心と体

2018年1月22日 (月)

医師の働き方改革、当たり前のことを当たり前に推進

ここまで来ると逆に厳しいと言うべきでしょうか、このところ推進されている働き方改革に関連して、先日海外からこんなニュースが出ていました。

人が健康的に働けるのは週39時間まで(2018年01月19日GigaZiNE)

オーストラリア国立大学の研究によって、人々が健康的に働けるのは週39時間が限界であると示されています。過労は日本だけではなく世界的に問題になっており、近年の科学研究によって、労働時間を削減することが重要であるという証拠の数々が示されています。
(略)
「働き過ぎ」の傾向は世界各国で起こっており、ドイツの金属労働組合であるIG Metallでは、1万5000人もの労働者がワーク・ライフ・バランスを向上させるため週28時間労働を求めてストライキを行いました。2017年2月にオーストラリア国立大学の研究チームは「健康的に働ける限界は週39時間だ」という研究結果を発表していますが、ドイツでストライキを行った労働者らも自分たちの要求について「怠惰ではなく自己防衛」だと説明しています。なお、シリコンバレーのコンサルタントであり起業家&スタンフォード大学客員研究員でもあるAlex Soojung-Kim Pang氏は、現代の労働者がクリエイティブでいられるのは1日4時間までであると主張しています。
さらに、スウェーデンで1日6時間労働を2年間取り入れた結果、労働者は自分たちがより健康的になったことを報告し、また仕事の生産性が組織全体で85%も向上しました。

ただし、これらの研究の多くは「労働時間」という数字的側面に着目したものであり、雇用条件について語るものではありません。例え1日数時間であってもストレスにあふれた労働環境であれば、労働者の自由や創造性は失われてしまう可能性もあります。市場調査会社YouGovの調べによると、イギリスでは全体の3分の1の労働者が自分の仕事は無意味だと考えているとのこと。労働時間とともに労働環境や従業員の士気の改善がなければ、労働時間削減の効果は少なくなってしまう可能性もあるわけです。

さすがに日本で直ちに6時間労働化も難しいのでしょうが、朝から夕方までずっと最善最良の仕事を続けられるかと言えば難しいでしょうから、人間創造的かつ効率的に働ける時間と言うのは案外短いものなのでしょうね。
記事にもあるスウェーデンの6時間労働化の社会実験では数々のメリットもあるものの、あまりにコストが掛かりすぎて持続可能とは思えないと言う大きな問題も指摘されており、実際2年間の完遂も資金的に難しかったそうです。
ちなみにこの実験では医療・介護関係者も数多く参加し、これら時間交代制が可能な職場では良いものの業界によっては全く合っていないと早々に離脱する業種もありで、なかなかに時短も難しいもののようですね。
とは言え過労死水準の労働は今や文明社会において許容されるべきではないのは当然ですが、医師の働き方改革検討会においても時短に関して早急に実施すべき項目が挙げられたと言います。

医師の時短に向け直ちに実施すべき事項を明示(2018年1月16日日経メディカル)

 医師の働き方改革の在り方を検討するために設置された厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は1月15日、これまでの議論で明らかになった医師の勤務実態を踏まえ、医師の労働時間短縮のために全医療機関が直ちに取り組むべき項目として、尿道カテーテル留置など一部の行為を他職種に業務移管することや、自院の36(サブロク)協定の点検を行うことなど6項目を示した。来月に開催される検討会で再度検討した後に、何らかの形で全医療機関に通知する方針だ。
(略)
 今回示したのは「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」(骨子案)。具体的には、(1)医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み、(2)36協定の自己点検、(3)既存の産業保健の仕組みの活用、(4)タスク・シフティング(業務の移管)の推進、(5)女性医師などに対する支援、(6)医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取り組み――の6項目を求めている。(1)~(5)については、勤務医を雇用する全医療機関で実施されるべき内容と位置付けられており、(6)については各医療機関が置かれた状況に応じて積極的に検討することを求めている。

 (1)「医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み」では、医師の在院時間について客観的な把握を行うよう求めている。ICカードやタイムカードなどが導入されていない施設であっても出退勤時間の記録を上司が確認するなどして在院時間を的確に把握する。
(略)
 (4)「タスク・シフティング(業務の移管)の推進」では、初療時の予診、検査手順の説明や入院の説明、薬の説明や服薬の指導、静脈採血、静脈注射、静脈ラインの確保、尿道カテーテルの留置、診断書などの代行入力、患者の移動について、医療安全に留意しつつ、原則として医師以外の職種が実施することで医師の負担を軽減する。さらに、労働時間が長い医師については、その業務内容を再検討し、業務分担できるように検討する。また、特定行為研修を修了した看護師を活用してタスク・シフティングをしている医療機関があることから、特定行為研修の受講を推進するとともに、修了した看護師が適切に役割を発揮できるように業務分担を検討するよう求めている。
(略)
 医師法第19条に定める応招義務については、「社会情勢、働き方、テクノロジーが変化している中で、今後の在り方をどのように考えるか、個人ではなく組織としての対応をどう整理するのかといった観点から、諸外国の例を踏まえ、検討してはどうか」という意見を紹介。
 自己研鑽に関しては「一般診療における新たな知識の習得のための学習」「博士の学位を取得するための研究や論文作成」「専門医を取得するための症例研究や論文作成」「手技を向上させるための手術の見学」があることを挙げ、自己研鑽とされているものの労働時間への該当性を判断するための考え方を示す必要があると記載している。
(略)

働き方改革の緊急対策、労働時間管理など5項目は「当然」(2018年1月15日医療維新)

 厚生労働省は1月15日の第6回医師の働き方改革に関する検討会(座長:岩村正彦・東京大学大学院法学政治学研究科教授)に「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」の骨子案を提案した。(略)
「緊急的な取り組み」は現行法や省令の改正を要しない内容で、厚労省は検討会で了承を得られれば通知などの形で医療機関に実施を求める。同省医政局医事課は会議後、「(1)~(5)は当たり前のことで、原則(医療機関に)やっていただく内容。一方、(6)は難しいものもある」と説明した。
(略)
 骨子案では、労働基準法に規定のある(1)と(2)、労働安全衛生法に定めのある(3)について「現行の労働法制により当然求められる事項も含んでおり、改めて全医療機関において着実に実施されるべきものである」と明記し、強く実施を求めている。
(略)
 (4)のタスク・シフティングについては、2007年12月28日付け厚生労働省医政局長通知などに基づき、「原則医師以外の職種により分担して実施することで、医師の負担を軽減する」として、同通知の「関係職種間で適切に役割分担を図り、業務を行っていく」との記述よりも踏み込んだ表現で推進を強く求める。大学病院は他の病院団体よりもタスク・シフティングが進んでいない実態が明らかになったため、取り組みを一層推進する。
(略)

それはまあ、大学病院ではタスクシフティングも進んではいないのでしょうが(苦笑)、先日も北里大病院が医師の労働時間も定めず労働時間把握もしないまま長時間労働を強いて是正勧告を受けたと言います。
医師に限って管理規定の対象外とした上で、タイムカードを正しく打刻させないよう強要していたそうで、この種の違法行為を平然と行う施設には働き方改革について口を出す資格はないと言うものですね。
また以前から長時間労働の根本原因とも目されている応召義務についても議論されることが決まっているものの、今のところ具体的にどこまで話が進むのかはっきりせず、今後の議論の行方が注目されるところです。
ただ今回の記事を読んでいて気になったのが、(1)の医師労働時間管理に関して在院時間の客観的把握を求め、出退勤時間を記録し確認せよとした上で、これを今後当たり前に行うこととしている点です。

以前から医師の働き方改革に関連して問題になっているのが、院長理事長など管理者側が何かと労働ではなく自己研鑽であると主張し、医師の労働時間を実際よりもはるかに少なく限定しようとしている点でした。
この点で今回労働時間ではなく在院時間を記録し管理すると求められることになったわけで、今後は何が労働時間かと言う神学論争は棚上げにして在院時間短縮と言う視点で議論されることになるのでしょうか。
世間的には仕事が終われば退社するのが当然であり、出社退社の時間に合わせてタイムカードを打刻するのが当たり前で、医師が労働時間外での在院が多いと言うなら残業時間ではなく、労働以外での在院時間を申告させるようにすれば済む話ですね。
まして医療業界には医師の働き方改革に関して自助努力が乏しいどころか、完全な抵抗勢力化している感がありますから、今後は不毛な論争に無駄な時間を浪費することがなくなれば望ましいことです。

ちなみに医師を対象とした調査でもっとも進んでいる働き方改革の取り組みとして労働時間管理の強化が挙げられていますが、それも16%ほどに留まり実際には過半数が何も変わっていないと答えたそうです。
この点からも業界の抵抗勢力化が見えるとも言えますが、基本的に社会保障費は今後も引き続き抑制される中で医師数増加政策が続いているのですから、当然ながら一人当たりの取り分は目減りする宿命です。
その代わりに労働環境が良くなればまだしもなのですが、現状では施設管理者側は今まで同様の利益を上げるためにさらに労働強化を推進しそうな気配が濃厚で、とても働き方改革などと言えそうにはありません。
診療報酬が引き下げられれば一層薄利多売が進み、総労働量が増え医療費も抑制されない制度上の問題もあると言え、今後は働き方改革推進に結びつくような診療報酬のあり方も望まれるところではありますね。

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2018年1月17日 (水)

労働を労働と認識出来ない人間がトップに居座る組織の悲劇

それはちょっとおかしいのでは?と思うことがまかり通る世の中ですが、先日こんなおかしなことが明らかになったと報じられていました。

過労死ラインの2倍 医師の残業、月200時間容認 日赤医療センター労使協定(2018年1月14日産経新聞)

 日赤医療センター(東京都渋谷区)が医師の残業時間を「過労死ライン」の2倍に当たる月200時間まで容認する労使協定(三六協定)を結んでいることが13日、分かった。医師20人は平成27年9月からの1年間で月200時間の上限を超えて残業。渋谷労働基準監督署は昨年3月、センターに協定を順守するよう是正勧告した。

 労災の過労死が認められる目安は月100時間の残業とされているが、現行では労使間合意があれば残業時間の上限に制限はない。日赤医療センターは日本初の赤十字病院で常勤医師約260人、約700床の大型総合病院。月200時間の上限を過重だったと認め協定を見直すとしている。

いくら協定を結んでいようが200時間はいささかどうよ?と思いますが、その200時間すら越えて働かせていたと言うのですから驚きで、どうも日赤と言う組織には遵法意識は存在しないと言うことなのでしょうか。
先日は岐阜市民病院が労使協定上限の100時間を越える残業を強いていたと指導を受け、新たに150時間まで残業を認める労使協定を結び直したことが話題になりましたが、医療の世界はとかく発想がユニークですよね。
どうして医療の世界ではこうも労働管理がいい加減なのか、その理由の一端を知る手がかりとして先日非常に興味深い意識調査が発表されていたので紹介してみましょう。

「医師の労働」とは何か?◆Vol.8「区別困難」や「区別必要なし」との意見も(2018年1月14日医療維新)

 医師の一日は診療から事務作業、各種委員会や勉強会、自己研鑽など多岐にわたり、「労働時間」の議論に入る前に、そもそも「どこからどこまでが労働か」が問題になる。「医師の労働」とは何かを聞いた。

Q: 下記のうちどれが労働(対価として給与をもらう仕事)に該当するとお考えですか。(複数選択)

 多くの項目で、理事長や院長など高い地位にある場合に「労働には該当しない」と考える傾向が見られた。診療やそれに伴う事務作業、当直、日直は多くの医師が「労働」と考えているが、いずれも1~2割程度は「労働に該当しない」と考える医師もいた。
 「オンコール」や「研修医やコメディカルの教育・指導」、「カンファレンス出席」は立場によって大きく意見が分かれた。「オンコール」は理事長・院長では労働と考えるのはちょうど半数だが、実際に現場に立つ層では副院長・部長・科長が65.5%、医長が70.7%、役職なし・研修医などが68.4%と「労働に該当する」と考える医師の割合が比較的高かった。「研修医やコメディカルの教育・指導」と「カンファレンス出席」も同様の傾向だ。
 どの層でも「労働に該当する」と考える医師が少ないのは、「論文・医学書で勉強」や「研究や論文執筆」、勉強会などの準備や出席だ。「自己研鑽」の色合いが強くなるこれらの項目では、「労働に該当する」と答えた医師はいずれも半数に満たない。「区別は困難」や「区別する必要はない」との回答も、1割に満たないとはいえ見られた。

この調査で興味深いのは何が労働に当たるかを立場毎に調査している点で、特に現場でいわば働かされている末端勤務医と、彼らを働かせている管理職とで顕著に労働とは何かと言う認識が異なる点が注目されます。
この差が顕著なものとしてオンコールは医長や研修医は7割が労働と考えているのに対し理事長・院長ではわずか5割、スタッフの教育指導もそれぞれ7割に対して4割、カンファレンスは6割に対して4割と言った具合です。
当然ながら世間的にはこれらは全て労働扱いになることは言うまでもありませんが、理事長や院長が労働と言うものに対してこうも特異な認識を持つに至った理由が何なのかと言うことが気になりますよね。

当然ながらこうした組織管理責任者の浮世離れした認識がスタッフの過重労働改善が進まない一因となっていると思われますが、それが経営的判断から為にするものなのか、それとも真性そう思い込んでいるのかが問題です。
単純に俺達の若い頃は式の旧世紀以来の伝統的思考をお持ちの高齢者の方々がトップに居座っていると考えるにせよ、思考のアップデートが出来ないと言うのはこの業界にあって致命的欠陥と言うべきでしょうね。
ちなみにごくごく大まかに言えば上司に命じられた行為は全て労働時間となるわけですが、興味深いのはいわゆる自発的残業や持ち帰り残業も黙認や許容があった場合には労働時間と見なされると解釈されている点です。
逆にこれらを労働時間としてカウントさせないために何が必要かと言えば、はっきり明示的にそれらの行為を禁止する、中止させると言った指示を出す必要があるのだそうで、医療業界でそれを行っている組織は希少でしょうね。

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2018年1月15日 (月)

年々技術革新が進むあの装置がさらに進歩した結果

安楽死と言うと日本では癌末期などに限っての議論が主ですが、海外ではすでに高齢であると言った理由だけでも安楽死が認められる国も出てきているそうで、そんな需要に応えるべく?先日こんな記事が出ていました。

苦しまない安楽死マシンなら死を選びますか?(2017年12月13日ニューズウィーク)

オーストラリアのフィリップ・ニチキ医師(70)は、「自殺幇助のイーロン・マスク」を自称する。自ら開発した自殺幇助装置「サルコ(Sarco)」も、マスクが開発した電気自動車、テスラの「モデルS」に匹敵する技術革新だと考えている。
オーストラリア南東部のビクトリア州が11月29日に安楽死を合法化する法案を可決したのを機に、本誌はニチキに話を聞いた。安楽死が合法化されたのはオーストラリア・ニュージーランドを通じてこれが初めてとして注目を集めたが、ニチキは以前にも自殺幇助をしたことがある。オーストラリア北部の準州ノーザンテリトリーが、1996年から翌年までの短期間、安楽死を合法化した時だ。

ニチキは若い頃から安楽死に興味を持ち、アメリカの有名な安楽死の推進者ジャック・ケボーキアン博士の研究に傾倒した。ケボーキアンが考案した「死の装置」に魅せられたニチキは、その進化版として「ザ・デリベランス」と名付けた自殺幇助装置を開発した。静脈注射のチューブとノートパソコンを接続しただけの原始的なものだったが、役目はちゃんと果たした。あらかじめパソコンに入れたプログラムを使って、患者本人の意思を確認したうえで、致死量の鎮静剤を投与する仕組みだった。ノーザンテリトリーで安楽死が再び非合法化される1997年までの1年間に、ニチキは4人の患者を安楽死させた。
非合法化された後も、「死にたいと言ってやって来る患者が後を絶たなかった」とニチキは言う。「ここ20年は、合法化に向けた戦いの日々を送ってきた。それが今、実を結んだ」
(略)
安楽死の仕組みはこうだ。利用希望者は事前にオンラインで精神的に健康かどうかを調べるテストを受ける。合格すると、24時間有効なアクセスコードが送られてくる。カプセル内のタッチパッドにそのコードを入力し、本当に死を希望するかという質問に回答すると、サルコのカプセルに窒素が充満し、酸素濃度が5%まで下がる。利用者は1分以内に意識を失い、数分後に死亡する。
サルコを使った死は他の方法と比べると無痛に近いと、ニチキは断言する。飛行機の機内で急減圧が起きた時のように、窒息状態になって苦しむことがなく、楽に息を引き取れると言う。サルコの運用開始は来年を予定している。ニチキはすでに、スイスの合法的安楽死クリニックとサルコの利用に向けた話し合いを進めている。

ここ20年間、医師の助けで安楽死をする権利はワシントン州、カリフォルニア州、バーモント州、オレゴン州、ヨーロッパ諸国などで続々と認められてきた。アメリカのベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)の高齢化がきっかけだと、ニチキは言う。「世代によって、安楽死に対する考え方がまるで違う」と彼は言う。「ベビーブーマー世代は、自分の死をコントロールしたい気持ちが強い。年老いた時、子供のように頭をなでられ、あれこれ指示されるのが嫌だからだ」
医師による自殺幇助に関して、州や国は独自の解釈に基づく規制を設けている。だが死ぬ権利は人権そのものであり、医療や法律が決めるべき特権ではないというのが、ニチキの信条だ。死を選んでもよい病気の程度を定めた規則なんかに、誰も縛られるべきではないと彼は言う。
「穏やかな死を迎えるのは、理性的な成人に与えられた権利だ」と、ニチキは言う。「70歳以上の人は皆、自分の意思で死ねるべきだ

当然、ニチキの意見には反論もある。「医師としても、倫理上も、公共政策上も、有害だ」と、米ジョージタウン大学で生物医学倫理学を研究するダニエル・サルマシー教授は本誌に語った。「殺人行為を治療に見せかけているだけだ。今は緩和ケアでかつてないほど苦痛を取り除くことができるのに、その現実を無視している」。緩和ケアとは、癌など終末期の病気と闘う患者の苦痛を和らげ、生活の質を向上させることだ。
(略)
緩和ケアは万人向きでないと、ニチキは反論する。健康な人から、良い人生を全うし、もう死ぬ覚悟ができたという理由で、自殺幇助を求められたこともあったと言う。健康な人々にも死ぬ権利があって当然というのが、彼の考え方だ。
ニチキも70代になり、自分の死と向き合い始めた。彼の最後の砦は、サルコかもしれない。
「最近、自分の死について考えることが増えた」と彼は言う。「サルコはやっぱり魅力的だ。その時が来れば、サルコで死ぬつもりだ」

世界的に多くの国々で自殺は良くないものとされているのが現状ですが、人口の多さは国力の高さを示すと言う考え方や、生産活動の多くが労働力集約型であったこともこうした考えが定着した理由かも知れません。
現代日本においても企業の人不足が理由で、退職希望者を辞めさせない様々な縛りを設けている場合があるそうですが、勝手に市民が死んで国力や生産力が低下していくのでは為政者や支配者は困るでしょう。
その点で勝手に死ぬのは悪いことだと言う考えは非常に都合が良かったのでしょうが、一方で労働力の多くが機械力で代用が利くようになってくると、単純に人間が多ければ有利と言うものでもなくなってくる理屈です。
特に先進国では人間1人を最低限であれ生活させるコストは安くはなく、生産性の低い個人などはむしろ社会にとって損だと言う考えも出るでしょうし、低生産層への社会保障と言う無駄など削減すべしともなるわけです。

この点で近年取り上げられる機会が増えているのが高齢者ですが、先日も厚労省が終末期医療のガイドライン改定を打ち出したように、若年世代と同じようにコストもマンパワーも無尽蔵に投じると言う時代ではなくなりました。
さすがに歳をとったら片っ端から死んでもらうと言うわけではありませんが、逆に望まぬ延命治療が苦痛であると言う声も未だにあって、やることはやりきったと言う高齢者にこそこの種の装置が必要なのだとの考えは一理ありそうです。
この点で記事タイトルにもあるように、全く苦痛もなく死ねるのだとすれば自ら死を選びたいと言う予備軍は実際の自殺者よりもはるかに多いのだろうと想像するのですが、そうした人々が手段を手にした時どうなるのかですね。
今回の装置などはまだしも大がかりでコストも高そうですが、身近にある安価で入手も容易なもので同様に苦痛なく死ねる方法があればどうなのかで、ひと頃自殺本や自殺サイトなどが問題視された理由でもあります。

需要に合致し利用も容易であるとなれば反社会的と認定しようと非合法化しようといずれ一定程度広まっていくのは世の習いですが、自殺によって本人や周囲にそれなりの不利益があればそう簡単に死なれては困ります。
しばしば自殺抑制のための決まり文句的に言われることに、死んでしまったら後悔しても遅いと言った不可逆性の指摘がありますが、人生70年以上も生きて考え抜いた結果もう十分と決めた人が後悔するのかどうかですよね。
ただ電車飛び込みの事例などを見聞するまでもなく、未だに死んだ後の後始末と言うものはそれなりに大変であって、周囲の人間からすれば様々な後片付けや届け出等の手間だけを考えても勘弁してよが本音でしょう。
その観点からすると自殺する手段だけでなく、死後の諸々の面倒が全て片付くサービスなども需要がありそうですが、これもやりようによっては葬儀産業どころではない大きなビジネスになるのかも知れませんね。

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2018年1月11日 (木)

認知症ではないとして免許を更新していた高齢者による重大事故発生

正月早々騒がしいニュースが続いているのですが、成人式の晴れ着騒動と並んでこちら若い人たちが犠牲になった痛ましい事件が起こっています。

逮捕の85歳男「気付いたら事故」 親族が目離した隙 車乗り出す 前橋の女子高生2人重体事故(2018年1月10日上毛新聞)

 「気付いたら事故を起こしていた」。前橋市内で9日朝、登校途中だった自転車の女子高校生2人が同市下細井町、無職、川端清勝容疑者(85)の運転する車にはねられ、重体となった事故。前橋署によると、2人に相次ぎ衝突、けがを負わせたとして、自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで逮捕された川端容疑者はこう話し、容疑を認めている。川端容疑者の親族は「運転しないように普段から言っていた。申し訳ない」と語り、女子高生2人の親族は言葉を失った。

 事故は9日午前8時25分ごろ発生。前橋市北代田町の群馬県道前橋赤城線で、自転車に乗っていた市立前橋高1年の太田さくらさん(16)=同市高井町=と、同校3年の大嶋実来さん(18)=同市元総社町=が川端容疑者の乗用車にはねられ、頭などを強く打って市内の病院に搬送された。前橋署は同日夜、川端容疑者を逮捕した。
 川端容疑者は県道を南へ走行中、対向車線にはみ出し、路側帯を走っていた太田さんをはね、民家の塀に衝突した後、大嶋さんをはねた。さらに走行車線に戻り、渋滞で止まっていた同市の男性会社員(35)の軽乗用車に衝突した。川端容疑者は頭、男性は首にそれぞれ軽傷を負った。現場にブレーキ痕はなかった。同署は男性の負傷についても、同容疑で捜査を進める。
 川端容疑者はこの事故の直前、約150メートル北の同県道交差点で、対向車線で右折待ちをしていた同市の女性(26)の乗用車と、右のドアミラー同士が接触する事故を起こしていた。市内の老人福祉センターに向かう途中だった。

 県警によると、昨年、認知機能検査を経て免許が更新されていた
 川端容疑者の親族の50代女性によると、認知機能に不安があるなどしたため、普段から車を運転しないように伝えていたという。車で外出しようとしたのでいったんは止めたが、目を離した隙に出掛けてしまったといい、「あの時に鍵を取り上げていればよかった。(被害者が)大変心配」と涙ながらに話した。
(略)
 事故現場には、前輪が大きく変形した自転車が路上に倒れ、事故に遭った女子高生のものとみられる靴やリュックが散乱していた。事故車両は前部が破損し、右側面にこすったような大きな痕跡があった。
 「渋滞の車列に並んでいたら、ものすごい速度の車がセンターラインをはみ出して追い越していった」。事故を目撃した前橋市の60代女性はこう証言した。
 現場近くに住む60代男性は大きな物音で屋外に出たところ、女子高生が心臓マッサージを受けているのを見たという。「どれほどの衝撃だったのだろう。(運転手が)車からはうように出てきた」と振り返った。
 近所の50代女性によると、運転手は警察官に事情を聴かれても「よく分からない」と言い、ぼうぜんとしていたという。女性は「(市立前橋高は)息子も通っていた。心が痛い」と表情を曇らせた。

家族は免許返納求め…高齢男がはね2人重体(2018年1月9日日テレニュース)

9日朝、群馬県前橋市で、男(85)が運転する車が自転車に乗った女子高校生2人をはねた。2人は意識不明の重体となり、警察はこの男を逮捕した。

過失運転致傷の疑いで逮捕されたのは、前橋市の事故現場近くに住む無職の川端清勝容疑者(85)。警察などによると、9日午前8時半前、前橋市北代田町の交差点近くで、川端容疑者が運転する車が自転車に乗っていた女子高校生2人をはねた。
現場付近の高校に通う1年生と3年生で、どちらも意識不明の重体。2人は始業式に向かう途中だった。

目撃者「事故直後は女子高校生2人が倒れちゃっていて、(川端容疑者は)多少ケガをして車の中にいたから『大丈夫か』と聞いたら『大丈夫だ』と」
川端容疑者は、対向車線に車をはみ出させ、女子高生たちをはねる間にも別の車や壁に衝突し横転するなどしていて、警察の調べに、「気がついたら事故を起こしていた」と話し、容疑を認めているという。
川端容疑者の家族は、これまでも高齢なので免許を返納するよう求めていたと話していて、9日朝も「車で出かけないで」と止めていたという。

たまたま事故の瞬間を捉えた映像が公表されているのですが、しかし車が吹っ飛ぶような事故でよく運転手も無事だったなと感じるところで、ともかくも事故被害者二人の回復を願うばかりですね。
新年早々始業式に向かっていた何の罪もない少女二人が重大事故に巻き込まれたと言うことで、当然ながら事故について世間の関心も高いのですが、誰しも気になるのがこの運転手が車に乗ることの是非です。
家族によれば以前から認知機能に問題があり、車を運転しないように懇願されていたと言うことですが、実際に今回も事故前にも車をぶつけ、また事故後も何のことか判ってないかのような証言をしているようです。
家族が車を強制的に取り上げるなど何らかの対応が出来なかったのかですが、法的には家族と言えど勝手にそうした行為は出来ないはずで、さてこの場合誰が悪かったのかですよね。

記事を見ると昨年に免許を無事に更新していたそうで、当然ながらこの際には認知機能検査なども受けていたはずですが、特に問題なくパスしていたようですから検査自体の実効性がどうなのかと言う疑問が湧きます。
もちろん昨年の更新時から大きく認知症が進んでいただとか、あるいは日によって症状に大きな変動があると言った可能性もありますが、ご家族のコメントを聞く限りでは昨日今日の問題ではない印象ですよね。
この高齢ドライバーの運転免許問題は当「ぐり研」でも以前から取り上げて来たところですが、75歳以上の高齢免許所持者500万人のうち免許を失うのは年20万人ほどだと言い、大多数は免許所持を続けていると言えます。
改正道交法施行後半年で認知症検査で認知症の恐れありとされた高齢者が3万人、そのうち6000人余が免許を自主返納し、失効や取り消しになった人が約2000人ですから、2/3ほどは結局免許を更新しているわけです。

認知症の恐れありとされれば医療機関を受診し診断を受けなければなりませんが、この点も専門外のかかりつけ医で対応出来るのか、専門家であっても免許を失効させることへの責任が取れるのかと言う問題があります。
特に以前から指摘されている問題として、認知症診断をパスした高齢者が事故を起こした場合、問題なしと診断を下した医師が何らかの責任を問われるのかどうかですが、制度上は当然そんなことはないことになっています。
ちなみに過去に精神科病院入院中の患者が外出中に殺人事件を起こし、病院が民事訴訟で訴えられた事例(請求棄却で結審)もあるのですが、この場合犯人が責任能力ありと実刑判決が下されたこともポイントに思えます。
逆に言えば今回の事故で運転手に責任能力がないと判断された場合、責任も取れない認知症高齢者に免許を更新させた責任はどうなるのかですが、制度設計上ももう少し煮詰める必要がありそうに思われますね。
ともかくも高齢者の免許問題はともすれば高齢者の生活権を制約すると言う、いわば被害者的立場での議論が先行していただけに、加害者の立場に立った今回の事故が一石を投じることになりそうです。

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2018年1月 9日 (火)

三六協定?結んでいませんが何か?な藤田保衛大がやはり労基署から是正勧告を受けていた件

先日は共同通信のアンケートで医師と三六協定など結んでいないと堂々と回答したことが注目された藤田保衛大ですが、案の定違法残業が蔓延していたとして是正勧告を受けていたそうです。

三六協定なく医師呼び出し 違法時間外労働で是正勧告 未払い残業も、愛知の病院(2017年12月27日共同通信)

 藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)が、医師との間に時間外労働(残業)に関する労使協定(三六協定)を結ばず緊急呼び出しを繰り返し、割増賃金も支払っていなかったとして、名古屋東労働基準監督署から是正勧告を受けたことが26日、関係者への取材で分かった。勧告は11月22日付。
 同病院は病床数が1400以上で、高度医療を提供する特定機能病院。各地の病院で三六協定の上限を超えた違法残業が明るみに出て医師の長時間労働が問題となる中、重症患者の救急受け入れなどを担う大規模病院で、協定なしの違法残業が放置されていた実態が明らかになった。
 厚生労働省幹部は「この規模で協定が結ばれていないのは通常あり得ない。組織の在り方として問題だ」と批判。病院を運営する学校法人藤田学園は「医師は労働時間の正確な把握が難しく三六協定の対象に含めていなかったが、緊急呼び出しは時間外労働に当たると認識を改め、対象に加えて再締結し、労基署に提出した」としている。

 関係者によると、労基署は同病院の少なくとも5人の医師が、休日や就業時間後に緊急呼び出しを受け、入院患者に対応していたことを確認。ある医師では週の所定労働時間が約39時間だったが、呼び出しによる業務は最長約9時間に及んでいた。同病院が締結している三六協定の対象に医師が含まれていないことから、違法な時間外労働に当たると認定した。
 また、病院の就業規則に緊急呼び出しに対する割増賃金の規定がない上、医師らに支払われている緊急呼び出し手当などは、算定方法が時間単位になっておらず、実質的な割増賃金にも当たらないと判断した。
 通常の勤務時間以降の居残り時間が、労働に当たるのか私的な研究に当たるのかの区別が付かなくなっているとして、労働時間の適正な把握に努めることも指導した。
(略)

事務部門でも違法残業 愛知の病院、昨年是正勧告(2017年12月28日共同通信)

 医師との間で労使協定(三六協定)を結ばずに時間外労働をさせていた藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)が、協定を結んでいた事務部門の職員らにも、上限時間を超える違法な残業をさせたとして、昨年2月に名古屋東労働基準監督署の是正勧告を受けていたことが27日、関係者への取材で分かった。

 関係者によると、労基署が2015年10月から総務部などの職員を対象に行った調査で、14年度の1年間に、厚生労働省が時間外労働の上限として示す「月45時間」を毎月上回っていた職員がいたことが判明。
 調査前の半年間に、労災認定の目安とされる月100時間の「過労死ライン」を超える時間外労働をしていた職員が13人いたことも分かった。最長は141時間だった。

 同病院は出入館の時刻をICカードで管理し、時間外労働は自己申告するシステムを使用。退館時刻と自己申告の終業時刻の差が2時間を上回った場合、理由を入力する必要があるが、残業代が付かない「自己研鑽(けんさん)」との申告が多用されていた。最長で6時間を超える「自己研鑽」をしていた職員もいたという。
 労基署は、こうしたケースについても居残りの理由などを詳しく調べ、残業と認められる場合には未払い分を支払うよう指導した。
(略)

しかし大学当局のコメントを見ると今まで緊急呼び出しは時間外労働には当たらないと認識していたとしか受け取れないのですが、彼らが何故そのような斜め上の発想に至ったのかと言う思考過程にはかなり興味が湧きますね。
医師相手であればいや応招義務が云々と誤魔化しも効いていたかも知れないものを、一般職にも同じような違法労働を強いていたことで単にトンデモ病院であることが全国に知れ渡った形となってしまいました。
厚労省もあり得ないと驚く無法ぶりですが、もともと私大付属病院などは医師の労働環境としては最底辺とも言われてきた歴史があり、伝統的に給料も決して良い訳ではありませんから、これだけで済むのかどうかです。
中の人から風の噂に聞くところではずいぶんと組織的な記録の改ざんや隠蔽工作が日常的に行われていたそうですが、しかし今の時代これが通るのですから逆説的に医局の力もまだまだ捨てたものではないのでしょうね。

昨年末には研修医を過労死に追い込んだ新潟市民病院が、医療機関として史上初めてブラック企業大賞の業界賞を受賞したと話題になっていましたが、近ごろでは国も働き方改革のかけ声のもと指導監督も甘くはないようです。
昨今ではブラック企業リストなるものを厚労省が発表していますが、これは労働関連法規違反で送検されたケースが掲載されると言うことで、必ずしも世に言うところのブラック企業なるものとは一致していない部分がありますね。
ただ人手不足感がどこの業界でも顕著であり、また新卒学生などの間にもブラック企業は忌避する風潮が定着してきていると言うことですので、この種のリストアップが長期的には相応に有効となってくるのかも知れません。

医療業界に関してもブラック認定されている施設は決して少なくありませんが、興味深いのは看護師などからは忌避されやすいのに対して、医師の場合必ずしもブラックだから求職者が少ないわけでもないらしいのですね。
この辺りは自己研鑽のためにはより厳しい環境に身を置いた方が力がつくと言う考えが未だ根強いのかも知れませんが、少なくとも過労死レベルの労働環境が能力開発に有利であるとは常識的に考えにくいところです。
医師の場合受験などのいわば勝ち組で、苦労すればその分見返りも大きいと経験的に確信している人の率が高いと言う説もありますが、根拠に基づかない徒なハードワーク至上主義は日本のスポーツなどでも指摘されてきた課題でもあります。
トップアスリートの世界では伝統的なスポ根式トレーニングは今やすっかり科学的な方法論に取って代わられましたが、せっかく自分で臨床研修先も選べる時代になったのですから、効率的なキャリアアップの方法論についても考えてみたいところですね。

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2017年12月27日 (水)

新潟市民病院が史上初の快挙を達成

年末になると今年の総括と言うものが盛んになる時期ですが、先日こんな興味深い記事が出ていました。

ブラック企業大賞、新潟市民病院は「業界賞」に(2017年12月25日看護goo)

長時間労働やパワハラ・セクハラなど、劣悪な労働環境を強いるブラック企業を選ぶ「ブラック企業大賞2017」が決定、医療機関で初めてのノミネートとなった新潟市民病院は「業界賞」を受賞しました。
新潟市民病院(676床)がブラック企業大賞にノミネートされたのは、2016年1月、長時間労働による過労が原因で、当時37歳の女性研修医が睡眠薬を服用して自殺したためです。女性の死は2017年5月に労災認定されています。
話題性の高いこのブラック企業大賞に医療機関が初めてノミネートされたとあって、医療関係者の間で注目が集まっていました。

業界賞の授賞理由で実行委員会は、
「研修医が亡くなる前の残業時間は月平均で過労死ラインの2倍に相当する187時間、最大で251時間に及び、これは本年のノミネート企業中最多
と指摘。「この悲劇が新潟市の運営する公立病院で起きたという事実も、強調されるべき点」だとしています。
その上で、これが新潟市民病院だけの問題ではなく、まさに「業界」に共通する問題だと言及している点に注目です。

授賞理由は次のように続きます。
    全国医師ユニオンが今年11月に公表した勤務医労働実態の調査結果によると、全国の勤務医のうち過労死ラインである月80時間を超える時間外労働を行っている医師は常勤医で4.9%、当直を行う常勤医で7.3%、初期研修医8.5%、後期研修医では18.9%に上り、このデータ通り近年、医師の過労死が多数報告されています。
    さらに日本看護協会が2013年に実施した調査では、全国の看護師の125人に一人が過労死ライン超えの働き方をしているとされています。
    人の命を救う医療・看護の現場において、その実務に携わる労働者たちの命が日常的に脅かされているなど、あってはならないことです。
(ブラック企業大賞ホームページより引用、太字は編集部)

新潟市民病院は2017年6月、「緊急対応宣言」を公表。スタッフの勤務時間の縮減などに取り組んでいます。今回の受賞については、「特にコメントはありません」としています。
医師だけでなく看護師も含めて、過重労働が常態化している医療現場。
その実態は以前から指摘されていましたが、医療という仕事の特殊性もあり、なかなか改善されない状況が続いています
ブラック企業大賞の実行委員会は、新潟市民病院への業界賞の授賞が、「全国の勤務医・看護師たちの労働環境が一日も早く適正化されるための、一助となるよう願う」としています。
医療機関初の受賞で、医療現場の働き方改革の後押しとなるか--。今後に注目です。

ちなみに同賞に医療機関がノミネートされたことも史上初なのだそうで、このたびの新潟市民病院の快挙?には驚くばかりですが、その背景にこれまで医療機関ばかりが聖域視されてきたことがあるとすれば問題ですよね。
今回の業界賞受賞に際しても実行委員会から残業時間が「本年のノミネート企業中最多」であったと認定されたことで、改めて医療機関における労働環境の異常ぶりクローズアップされずにはいられません。
それでもこうした病院で働きたいと思うのであればそれは個人の選択の自由として認めざるを得ませんが、国が音頭を取って働き方改革を推進する時代にあって、知らずにブラック企業・団体に関わる悲劇は避けたいものです。
先日以来開催されている医師の働き方検討会でも過労死遺族が証言に立つなど改めて働き方改革の必要性が叫ばれていますが、現場からのフィードバックにより何がどう問題なのかがある程度判ってきた気配もあります。

年明けに中間整理、厚労省「医師の働き方検討会」若手医師が提言「上限規制、労使協定遵守を」(2017年12月25日医療維新)

 厚生労働省は12月22日に第5回「医師の働き方改革に関する検討会」を開催し、年明けにも開催する次回会議で、これまでの議論やヒアリングを受けた中間整理と、緊急に行うべき取り組みをまとめることを決めた。22日の会議では、勤務医の健康確保について、3人の参考人からヒアリングを行い、東京大学大学院公衆衛生学博士課程の阿部計大氏が、若手医師、医学生を対象に行った調査を基に「医師は、原則として国の定める労働時間の上限規制と労使協定を遵守する必要があると考える。それは患者の医療安全と医師の安寧を保ち、医療の持続可能性を高めることにつながる」などと提言した(資料は厚労省ホームページ)。

 阿部氏は、検討会構成員で青葉アーバンクリニック総合診療医の三島千明氏、東京医科歯科大学医学部附属病院救命救急センター医師の赤星昂己氏らとともに、「Advocacy team of Young Medical Doctors and Students」を組織。日本医師会ジュニアドクターズネットワークなどの協力を得て、11月に卒後10年以下の若手医師と医学生を対象にインターネットで調査し、821人から回答を得た。
 調査では、若手医師が現行の労働時間の上限や労使協定を遵守できない理由として、「日本の保険制度、日本人の価値観」や「勤務医不足、管理者の理解不足」、「社会的要望、遵守しようとする風潮がない」、「長時間勤務を善しとする文化、事務仕事の多さ」などの声が自由記述で寄せられた。
 提言では、こうした風潮に対し、「日本の人口構造の変化やさまざまな医療提供体制の問題、業務量の多さ、⾧時間労働を美徳とする医師の慣習や封建的な風潮によって⾧時間労働を余儀なくされている」と危機感を表明。また、現行の労働時間の上限や労使協定について「理解していない」との回答が若手医師で59%、医学生で68%に上ったことから、卒前、卒後の教育研修で労働基準法を理解し、それを遵守する必要性を学ぶ機会を設けることを提案。「医師が労働環境を守れるような労働環境を段階的に実現していくよう求める」としている。

 1999年に小児科医の夫を亡くした、東京過労死を考える家族の会代表の中原のり子氏は、労基法では、「当直」は定時の巡回など軽微な業務に限り認められる一方、病院の「当直」は通常の労働そのものである現状を強調。「交代制勤務がないことが、医師の心身をむしばんでいる」などと訴えた。
 労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所産業疫学研究グループ部長の高橋正也氏は、「睡眠と疲労」とのテーマで発言。徹夜が飲酒と同程度に作業能力を低下させることや、短い睡眠の日が続くと「睡眠負債」がたまった状態になって誤りが増えるなどの研究結果を示し、「睡眠を確保できる労働環境、条件の整備が必要」と訴えた。

応招義務考えるいい機会

 討論では、日本医師会副会長の今村聡氏が「産業保健から最も取り残されているのが医療者だ。36協定や勤務時間の管理、面談の実施など、今ある仕組みの中でやるべきことができていない」と指摘。中原氏も、夫の事例では「36協定も面談も、産業医の指導もなかった。年に一度の健康診断も多忙で受けられなかった。医師は労働者であるという原点を守ってほしい」と訴えた。東北大学環境・安全推進センター教授の黒澤一氏は、「背景には医療機関の経営や、患者が来たら断れない状況がある。突き詰めれば応招義務だ。これが決まった時代と、今のシステムは違う。応招義務について考えるいい機会だ」と、医師の働き方に関する議論で繰り返されてきたテーマを、改めて指摘した。
(略)
 事務局の厚労省が論点として医師の負担軽減につながる業務移譲についても提示。今村氏は「タスク・シフティングやタスク・シェアリングという言葉が独り歩きしている感がある。本来医師がやらなくてもいい行為はやってもらえばいいが、医行為をどうするかだ」と述べ、訪問看護ステーション愛美園所長の中島由美子氏は「看護師の特定行為の周知、理解に不足がある。どんな医行為でニーズがあるか見極めが必要だ」と指摘。社会医療法人ペガサス理事長の馬場武彦氏は、「タスク・シェアリングは効果があると思うので推進したいが、医療界の風土や意識もあり、効果が出るまでには時間がかかると思う。(労働時間の上限規制の猶予期間である)5年間で効果が出るかは疑問だ」と述べた。

応招義務なるものが諸悪の根源とは言わないまでも、かなり大きな問題の要因になっていることは明らかになってきていると思いますが、むしろ問題はその現状を認識した上で何をどう考え行動するべきかと言う点になります。
働き方改革検討会などの議論を見ていて思うのは、応招義務によって医師が過重労働を強いられていると言う現実を踏まえた上で、だから医師の働き方改革など実現しないよと否定する材料に使う人々がいると言うことです。
どうやれば問題を解決出来るかを考える場で、根本原因の一つが明らかになっている状況で、その原因がある以上この問題は解決出来ないのだと主張するのは無意味なことで、普通は原因をどう除くかを考えますよね。
応招義務が悪いのであればそれを改め、あるいはなくするためにどうすべきかと言う議論を行うべきなのですが、どうもこの応招義務を聖域視する方々にとってはむしろその存在が結論を導く手段になっている気配もあります。

医師の業務を他職種に委託することに関しても同様で、何かあったときに他人のした行為の責任まで医師に負わせるのが嫌だから反対と言うのではなく、どうすればそうならないかの方法論を考えていくべきかと言う気がします。
この辺りは指示系統の明確化と言うのでしょうか、医師の指示と補助補助職の行為とを1対1で結びつようとするからこそ起こる問題であって、両者を直結させなければ指示を出した医師の責任が問われることはないはずです。
例えばレントゲンは医師が出した指示を個々の技師が受けるのでなく、放射線科と言う組織で引き受ける形ですが、だからこそ検査室内で何かトラブルがあったからと言ってオーダーした医師個人がその責任を問われることはないですよね。
業務の仕組みをどう改めていけばより効率的でブラック認定されにくいシステムが出来上がるのかを一度考えてみる必要がありますが、こうした部分の改善に後ろ向きな組織こそ本当のブラックと呼ばれるべきなのかも知れませんね。

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2017年12月25日 (月)

その答えは誰も知らないし、多くの人々は必死に先送りを図っている

医師の働き方改革をどう実現していくかについての議論が進んでいますが、先日こんな面白い記事を見かけました。

「医師の働き方改革」は結局いつから始まるの?(2017年12月21日日経メディカル)

 2017年春、医師にも残業時間の上限規制を設けることが決まり、現在も規制内容についての検討が続いている。流行語大賞2017にもノミネートされ1年を通して話題を振りまいた「働き方改革」だが、いつから始まるのだろうか。

 政府が今年3月末にまとめた「働き方改革実行計画」で、長時間労働の是正のために時間外労働の罰則付き上限規制を設けることなどが示された。
 この中で「医師」の働き方改革については、医師法に基づく応招義務などの特殊性を踏まえた対応が必要とされ、罰則付き上限規制の適用を5年間猶予し、具体的な規制内容は今後検討して2019年3月末までに結論を得るとされた。つまり、医師の時間外労働に上限規制が設けられるのは、早くとも2024年からということになる。その具体的な検討は、今夏から「医師の働き方改革に関する検討会」で行われている(厚労相「医療の質を維持しつつ労働環境改善を」)。

 当初、日本医師会会長の横倉義武氏は、会見で「今回の議論で、多くの患者さんや国民から『医師が労働者であるということは違和感がある』との声をたくさん頂いた。(中略)この機会に、そもそも医師の雇用を労働基準法で規律することが妥当なのかについても、抜本的に考えていきたい」との考えを示したことから、「そもそも医師は労働者か否か」といった議論も巻き起こった。この議論については、検討会の第2回会合で定義が明確化され、勤務医のほとんどは労働基準法上の労働者であることが示された(「一般的な勤務医は労働者」に議論の余地なし)。
 ただし、医師の業務の特殊性から「外科医に、政府が言う『働き方改革』をきちんと適用することは不可能」(外科医が残業をやめたらどうなるか考えてみた)との声も上がっている。医師に時間外労働規制を行うこと自体、現実的ではないのではないか、という指摘だ。

少しでも実効性の高い「働き方改革」にするために
 こうした意見は、検討会に加わる医師からも表明されている。検討会で、非医師系のある委員が「医師の働き方に特殊性はあるが、1人の人間であり労働者であることは紛れもない事実。医師についても労働基準法が適用される対象であることをしっかり確認してから議論すべき」と釘を刺したのに対し、医師の委員から「臨床医は、外来以外にも医学生や市民の教育、研究や自己研鑽、医療機関の経営主体への関与など様々な業務があるため、画一的な労働時間の制限を設けるべきではない」「若い研修医などは長時間労働をしていても元気。人によって働ける量には差があるように感じている」と、医師の特殊性を強調した反対意見が表明される一幕もあった(検討会第1回会合における主な発言)。

 もちろん、今の体制のまま勤務時間だけを一律に規制すれば、医療の質は低下せざるを得ない。それが理解されているからこそ、2019年3月末までの猶予期間が設けられたのであり、少しでも実効性の高い働き方改革とするためには、規制内容を前向きに議論する必要はあるだろう。
 実際、医師が過労死と認定されるケースが発生し、管理者の配慮が求められている状況の中で、「本人が働きたいと言ったから働かせた」と言う抗弁が通るはずがない。今年11月に勤務医労働実態調査2017実行委員会が発表した調査の中間解析でも、当直明けの連続勤務が、医師の集中力や判断力を鈍らせ、診療ミスが増えていることを報告している(当直明けの連続勤務で「診療ミス増」が27%)。

 検討会で今後検討される4項目の2番目は、「勤務環境改善策」だ。ここで、時間規制によって「量」が減った際、いかに「質」を落とさないようにするかの策が練られる。
 具体的には、診療業務を効率化するためのタスクシフティング(業務の移管)やタスクシェアリング(業務の共同化)の推進、AI、ICT、IoTを活用した効率化などが挙げられている。委員からは、従来提唱されてきたタスクシフティングやシェアリングが進んでこなかった実態を踏まえ、「実行に移すには、まず医師の業務を示し、他職種がその各業務にどう関われるのかを具体的に検討すべき」という意見も出ている。
(略)

しかし今さら医師は労働者か否かもないもので、すでに全く無意味な議論であると全否定された考えですが、記事を見ると医師の労働環境改善に対する最大の抵抗勢力が誰なのかがよく判る話ですよね。
ちなみにこの「医師の働き方改革に関する検討会」に参加している医療側メンバーを見ますと、赤星先生ら若手もいらっしゃいますが、やはり所属組織内でトップまたはそれに近い地位にある方々が大多数のようです。
要するに現場の医師達を労基法無視で働かせ大きな利益を得てきた既得権益所持者の方々が、「画一的な労働時間の制限を設けるべきではない」「人によって働ける量には差がある」云々と、必至に抵抗している構図ですね。

他業界で言えば大手広告代理店の新入社員が過労死し対策を検討する場に、大企業のエラい方々を集め「一律の労働規制は日本企業の国際競争力低下ガー」等々と反対意見ばかり語らせているのと同じ構図です。
確かにそれはありがちな現実ではあるのですが、企業トップも社員の一人であり、彼らの意見もすなわち労働者の意見の一つであるとして、労働者は労働環境改善に反対しているかのように取り上げられるのはどうなのかです。
組織のトップには自浄能力が期待出来ないどころか、むしろ一番の抵抗勢力となっている場合には社会的制度的に違反者に罰則を設けるなど規制強化すると言うのが一つのお約束ですが、医療の場合何をどうすべきかですね。
企業が労災を出すと世間的にも大変な騒ぎで、夏場に熱中症で社員が搬送でもされれば担当者が青くなると言いますが、過労死など出すような施設は研修指定取り消しなりのペナルティくらいはあっていいかも知れません。

過重な労働の何が問題であるかと言えば、それが業務の質を低下させ所属組織の不利益に留まらず、結局は顧客の不利益につながるからであって、この点に無自覚でいる人間が組織の管理者側に立つと大変です。
ちなみに先日出ていた興味深い話として、日本の労働生産性がG7と言われる主要先進国の中でも最下位であったと言うのですが、なんとこの状況が1970年以降ずっと続いていると言うのですから驚きます。
面白いのが上位諸国が何をどう対策しているかですが、例えばドイツでは一日10時間を越える労働は禁止され、これに違反すると最大180万円の罰金を企業ではなく上司が自腹で(!)支払わなければならないそうです。
このようなシステムがあればそれはいかに業務を効率化するかに誰しも必死にならざるを得ませんが、少なくとも日本の医療業界が医師業務を効率化することに最大限の努力と工夫をしているようには見えませんね。

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2017年12月22日 (金)

グリム童話は難解だと思うのです

思想信条の自由は尊重されるべきだと言う考え方は今やかなり多くの人々が共有するところとなってきましたが、見ていると面白い思想を信奉している方々も時に見かけるものです。

「地球は平ら」と主張する「地球平面論者」にイーロン・マスクが反論、平面論者からはまさかの答え(2017年12月03日GigaZiNE)

地球は平らな円盤ではなく、丸い球体であるというのは誰もが学校などで学び、人工衛星などの写真でも間違いないものとされてきた常識ですが、いまアメリカを中心に「Flat Earthers」と呼ばれる地球平面論を唱えるグループがにわかに注目を集めています。科学を完全に否定するような理論には異を唱える声が次々とあがっており、起業家で宇宙関連企業「SpaceX」の設立者であるイーロン・マスク氏もTwitterで疑問を投げかけたのですが、地球平面論者からは意外な反応が返ってきています。

古くは紀元前のギリシア哲学の時代から唱えられてきた地球球体説に真っ向から対立する地球平面論なわけですが、事実に基づく科学を完全に無視する強引な理論展開には科学者の間から異を唱える声が挙がっています。アメリカで知名度の高い天体物理学者のニール・ドグラース・タイソン博士は、月の画像とともに地球平面論を否定するツイートを投稿しています。
この論戦に参入する形になったのがマスク氏。地球平面論を唱える「Flat Earth Society (地球平面協会)」の名前になぞらえ、「どうして火星平面協会が存在しないんだ?」とツイートすることで地球平面論をやんわりと否定しています。
すると、マスク氏のツイートに対して地球平面協会の公式アカウントから返答が。その答えは「やあイーロン、質問をありがとう。地球とは違って、火星は球体であることが観測されているんだよ。いい日を!」とというもので、強引に「地球だけは平面だけど他は丸い」とする主張を唱える内容になっています。

事態はさらに盛り上がりを見せます。Reno Says So(@RenoXcore)さんは、自転する地球のGIF画像とともに「この観測結果をみたことがないのか、それとも……?」とツイート。
すると地球平面協会は、「違う!オルデランは平和で、武器を持っていません。おそらく無理でしょう?」との難回答をツイートしています。

ややもすれば強引にも受け取れる地球平面協会の反応には、はたして科学界が「マジレス」すべきかどうかも怪しい様相を見せる論争に発展。地球平面論者が掲げるスローガンの中には、メディアやエセ科学に惑わされることなく「真実を求める」というものも含まれており、地球は丸いと思い込ませようとする「陰謀論」に立ち向かうという姿勢も示されています。
現時点では、地球平面論者と地球球体論者の議論は全くかみ合うことなく平行線を保っている状態。以下の記事のように、地球は球体であることを示す明確な事象に、どのように返答するのかも気になるところです。

ちなみにこの地球平面説なるもの、実はこの2世紀ほどにわたって意外にも復活傾向にあるとも言うのですが、地球平面協会の設立もスプートニク打ち上げの前年である1956年と歴史がまだ新しい団体だそうです。
全人類の大多数にとって別に地球が平らだろうが象の背中に担がれていようがどうでもいいことではあるのでしょうが、地球が丸くないと通信衛星やGPSなど日常的に使われている技術の多くが利用出来なくなってしまいますね。
それでも公共の福祉に反しない限りにおいては誰が何を信仰しようが全くの自由と言っていいのでしょうが、今の時代時々人とは違うことを言い出すことで妙な具合に世間の注目を集める方もいらっしゃるようです。

「白雪姫」王子のキスは「準強制わいせつ」 阪大教授ツイートめぐり激論に(2017年12月13日J-CASTニュース)

 アニメ「白雪姫」の王子が、毒リンゴを食べて倒れた王女にキスをしたことは「準強制わいせつ罪」にあたる――。大阪大学の牟田(むた)和恵教授(60)がツイッターで展開したこんな持論が、インターネット上で注目を集めている。
 牟田氏は歴史社会学とジェンダー論を専門とする社会学者。今回の「白雪姫」に関する投稿の中では、主に男性に向けてか「こんなおとぎ話が性暴力を許している、との認識に至っていただきたい」とも呼び掛けている。

■「いくらなんでもその解釈は...」

 牟田氏は2017年12月11日夜のツイートで、電車内で眠っていた女性にキスをしたとして、和歌山県に住む33歳の男が準強制わいせつの疑いで逮捕されたとのニュースを紹介。その上で、「白雪姫」や「眠れる森の美女」などのストーリーについて、
  「『王子様のキスでお姫様が長い眠りから目覚めた』おとぎ話、あれも、冷静に考えると、意識のない相手に性的行為をする準強制わいせつ罪です」
との持論を披露した。同じ投稿では、「逆にこんなおとぎ話が性暴力を許している、との認識に至っていただきたいものです」とも訴えている。
(略)
 自らの持論に寄せられた否定的な意見に対し、牟田氏はツイッター上で細かく反論している。まず翌12日昼の投稿では、おとぎ話の内容を問題視したことに「文化破壊だ」との指摘が出ていたとして、

  「文化や伝統には差別に根ざすものが多々あり、それは変えられていくべきでしょう」

と説明。その上で、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏(51)から性的暴行を受けたと告発した伊藤詩織さんのケースを挙げ、

  「詩織さんの勇気ある告発で意識無い状態での性行為はレイプであるとの認識が広がった今、おとぎ話ではロマンティックにさえ描かれてきたことに気付くのは意義あると思いませんか?」

とも続けた。そのほか、牟田氏が「白雪姫」などの規制を求めていると誤解したユーザーに対して、「『おとぎ話を取り締まれ』なんて言ってませんよ。冷静にお願いします」と返信する一幕もあった。
 さらに牟田氏は、こうした作品を子供に読み聞かせることについても、

  「親御さんの本の選択はもちろんご自由ですが、王子というだけで突然女性にキスする、なんて話、気持ち悪くないですか?男の子にそんなDV男に育ってほしくないし、女の子にはそんな無力な被害者になってほしくないですよね?」

と否定的な見方を示していた。

弁護士「強制わいせつ罪の成立の心配はない」

 また、物語では当事者の王女がキスを受け入れているのだから問題ないのではないか、との指摘に対しては、

  「そのように『結果オーライ』を捏造してどれだけ性暴力が見過ごされてきたか考えてみてください。レイプでも女性は結局は快感を得る、みたいな話と同じです」

と反論。この観点では、プレミア法律事務所(神奈川県横須賀市)の杉山程彦弁護士も、「白雪姫は愛し合う者とのキスで目覚めたのだから、強制わいせつ罪の成立の心配はないと考える」とツイート。しかし、これに牟田氏は、

  「このリプ、ホントに弁護士さんなんだったら心配になるレベル」

などと返答していた。

この種の議論は誰しも小中学生の頃には一度は考えたことがあると思いますが、せいぜいが周囲に得意げに吹聴するくらいで済んでいたものが、今の時代うっかりすると世間の批評を浴びることになるのは興味深いですね。
思考実験的に考えれば白雪姫は王子到着時には死んでいたので、王子の行為はネクロフィリアであり世間的にあまり好意的に受け入れられないことは事実としても、法的に言えば死者にタイしてレイプの罪は成立しません。
また王子の行為が準強制わいせつ罪に当たると言う主張に関しては、法の不遡及の原則から当時そのような法規定が存在しない以上、現在の視点で過去の罪を問おうとする誤った考えと言うしかありません。

残念ながら牟田氏の見解は冷静に考えると成立しないものだと言うしかないのですが、とは言えこの種の行為をキモチワルイと感じることは自由であり、こんなキモチワルイ物語を子供に読ませるなと言う自由もあるとは言えます。
ただ一方で何をもってキモチワルイかと言うのもまた個人の見解の自由ではあるので、いい年をした大人が大まじめにこんなことを主張していることにキモチワルさを感じた人もまた大勢いたようですね。
ちなみに現代的視点に立てば白雪姫も子供向きにはとても思えないグロい描写が多いのは事実で、市中に出回っているものは多くが今風のアレンジを受けて社会的に受け入れられるように改変されているのは周知の通りです。
牟田氏も単なる批判屋に留まるのではなく、自分的には現代に受け入れられる白雪姫のストーリーとはかくあるべきだと考えていると代案の一つでも示していたならば、また世間の受け取り方も違っていたかも知れないですね。

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2017年12月20日 (水)

医師の振る舞いで患者が不満に思うこと

先日面白いなと思ったのがこちらの調査結果なのですが、まずは記事から紹介してみましょう。

患者の満足度が一気に低下するのはどんなとき?米国の家庭医に対する評価結果を分析(2017年12月8日国際医学短信)

 ひと昔前まで、患者は医師の助言であれば仮に歓迎できない内容であっても受け入れるのが当たり前だった。しかし近年、患者は注文の多い医療サービスの消費者となり、要望に応じない医師に対して不満を示すようになりつつあるようだ。特に、新たな薬剤の処方や専門医など他の医師への紹介を要求して断られた場合に患者の満足度が一気に低下することが、米国の家庭医を受診した患者を対象とした研究で示された。詳細は「JAMA Internal Medicine」11月27日オンライン版に掲載された。

 この研究は米カリフォルニア大学デービス校(UCD)のAnthony Jerant氏らが実施したもの。同大学傘下のクリニックの家庭医56人を受診した患者1,141人(平均年齢45.6歳、女性68.4%)に、受診ごとに医師に対する満足度を評価してもらった。受診件数は計1,319件だった。
 その結果、全受診の68.0%(1,319件中897件)で患者から何らかの要求が示され、医師は全ての要求の85.2%に応じていた。要求内容で多かったのは臨床検査の実施(34.0%)、他の医師への紹介(21.1%)、鎮痛薬(20.5%)や新たな薬剤(鎮痛薬や抗菌薬を除く、20.5%)の処方だった。
 どのような要求が断られると患者の満足度が低下するのかについて分析したところ、他の医師への紹介または新たな薬剤を要求して断られた場合に満足度が最も低下し、要求を受け入れられた場合と比べて満足度スコアのパーセンタイル値が平均で約20ポイント低いことが示された。また、鎮痛薬や臨床検査を要求して断られた場合も平均で約10ポイント低下することが分かった。

 Jerant氏は「医師にとって最大の問題は、患者の満足度スコアが医師の賃金に直結するケースが増えていることだ」と指摘。「実際はそれほど役に立たないと分かっていても、患者の要求に従って鎮痛薬を処方したり検査を行ったりしてしまう医師は少なくないだろう。われわれは、患者の満足度スコアを反映させた報酬のあり方について再考すべきだ」としている。
 米国内科学会(ACP)臨床プログラムのCynthia Smith氏は「最近はテレビで新薬の情報を得たり、自分の症状についてインターネットで調べた上で受診する患者が多い。例えば、いとこに脳腫瘍患者がいる頭痛患者の場合、頭痛についてインターネットで検索した時に画像検査で脳腫瘍を発見できるという情報を得れば、その検査を要求するのは不思議ではない」と話す。

 なお、今回の研究では抗菌薬の処方の要求は少なく(8.1%)、またこの要求に応じてもらえなくても満足度スコアは低下しないばかりかわずかに上昇することが示された。この点について、Jerant氏は「抗菌薬の不適切な処方に起因した耐性菌の増加といった問題がようやく認知されてきたことが背景にあるのではないか」と考察。「これは希望の持てる結果であり、鎮痛薬の問題についても広く周知されれば状況は変わってくる可能性もある」と期待を寄せている。
 また、Jerant氏とSmith氏はともに「医師は患者とのコミュニケーション能力を向上させる必要がある」と強調。Smith氏は「薬や検査を求める患者の背景にある気持ちを探り、理解する必要がある」としている。一方、Jerant氏は医師に対し、「患者の要求を全面的に否定するのではなく、お互いの妥協点を見出すよう心掛けるとよい」と助言。患者の不安を認めた上で、正直に「この薬や検査は治療には役立たないと考えている」と伝え、しばらく様子を見ることを提案する“watchful waiting(注意深い経過観察)”のアプローチが有望だとして、今後、臨床試験でこのアプローチの効果を検証したいとの意向を示している。

日本とは医療システムが異なる米国での調査結果で、ドクターフィーがあるなどいわば顧客満足度が収入に直結しやすい環境だからこそと思える部分もありますが、日本でもある程度首肯できるものがありそうですね。
特に顕著な満足度低下を示したものとして他医師への紹介の拒否が挙げられていますが、患者が紹介してくれと言うくらいですから目の前の医師では不足と感じているわけで、断られれば不満も溜まるでしょう。
もう一つ挙げられている新たな薬の要求にしても今の薬で不足していると思っているからこそでしょうから、これらが大幅な満足度低下に直結するのは当然と言えば当然なのですが、興味深いのは抗生剤投与の件です。
世界的に見ても抗生剤好きと言われる日本であれば逆の結果が出るのでは?と言う気もするのですが、医療文化の違いや患者啓蒙活動の結果だとすれば、日本も見習うべき部分がありそうに思います。

この記事を読んで興味深いと思ったのが、世界に名だたる訴訟社会であるアメリカの医師が訴訟リスクよりも、賃金への影響等金銭的な面での不利益を気にして患者の要求を判断しているようにも見える点です。
皆保険制度で比較的コスト意識の低い日本の医療現場において、過剰検査や過剰診療の原因としてしばしば挙げられるのが医療訴訟などトラブルのリスクなのですが、意外とそうした点は気にならないのでしょうか。
とは言え患者の全要求は実に85%までも受け入れているのですから、患者としては何かあっても自己責任と納得出来るのかも知れずで、結果的に医療訴訟のリスクは減らせているのかも知れないですね。
ちなみに日本の場合患者数が諸外国よりも圧倒的に多く、トラブルでもあれば診療が回らないと言う懸念から、時間をかけて検査や薬がいらないことを説明するよりさっさと言われたとおりにすると言う先生も多いようです。

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2017年12月18日 (月)

医師不足是正をしてしまうとますます医師不足に?

このところ国の推進する働き方改革とも絡めてにわかに活発化している医師の違法残業問題ですが、その背景にある医師不足問題および医師の偏在問題とも関連してこんな記事が出ていました。

違法残業で勧告全国19施設 特定機能病院も過重労働 対策急務、解消難しく(2017年12月11日共同通信)

 高度医療を担う全国85の特定機能病院のうち、違法残業や残業代未払いなどで労働基準監督署による是正勧告を2015年9月以降に受けた施設が少なくとも19に上ることが9日、共同通信のアンケートで分かった。医師らの過労死や過労自殺が相次ぐ中、各地の拠点となっている特定機能病院でも医師らが厳しい労働環境に置かれている実態が浮き彫りになった。
(略)
 回答した病院からは、応召義務の見直しや医師の地域、診療科による偏在解消を求める意見が出た。国の対策が急務だが、いずれも解消には時間がかかり、過重労働の抑制は容易ではない。
 19施設が受けた勧告には医師のほか、看護師や事務職などに対する法令違反もある。

 国立循環器病研究センター(大阪府)は医師以外の職員の残業代が未払いだったとして勧告を受けた。同センターは、時間外労働に関する労使協定(三六協定)で、時間外労働が月300時間まで可能だったことが明らかになっている。
 神戸大病院(神戸市)は、勤務時間外に受けた講習に関して残業代を支払っていなかった。札幌医科大病院(札幌市)は、三六協定で1日当たりの労働時間の上限を設定していなかった。勧告はないが、藤田保健衛生大病院(愛知県)は、医師について三六協定を結んでいないと答えた。

 長時間労働抑制のため国に求める対策として「応召義務を外すしかない」(岐阜大病院)や「地域間における医師偏在の是正」(奈良県立医科大病院)などといった意見も寄せられた。
 既に進めている取り組みでは、患者への応対や事務処理など医師の業務を補助する「医療クラーク」の配置が目立った。

 アンケートは今年8月以降実施し、調査票を郵送した上で電話による担当者への聴き取りも行った。半数近くは回答しておらず、勧告を受けた施設はさらに多い可能性がある。
(略)

人員増に医師偏在の壁 環境改善へハードル高く 「表層深層」特定機能病院に是正勧告(2017年12月11日共同通信)

 医師の過労死や過労自殺が問題となる中、国は長時間労働抑制に向け対策を検討している。ただ、病院側が求める人員増に向けては、医師の偏在解消など解決が難しい課題が立ちはだかる。「知識や技術を身に付ける自己研さんも欠かせない」と他の労働者と同様の残業規制に疑問の声が上がり、労働環境の改善に向けたハードルは高い。

 ▽めど立たず

 「スタッフがどうしても集まらないが、地域医療を担う病院なので対応すべき業務が多く、労働時間が増えてしまう」。複数の医師が時間外労働のための労使協定(三六協定)で定めた上限を超えて働いていたとして、是正勧告を受けた国立大病院の担当者は漏らす。
 この病院は救命救急と心臓血管外科の医師について違法残業が指摘された。救命救急は募集しても集まらず、他の診療科からの応援でしのいでいる。ただ、高度な技術が求められる心臓血管外科は専門医しか担当できず、長時間労働を余儀なくされている。
 特定機能病院を対象にした共同通信のアンケートで、違法残業などを指摘する是正勧告が相次いでいることが判明。病院側からは、人員確保のため地域や診療科ごとの医師偏在の改善を求める声が目立った。厚生労働省は医師の少ない地域で一定期間勤務した場合の優遇措置を検討するなど是正への対策を始めたが、解消のめどは立たない。

 ▽人命

 働き方改革を進める政府は、医師にも将来的に残業時間の上限規制を導入する方針だ。厚労省は8月から病院経営者や医師、労働組合の担当者などが委員の検討会を設置、医師に合った規制の在り方を議論している。
 10月に開かれた3回目の会合では、委員を務める大和成和病院(神奈川県大和市)の畝大(うね・だい)医師が「人命がかかっており、勤務時間が長くなるのはやむを得ない」と主張した。医師17年目で年間100例超の心臓手術の執刀や指導をしている。
 畝氏は経験に基づき「未熟な技術は一瞬で患者の命を奪う」と強調。業務の一環として自己研さんの必要性を訴え、他の労働者と同様の規制はなじまないと説明した。
 その上で、ガーゼ交換などの簡単な処置や書類作成などを別の担当者に任せる「タスクシフティング」を負担軽減策として提案した。

 ▽疲弊

 畝氏のように強い使命感を持つ医師は多く、医師法で理由なく診療を拒めない「応召義務」もある。大分大病院は「義務との整合性を考慮に入れて施策を検討してほしい」と訴えた。
(略)
 だが2016年度、過労死や過労自殺(未遂含む)で4人の医師が労災認定された。ある医師は「患者のために頑張るほど、自分の命が削られる」と漏らす。医療現場の疲弊は深刻だ。
 1999年に小児科医の夫を過労自殺で亡くした「東京過労死を考える家族の会」の中原(なかはら)のり子代表は「毎年人が死んでいる事実を振り返ってほしい。若く夢も希望もある人が気力体力を失わないようなシステムを構築してほしい」と訴えた。

いわゆる医師不足問題と言えばしばしば僻地田舎で医師がいないと言う問題が取り上げられるのですが、実際に医師不足感は都市部の基幹病院でこそ深刻であることは現場の実感としてあるかと思います。
厚労省の調査では医師の労働時間比較で見てみると、全年代にわたって都市部の医師の労働時間が地方勤務医師の労働時間を上回っていますが、特に若い世代ほどこの格差が大きいのは興味深い現象です。
田舎は田舎で当直や待機が多く、拘束時間が長いと言う問題もありますが、需給バランス崩壊の程度から緊急性を考える限りではまず都市部の基幹病院においてこそ医師不足の是正が急務と言うことになりますね。
この辺りは最近厚労省などで議論されているように、地方勤務を医療施設管理者の要件にしようと言った地方への誘導策が、かえって現場の医師不足感を助長させてしまう危険も示唆しているとも言えます。

ただ医師の過労死がまず例外なく都市部基幹病院で発生している点から、逆説的に考えれば適宜田舎での勤務を織り交ぜる勤務体系は過労死防止対策としても意味がある可能性は考えられます。
田舎病院が医師を呼ぶ際に、病院の売りを示す文句として「仕事は昼で終わり、午後は毎日好き放題釣りが出来る」と言った台詞が実際に使われるそうですが、確かにそうした環境で過労死もなさそうには思えます。
かつてある基幹病院の外科では若い先生は毎年夏に一定期間麻酔科研修に出されていたそうで、その間はお客サマ扱いでまだ外も明るいのに帰れると皆泣いて喜んだそうですが、過労死寸前の激務続きでプッツン切れて退職や長期休養になるくらいなら、定期的な田舎への派遣もあっても良いのかも知れません。

ちなみに日米の医師に負担の重い業務は何かと訊ねたところかなり意見が分かれたそうで、特に日本の医師に限って負担感が大きいと訴えた業務として雑務やペーパーワーク、そして会議が挙げられたのだそうです。
会議の多さ、長さはしばしば外国人にも批判される日本のお家芸 ですが、医療の場合例の病院機能評価で会議をまめに開くことが非常に重視されているのだそうで、今後も増えこそすれ減りそうにはありません。
その点では雑務やペーパーワークの軽減を目的に、クラークの導入などタスクシフティングを進めることは合目的的な対策と言えそうなのですが、特に医療関連業務に関しては当の医師からの反対意見も根強いものです。
この理由としては何かあった場合の責任を誰が取るのかと言う問題がありますが、応召義務を負う主体は誰なのかと言う議論と同様に、個人ではなく組織で責任を負うのが当たり前とはまだまだ認識されていないと言うことでしょうか。

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