心と体

2019年4月24日 (水)

働き方改革、素直に改革を進めた場合と進めない場合の格差

先日は医師の働き方改革に関する最終報告書が公表されましたが、改革を強いられる雇用者側の立場からは未だに不平不満の声が山積しているようです。

医師の労働時間短縮と地域医療維持は両立するか(2019年4月15日日経メディカル)


 3月28日、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が最終報告書を取りまとめた。これを受け、医療界は残業時間の削減など、働き方の改革にようやく動き出すことになる。医師の過重労働解消の一方で、地域医療の崩壊を懸念する声も根強い。
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 1年8カ月の議論を経て、2019年3月28日に取りまとめられた報告書では、原則として勤務医の時間外労働の上限時間を年間960時間・月100時間(休日労働含む)とした。遵守できない場合は雇用する医療機関に対して6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられることになる。ここまでは一般の会社員の時間外労働の規定と同等だ。
 ただし医師には一部例外が認められた。例外は(ⅰ)から(ⅲ)の3種類。(ⅰ)地域医療に影響があると認められる場合、(ⅱ)初期・後期研修中や(ⅲ)6年目以降の医師で高度技能習得など技能向上のための診療が必要な場合─については特例として、年間の時間外労働を1860時間(月155時間)以下と基準を緩めた。また、罰則を伴う働き方改革法案は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されるが、医師は2024年4月。医師だけが4~5年遅れで改革が進むことになる。
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 今回の報告書に対して、現場の医師の反応はどうか。一部の例外の扱いとはいえ、労災認定される過労死ラインである「月80時間(複数月平均)」を大きく上回る「月155時間」が示されたことで、若手産婦人科医師を中心とした「医師の働き方を考える会」などが反対の署名活動を実施した。一方で、現場の医師からは「アルバイトの時間を入れると妥当な時間」「今よりは労働環境が間違いなく改善する」「今まで支払われていなかった残業代が支払われる」と好意的に捉える向きもある。

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 医療提供体制への影響も懸念される。時間外労働時間を960時間以内に抑えるために、夜間の救急対応を中止する病院が出てくると、「それだけで地域医療が崩壊する可能性がある」と相澤病院最高経営責任者で日本病院会会長の相澤孝夫氏は懸念を示す。救急対応を中止することで、特定の病院に救急患者が集中。その病院は医師数を増やすことが必要になる。だが、「救急患者増加に伴う収入よりも人件費による支出の方が多くなり、救急体制の維持が困難になる病院が続出するのではないか」と相澤氏は指摘する。
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 医師自身の健康を守るためにも働き方改革を進めるのは必須だ。だが、これまで日本の医療は、医師の長時間労働という表に出てこない犠牲の下に成り立っていた。医師の長時間労働を制限することで、地域医療の崩壊などの問題が噴出すれば、改革の流れが揺り戻される可能性もある。
 事実、自由民主党厚生労働部会「医師の働き方改革に関するプロジェクトチーム」の座長を務めた羽生田俊氏は、上限時間を含め、報告書の内容をこれから変更する可能性についても含みを持たせる。「せっかく2024年3月末まで猶予があるのだから、他職種への業務移管など、2月末に示された『緊急的な取り組み』の効果を含めて検証した上で修正していけばよいのではないか」(羽生田氏)。
 今回の報告書は、医師の働き方改革の方向性を示したにすぎない。今後の議論や取り組みに注目したい。 

一般論として現場労働者を過労死レベルに追い込まなければ維持できないような職場が本当にあるのであれば、それは職場の在り方の大前提から根本的に見直してみるべきだと言う気がします。
その意味で今回の記事や各方面からのいわゆる危惧の声なるものを見る限りでは、どうも現状維持と言うことが大前提にあるように見えて仕方がないのですが、まず変わるべきなのは医療そのものの在り方でしょう。
検査待ち、手術待ちの期間が今までより少し伸びることでどれほど影響があるのか、もし影響があるなら急ぐ症例だけを先に回すシステムなどを用意すべきで、急がない業務は遠慮なく先送りすればよいわけです。
医療のコスト、クオリティ、アクセスのうち、現状でどれを抑制するのが最も許容されやすいのかと考えると、不要不急の医療におけるアクセス低下などは世間的にも十分受け入れられるものだと思うのですけれどもね。

とは言え、今回の働き方改革は未だそのとっかかりに過ぎず、今後状況を見ながらようやく世間並みの労働環境を目指していくことになるわけですが、その点で気になるのが改革の実効性です。
特に気になるのが医療にだけは改革スピードの緩和など特別扱いを強要しながら、罰則規定などは全く他業界と変わらないと言うことなのですが、これに関連して気になるニュースを取り上げてみましょう。

労基署の指導で夜勤手当が年9000万円も増額に(2019年3月29日日経)


 尼崎中央病院(兵庫県尼崎市)は2018年6月に労働基準監督署からの是正勧告を受け、それまで当直料として払っていた人件費全てを時間外労働扱いとし、割増賃金をプラスして支払うように求められた。これを実行すると、当直(夜勤)の医師1人当たり、これまでよりも年間3000万円の人件費増を余儀なくされるという。同病院の当直医師は3人体制なので、合計9000万円の増額。「これでは経営が成り立たない」と嘆く理事長の吉田氏は、このたび公表された「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書に願いを託すが……。

――労働基準監督署はいつ入ったのか。
吉田 2018年6月5日だ。事前の連絡もなく、午前10時に尼崎労働基準監督署から監督官2人が現れた。「何かありましたか?」と尋ねたところ、「日常の状態を見させていただきたいので来ました。いろいろと資料を見せてほしい」と言われた。
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 当院の1日当たりの外来患者数は500人ほどで、309床の3分の2が一般急性期病床(7対1看護)、残りは回復期リハ病床、地域包括ケア病床、療養型病床だ。スタッフのワークライフバランスに配慮した病院であるという自負はあったし、看護師の時間外労働時間が月平均で5時間ほど、有給休暇消化率が約9割ということで、2011年に兵庫県から表彰されたこともあった。出退勤などの労働時間管理もICチップで行っており、所属長が毎月チェックして管理していた。だから、労基署から特段の指摘を受けるようなことはないと思っていた
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吉田 是正勧告書で改善を求められたのは12項目だが、1点を除けば問題なく対応できる是正勧告だった。対応しきれないと感じたのは、労働基準法37条違反に関するものだ。
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 その勧告内容は、(1)労働者に対し、1日8時間、1週40時間を超える時間外労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分増しの率で計算した割増賃金を支払っていないこと、(2)労働者に対して休日労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間または労働日の賃金を計算額の3割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと、(3)労働者に対して、午後10時から午前5時までの間において、労働させられているにもかかわらず、割増賃金を支払っていないこと――を指摘したものだった。
 つまり、これまで支払っていた「当直料」を、「全て時間外労働時間扱いで支払え」ということだ。当直は、医師3人、外来当直看護師は2人、診療放射線技師と臨床検査技師が1人ずつ、事務が1人で合計7人体制だった。看護師だけは1967年に宿日直の許可を得ており、今回は勧告の対象になったのは、宿日直許可を届け出ていなかった医師、放射線技師、事務員のみだった。遡って1カ月分の時間外労働の割増賃金支払いを命じられた。「医師、技師、事務員の当直業務は通常業務なので、宿日直手当にはならない。当直手当を時間外労働に換算して支払ってください」と労基署には言われた。その後、医師と技師、事務員についても、看護師同様に宿日直の許可を得ようと申請したが、却下された。

――それまでは、医師の当直に対してどのような形で手当てを支払っていたのか。
吉田 1回の当直で17時から翌9時まで、15時間を勤務してもらうことになるが、平日の当直は6万円、日曜は13万円を「当直料」として支払っていた。医師3人の当直体制で、年間2200台の救急車を受け入れてきた。ちなみに特別条項付き36協定は結んでおらず、時間外労働上限は月45時間に設定している。
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 それまでは、年間の当直料として医師1人当たり年間3000万円ほどかかっていたが、これが労基署の指導の通りに支払うと、6700万円になる。当直医師1人当たり3000万円以上支出が増えることになる。3人だから1億円近い出費増だ。
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――医師については今後どうするのか。
吉田 医師については、まだ決着がついていない。8カ月間ほど労基署と協議を続けている状況だ。もし過去1カ月分を支払い、さらには今後、すべての医師の当直(夜勤)を時間外労働扱いで支払うとなれば、医師当直の人件費は倍以上に膨れ上がり、病院経営が成り立たない。これまでの当院の経営状況は良い方だと自負しているが、現在の診療報酬体系のままでこの人件費を払うのは非現実的だ。国や自治体に、何らかの形で補助してもらえないと支払えない。
 労基署には「医師の働き方改革については今、まさに検討会で議論しているのだから、その結論が出るまでは今まで通りの形で運営させてくれないか」と話している。それに対して労基署は「医師の働き方改革に関しては今後どうなるか不明であり、現時点では何ら考慮するつもりはない」と言われた。
 医師の人件費について、今の倍額以上かかることを伝えたら、「そんなにかかるのですか、しかし法律違反なので仕方ないです」と一蹴された。「高額な医師の給料を時間外労働で支払えというのであれば診療報酬で担保しないと無理だ」と訴えたら、「それは労基署の考えることではない。今後の体制については医療業界が考えること」と言われ、唖然とした。
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――勧告通りに全額支払ったら経営が成り立たず、病院が潰れる可能性があることについて、労基署は何と言っているのか。
吉田 それを言うと、一貫して「我々の感知するところではない」としか言わない。
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 打開策としては、年俸制の医師の給料に、残業代や当直代を含む形に変更するといった方法も考えられる。当直の回数が月によって異なるので、そこをどう考えるのかは難しいが。
 大学病院やDPC2群の基幹病院は、シフト制を導入する病院もでてきているが、それ以外の多くの救急指定病院は当直料で支払っていると聞く。実際、シフト制を取るのは簡単なことではない。今後もし「シフト制」を導入した場合は、技師の時と同様、夜勤前後は休みとなることから、当直医1人当たり医師2人の補充が必要で、年間約3000万円ほど人件費がアップする。現状、当直医3人体制のため、医師6人補充となり、年間9000万円も人件費がかかることになる。
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同病院の給与体系がそう特別なものだとも思いませんが、記事にもあるように実労働を反映したものとは必ずしもなり切っていないようで、年俸制から給与体系を変更すると言ったところが当面の対策になるでしょうか。
ただここで気になるのが労基署が法律に基づいて適正な給料支払いを命じるだけで、何千万円もの支出の増加が発生すると言う点ですが、先ほどの働き方改革の罰金30万円とは桁違いですよね。
今後働き方改革の考え方に基づく制度や運営の大改革が各施設には求められるはずですが、それに要する膨大なコスト増加を考えると、罰金の方がずっと安上がり…と言う考え方も成り立つかも知れません。
医療は基本的に性善説に基づいて制度設計がなされているとはよく言われることですが、スタッフに対して雇用者側がどれだけ性善でいられるものなのか、今後の改革の成り行きが明確に示すことになるのでしょうね。

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2019年4月22日 (月)

新しいことの導入はたいていがすぐには進まないものですが

胃癌発生に大きく関わるヘリコバクター・ピロリの除菌治療に関して、今年の初めに北海道医療大学学長の浅香正博先生がこんな興味深いコメントをしていました。

H. pyloriで消化性潰瘍制圧、胃癌も(2019年1月9日平成の医療史30年)


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――除菌療法の普及にも尽力されてきました。

 米国では1994年に国立衛生研究所(NIH)から、消化性潰瘍は初発でも再発でもH2ブロッカーなどの酸分泌抑制薬に加えてH. pylori除菌療法を行うよう勧告が出て、これに世界中が応じました。ところが日本で保険適用されたのは2000年。世界に遅れること約6年でした。日本では、製薬企業が臨床試験を行い、そのデータを提出してから保険の審査が始まるためです。
 遅れた理由はそれだけではありません。1990年代後半にようやく、PPIとアモキシシリン、クラリスロマイシンによる大規模臨床試験が始まり、私は治験総括医師を務めました。ところが、結果を提出しても厚生労働省はなかなか許可してくれません。そのとき、厚労省の役人が「先生、(H. pylori除菌療法保険適用の話が進まないよう)圧力をかけているのはどこの団体だと思いますか? 日本内科学会でも、日本消化器病学会でも、全国医学部長病院長会議でもありません。日本医師会なのです。われわれ厚労官僚に圧力がかけられるのは自民党だけで、その自民党に圧力をかけられる医学団体はたった一つ、日本医師会しかありません。その日本医師会が今回の保険適用に賛成していないのです」と話してきました。
 当時の日医では、H. pyloriの診断や除菌療法は専門的な難しい処置が必要なため、潰瘍患者の多くが大病院に流れてしまうのではないかと誤解していたのです。
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 ところが、保険適用後にもさらなる問題が発生しました。除菌療法の件数が伸びないのです。よくよく調べてみると、一部の開業医は自分と家族は除菌したものの、再発が減ると自分の患者が減ってしまうと考えたのか、患者には除菌療法を施していませんでした。そんな中で、沖縄県のある開業医が、除菌療法を積極的に行ったところ消化性潰瘍の再発がなくなり、消化性潰瘍患者の受診は減ったものの、「すごい名医がいる」と評判になって患者が大幅に増加したと専門誌に報告しました。このようなことにより、開業医の間でも不安なく除菌療法が普及していきました。
 除菌療法の普及によって、消化性潰瘍の患者は保険適用後10年で65%も減少しました。十二指腸潰瘍に限定すると80%以上の減少です。消化性潰瘍の研究はかつて日本消化器病学会の華で、研究者は何百人もいました。しかし、H2ブロッカーやPPIの登場によって消化性潰瘍が治癒する疾患になると研究者の数は明らかに減り、その後、消化性潰瘍研究の主流は再発に移ったのですが、H. pylori除菌療法の普及によって消化性潰瘍が完治する疾患になった現在では、学会での消化性潰瘍に関するシンポジウムは10年ほど開催されていません。NSAID潰瘍を除き、通常の消化性潰瘍はほぼ制圧されたと言えます。
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一周回って高齢者のピロリ除菌などは内視鏡専門医の間でも意見の相違があるとも言いますが、潰瘍もさることながら胃癌リスク低減の意味からは除菌した方がいいと言う点には異論がないでしょう。
それだけ有り難みもあるピロリ除菌に関しては長く潰瘍のある方のみに保険適応が限定されてきたことは知られた話ですが、当時から反対している勢力として財務省や日医の名が噂されてきたところではあります。
当時はどちらかと言えば一気に多数の患者が除菌に走ることによる財政負担云々と言う話が主だったと記憶しますが、今回の話が事実とすれば案外身近な利害関係から発した部分もあると言うことでしょうかね。
いずれにせよ今や遠い昔になりにけりと言うことなのですが、こちら未だ現在進行形で話が進みつつあるところ、どうも気になる部分もあるようだと言うニュースが出ていたことを紹介してみましょう。

その「液体ミルク批判」誰のため? 世界に取り残されている日本の母乳指導(2019年4月15日ブズフィードジャパン)


3月5日、グリコより国内初の液体の人工ミルク「アイクレオ」が発売されました。3月下旬には明治からやはり液体ミルク「明治ほほえみ らくらくミルク」も販売が始まりました。
液体ミルクは、従来、国内メーカーより発売され、使われてきた粉ミルクと比べると割高ですが、調乳の手間が省けるため、繰り返し要望されてきました。
しかし、今後、出生数が減って行く中で需要が見込めないこともあり、国内メーカーは液体ミルクの生産に消極的でした。そんな中、災害時に備えた備蓄という大義名分も手伝って、承認・販売されることとなったのです。
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育て層からは液体ミルクを歓迎する声が上がる一方、パッケージに書かれている「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養」(消費者庁の定めた許可基準によって液体ミルクや粉ミルクなどの人工乳に表示が義務付けられているもの)という文言に傷つけられるという声にも多くの共感が集まりました。
インターネット上では子育て層の喜びの声とは対照的に、授乳の当事者でない層から「そこまで楽する必要があるのか」「粉ミルクを溶かす手間をかけることで親としての自覚が生まれる」など、育児にかかる手間を省くことに消極的な意見が多数見られました
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また、母乳育児を強く推進する層(主に医療従事者)からは液体ミルクの登場により「安易に」人工栄養や混合栄養を選ぶ親が出てこないか危惧する意見が見られました。
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親子のために医療従事者がすべきことは、声高に母乳育児のメリットや「素晴らしさ」を啓発したり、人工ミルクを利用する心理的ハードルを上げたりすることではありません
必要なのは、出産直後の母親が苦労せず授乳姿勢を取れるように医療従事者が手を動かしたり、電動搾乳機を着けて回ったりするようなサポートだと思います。
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親の立場から見ると、母乳に関する情報を集めようと思っても、情報発信者の価値観が反映されていない情報を探すことが非常に難しいです。
医学的な事実と発信者の価値観を見分けながら読む必要がありますが、数多ある論文から発信者の価値観に合致するものだけを集めて書かれている場合、一般の人がなかなかそんなバイアスがかかっていると知ることは難しいと思います。
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赤ちゃんが元気に育ち、養育する人たちが笑顔になれるように、母乳に限らず育児のおせっかいがなくなるといいなと思います。栄養法が主体でなく、赤ちゃんと家族が育児の主役だと医療者も忘れないようにしたいです。

この液体ミルクなるもの、災害時の備蓄としても有用だと取り上げられる機会が増えているのですが、興味深いのはこのところ北海道地震で被災された地域において、液体ミルクが大量に破棄されていた事実です。
北海道庁からわざわざ「日本では使用例がなく、衛生管理が難しい製品ですので、使用しないよう」との文書が配布されたそうですが、実際には東日本大震災など各地の被災地で使用実績のあるものです。
ただ一般に販売が解禁されたのは地震直前の2018年8月からであると言うことで、被災者心理として普段目にしない珍しいものより、いつも目にしているものを口にしたがり需要がなかったと言う指摘はあるようですね。

ただ前述の記事で気になったのが、主に医療関係者から液体ミルク使用に反対する声が根強いと言う記載なのですが、さてこの場合どこの誰が反対しているのかと言うことが気になりますね。
小児科学会HPには液体ミルク使用への注意点を列挙し「何よりも大切なことは(略)母乳代替食品であり(略)母乳育児を妨げることのないよう、必要なときに必要な分だけ活用することを心がけましょう」とあります。
助産師会なども液体ミルク導入に当たり乳児が母乳を飲む権利を守るべし等々の意見書を国に提出していますが、これらをどこからどう見ても液体ミルク導入を喜んでいるようには見えません。
ネット上で反対意見を口にしている方々が全てこうした諸団体関係者と言うわけでもないのでしょうが、少なくとも小児科学会など真っ当なはずの医療団体がこうした立場でいることは影響力が大きそうですよね。

普段から粉ミルクでの哺乳をしていた方々ほど、改めて温度や清潔さを管理しながら調剤しなくて済む便利さを実感されているそうで、今どき粉のスポーツドリンクを使う人がいるか?と言う判りやすい例えがありました。
もちろん無理のない範囲でなら母乳保育も結構なのですが、プライバシーの守られない避難所等での母乳保育の難しさなどを想像するに、少なくとも非常時など必要な時に用いることに反対する理由はなさそうです。
医療系諸団体にしても医学的に根拠があってこうまで母乳を推しているのでしょうが、母乳の優越性も他の諸要素も勘案した上で総合的に判断されるべきものですし、小児科新生児科領域の先生方としてはこうした見解がコンセンサスなのか気になりますね。

 

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2019年4月17日 (水)

アメリカでは歯科医は高収入だそうです

他人の懐具合が気になる人も少なくないようですが、先日こんな記事が出ていました。

医師の年収、最も高いのは何科?(2019年4月9日ビジネスインサイダー)


医師は高収入。実際、診療科によって、どれくらい違うのだろうか。
アメリカ合衆国労働省労働統計局の職業雇用統計(Occupational Employment Statistics)は、約800もの職業の給与と雇用数の年間指標を公表している。そのデータを使い、11の診療科の医師の平均年収を比較してみた。
ランキングで見てみよう。平均年収と雇用数は2018年5月現在の最新データによる。

11位 足治療医、14万8220ドル(約1630万円)雇用数:9500
10位 歯科医、17万5840 ドル(約1934万円)雇用数:11万3000
9位 小児科医、18万3240ドル(約2016万円)雇用数:2万8490
8位 内科医、19万6490 ドル(約2161万円)雇用数:3万7820
7位 その他の専門医、20万3880 ドル(約2243万円)雇用数:38万9180※免疫科医、神経科医、病理医、放射線科医など。
6位 家庭医・一般開業医、21万1780 ドル(約2330万円)雇用数:11万4130
5位 精神科医、22万380ドル(約2424万円)雇用数:2万5630
4位 産科医・婦人科医、23万8320ドル(約2622万円)雇用数:1万8590
3位 口腔顎顔面外科医、24万2370ドル(約2660万円)雇用数:4830
2位 外科医、25万5110ドル(約2806万円)雇用数:3万4390
1位 麻酔科医、26万7020ドル(約2937万円)雇用数: 3万1060

収入額を見るだけでも日本とはずいぶんと状況が違うのだろうなと思わせる数字なのですが、アメリカの場合ここから数千、数万ドル単位の保険料を差し引かれていると考えると、まあこんなものなのでしょうか。
ドクターフィーのあるアメリカの場合、収入の多寡は需要と供給の関係に左右される部分が大きそうですが、その点で現時点でのトップが麻酔科医であると言うのは納得出来るものがあります。
ただここで注目いただきたいのは、数としては相当に多い歯科医が高収入であることで、口腔外科も含めてランキング上位に顔を出している点が興味深いところですね。
ひるがえって日本の場合、すでに歯科クリニックがコンビニよりも多いと言われ、需給バランスは完全に供給過多に傾いているのが現状ですが、先日の歯科国試でもこんな状況であったそうです。

3人に1人が不合格 「歯科医師国家試験」が医師国家試験よりも“狭き門”になった事情(2019年4月9日文春オンライン)


 先日、第112回「歯科医師国家試験」の結果が発表されました。
 同日に発表された医師国家試験の全体の合格率は89.0%と約9割。この割合は毎年変わりません。では、歯科医師国家試験の合格率はどれくらいでしょう。なんと63.7%。10人受けると3~4人落ちるという厳しさでした。
 なぜ、医師の国家試験に比べ、歯科医師の国家試験はこんなにも厳しいのでしょうか。それは、歯医者さんが「多すぎる」とされているからです。
(略)
 歯科医師国家試験の合格率も03年までは医師国家試験と同様に、ほぼ8~9割で推移していました。しかし、このままでは、ますます歯科医師数が過剰になると推計されたことから、06年に文部科学大臣と厚生労働大臣が「歯科医師の養成数の削減等に関する確認書」を取り交わし、歯学部の定員削減を各大学に要請するとともに、「歯科医師国家試験の合格基準を引き上げる」、つまり合格率を低くすることにしたのです。
(略)
 実は、予備校などによって違いますが、私立大歯学部の偏差値はいくつかの伝統校を除き、真ん中の50を切っているところが多く、中には30台という信じられない数字がついている大学もあります。偏差値だけで人を判断してはいけないかもしれませんが、歯科医師国家試験を突破できるだけの基礎的な学力が足りない学生も多いのではないでしょうか。
 なぜ、私立大学の歯学部が、こんな目も当てられない状況に陥っているのか。それは、高い入学金や授業料を払って私立に入ったとしても国試に合格できるとは限らないうえに、歯科医師になれたとしても安泰とは言えないことを、受験生も保護者もよく知っているからでしょう。
(略)
 それに、歯学部の偏差値の低さや国試合格率の低さは、患者側からしても心配になります。国試に合格することで一定以上の知識や技術が担保されるとはいえ、歯科医師になってからも知識や技術を磨き続け、高いモラルを保った歯科医療を提供してもらえるのか
 実際、歯科医院が多くなって過当競争になった結果、診療報酬が低く抑えられている虫歯や歯周病、入れ歯、歯根治療などの保険診療よりも、高い売上が期待できる保険外診療のインプラント(人工歯根)、ホワイトニングなど審美歯科、矯正歯科などに力を入れる歯科医院が増えていると言います。
 そうした中には、高い技術力で良心的な治療を提供している歯科医院がある一方で、技術が未熟なのに保険外診療に手を出して、高い治療費を取るところもあると言われています。実際、この3月14日にも、独立行政法人国民生活センターが、「あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-」という注意喚起を行っています。
 歯科医療業界がこんな状態に陥ってしまったのは、文部科学省と厚生労働省の怠慢・無策と、既得権益にしがみつく大学関係者の責任が大きいのではないでしょうか。
(略)


すでに数年前から国は歯科医抑制を検討していると報じられ、今回数字の上でも実際の抑制に移行したことが裏付けられた形ですが、構図としては弁護士過剰などと同じ国策の失敗と言えるでしょう。
国家資格の場合それを所持していれば独占的に仕事が出来るメリットがある反面、国の政策に需要や供給を左右されると言うデメリットもありますが、今後同様の道を辿るか注目されているのが医師の世界です。
久しく以前からいずれは維持過剰になると言われてきた一方、現時点で医師不足問題が喧伝されていて、将来的にいつどんな基準で医師抑制に踏み切るべきなのか、関係者の間でも意見の一致を見ていません。
他の国家資格職の経緯を見ると、完全に相場が崩壊するまでは抑制に舵を切ることはなさそうだと判断せざるを得ませんが、その頃の医療は果たしてどんなことになっているものでしょうか。

 

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2019年4月15日 (月)

医療とネットに関わる最近のニュース2題

ネットなしでは生活出来ないと言う人も多い時代ですが、本日は医療とネットとの絡みで最近のニュース2題を取り上げてみましょう。

オンライン診療、保険適用後の実施過半数は自由診療「患者が希望、医師が適切と判断しても使えないケースが多い」(2019年4月11日医療維新)


 オンライン診療料新設後に、自由診療のオンライン診療が急増した――。1000軒以上の医療機関にオンライン診療サービスを提供している株式会社MICINの調査によると、2018年4月に保険適用となったオンライン診療を巡ってそんな実態が明らかになった。

 オンライン診療を巡っては、2018年度診療報酬改定において「オンライン診療料(70点)」と「オンライン医学管理料(100点)」が新設された。それ以前には保険診療としては「電話等再診料」を算定する形で実施されていた。
 同社が提供するオンライン診療サービス「curon(クロン)」を使った医療機関でのオンライン診療の実施回数を調べたところ、2017年4~6月から2018年10~12月を比較すると4.3倍に伸びていたものの、2017年4~6月では95.7%が保険診療での実施だったが、2018年10~12月では保険診療が45.3%、自由診療が54.7%だった(直近の2019年3月時点では53.9%が自由診療、46.1%が保険診療での実施)。オンライン診療全体の実施回数が増えているため、保険診療での実施件数は同期間で約2倍に増えたものの、「当初の想定以上には伸びていない」(同社)。一方で、自由診療での実施が大きく伸びている
 この理由については、「アトピー性皮膚炎やスギ花粉症などオンライン診療と親和性がある疾患が、診療報酬の算定対象から外れたことが要因ではないか」(同社代表取締役CEOで医師の原聖吾氏)としている。

 curonは佐賀県を除く46都道府県の医療機関に導入されているが、東京、神奈川、愛知、大阪の4府県が全体の6割を占め、比較的開業間もない診療所が競合と差別化のため導入するケースが多いという。オンライン診療利用患者の年齢は20~50歳代が全体の85%で、性別別では男性が全体の70.7%を占める。対象とする主な疾患は、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、うつ病、強迫性障害、高血圧症、慢性胃炎、肥満症など定期的な通院が必要な慢性疾患で多岐にわたるが、多くはオンライン診療料の対象疾患から外れている
 これらの調査結果から、原氏は「オンライン診療は精神的、物理的負担を減らすことができ患者に大きなメリットがあるが、現行制度では患者が利用を希望し、医師が適切と判断しても使えないケースが多い」とした上で、2020年4月の診療報酬改定に向け、「対象疾患の縛りをなくしてもよいのではないか。オンライン医学管理料については、皮膚科、小児科、精神科に対象を拡大してほしい」などと提案した。

このオンライン診療に関しては医師・医療系諸団体の間でも未だ根強い反対意見もありますが、個人的に興味深いのが各種前提条件の担保を求めているとは言え、日医が積極的には反対していない点でしょうか。
多忙で病院にかかれない人にとってはありがたい制度ですが、現状では保険診療で認められるのはかかりつけ患者で定期的に外来受診している人が、時々はオンライン診療でもいいと言う程度の位置づけのようです。
このためやむなく自由診療として扱った場合、患者負担が増すことからドロップアウトするケースが多いようで、慢性疾患の患者の継続受診を促進すると言う当初の目的からは後退しているとも言えますね。
医療リソースの観点からすると、オンライン診療の方がコメディカルの手間は削減出来ると考えられ、患者と医療機関双方のメリットを考えると対象の拡大を順次進めていただきたいところです。
さて、こちら海外からのニュースですが、ネットなしでは生きられないと言う人が多い日本でも全く他人事ではない話題と言えそうです。

「自分自身は病気に違いない」と信じ込み解決方法をネットで検索し続ける「サイバー心気症」とは?( 2019年04月08日GigaZiNE)


自分や子どもの身体に起きた異変が「重大な病気じゃないか」と不安を覚える人は多いはず。自分の抱える不安に関するオンライン検索を強迫的に行う「サイバー心気症」を抱えている人は、検索しても自身の不安は解決せず、自分の不安をエスカレートさせてしまう傾向があるとScientific Americanが報じています。

コリーン・アベルさんは自分の子どもに授乳した次の日、右胸に赤い発疹ができているのを発見しました。原因に心当たりはなく、アベルさんは「子どもがつけた傷によって何らかの感染症になった」と推測したり、「南京虫のかみ傷かもしれない」と疑ったりしました。アベルさんが発疹についてGoogleで検索してみたところ、「炎症性の乳がん」という検索結果を発見し、アベルさんは衝撃を受けたそうです。乳がんよりも皮膚炎などの可能性がはるかに高いにもかかわらず、アベルさんは自分が乳がんであると思い込み、毎日3、4時間も乳がんに関する情報をインターネットで収集し続けるようになりました。
アベルさんのような事例は「サイバー心気症」の典型であるといえます。サイバー心気症はGoogleなどの検索エンジンで自分の病状などの不安を検索し、検索結果から自分の不安をさらに増大させ、まるで依存しているかのように検索をし続けてしまうというものです。サイバー心気症はアメリカ精神医学において、診断によって認定できる病気ではなく、どれだけ多くの人が実際にサイバー心気症を患っているのかは不明です。

アメリカテキサス州のベイラー大学で心理学准教授を務めるトーマス・ファーガス氏はサイバー心気症のような「安心を追い求める心理」に関する専門家です。ファーガス氏はロンドンサウスバンク大学のマルカントニオ・スパーダ教授と共同で、サイバー心気症は「強迫性障害」と強い関連があるという研究を発表しました。強迫性障害を持つ人は自分で決めた儀式的な行動をとることで不安が軽減されると考えていますが、サイバー心気症をもつ人にとっては、オンラインで自分の不安について何時間も検索することが「儀式的行動」というわけです。
オンライン上の健康に関する情報は矛盾していることが多々あり、「どの情報が正しいのか?」を判断することは不可能。そのため、「どの情報が正しいのか?」というよりも「どの情報を信じるのか?」という問題になります。胸部に発疹を見つけたアベルさんは「炎症性の乳がん」だと一度信じ込んだ後、乳がんが珍しい病気だという情報は無視するようになり、乳がんだと確信してしまう情報ばかりを集めるようになったとのこと。
アベルさんは延々と乳がんについて検索し続ける生活を2カ月過ごした後、ついに病院で診断を受けることを決心。診断結果は「カンジタ病」というカビの感染症で、治療によってすぐ治せるような良性のものでした。Google検索で自分の病気について検索していた時、カンジタ病を指し示す検索結果は一度も現れなかったとアベルさんは語っています。
(略)


自分が何か重大な病気ではないかと考える人自体は決して珍しくなく、以前からドクターショッピングと言う行為が医療リソースの浪費と医療費増大の観点から問題視されてきた経緯がありました。
基本的に似たような状況ではあるものの、こちら医療機関のリソースは使っていないならまだしもマシではないかと言う考え方もありますが、医療へのアクセスの敷居がアメリカよりもずっと低い日本ではどうなのかです。
実際に外来に受診する以前にあれだこれだと散々情報を仕入れ、医師に何彼と要求する患者は決して珍しくありませんが、当然ながらこうした患者は最初から重大疾患が隠れている前提での対応を求めてきます。
一般的に初診で軽微な症状の患者に、いきなり山盛りの検査処置を始める医師は少ないと思いますが、マイナーな疾患までも含めて厳密に鑑別診断を行おうとすれば、当然幾らでも検査は必要となりますね。

この種の事例ではかねてテレビ番組などの悪影響も指摘されているところですが、当然ながら軽い症状とみていたら実は重大な病気が隠れていたと言ったケースの方が、取り上げられる機会は多いわけです。
しばしば見られる重大疾患の初期症状と言った啓蒙的な内容のものなら有益と言えますが、他方で非常に稀な疾患や例外的なケースを取り上げる場合もあるようで、むしろ判断を誤らせることにもなりかねません。
この種の番組が放送されると、翌日の外来に患者が大勢来ると言う話も聞きますから、健康への感心はそれだけ高いのだと思いますが、結果的に正しい受診行動につながる内容であって欲しいものですね。

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2019年4月10日 (水)

史上最長のゴールデンウィークが到来間近

すでに大方の病院では4月末からの連休中の診療体制が確定しているものと思いますが、前代未聞空前絶後の大型連休に国も警戒感を募らせているようです。

10連休の医療態勢リスト化 政府、対処方針を更新(2019年3月26日共同通信)

 政府は25日、皇位継承に伴う4月末からの10連休について、国民生活に支障が生じないようにするための対処方針を更新した。医療分野では、3月中に都道府県の各医療機関の救急対応や外来患者の受け入れなどの態勢をリスト化して公表し、4月末までに住民へ周知することを新たに盛り込んだ。

 対処方針では、都道府県ごとに医療機関を交えた協議を実施し、連休中の医療態勢について整理。リストは各医療機関の所在地や連絡先のほか、いつ、どのような医療が提供可能かをまとめたものを想定している。
(略)


何を以て国民生活に支障が生じないとするかも微妙なところですが、一般に連休中と言えば休日診療体制で挑むのが一般的なところ、今回に関しては日時を限定してでも外来を開くと言う施設も多いようです。
無論誰でもと言うわけではなくかかりつけ患者限定など条件はあるのでしょうが、大型連休中の当直割り振りなども頭が痛いところですし、連休中に入院させた患者は休み明けまでどう扱うべきかなども悩ましいですね。
特に当直と言うことに関してはせっかくの連休が実際上の連休になるかどうかの瀬戸際だけに重大な問題ですが、予想された通り年末年始の当直以上にアルバイトの相場が高騰しているそうです。


10連休中の医師争奪戦激化 「1日12万円」提示も 5月1日は最激戦(2019年4月6日産経新聞)

 今年のゴールデンウイーク(GW)の10連休を控え、各地の医療機関で医師の争奪戦が激化している。

 高額な報酬で臨時的に医師を雇おうとする医療機関がある一方で、休みを返上し自主的に出勤する勤務医も。3月、厚生労働省の有識者検討会がまとめた「医師の働き方改革」の報告書では一般労働者の2倍以上の残業時間を認めることになったが、連休中も医師に負担を押しつける形で、医療の現場が維持されている実態が浮き彫りになった。

 「1日12万円」「歩合あり」「ゆったり日当直」。臨時に雇うための医師専門の求人サイト「Dr.アルなび」には、医療機関からの誘い文句が並ぶ。

年末年始の相場を考えるとどの程度が妥当な報酬なのか微妙なところなのですが、連休中に拾った患者の対応も含めて全て引き受けて24時間12万円ならまあ、さほど法外な報酬とも感じないでしょうか。
この辺りは当直医にどこまでの仕事をさせるのか、常勤医が途中で出てくることがあるのか当直に丸投げなのかなど諸条件も関わるところで、アルバイトをご検討中の先生方はその確認が必須ではないかと思います。
わざわざ連休シーズンに休みを取り、大混雑する行楽地で疲弊して帰るよりは、その後に代休でももらった方がいいと言う考えも当然ありだと思うのですが、医師の場合その代休確保の方が難しいと言う気もします。
いずれにせよ今年の連休は今までにない長期に渡るだけに、どのようなことが起こるのかはやってみなければ判らない部分もあって、各病院のやり方を事後検証することで今後のヒントも生まれてくるのかも知れません。

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2019年4月 8日 (月)

医師の働き方改革を巡る議論にひとまず結論、日医はドヤ顔ですが

先日以来医療現場から大変な悪評が立っている医師の働き方改革に関する厚労省の報告書に関して、日医がご満悦であると言う記事が出ていました。

働き方改革「皆が対等に協議する場が重要」、日医・今村副会長 厚労省検討会報告書「日医の主張が反映された」と評価(2019年4月4日医療維新)


 日本医師会の今村聡副会長は4月3日の定例記者会見で、3月末に取りまとめられた、厚生労働省の医師の働き方改革の報告書について、「日医が主張してきた『医師の健康への配慮』と『地域医療の継続性』の両立という観点から取りまとめられたと理解している」との見解を示した。同時に、「中身について、現場の医療機関がご理解いただいていない部分がある」として、病院団体などと連携して説明会などを開催していく考えを示した(報告書の詳細は『医師の働き方報告書取りまとめ、「改革」スタートへ』を参照)。
 「医師の働き方改革に関する検討会」には、日医からは今村氏ら2人が委員として参加したほか、2018年7月には日医が主導した「意見書」を提出するなどしていた(『松本・日医常任理事 、「過労死ライン超えた働き方も」』を参照)。

 今村氏は報告書について、日医の見解が反映されたと評価し、「中でも勤務間インターバル、連続勤務時間規制の一部義務化という従来にない方法が取り入れられた。月々の労働時間管理だけに頼り、結果として休息が確保できないという事態を回避する手段として、極めて有効だと思う」と指摘した。
 同時に医療機関に求められる36協定の締結や労働時間短縮計画の策定などのマネジメントシステムの構築については、「勤務医に長時間働いてもらうための必要条件であり、医療機関の責務である。皆が対等な立場で協議する場の設定が重要になることを医療機関の管理者は認識する必要がある」と述べた。

 「地域医療確保暫定特例水準」(B水準)と「集中的技能向上水準」(C水準)で、年1860時間となった時間外労働上限時間については「実現の難しい低い上限目標を設定することで、隠れて残業を行うような事態を招いてはならない。1860時間は高い上限ではあるが、罰則適用で医療提供が過度に制限されたり、罰則適用で地域医療が崩壊したりすることのない制度設計になっている」と評価。B水準であっても2036年4月から960時間を目指すことになった点を「960時間という最終目標の認識を強く持つことになった」と述べた。
(略)

まあしかし相変わらず現場の医師は理解出来ていない、誤解を受けているだけだと言う主張ですが、日医のエラい先生方はよほどに現場医師は知的理解能力に不足があると考えているのでしょうかね(苦笑)。
労働者に1860時間も超勤を強いるような雇用者が、勤務間インターバルだのを遵守するとも思えないのですが、日医としては過労死ラインを越える労働を認めるよう強力に働きかけてきた経緯があります。
結果的に日医の主張が通り満足していると言うことですが、そもそも論として何の為の議論であったのかと言う原点に振り返って見ると、あまりに現状肯定的な議論に感じた現場医師も多いようです。
日医がまるで医師の代弁者のようにふるまっていることにもひと言あるべきと言う意見も根強いところですが、いずれにせよこうしたルールを守らせるためにどのような強制力を発揮出来るのかです。

労働者全般に関して言えば残業が年720時間以下の上限を越えた場合、使用者に罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科さるのですが、名にし負うブラック企業がこの程度でひるむのかです。
医師の場合全員全施設にではないとは言え、その倍以上の長時間の長時間残業と言う特例を認めるわけで、これでも厳しすぎると不平たらたらだった雇用者側が遵守する可能性はかなり低そうに思えます。
上限について甘くした分、罰則は一般よりも厳しくなってしかるべきだと思うのですが、日医も自画自賛している通り全くのザルと言うのでしょうか、むしろ違反するのも仕方ないと考えている気配ですよね。

上限規制の過程で医師の労働時間とは何かと言う点も議論されてきましたが、今までの話では他施設への当直バイトなども含めてトータルでの勤務時間を制限しなければ意味がないと言う話だったはずです。
仮に全ての勤務先での労働時間を合算するなら、主たる勤務先で上限ぎりぎりまで働いた上で、他施設でさらに働き上限を突破した場合、ペナルティをどの施設が受けるべきなのかと言う疑問が残りますね。
逆にこうした合算が行われない場合、例えば施設間で医師を融通しあって個別の施設で上限を超えなければ青天井に働かせることが出来ると言う、何の働き方改革かと言うことが実施可能になってしまいます。
そう言えば地域の基幹病院から医師を医師不足の地域に派遣すると言う話が進んでいると言いますが、こうした議論と関連づけて考えるとなかなか含みのある話で、議論は何ら終わっていないと言う気がしてきますね。

 

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2019年4月 4日 (木)

特養入居者の死亡事故、メディアの意外な?論調

医療訴訟で民事の裁判は数あれど、刑事裁判は比較的珍しいものだと思うのですが、その比較的稀な刑事裁判で先日有罪判決が出たと話題になっていました。

特養おやつ死亡事故で有罪、長野 介護現場の注意義務争点(2019年3月25日デイリー)


 長野県安曇野市の特別養護老人ホームで2013年、おやつのドーナツを食べた直後に意識を失い、その後死亡した入居者女性=当時(85)=の注視などを怠ったとして業務上過失致死罪に問われた准看護師山口けさえ被告(58)に長野地裁松本支部(野沢晃一裁判長)は25日、求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡した。

 多くの入居者と接する介護現場でおやつの提供にどこまでの注意義務があるかが注目を集め、福祉や医療関係者を中心に、無罪を求めて約45万筆の署名が集まっていた

入所者がおやつ詰まらせ死亡、介助の准看護師に有罪判決(2019年3月25日朝日新聞)


(略)

 起訴状などによると、山口被告は同年12月12日午後、同ホームの食堂で女性におやつのドーナツを配った。検察側は女性には口に食べ物を詰め込む癖があったのに、被告は他の利用者に気を取られ、女性への十分な注意を怠ったほか、窒息などに備えておやつがゼリーに変更されていたのに、その確認も怠ったなどと主張した。
 一方、被告側は女性は脳梗塞で死亡したと考えるのが最も合理的で、ドーナツによる窒息が原因で死亡したとの検察側の主張を否定。その上で女性の食べ物を飲み込む力には問題がなく、食事の様子を注視しないといけない状況ではなかった▽ゼリーへの変更は女性が食べ物を吐いてしまうことが理由で窒息対策ではなく、確認の義務はなかった、などとして無罪を求めていた。

 食事介助中の出来事を罪に問うことは介護現場での萎縮を招くとして、裁判は介護関係者の強い関心を呼んだ。無罪を求める約44万5500筆の署名が裁判所に提出された。弁護団も結成され、公判はこの日の判決も含めて23回に及んだ。(佐藤靖)

「事故は毎日のように起きている」介護現場、有罪に動揺(2019年3月26日朝日新聞)


(略)
 事件があったのは2013年12月。判決によると、女性は被告が配ったドーナツをのどに詰まらせて窒息し、約1カ月後に低酸素脳症で死亡した。

 介護の現場に過度の責任を負わせるのは酷だとして、無罪を求める約44万5500筆の署名が裁判所に提出されていた。だが判決は、女性は食べ物を口に詰め込む傾向があり、窒息対策などとしておやつがゼリーに変更されていたと指摘。変更について、被告は施設の引き継ぎ資料などで確認すべきだったのに怠ったと過失を認定した。
 女性の食事中の様子を注視するのを怠ったとする検察側の主張については、他にも食事の介助が必要な人がおり「異変に気づける程度の注視を求めるのは困難」として退けたものの、量刑は求刑通りとなった。

 判決後、弁護側は判決を不服とし、即日控訴した。

注目いただきたいのは有罪の決め手となったのは食事中の見守り不足ではなく、1週間前の食事変更に反してドーナツを出していた点だったと言うことですが、求刑通りの判決をどう解釈するのかです。
医療訴訟の件数自体は医療崩壊などと言われた2004年をピークにやや減少傾向にあり、現在民事については年間800件程度だそうですが、刑事に関しても同様の傾向で民事の1/10程度の件数だそうです。
当然ながら医療現場で故意に犯罪行為を犯したケースなどはまた別な話ですが、過失により重大な結果を招いたと言う医療事故に関しては立証も難しく、近年検察の立件もやや抑制的であるとは聞きますね。
その中で今回かなり議論を呼びそうな経緯の医療事故に関して、明確に有罪判決が下されたと言うのは医療現場から注目されるのは当然ですが、マスコミ各社もどちらかと言えば疑問符付きで報じているようです。

「尊厳ある介護できない」 被告の支援者ら戸惑い(2019年3月26日共同通信)


 多忙な介護現場で、おやつに何を提供するかを確認しなかった落ち度は有罪と判断された。25日、長野県安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」で起きた死亡事故を巡る長野地裁松本支部の判決。「尊厳ある介護は崩壊し、縛りつけるような介護しかできなくなる」。被告の准看護師を支援し、全国から集まった介護関係者らは戸惑いの表情を浮かべた。
 判決を聞き法廷を飛び出した弁護士が、裁判所前で「不当判決」と書いた幕を掲げると、集まった約250人の支援者が落胆。「結論は事実に沿ったものではない」と呼び掛ける弁護士の声に「そうだ」と声を上げた。

 法廷でうつむきがちに判決理由を聞いていた山口(やまぐち)けさえ被告(58)。判決後の記者会見では「残念な結果。でも負けません」と控訴審を見据えた。木嶋日出夫(きじま・ひでお)弁護団長は「現場の実情を無視した判決。今後、介護中の事故で刑事責任を問える前例になる」と訴えた。
 判決前、21席の一般傍聴席を求めたのは約300人に上った。長野県松本市の女性看護師(58)は「身近に起こり得る問題の有罪判決で介護関係者は萎縮してしまう。裁判所にはもっと分かってほしかった」と話した。

あずみの里事故死、有罪判決 介護関係者から落胆の声(2019年3月26日中日新聞)


 安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」で二〇一三年、ドーナツをのどに詰まらせて死亡したとされる利用者の女性(85)への注意義務を怠ったとして、業務上過失致死罪に問われた准看護師山口けさえ被告(58)の判決公判。「有罪なら介護現場が萎縮する」と無罪判決を信じて駆け付けた全国の介護関係者たちからは落胆の声が漏れた。
(略)
 木嶋日出夫弁護団長は、もがくなどの「窒息サイン」がなかったなどとして窒息はなかったとする弁護側の主張を認めなかった判決の概要を説明。「証拠をねじ曲げ、有罪判決にした。これで窒息と認定され、たまたま居合わせた看護師が有罪にされたらたまったものではない」と指摘した。
 勝ち取る会の小林作栄会長(80)は「完全無罪を夢見ていたが残念な結果。一瞬、声が出なくなるくらい『どうして』という思いでいっぱいになった」と控訴審での無罪判決に望みを託した。
 集会後、県看護協会の松本あつ子会長(65)は「なぜこのような形で職員に罪を科すのか。利用者の全てを把握しておくのは不可能」と判決に疑問を呈し「現場は萎縮してサービスが低下するようなことを考えてはいけない」と話した。
 地裁松本支部に駆けつけた大阪市中央区の看護師徳田文さん(47)は「(事件後)介護現場は萎縮していると聞く。これが正当な判決だとしたら誰も介護に携われない」と危機感を募らせた。介護施設で勤務した経験のある兵庫県姫路市の看護師中野啓民さん(53)は「利用者の尊厳を守るため(危険性のある利用者の)全ての食事を流動食にはしたくない。その思いを踏みにじる判決」と涙を流した。
(略)


特養の死亡事故 職員だけの責任なのか(2019年3月26日信濃毎日新聞)


 介護現場への影響が懸念される。
 安曇野市の特別養護老人ホームで、入居者がドーナツを食べた後に死亡した事故の判決公判が地裁松本支部であった。当時介護に当たっていて業務上過失致死罪に問われた准看護師の女性を有罪とした。
 どの施設でも起こり得る事故が職員個々の刑事罰につながれば、関係者は萎縮し、ただでさえ足りない介護の担い手の確保が一層困難になりかねない。
(略)
 裁判を巡り、介護や医療に携わる全国の個人と団体が支援組織を結成、無罪判決を求める44万5千筆の署名を集めて松本支部に提出していた。公判のたび100人以上が傍聴の列をつくったのは、危機感の表れと受け取れる。
 介護職員の不足は深刻だ。2025年までに33万7千人増やさなければならないが、確保を見込む都道府県は一つもない。平均給与は月27万円余で、全産業平均に比べて10万円以上も低く、離職率も高止まりしている。
 厚生労働省は今月、全国の特養と老人保健施設で2017年度に事故により死亡した利用者が1547人いた、との調査結果を公表した。職員に責任がないとは言えないものの、直ちに刑事罰に問うことには疑問が募る

 外国人を介護職に迎える時期でもある。施設の対策や人員体制は十分だったのか、自治体で第三者の調査機関を設け、警察や検察だけに委ねない検証の仕組みを整えてはどうだろう。
 判決の量刑は罰金20万円。裁判長は理由の中で、施設の連絡体制に不備があったとし、責任が「全て被告人にあるとは言い難い」と言い添えている。
 不十分な処遇のまま責任のみ重くなれば、高齢社会で最も切実な介護の受け皿は安定しない。国と自治体は対応を急いでほしい。

しかし一昔前の脱線事故で「人が死んでんねんで」騒動と言うものがありましたが、今回日本を代表する進歩的メディアが言ってみれば加害者側に肩入れするような記事を掲載しているのが興味深いですね。
今回の裁判であらためて全国介護現場の労働環境が注目されているのは副次的な効果とも言えますが、ただちに労働環境の改善など出来るものではなく、またこの程度の過誤は全国どこでも日常的にあることです。
その中でたまたま不幸な結果につながり、なおかつ裁判沙汰になるケースは非常に例外的だと思うのですが、その背景にある日常的なうっかりミスの裾野の広さを考えれば、誰しも他人事だとは思えない事例です。
こうした場合ミスがあったととがめても無意味で、一定確率でミスがあり重大な結果にも結びつくことがある前提で制度設計をしなければならないはずですが、介護スタッフを守る制度はどの程度あるものでしょうね。

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2019年4月 1日 (月)

最近の医療ニュース二題

失礼ながらさほど名の知られた自治体ではないにも関わらず、このところ医療ニュースで登場する機会の多い大分県竹田市ですが、今度はこんなニュースが出ていました。

竹田のこども診療所「月末で終了」と所長 来月以降の体制未定(2019年3月26日大分合同新聞)


 竹田市唯一の小児医療機関、市立こども診療所の所長を務める男性医師(50)が3月末で診療を終えることが25日、医師らへの取材で分かった。「市への不信感が拭えなかった。もう続けられない」と述べた。同日の市議会対策委員会で表明する見通し。
 4月以降、診療所の運営体制は未定で、市は空白が出ないよう対策を急ぐ。

 医師は委員会開会前に「留任の署名をしてくれた約5300人の保護者の思いに応えようと頑張ってきた。市は何ら問題を解決してくれなかった」とコメント。本年度末で所長を辞める考えを明らかにした。
 市内飛田川にある現診療所の玄関には「長らくのご愛顧ありがとうございました」と記した紙が張られている。

 診療所を巡っては、市が市内玉来へ新築移転させるのを機に運営を市直営から外部委託に変更することを計画。指定管理の条件面で医師と溝が生じ、関係が悪化した。
 医師は1月末の委員会で辞意を示唆。市内の母親らが署名を集め、診療継続を求めていた。市は話し合いを重ねたが平行線が続いていた。

このこども診療所問題に関しては以前から報じられていたところですが、市が整備した診療所を今回新築移転するに当たって、市直営から外部委託に転換することを図ったのだそうです。
問題はその条件が市側が支援するどころか、年500万円の「上納金」を求めるなど非常に厳しいもので、もともと急速に少子化が進む同市においては今後の長期的な安定経営が危ぶまれるものだったと言いますね。
案の定現在の所長も含め新所長公募に手を挙げる医師は現れず、結局市側が折れて当面直営を継続することになったようですが、一連の騒動を通じて市側と所長との間には埋めがたい溝が出来たのでしょうね。
地方僻地での診療に当たっては竹田市の例に限らず、医師個人の資質に依存する部分が大きいだけに医師と自治体の折り合いが大変重要ですが、その点である意味定評があるのがこちらの自治体です。

村唯一の診療所長がインフル 無診療で処方、違法だが…(2019年2月16日朝日新聞)


 秋田県上小阿仁村(人口約2300人)で唯一の医療機関、村立上小阿仁国保診療所の医師の柳一雄所長(80)が、患者を診察せずに処方箋(せん)の発行を看護師に指示していたことが15日わかった。医師法は無診察での処方箋の発行を禁じている。だが、「法律軽視」の一言では片付けられない、過疎地の医療のもろさが垣間見える。

 この日の村議会全員協議会で、村が経緯を説明した。それによると、柳所長は5日朝、インフルエンザに感染していることが判明し、8日まで受け持ちの医科の休診を決めた。村民には、全戸に設置されているディスプレー機能があるIP電話で周知した。それでも休診を知らずに、診療所へ来る患者が相次いだ
 そこで柳所長は自宅で、診療所の看護師から患者の血圧などを電話で聞き取り、慢性疾患などで定期的に薬を処方している患者のために処方箋の発行を指示した。発行してもらった患者は5日から7日までに計46人にのぼった。7日午後、医療に関する相談窓口の「県医療安全支援センター」(秋田市)から事実確認の問い合わせがあり、発行を中止した。
 診療所の常勤医は、2013年に赴任した医科の柳所長と歯科医1人の計2人。週1回勤務の泌尿器科医も1人いるが、体調不良で2月いっぱい休むことになったという。柳所長は村に対し、「服用する薬がなければ困る患者がいるので発行した」という趣旨の説明をしているという。医科が休診の場合、患者は村外の医療機関に行かないと処方箋が手に入らない。車を運転できない高齢者にとっては大きな負担となる。
 柳所長の体調はすでに回復しており、診療所は13日に医科の診療を再開した。

 15日の村議会全員協議会で、診療所の運営責任者の小林悦次村長は「大変なご迷惑をかけたことを心から謝罪する」と陳謝した。現在、国や県が関係者から事情を聴いており、「調査に協力し、再発防止を徹底する」とも述べた。
 そのうえで、柳所長は高齢で今後も休診する事態が考えられる一方、代わりの医師が診察する態勢が整っていないとして、県に医師の派遣を相談することや、無料の送迎バスを隣接する北秋田市の市民病院へ運行することなどを検討する考えを示した。(加賀谷直人)

男性内科医を懲戒処分 上小阿仁村・診療所処方箋問題(2019年3月28日秋田魁新報)


 秋田県上小阿仁村は27日、国保診療所の男性内科医(80)が診察せずに処方箋を発行したとして、減給10分の1(1カ月)とする懲戒処分を発表した。管理責任を問い診療所事務長(村総務課長が兼務)と、同事務長補佐を訓告とした。処分は26日付。

 村によると内科医は先月5~7日、インフルエンザに感染して診察できなかったが、薬を求めた46人に処方箋を発行した。医師法は、医師が診察せずに処方箋を交付してはならないと定める。北秋田保健所は同12日に立ち入り検査し、医師法に不適合だと指摘。村は今月20日、保健所へ改善計画書を提出した。

誰しも感じることでしょうが、医師1人の僻地診療所でスタッフも含めて村内の住民とも顔見知りでしょうから、実臨床現場ではこうした場合こうした対応を取ることは別に珍しいことではないように思います。
無論厳密に解釈すれば法令違反と言えば言えるでしょうが、問題はこの問題が何故こうまで広まっているのかで、具体的に誰が公の問題として取り上げたのかと言う点が非常に気になるところですよね。
ご存知の通り上小阿仁村と言えば医療の世界では知らない者がいないほど有名な「聖地」で、来る医師来る医師次々と辞めていくことで知られた診療所ですが、高齢の現所長は珍しく長続きしていたようです。
それほど貴重な医師がこうした仕打ちを受ける辺りが上小阿仁村らしさなのでしょうが、しかしここまで全国に報じられる不祥事を起こしてしまった以上減俸程度の処分ではなく、進退を問われるべきでしょうね。

 

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2019年3月28日 (木)

働き方改革、労働時間の正確な把握は大前提

ブログのシステム変更にともない、更新作業に障害が出ているためご迷惑をおかけしております。
さて、医療と同様、近年その勤務状況の過酷さが注目される機会の多いのが学校教員の世界ですが、先日こんな記事が出ていました。

「全員が超勤」正直すぎる教員採用パンフに賛否 仙台市教委は「現場の声を反映」(2019年3月17日弁護士ドットコム)

仙台市教育委員会が作成した教員募集パンフレットで、紹介されている教員8人全員が「超過勤務」ーー。河北新報が3月6日、市議会で市議からこんな指摘があったと報じた。
ネットでは「嘘を書くよりよっぽどいい」「呆れを通り越して笑える」と賛否両論だが、パンフレットでは、教員の長時間労働が「普通」となってしまっている現状があらわになっている。

●休憩が10分間の教員も
市教委の教職員課によると、教員受験者から「1日の働き方の流れを知りたい」といった声があり、教員に聞き取った上で、学校到着から退勤まで1日の流れを記載した。
しかし、掲載されている小中高、特別支援学校の8人の教員の勤務は、いずれも勤務時間が10時間半~12時間20分。本来の「7時間45分」から大幅に超過している。
(略)
教職員課の担当者は「確かに超過勤務になっており、勤務時間外の勤務があることは事実」としながら「実際の現場の声を反映するとこうなった。逆に8時半出勤で17時退勤というのでは、違う情報を載せることになってしまう」と話す。

中教審(中央教育審議会)は1月、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を示し、文科相に答申した。残業時間の上限目安を「原則1カ月で45時間、年間で360時間」と規定しており、仙台市教委も「ガイドラインを受けて、方針を早急に立てていく」としている。
このパンフレットは2020年度の採用向けに作られたもの(選考過程は2019年中)で、今後も使用を続けるという。
(略)


少なくとも事実を隠蔽してバラ色の教員生活を語るだけのパンフレットよりもよほど情報的価値は高いと思うのですが、さてこうした状況に対してどのような対策を講じていくのかです。
判りやすい事例として近年若い先生が部活の顧問をやりたがらないと言った話も側聞しますが、学童や親の立場としては学校機能の低下と受け止められかねない話で、年長の先生方からも反発もあるようです。
厚労省は2017年から全国の学校に事務仕事を代行するスタッフを派遣する制度を開始しており、全国自治体でも独自のスタッフの手配も進んでいて、実際に残業時間の短縮に相応の効果はあると聞きますね。
医療の世界におけるメディカルクラーク導入と全く同様の発想で是非導入を進めてもらいたいですが、その医師の世界では先日以来続いている働き方改革の議論と関連して、先日こんなニュースが出ていました。

医師の時間外 「1860時間」に反対、厚労省に要望書提出「医師の働き方を考える会」、署名も5500人超す(2019年3月22日医療維新)

 医師をはじめとする医療関係者らで構成する「医師の働き方を考える会」は3月22日、医師の時間外労働の上限を「1860時間」ではなく、他の職種と同様に、過労死ライン(960時間)を目安とすることなど、4項目から成る要望書を厚生労働省に提出した。同会が実施している「1860時間」への反対署名も、5500人を超えたという。同会は3月25日にも、自民党厚生労働部会長の小泉進次郎氏に要望書を提出予定だ。
 提出後の記者会見で、同会の共同代表で東京過労死家族会で活動する中原のり子氏は、厚労省医政局長の吉田学氏宛に提出し、懇談したことを説明。「医師の過労死があってはならないが、今のこの働き方では過労死は減らないのではないか」と危機感を募らせ、過労死した遺族の苦しみなどを吉田局長に訴えたという。厚労省の検討会では、時間外労働を過労死ラインの年間960時間の2倍近い1860時間とする方向で議論されている(『医師の働き方改革、報告書取りまとめへ大詰め』を参照)。
 吉田局長は、「世の中から医師の過労死をなくそうという点では、医政局も全く同じ立場。現状の労働時間がいいとは思っていない」と受け止めたものの、「他方で地域医療は大事で、さまざまな工夫がいる」と述べ、3月末までに検討会の報告書をまとめるのは、規定路線だと説明したという。さらに、▽医学生からSNSやメールで多数意見が寄せられており、真摯に受け止めるものの、中には制度を誤解しているケースがあり、正確な情報発信に努めていく、▽今後、2024年度の時間外労働の上限規制が始まる2024年度に向けてさまざまなルールづくりが必要になるとともに、それ以前の段階でも長時間労働をなくするためのさまざまなプロジェクトを実施していく必要がある、▽在職中の医師の過労死数等について、どんなデータがあるか、把握が可能か調べてみたい――と語ったという。

「医師の働き方を考える会」 の要望書
1.時間外労働上限は他の職種と同様に過労死ライン(脳・心臓疾患に係る労災認定基準)を目安とする。
2.医療機関に宿日直許可状況など36協定の内容公開と、当直を含めた医師の就労データ収集と公開を義務付ける。
3.過労による健康被害を予防する対策については、産業医の面談に留まらず、適切な対応を行うことを医療機関に義務付けるとともに、時間外労働上限が960時間を超える状況であっても、健康被害が発生した場合の労災認定基準は960時間であることを報告書に明記する。
4.労務管理違反に対する管理者への罰則規定適用を徹底し、その監督を行い、労働者からの相談を受け付ける第三者機関を設置する。

 会見には、筑波大学医学群医学類6年生の前島拓矢氏、都内の病院に勤務する30代の産婦人科医、全国医師ユニオン代表の植山直人氏、過労死問題を長年扱ってきた弁護士の尾林芳匡氏が出席。
(略)
 尾林氏は、約30年過労死の救済に取り組んできた立場から、今の過労死水準である「1カ月当たりの時間外労働80時間」は、厚労省自身が、医学的な知見を基に定めたものであるにもかかわらず、なぜ医師だけが「1860時間」が認められるのかと問題視した。
 要望書では、先の4項目を解説として、「医療体制を守るためとはいえ、医師という職種のみ、基準を変えることは妥当ではないと考える。働きすぎ、健康を害し、自ら命を断ってしまった医師も現実に複数存在する。生命を守ることを職務とする医師として、二度と同様のことが起こることは看過できない」と訴えている。
 現在、医師の労働時間や宿日直、各々の医療機関における36協定の締結状況などを把握していない医療機関も少なくないことから、これらの把握は働き方改革を進める上で不可欠であるため、データを収集し公開とすることも求めた。
(略)
当の厚労省が決めた医学的知見に基づく基準を、当の厚労省が無視して医師にのみ特別の重責を課す妥当性は誰しも疑問符が付くところですが、その背景に医療系諸団体の圧力があったことは事実でしょう。
この点からも医療系諸団体が代弁する雇用者側としての対応が今後大いに注目されるところですが、まずは何を置いても厳重かつ正確な労働時間の把握が大前提となることは言うまでもないことです。
その上でどのように労働時間を削減していくかの方法論を早急に打ち出す必要がありますが、皆保険制度下では医師が多く働くほど病院収入が増えると言うことが、経営的に労働時間削減に動きにくい要因でしょう。
働き方改革を進めた医療機関への診療報酬上の優遇やその逆の場合のペナルティなど制度的な対策も必要ですが、総合的に見て医療費抑制政策と矛盾しないと言う点を証明していく必要はありそうですね。

雇用者側が医師を無制限に働かせたがる理由として経済的な側面から考えると、年俸制に近い医師の雇用体系から院内各職種のうちでも、医師の時間外労働について割安感があることも挙げられるでしょう。
特定病院に例外的な長時間労働を認めることの代償として、こうした施設での時間外労働については基本給の数倍と言った高額に設定させるなど、経営的にも労働時間削減の動機付けは必要と思いますね。
雇用者側である日病協が時間外や休日の病状説明を選定療養とするよう申し出たと 報じられており、今後働かせる側がどんな対策を打ち出してくるか、各施設間でどんな対応の差が生じるかが注目されます。

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2019年3月18日 (月)

医師の労働時間の定義、近く厚労省から示される予定ですが

医師の働き方改革において当面目指すべき水準がほぼ確定してきた様子ですが、その中で少しばかり気になる部分もあるようです。

医師の当直、どこまで労働時間 厚労省、基準を明確化へ(2019年3月10日朝日新聞)

 勤務医の残業規制の枠組みを年度末までにまとめるのを控え、厚生労働省は労働時間を適正に把握できるよう、当直や学習・技術習得のための研鑽(けんさん)について、どこまでが労働時間かを明確にする方針を決めた。ずさんな勤務管理状況を改善し、違法残業の減少をはかる。4月にも通知を出し、抜本的に見直す

 医療機関を含め、企業は労働時間の客観的な把握が求められ、4月から法律で義務化される。だが、勤務医の当直や研鑽は、どこまで労働に当たるか不透明な部分もあった。
 入院患者対応のため、病院は夜間や休日に医師の当直が義務づけられている。待機時間も原則、労働時間となり、残業が大幅に増えて割増賃金も生じる。だが軽い業務しかなく一定の基準を満たせば、国の許可を受けて、待機時間を労働時間から外すことができる

 

今の許可基準は70年前のもので、軽い業務の例には、定時巡回や少数の患者の脈や体温の測定しかあげられていない。基準を満たすことが、ほぼありえない状況だった。
 現状は、多くの病院で当直医が外来患者も診ている。患者が多いのに許可を受けていたり、許可を受けずに労働時間から外したりする病院もあった。厚労省は基準を見直し、少数の入院患者の診察や、想定されていない外来の軽症患者を診ることを軽い業務に含める。対象を明確にして不適切な運用をなくす狙いだ。

当然ながら時間外労働の上限を決めるためには、そもそもどこまでを労働時間とするかと言う定義づけが避けて通れませんが、この点で長年慣習的に行われてきた宿直・当直業務は非常にグレーな部分です。
時間外労働にカウントされない当直とはほとんど実労働を行っていない、いわゆる寝当直に限られるはずですが、現実的には基幹病院では単なる夜間・時間外診療を当直医がこなしている場合がほとんどでしょう。
今まで適切に時間外労働を管理してこなかった施設において、これらを正しく労働時間に加算すれば一気に時間外労働が増加する可能性があり、求められる水準まで労働時間の適正化が図れるのかどうかです。
この点で厚労省が近く労働時間の定義を改めて示す方針であるとのことですが、この点について最近気になるニュースが報じられていました。

”車の運転は労働時間に当たらず” 遺族の労災申請を認めず(2019年3月11日NHK)

長時間、車を運転して取引先を回っていた横浜市の会社員が過労で死亡したとして遺族が労災を申請しましたが、車の運転は労働時間に当たらないとされ、労災とは認められませんでした。遺族側は「働き方改革の一方で、会社の外での労働時間が切り捨てられている」と批判しています。

遺族や弁護士によりますと、横浜市にあるクレーン車販売会社の営業社員で、3年前に心臓疾患で死亡した当時26歳の男性は、会社の車を運転して東北から東海まで12の県の取引先を回っていました
ほぼ毎日会社に寄らず、自宅から直接、取引先に向かい、日によっては10時間以上運転していました。
遺族が、長時間労働による過労死だとして労働基準監督署に労災を申請しましたが、運転は労働時間に当たらないとされ、先月、労災とは認められませんでした
また、千葉市の建設設備会社の支店で支店長として勤務し、おととし脳疾患で死亡した当時55歳の男性についても過労死だったとして労災を申請しましたが、車の運転や接待など会社の外での業務が労働時間とされず、同じく先月、労災は認められませんでした

記者会見を開いた川人博弁護士は「会社内での働き方改革が進む一方で、会社の外での労働時間が切り捨てられている。厚生労働省はこれを規制すべきなのに逆のことをして助長している」と批判しています。
厚生労働省は「車の運転を労働時間とするかは個別の事例ごとに判断している」としています。


「労働時間を過少算定」 弁護士ら国批判 労災不支給相次ぐ(2019年3月12日東京新聞)

 過労死弁護団全国連絡会議幹事長の川人博弁護士らは十一日、東京都内で記者会見し、過重労働の労災認定を巡って各地の労働局が、労働者の労働時間を過少に算定し、不支給とするケースが今年に入り相次いでいると訴えた。車を運転して出張した際の移動時間や会社経費での接待など、従来なら労働時間に含めていた社屋外での労働が認められにくいという。
 働き方改革の一環として、罰則付きの残業時間の上限規制が、四月から大手企業で適用となる。川人弁護士は「行政によって過少な労働時間認定が行われれば、長時間労働の実態が隠蔽(いんぺい)され、上限規制の取り締まり対象から外れてしまう」と批判した。

 同連絡会議は例示として二〇一六年五月に出張先のホテルで死亡した横浜市内のクレーン車販売会社の男性社員=当時(26)=のケースを公表した。男性は今年二月、労災不支給となった。
 男性は甲信越や中部など十数県の営業を担当。社有車で移動し、ホテルに泊まりながら取引先を回ったが、移動時間の多くは労働時間と認められなかった。
 死亡二日前には首都圏から静岡や三重に出張。遺族側は、朝出発してから夜にホテルでパソコンを使うまで約十四時間の労働を主張したが、労基署は四時間二十分しか認めなかったという。遺族は月の残業を最長で約百六十八時間と訴えたが、認定は五十二時間にとどまった。
 千葉県の建設会社の支店長が一七年に死亡し、今年二月に不支給となった事例では、会社の経費で行った接待や取引先の通夜への参列が労働時間から除外された。

働き方改革は別に医療業界に限った話ではありませんが、その過程で当然ながら労働時間の定義を明確化し、各労働者の実労働時間をきちんと把握する必要があるはずです。
これについて業界ごとに労働時間とすべきかどうか微妙なグレーゾーンがあるのも当然予想されるところですが、公的な認定の基準として厚労省がこのところ線引きを厳しめに取っている気配があると言うことですね。

さて、こうした背景事情の中で医師に関してどのような基準が示されるのかが非常に興味があるところですが、その線引きの在り方に寄っては労働時間管理など絵に描いた餅になりかねないですよね。
特に軽症の外来患者の診療を軽い業務に含めると言う点が気になりますが、救急搬送も含め時間外患者の大多数が軽症患者である現実を考えると、なかなか興味深い基準が示されそうな気がします。

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