていたことを批判する論調ですが、主たる目的はやはり医師の主張するように「技術を高めたいと言う欲求」があったのではないかと言う気もしますね。

ちなみに自治医大の場合現在のいわゆる地域枠の原型とも言える制度で、在学中の2000万円余の学費を借金と言う形で背負わされ、卒業後9年間の地域医療に従事することで返済免除になると言う仕組みです。
この地域医療なるものも本当の僻地診療から、県庁所在地での勤務まで様々なスタイルがあるそうですが、医師として最も伸びる時期に指導者もいない僻地病院に拘束されるのでは面白くないと考える人もいることでしょう。
地域枠にしても同様ですが、この辺りは制度的に例えば卒後30年なりの長期間の間での御礼奉公を認めると言った制度に変更してもよさそうですが、自治医大の場合すでに毎年の赴任が予約済みで難しいのでしょうか。
今回の先生もあまりに勉強熱心なあまりに僻地の勤務が耐えられなかったのでしょうが、結果的に先生本人にとっても良い形で終わったとも言え、心機一転し今後のますますの研鑽を期待したいところですよね。

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2018年8月 6日 (月)

東京医大の不正入試問題、予想外に大きく炎上中

官僚の子息の不正入学問題で騒ぎになっていたはずの問題ですが、いつの間にか妙な方向に飛び火し延焼していることが報じられています。

東京医大、女子受験生を一律減点…合格者数抑制(2018年8月2日読売新聞)

 東京医科大(東京)が今年2月に行った医学部医学科の一般入試で、女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが関係者の話でわかった。女子だけに不利な操作は、受験者側に一切の説明がないまま2011年頃から続いていた。大学の一般入試で性別を対象とした恣意(しい)的な操作が明らかになるのは極めて異例で、議論を呼びそうだ。

 東京地検特捜部も、文部科学省の私大支援事業を巡る汚職事件の捜査の過程で、同大によるこうした操作を把握しており、同大は現在、内部調査で事実関係の確認を進めている。

 同大医学科の今年の一般入試は、数学・理科・英語のマークシート方式(数学の一部を除く)で1次試験(計400点満点)を実施。2次に進んだ受験者が小論文(100点満点)と面接を受け、1次の得点と合算して合否が決まった。

離職の恐れで女性医師敬遠、関係者「必要悪だ」(2018年8月2日読売新聞)

 東京医科大(東京)医学部医学科の一般入試で、同大が女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが明らかになった。同大出身の女性医師が結婚や出産で離職すれば、系列病院の医師が不足する恐れがあることが背景にあったとされる。水面下で女子だけが不利に扱われていたことに対し、女性医師や女子受験生からは「時代遅れだ」との声が上がる。

 「いわば必要悪。暗黙の了解だった」。同大関係者は、女子の合格者数を意図的に減らしていたことについてそう語る。

 この関係者によると、同大による女子合格者の抑制は2011年頃に始まった。10年の医学科の一般入試で女子の合格者数が69人と全体(181人)の38%に達したためだ。医師の国家試験に合格した同大出身者の大半は、系列の病院で働くことになる。緊急の手術が多く勤務体系が不規則な外科では、女性医師は敬遠されがちで、「女3人で男1人分」との言葉もささやかれているという。

東京医科大、女性支援で8000万円超の補助金受ける(2018年8月4日TBSニュース)

 女子受験生の得点を一律に減点していたとされる東京医科大学が、2013年に女性の活躍を支援する国の事業に選ばれ、3年間で8000万円を超える補助金を受けていたことが分かりました。

 東京医大などによりますと、東京医大は2013年、文部科学省の「女性研究者研究活動支援事業」に選ばれ、女性医師や研究者の出産・育児と仕事の両立を支援するため、3年間で8000万円を超える補助金を受けました
 当時、東京医大はそれまでの10年で医学科の女子学生が50人増え、学生全体に占める割合も26.9%から32.4%に増加していました。一方で、同じ時期に女子受験生の得点を一律に減点し、女性の入学者数を意図的に少なくした疑いがもたれています。
(略)

女子だけでなく、3浪の男子も抑制…東京医大(2018年8月2日読売新聞)

 東京医科大(東京)が医学部医学科の一般入試で女子受験生の合格者数を抑制していた問題で、同大による内部調査の詳細が判明した。今年の一般入試では、受験者側に知らせないまま、減点などで女子だけでなく3浪以上の男子の合格者数も抑える一方、5人前後の特定の受験生には加点していた。一連の得点操作は、臼井正彦前理事長(77)の指示で行われていた。

 同大は週内にも調査結果を公表する見通し。文部科学省の私大支援事業を巡る汚職事件で、臼井前理事長を贈賄罪で起訴した東京地検特捜部も、一連の操作を把握しているとみられる。
(略)

ひとまず是非は別にして方法論に関しては色々とあるでしょうが、極めて主観的な面接の採点で忖度すると言うのであればまだしもバレなかっただろうに、あまりに直接的かつ未熟なやり方であったなと言う印象を受けました。
女性が増えることを点を問題視最初から男女別に定員を決めればいいことで、学内設備の問題とか幾らでも言い訳は効くでしょうに、直接的な点数操作などするものだからそれは誰も表立って味方には立てないでしょう。
この点で興味深いのは3浪以上の学生についても調整していたことに対してはさほど世間的には批判を受けていない点ですが、私大の選抜方法は別に一律でなく裁量の余地があっていいと言う意見は少なくありません。
実際にどう見ても入試で優秀な点数をとっているようには見えなくても、一芸に秀でていると言った理由で入学した人々の存在はむしろ称揚される傾向すらあって、この辺りの線引きはかなり微妙なものがありますね。

過去には年齢による足切りが問題になった複数の事例があり、さすがに公立大学では恣意的な選抜はいささかどうよと言う意見もあるとは言え、他方で医学部に限ってはやはり実戦力の選抜が必要と言う声もあります。
女医に関しては男医に比べて戦力的に6掛けだ、半人前だと言う意見は根強くあって、現実的に人材不足の医療現場でこれでは困ると言われればなるほどそういうものかと納得してしまいそうですが、では対策はどうするかです。
医学部の女医比率が高まっており、女医の戦力が劣ると言うならその分大勢の医師を養成すればいいはずですが、女医の労働環境を整えようと主張する日医が他方で医師養成数削減を主張するのもおかしな話ですね。
この辺りはフルタイム労働を当たり前の前提とし、労働内容や技能ではなく卒後年数で一律に決まりがちだった医師の報酬体系にも問題がありそうで、柔軟な働き方は別に女医でなくとも需要はありそうですけれどもね。

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2018年8月 1日 (水)

最近目にしたニュース三題

今日は最近目にした興味深いニュースを紹介してみますが、まずは先日大いに話題になっていたのがこちらのニュースです。

「おい、生ビール」なら1杯1000円 頼み方で値段が変わる居酒屋のユニーク貼り紙、運営元に話を聞いた(2018年7月23日ねとらば)

 頼み方が「おい、生ビール」なら1000円……居酒屋の壁に貼られた貼り紙がTwitterで「素晴らしい」と注目を集めています。
 貼り紙は東京・神田の「大衆和牛酒場 コンロ家」というお店に貼られていたもの。「おい、生ビール」の他にも、「生一つ持ってきて」なら500円、「すいません、生一つください」なら380円(定価)と頼み方に応じて変わるビールの値段が書かれています。その下にはさらに「お客様は神様ではありません。また、当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません」とも書かれています。
 Twitterユーザーの銀嶺さんが「これ好き」と投稿すると、「最高の店主」「店員を大事にしてる」「行ってみたい」と大きな反響が寄せられ、飲食関係者からは「うちでもやりたい」「このお店の気持ちが分かる」という声が上がりました。一部には「こういう店には行きたくない」といった否定的な意見や、こういった貼り紙をしなければならない現状を嘆く人も見られました。
(略)
 貼り紙を見たお客さんの反応について聞いてみると、「面白いね」とコメントしたり、写真を撮ったりする人が見られ、今のところ明らかに気分を害した、クレームが入ったなどの報告はないそうです。
 また実際に「おい、生ビール」で1000円を請求することはあったのかも聞きました。「夢を壊すようで恐縮ですが、請求した実績はありませんし、スタッフにも請求するような教育は行っておりません」と蒲池さん。
 「実際に『おい、生ビール』と言われたところで、特に生ビールの価格、質は何も変わりません。当社スタッフがいつもよりほんの少しだけ嫌な思いをするだけです。あくまでも当社のコンセプトの一つである『売れることより、面白いこと』を表現したジョークツールの一つです。今回話題となっております貼り紙などを『面白いね』と言ってくれるような方を、当社は大切にしていきたいと考えております」(蒲池さん)
(略)

オーダーの仕方が乱暴だからすなわち問題顧客と言うわけでもないのでしょうが、少なくとも赤の他人には相応に礼儀を払えるタイプの顧客の方に、問題顧客は少ないと言う予測はそれなりに妥当に感じられます。
こうした張り紙で客層が変わったり問題行動が減ったりするものかは今後の検証を待ちたいところですが、いきなりこれでカチンとくるタイプの顧客はそもそも利用しないでしょうし、まずは選別手段として有用かどうかです。
医療の場合は全国統一価格の定額制でこうした張り紙は難しいですが、例えば以前に取り上げた順天堂の会員制サービスなどは顧客差別化の一手段であり、当然ながら問題顧客の締め出しにも有効でしょうね。
続いてこちら、ありそうで実際にはなかなかないトラブルなのかも知れませんが、まずは記事をそのまま引用してみましょう。

余命宣告トラブル 医師から「1年」、それから5年…仕事や財産手放し困惑(2018年7月30日西日本新聞)

 「余命1年もないと医師に宣告されながら、5年たっても生きています」。難治性血液がんの成人T細胞白血病(ATL)と診断された男性から、西日本新聞の特命取材班に悲痛な声が届いた。死を受け入れ、仕事や財産などの整理も済ませたという。「何も手元に残していない。どう生きていけば…」。そもそも余命宣告とは-。
 声を寄せてくれたのは、福岡県久留米市の笠井駿さん(71)。自宅を訪ねると、日記帳をめくりながら経過を説明してくれた。

 2013年1月、顔と上半身に紅斑が現れた。同県内の病院に検査入院し、ATLと診断された。体内にウイルスHTLV1があることは知っていたという。
 ATLは主に母乳を介して感染するHTLV1が原因。保有して必ず発症するわけではないが、発症すると免疫機能が低下したり、リンパ節が腫れたりする。根治が難しく、「発症後の平均生存期間は半年から1年と短い」という研究成果もある。
 笠井さんは「医師から『次の誕生日は120パーセント迎えられない』と説明を受けた」と言う。取引先にあいさつして回り、経営する設計企画事務所を閉じた。財産は売却したり、子どもに譲ったりしたほか、親族には別れの手紙を書いた。ホスピスにも一時入所した。
 診断から5年。体に痛みがあり通院しているものの、「死」が訪れる気配は感じていない。抗がん剤治療の影響で歩行が難しくなり、車の運転もできなくなった。生きていることは喜ばしいことだが、「ATLというのは誤診だったのでは。納得できない」と憤る。

 笠井さんによると、双方の代理人弁護士がやりとりした書面の中で病院側は「次の誕生日は120パーセント迎えられない」との発言を否定。「診断に誤りはなく、治療が奏功して症状が改善した」などと説明しているという。病院側は本紙取材に「コメントを控えさせてもらう」とした。
 九州大の萩原明人教授(医療コミュニケーション学)は「医師が『120パーセント』という言葉で説明することは一般的に考えにくい」としつつ、「いさかいの原因は、医師の説明と患者の理解に食い違いがあったのではないか」と推察する。
 一般的に、余命について医師は、同じ病の患者の平均的な生存期間である「生存期間中央値」や、診断を受けて5年後や10年後に生存する患者の比率を示す「5年生存率」「10年生存率」を説明する場合が多いという。過去の多くの患者から計算された平均的なデータにすぎないが、「個人差があることを考えずに受け取られる恐れがある。医師は工夫が必要だ」という。
 患者の心理状態も影響する。「どんな患者でも動揺する。医師の説明を、自分が理解しやすいように楽観的に解釈する場合もあるし、悲観的に捉えて頭に刷り込むこともある
(略)
 患者が主治医以外の医師から意見を聞くセカンドオピニオンもあり、「財産整理など、大きな決断をする前には第三者の意見を求めた方がいいかもしれない」と萩原教授。終末期医療に詳しく、在宅ケアに取り組む「にのさかクリニック」(福岡市)の二ノ坂保喜院長は「信頼関係は当然必要だが、医師の言うことはあてにならないと思うくらいでいい」と言う。
(略)

幾ら何でも終活の手回しが良すぎるのではないかとも思うところなのですが、記事から読む限りでは治療としては非常にうまくいったケースであり、本来的には万々歳で喜ぶべき状態ではなかったかと言う印象を受けます。
ただ120パーセント云々と言った発言は一般常識としては医師が口にするものではないとも言えますが、実際患者が正しい理解に至っていなかったとは言える状況で、程度の差はあれありがちな事態でもありますよね。
死亡確定の宣告を受けたと患者が勘違いした結果、本来まだまだ生きられる状態であったにも関わらず自殺してしまったと言った事例も聞くところですが、まずは診断に誤りがあったと言う誤解は解くべきかとも思えます。
しかし医師の説明が不十分、あるは下手であったために誤解を受けるのであれば人為的な失敗としてまだしも納得出来るかも知れませんが、こちら今後発生する可能性がある問題を取り上げた記事が出ていました。

「AIがなぜ誤診」、患者に説明できない恐れも(2018年7月20日CBニュース)

総務省情報通信政策研究所は、AIのネットワーク化に関する報告書を公表した。有識者会議が取りまとめたもので、医療診断などで想定される便益や課題を提示。AIの誤診で患者の症状が悪化した場合、ブラックボックス化されていて判断の経緯などを説明できないと、患者やその家族らの理解が得られない恐れがあることを挙げている。

この報告書は、「AIネットワーク社会推進会議」(議長=須藤修・東大大学院情報学環教授)が取りまとめたもので、さまざまな分野でAIが活用されることを想定し、AIのネットワーク化が社会・経済にもたらす影響の評価を行った上で課題を整理した。
 医療診断については、AIによる画像診断で病気の早期発見や見落としの改善につながるほか、医師の負担が軽減されることを指摘。遠隔診断で専門医のいない地域でも適切な診断を受けられるようになり、「医師不足・偏在などの問題の解決に貢献できるようになる」と予測している。
 その一方で、想定される課題も挙げている。AIの誤診によって適切な治療が行われず、患者の症状が悪化した場合、「なぜ誤診したのか、AIがどのような判断をしたのか説明できないと、患者や家族などの理解が得られない恐れがある」としている。
(略)

もちろんAIを鵜呑みにする先生はいないと思いますが、現状においてもCTなどの検査レポートの記載内容に間違いがあり、担当医が診断治療を誤った場合誰が責任をとるべきかと言う問題は存在するわけです。
この場合レポートを書いたのはその道の専門家ではあるはずですが、それを解釈する担当医側もまた専門家であって、他人の書いた誤ったレポートを鵜呑みにしたのでは責任は免れないと言う考えもあるでしょう。
現実的に患者に対面し説明や治療をするのは担当医であり、幾らレポート記載が間違っていたと主張しても患者が見たことも会ったこともない検査担当者に怒りを向けるとは考えにくく、同様のトラブルはあり得る話ですよね。
当然ながらAIの活用によってこうした誤診のリスクもある一方で、それよりはるかに大きな利益もあるはずですが、総合的に見てどれだけ利益が多かろうが自分が不利益を被っても構わないと考える患者は多くはないはずです。
一人当直で専門外の救急疾患を見るような一刻を争う事態にこそAIのサポートが欲しいところですが、最終的にはAIの診断アルゴリズムにおいて何を重視するかで、開発段階での現場との摺り合わせが重要になりそうですね。

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2018年7月30日 (月)

職員過労死で国立病院機構が史上初めての書類送検

かつては一種聖域視されていた感のある医療機関に対して、このところ労基署が空気を読まずに踏み込む事例が増えてきている印象ですが、先日こんな興味深いニュースが報じられていました。

国立病院機構過労死で送検へ(2018年7月25日NHK)

宮崎県にある、国立病院機構が運営する病院でおととし男性職員が過労自殺し、労働基準監督署は男性に違法な長時間労働をさせた疑いで機構と当時の上司を近く書類送検する方針を固めました。
国立病院機構が労働基準法違反の疑いで書類送検されるのは初めてです。

おととし7月、宮崎県都城市にある国立病院機構・都城医療センターに勤める20代の事務職員の男性が自宅で自殺し、その後、過重労働による労災と認定されました。
関係者によりますと男性は電子カルテのシステムの更新を担当していましたが、都城労働基準監督署が調べた結果、自殺した年のひと月の時間外労働が多いときで150時間以上に達し、労使協定で定められていた上限の「3か月で120時間」を大きく超えていたことが分かりました。
このため労働基準監督署は、病院を運営する独立行政法人の国立病院機構と、当時の上司1人を、上限時間を超える違法な長時間労働をさせた労働基準法違反の疑いで近く書類送検する方針を固めました。
国立病院機構が労働基準法違反の疑いで書類送検されるのは初めてです。

関係者によりますと、都城医療センターにはタイムカードがなく、残業する場合は本人が勤務記録簿に手書きで記入する仕組みになっていますが、記録上では男性職員の残業時間は労使協定の上限内に収まっていたということです。
ところが労働基準監督署が男性のパソコン記録を調査した結果、違法な長時間労働の実態が明らかになったということです。
国立病院機構本部の金森勝徳職員厚生部長は「労働基準監督署の指摘も踏まえ、よりよい勤務管理に向けた取り組みを進めたい」と話しています。

医師ら医療職ではないにせよ、国立病院機構が労基法違反で書類送検されるのは史上初めての事例なのだそうで、これを機会に医療業界の正常化が進んでいくことを期待したいところですね。
労働時間は手書きの帳簿で管理されていたようで、実労働時間と明らかな乖離があったと言うことですから、職場内で明文化あるいは暗黙のルールとして残業記帳は何時間までと言った制約があったのかも知れません。
医師に対しても同様なシステムをとっている施設は少なくないと思いますが、今どきは電子カルテ記録で実際の労働時間がかなり把握しやすくなっているそうで、今後はますます摘発が進む可能性があります。
いずれにせよ医師の過労に関しては本人だけの努力ではどうにもならないものがあって、冒頭の記事でも上司が書類送検されている点に注目いただきたいところですが、この点に関して先日こんな記事を拝見したので紹介してみましょう。

月200時間超の残業…過労で起こした「死亡事故」で上司も書類送検、社会への影響は?(2018年5月12日弁護士ドットコム)

2017年の衆議院議員選挙の前日に、兵庫県川西市の選挙管理委員会の男性職員(50代)が起こした死亡事故を巡って、県警が4月23日、男性職員に加え、過労を知りながら運転を命じたとして、上司の選管事務局長(50代)も道交法違反(過労運転下命)の疑いで書類送検した。
(略)
今回の兵庫県警の判断を、専門家はどう評価するか。通勤中の「過労事故」についての事件を担当したことのある、川岸卓哉弁護士に聞いた。

●上司も書類送検「実態に即した適切な判断」
ーー今回男性職員に過労運転をさせたとして、男性職員の上司も道交法違反容疑で書類送検されました。どう評価しますか。
「刑罰の課される過労運転について、事故を起こした当事者以外の管理監督者の責任も追及されることになったことは、異例で画期的であるといえます。
しかし、これは本来は当然のことです。労働法上、使用者(会社側)には、労働者に過度に疲労を蓄積させて健康被害等を生じさせてはならないという『安全配慮義務』を負っています
今回の書類送検は、事故を起こした運転者の背景にある過労実態を適切に捉えて、真の事故責任者を処罰する判断をしたもので、実態に即した適切な判断といえます」

●刑事上も責任を問われることが明らかに
ーー今回の書類送検が与える影響について、どう考えますか。
「通勤途上の交通事故は、労働者の自己責任の範囲とされ、事業者の安全配慮義務違反が問われることはほとんどありませんでした。労災認定上も、『通勤災害』は通勤経路であれば労災認定されますが、事故の背景にある過労実態について調査されることはなく、事業者も対策を怠ってきました。
今回の書類送検によって、会社側が、過労状況に追い込んで通勤時に運転をさせた結果発生した事故について、民事上のみならず、刑事上も責任を問われる可能性があることが明らかになりました。各企業は通勤途上の過労事故を防ぐ対策を迫られると考えます」
(略)
今、社会問題となっている過労死や過労自殺について、かつては自己責任とされていましたが、裁判例の積み重ねの結果、真の責任者である会社側が責任を負うという考えが定着していきました。今後、潜在する過労事故についても、過労死の一類型として対策が進むことが求められます」

道交法違反と労基法違反では扱う主体も変わってくるわけですが、職場で過剰な業務を強いられ過労に追い込まれた被雇用者が事故を起こした場合、管理者も責任を問われることがあるとは当然の判断に思えます。
特に医師の場合法的に応招義務などと言うものを課されていることもあり、職場管理者はどうやって医師の過重労働を抑制するかの算段こそ必要になるはずですが、実際にそうした配慮が十分であるとはとても言えません。
無論可能な限りの配慮を行っても業務量が上回ると言うことはあるわけで、この場合は受診抑制や逆紹介など様々な手段も講じる必要がありますが、個々の現場医師がそれを行うのは実質的に不可能であると言えます。
この辺り最終的には全国統一の公定価格により、一定の数をこなさなければ経営が成り立たないと言う点も一因で、国としても違法労働が何故続くのかと言う点にも目を向けた対策が求められるところですね。

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2018年7月23日 (月)

一瞬の躊躇が生死を分ける局面で躊躇させないための準備

豪雨被害から一転して記録的な猛暑なのだそうで、各地で熱中症に対する警戒が呼びかけられていますが、今年は特に学童学生の死者すら出るほどの劣悪な学校生活環境に関して注目が集まっているようです。
校内に(職員室を除き)ほぼ冷房設備なしと言う地域も少なくないようですが、それ以前にあり得ない校内ルールを強要し熱中症に追い込むかのような人災的側面が注目され、早急に是正すべきだとの声が高まっています。
特にこの時期猛暑の中で運動を強いられる部活動にも批判が高まっていますが、毎年この時期に高校野球全国大会を主催し動向が注目されている朝日新聞が先日こんな記事を掲載していました。

炎天下の駐車場、車内に女児 ガラス割ろうとしたその時(2018年7月21日朝日新聞)

 炎天下の駐車場で車内に置き去りにされた子どもが、熱中症などで命を落とすケースが後を絶たない。酷暑のこの時期、パチンコ店が見回りを強めるなど、あちこちで注意が呼びかけられている。

 千葉県八千代市のマルハン八千代緑が丘店。女性従業員が昨夏、駐車場の車の中でぐったりとした2歳ぐらいの女児を見つけた。
 気温は30度を超えているのに、エアコンは動いていない。窓をたたき、声をかけても反応はない。店内のアナウンスで車の持ち主を呼び出し、警察に通報。ガラスを割ろうとした瞬間、女児が寝返りをうった。
 発見から10分後、戻ってきた両親は「短時間じゃないですか」「こんなことで子どもは死にません」。いらだった様子だったという。
 当時店長だった片山晴久さん(38)=現・静岡店長=は「保護者との温度差を感じる。夏場の車内が危ないと思っている人が少なすぎるのでは」と話す。

 赤ちゃんの寝顔の下に、「救出の為(ため)、車の窓ガラスを割る場合があります」。全国で300店以上を展開するマルハンは昨春、こんなポスターをつくり、今年5月にネットで話題になった。「割っていいのか」「託児所を作れ」という批判の一方、「子どもの命はガラス1枚より重い」と賛意も寄せられた
 八千代緑が丘店の見回りに今月、同行してみた。気温は32・5度。駐車場に日陰はなく、閉め切った車内はすぐ息苦しくなる
(略)
 山崎直樹店長(45)は「従業員も体力的にきついが、かけがえのない子どもの命を守りたい一心で回っています」。

パチンコ店に入って短時間で済むはずがない、もし短時間で本当に済むのであれば無断駐車だったのではないかと言う声もあるようですが、ひとまず子供が無事だったことで最悪の事態だけは避けられたようです。
パチンコ店の皆さんも大変だと言うしかありませんが、システム的に何とかこうした事故を防ぐ手立てはないものなのかと言う意見に加えて、平然と幼児虐待行為を行う親に対する厳正な処分を望む声も少なくないようです。
管理人も窓ガラスを割った結果当事者とトラブルになった事例を目撃したことがあるのですが、当事者側は問題意識など存在しないのですから反発があるのは当然として、割る側の躊躇が重大事に結びつくのでは困りものです。
医療の世界でも善きサマリア人法の必要性は以前から言われていますが、結果的に望ましくない事態に陥った場合単純に免責するだけではなく、何かしら公的な金銭保障の制度でもあればお互いに助かると思いますね。
ただこうした点については日本はかなり世界的にも遅れている部分があるようで、先日洞窟内に少年達が閉じ込められたタイのケースでは、慌ただしい短期間の救出劇の中でこんな手配まで行われていたそうです。

タイ洞窟救出豪ダイバーに外交特権、「失敗しても訴追免除」 報道(2018年7月16日AFP)

【7月16日 AFP】タイの洞窟に閉じ込められたサッカーチームの少年らの救出活動に参加したオーストラリア人ダイバー2人が、救出活動が失敗しても訴追対象とならない外交特権を得ていたと、豪ABCが16日報じた。

 タイ語で「イノシシ」という名のサッカーチームの少年らは、タイ北部のタムルアン(Tham Luang)洞窟に18日間閉じ込められていたが、タイ海軍特殊部隊と洞窟潜水を専門とする外国人エリートダイバーらによる大きなリスクを伴う3日間の救出活動が奏功し、メンバー全員が無事脱出した。
 オーストラリアからも、麻酔医のリチャード・ハリス(Richard Harris)氏とダイビングパートナーのクレイグ・チャーレン(Craig Challen)氏という2人の洞窟潜水専門家が救出活動に加わり、重要な役割を担った。
 ABCが当局筋の話として伝えたところによると、オーストラリアとタイの当局が交渉し、危険な救出作業が失敗した場合でも訴追対象とならない外交特権を与えた上で、両氏の参加が決まったという。
 豪外務省はこの報道について肯定も否定も差し控えるとし、救出活動の計画・実行に関してはタイ当局に問い合わせるよう促している。

 ダイバーのチャーレン氏は帰国後地元メディアの取材に対し、救出活動が「まさに生死を分ける」内容で、少年12人とコーチ1人の全員を無事救い出せる確証はなかったと振り返った。
 また同氏は少年らに対し「投薬を行った」ことを認め、「あの場で子どもたちをパニックに陥らせるわけにはいかなかった。子どもたち自身が死亡し、救助者が巻き添えになる恐れもあった」と説明した。
(略)

各メディアで非常に詳しく報じられていたから現地の状況は皆さんも御覧になったと思いますが、必ずしも機材や人員等の点で満足いく環境とも言い切れない中で、こうした対応がきちんと行われていたと言う点に驚きます。
日本でも各地の災害で国内外のスタッフが大勢救助活動に参加する事例が少なくありませんが、現場での救命医療行為など技能や手段はあっても制度的に行えないことになっているケースは少なくないのでしょう。
無論違法行為として後日の訴追覚悟でやってしまう人もいるのでしょうが、現場スタッフが躊躇なく最善の行動を行えるような制度的なバックアップがとられるなら、誰もが安心して活動に従事できるのではないかと思いますね。
日本国内でも非常事態に対応した省庁の創設なども議論されているようですが、非常事態にあたって限りあるリソースが十二分に活用出来るように、こうした面でも何が出来るかを検討し準備いただきたいものです。

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2018年7月19日 (木)

世界一小さい日本の医療地域間格差、今後は拡大の見込みへ

医療を評価するための3大要素として質とコスト、アクセスの容易さが取り上げられますが、日本はこれら3要素がいずれも高水準でバランスが取れているとされる一方、何が強みなのかと言うことがやや判りにくかったとも言えます。
この点で海外諸国との比較を通じて、日本の医療の強みについてのなかなか興味深い指摘が報じられていたのですが、こちら海外著名医学雑誌からの引用を紹介してみましょう。

医療へのアクセスと質、日本は地域間格差が世界最小(2018年7月11日Lancet)

 「世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease:GBD)2016」のデータを用いて、1990-2016年の世界195カ国・地域での個人の医療へのアクセス状況と質をHealthcare Access and Quality(HAQ)指数で評価した。

 その結果、サハラ以南のアフリカと東南アジアの国々では2000年以降にHAQ指数が著明に改善したが、ラテンアメリカなどでは停滞していた。日本は医療へのアクセスと質の地域間格差が最も小さかった。各国のHAQ指数は1人当たりの医療費および医療システム・インプットと正相関したが、特に社会人口統計学的指数が低ないし中水準国ではこの関連に大きなばらつきが見られた。

元論文はこちらでご参照いただきたいと思うのですが、図で見た限りでも日本全国全ての地域で公平性の高いアクセスが保障されていることが判りますし、世界的にはむしろある程度地域格差があるのが当然とも言えますね。
日本の場合基本的に医療の制度的なアクセス制限は設けられておらず、また狭い国土の中に道路網も整備されていますから、純粋に医療機関との物理的距離だけでアクセスが決定されているとも受け取れるデータです。
これはこれで日本の医療の美点であるとも言えるのですが、興味深いことには1年前に報じられた調査結果として、都道府県間の質的格差の拡大を示唆するようなデータが同じ雑誌に掲載されていました。

都道府県間で広がる健康格差(2018年8月2日ケアネット)

 東京大学大学院医学系研究科主任教授の渋谷 健司氏らによる「日本の都道府県別の疾病負荷研究(1990~2015年)」の結果が、Lancet誌オンライン版2017年7月19日号で発表された(筆頭著者は同大学助教の野村 周平氏)。1990~2015年に日本では、総じて大半の重大疾患による死亡率や身体的障害発生の低下に成功した一方で、ゆっくりとだが都道府県間の健康格差は進んでいることが明らかになった。その原因については、各都道府県間の保健システムの主なインプット(医療費、医療従事者数など)と健康アウトカムに有意な関連を見いだすことはできなかったとして、著者は「保健システムのパフォーマンス(医療の質など)を含む評価を早急に行い、都道府県格差を生み出している要因を明らかにする研究が必要である」と提言している。
(略)
平均余命、全国的には4.2歳上昇も都道府県間の格差は拡大
 1990~2015年に日本の平均余命は、79.0歳(95%不確定区間[UI]:79.0~79.0)から83.2歳(83.1~83.2)へと4.2歳上昇した。しかしながら同期間中に、平均余命が最も短い県と長い県の格差が2.5歳から3.1歳へと広がっていた。同様に健康寿命についても2.3歳から2.7歳へと拡大していた。
 全国的な年齢標準化死亡率は、29.0%(28.7~29.3)の減少がみられた。しかし都道府県間では、かなりばらつきがみられ、最大県は-32.4%(-34.8~-30.0)、最小県は-22.0%(-20.4~-20.1)だった。
 同期間中の年齢標準化DALYは、全国的には19.8%(17.9~22.0)の減少であった。年齢標準化YLDは3.5%(2.6~4.3)の減少と、かなり少なかった。

 死亡率およびDALYの減少ペースは、さまざまな要因によってもたらされていたが、2005年以降は横ばいになっている。DALYの34.5%(32.4~36.9)は既知のリスク因子によって説明がついた。そのうち大きな2つの要因は不健康な食生活と喫煙であった。一方、保健システムのインプットと年齢標準化死亡率やDALY率に関連は認められなかった

しかし医療費や医療従事者を増しても健康に結びつくわけではないらしいとは、考えてみれば非常に応用の利く話でもあり、また医療従事者にとっても行政の側にとっても興味深い話だと思いますね。
25年間での都道府県格差が0.6歳と言うのがどれほどの問題なのか、都道府県間の所得格差はもっと拡がっているのではないか等々疑問もある話ですが、しかし逆に都道府県格差がどこまで縮小すればいいのかです。
自然・社会的環境や医療のリソースに差があることは明らかなのですから、本来平均寿命等は違っていて当然だと思うのですが、日本では全国一律で皆保険制度が施行されている以上、医療に差がないと言う建前ですよね。
現実的には日本全国どこでも全く同じ医療が受けられると考える方がおかしいのであって、統一料金で同じ医療を提供しますと言う建前の方に問題があることは明らかですが、そこを改めようと言う動きは乏しいようです。

ところで今後は地域医療構想に基づいて、都道府県が主体となって地域内の医療提供体制を決めていくことになりますが、必然的に都道府県毎に異なった医療の将来像を追及することになるかと思います。
その一端を示すのが先日奈良県で知事が言及し話題になった都道府県別の診療報酬と言う問題ですが、良い方に考えれば例えば小児医療が課題となっている地域で、小児科の報酬を高く引き上げると言った手もあります。
ただ当然ながら財政基盤が盤石ではない都道府県で報酬を引き上げる方向での改定は難しく、むしろ奈良県と同様引き下げる方向になる可能性が高いですが、こうした結果として都道府県格差がどうなるか注目ですね。
地域によってコスパの良い医療、悪い医療に別れるのも当然ですが、高くついても良い医療やそこそこの質だが安上がりの医療を追及してもいいわけで、皆保険制度の実質破綻は良い方に進む契機にもなり得ると言えます。

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2018年7月17日 (火)

日医、労基法無視で過労死水準の医師労働推進を主張

日本医師会(日医)と言えば何かと突っ込みどころの多い組織としても知られていますが、先日またやらかしたと話題になっていたのがこちらのニュースです。

松本・日医常任理事 、「過労死ライン超えた働き方も」日医主導「医師の働き方検討会議」の意見書を説明(2018年7月11日医療維新)

 日本医師会常任理事の松本吉郎氏は7月11日の定例記者会見で、日医主導で開催した「医師の働き方検討会議」がまとめた意見書について説明し、「改革するべきはまず改革することが前提。医師に合った制度自体を検討するという発想だ」と基本的な考え方を述べた。時間外労働の上限設定については、「過労死ラインで設定すると、現時点では対応が難しく、地域医療が崩壊し、命を救える患者も救えない状況になる。過労死ラインを超えたような働き方も認めていただきたい」として、過労死ラインにとらわれない設定を慎重に検討する必要性を訴えた(関連記事は『時間外労働「医師の特別条項」など提言、日医主導会議』を参照)。
(略)
 「長時間労働是正のための仕組み」では、医師の時間外労働の上限について、「医師の特別条項」と、さらに「医師の特別条項の『特例』」を設けることを提言。具体的な時間は盛り込んでいないが、「医師の特別条項」は脳・心臓疾患の労災認定基準(いわゆる「過労死ライン」、発症前1カ月に100時間または2~6カ月間平均で月80時間)を基にし、それを超えざるを得ない場合の「医師の特別条項の『特例』」として、精神障害の労災認定基準(発病直前の1カ月に概ね160時間、または3週間で120時間などこれと同程度の時間外労働)や海外の事例を手がかりとして検討することを求めている。

 松本氏は、社会的な長時間労働抑制の潮流について、「確かにこれを求めるのは厳しいと認識している」と述べた上で、「現実的に医療現場の働き方を考えると、(1カ月の時間外労働が)160時間以上の医師も10%程度、200時間を超える医師も数%いる。どういった健康確保策をすれば、そういった働き方ができるのかも焦点だ」 と指摘。一方で、あまり上限を高いところに設定すると、改革が進まなくなることも懸念されるとして、「設定には非常に慎重な議論が必要だ」と述べた。

 「医師の宿日直」では、いわゆる「寝当直」に当たる「許可を受けた宿日直」(断続的・監視的労働で労働時間の適用除外)、と「通常業務と同じ宿日直」の間に「中間業務」を設けることを提案。全国医師ユニオンが2017年に実施した勤務医労働実態調査で、宿日直の業務内容が「通常よりは少ない」との回答が47.2%あったことから、試案として、「全拘束時間に占める労働時間が○%の場合に、全拘束時間の25%を勤務時間とし、それに相当する賃金を支払う」ことを示している。

松本氏はこの試案の意図として、昨今は「寝当直」よりは働いているが、通常業務よりは業務量が少ないような勤務の場合にも、全拘束時間分の賃金を支払うことを求められているが、「現状はAll or Noneの考え方になっている。現実に合わせた働き方や賃金もあるのでは、という提案だ」と説明した。当直明け勤務の負担軽減や、勤務間インターバルとの関係でどのような扱いをするかについては、今後の検討課題だとした。
(略)

日医理事が公式の場で「過労死ラインを超えたような働き方も認めていただきたい」と発言したと言うことは、日医としての公式の見解であると言うことですが、組織としての日医の性格がよく表れている発言であるとは思います。
ちなみに松本吉郎理事のキャリアが話題になっていましたが、浜松医大卒後8年で皮膚科開業し現在医院には「医師数名、他大学病院から非常勤医師が勤務」していると言いますから、さぞや経営的手腕がおありなのでしょう。
医院のサイトには何故かクリニック限定商品だと言う化粧品や石けんなどが医薬品として紹介されていて、皮膚科ではこういうものも医薬品として売るのかと興味深いのですが、皮膚科医推奨となればいい商売になるのでしょうね。
ちなみに記事の冒頭に登場する日医主導の検討会議においても「現行法令の枠に拘らない」働き方を求めるまとめが提出され、他の参加者からたしなめられるという一幕もあったそうで、かなり本気の主張と言えそうです。

日医がこうまで法令無視で医師の奴隷労働化を推進しようとするのは当然経営的な判断が大きいのだろうし、事実可能な限り医師給与を抑制しようと姑息な努力を続けていることが記事からも理解できます。
ただ興味深いのは最も医師給与を抑制する手段の一つと言える医師数増加に関しては日医は反対している点ですが、需要と供給のバランスをとりながら自分達の利益を最大化しようとする意図は明確に見て取れますね。
それ自体は業界団体として当たり前の行為なのですが、問題は医師業界とは現場臨床医の集合と言う側面もあって、その臨床医の働き方改革の方向性を論じる場で、日医と言う組織が代弁者として妥当なのかです。
無論労働者の過労防止は経営者側の努力が必要であると言う点で、日医のような組織の意見も必要であるのは理解出来ますが、当事者を抜きにして議論が進むようであれば現場に取っては不幸な結論が見えていますね。

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