心と体

2019年10月15日 (火)

高齢医師が増え続ける時代にあっての高齢医師の身の振り方

医学部定員増をいつまで続けるべきかに関しては様々な議論があるところですが、本日まずはこんな記事を紹介してみましょう。

医師高齢化、廃業増え「充足することはない」高橋・国際医療福祉大院教授、第61回全日病学会で講演(2019年10月7日医療維新)

 国際医療福祉大学大学院教授の高橋泰氏が9月29日、名古屋市で開かれた第61回全日本病院学会で「医師偏在の現状」と題して講演し、「医師が充足することはない。医学部の定員増をやめるのは間違いである可能性が高い」と、医師の高齢化や過疎地域の医師不足に拍車がかかることに警鐘を鳴らした。

 講演では、田中角栄内閣による「1県1医大構想」の影響で1970年代に医学部32校の新設が相次いだ影響で、1970年代前半まで毎年約3000人だった医師国家試験の合格者が1980年以降は毎年約8000人に達しているという統計を基に、年齢ごとの医師免許保持者の構成を見ると、30歳代、40歳代、50歳代がいずれも約8万人、60歳代が約4万8000人、70歳代が約3万3000人との推計を示した。
 これまでは70歳以上の医師数が少なかったため、「8000人が生まれ、4000人がリタイアしていた」。今後は毎年約8000人が国家試験に合格していた世代が70歳代に達するため、2008年度以降の既存医学部定員増などで合格者は増えるものの、「9000人生まれるが、6000~7000人がリタイアする時代になる」と指摘。「毎年2000人くらいしか増えない。厚生労働省は医師が飽和すると言っているが、誤差が出るだろう。医師全体の数は予想するほど、医師は増えない」と強調した。

 それを裏付けるのが、1996~2016年の20年間の医師の年齢構成の変化だ。20年分の医師・歯科医師・薬剤師調査を基にした解析によると、50歳代の医師数は1996年に2万7993人、2006年に5万6603人、2016年に7万728人と約2.5倍に急増。この世代が60歳代、70歳代に差し掛かると、廃業する医師の数も増えることが予想される。地域別に分析すると、大都市医療圏は11万1080人から15万6252人と41%増えたのに対し、過疎地域医療圏では1万9854人から2万677人と4%の増加にとどまり、地域間格差が広がっていた。
 また、30歳代の男性医師が過疎地に行かず、外科を志望しない傾向が強まっていることをデータで示し、「全体の数字だけではなく、若い医師の変化に焦点を当てて考える必要がある」と、若手医師の志向が偏在を生み出していると指摘。開業時や病院長になる要件として半年間程度の過疎地域での勤務を義務づけることや、外科医を主治医制からチーム制に変更し、術後管理などは担当チームに任せるなどの働き方改革を提唱した。地方での充実が必要な診療科として、皮膚科、眼科、耳鼻科を挙げた。

しかし高齢医師は過疎地での診療を好み、外科医として日々熱心にメスを振るっているなどと言う話も聞いたことがありませんが、そうでなければ若手だけに責任を負わせるかのような言動はいささかどうよ?と感じます。
むしろ全国どこの病院でも歳だけとって使えない高齢医師が増えてきているようにも見えるのですから、高齢勤務医の肩たたきと地域内開業総量規制で僻地移住を後押しすると言う方法論もあり得るかと思いますね。
僻地住民としても経験も少ない若手医師に診てもらうくらいなら、長年の経験に裏打ちされたベテランの診療を望ましく思うかも知れずで、年代別の医師分布に関しては確かに一度考えてみる余地はありそうです。

それはともかくここで考えたいのが、医師と言う職業には実質定年がないとも言われ、事実働けるうちは働いている高齢医師も少なくない中で、さてどの程度の年齢まで医師としての労働力に計算すべきなのかです。
このところ医療業界に限らず定年延長の傾向にあり、国としても70歳まで働けるよう法改正をしようと言っている中で、医師の引退年齢も少なくとも他業界同程度までは延長できるはずだと考えることも出来ます。
一方で医師は激務であると言う声は当事者から根強くあり、そんな過労死寸前の高齢者を働かせ続けるのは虐待にも等しいとも言えますが、先日日医会長はこんなコメントを出したと報じられています。

日医横倉会長、「医師も70歳前後まで働ける」国民医療推進協議会、医師確保へ財源確保要求を決議(2019年10月8日医療維新)

 日本医師会をはじめ、計40の医療系団体で構成する国民医療推進協議会は10月8日、日本医師会館で第14回総会を開き、持続可能な社会保障制度を確立するための財源確保を政府に対して求める決議を採択した。同日から、診療報酬改定に向けた議論が大詰めを迎える12月下旬までを「国民医療を守るための国民運動」期間とし、12月6日には総決起集会を開く。同協議会の会長を務める日本医師会会長の横倉義武氏は「公共財である医療・介護の充実は、多くの国民の願いであり、国家事業として最優先されるべきものだ」と述べ、次期診療報酬改定での本体部分のプラス改定や医師が高齢になっても働き続けられる環境の整備を求める姿勢を示した。
(略)
 総会後の記者会見では、横倉氏は「地域医療を壊さないように働き方改革を進めるには、適切な人材確保が重要になる。多くの医療職の定年が60歳になっているのを、少し延長し、(60歳を超えても)社会参加できる環境を作る必要がある。(勤務を)週4日、週3日と減らせば、70歳前後まで十分働ける」とも言及し、定年退職が定められている医療機関でも医師が長く働き続けるための環境整備を求めた。
 決議では、「人生100年時代を迎えるなか、幸福な国民生活を将来にわたりおくるためには、必要な医療・介護を安心して受けられるようにしなくてはならない」と指摘。「持続可能な社会保障制度の確立に向けて、適切な財源を確保するよう、本協議会の総意として、強く要望する」と主張している。
(略)

まあ日医風情に他人が何歳まで働くか決めていただくと言うのもおかしな話ですし、今どきどこの施設でも必要な人材であれば60歳できっちり定年と言うこともないでしょうが、では何歳あたりが妥当なのかです。
本人にその意志があり組織としても必要としているのであれば、個別に非常勤医師なりの名目で新たに契約を結び直せばよいでしょうし、単に働き続けたいだけであれば開業して一国一城の主になるのもいいでしょう。
逆に組織として必要としていない人材が、定年延長を盾に継続雇用を要求すると言うのであればこれも困ったものですが、特に完全年功序列の公立病院などは若手に対するポスト不足の懸念も出てきかねません。
何にしろ医師の世界も従来通りの年功序列では何かと難しくなってきているのも確かで、果断な経営者を抱える私立系の施設ではスキルベースなりの新たな雇用体系を模索しているところなのかも知れませんね。

定年延長に伴うこの手の問題は他業界ではすでに以前からあって、その中で判ってきたのが定年を延長して継続雇用する有り難みがあるのは、やはり他に代えがたいスキルを持つ技術系専門職に多いと言うことです。
さすがに目や腕も衰えてからバリバリ手術や検査処置をこなすのも大変でしょうが、ある年齢以上になれば現場仕事は若手に任せて管理職として君臨したいと考える先生にとって、今後競争は厳しくなりそうです。
医師と言う職業自体が技術系専門職と言えますが、やはり実際に手を動かす仕事は若手ほどはかどらないとなれば、知識のアップデートを怠り昔の遺産だけで食べているような先生は今後危ないかも知れません。
無論そうした医師にも出来る仕事、やってもらいたい仕事は幾らでもあるので、きちんと仕事を割り振って適材適所で使えるのかどうかこそが重要であり、これも組織の管理者の手腕次第と言うところがありそうです。

 

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2019年10月 7日 (月)

病院は医師を計画的に働かせることが求められる時代に

医師の働き方改革に関連して、雇用者である病院側にどうやって医師の労働時間を守らせるかと言う点が重要ですが、違反をする施設は特例認定しないと言うことが当面の歯止めになりそうです。

悪質な労基法違反病院は960時間以上認めず 特例指定は3年ごと更新、厚労省案(2019年10月3日医療維新)

 厚生労働省は10月2日の「第3回医師の働き方改革の推進に関する検討会」(座長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所長)に、医師の時間外労働時間上限の特例水準を指定する枠組みの案を提示した。医師労働時間短縮計画を都道府県に提出することや、適正な労務管理を前提として臨床研修プログラムを組んでいることなどを盛り込み、指定期間は3年間(一部は3年以下)で、更新可能。過去1年間に、労働時間に関して悪質な労働基準法違反で書類送検、公表された病院は指定を認めないことも盛り込んだ(資料は、厚労省のホームページ)。

 2024年4月から2036年3月までの時限措置を予定しているB水準(地域医療確保暫定特例水準)は、各医療機関が都道府県に申請し、都道府県が指定するもので、3次救急医療機関や、年間救急車受け入れ台数1000台以上の2次救急医療機関、高度ながん治療、移植医療といった特に専門的な医療を行う医療機関などが該当。A水準の年間960時間に対し、年間1860時間まで時間外労働が認められる。特例の指定期間は3年間。
 地域の医療提供体制全体の確保のために医師の長時間労働を是認してB水準とせざるを得ないか否かについて、都道府県は都道府県医療審議会の意見を聴く。その際に地域医療構想推進との整合性も担保するため、地域医療構想調整会議から協議の状況を都道府県医療審議会に報告させる。指定の前提となる「医師労働時間短縮計画」については、医療機関から年1回都道府県に提出させる。

 C水準(集中的技能向上水準)のうち初期臨床研修医、専攻医を対象としたC-1水準と、「高度な技能を有する医師を育成することが公益上必要とされる分野」に従事する医師と対象としたC-2水準も上限は年間1860時間。
 C-1水準のうち臨床研修プログラムでは、「適正な労務管理」と「研修の効率化」を前提として各研修プログラムにおける時間外労働の想定時間数を明示し、第三者組織に当たる?「評価機能」がそれを評価、地域医療対策協議会などの意見を聴いた上で都道府県知事が確認し、指定する。臨床研修に関する厚生労働省令に基づいて毎年4月に都道府県に対して行う年次報告などで、時間外労働時間が申請を上回っていたり、労働時間短縮の取り組みが不十分と判断されたりした場合は、都道府県が調査を行う
 専門研修では、各学会、日本専門医機構が認定した専門研修プログラムとカリキュラムを都道府県知事が確認してC-1水準の指定を行う。毎年の専攻医募集に際しては時間外労働の前年度実績と想定時間を明記し、大きな乖離や悪質な労基法違反があれば改善を求める

 C-2水準では厚生労働大臣が、審査組織での議論を踏まえて「高度な技能を有する医師を育成することが公益上必要とされる分野」を指定。この分野は(1)高度な技能が必要で、(2)当該技能の習得およびその維持には相当程度の時間、関連業務への従事が必要で、(3)関連業務の遂行に当たって、例えば、高度で長時間の手術等途中で交代するのが困難であることや、診療上、連続的に診療を同一医師が続けることが求められる分野――を基本的な考え方とする。
 都道府県は、指定された分野での医師育成が可能な特定機能病院、臨床研究中核病院、専門研修認定医療機関(期間型のみ)などをC-2医療機関として指定。その上で、医師自身が「高度特定技能育成計画」を、医療機関を通じて審査組織に提出し、認められれば当該医師にC-2水準が認められる。ただし、上記の医療機関以外でも教育研修環境の審査に通ればC-2医療機関に指定されることができる。期間は医師自身が3年以下で設定する。

 B、C-1、C-2水準のいずれも、指定された上で時間外労働および休日労働に関する労使協定(36協定)を締結して初めて、A水準を超える時間外勤務や休日勤務ができる。このため、厚労省によると、指定へのプロセスと並行して各医療機関で労使協定締結に向けたプロセスも進める必要がある。各水準に共通する枠組みとしては、この他に「評価機能」による評価の受審、追加的健康確保措置の実施体制の整備、労働関連法令の重大かつ悪質な違反がないことが必要となる。
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 千葉大学医学部附属病院病院長の山本修一氏は、「そもそも研修にかける時間については、短くすればいいというものではない。非常に危険で、臨床研修制度の形骸化につながりかねない」と指摘。横浜市立大学産婦人科・横浜市医療局の鈴木幸雄氏も「『労務管理』と『研修の効率化』と聞くと前向きな研修にならなそうなイメージを抱かれてしまう。C-1水準にアプライする若者に十分な研修機会、診療経験が担保される文言が入ると安心できると思う」と述べた。また、「どうしてもA、B水準(の議論)に多くの時間が割かれてきたが、C-1、C-2水準は日本の未来を担う人材育成で非常に重要だ。もう少し時間を割いていただきたい」と要望した。
 家保氏は、36協定を見ずに「白紙委任のような形で(B水準を)指定するのでは、都道府県としては責任を持ちかねる。あらかじめ申請に当たって36協定でどのような範囲が対象になるかを出してもらわなければならない」と指摘。C-1水準では研修医、専攻医の研修先が複数医療機関、また都道府県をまたぐケースもあることにも留意が必要だと訴えた。
 日本医師会副会長で日本専門医機構副理事長でもある今村聡氏は、C-1水準指定のプロセスで審査に同機構が関わることについて、「時間なのか、従来通りのプログラム審査なのか」と質問し、厚労省が「内容とともに時間も審査していただくイメージだ」と答弁。今村氏は「専攻医募集のプロセスが毎年変わり、作業が遅れる傾向にある。一生懸命取り組んでいるが、さらにプログラムの時間の関係まで機構で判断するとなると、相当な作業量になってくる。いつまでも順調に専門医制度が回らない」と懸念を示した。

医師の働き方改革に関しては病院毎にAからCまでの水準を認定し、A水準であれば960時間、B・C水準では1860時間までの時間外労働を許容すると言うことが骨子となっています。
このうちB水準は特別の事情がある基幹病院が対象ですが、C水準に関しては研修医(C-1)や特殊な領域の専門的診療を行う医師(C-2)などが対象で、当該医師個人に対しての認定です。
当然研修を行う医師などは立場が弱く、仕事を押しつけられても断りにくいはずですが、あらかじめどの程度の時間外労働を要するかをプログラムとして作成し、提出する必要があると言うことです。
要するに行き当たりばったりで雑用を押しつけることなど論外と言うことですが、当然適切な研修が受けられるよう病院側はきちんとしたプログラムを作成する義務があると言うことで、さてどんなことを書いてくるかですね。

B水準に関しては暫定的なもので基本的にはA水準の960時間が上限であり、将来的に1860時間の上限は廃止される予定とのことですが、そのタイムリミットとして2036年と言う数字が設定されているとのことです。
無論その間もそもそもどんな医療機関がB水準に認定されるかが注目ですが、恐らくどの施設を認定するかで地域内での医療供給体制の変化もあるだろうし、その認定も永続的なものではありません。
いずれ特例は廃止されるのですから、タイムリミットのある改革が強いられるはずですが、問題はどこの病院でも経営的に余裕があるわけでもない現状で、医師の労働時間を削減し経営に影響しないのかです。
当然医師からコメディカルへと業務の委譲を推進する必要があるはずで、未だに医師でなくとも出来る業務を何でも医師に押しつけている後進的な施設ほど、こうした面での改革を強いられることになりますね。

これら全ての特例については何らかの審査を経て認定されるもので、違反があれば認定自体が取り消されるわけですから、それ自体が医療機関にとっての罰則になり得ると言う考え方もあるでしょう。
ただ特例のルール破りをするような病院が特例認定を外れたからと言って、労基法上許容される正しい労働を行わせるようになるとも思えずで、下手をすると上限も何も無視の無法状態に戻る可能性もあるでしょう。
当然そうした施設には労基署も特別に注目することになるでしょうが、医業が忙しいからこそ残業も増えるのですから、例えば保険医療機関の指定を取り消せば残業が多すぎて困ることもなくなるかも知れません。
過去に保険医療機関取り消しは診療報酬の不正請求絡みで行われてきたものですが、ルール上は他にも取り消しの理由がないでもないようですので、認可を行う厚労相の判断次第となるのでしょうか。

当然ながら雇用者側の思惑だけでは話が進まず、現場レベルの意識改革がなされなければ絵に描いた餅ですが、その点で管理職医師の役割は今までよりもずっと重いものとなりそうです。
配下の先生方の業務分担の見直しなどもそうですが、手術を月に何件予定するのか、検査予約をどれだけ受け入れるのかと言ったことに関しても、今後気を遣う必要がありそうです。
当然特例認定されるような施設であれば予定外の急患が少なくないはずで、その分も見越して予定件数を少なめに抑えなければなりませんが、その結果手術や検査の待ち時間は延びることでしょう。
手術が半年先と言われれば他施設に行くと言う患者も出るでしょうから、今後地域内でも施設間で適切に業務の分担を進めなければ地域医療が回らない時代が来るのでしょうかね。

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2019年10月 2日 (水)

来年度診療報酬改定、全体としてはマイナス改定継続の方針

マスコミ的表現をするならば医師の給与などにあてられる診療報酬について、来年度も引き続き全体としてマイナス改定とする方針が先日報じられていました。
安倍政権では医療費の対GDP比上昇を抑える方針と言うことで、このところ医療費総額の中でも薬剤関連の報酬が重点的に抑制されてきた経緯がありますが、それも限界が近づいていると言います。
来年度改定ではひとまず本体部分はプラス改定の方針とのことですが、今後は再び本体部分も切り下げが行われる可能性があり、医療機関としても経営環境の見直しが迫られると予想されるところですね。
そんな中で先日内閣府から今後の医療費に関する見解が示されましたが、今後どこを重点的に抑制していくかと言う点に関して政府の考え方が判るのではないかと思います。

「安倍政権下、対GDP比で医療給付費を抑制」内閣府(2019年10月1日医療維新)

 内閣府は9月30日の経済財政諮問会議に対し、「社会保障分野における安倍政権下での主な成果」を提出し、医療給付額や保険料負担については「過去最大規模のGDPを実現するとともに、歳出効率化への取り組みを通じて、給付費対GDP比の上昇を抑制した」との見解を示した。
 対GDP比で、医療の給付額は2000年度の4.6%から2012年度は6.3%に増加。第2次安倍内閣は2012年12月に発足、その後は0.1ポイントの伸びにとどまり2017年度は6.4%。保険料も2000年度3.2%から2012年度4.2%に増加したものの、2017年度は0.1ポイント増の4.3%。協会けんぽや組合健保の収支も改善したとしている(資料は、内閣府のホームページ)。
(略)
 西村康稔内閣府特命担当大臣は、会議後の記者会見で、経済財政諮問会議と全世代型社会保障検討会議の役割分担について、次のように説明している。「全世代型社会保障検討会議は、社会保障に関係する政府内の会議の代表者の方々で構成している。骨太方針で大きな方向性が既に示されているが、その中でもより骨太の大きな方向性について基本的な考え方と具体的な方針を取りまとめていくことを考えている。一方で、経済財政諮問会議では、社会保障改革の議論をこれまでも行ってきたが、所得・雇用、投資、人材確保などさまざまな視点を踏まえながら、その経済再生への効果、国民生活の質の向上、財政面の効率性といった観点から既に検討している。今後検討を深めて、2025年度の財政健全化目標の実現に着実につなげていく。経済財政諮問会議の代表も入って全世代型社会保障検討会議も議論しているので、連携しながら議論を進め、深めていきたいと考えている」。

社会保障改革の今後の重点課題(民間議員提出資料)

(1)予防・健康づくりやイノベーションの推進などを通じた経済再生・QOL の向上
・ 健康寿命延伸プランの推進(健康寿命に関する客観的な指標の設定等、40~50歳代の特定健診・がん検診受診率の向上、生活習慣病等の予防への重点的取り組み)
・生涯にわたる健診・検診情報の活用をはじめ医療・介護分野の情報活用に向けた課題の洗い出し等を行い、データヘルス改革の推進とデータ分析や予防に関するサービスの産業化の推進
・高い創薬力を持つ医薬品産業への転換の観点も踏まえた薬価制度の抜本改革、調剤報酬の適正な評価等の改革の推進

(2)健康で安心して働ける環境整備
・社会保障の支え手の拡大と合わせた短時間労働者の就業調整の解消に向けた取り組み強化
・健康寿命を延伸しつつ、年齢にかかわらず働くことを選べる仕組みの構築(高齢者の勤労判断に中立的で公平な制度の整備、いわゆる「生産年齢人口」の捉え方等)

(3)AI 等の利活用やインセンティブの活用等を通じた人材不足や効率化等への対応
地域医療構想の実現に向けた病床のダウンサイジング支援の追加的方策、病床機能の転換を促す診療報酬の大胆な見直し
・介護現場の生産性向上に資する ICT、ロボット、AI 等の利活用拡大とアウトカムに基づく支払いの推進や行政手続き処理の効率化(デジタル化)、付加的な民間サービスを拡大する介護制度改革
・公的サービス分野に多様な民間主体が参入することで創意工夫を働かせられる仕組みづくりや官民連携の推進

(4)データ・エビデンスをベースとした歳出の効率化とバランスのとれた負担の仕組み
・国保の法定外繰入等の早期解消、国保の都道府県内保険料水準の統一など受益と負担の見える化に取り組む都道府県の先進・優良事例の全国展開
・ 保険者のインセンティブ強化(保険者努力支援制度等の強化、国保の普通調整交付金の見直し、介護の調整交付金の活用等)
高額医薬品・医療機器の費用対効果や社会保険財政への影響等について、エビデンスベースでの評価の徹底活用

予防医学重視の考え方と医療費を支える現役世代の拡大は近年のトレンドですが、注目される課題としては地域医療考想に基づく病床管理と、高額医薬品・医療機器関連の評価になるかと思います。
このうち前者に関してはつい先日も全国公的病院の再編統合について、国が病院の実名を公表して推進を促したと言う件が注目を集めていますが、現時点では実名リストはあくまで議論のたたき台だと言います。
無論地域の実情に応じて実際の再編統合の判断は今後自治体に委ねられるとは言え、稼働率の低い病床の削減や老朽化した施設の統合など、今後自治体への地域医療再編の圧力は高まりそうですね。

地域ごとに求められる医療のあり方も異なるのは当然で、長期的には自治体間での医療提供の差別化が進むと思いますが、その指標としてやはり消費される医療費の多寡で論じられることになるとは思います。
地域の病床が多かろうが閑古鳥が鳴く病院があろうが、使われる医療費が結果的に少ないのであれば国としては困らないはずで、各地域に適した医療のあり方を自治体がきちんとデザイン出来るかが鍵でしょう。
ただ患者側が望ましい医療を求めて越境医療を希望したり、医師らが医療のあり方を見ながら働き先を決めると言うこともあり得るとすれば、大胆すぎる地域独自の医療スタイルは諸刃の剣となるかも知れませんね。

後者の高額医薬品・医療機器に関しては、基本的に医療が進むほど費用がかさむのは当然であり、特にガイドラインにも収められるような治療法であれば現場としても使わないわけにはいきません。
ただ超高齢者に超高額な医療をするかなどは議論のあるところで、ガイドライン等で年齢も考慮した記載をするか、後期高齢者など年齢により保険給付の範囲を変えると言った制度的対応が望ましいでしょう。
将来的には遺伝子検査の結果などに基づいたオーダーメイド医療が中心になれば、高額な薬を効かない患者に無駄遣いすることは減るはずで、こうした面での技術的進歩が期待されるところですよね。
いずれにせよ財政的に見ると医療は今後大幅な成長は難しく、未だ増え続ける医師はワークシェアリングを進め収入低下を受け入れるか、保険外の診療を手がけ収入を確保すると言った工夫が必要でしょう。

 

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2019年9月30日 (月)

厚労省が実名を挙げて公立病院再編統合の検討を求める

先日から大きな話題になっているのがこちらのニュースですが、とりわけ実名を出された各地の病院にとっては大騒ぎとなっているようです。

厚労省が急性期の公立・公的病院の診療実績を分析 再編統合の再検証を要請する424病院を公表(2019年9月26日日経メディカル)

 厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」は9月26日、「再編統合(病床機能の分化・連携、病床数の削減などを含む)」について再検証を要請する公立・公的病院等の名前や診療実績の分析結果を公表した(資料は厚労省のウェブサイトに掲載)。再検証が必要とされたのは424病院に上り、内訳は公立病院が257、公的病院が167、民間の地域支援病院が17。厚労省は都道府県に通知を発出して、2020年9月末(再編統合を伴わない場合は2020年3月末)までに地域医療構想調整会議で再検証の結論について合意を得るよう求める

 地域医療構想ではこれまで、公立・公的病院が民間病院では担えない機能(救急、小児、周産期医療、災害医療など)に重点化されているかなどを検証してきた。だが調整会議で実のある協議がなされず、合意内容が地域医療構想の実現に沿ったものになっていないとの指摘が相次ぎ、新たな調整会議の活性化策として導入されたのが、今回の取り組みだ(「再編統合を検討すべき公立・公的病院の基準方針を提示」参照)。
 9領域(癌、心疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣機能)について(1)診療実績が特に少ない、6領域(癌、心疾患、脳卒中、救急、小児、周産期)について(2)類似の診療実績を有する病院が2つ以上あり、かつ互いの所在地が近接している――場合に、再編統合について再検証が必要な公立・公的病院等(再検証対象医療機関)として、調整会議での議論を要請することにした。
 分析対象は、公立・公的病院等の中でも病床機能報告で「高度急性期」「急性期」の病床を有すると報告した1455病院。そのうち再検証の対象となった医療機関は424病院だった(図1)。高度急性期・急性期機能を持つ病院のうち、診療実績が相対的に低い病院が該当し、中小規模病院が多い
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 これらの分析により、全対象1455病院のうち424病院、(1)は277病院、(2)は307病院が該当した([1]にも[2]にも該当するのは160病院)。

 分析結果を受け、構成員からは今回の取り組みの意義を確認する発言が上がった。日本医師会副会長の中川俊男氏は、「あくまでも今回の発表は調整会議の活性化のためであることを繰り返し伝えるべき。また再検証の議論の結果として、現状から何も変えないという選択もあり得るのか」と質問。厚労省は、「行政として再編統合を強制するものではない」と述べた。
 全国自治体病院協議会会長の小熊豊氏は、「このような方法で診療実績を判断すると、地方で小規模の公立・公的病院は全てフラグが立つ。小規模でも地域で必要な役割を果たしているケースがほとんどだろう。(地方では人口減少が進むため)将来のニーズを踏まえながら、機能や病床数を再検証するということだと思う。今回は民間病院のデータは含まれないが、できるだけ客観的なデータを出し、調整会議で真摯な態度で協議をすることが重要だ」と指摘した。これに対して厚労省は、「都道府県に分析結果を提出する際、民間病院も含めたデータを提供する」と答えた。
 日本医療法人協会会長代行の伊藤伸一氏は、今回の分析により「調整会議は、地域医療のありようを協議できる段階にようやくなる」と期待を示した。さらに分析では診療実績を比較するので大規模病院が高い評価となり、「大規模化を助長するのではないか。病床当たり、人員当たりの実績の分析も必要ではないか」と発言。厚労省は、必要に応じて病床当たりの実績も都道府県に提供するとした。
(略)

424の公立・公的病院等、再編統合も視野に「再検証」(2019年9月26日医療維新)

(略)
 公立・公的医療機関等は、2018年度末までに、2025年を見据えた具体的対応方針を決定。しかし、公立・公的医療機関等の役割が民間医療機関では担えないものに重点化されているかが疑問視され、その再検証を要請する対象が今回の発表(『公立・公的病院「再編統合」の再検証、要請方針を了承』を参照)。
 再検証を要請された病院は、(1)2025年を見据えた構想区域において担うべき医療機関としての役割、(2)2025年に持つべき医療機能別の病床数――などの検討が必要になる。2020年9月までに、再検証を行い、結論を得ることが求められる。一方で、再検証において、再編統合(ダウンサイジング、機能分化・連携・集約化、機能転換・連携等を含む)を伴わない場合には2020年3月までに結論を得る。再検証の対象外であっても、具体的対応方針が現状追認になっているような医療機関についても、同様に2020年3月までに議論をし、結論を求める。

(略)
 厚労省医政局地域医療計画課は、「議論を行った上で、現時点で変わらないということも十分にあり得る。そもそも行政として強制するものではない」と回答。その旨を都道府県等に説明していくとした。
 全国自治体病院協議会会長の小熊豊氏は、「再編統合という言葉になっているが、病院の廃院などではなく、ダウンサイジングなど、地域の有り様を見直すことを進めて、必要であれば再編統合を行うという意味」と述べ、再編統合の持つ意味をしっかり考えてもらいたい」と求めた。さらに自治体病院の規模はさまざまであり、「特に地方の小規模病院にとっては、今回のような指標で判断されるとフラグが立ってしまう。地域に密着した医療を提供している場合が多数であり、今後の医療の在り方を見つめながら、機能を再検証していくことになる」と述べた。
(略)

厚労相「地域で議論を」 再編必要の病院名公表(2019年9月27日共同通信)

 加藤勝信厚生労働相は27日の記者会見で、厚労省が診療実績が乏しく再編・統合の議論が必要と判断した424の公的病院の名称を公表したことに関し「機械的にこうしろとか、ああしろとか言うつもりはありません。それぞれの地域でしっかり議論してほしい」と述べた。
 同時に「医療改革をしっかり進めていかなければ、次の時代に対応した医療はできていかない。必要なサポートをしていきたい」と語った。
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焦点:公的424病院、要再編 厚労省「1年で結論を」(2019年9月27日毎日新聞)

 過剰とされる病院のベッド(病床)数を削減するため、厚生労働省は26日、再編・統合を促す予定の公立・公的424病院のリストを公表した。自治体が経営する中小病院が多く、手術などの診療実績が少ないことから「再編・統合の議論が特に必要」と判断した。今後1年以内に再編・統合の結論を出すよう要請するが、身近な病院を残したい地域住民や自治体の反発も予想される。
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 人口減少が進む中、地域医療を崩壊させず、在宅ケアへの移行を進めるには、病院の再編統合は避けられないというのが厚労省の理屈だ。だが、地元事情を考慮せず、手術件数などから機械的に対象病院を決めたことには「机上の空論だ」と反発や困惑も広がる
 国立病院機構松江医療センター(松江市)は「地域の呼吸器病センター」を掲げ、肺がんや結核などの治療で実績がある。だが厚労省は今回、救急▽脳卒中▽小児――など9分野の診療データを分析し、呼吸器疾患に重点は置かなかった。その結果、同センターは9分野全てで「診療実績が特に少ない」と判定された。
 前田悟事務部長は「地元の医療体制を協議する場で、考えを伝えたい」と戸惑う。再編や統合には他病院も絡むだけに、松浦正敬市長は「市立病院の負担が増えるかもしれない」と余波を懸念する。
 大都市部でも、専門性が売りの病院がやり玉に挙がった。
 国家公務員共済組合連合会が運営する九段坂病院(東京都千代田区)は、大学病院などがひしめく中で差別化を図るため、脊椎(せきつい)や脊髄の病気を多く扱う整形外科に力を入れてきた。救急医療などの実績の乏しさを指摘され、担当者は「地域に必要な医療を提供しているのに……」と首をかしげる。
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 厚労省の強気の裏には、病床再編への危機感があった。再編は地域の医療機関や自治体担当者が参加する「調整会議」での合意に委ねられてきた。率先して公立・公的病院に対応を求めたものの、出てきた計画はほぼ現状維持だ。
 政府の「経済財政諮問会議」傘下の会議で5月、民間委員が進捗(しんちょく)の遅れを問題視した。すると8日後の諮問会議で、根本匠厚労相(当時)は再検討を促す病院名の公表や重点区域設定の方針を説明した。厚労省幹部は「何もしないわけにいかない。ぎりぎりの範囲だ」と振り返る。
 日本の人口1000人あたりの病床数は13・05床で、米国の2・77床、スウェーデンの2・22床をはるかに上回る。民間病院の病床数が急増したためだ。不要な長期入院を招いている▽重篤患者を扱う「急性期」病床にリハビリが必要な高齢者が入院している――などの課題が指摘された

 政府は医療費の削減を目指し、推計した必要病床数に向けて病院の再編統合を求めた。標的は公立・公的病院。民間病院よりコントロールしやすい上、自治体病院は赤字体質で地方財政を圧迫している。ただ、民間病院の少ない地方で住民の健康を支えてきた歴史があり、首長には統廃合は重い。自治体病院幹部は「診療実績などの数字だけで結論を出さず、地域の実態を踏まえて議論して」と訴えつつ、「病床の大半を占める民間病院に手をつけないのは問題だ」と漏らす。
 厚労省が気にするのは利害関係者からの反発だ。今月20日の自民党医療委員会で出席議員から厚労省の方針に反対はなかったが、「再編すべきだと病院名をさらされたら話がこじれるだけ」(厚労族議員)と慎重な意見も少なくない。
 再編統合に消極的な首長から来年9月までに合意を得るのは容易ではない。政府は今年の「骨太の方針」に「(再編が進まなければ)20年度に都道府県知事の権限のあり方を検討して早期に措置を講ずる」と盛り込んだ。厚労省幹部は「もし進まなければ、国の関与強化も求められるかもしれない」とみている。【原田啓之】

厚労省としてはかねて医療資源の集約化を推進したい意向を持っていたことは周知の事実で、医療の効率化と言う面でも非効率な中小医療機関を統廃合し集約化した方が合理的なのは事実でしょう。
また昨今話題の医師らの働き方改革と言う側面でも、小病院で週3回の当直を強いられるよりは大病院に集約化して月1回の当直にした方が、労働時間短縮と言う点でも非常に効果的と言えますね。
ただ客観的に見ればそうなのですが、不景気や医療費削減政策の最中であっても病院の倒産が案外少ないように、地域の中小病院もそれなりに地域医療に貢献していると言う事実は無視出来ません。

医療リソースの集約化は急性期の医療に関しては確かに効率的な面も多いのですが、ごく一般的な医療を受けるに当たって何でも大病院でやるのも非効率で、地域の中小病院にも存在意義があると言えます。
判りやすい話では救急車で大病院に運ばれて来た急患が急性期の治療を受け、自宅に帰る前に地元の病院でリハビリをしてもらおうと思っても、そもそも地元の病院がなくなっていれば転院先がない理屈です。
要するに今回の調査における指標がかなり偏ったもので、急性期医療を熱心に広範囲にやっている医療機関が高評価になると言う、いわば大規模病院に有利に設定されている点が問題だと言えるでしょう。

一方で海外では日本ほど病床が多くなく、日本なら入院させるような場合でも通院で対応することも少なくないので、要するに入院すべきかどうかの基準をどこに置くかで病床数の過不足の議論は全く変わってきます。
この辺りは基本的に空床を作らずベッドを全て埋めなければ経営が成り立たないようになっている診療報酬制度の弊害とも言えますが、まずは病床稼働率の低い病院からでも着実に病床削減を進めることでしょうか。
その結果地域内での患者と病床数のバランスが変化しベッド不足が顕在化し、医師のみならず患者側も入院についての判断基準が変化してくれば、医療費も自然と抑えられていくようになるかも知れませんね。

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2019年9月24日 (火)

医療崩壊を阻止しようと言う努力が医療現場を崩壊させている

自らも地域の開業医であり、研修医であった娘さんを過労死で亡くした山田明先生が先日こんな記事を出していました。

医療崩壊を盾に勤務医を犠牲にするのか 過労自死した研修医の父で開業医の山田明氏が訴えること(2019年9月13日日経メディカル)

 厚生労働省は、2024年4月からの勤務医の残業時間について、年間上限を一般勤務医960時間、技術向上のための集中的な診療が必要な若手勤務医を1860時間、地域医療確保のための勤務医(特例)を1860時間とする案を示し、実施に向けた検討を進めている(関連記事)。これに対して、埼玉県で開業する山田明氏は「医療崩壊を盾に勤務医を犠牲にしてはならない」とし、「医師にも一般労働者と同じような規制を」と訴える。山田氏は2006年に、大学病院の研修医だった娘(当時26歳)を過労自死で亡くしていた。
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 娘さんに何が起こったのか明らかにしたいと思った山田氏は、四十九日の法要を終えた後、勤務先だった大学病院に対して娘さんの勤務状況を尋ねたという。
 「はじめは渋っていましたが、3週間ほど経ってようやく報告書が出てきました。しかし、大学病院の報告書には、過重労働は全くなかったかのように記載されていた」。
 折に触れて娘さんの仕事ぶりを見てきた山田氏は、過重労働に関する記載がなかったことに「吐き気を催すぐらいの憤り」を感じたという。「私は父として、娘のつらさを目の当たりにしてきた。毎日のように娘が朝早く家を出て、夜中遅くに帰ってきたことを知っていた」。
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 「研修医をめちゃくちゃ働かせるのではなく、早く帰らせて、家で文献を読む時間を持たせるほうがよっぽど大事なことだ。医師を育てる側が、医師の命の尊厳を守ろうとしていないのは明らか。こんなことでは患者の命は守れない」。山田氏の声に力がこもる。
 「医師の世界には、長時間稼働して当たり前という意識がある」と指摘する山田氏。こうした業界の「悪弊」を変えるためにも、「働き方改革では、むしろ規制や罰則を強化すべき」と訴える。特に、残業時間の上限を厳しくすると「地域医療が崩壊してしまう」との主張には、真っ向から反対する。病院経営者のマネジメント力のなさを、「医療崩壊」という言葉で覆い隠しているだけと映るからだ。「勤務医の犠牲の上に成り立つ地域医療であっていいわけがない。このことを病院のリーダーはよくよく考えてみるべきだ」。
 「今のままでは、私と同じような経験をする親が必ず出てくる」。山田氏の言葉は重く受け止めたい。

いわゆる医療崩壊と言う現象に関して少なくとも研修医に責任はないはずで、そのつけが若手など立場の弱い者にのしかかっているのだとすれば由々しきことですが、現実的には少しばかり事情が違うようです。
山田氏の言葉にもあるように医療崩壊云々とは関係なく元々医療業界内に医師を酷使する悪習があり、その正当化の根拠として医療崩壊と言う言葉がいわば脅し文句のように使われているのが現状ですね。
産科医に対する調査では過労死水準の月80時間以上の時間外労働をこなしている医師が66%に達し、月160時間以上の医師も27%に上ったそうで、医師の働き方改革が急がれる所以です。
そんな中で年960時間だとか1860時間だと言った数字が注目されてきた医師の時間外労働の上限規制について、先日こんな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

「年960時間超え」には2021年までの時短計画策定が必須に(2019年9月4日日経メディカル)

 厚生労働省は2019年9月2日、医師の働き方改革の推進に関する検討会を開催。「追加的健康確保措置」の履行の確保と「医師労働時間短縮計画(時短計画)」の策定などについて議論、概ね了承された。いずれも、勤務する医師が年間960時間を超える時間外労働を行う医療機関に義務化されることになる内容で、特に時短計画については、2021年中に策定しなければ2024年度の法改正に間に合わなくなることから、注目を集めることになりそうだ。

 追加的健康確保措置とは、一般労働者に適用される時間外労働の上限時間数を超えて医師が働かざるを得ない場合に、医師の健康、医療の質を確保するために医療機関の管理者に義務付けられるもの。検討会では、対象者として月100時間以上の時間外労働・休日労働が見込まれる医師が挙げられ、都道府県が毎年行う立ち入り検査の中で確認することが示された。
 措置が不十分だった場合には都道府県が改善命令を出し、それでも改善されない場合は医師の時間外労働の時間外勤務上限として1860時間を認める「地域医療確保暫定特例水準」(B水準)や「集中的技能向上水準」(C水準)の特例を取り消したり、罰則を適用する(図1)。
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 また、時短計画は、時間外・休日労働時間が年960時間を超える医師が1人でもいる医療機関に対して毎年策定を求めるもの。2024年度以降、医師が960時間以上の時間外労働を行うためには、労働時間削減の取り組みの評価を受けた上で都道府県からの認定を受ける必要がある。そのため、2024年度に間に合わせるためには、2021年度には医師労働時間短縮計画の策定が求められることになる。同日の検討会では、計画の項目例として、労働時間削減の目標と前年度実績の他、管理者マネジメント研修やタスクシフティング、医師の業務の見直しなどが厚労省より提案された。具体例として、現在全診療科が行っている当直を、初期対応が求められる診療科のみが行うことなどが示された。

 検討会の場では追加的健康確保措置に対して、「対象となる医師数が多い中で、物理的に面接・指導は可能なのか」「大学病院の産科の医局では、半分以上が追加的健康確保措置の対象となる」「面談など形骸化しかねない」など、実効性について疑問視する意見も多く出された。ただ、厚労省は「やれないと言われてもやっていただくしかない」という姿勢を崩さない。また、医師の確保が難しい地域では、追加的健康措置が実行できずに特例が取り消されたり、時短計画を進めることで地域医療に影響が出ることも懸念される。これまで以上に都道府県の差配が重要になりそうだ。

厚労省がかなり強硬な姿勢を示しているのは厚生よりも労働の側からの見解が主であると言うことなのかも知れませんが、基本的にこの働き方改革に関しては医師の労働時間をきちんと把握することが大前提です。
その部分が適当にされているのでは何ら意味のない話で、現状で労働時間管理の手法がきちんと確立されていない医療機関が今後どう動くかですが、下手をすれば自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。
労働時間の計算に関しては宿日直の扱いがどうなるかでも全く話が変わってきますが、先日も紹介したように宿日直業務の解釈が変更されており、新しい基準に従うと労働時間がどうなるのかを考える必要があります。
また研究をしているとか非常勤と言う名目でありながら、実質的にフルタイムで働いている大学病院のスタッフなどの扱いがどうなるかですが、今後の病院側の動き次第で労基署の対応が決まることになるのでしょうか。

こうした諸点を考えると、現時点で未だに医師の労働時間をきちんと把握出来ていない、行う努力を払っていない医療機関は動きが遅すぎると言え、本当に2021年中に時短計画を打ち出せるのか疑問符がつきます。
また医療機関側に如何にルールを守らせるかも肝心であり、その強制力として記事にもあるように都道府県からの認可の取り消しや罰則があるのですが、さて問題はどの程度痛みのある罰則が用意されるのかですね。
そして対策を講じた結果当然ながら多くの医療機関で診療体制の改変や縮小が避けられないはずで、今までのような維持拡大路線ではなく、どこを切り捨てていくかと言う視点での経営マネジメントが必須となります。
その場合医療崩壊云々などと言う概念論ではなく、単純に病院の収入が減り経営が悪化すると言う直接的な影響が現場には出るはずなので、国としてはそれにどう対応するのかも注目していきたいところですね。

 

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2019年9月19日 (木)

マッシー池田先生、司法関係者の医学教育に鋭意努力中

マッシー池田こと池田正行先生と言えば狂牛病騒動に絡んだゼロリスク症候群に警鐘を鳴らしたことで知られますが、最近はこんな仕事をされているのだなと思わせるのがこちらのニュースです。

検察官・裁判官に対する医学教育の実際(2019年9月10日日経メディカル)

 「ドクターGと仕事で御一緒できて光栄です」
 国敗訴の可能性が高いと考えられていたにも関わらず、私の意見書で形勢が逆転したある事案の最終局面、私が証言する期日(法廷での審理をこう呼ぶ。刑事裁判の公判に相当)の前日、東京法務局で行われた長時間の打ち合わせの休憩時間のことでした。飲み物を買うために寄った局内の地下売店で、担当の若手訟務検事から清々しい表情で声をかけてもらいました。
 その1年前、初めての打ち合わせの際、たまたま北陵クリニック事件に対する私の活動が担当チーム内で話題となり「あれは全部でっち上げですから」と言い放った私を見て、顔が歪んでいた彼から、そんなふうに声をかけてもらえるようになった時、教育が世の中を変える手応えを感じました。
 検察官だけはありません。裁判官も医療訴訟に関わります。にもかかわらず、裁判官にも医学教育を受ける機会が全くありません。このため、今日もどこかでトンデモ医療訴訟が行われています。私はそんな訴訟の品質向上を目指し、検察官と裁判官双方の医学教育を2015年1月から始めました。といっても新たに塾を開いたり生徒を募集したりしたわけではありません。矯正医療に対する国家賠償訴訟(国賠訴訟)という既存の行政訴訟を利用した、コストゼロのOn the Job Training(OJT:実地訓練)です。

 国賠訴訟における私の主な役割は、被告である国の代理人(刑事訴訟における弁護人に相当し国を弁護する)を務める法務局訟務部付検事(訟務検事)の要請に応じ、刑務所や拘置所での診療の妥当性について意見書を書くことです。訟務検事は若手の検事と判事補(裁判官に任官して10年未満)が交代で務めますから、若手の検察官と裁判官の両方を教育できます。さらに、書面や証言によって、私の考えをわかりやすく裁判所に伝えることは、担当裁判官の教育にもなります。
 国賠訴訟1件につき訟務検事は1人ですからマンツーマンの教育となります。書面のやり取りだけでなく、担当チームのメンバーも交えてテレビ会議での打合せも行います。判決までの何年もの間、人事異動で交代する場合もありますが、それでも私が直接やりとりできるのはせいぜい1件につき3人までです。「中身は濃いかも知れないが、果たしてそんなスピードで医療訴訟全体の品質向上が実現できるのか?」との心配は御無用です。
 私は神経学、総合診療、臨床研究、EBM、レギュラトリー・サイエンス等、様々な分野で教育に携わっていますが、その教育対象母集団は医師だけでも30万人を超えます。一方、裁判官は3000人足らず、検察官は2000人足らずです。単純に人数だけで考えても、教育の効率は医師の場合の60倍。私としても「自分の教育がトンデモ医療訴訟の撲滅に繋がる」と思うと教育にも自然と熱が入ります。この教育活動に対して、昨年3月には法務省矯正局高松矯正管区長から表彰状も戴きました。
 さらに彼らの競争意識が学習の動機付けを強化します。裁判官、検察官それぞれの集団における出世競争は、医師同士のそれとは比べものにならないぐらい激しい上に、裁判官と検察官の間にある緊張関係も互いに切磋琢磨するための原動力になります。

 2015年1月から19年5月までの間、敗訴の可能性が否定できないとして私に意見が求められた国賠訴訟10件のうち、医療過誤が明白だった1件(無駄に争わずに裁判の早期収拾を助言)を除く9件を表に示しました。 9件全てについて意見書を作成するとともに、テレビ会議も利用し、期日前の打ち合わせにも参加しました。2件では出廷し、そのうち1件では証言も行ないました。原告側から医師の意見書が提出されたのは5件でした(別表)。
 原告主張の具体的内容は、診断および治療開始の遅れがあったとするものが7件と多数を占めています。関連診療分野は多岐にわたり、特定の診療科への偏りはありませんでした。2019年7月現在、9件のうち4件が係属(まだ裁判が続いているという意味)、3件が請求棄却、1件が勝訴的和解、1件が請求額2000万円に対し800万円の支払いを認める判決でした。
 私への依頼があった時点では、9件いずれも敗訴の可能性が否定できなかったにもかかわらず、これまで判決が出た5件では、全て敗訴を免れています。形勢逆転の原因は、第一にそれまで訟務検事が気づいていなかった原告主張の重大な事実誤認を、意見書で私が明らかにしたこと、第二に、何回もの打ち合わせに参加し、弁論や尋問の内容についても積極的に意見を述べ、証人として出廷するのも厭わず、担当裁判官の疑問に対して常に分かりやすい説明を心がけた点にあると考えています。
 もちろん、私にとっても大いに学ぶところがありました。医療訴訟の実務に、それも第三者としてではなく、被告国の当事者として関わるなんて、矯正医官にならなければ決して経験できなかったことです。「教えることは学ぶこと」を正にそのまま地で行く国賠訴訟を9例も経験し、法務省からの表彰まで戴いたおかげで、定年後のキャリアパスも見えてきました。

ちなみに池田先生はもともと神経内科医ですが、今現在の役職は高松少年鑑別所の法務技官・矯正医官なのだそうで、ご自身の解説を見ても医師としては非常にユニークなキャリアをお持ちだと言えそうですね。
当然ながら神経内科的な訴訟ばかりと言うわけではなく、まさに関連診療分野は多岐にわたり、特定の診療科への偏りはない医療訴訟について意見書を作成されたと言うことで、いきおい専門外が多かったはずです。
国賠訴訟ですから原告は市民であると思いますが、国にとっての弁護人となるのが検事であると言う点で混乱しそうですが、要するに受けて立つ被告弁護人は決して医療の専門家でも何でもないと言うことです。
実際にどのような訴訟に対しどんな意見書を出したかは記事からは不明ながら、専門外の目で見ても原告側の主張に明らかな重大な事実誤認があったと言うことで、それを見抜けない検事の力量が問題です。

池田先生の関わる国賠訴訟はいわゆる医療訴訟とはまた違った難しさもあるのでしょうが、医療訴訟と同様に実際に訴訟を担当し判断するのは医療の素人であると言う点では少なからず共通点があると言えますね。
検事に限らず弁護士にしろ裁判官にしろ、医療訴訟を担当する機会が多ければ慣れてはいるのでしょうが、それはあくまで裁判のロジックとして慣れていると言うだけで、医療知識の点で特に詳しいわけではありません。
医療側の目線で見れば明らかにおかしい、いわゆるトンデモ判決が出る素地と言えますが、基本的には素人が集まって裁判をする以上、それに専門家視点で助言する医療側の役割がきわめて重要です。
無論明らかに原告のおっしゃることはごもっとも、被告は素直に賠償に応じるべきとしか言い様がないケースも少なくなく、こうした場合も含めて正しく妥当な専門的判断に基づいた判決が出されるべきだと言うことですね。

池田先生は司法関係者の医学的教育と言う点で努力されていますが、当然ながら司法関係者が判断するにあたって医師の意見が重要視されるわけですから、裁判に関わる医師の教育も非常に重要でしょう。
昨今は医療訴訟も弁護士レベルでかなりフィルタリングされているとも聞きますが、中には功名心にはやってか奇妙な論理で原告側を支援する医療側鑑定人もいて、トンデモ判決が出る主原因とも言われます。
現状で原告側は自分の主張を肯定してくれる医師さえ見つけられれば裁判に持ち込めるとも言え、明らかに専門外の先生や一般の医学的常識に反する主張をする先生ですら、専門家として法廷に意見することが出来ます。
大野病院事件でも検察側証人と被告弁護士とのコントのようなやりとりが話題になりましたが、他人の人生も左右する訴訟に関わる以上、鑑定人など医療側専門家にも何らかの資質の担保策が求められるように思います。

 

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2019年9月17日 (火)

医師偏在時代にあっての医師強制配置への布石

千葉県北部の匝瑳(そうさ)と言う地名は5世紀から伝わる古いものなのだそうですが、その千葉県匝瑳市でこんな記事が出ていました。

医師偏在地域に悲鳴 好条件は東京に集中 匝瑳市民病院「綱渡り状態」(2019年9月4日千葉日報)

 政府が掲げる「人生100年時代」を見据え、増加する医療ニーズへの対応が課題となっている。全国どこにいても安心して医療が受けられる体制整備が不可欠だが、地方で医師が足りない偏在問題は深刻だ。首都圏に位置する本県でも看護師などを含めた医療従事者が不足している地域があり、医療現場からは「このままでは体制を維持できない」との訴えも出ている。
 厚生労働省によると、全国の医師の総数は2016年末時点で約31万9千人と、増え続けている。ただ人口や診療需要を反映させ、数値が低いほど医師が不足している状況を示す「医師偏在指標」では、最も医師が充足している東京都と、最も不足している岩手県の間に2倍近い差があり格差が浮き彫りになった。

 東京から70キロ圏の距離にある県北東部の匝瑳市。複数の市区町村をまとめた「2次医療圏」の医師偏在指標を見ると、匝瑳市を含む「香取海匝」は全国平均を大きく下回り、医師不足が顕著だ。
 「都心の方が最新の設備も使えるなど条件がいいから、医師は東京に近い場所に集まってしまう」。国保匝瑳市民病院の菊地紀夫院長が嘆く。00年に24人いた常勤医は減り続け、今年は9人に。宿直や訪問診療を含む全ての業務を常勤医だけでこなすのは難しく、大学病院から応援をもらい乗り切っている「綱渡り状態」(菊地院長)だという。医師だけでなく看護師など他の医療従事者も足りておらず、救急車の受け入れ要請があっても夜間はほとんど断っている。

 厚労省は、医師が少ない地域での勤務経験を一部病院の管理者になる際の評価項目としたり、地元勤務を義務付ける大学医学部の地域枠を増員したりするなどの対策を打ち出している。ただ菊地院長は「即効性はない。へき地医療を一定期間義務付ける制度をつくるしかない」と訴える。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65年には65歳以上の割合が38・4%に。超高齢化社会を迎えるのは確実で、自民党は7月の参院選の公約に「人生100年時代にふさわしい社会保障制度の構築」を掲げ「医師偏在対策」を盛り込んだ。
 「公約に入ったのはよかったが、選挙戦で偏在問題はほとんど議論にならなかった」と菊地院長。「急激な高齢化が進む地方では関心の高い話。病院がないと地域社会は成り立たない。地域医療の実態を知り改善につなげてほしい」と訴えている。

全国的に人口分布が大きく昔と変わっていく中で、昭和の時代から変わらず存在する各県の医学部定員が既得権益化し、医師分布の不均衡の一因とも言われていますね。
また東京などは医大が多く医師供給源が豊富なのも事実ですが、研究職や官僚として働く名目だけの医師も多いとも言われ、額面ほど医師過剰ではないとも聞きます。
特に周辺県からの患者搬入も多く、以前にも救急搬送困難事例が多発したことでも知られますが、その一因として千葉や埼玉など近隣医師不足県の存在があげられます。
人口が多いにも関わらず医学部が少なく医師供給が歴史的に不足しがちであると言いますが、特に千葉などは県域も広く以前から救急連鎖崩壊先進地とされてきました


今後都道府県単位で地域医療計画に基づいた医療供給体制の整備が進められれば、医療環境の差異が生まれ現状より自治体間の格差がさらに拡大する可能性もありますね。
これに対して医師配置をある程度強制的に行うべきだと言う考え方もあり、例えば医学部の地域枠であるとか、新専門医制度の定員設定などはその手段となりえるものです。
ただ地域枠にしても定員が埋まらないだとか、お礼奉公を拒否する人もいるだとか実効性に疑問符があるとも言われ、今後どのように運用されるかが問われるところですね。
そんな中で先日地域枠と新専門医制度の定員との関係が厚労省から示されましたが、地域枠を利用する学生にとっては相応に厳しいとも言える話に思えます。

地域枠、自治医大卒医師、専攻医シーリング外での採用可能に(2019年9月11日医療維新)

 厚生労働省は9月11日、医道審議会医師分科会医師専門研修部会(部会長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)に対し、地域枠医師や自治医科大学出身の医師は、シーリング(専攻医の募集定員の上限)の枠外での採用を可能とするなど、2020年度開始の研修プログラムに関する日本専門医機構への意見・要請案を提案、修文等は部会長一任の上、了承された(資料は、厚労省のホームページ)。

 シーリングは、内科をはじめ、13の基本領域(診療科)で都道府県別に設定するのが骨子(外科など6診療科は対象外)で、今年5月の医師専門研修部会で了承された(『 2020年度専攻医シーリング、機構案通りに厚労省医道審で了承』を参照)。今回の措置は、都道府県から「特定の都道府県での勤務が義務づけられている専攻医に対する不利益が生じないような配慮が必要」との要望が挙がっていたことへの対応。5月時点でのシーリングが多少緩和されることになる。
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 11日の会議では、「医師の地域的な適正分布のためのデータベース化事業」の方針も了承。厚労省の医師・歯科医師・薬剤師調査(三師調査)で用いる「医師届出票」のデータに加えて、専門医情報(専門領域や専門研修プログラム名など)を統合し、都道府県が医師確保対策に活用できるようなデータベース構築を目指す。今年度でも既に「医師届出票」に加えて、専門医情報の一部を連携させており、9月中に都道府県に提供する予定。さらに日本専門医機構に対し、専門医情報の登録の徹底などを求める。
 さらに地域枠など、卒業後に従事要件が課されている医師については、その情報を本人同意の下で取得し、非該当の都道府県の専門研修プログラムでは採用できないようにする。2020年度開始の専攻医募集には間に合わず、以降の対応になる見通し。2019年度研修開始の約8600人の専攻医中、地域枠制度利用者は736人で、うち29人(3.9%)は、奨学金を貸与した都道府県が離脱を認めていないケースだった。地域枠医師については、臨床研修でも離脱しないよう、厳しい対応を講じている(『東京医大の地域枠3人離脱、1人は自大学病院で採用』を参照)。

 聖路加国際病院副院長の山内英子氏は、「シーリングは、地域の必要医師数に基づいて計算している。地域枠医師等を枠外にするなら、必要医師数の計算に戻って、地域枠医師等を引いた数にする必要があるのではないか」と質問。
 厚労省医政局医事課長の佐々木健氏は、「必要医師数は、(医学部の)入学枠に関係なく計算している」と山内氏の考え方を認めた上で、地域枠医師等の従事要件の変更を強いることは容易ではないことから、各都道府県の地域医療対策協議会で、個々の医師について、シーリングの枠外にするか否かを検討する仕組みを要請すると説明した。2021年度開始の研修については、地域枠医師等の扱いも含めて、シーリングのかけ方自体を検討し直すことになるという。
 日本医師会常任理事の釜萢敏氏は、「(シーリングの枠外とする話は)地域枠医師等が、シーリングのためにその役割を果たせない場合があることから出てきた。地域医療対策協議会でしっかり枠外とするかどうかを峻別するということなので、それでいい」と述べた。

 全国市長会会長で、相馬市長の立谷秀清氏は、地域枠医師等は、従事要件を果たすために、医師不足地域等も含め、さまざまな地域に行くことから、「研修カリキュラム制が前提なのでは」と質した。その上で、地域枠医師等の大半が研修プログラム制を選択している現状で、地域枠医師等をシーリングから外すことに疑義を呈した。
 厚労省医政局医事課は、「研修カリキュラム制が分かりやすい制度として整備されていない現状なので、地域枠医師等がどちらに向いているかを判断することはできないと思っている」と述べ、厚労省として研修カリキュラム制の整備を日本専門医機構に求めていると説明。
 佐々木課長も、「今回、地域枠医師等について、シーリングの枠外での採用を可能とするのは、全体の提案と関連している。研修カリキュラム制をしっかり導入してもらいたいという要望は、この医師専門研修部会、全国知事会から出ている」などと述べ、制度全体をパッケージとして捉えた中で、地域枠医師等が従事要件を満たしつつ専門医取得ができよう研修カリキュラム制の整備と、シーリングの枠外とするかどうかを検討していくことが求められるとした。
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 医学部入学定員に占める地域枠は年々拡大。2017年度時点では、9420人中、1674人(17.8%)
 山内氏は、「専門医制度の採用プロセスにおいて、各専攻医の特定の地域への従事要件等の有無を確認」など、厚労省の提案を支持したものの、地域枠の仕組みは都道府県によってさまざまなことから、各医師がどの地域枠か、またどんな条件が付いているのかなどの情報の提示が必要であると指摘した。「専攻医の採用において、縛りを設けることは賛成。1674人がきちんと配置されれば、地域医療の助けになる」。日医常任理事の羽鳥裕氏も、山内氏の考えを支持した。
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地域枠でのお礼奉公を望んでいない学生にしてみれば、専門医の定員を理由にお礼奉公を果たせないと言う言い訳の道を、今回厚労省から塞がれた格好です。
一般論として言えば地域枠とは入学時に契約を結んでいるわけで、それに反して卒業後勝手に他地域に移動して診療を行うことは望ましいことではないと言えます。
ただ現状で地域枠が埋まらない大学も多いせいか、希望していないにも関わらず半ば強制的に地域枠を利用させられたなどと言う話もあり、単純な話でもないようですね。
もちろん医師不足の地域に求められた制度なのも事実であり、大多数の学生も理解した上で利用していると思いますが、進歩的メディアなどから批判を受ける余地がある制度ではあります。

今回地域枠のお礼奉公対象地域以外では専門医研修をそもそも出来ないようにすると言うことで、地域枠への強制力としてはかなり強力な制度になりそうに思えます。
なおごく希な疾患を学びたい場合、地域枠で縛られると学べる場所がない可能性が指摘されていますが、お礼奉公を済ませてから勉強しなさいと言うことになりそうです。
ただ今回お礼奉公のノルマに関しては本人同意の下で情報を取得すると言う、今の時代らしく個人情報保護に配慮した格好になっているのがあるいは抜け道でしょうか。
いずれにせよこれから医療を目指す若い先生方は今まで以上に統制も厳しくなるはずで、大学に入る前からある程度明確な将来のビジョンを持つべきなのかも知れませんね。

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2019年9月 9日 (月)

医師と検診、受ける側の立場と行う側の立場

先日週刊誌でこういう記事が掲載されていたそうです。

医師200人が回答、受けたくない検査は一体何なのか?(2019年9月3日週間ポスト)

 人間ドックなどで、さまざまな検査を受けている人が増えている。上皇后美智子さまが「定期検診」で胸に腫瘍が見つかったことからも明らかな通り、現代人が健康を維持するのに検査は欠かせないものとなっている。
 その一方で、専門家すら受けることに首をかしげる検査もある
 本紙・女性セブンは、医師200人を対象に、医師自身が「受けたい」「受けたくない」検診・検査は何なのかを徹底取材した。幅広い診療科の医師が匿名を条件に答えたアンケートを読み解くと、検診・検査における私たちがとるべき“最適解”が見えてくる──。

 調査の結果、「受けたい」検査1位は血液検査となった。2位以下のラインアップを見ると、「受けたい」「受けたくない」の両方にランクインしているものがいくつか存在する。特に「大腸内視鏡」をはじめとした内視鏡検査の名前が目に入ってくる。
 医療に詳しいジャーナリストの村上和巳さんは、こんな推察をする。
「内視鏡検査は、熟練の専門医が行えば短時間のうちにスムーズに終わり、苦痛もほとんどありません。しかし、医師の腕によっては苦しんだり、時間がかかってしまったりすることもある。“ピンキリ”だということを医師たちが知っているからこその結果だと思います」
 とはいえ内視鏡検査は、がんなどの病変があれば医師が直接見て発見できるうえ、小さいものならばその場で切除することもできる。毎年でなくとも受けておくべきだ。
「大腸内視鏡は40代後半になったら一度は受けてほしい。専門医が腸内を見ると、ポリープができやすいかどうかなど、その人の腸がどんな傾向を持っているか、ある程度わかります。ポリープができにくい人であれば、検査は2~3年に1度でいいといわれる場合もある。大腸がんは日本人の死亡原因の上位でもあるから、積極的に受けてほしい」(村上さん)

 一方で、「受けたくない」部門の1位にその名が挙がった腫瘍マーカーと胃バリウム検査には「あてにならない」「大変なわりに効果がない」といった辛辣な意見が多く見受けられた。
 村上さんも「バリウム検査は受けたくない」と声をそろえる。
「バリウムをのんだり、検査後に下剤で出すのは時間もかかるし、大変です。さらに、撮影した画像から病変がないかチェックする『読影』という作業は医師の腕に左右され、見落としの可能性があります。内視鏡も現在は医師の目による確認ですが、人工知能(AI)で解析する試みが行われており、近い将来に実用化される見込みです」
 つまり、今後さらにバリウムと胃内視鏡の精度の差は開いていくことが予想される。新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんは被ばくリスクの有害性を指摘する。
「比較的被ばく量が少ない検査である胸部レントゲン検査すら、欧米の研究によれば『肺がん患者を減らすどころか1割増やしている』との報告があります。バリウム検査の被ばく量はなんとその100倍以上ともいわれており、メリットより害の方が大きくなると考えられます」
 胃がん検診を受ける際は、バリウムより胃内視鏡検査を選択した方がよさそうだ。
(略)

ちなみに検診と健診と言う言葉はやや違いが分かりにくいですが、検診は癌検診など特定の病気を見つけるのが目的であり、後者は健康診断の略で生活習慣病など全般的な健康状態の把握が目的です。
ただ設問を見て思うのですが受けたい、受けたくないと言う言葉の解釈が曖昧で、しんどいから受けたくないのと意味がないから受けたくないのでは全く意味が違ってくるはずですが、実際の文言はどうだったのかです。
コメントで見れば受けるべきか、受けるべきではない(受けても仕方がない)で回答をされているように思いますが、やはり患者の身としてはしんどい検査はたとえ有益であっても受けたくないのも本音でしょうからね。
また乳癌検診のマンモグラフィなども有益性からは受けるべき検査の部類だと思いますが、見ず知らずの男性に撮影されるのは嫌だと言う女性心理も当然あって、女性の検査技師が歓迎される所以です。

記事を見ていますと消化管検診の話題が大きく扱われていますが、内視鏡など有益であっても大変だとかしんどいと言った事情がある場合、医師の方がより積極的に検査を受けるものかも知れません。
一度内視鏡で見てみればある程度癌のなりやすさ、リスクが判ってきますから、癌年齢になれば一度は受けて損はない検査だと思いますが、ただ記事にあるようにバリウムを廃して内視鏡に切り替えるべきかどうかです。
検査技師が短時間に大量にこなせ、場合によっては検診車でも行えるバリウム検査と、医師が一人一人行う内視鏡検査では、行う医療機関の側からすると手間や大変さなどの負担感にずいぶんと差があります。
現時点では胃癌のリスクが高い人に内視鏡を行うABC検診などが行われていますが、将来的にはカプセル内視鏡とAIの組み合わせなどで、より簡単で高精度な消化管検診が可能になるかも知れませんね。


以前には胸部レントゲン検診は有害無益だと言う主張がありましたが、肺癌検診としてはさほど有用では無いとしても、結核や慢性呼吸器疾患などに対する健診の意味ではそれなりに有益ではないかと思います。
要は何を目的にするかで全く価値が変わってくるのが検査と言うもので、その意味では医師の判断の元で適切な検査を受けるのが最善であり、素人判断であれやこれやと受けても有害無益になりかねません。
この点で特に最近問題視されているのが人間ドック等で有料オプション扱いされている腫瘍マーカーなるもので、多くの医師から低評価だったのは当然ですが、ドック等では未だに一定の人気があるようですね。
将来的に少量の検体で早期の癌を発見出来る時代が来ればともかくですが、現時点ではいたずらに患者の不安を煽ったり、無駄な精密検査で医療機関のリソースや医療費を浪費する嫌われ者と言えそうです。

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2019年9月 5日 (木)

医師の働き方改革、働かせる側に求められるものは

このところ医師の働き方改革に関する議論もずいぶんと進んできていますが、その中でも多くの医師に関係しそうなのが宿日直の基準が変更された点ではないでしょうか。

宿日直許可基準が変更! 業務はどこまで可能?(2019年8月13日日経メディカル)

(略)
 3月末に厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」は、2024年度から導入する医師の時間外労働規制の枠組みを決定した。それから約4カ月の間、厚労省はスムーズな制度導入のため、具体的な仕組みの詰めなどを進めてきた(図1)。
 以下では、病院経営に影響を及ぼす(1)新しい宿日直許可基準、(2)医師の研さんの扱い、(3)応召義務の解釈、(4)「医師の働き方」後継検討会の発足、(5)大学病院医師の副業・兼業――の五つのトピックスのうち、70年ぶりに変更された(1)宿日直許可基準の最新動向を紹介しよう。

従来より緩和、診療科別などでも「許可が可能」と明示

 病院経営に最も大きな影響があるトピックは、70年ぶりに改められた宿日直許可基準だろう。7月1日に基発0701第8号「医師、看護師等の宿日直許可基準について」の通知(表1)が発出され、従来の基準(1949年に通知発出)よりも大幅に緩和された。
(略)
 従来の基準では、宿日直中に行ってもよい「特殊の措置を必要としない軽度、短時間の業務」は、「病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈、検温」などとされていた。それが新しい基準では、「少数の要注意患者の状態変動に対応するための問診による診察等(軽度の処置を含む)」などとされ、少々の診療なら認められるようになった(表1)。全日本病院協会会長の猪口雄二氏は、「以前は少しでも業務があれば宿日直許可が下りなかったが、新しい基準はかなり緩和された」と評価する。

 さらに新しい通知では、診療科や職種、時間帯などを分けて宿日直の許可を受けることが可能だと明記された。日本病院会副会長の岡留健一郎氏も新しい通知を評価し、「今後は、どの診療科が何曜日に忙しいか、深夜に業務がどのくらい発生しているかなど、医師それぞれの労働実態を細かく把握した上で、自院に適した体制を構築することが大切だ」と指摘する。
 例えば、病院内でも救急外来担当医と病棟当直医に分けて、夜間・休日の業務量が多い救急外来担当医は通常の勤務とし、病棟当直医の夜間・休日の当直については宿日直の許可を受けるといった方法がある(図2)。
(略)

一見すると働き方改革に逆行して医師により多くの当直労働を押しつけるかのようにも見える話なのですが、そもそも宿日直とはほとんど実際の労働を要さず、電話番程度で終わるような業務のみ認められていました。
もちろんよほどの寝当直ででもなければこうしたことはあり得ないのですが、実質的には夜間時間外診療をしているにも関わらず表向きそうではないと強弁し、宿日直として許可を得ていた歴史的経緯があります。
今回の働き方改革ではこうした医師の実労働を正しく把握した上で、当直と称しても実態として夜勤状態なのであれば夜勤として扱えと言うことで、当然ながらその分は労働時間としてカウントされることになります。
医師個人の総労働時間規制との関連もさることながら、医師を働かせている側への影響も非常に大きそうな変更点ではあるのですが、このところの議論の中でもこうした働かせる側への影響が懸念されています。

「無理に改善すれば診療体制縮小」医師の働き方改革(2019年9月3日医療維新)

 厚生労働省は9月2日、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(座長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所長)の第2回会議で連続勤務時間制限や勤務間インターバル、面接指導などの「追加的健康確保措置の枠組み」と、「医師労働時間短縮計画および評価機能について」の案を提示した。医療従事者側の構成員からは「無理に改善させることは可能だが、診療体制が小さくなることは確実だ」などと難色を示す意見が相次いだ
(略)
 日本医師会常任理事の城守国斗氏は「管理者も一生懸命されると思うが、地域の医療需要に対応するために頑張らざるを得ない状況が続けば、未実施が続いて改善命令ということになろうかと思う。そうなると、管理者としては診療体制を縮小する流れが想定される」と指摘。千葉大学医学部附属病院病院長の山本修一氏も「内部のマネジメントを必死に真面目にやってもだめならば、それは地域の医療提供体制上やむを得ない部分がある」と述べた。
 これに対し、日本労働組合総連合会総合労働局長の村上陽子氏は「医療機関側の構成員から懸念が出ているが、なぜ医師の働き方改革が必要かと言えば、働き過ぎで倒れてしまう医師をなくしていこうということで、それが医療の安全につながる。その観点は大事にしていくべきだ」と釘を刺した。
 厚労省医政局総務課保健医療技術調整官の堀岡伸彦氏は「院内のマネジメントが全くいい加減ということであれば罰則もあるかもしれないが、罰則で特例取消となって結局困るのは住民なので、基本的にはないと思っている。都道府県の支援と改善命令で、地域医療を守りながら支えていくことを考えていくしかない」と述べた。城守氏はさらに、公的病院については「母体となる全国組織があるところも多い。全国的な会議で検討すればいいのではないか」と提案した。
(略)

いやまあ、医師が多忙過ぎると言うのですから医師の担当する業務の範囲が劇的に減らせるとか、医師数が近い将来激増すると言ったことでもない限り、まさに診療体制を縮小するしかないとは当然の結論だと思っていたのですが。
むろん世の中にはもっと働きたい、もっと沢山の業務をこなしたいと考えている医師もいないではないのでしょうが、ここで出ている診療体制の縮小云々の話、言ってみれば困るのはほぼ経営者側の話ではありますね。
現在の診療報酬体系にあっては現場スタッフに過剰労働をさせなければ黒字にならず、経営が成り立たないと言う側面ももちろんあるのでしょうが、一連の議論とは経営者ではなく労働者のためのものであるはずです。
その議論の主体となる医療側参加者の論点が経営者目線のみに偏っているのであれば、働き方改革が正しい道筋に進むとも思えませんが、この辺りは現場医師の代弁者が不在と言う医療業界長年の課題とも言えますね。

現場医師に及ぶ悪影響を考えると、今まで夜間休日でも院内で誰かが居残っていて他科コンサルトが出来ていたものが、労働時間短縮の結果コンサルトする相手がいなくなると言った影響は考えられるかも知れません。
また現実的に労働時間の上限を超えた医師はどうなるのかですが、例えば外科で緊急手術をしたいが麻酔科が労働時間オーバーで働けないと言った事態があるのかどうかですが、施設毎の判断が別れそうです。
ただそうした時間外や緊急の事態が必要なのであれば、その分を見越して普段の勤務時間の短縮を図っておくべきことであって、こうした点にこそ経営者としての決断と実行力が問われることになるかと思いますね。

 

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2019年9月 2日 (月)

医療業界は未だに「安全第一」ではなかった?

開業医の立場で診療を行っている谷口恭先生が、先日こんな記事を掲載していました。

「患者のため」をやめようではないか(2019年8月30日日経メディカル)

(略)
 前回、過重労働から自らの命を絶った産婦人科医の部長について取り上げた。医師不足は明らかなのに医師増員に反対する医師が多い。これは医師が収入減を恐れているからなのではないか、さらに既得権にしがみつこうとしていないか、ということを指摘し、我々の収入を減らしてでも勤務時間を少なくし仲間の過労を防ぐべきだという私見を述べた。そして今回言いたいのが、「患者のため」という考え方を見直すことで過重労働を改善できないかということだ。
(略)
 他の業界もみてみよう。谷口医院には研究職に従事している患者も多数いるが、数年前から彼(女)らは残業や休日出勤が禁止されているのはもちろん、忘れ物をして会社に取りに帰ってもビルに入れてもらえないという。
 産業医学の観点からみると、平成の時代によく取り上げられたのが「過重労働」「パワハラ」「新型うつ」などだが、産業医学全般でみると被害者が多いのは歴史的には建設業や運送業、工場などである。そして、こういった業界では昭和の時代から「安全第一」が謳われている。重要なので繰り返そう。そういった業界では顧客ではなく(従業員の)安全が第一なのである。そうなるまでに多くの命が失われているのは事実だが、こういった不幸な事故を教訓に「安全第一」が生まれたのである。
 翻って我々医療業界をみてみよう。「患者第一」という言葉が入っている病院や診療所の「理念」を見かけることがあるが、この言葉を水戸黄門の印籠のように無言で従業員に強いていないだろうか。我々は「患者のため」「患者第一」という言葉がはらむ危険性を認識すべきだと思う。
(略)
 ところで、現在検討されている「医師の労働」について、2019年3月、厚労省は見解を発表した。それによれば、「診療ガイドラインや新しい治療法等の勉強」「学会・院内勉強会等への参加や準備、専門医の取得・更新等」「当直シフト外で時間外に待機し、診療や見学を行うこと」を上司の指示なく行えば、業務上必須でない行為とみなされ、労働時間に該当しないそうである。話題になる「1860時間」という数字は、こういった“勉強”になる時間も入れれば仕方がないか、という声もあったが、厚労省の見解はこういった時間を抜いての1860時間と言っているのである……。
 「患者のために残る気はないのか」「患者のためにもっと勉強しろ」「患者のために外来や手術にもっと入れ」などと言われて「帰ります」と言える若い医師はそういないだろう。ならば組織としては、思い切って「患者のため」という言葉自体を禁句(NGワード)にするのはどうだろう。
 我々一人ひとりは、まずは自分のパートナーや家族に「患者のため」と言わないように努めようではないか。

もう二昔も前の2000年前後の頃、急増する医療訴訟が医療を崩壊させると騒がれた時代があって、根拠に基づく医療(EBM)をもじって司法判断に基づく医療(JBM)などと言う言葉が使われた時代がありました。
その後あまりにも目に余るひどい労働環境を黙って受け入れるべきではなく、むしろ医療安全のためにも休養の重要性が再認識され、医療スタッフの生活の質(QOML)が改めて問い直されたりもしたものです。
新臨床研修制度の下で育った若手医師は自分で労働環境も含め職場を選択することを当然と考える時代で、今現在奴隷的労働環境に甘んじているのはその上の中堅と呼ばれる世代が中心ではないでしょうか。
谷口先生も言うように医療も何より安全が第一だとするなら、労働環境改善は何を置いても最優先のテーマと言えますが、そのための方法論を考えるとどうしても避けて通れない議論があるようです。

改革には「医療縮小」か「勤務医増」しかない(2019年8月6日日経メディカル)

 日本の病院の32%が、厚生労働省が進める「医師の働き方改革」では医師の労働環境は改善しないと回答。その理由で最も多かったのは「勤務医不足が解消されないから」だった。日本病院会の調査で明らかになったもので、千里リハビリテーション病院(大阪府)院長の塩谷泰一氏が日本病院学会(8月1~2日、札幌市)で報告した。塩谷氏は、働き方改革を実現するためには「医療の縮小(量の縮減)」か「勤務医の増員」しかなく、これが実行できない病院には「再編・統廃合の道しか残されていない」との見方を示した。
(略)
 労働時間・労働賃金に関する質問では、以下の点が明らかになった。宿日直については、「宿直は週1回、日直は月1回を限度」とする労働基準局長通達を遵守できている病院は63%だった。しかし、遵守できていない病院も38%と多かった(回答392病院)。また、労働基準監督署から宿日直許可を受けている病院は49%と半数に達せず、受けていない病院が26%も存在した(回答405病院)。「不明」も21%だった。
 宿日直の業務内容については、32%の病院が「勤務中に救急医療などの通常労働が頻繁に行われている」と回答(回答398病院)。「行われていない」は32%に過ぎなかった。「行われている」と回答した病院の88%は、この状態を「不適切と認識」しており、80%は許可の取り消しになることも認識していた。
 また、宿日直業務に対する賃金の支払いは、13%が「宿日直手当のみ」、62%が「宿日直手当+実労働時間賃金あるいは定額の割増賃金」であり、「全て時間外勤務として割増賃金」は12%に過ぎなかった(回答304病院)。
 時間外勤務が月80時間、年960時間を超える医師については、45%が「いる」と回答(回答377病院)。その内訳をみると、500床以上の病院が76病院と大病院ほど多かった。なお、こうした長時間労働の医師に対しては、院長あるいは所属長による面談を「行っている」は58%で、「行っていない」の42%と拮抗していた。

 労働基準法遵守の項目では、労働基準局から是正勧告を受けたことがある病院は、調査対象の50%と急増した(回答399病院)。前回調査(2015年)では25%、前々回調査(2013年)でも32%だった。
 是正勧告の対象となった労働基準法違反は、労働時間(32条)違反が47%、割増賃金(37条)違反が40%、時間外労働(36条)違反が25%などだった(回答200病院)。
 調査では、45%の病院が「日本の医療は労働基準法違反を前提として成り立っていると思う」と回答した(回答392病院)。「思わない」が21%、「分からない」が34%だった。

 医師の働き方改革に関連した質問では、63%が医師の時間外勤務削減に向け、医師の働き方を見直していた(回答395病院)。その内容は、「医師事務作業補助員の増員」(65.2%)、「チーム医療の推進」(44.0%)、「宿直明け勤務の制限」(38.0%)などが上位だった(回答250病院、複数回答)。一方で、「連続勤務時間の上限設定」(5.2%)、「勤務時間インターバルの導入」」(3.6%)、「宿直回数の上限設定」(2.8%)、「救急受け入れの制限」(1.6%)などは、少数だった。
 厚労省が緊急的に取り組むべきとした「医師の労働時間短縮に向けた取り組み」について、実施できた項目も尋ねている。その結果は、「タスク・シフティング」が53%と半数を超えていたが、それ以外は「36協定の自己点検」(46%)、「女性医師等に対する支援」(41%)、「医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み」(36%)、「医師の労働時間短縮に向けた取り組み」(24%)、「既存の産業保健の仕組みの活用」(13%)と低率だった。
 また、厚労省が検討している医師の働き方改革の進展で、「労働環境が改善する」と考えている病院は50%にとどまり、「改善しない」が32%だった(回答395病院)。「改善しない」の理由には、「勤務医不足が解消されないから」が81%に上り、「労働基準法を遵守すれば必要な診療体制を維持できない」(66%)、「医療の特殊性が存在するから」(61%)などと続いた(回答128病院)。
(略)

ちなみに労基署からの是正勧告が急増していると言う点に関しては、労働環境が悪化していると言うよりも労基署が医療現場への介入を躊躇しなくなった影響が大きいかと思いますが、いずれにせよ厳しい現状です。
このうち大規模な基幹病院ほど多忙であることは現場の実感とも合致する話で、当然ながらそうした職場に医療リソースを統合、集約することで業務負担を軽減することが対策として考えられるかと思います。
しかし現実には医師不足地域へ基幹病院から医師を派遣させようなどと言う話もあるくらいで、さてこの場合医師不足とは何を指して言うことなのか、言葉の定義も考え直す必要があるのではないかと言う気がします。

今回こうした労働環境是正の方法論として最も多かったのが事務作業補助員の増員であったことも興味深いのですが、医師が医師でなくとも出来る業務に忙殺されないよう、サポートを手厚くすることは重要ですね。
経営的に見ても最も労働単価の高い医師よりも他職種にタスクシフティングを増やすことで、結果的に経営の改善が図られる可能性もありますが、短期的には導入コストや人材不足などが課題になりそうです。
こうした諸点からやはり供給側の改善だけでは無理があり、最終的には医療需要の削減が必要になるのではないかと言う考え方も根強くありますが、さてその方法論をどうするかと言う点で意見が分かれるところでしょう。
診療報酬の設定上多くの患者を診ることで収入が増え、多数の患者を診療しなければ赤字になってしまうことが諸悪の根源とも言えますが、この点に関しては診療報酬体系の抜本的改革が不可欠になりますね。

 

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