心と体

2018年10月17日 (水)

財務省主導の医療費抑制策、高齢者医療の在り方にも波及か

医療費抑制と言うことに関して昨今すっかり主役級の活躍?が目立つ財務省筋から、先日こんな提案が出てきたことが話題になっています。

高額新薬、保険適用除外も 医療費抑制へ財務省提案 75歳以上の負担2割に(2018年10月10日共同通信)

 財務省は9日、財政制度等審議会の分科会で中期的な社会保障改革案を示し、新たに登場した高額医薬品は経済性に応じて公的医療保険制度の適用外にすることも検討するよう提案した。保険料や公費の抑制につながる一方、患者負担が増す可能性がある。75歳以上の後期高齢者が受診時に払う医療費の割合を原則1割から2割に高めることや、介護サービスの負担増も改めて打ち出した。

 安倍政権は、高齢者雇用の拡大や疾病予防による健康寿命の延伸を社会保障改革の柱に据えている。だが財務省は「予防医療による経費節減効果は定量的に明らかでない」と指摘。給付減など痛みを伴う施策も必要だと訴えた。
 医療費は団塊世代の高齢化で急増が見込まれ、国民健康保険といった公的保険や国などの財政を圧迫する。技術の高度化も拡大要因で、ノーベル医学生理学賞を受賞する本庶佑(ほんじょ・たすく)氏の研究が生んだがん治療薬「オプジーボ」も当初は患者1人で年間3500万円かかる高さが知られた。

 財務省は、新薬が承認されるとほぼ自動的に保険適用となる現状を見直し、今後は費用対効果を検証するよう求めた。高額薬が保険から外れると財政は助かる半面、診療代は全額自己負担となって患者にのしかかる。薬価を巡っては消費税増税に伴い実施する19年度改定でも、実勢に合わせた単価引き下げを求めた。
 窓口負担は現在70~74歳が1割から2割に移行中で、これに続いて75歳以上も段階的に2割に上げる想定。風邪など軽症者の受診に定額の上乗せ負担を導入することや、病院側の収入となる診療報酬を都道府県単位で柔軟に下げられるようにする案を引き続き示した。
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予防医療軽視の恣意的誘導「強い怒りを感じる」、横倉日医会長 財政審の議論に苦言、「医療費削減は健康増進の結果で実現」(2018年10月11日医療維新)

 日本医師会会長の横倉義武氏は10月10日の記者会見で、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会が予防医療の効果を疑問視する見方を誘導するかのような資料に基づき、社会保障制度改革として医療費の削減など給付の抑制ありきで議論を進めているとの認識を示し、「大変強い怒りを感じる」と語気を強めて苦言を呈した。「医療費削減ありきでなく、健康増進を目的とした政策の結果として削減が実現するよう、地域での取り組みを進めることが重要」とも述べ、考えを正すよう訴えた。
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 地域での健康づくりについては、「(日医は)商工会議所などの経済界、医療関係団体、健保連などの保険者、自治体などと医療費適正化について、日本健康会議として取り組みを進めている。宮城、静岡、大分では、県単位で仕組みづくりが進んでいる。その他の全国の都道府県でも、関係者らと連携し、仕組みづくりを進めるようお願いしている。こうした取り組みにより、2017年度の医療費は、2011年時点の予測比で5兆円以上も下回っている。特に糖尿病予防の医療費削減効果は明らか」と説明。「大変恣意的な資料を財政審が使った、(財務省が)それに出したということだ」とも述べ、憤りを隠さなかった。
(略)
 財務省が同分科会に対し、高額医薬品について「経済性に応じて公的医療保険制度の適用外にすることも検討すべき」と求めたことについては、「(医薬品などの)開発費の回収に関しては、利用者が多いと薬価は必然的に低くなるので費用対効果は改善するが、価格が高額でも、誰しも稀少疾患の患者になり得るので、有効性、安全性が確認できた場合は、保険の対象とすべき」と主張。CAR-Tと呼ばれる白血病治療法の費用が日本円にして約5000万円にも上る可能性についての質問には、「稀少疾患の薬で、非常に高い値段を要求されていると聞くが、治るのであればそれほどありがたいものはない。対象拡大の有無で薬価も異なる。安全性、有効性が確認できるなら適用すべき。たくさん使うようであれば値段は下がるのだから」と述べた。

まあしかし超高額な新薬による医療財政破綻も懸念されている中で、どんどん使えば単価は安くなるのだから使うべきだとはなかなか斬新と言うか、一般論としては人間何事にもこういう前向きな考え方でありたいとは思いますけれどもね。
ともかくも幾つか興味深い提言があり、いずれも議論の対象になるところだと思うのですが、予防医学の位置づけに関しては健康寿命延伸はともかく、医療費抑制については議論の別れるところではないかと思います。
要は下手に予防医学を頑張って長生きするよりさっさと病気になってぽっくり逝く方が安上がりだと言う考えですが、特に生活習慣病についてはこうした考え方の方がしばしば患者の支持を得やすい現実もあります。

特に低所得労働者にとって予防医学のコスト負担は無視出来るものではなく、投資に見合う明確な見返りがなければ治療動機とはなり得ませんし、やりたくないものを保険でお金を出してまでやらせるのもどうかです。

いずれにせよ予防医学も医学的妥当性があるから保険診療で認められているはずなのですが、その判断基準としてコストパフォーマンスの考えを入れ込む場合、健康であることの価値をどのように評価するのかですね。
例えば健康であることによってその人が余計に生産出来た価値が医療費を上回るかどうかを目安にした場合、労働単価の高い人であれば意味があるが、安月給の人には意味のない医療と言うものが出てくるでしょう。
無論現実社会ではまさにそうした状況こそ多いのですが、皆保険制度とは結局貧乏人ほど利益の大きい制度であるわけで、こうした価値判断を入れてしまうことの制度への影響は小さなものではないでしょうね。
それに加えてさらに反対意見が多そうなのがこうした医療費を誰が負担すべきかと言う問題ですが、低所得時代にあって多額の資産を持つ高齢者の医療費まで負担させられる現役世代の不満感も無視出来ません。
この点ではまさに世代間対立の火だねともなりかねず、とっくの昔に引き上げが決まっているにも関わらずズルズルと先延ばしされてきた所以でもありますが、厚労省筋である社保審ではこんな話も出ていたようです。

75歳以上の負担「2割」か?「現役世代の負担は限界」「反対」医療保険部会、高額薬剤「保険外併用療養」の活用検討(2018年10月10日医療維新)

 厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会(部会長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所長)が10月10日、約3カ月ぶりに開催され、「経済・財政再生計画改革工程表等における医療保険関係の主な検討項目」を議論した。計7項目のうち、特に議論になったのは、これまで同部会で繰り返し議論してきた「後期高齢者の窓口負担」と、新たな議題である「新規医薬品・医療技術の保険収載」について。

 「後期高齢者の窓口負担」は、現行の1割から2割負担への引き上げが焦点の一つになる見通し。保険者の立場から、健康保険組合連合会副会長の佐野雅宏氏が、現役世代の保険料負担の重さを訴え、「今後も負担が増えていく中で、出口が見えない」として、早急な検討を求めた。全国健康保険協会(協会けんぽ)理事長の安藤伸樹氏も、「現役世代の負担は限界。2割負担について早急に結論を得る必要がある」と述べた。
 これに対し、医療者の立場から、日本医師会副会長の松原謙二氏は「多くの高齢者は、ギリギリのところで生活している」と訴え、受診時定額負担や定率負担の引き上げに反対した。
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 「後期高齢者の窓口負担」は、今年6月に閣議決定した「骨太の方針2018」において、「団塊世代が後期高齢者入りするまでに、世代間の公平性や制度の持続性確保の観点から、後期高齢者の在り方について検討」とされた。70~74歳の窓口負担の1割から2割への段階的引き上げは今年度で完了する。75歳以上の後期高齢者の窓口負担は、「一般・低所得者」は1割負担、「現役並み所得者」は3割だ。
 健保連の佐野氏は、過去10年間で現役世代の平均収入は伸び悩む一方で保険料負担は増加し、その要因として高齢者支援金を挙げ、「現役世代の負担が増えていることは明らか」と訴えた。さらに2025年までに保険料は年平均2万円以上増加するとの推計を提示。「この現実を見据えて対応すべき。今後も負担が増えていく中で、出口が見えない」と問題視し、早急な検討を求めた。さらに「現役並み所得者」の判断基準の検討は支持したものの、「現役並み所得者の医療費には、公費が入っていない」と指摘し、「現役並み所得者」が増えると、現役世代の負担も増加することから、医療費への公費投入を求めた。

 協会けんぽの安藤氏も、約50万人もが加入する「人材派遣健康保険組合」が解散した事例を挙げ、「高齢者医療費の負担が大きく、現役世代の負担が限界であることを改めて示している」と指摘。70~74歳の窓口負担引き上げが今年度に完了することを踏まえ、「後期高齢者の2割負担についても、早急に結論を得る必要がある」と訴え、負担増の影響などについて具体的なシミュレーションやデータに基づく議論を求めた。そのほか、市販類似薬については、保険適用から外すなど大胆な見直しが必要だとした。
 これに対し、日医の松原氏は、後期高齢者1世帯当たりの「公的年金・恩給」の平均額は、195万7000円であり、総所得が「公的年金・恩給」のみの世帯が約7割を占めることから、「多くはギリギリのところで生活している。負担できる金額はおのずから分かる。これ以上、負担を増やしていくのは無理」と述べ、受診時定額負担や定率負担の引き上げに反対。
 全国老人クラブ連合会理事の兼子久氏は、勤労世代が負担する制度が崩れれば、国の在り方も壊れかねないとの懸念を示したほか、早期発見、早期治療が窓口負担増で遅れかねないとし、「窓口負担の強化については、基本的に反対」と述べた。
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各々の立場による利益の相反も非常に大きい問題だろうと思いますが、日医など医療系団体にとって高齢者はいわばお得意様であり、上顧客の不利益になるような話に反対する立場であることは理解できます。
ただそこに皆保険制度の永続性と言う視点がどれほど含まれているのかに疑問符がつくのですが、いずれにせよ高額薬の扱いなど給付の除外対象が議論される中で、高齢者だけが何でもありが通用するかどうかです。
小児が小さな大人ではないのと同様、高齢者もまた歳をとっただけの大人ではないわけで、高齢者医療は若い世代とはまた別のやり方があるべきですが、年齢は保険給付の在り方に反映されていないのが現状です。
以前から維持透析導入の年齢制限を求める声などもあり、例えば高額な抗癌剤などは後期高齢者には保険給付対象外とするなど、今後は年代間での給付格差についても議論することが求められるかと思いますね。

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2018年10月15日 (月)

査読もなければデタラメ論文でも掲載される学術雑誌?

少し前からこんな懸念が言われているそうですが、まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

ネット学術誌 チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ(2018年4月2日毎日新聞)

 インターネット専用の学術誌の中で、別の研究者による内容のチェック(査読)が不十分な論文を載せる質の低い学術誌が急増している。研究者から徴収する掲載料を目的として運営している業者もあるとみられ、学術的に妥当とは言えない成果に「お墨付き」が与えられることで誤解が広がる恐れもある。日本の科学者の代表機関「日本学術会議」は対応策を検討する。【鳥井真平】

 ネット専用の学術誌は「電子ジャーナル」と呼ばれる。1990年代末から急速に広がり、自然科学、人文科学など分野を問わず世界中で利用されている。誰でも論文を閲覧できるオープンアクセス(OA)型のものが多く、成果を広く共有できるメリットもある。
 一般的な学術誌は、投稿された論文を複数の専門家に査読してもらった上で掲載の可否を判断。研究者側に掲載料の負担はなく、主に読者の購読料で出版費用をまかなう。一方、一般的なOA型は研究者が支払う掲載料を運営費に充てる。しかし、首都大学東京の栗山正光教授(図書館情報学)によると、電子ジャーナルには査読がずさんで、掲載料を払うだけで論文を掲載できるものも多い。専門家は掲載料目的の粗悪な学術誌を「ハゲタカジャーナル」と呼んでいる。

 著名な研究者を無断で編集委員名簿に加えて権威付けをしたり、学術誌のランクを示す指標「インパクト・ファクター」を偽ったりしている事例もある。2013年ごろから年に数百誌以上のペースで増えているとみられるという。米科学誌「サイエンス」の編集部などが13年、内容に明らかに誤りのある論文を電子ジャーナル304誌に投稿したところ、157誌がそのまま掲載を認めた
 こうした粗悪な学術誌に日本の研究者が論文を投稿するケースも少なくない。国立情報学研究所は14年、米国の研究者が「粗悪」とみなした学術誌1300誌以上のリストに基づき、東京大や京都大などの主要大学44校の研究者の投稿状況を調べた。すると、過去1年間にOA型の電子ジャーナルに投稿した研究者の回答865件のうち、99件(11・4%)がリストに含まれる雑誌への投稿だった。
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ろくな査読もなしに論文を掲載する雑誌については以前から少なからずあり、切羽詰まった院生の学位論文の投稿先に用いられるなど一定の存在価値が認められてきた一方で、当然学問的価値は低いものでした。
ただ今回問題となっているのは単に質が低いと言うだけではなく、最初から掲載料目当ての商売としてやっているとしか思えない偽学術雑誌の存在であり、内容に関わらず金さえ払えば掲載されると言うことです。
昔から著名人が金さえ出せばもらえる海外の怪しい大学の学位を誇っているのと通じるものがありますが、何ら意味のない学位と異なりこうした雑誌であれ世間の目に触れ、場合によっては引用される可能性もあるわけです。
一般的な論文にも引用される可能性がある内容がレベル云々以前に正しさすらも保障されないとなれば困った問題ですが、国内においても自主的なルール作りの動きが出てきているようです。

<粗悪学術誌>「ハゲタカジャーナル」に名大と新潟大が対策(2018年10月10日毎日新聞)

 インターネット専用で、質が十分に保証されていない粗悪な学術誌「ハゲタカジャーナル」が増えている問題で、名古屋大と新潟大は、研究者のヒアリングや論文の投稿ルール作りなど独自の対策に乗り出す方針を決めた。両大は、ハゲタカジャーナルに学内から多数の論文が投稿されていたことが毎日新聞などの調査で判明している。学問の自由は憲法で保障されているが、大学の研究実績に疑義が生じることを防ぐ狙いがある。既に九州大が研究者への指導を始めており、国内で対策が広がり始めた。【鳥井真平】

 内容チェック(査読)がずさんで、料金を払うだけで掲載されるなど多くの問題を抱える学術誌を専門家が「ハゲタカジャーナル」と呼んでいる。科学的に妥当と言えない成果でも、投稿すれば「国際誌に掲載された」とお墨付きが与えられ、世の中に広まる恐れがある。研究者が粗悪誌と知らずに投稿した例もあるが、「業績の水増しのため投稿した」と証言した研究者もいる
 毎日新聞は専門家の協力を得て、ハゲタカジャーナルを出しているとされる海外の出版社が発行する327誌に投稿された論文を調査。日本から5076本が投稿され、九州大は最多の147本、新潟大は4番目の102本、名大は5番目の99本の投稿が見つかった。
 これを受け、名大は早急に対策を取る方針。所属研究者に注意喚起した上で、粗悪な学術誌に論文がどの程度投稿されているか実態調査する。最も投稿が多かった学部を重点的に調べ、投稿経験者を抽出してヒアリングする考えで、投稿理由や査読の実施状況などを聴き、問題が見つかれば改めて対応を検討する。

 憲法は、研究成果の発表の自由など「学問の自由」を保障しており、大学が論文の投稿先について研究者から直接事情を聴くのは異例。名大の高橋雅英副学長は「査読なしで論文を掲載しているなら学術誌とは言えない。大学の信頼や研究者モラルに関わる問題で、対策をしっかり取る」と話す。
 一方、新潟大は9月、ハゲタカジャーナルへの投稿を控えるよう、年内にも学術誌への論文投稿ルールを新たに設けることを決めた。全研究者に注意喚起し、研究倫理教育セミナーでハゲタカジャーナルの存在を周知する。新潟大の担当者は「国民の信頼を失いかねない事態だ」と危機感を示している。
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学問の世界は基本的に性善説で運用されている面があり、そうであるからこそ最初から虚偽の目的で論文を書き、掲載するなど論外だと言えますが、それを立証していくことは非常な労力を要するだろうことは判ります。
この種のジャーナルの存在価値としていわゆるソースロンダリングの温床となりやすいと言う指摘も当然ながらあり、特に正体の怪しい似非医療、代替医療などがこうしたもので権威付けをすると言うことはありそうですね。
ただ代替医療系の雑誌などはそもそも査読者自体がその筋の権威であり、真っ当な科学的見識を備えているのかどうかと言う問題もあって、結局何が正当で何が粗悪なのかと言う定義づけも難航するでしょう。
過去には一流紙に掲載された怪しげな論文が大々的に調査された事例もありましたが、一流紙だからこそ大々的に調査もされるわけで、末端の論文や掲載誌についてどこまで正当性を調べられるものでしょうか。

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2018年10月11日 (木)

医療の受診抑制に関する最近の議論

医師の労働環境について議論されている中で、当然ながら供給体制の在り方だけではなく需要についても議論があってしかるべきですが、この点で日本の皆保険制度ではアクセスの自由を保障することになっています。
いつでもどこの医療機関でも自由にかかっていいと言う大前提が医療需要に大きな影響を持つことは自明の道理ですが、この点に関して以前から少しずつ自主的な受診抑制についても議論が進められてきました。

医療のかかり方を広める懇談会発足、デーモン閣下も参加(2018年10月9日医療維新)

 厚生労働省は10月5日、患者やその家族に医療のかかり方を周知・広報する方法を検討する「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」の第1回会議を開いた。会議では「受診前に患者の不安を解消できる情報発信が必要」「危機感を醸成できる客観的なデータで、医師の過酷な労働環境を発信すべき」などの意見が相次いだ。同省が医療機関の適切な利用方法を議論する場を設けるのは初めてで、不必要な受診を減らし、医師の負担軽減と医療の質向上につなげたい考え。今後月1回程度で会議を開き、12月に同省の「医師の働き方改革に関する検討会」に議論内容を報告する(資料は、厚労省ホームページ )。

 座長には東京大学大学院医学系研究科教授の渋谷健司氏が就任。構成員には、日本医師会常任理事の城守国斗氏や、電通でCMプランナーなどを務めた株式会社ツナグ代表取締役の佐藤尚之氏、元厚生労働省事務次官の村木厚子氏のほか、アーティストのデーモン閣下など、さまざまな立場の人が名を連ねた。
 懇談会冒頭では、小児医療に関する情報発信を行う一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表理事の阿真京子氏が同会の取り組みを紹介。「知識がなく相談できる相手もおらず、不安で病院に駆け込んでしまう保護者が多い」とし、不要不急の症状やその対処方法を学んだ保護者は「不安が解消され、受診行動が変化する」と述べた。
 続いて、宮崎県延岡市の地域医療対策室総括主任の吉田昌史氏が、夜間・救急患者の増加により医師の辞職が相次いだ県立延岡病院の取り組みを発表 (『「医療崩壊地域」払拭目指した延岡市vol.1』を参照)。市民団体と啓発活動を行った結果、夜間・休日の患者数が半減したとし、「医療が限りある資源だと伝われば、地域医療を守るために覚悟が生まれ、具体的な行動に移る」と強調した。

 自由討論では、佐藤氏が官公庁のホームページで必要な医療情報が検索しにくいと指摘。「ページの奥の方に有用な情報があり、PDFなので検索にひっかからない。文章も分かりにくい」とし、「ボランティアでも情報をまとめたいプロはいる。明日からでも変えた方がいい」と訴えた。城守氏も「信用が担保されていない医療情報が氾濫している。国としてまずここを見ればいいという情報の出し方をお願いしたい」と述べた。
 討論終盤ではマギーズ東京の共同代表理事鈴木美穂氏が、「この懇談会を通じて、専門家やボランティア、タレント、メディアを入れて、信頼できる医療情報を集めて発信するサイトを作りたい」と提案。座長の渋谷氏は「ぜひやりたい」と応じた。

「危機感醸成するデータを示して」

 構成員からは医師の過重労働を危惧する声も相次いだ。株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏は、厚労省が示した2015年度のアンケート結果で「自殺や死を毎週/毎日具体的に考える」勤務医が3.6%だったことを受け、「ショッキングだった。今までいろいろ見てきた中でも見たことがない数字」と驚きを見せた。
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 患者・家族と医療をつなぐ特定非営利活動法人架け橋理事長の豊田郁子氏は「インターネットがあまり使えない、特定の地域から出ない人がどうしても頼りたくなるのが病院。『医療者が大変だから病院にかからないで』と伝えるだけでは、単にアクセス制限と誤解される」とした上で、「チーム医療として、医師や看護師以外の病院の職員がチームとして患者にしっかり対応できるような支援、理解が必要」とし、既存制度を活用した医療者支援の必要性を訴えた。
 懇談会終盤に駆け付けた根本匠厚生労働相は「閣議後の記者会見で、受診を抑制することが目的の懇談会かと問われたが、あくまで患者の視点に立ったもの」と強調。「医療を提供する質の向上や医療安全の確保につなげたい」と述べた。
(略)

もちろん公式には受診抑制が目的ではないと主張するしかないのですが、しかし議論の流れを見ても現実の医療需給の在り方を見ても、どうしてもこれからは受診抑制についても考えていかないではいられません。
その進め方をあくまで自主的な努力目標とするのか、それとも何らかの制度なりで強制力を発揮すべきなのかと言う点が問題になりますが、一例を挙げれば日中は混み合うから夜間にと言った方もいらっしゃるわけです。
夜間診療所が昼間と同等以上に混み合うとすれば、検査手段やスタッフの充実した昼間に来ようと言う動機にもなるでしょうが、この辺りは応招義務の定義なども含めて医療提供体制の在り方議論が必要でしょうね。

記事中にもあるように不安だからついつい病院にと言うケースは子供以外に高齢者でも日常的に見られる話ですが、この対策として医療機関以外での医療相談窓口を設けようと言う動きも各地で出てきています。
また若い世代ではとりあえずネット検索と言う方も多いはずですが、正しい情報へのアクセスが難しいと言う問題は以前にも取り上げた課題であり、ある程度の公的な認証制度のようなものも必要かも知れません。
ただこうした議論全般に関して、原理原則論に縛られずにはいられない厚労省よりもアクティブなのは財務省であるのが現実で、先日はそのものズバリとも言うべき方法論としてこんな記事が出ていました。

「かかりつけ医」以外受診は負担増…財務省提言(2018年10月10日読売新聞)

 財務省は9日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で、かかりつけの医師以外で受診した場合に患者の自己負担を増やす制度や、新薬の保険適用の際に費用対効果の検証を導入することなどを提言した。少子高齢化で膨張する社会保障費を抑制する狙いがある。
 財政審は今後、防衛や公共事業など各分野について議論を重ね、11月にも2019年度予算編成に関する建議(提言)を取りまとめる。

 政府は、医療費を押し上げる要因となる過剰な通院や受診を減らすため「かかりつけ医」や「かかりつけ薬剤師」への受診を推奨している。改革案では「少額の受診に一定程度の追加負担を求めていくべきだ」とした。
 医療の高度化で医療費が増加する要因となっている新たな医薬品の保険適用については、承認された医薬品全てを対象とするのではなく「安全性・有効性に加え、費用対効果や財政影響などの経済性の観点から」判断することを明記した。

このかかりつけ以外での利用に関するペナルティーと言う話、生活保護に絡んで議論されてきた経緯があることは周知の通りですが、今回は広く全体にかかりつけ医をいわば強制するもので、影響は大きいはずですね。
アクセスの自由を保障する立場に立ってきた医師会としては原理原則論に則って反対すべきか、会員への配慮から容認すべきなのか微妙なところですが、実際にどこがかかりつけになるのかと言うことが問題です。
特に数多くの疾患を抱えた高齢者の場合、一人の医師が全てを診るのは現実的に難しい場合が多いですが、医療費の観点からすれば総合病院よりも市中のクリニックのような施設がかかりつけになって欲しいでしょう。

そうした患者の場合必ず議論になるのが、専門外の基礎疾患を多数持つ患者を一人のかかりつけに押しつければ見落としや過誤も増えると言う危惧ですが、全てにおいて完璧を期せば医療費は増えるばかりです。
特に高齢者の場合どこまでやるかと言う見切りが重要であり、きちんと高齢者医療を理解しているかかりつけの先生なら総合的に判断していらっしゃるはずですが、大勢で診ればその辺りの線引きも難しいでしょうね。
当然ながら国としてもそうした部分も込みでかかりつけが責任を持ってやってもらいたいと言う気持ちがあるでしょうが、ガイドライン全盛の時代にあっては意図的に手を抜いたと言われかねない診療も難しいものがあります。
せっかく後期高齢者医療制度と言うものがあるのですから、高齢者における診療報酬や保険適応の範囲を現役世代とは別枠で設定すれば大部分片付く問題ですが、政治的には難しい判断でもあるのでしょうね。

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2018年10月 9日 (火)

免疫療法がノーベル賞を受賞したと言って回る人々の思惑

先日本庶先生のノーベル賞受賞が大々的に報じられる中、免疫療法免疫療法と連呼されていることに危ういなと一抹の危惧を感じておりましたら、やはりすでにそうした風潮があるようです。

ノーベル賞受賞で相談殺到 誤解してほしくない免疫療法(2018年10月3日BuzzFeed)

日本中がお祝いムードに包まれた京都大学特別教授、本庶佑(ほんじょ・たすく)さんのノーベル医学生理学賞受賞。
その研究成果は、免疫療法の一種であるオプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」開発に結びつき、がん治療に新たな道を開いたと華々しく報じられた。
ところが、研究成果や受賞会見の報道で、患者を含めた一般の人に、免疫療法に対して危うい誤解が広がっているのではないかという懸念が患者団体や医療者からあがっている。
(略)
問題は、臨床試験で効果が証明された「免疫チェックポイント阻害剤」とは別に、効果不明な「免疫細胞療法」なども、「免疫療法」という名前で一括りにされていることだ。
自由診療のクリニックが効果が証明されていない治療を高額な自己負担で行い、患者が標準治療を受ける機会を逸したり、副作用が出ても放置されて体調が悪化したりというトラブルが相次いでいる。
卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表、片木美穂さんのもとにも、一夜明けた2日、「免疫療法をしたら再発しないですか?」と患者から相談の電話があった。ノーベル賞報道を見て、「オプジーボ 再発予防」というキーワードでネット検索し、自由診療のクリニックが再発予防をうたう説明を見たようだった。
「最初の治療として標準治療を受けている最中の人だったのですが、まだ子供が小さいので死ねないと検索して行き着いたようです。これはインチキですと伝えると、とてもがっかりしていました」
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最近では、自由診療のクリニックが、効果の証明されていない免疫細胞療法だけでなく、通常の2~3割の量でオプジーボを投与して副作用が少ないとうたったり、オプジーボと免疫細胞療法を組み合わせて『アクセル+ブレーキ療法』と効果が強化されているように見せかけることもある。
勝俣さんは、保険診療では免疫チェックポイント阻害剤を受けられないがんの患者が、ノーベル賞報道で期待を持ち、適切でない形で免疫チェックポイント阻害剤を提供するクリニックに引き寄せられるのを心配している。
「免疫チェックポイント阻害剤は効果が出るように使うのが難しいですし、副作用に対応するためにも、製薬会社が施設要件や医師要件を定めています。こうした要件を満たさないクリニックでは適正な使い方もしませんし、副作用が起きた時の対応もできません。患者を食い物にしており非常に無責任です」

日本臨床腫瘍学会は、2016年7月に、不適切な施設が免疫チェックポイント阻害剤を個人輸入して、効果が証明されていないがんにも使っていることに注意を促している。
製薬会社も効果不明な免疫細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤を併用し、重い副作用で死亡した患者が出たことを医薬品医療機器総合機構に報告している。
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「オプジーボは万能ではない」患者団体が注意呼びかけ(2018年10月5日朝日新聞)

 ノーベル医学生理学賞に本庶佑(ほんじょたすく)京都大特別教授が決まり、その研究をもとに開発されたオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤に注目が集まる中、全国のがん患者団体でつくる「全国がん患者団体連合会」は5日、これらを含む免疫療法への注意を呼びかける声明を出した。

 声明は免疫チェックポイント阻害剤について、「現状で効果の期待できるがんの種類が限られ、特有の副作用もある」と指摘。一方、科学的根拠が明らかでない免疫療法の情報も広がりつつあり、「一部クリニックで、有効性や安全性を担保できない危険な治療が行われている」とした。
 患者や家族に、不確かな情報に惑わされないよう、主治医らに相談する▽自費診療で行っている免疫療法の情報や、がんが消える、治ったなどの安易な情報に注意▽デメリットについても十分な情報を集める――などを求めている。
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自由診療クリニックなどで長年行われてきたいわゆる免疫療法なるもの、このところ単に有効性が確認されていないと言うだけではなく、その有害性が盛んに言われるようになっていますが、未だにハマる人もいるようです。
様々な理由から標準治療を受けられなくなった患者さんがイワシの頭的に使う分にはいいのでは?と言う意見もあり、実際に一部の真っ当な病院でそうした条件に限って施行もされているようですが、非常に例外的と言うべきでしょう。
ただこうした有効性の確認されていない治療にハマりお金を失い、適切な治療を受ける時間やタイミングも失してしまう例が目立つ点が問題ですが、そこに輪をかけたのが今回のノーベル賞受賞です。
そもそも論として言えば免疫チェックポイント阻害剤と言う名称が誤解を招く恐れがあるなと感じていたところですが、案の定免疫療法免疫療法と言い始めた途端にいわゆる免疫療法が活気付いているようですね。
無論彼らも商売でやっているわけですから、宣伝に使えるものは何でも使って当然と言えば当然なのですが、商売とは別な面から現行の標準治療に噛み付いていらっしゃる方々ももいらっしゃるように見受けられます。

本庶氏ノーベル賞で浮き彫り、医学界の「免疫療法」への歪んだ評価(2018年10月4日ダイヤモンドオンライン)

本庶祐・京都大学特別教授のノーベル賞受賞に日本中が沸く中、にわかに免疫療法が誉め称えられるという現象が起きている。無論、インチキな免疫療法もあるが、エビデンスに固執するがあまりに、免疫療法の持つ可能性を否定してきた日本の医療界は、大きな問題を抱えているのではないか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

「ノーベル賞詐欺」の毒牙にかかる人が現れてしまうのだろうか。
 本庶佑・京都大特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことで、にかわに「免疫療法」に注目が集まっているが、それに乗じて「インチキ免疫療法詐欺」が増加すると一部医療関係者から警鐘が鳴らされているのだ。

 ご存じのように、ネット上には既に、怪しげな免疫療法をうたう自由診療のクリニックが溢れている。キノコを食べて免疫力アップ、水素水でがんが消えたなどなど、本庶氏が発見した免疫を抑制する効果をもつ分子・PD-1などと接点ゼロの「民間療法」だ。
 そんな怪しいクリニックが「ノーベル賞で世界も注目」「あの本庶佑氏も認めた」などとブームに便乗した虚偽広告を行い、がん治療に悩む方たちを餌食にするのではないかというのである。
(略)
 ただ、その一方で、医療関係者の方たちは「あれはインチキだ」「これは怪しい」という詐欺の啓発に力を入れることよりも、もっとやらなくてはいけないことがあるのではないのかという気もしている。
 それは、抗がん剤が効かない患者やその家族に対して、免疫療法という選択肢があるということを説明し、この治療をもっと多くの人が受けることができるよう啓発に務めていただくことだ。
 本庶氏がノーベル賞を受賞してから、マスコミは免疫療法について「最新のがん医療」だと盛んにヨイショしているが、実はちょっと前までは「エビデンスがない治療」と、イロモノ扱いをしていた。
(略)
 例えば、本連載で少し前、東京・有明にある公益財団法人がん研究会「がんプレシジョン医療研究センター」の中村祐輔所長のことを取り上げた(『世界が注目する最先端がん医療が日本では「怪しい治療」扱いの理由』を参照)。リキッドバイオプシーと、ネオアンチゲン療法という、最新の免疫療法を引っさげて、6年ぶりにアメリカから帰国をした中村氏は、こう述べている。
「シカゴにいる間もメールなどで、多くのがん患者やその家族の方からの相談を受けましたが、気の毒になるほど救いがない。原因は国の拠点病院。標準治療のガイドラインに固執するあまり、“がん難民”をつくり出している自覚がありません。こういう人たちが医療界のど真ん中にいることが、日本のがん患者にとって最大の不幸です」(中村氏)

 日本のがん医療では、外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の3つが「標準治療」と定められている。免疫療法は今回、本庶氏の受賞によって掌返しで、「第4の治療」などとおだてられるようになったが、実はがん医療現場ではいまだに、「標準」から大きく外れた「怪しい治療」扱いされているのだ。
(略)
 なぜこんなことになってしまうのかというと、免疫療法は抗がん剤ほどには、「有効性が確立されていない」からだ。薬の「有効性」というのは極端な話、何万人にワッと飲ませたら、そのうち2割には効かなかったが8割くらいには効いた、といった具合にデータを取るという、「統計学」である。
 世界のがん医療の現場では当たり前のように免疫療法の効果が認められ、本庶氏はノーベル賞も受賞したのだが、免疫療法はこの統計上の問題がクリアできていない。なぜかというと、今回の受賞に端を発する”免疫療法ブーム”の中で報じられているように、これは「化学薬品ががんを殺す」のではなく、「個々の人間が持つ免疫ががんを殺す」からだ。

 免疫は個人によって違う。よって、免疫チェックポイント抗体の効き方も当然、個人差が出てくる。そうなると、膨大な数の人に化学薬品を飲ませて経過観察をする大規模治験のように、スパッとイエス・ノーが出ない。「統計上の問題」がなかなかクリアできないのである。。

 そういう理屈を聞けば、免疫チェックポイント抗体に「有効性が確立されていない」というのがかなり不毛な話だということがわかるが、一部の医療関係者はこの「統計上の問題」を取り上げて、「エビデンスのない怪しい治療」とディスってきた。
(略)
 インチキ免疫療法に引っかかる人たちの多くは、抗がん剤が効かず、自分の医師から「免疫療法なんかエビデンスのない怪しいものです」と諭され、誰にも頼れなくなった「がん難民」である。その弱みにつけ込む詐欺師が悪いのは当然だが、ではそこまで患者や家族をまともな判断ができなくなるまで追いつめたのは、いったい誰なのかという問題もある。
 あっちの免疫療法はインチキだ、本庶氏の免疫療法は本物だ、騙されないように気をつけようと触れ回るだけでは「がん難民」を救うことはできない。エビデンスに代表される、「数字で証明できる有効性」のみに固執するのではなく、今そこでがんで苦しむがん患者やその家族に、どうにか手を差し伸べる方法を考えることが、「医療」のやるべきことなのではないだろうか。

内容に関して敢えて論評は避けますけれども、今回の件に限らず何かしら大きなニュースが出るたびに同様の話はよく聞くところで、別に目新しい論点ではないようには感じるでしょうか。
一般論として言えば一方では多くの人に有効と言う治療があり、他方ではごく少数の人にしか効果がないと言う治療があれば前者が標準治療とされるのは当然であり、少なくとも保険診療であればまず前者から使えと言われるのは当たり前でしょう。
それを敢えて後者から始めて見るのは前者が何らかの理由で使えないと言う場合と、その患者に関してだけは明らかに後者の方が効くだろうと言う確証に近い根拠が必要で、それを抜きにして何でも使えるものは使えと言う主張こそ無責任です。

現在進行形で遺伝子の変異などを検索した上でのオーダーメード治療が研究されているところですが、将来的に有効無効の判断基準が明確になった時に、始めて各治療の有効性が本当に明らかになるのでしょう。
ただ本来的にどういう条件であれば効くのかと言った情報は、その治療法を使いたい側に立証責任があるはずで、特定条件下であればどんな治療より効くと言った話であれば喜んで使いたい医師は幾らでもいるのではないでしょうか。

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2018年10月 2日 (火)

国が全国一律の医師偏在指標を設定

医師の働き方改革についてこのところ議論が続いていますが、その前提とも言えるこんな調査が行われるそうです。

医師6000人に勤務状況調査、厚労省、改定結果検証で(2018年9月26日医療維新)

 厚生労働省が診療報酬の観点から医師の勤務状況の調査に乗り出す。「勤務時間」や「診療時間」、「オンコール回数」、「勤務状況を改善する必要性」などについて聞く調査票を1500施設の医師計6000人に配り、協力を求める。2018年度の「診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」として実施する。9月26日、中医協総会(会長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)が同特別調査の内容を承認した。10~11月に調査を実施し、来年1~2月に結果を公表する計画だ。

 同特別調査は、2年に1度の診療報酬改定後に毎回実施している。今年度は、▽かかりつけ医機能等の外来医療▽在宅医療と訪問看護▽医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進▽後発医薬品の使用促進策――の4調査を実施する。
 医師の勤務状況については、2018年度の改定で医療従事者の常勤配置や勤務場所に関する診療報酬要件を見直したほか、「医師事務作業補助体制加算」など医師や看護職員の負担軽減を目的にした点数を充実した効果を検証する。

 「医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進」の調査対象は、「医師事務作業補助体制加算」を算定している医療機関と算定していない医療機関それぞれ750施設ずつ計1500施設を無作為抽出し、調査票を施設と医師個人の双方に配る。医師の対象は1施設当たり4人で、外科系1人、内科系1人、その他2人で構成するよう求める。対象医師数は6000人に上る。
 医師個人に対する主な質問は、(1)医師経験年数や役職、勤務形態、主治医制の状況などを聞く「ご自身について」、(2)1週間の勤務時間、診療時間、事務処理時間や1カ月の当直回数・オンコール回数などを聞く「勤務状況等」(下記参照)、(3)医師の増員状況や勤務間インターバルの導入、予定手術前の当直免除の有無などを聞く「業務とその負担感等」、(4)「病棟薬剤師による業務の負担軽減等」、(5)勤務状況を改善する必要性などを聞く「あなたの勤務状況に関するご意見等」――で構成する。
(略)

正直今さら感が少なからずあるのですが、今回に関して言えば診療報酬との関連づけと言う文脈での調査である点がポイントと言え、今までと同様診療報酬による医療の誘導を図っていく考えなのだろうと思います。
この点で負担軽減に関連する項目を見てみると、基本的に大きな基幹病院を対象にした項目に偏っている印象で、当然そうした大病院ほど多忙な場合が多いわけですが、実態把握と言う点でやや不満も残ります。
調査として考えれば毎回同じ項目で調べなければ改善、増悪の判断もし難いはずですが、むしろ医師の負担軽減と言う点ではこちらのニュースの方が注目に値するのではないかと言う気もしますがどうでしょうか。

医師偏在指標、全国一律に「医師多数区域」「医師少数区域」を設定(2018年9月30日医療維新)

 厚生労働省は9月28日の「医療従事者の需給に関する検討会」の第23回医師需給分科会(座長:片峰茂・長崎大学前学長)で、2019年度から都道府県で策定作業が始まる医師確保計画で設定される「医師少数区域(仮称)」と「医師多数区域(仮称)」を決めるための「医師偏在指標」の計算方法を提示、大筋で合意を得た。診療科別の偏在指標も必要とし、まずは産科・産婦人科、小児科で取り組む考えを示した。

 2018年7月に成立した改正医療法・医師法では、▽新たな医師の認定制度の創設(2020年4月施行)、▽医師確保計画の策定(2019年4月施行)、▽外来医療機能の可視化/協議会における方針策定(2019年4月施行)、▽都道府県知事から大学に対する地域枠/地元枠増加の要請(2019年4月施行)、▽都道府県への臨床研修病院指定権限付与(2020年4月施行)――が予定されている。
 都道府県ごとに策定する医師確保計画では、二次医療圏を基本として「医師少数区域(仮称)」と「医師多数区域(仮称)」を設定し、医師の派遣調整を行うことが求められる。ただし、「医師の確保を特に図るべき地域」の定義には「医師少数区域」だけでなく、二次医療圏より小さい区域で「無医地区」「準無医地区」「知事が厚労大臣と協議の上で定める地域(離島や山間部等のへき地)」も指定できるようにする考えを示している。
 区域の設定に当たっては、全国共通の指標を使って一律に比較し、一定の上位、下位の地区を指定する方針で、その基準は今後、同検討会で議論していく。

 そこで、重要になるのが、「統一的・客観的に把握できる、医師偏在の度合いを示す指標」の導入だ。現在、一般的に使われている「人口10万対医師数」では診療科や年齢分布、患者流出入などが考慮されておらず、統一的な「ものさし」にはなっていないという指摘があった。新たに導入する指標は、医師の性別、年代による労働時間の違いを調整した「標準化医師数」と、人口10万人対医師数をベースに地域ごとに性年齢階級による受療率の違いを調整したもので勘案するというもの。
 計算式については概ね合意が得られ、厚労省は2018年度中に結果を公表する。慶應大学教授の権丈善一氏は「ニーズに基づくのは一歩も二歩も前進。ニーズの代理指標は人口と年齢がベースになり、同じ年齢の人たちは、どこに住んでいても同じアクセシビリティを保障していこうという考え。標準的な平均値が普通で、そこから外れる地域は、挙証責任として理由を言ってもらうようにすべき」と指摘した。聖路加国際大学学長の福井次矢氏は「理想的な分布、受療行動をグランドビジョンとして考えていただき、理想に向けての働きかけも必要」と述べた。厚労省は「基本的には全国均一の受療率があり得るべきものとして平均化する。それが理想かどうかは難しいところだが、過剰な受療行動があれば是正しなくてはならない」と説明した。
(略)
 同検討会では、医師偏在指標以外についても、医学部における地域枠、地元出身者枠の在り方、外来医療提供体制、医師少数区域勤務認定制度などについても議論し、2019年3月までに取りまとめる予定。
(略)

これも印象レベルの議論で徳島では医師が余っているとか言っていても仕方がないことなので、具体的な数字比較が出来ることにこしたことはないのですが、不足だけではなく過剰な受療行動の是正云々もポイントでしょうか。
具体的な計算式の内容がわからないので何とも言いがたいのですが、都道府県毎に地理的要因の影響も大きく、県土の広さや交通網の整備度合い、雪など自然災害の有無など様々な要因が絡みそうです。
ただそうは言っても地域医療構想は都道府県単位で策定されるものであり、県内での医師分布を検討する上では有用な指標になる可能性がありますが、問題は偏在をどう解消するのかと言う方法論です。

僻地に医師が少ないからと強制配置をしようと思えば当然反発も大きいのですが、自治体の権限が及ぶ医師派遣や病床数コントロールでどれだけ対応出来るのか、診療報酬のあり方にまで踏み込むべきなのかです。
ちょうど先日は聖地奈良県が県内の診療報酬一律カットを主張していましたが、地域内での医師配置是正を図る上で診療報酬の柔軟な設定が有効な可能性もあり、主体的に決めたい自治体もあるでしょう。
他方で都道府県単位を越えた医師偏在の是正はどうすべきかですが、偏在是正とはつまりは医師の引き抜き合戦であるとも言え、余っているからと医師を引き抜かれていく側にとっては全くありがたくない話ですよね。
医師が減ることによるデメリットの軽減や、そもそも医師が少ないほどメリットが大きくなる提案などが為されない限り、地域内であれ地域間であれ偏在是正とはそれなりに大きな騒動の火種になりそうには思います。

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2018年10月 1日 (月)

患者が来院しない場合、来院しても検査レポートが出ていない場合

以前から疑問に感じるところであったのですが、ちょうど医師免許を持つ弁護士として著名な田邊昇が関連した話題で記事を書いていたので紹介してみましょう。

偶発腫瘍を見逃したら法的責任を問われる?(2018年9月28日日経メディカル)より抜粋

(略)
 さて、本論とは少しずれるかもしれないが、医師は予約日時に来ない患者に、いちいち連絡する義務があるのかどうかを考えてみたい。
 私の担当事件で、腹部CTで膵臓癌の疑い所見があった患者が受診をすっぽかして診療が遅延した事案では、医師側の無責前提で和解をしたことがある。

 裁判例では高松高裁平成28年11月30日判決(判例秘書搭載)がある。これは集団検診での胸部の結節影の増大を認識した医師が、患者に影が増大していることを説明。放射線科専門医の読影を待って詳細を説明することを伝え、ゴールデンウィークを挟むため、3週間後に予約を入れて受診するようよう指示をした事案だ。
 裁判所は「医師のかかる説明は、通常人が、医師から放射線科専門医のCT画像の読影を踏まえた診断結果についてさらに詳細な説明を受けるために再診が必要であることを理解するに、十分で適切な内容のものというべきであって、医師に説明義務違反や過失は認められない。また、医師は、亡患者に対し、肺癌の可能性が疑われることを説明していないが、放射線科専門医の読影結果を待って、あるいは、さらに検査のしかるべき段階でより確定診断に近づいた判断が判明するのを待って説明すれば足り、疑診を告知することによって患者の不安をいたずらにあおる必要はないというべきである」と適切な判示をしている。

 だが控訴人(患者側)が、主治医が放射線科専門医の読影結果を確認し、かつ患者が再診予約を入れていないことを認識した時点で、来院しない患者に対して電話を掛けるなどの方法で再診を促すことを試みるフォロー義務があると主張する点に対しては、「医師が、本件精密検査の際、再診が必要であることを通常人が理解できるような十分で適切な内容の説明をしたと認められ、また、放射線科専門医の目から見ても画像診断だけでは肺癌か否かの判断はつかないものと判断したものであり、…(中略)…状況の変化は見られず、相当の緊急性が認められるような病状ではなかったものと認められるのであるから、再診のために来院しない患者に対し、再診を促すことを試みるなどの何らかの積極的行動を行うまでの法的義務があるとまではいうことはできない」としている。
(略)

後日の再診を指示していながら患者が現れないと言うケースは決して少なくないと思うのですが、風邪など明らかに一過性の症状で受診した場合などは軽快して来なかったのだなとスルーする場合も多いでしょう。
ただ検査結果を説明すると言う場合、当然ながら説明し今後どうするかも判断させるべきなのでしょうが、健診精査で受診し異常なしと言ったケースでは紹介元に報告書を送っておけばいいかと流す場合もありそうです。
ただ検査結果で何かしら気になる点があった場合、後日日を改めて受診するまで黙って待つべきか、それともこちらから電話連絡等すべきなのか、異常の程度なども含めしばしば悩ましい場合もありますよね。

記事に示されている髙松高裁のケースでは、医師は患者側に適当な時期に再診するよう指示したと言うことですので、具体的にいつ受診しろと指示したわけではないと言う言い訳が成り立つ余地がありそうです。
ただ昨今では多くの病院で電子カルテシステムが導入されていますが、この場合担当医がその場で次回予約も入れ、そして当日受診しない患者は即座に判ると言う点で少しばかり昔とは事情が変わっていますよね。
無論重大な異常が疑われる場合は電話入れておこうと言う気になるでしょうが、多忙さ故に来院されない患者のカルテまでは詳細には確認しないと言う先生の場合、他科のレポート等を見逃す可能性もありそうです。
知っていた異常をスルーしたと言うならともかく、そもそも見ていない情報についてまで責任を問われるのかが気になりますが、仮にそこまで責任を持ってチェックせよとなった場合さてどこまで責任を負うべきなのかです。

昨今は検査レポートなどもダブルチェックをすべきと言う建前が広まっていますが、直接の検査担当者がひとまず一次所見をつけ、後日改めて上級医が再度確認し最終所見をつけると言ったことも行われていますよね。
急ぎの場合などひとまずさっと一次所見だけを見て診療をしている先生も多いと思いますが、後日の最終レポートで全く別の所見が付けられていた場合にいつ誰がそれを確認し患者に伝えるべきなのかでしょう。
本来全ての所見が確定してから患者に説明すべきだと言われればその通りですが、患者来院日までに所見が揃っていない場合上級医にさっさと所見を付けろと急かすのか、急かせばすぐ所見が付くのかどうかです。
検査施行後○日までに必ず最終レポートを返すと言った約束でもあればいいのですが、長期出張などで不在となって所見が遅れると言った場合もあって、各施設でどのような工夫がなされているものでしょうかね。

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2018年9月27日 (木)

病院の儲けにならない行為は全て自己研鑽と言う驚くべき主張

このところ医師の働き方改革が議論されている中で、今なお抵抗勢力が必死の抗戦を続けている様子が報じられていましたが、見ていますとびっくりするような主張が平然となされているようで驚きます。

「急速な働き方改革で医療崩壊、誰が責任を取るのか」医療部会、病院団体トップから懸念の声も(2018年9月26日医療維新)

 厚生労働省の社会保障審議会医療部会(部会長:永井良三・自治医科大学学長)は9月26日、同省の「医師の働き方改革に関する検討会」の検討状況について議論、病院団体の代表者からは、「働き方改革を急速に進めて、医療現場が崩壊した時に誰が責任を取るのか」(日本精神科病院協会会長の山崎学氏)など、医療提供体制の維持を念頭に置いて、改革を進めるよう求める意見が相次いだ

 山崎氏は、労働基準監督署の立ち入り調査を受けて、土曜日の外来診療など診療時間の縮小を実施した聖路加国際病院の例を挙げて、働き方改革を急速に進めることで、医療現場が崩壊することに懸念を呈したほか、「今まで医師の過重労働の中で、医療現場が回っていた。労働量を少なくすれば、それに代わる人を配置しなければ、医療は成り立たない。医師不足、かつ後期高齢者が増え、医療ニーズが増えていく中で、その関連について議論しているのか」と質した。日本医療法人協会会長の加納繁照氏も、山崎氏の意見を支持、医師の働き方と医師需給の問題を関連させて議論することが必要だとした。
(略)
 日本病院会会長の相澤孝夫氏は、「今の議論で抜けているのは、次の時代を担う若い人を育てていかなければならないという視点だ。机上ではなく、実際に患者を診て、指導していくことが大事で、そのために皆が時間を使っていることを忘れないでほしい」と訴えた。例として専門医取得のための経験症例数を例に挙げ、「(勤務時間外に)経験すべき症例の患者が来た時に、その患者を診るのは強制か、自己研鑽かだが、その中間になるのだろう」と相澤氏は述べ、労働時間と自己研鑽を切り分ける難しさを指摘した。

 山崎氏は自己研鑽についても発言。「病院は、医師と労働契約を結んでいる。病院の収入に直結しない行為は契約外であり、自己研鑽に当たるのではないか」との考えを述べた。

(略)
しかし全国各地の基幹病院で土曜診療をしているところはむしろ少ない方ではないのかと言う印象を持っていたのですが、聖路加が土曜診療の縮小をしたことが医療崩壊の象徴になるとはちょっと予想していなかったですね。

病院の収入に直結しない行為は契約外であり自己研鑽にあたるとはまことに卓見であると言うべきですが、この筆頭が無意味で無駄な会議やカンファレンスと称される行為になるのでしょうかね。
記事中にある山崎氏にしろ相澤氏にしろ同族経営の病院理事長と言う立場であり、当然ながら勤務医を労基法無視で安くただ働きさせることの利益が大きい方々ですから、立場上こうした見解は予想されることです。
ただ問題はこうした方々の意見ばかりが医療業界の声として取り上げられ、当事者が求めているのだからと働き方改革が後退していく事態で、メンバー選定を見れば出来レースと言う批判も出来る話ですよね。

こうした業界団体の抵抗勢力化に対し、元内科医の平岡諦氏は日医の態度を批判し勤務医の脱退を呼びかけ、「過労死ラインを超えて、医療安全は守れない」をスローガンに掲げるべきと主張しています。
そもそも論として日医に加入する意味があるのかと言う議論は置くとしても、厚労省がこうした方々の意見ばかりを聞いて議論を進めようとするのであれば、働かされる立場の現場医師はどう考えていくべきなのかです。
医師は労働者としては強い立場であり、もっと権利を主張すべきであるとは言われるところですが、周囲が必死で働いている中で自分だけ労働の制限を主張するのは気が引けると言う方も多いのでしょう。
昨今流行りの女性医師問題に絡めて男女差別なく労働環境改善を図るであるとか、労基署に告発するなど様々な方法論はありますが、ひとまずもっとも手っ取り早いのは逃散と言うのは今も世の真理なのでしょうか。


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2018年9月25日 (火)

講義室内でどこに座るかにはそれなりの意味があった模様

本日はどうでもいいような話と言えばその通りなのですが、先日見かけた面白いニュースを紹介してみたいと思います。

大教室で座る席が学業成績に影響する?大学生と講師を対象に調査(2018年9月10日国際医学短信)

 米国の学校では新年度が始まったが、この秋に大学に入学した新入生たちは、これから大きな講堂で日々の大半を過ごすことになる。その際、どの席に座るかが最終的な成績を左右する可能性があることが、英シェフィールド・ハラム大学のDavid Smith氏らの研究で明らかになった。この研究結果は「FEBS Open Bio」8月21日オンライン版に発表された。

 Smith氏らは今回、生体医科学と生化学、生物学などの学科で学ぶ1年生154人および2年生151人と講師23人を対象に、質問票を用いた調査を行った。学生には質問票に記載された講堂の図面に、自分が座った席に印を付けてもらい、その座席を選んだ理由を記入してもらった。講師にはそれぞれの学生について学業の達成度を評価してもらった。

 その結果、127人の学生が「友人と一緒に座りたい」という理由で、また151人の学生が「講師が良く見える位置で話をはっきりと聞きたい」という理由で座席を選んでいた。また、「講義に積極的に参加したい」と回答した学生が9人いた一方で、「講師との関わりを避けたい」と回答した学生も同数いた。このほか、「いつでも離席できるよう隅の方の席に座りたい」と回答した学生が43人いた。

 さらに、友人同士で固まって座っている学生は、講義の内容に関する課題解決型のテストの点数が同程度であることが分かった。一方、隅の方の席に一人で座っている学生の点数は平均よりも低かった

 ただし、この研究では座席と学業成績が関連することが示されたが、因果関係が証明されたわけではない。それでも、Smith氏は同誌のプレスリリースで、「この結果は大学の講師が不安感の強い学生に手を差し伸べ、学生同士の交流を促す一助となるものだ」と強調する。また、「学業において学生同士の交流は重要だ。学生たちが誰と交流しているかを講師が知ることは、講義内容を計画する上で有益な可能性がある」と説明している。

 さらに、Smith氏らは論文の中で「この研究では学生が身体的または精神的、社会的に居心地が良いと感じる座席を選ぶことが分かった。このことは尊重されるべきだ。もし講師との直接的な交流に対する不安感から逃れるために後方に座っている学生がいても、無理やり前方の席に移動させることで得られるメリットはないと考えられる」と指摘する。その上で、同氏らは、学生には自分で好きな席を選ばせながら、不安感を抱かせずに講義に積極的に参加してもらえるような方法を取り入れることを提案している。

スミス先生の元論文の方もオンラインで公表されているので興味のある方は参照いただきたいと思いますが、これもちょうど毎年この時期になると発表されるあの賞向けのテーマとも言えるのでしょうか。
ちなみに日本人は今年で何と11年連続イグノーベル賞を受賞しているそうですが、受賞者数自体はアメリカが最多であるものの人口比で見ると日本とイギリスの二国が世界的にトップを競っているのだそうです。
同賞創設者のマーク・エイブラハムズ氏はこうした状況を「日本とイギリスは、奇人変人であることを誇りとする国」と評したそうですが、歴史と伝統ある大英帝国はともかく日本としては妙な風評は否定したいところですね。

そうした事情はさておき、多くの学生が講義室内で座る場所はおおむね決まっているものであり、多くの場合それなりの理由付けもあるのだと言うのは実体験に則しても首肯できる結果ではないでしょうか。
日本とアメリカでは医学講義の位置づけもまた異なるのでしょうが、おおむね半数の学生が勉強に向いていると言う理由で席選びをしていると言うのは前向きな結果であり、成績の良い学生が多そうな気はしますよね。
対照的に隅っこに一人ぼっちで座っている学生が成績が低いと言うのもまあそうなのだろうなと思うのですが、無理矢理前の席に座らせても意味が無いと言う指摘はおそらくぼっち学生にはありがたいものだと思います。

興味深いのが友人同士で固まって座っている学生達はテストの点数も似通っていたと言う結果ですが、同程度のレベルの学生だから話が合うのか、グループ内で一緒に勉強するからなのか等々様々に想像されます。
グループ学習のような形で集団を対象に学力を引き上げる手法が効率的なのかとも思うのですが、いずれにせよ「講義に積極的に参加してもらえる」ような興味深い講義をしていただきたいものだと思いますね。
とある大学の解剖学講座では普段は閑古鳥が鳴いていた講義室が女性生殖器を扱う日だけは例年満席となり、最前列に普段ほとんど姿を見せない幽霊学生がずらりと並んでいたと言う伝説もあるやに聞きます。
さすがに今の時代ですとセクハラなどと言われかねませんが、教員が熱意ある講義をすれば学生も感じるものですし、日本の大学でも研究だけではなく教育のスキルも評価する人事体系が求められるところです。

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2018年9月21日 (金)

産科無過失補償制度、報告書の公開を停止した理由

本日の本題に入る前に、医療訴訟と言うものも一時ほど大々的に取り上げられることがなくなった印象ですが、先日こんな記事が話題になっていました。

東京高裁が1審覆し約1250万円の支払い命じる 外来患者自殺で開業医有責、現場で高まる懸念(2018年9月18日日経メディカル)

 統合失調症の患者が自殺したのは主治医が適切な対応を行わなかったためだとして、遺族らが精神科開業医を相手取って起こした訴訟で、東京高裁が医師側の責任を認める判決を下した。患者側の訴えを棄却した地裁判決を覆す内容で、開業医は上告。現場からは、医師に過大な義務を課すものだと批判する声も出ている。
 「多くの通院統合失調症患者の診療に携わっている私たちとしては、この二審判決に重大な危惧を禁じ得ません。そもそも統合失調症は自殺に至るリスクの高い疾患です。(中略)私たちは、この状況で、医師の責を問うのは、きわめて過度であると感じます。こうした判決は、私たちのような医療者の実践を萎縮させます」
 これは、2018年3月に日本精神神経科診療所協会が出した声明文だ。文中にある「二審判決」が東京高裁で下されたのは2017年9月28日のこと。精神科開業医の注意義務違反を認め、損害賠償約1250万円の支払いを命じた

 事件の概要はこうだ(表1)。日本在住の中国籍の女性患者A(1971年生まれ)は2001年6月、都内で開業する医師Bのクリニックに通院するようになった。
 医師Bは、Aを統合失調症と診断し、抗精神病薬を処方していた。2007年8月には長野県に転居。その後は医師Bのクリニックに通院することは少なくなり、Bは主にAの夫Cから症状を聞いて、薬剤を処方するようになった。
(略)
 そんな中、6月8日にAの幻聴が悪化。2日後の6月10日、Aはマンション6階から飛び降り、死亡した。

 夫Cは医師Bを被告とし、自殺予防のための緊急措置を取らなかった過失や、抗精神病薬を整理・減量化したことの過失などを主張し、慰謝料の支払いを求めて提訴。2016年2月17日の長野地裁判決では、Aの自殺再企図の可能性は精神科病棟への入院を要する「高度な危険性」とまではいえず、精神科外来における頻回・継続的な治療による対応も許容されるとして、自殺予防のための入院措置に関する注意義務違反は否定。Cらの請求を棄却した。
 だが、その後の東京高裁の控訴審では、Aの自殺防止における医師B、夫C双方の注意義務違反を認め、過失の割合を2:8とした。前述の医師Bの1250万円という損害賠償額は、この過失割合により算出したものだ。
(略)
 自殺と過失の因果関係について夫Cらは、争点1、2の注意義務違反(過失)がなければAは自殺することはなかったと訴え、自殺と過失に因果関係があると主張した。これに対し医師Bは、夫CがAの強い希死念慮をメールで訴えた5月28日の時点で仮に抗精神病薬の増薬を指示したとしても、抗精神病薬の効果発現には通常2~4週間を要すると指摘。6月10日のAの死亡までに抗精神病薬の効果が発現するには時間が足りず、Aの自殺との間に因果関係はないと主張した。また、5月28日から6月10日までの13日間は、Aの近親者で対応可能であったほか、そもそも「医師Bが夫Cに病院での診察を指導していれば自殺をしなかった」という関係すら認められないなどと訴えた。
 これに対して裁判所は、抗精神病薬の効果発現までに通常2~4週間を要するのであれば、併せて監視体制や入院措置で自殺を回避すべきであり、注意義務違反と自殺との間に因果関係がないとはいえないと判断。さらにAに対する診療態勢、監視態勢と入院措置などの不備がAの自殺を招き、Aの自殺はBとCの自殺を回避すべき注意義務違反が競合することで発生したと認めた。

 今回の控訴審判決に対し、医師側の代理人弁護士の成田茂氏(日比谷共同法律事務所)は、裁判所の過失の解釈に疑義を呈する。「通常の裁判では、過失の『具体的行為』を記載してその行為を行ったこと、もしくは行わなかったことの過失を判断する。これに対し、控訴審判決は注意義務違反のある具体的診療行為を特定せずに、『Aに対する診療態勢、監視態勢と入院措置などの不備』というあいまいな概念だけで注意義務違反を肯定した」と指摘。具体的診療行為について注意義務違反の存否を論じる必要があるとする判例の考え方から逸脱しており、診療行為における過失の解釈に重大な過誤があるとしている。2018年3月に、上告する旨を記した書類を最高裁に提出した。
 では、現場の精神科医はどう捉えたのか。精神科の開業医として30年以上のキャリアがあり、数多くの統合失調症患者を診てきたある精神科医は、「外来診療で、患者の自殺に対する医師の責任を問われたことに非常に驚いた」と話す。「外来診療では、医師が四六時中患者を観察できるわけではなく、どちらかというと患者家族の監督責任が大きい」と考えるからだ。
 夫Cは、外来診療で抗精神病薬の調整を行うのは極めて困難で、医師BがAに対して入院を指示し、病棟の医師と連携するべきだったと主張したが、この医師によると希死念慮がある患者をクリニックで診るのは珍しいことではないという。「当クリニックの患者のうち多少とも希死念慮のある患者は2割くらい。外来でも抗精神病薬によりある程度コントロールできる」と話す。
 そのため同医師は、「今回のケースでは入院の選択肢を患者家族に提示しているのは適切な対応ではないか」とみる。また、前述の争点1で問われた投薬などの診療内容についても、「判決文を見る限り、問題はないように見える」と話す。

 医師、弁護士で浜松医科大学医療法学教授の大磯義一郎氏は、今回の判決が精神科の診療にマイナスの影響を与えることを危惧する。責任を問われることを懸念して、外来で希死念慮のある患者を診療することを避けるなど、現場が萎縮してしまうのではないかというのだ。過去の判例では、入院中の患者の自殺で病院の管理体制の不備などによる責任が認められたケースはあるが、外来患者が自殺した事例(9例)で責任が認められた例は、特殊な事例を除き、これまでなかったと指摘する。自殺リスクが高い外来患者に対し、主治医は入院措置などを講じる責任があることを初めて示した判決となった。
(略)

治療経過として妥当なのかどうかは何とも言いがたいのですが、ちょうど先日は北里大学の精神科教授が市中病院・開業医は外来対応可能なケースでも入院させたがると苦言を呈している記事が出ていました。
こうした記事が出るくらいですから不安だから入院対応、高次医療機関紹介と言った対応がかなり頻繁に行われているのでしょうし、言ってみれば現場でのリスク管理の意識はかなり滲透していると言うことでしょうか。
そんな中で市中開業医としてかなり頑張った結果がこうした悲劇的な結末に至ったのだとすれば報われない話ですが、ともかくも不幸にしてお亡くなりになった患者さんのご冥福を祈るしかありませんね。
さて話は変わって、2009年に開始されたのが産科無過失補償制度ですが、その運用に関連して気になる側面が出てきていると言う話を、医療訴訟のベテランである井上清成弁護士が先日訴えていたそうです。

産科医療補償制度の「要約版」、なぜ公表停止?日本産婦人科協会シンポ、「重度脳性麻痺訴訟の提訴は急増」(2018年9月9日医療維新)

 一般社団法人日本産婦人科協会のシンポジウムが9月8日、「日常診療に必要な法的対策を考える」をテーマに開催された。弁護士の井上清成氏は、産科医療補償制度をめぐる最近のトピックスとして、日本医療機能評価機構が原因分析報告書の「要約版」のホームページ上での公表を8月1日から停止したことを紹介した(同機構のホームページを参照)。公表停止自体は一定の評価をする一方、井上氏は2009年1月の制度開始から10年目に入った同制度の後半期は、前半期に比べて「重度脳性麻痺訴訟の提訴は急増している」と警鐘を鳴らした。

 井上氏は、2017年5月30日の改正個人情報保護法の施行に伴い、「要約版」の公表については、妊婦等から明示的な同意を得る必要が生じたが、現在の産科医療補償制度では同意を得ていないことが公表停止の理由であると説明。井上氏は、同機構が改正法施行から1年2カ月、放置していたことを問題視した。
 「要約版」を公表された分娩施設は、匿名化されても特定し得ることから、産科医らが精神的なダメージや風評被害を受けるケースもあり、日本産婦人科協会は、事務局長の池下久弥氏らが中心となり、かねてから公表を問題視してきた(『産科医療補償制度、訴訟の増加を招く』などを参照)。ようやく公表停止になったことから、井上氏は「産科医療補償制度の失われた10年」と称した。
(略)
 原因分析報告書作成後、カルテのコピー等を廃棄すれば、「要約版」は「要配慮個人情報」に該当しなくなる。「要約版」の公表は、再発防止が目的の一つ。「再発防止だけを考えたら、カルテのコピー等を分娩施設に戻したり、廃棄すればいい。しかし、同機構が廃棄等をしないのは、“リピーター”の分娩施設を特定するなどの狙いがあるからではないか」と井上氏は見る。
(略9
 一方で、「一般には、重度脳性麻痺の訴訟は、産科医療補償制度により減少していると流布されているが、何の根拠もない。日本医療機能評価機構も、『産科の訴訟は減少』と言っているが、『重度脳性麻痺の訴訟が減っている』とは言っていない」(井上氏)。

 「重度脳性麻痺訴訟の提訴は急増」の根拠としたのは、2013年11月27日の日本医療機能評価機構産科医療補償制度運営委員会「産科医療補償制度の見直しに係る報告書」と、日本産婦人科医会会報の2018年5月号の掲載データ。補償対象事例のうち重度脳性麻痺に関する紛争(損害賠償請求事案)は、(1)制度の前半期(2009年1月から2013年5月末までの4年5カ月)は33件、うち提訴事案は17件、(2)制度の後半期(2013年6月から2017年12月末までの4年7カ月)は64件、うち提訴事案は34件――と、約2倍になっている。
 最高裁判所のまとめによると、2000年代に入り、医療訴訟の新規提訴件数は増加、2003年1003件、2004年1110件と2年連続で1000件を超えたが、2005年以降は減少傾向にあり、今は700~800件台で推移している。産婦人科に限った新規提訴件数は公表していないが、既済(裁判が終了)件数は、2009年から2013年までの5年間は370件、2014年から2017年までの4年間は216件で、4割弱減っている。
 「医療訴訟全体のトレンドとして、件数が減っている中で、産科医療補償制度が浸透した後半期になって、重度脳性麻痺の訴訟件数が増えている」と井上氏は指摘。そもそも産科医療補償制度は、「紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上」にあることから、制度の改善策を講じる必要性を指摘した。
(略)

無過失補償制度に関しては一つには報告書が公開されることから再発防止と言う目的が形骸化するのみならず、場合によっては責任追及に転用されるのではないかと言う懸念が当初から指摘されていました。
この点で重度脳性麻痺の訴訟件数が増加しているのは憂慮すべき事態ですが、他方で全体としての訴訟件数は減っているという点をどう解釈すべきかで、好意的に取れば補償制度が機能している可能性があります。
ただ患者や遺族側にとっていわば訴訟の窓口にあたるのが弁護士ですが、当然ながら弁護士としても勝てる見込みがない裁判を勧めるとは思えず、この点で報告書が一つの判断材料になる可能性はありますね。

経過を知っている患者側からすれば、自分達のケースだと同定することはかなりの確率で可能であるとも思われますが、関連して記事にもあるように制度が浸透し始めてから訴訟が増えていると言う指摘が気になります。
要するに患者サイドがこうした報告書があることや、その活用法について学んだ結果訴訟が増えているとなれば制度本来の趣旨とはかけ離れた話であり、報告書の公開停止もやむなしと言うしかありませんね。
また医療訴訟の件数の増減だけではなく、原告勝訴率すなわち医療側敗訴率がどうなっているのかも気になりますが、いずれにせよ健全な制度運用にあたっては弁護士サイドの立場も極めて重要でしょう。

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2018年9月18日 (火)

終末期医療、手段としての議論は進む一方で

先日ちょっとした話題になっていたのがこちらのニュースです。

がん3年生存率71% 膵臓は15%、高齢者も課題 国立センターが初集計 治療効果、早期に把握(2018年9月12日共同通信)

 国立がん研究センターは11日、2011年に全国のがん診療連携拠点病院でがんと診断された患者の3年後の生存率は、がん全体で71・3%だったと発表した。3年生存率をまとめるのは初めて。継続的に分析することで、新しい薬や治療の効果を早く把握できるようになり、がん対策に活用できるとしている。
 膵臓(すいぞう)がんの3年生存率が15・1%にとどまるなど、5年生存率が低いがんは3年でも低い傾向がみられ、がんの治療法開発が課題として改めて浮かび上がった。また高齢がん患者では、持病などがん以外の病気で死亡する例が多いと考えられることも判明。全身状態に配慮したきめ細かい治療体制の確立も求められる。

 拠点病院のうち268施設の患者約30万6千人を分析。主要な11種類のがんについて、がん以外の死亡の影響を取り除いた「相対生存率」を算出した。治療成績を評価する指標として同センターはこれまでに5年や10年生存率を発表しているが、3年生存率は短期間で集計できる利点がある。
 種類別は、肺がんが49・4%、食道がんが52・0%、肝臓がんが53・6%と比較的低い結果となった。一方、前立腺がんは99・0%、乳がんは95・2%、子宮体がんは85・5%と比較的高かった。
 08~09年に診断された患者の5年生存率も公表。全体の生存率は65・8%で、08年単独集計の65・2%と比べるとほぼ横ばいだった。詳しく調べると、患者の約半数を占める70歳以上では、がん以外の死因が多いことが分かった。心臓病や糖尿病などの持病のほか事故が原因と推測される。
(略)

当然ながら膵臓癌のように発見された時はすでに進行しているケースが多い癌では生存率は低くなるのだろうし、胃や大腸など早期発見早期治療が増えている癌では非常に好成績になるだろうとは予想出来ます。
単純に記事に挙げられた数字だけを比べてもあまり意味がない話ですが、強いて言うなら癌と言っても今や結構長生きする時代になったのだなと言うことで、癌と言われれば直ちに死を覚悟と言うものではないわけです。
無論手術で癌を取りきって経過観察している状態の患者と、進行した癌を抱えながら日々治療を頑張っている患者では全く話が違うとは言え、後者の場合も今や年単位の余命は珍しくない時代ではありますね。
ただそうは言ってもやはり月日が経ち状態が悪化していくにつれ、いずれは終末期へと至る患者もいらっしゃるのは事実なのですが、先日終末期医療に関してこんな記事が出ていました。

<終末期医療>延命中止、意思確認に力点 自民、新法検討(2018年9月16日毎日新聞)

 自民党は、終末期医療のあり方を規定した新法作成の検討に入った。終末期医療を巡っては2012年に超党派の議員連盟が尊厳死法案をまとめているが、本人の意思に反して延命措置が中止されることへの懸念が根強い。同党は、法案を抜本的に見直し、継続的に本人の意思を確認するなど手続きに力点を置いた新たな法案への練り直しに着手。与野党各党の賛同も得て早ければ来年の通常国会への提出を目指す。【酒井雅浩】

 末期がんや老衰により回復の見込みがない患者に対し、人工呼吸器の装着や人工透析などの延命治療を施すのは、患者の苦痛や家族の介護負担などを考慮すると必ずしも患者のためにならないとの考え方がある。一方で、現行法では医師の延命措置の中止が刑事責任を問われる恐れもあり、医療従事者を中心に法整備を求める声が出ていた。
 12年の法案は「終末期」について患者が適切な医療を受けても回復の可能性がなく、死期が間近と診断された状態にある期間と定義。延命措置を中止できるのは、患者が書面などで意思を表示している場合とした。ただし、この規定に従わずに延命措置を中止することもできるとしている。

 だが、終末期患者の7割は、意識不明や認知症などのため自分の意思が伝えられないとのデータもある。障害者の団体などからは「意思を示すことができない患者が尊厳死に追い込まれるのではないか」などの懸念が示された。法案は国会提出に至っていない。
 そこで、自民党の終末期医療に関するプロジェクトチームは8月29日の会合で、法案をゼロベースで見直すことを決めた。

 近年、医療現場では、最期の迎え方を患者本人と家族、医師らが継続的に話し合う「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)の取り組みが進んでいる。継続的に話し合うので本人の意思の変化も反映できる。
 同党は新法案にACPの考え方を盛り込み、患者の意思決定のあり方の透明化を医療現場に促し、国民の理解を得たい考えだ。

この問題、ここ数年で各種ガイドラインが登場するなどかなり話が進んできた印象がありますが、患者サイドから求めがしばしばあったのに対し、医療側は法的責任追及を恐れ延命処置中止を渋る構図がありました。
医学的に明らかな終末期であり、当事者がいずれも延命的処置中止を望んでいる場合、それを可能にする裏付けに関して指針なり立法なりがあれば助かると言うのが多くの臨床家の実感ではないかと思います。
無論進歩的な団体の方々による根強い反対論に加え、いわゆる遠い親戚問題など現場が乗り越えるべきハードルは多いにせよ、全ての関係者が一致して求めている場合にも出来ないと言うのでは困りものですね。

ただこの問題に関しては本質的には患者の権利問題であり、議論の本筋もそうあるべきではあるとは言え、2012年頃から具体的な議論が進み始めた背景には医療費増加や医療崩壊の問題があることも否めません。
終末期と言えば当然ながら極めて状態が悪い重症患者であり、延命処置を続けるならばそれなりの医療リソースを投じる必要がありますが、その結果より必要性の高い患者に医療が行き届かないのでは問題です。
医療の供給量が限られている以上、個人レベルにせよ社会レベルにせよ一定程度の歯止めは必要で、出来ることは何でもやってくださいは通じなくなってきている時代ですが、では誰がその選別をするのかですね。
ひとまずは議論の余地なくと言う場合からの限定的な運用になるにせよ、あるべき医療の提供体制とはどうあるべきかと言う議論も平行して行っていかないと、結局現場が困ると言う構図はあまり変わらない気がします。

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