心と体

2017年9月25日 (月)

「医師は労働者ではない」と言うトンデモ主張、全く相手にされず終了

先日紹介しましたように、今後の医師の労働環境を考えていく上でいわば叩き台を打ち出すことを期待されている厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」が開催されているのですが、なかなか興味深い流れになっているようです。

「医師は労働者」は自明、「高プロ」も対象外(2017年9月21日医療維新)

 厚生労働省は9月21日、第2回「医師の働き方改革に関する検討会(座長:岩村正彦・東京大学大学院法学政治学研究科教授)」を開き、今後の議論の進め方や論点を整理した。10月~12月にかけて、「医師の勤務実態について」、「勤務環境改善策について」、「働き方と医療の質や安全性、健康との関係」などについて議論し、2018年1月に中間整理をまとめて「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」の議論に反映。
 以降は具体的な医師の働き方改革について検討し、2019年3月を目途に、最終的な報告書を取りまとめる予定(第1回会議は『医師の時間外労働の上限規制、年明けにも中間整理』、医師需給分科会は『勤務医・開業医の地域別の多寡、「指標」で見える化』を参照。資料は、厚労省のホームページ)。
 21日の議論では、医師は労働者か、一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の対象かなどの質問が構成員から出た。これに対し、岩村座長は、「労働基準法上の労働者であることは争う余地がない」としたほか、「医師の仕事は『高度』で『プロフェッショナル』なもの」としたものの、勤務形態などから高プロには該当しないと回答した。今後、これらを前提に議論が進められる見通し

 厚労省が提示した主な論点は次の通り。

1.医師の勤務実態の正確な把握と労働時間の捉え方
・医師の勤務実態の精緻な把握
・労働時間への該当性
・宿直業務の扱い
・自己研鑽(論文執筆や学会発表等)や研究活動の扱い

2.勤務環境改善策
(1)診療業務の効率化等
・タスクシフティング(業務の移管)、タスクシェアリング(業務の共同化)の推進
・AIやICT、IoTを活用した効率化
・その他の勤務環境改善策(仕事と家庭の両立支援策等)の検討
(2)確保・推進策
・医療機関の経営管理(労働時間管理等)の在り方
・勤務環境改善支援センター等の機能強化
・女性医師の活躍支援
・その他勤務環境改善のための支援の在り方

3.関連して整理が必要な事項
・医師の応召義務の在り方
・病院の機能、医師の偏在、へき地医療等、適切な地域医療提供体制の確保との関係
・医師の労働時間の適正化に関する国民の理解

4.時間外労働規制等の在り方
・時間外労働規制の上限の在り方
・医療の質や安全性を確保する観点からの勤務の在り方
・適切な健康確保措置(休息・健康診断等)の在り方
(2017年9月21日医師の働き方改革に関する検討会資料より)
(略)
 社会医療法人ペガサス理事長の馬場武彦氏は、政府が成立を目指している改正労働基準法に含まれる、一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」については議論の対象にしないのかと質問。これについては、岩村座長が「高プロは職務の特殊性ゆえに勤務時間を自分で決められる制度だ」と指摘。本検討会の議論の対象は勤務医であり、診療時間、勤務時間は医療機関側で決定され、それに従う必要があるとして、「高プロは本検討会の議論にはなじまないと理解している。医師の仕事は『高度』で『プロフェッショナル』なものではあるが、それと労働時間の制度は別のものではないか」として退けた。
 また、福岡県済生会福岡総合病院名誉院長で日本病院会副会長の岡留健一郎氏は、「資料は医師が労働者であることを前提としているが、それに根拠はあるのか。医師は病院管理者のためでなく、患者のために働いている」と質問。
 「医師は労働者か否か」に関しては、医療界からは否定的な意見も表明されているが(『「医師は労働者か、抜本的議論を」横倉会長』、『勤務医は労働者」との決めつけ、乱暴すぎる - 邉見公雄・全自病会長に聞く◆Vol.2』などを参照)、これに対しては早稲田大学法学学術院教授の島田陽一氏が「勤務医は労働時間が決まっている。労働者かどうかという議論は閉めていただきたい」と反論。岩村座長も、勤務医と病院が時間外手当の支払などを争う裁判を例に、「病院側の代理人弁護士ですら『勤務医が労働者である』という点については、勝つ見込みがないため争わない。労基法上の労働者であることは争う余地がない。『患者のため』という意識は問題にならない」と述べた。

またぞろ日病あたりが医師は労働者ではない(だから労基法等に制約されず無制限に働かせて良い)などと無茶なことを言い出したものの、あっさりと一蹴されてしまう展開が笑えるのですが、ここで明確に法学畑から労働者であると断言されていることの意味は小さくないように思えます。
しかし「議論は閉めていただきたい」「病院側の代理人弁護士ですら(略)(勝つ見込みがないため争わない」とまで言われると言うのは、まともな有識者同士の議論の中では普通出て来ない強い発言で、よほどに論外な妄言だと認識されていると言うことでしょう。
それだけ一部の医療関係者の主張が世間離れした非常識なものであったと言うことですが、今後この考え方をベースにして医師の労働環境を議論していくと言うことになるのであれば、違法な労働環境が横行している現状は当然抜本的改善を要すると言う結論になりそうですね。

今回厚労省が示した論点の中で気になるのが「3.関連して生理が必要な事項」の部分で、特に応召義務の在り方などは日病などを始め医師の労働規制に反対している方々が必ずその根拠として挙げる部分であり、議論の聖域化していいものではありません。
この点で必要であれば法改正、少なくとも法律の解釈を変更することも求められていると思うのですが、反対勢力の立場として別に法的義務がなければ患者は見ないと言っているわけではありませんので、別に義務として課す必要性はないと言う点では一致出来そうです。
患者側からすれば応招義務がなくなれば救急たらい回しも増えるのでは…などと思われそうですが、たらいを回した医師や医療機関が何ら応招義務違反を問われていない点を見ても、この種の問題が応招義務とは全く無関係な話であることは明白ですよね。
この点で今後国民の理解を得ていく前提として、そもそも応招義務とは何なのかをまず明示する必要性がありそうですが、医師の側も健康保険法119条なども含め実質的に診療を拒否出来る場合はいかなるものかをきちんと把握しておく責務があると言えるでしょう。

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2017年9月21日 (木)

妊娠、出産にまつわる最近のニュース

びっくりしたと言う人も納得すると言う人もいるのですが、先日こんなニュースが話題になっていました。

体外受精で誕生、19人に1人...2015年に過去最多5万1千人( 2017年09月19日読売新聞)

 2015年に国内で行われた体外受精によって、過去最多の5万1001人が誕生したことが日本産科婦人科学会のまとめでわかった。
 赤ちゃん全体の19人に1人が体外受精で生まれたことになる。治療件数も42万4151件となり、初めて40万件を超えた。

 国内の体外受精児は、1983年に東北大で初めて生まれて以来、累計で48万2627人になった。
 体外受精は卵子と精子を体外で受精させて子宮に戻す不妊治療。卵子に針を刺して精子を注入して受精卵を作る方法などが開発され、選択肢が増えた。
 特に、いったん受精卵を冷凍保存し、時機を見計らって母親の子宮に移して妊娠させる方法が多用されている。体外受精で生まれた子の約8割にあたる4万599人がこの方法だった。

 治療件数を年齢別でみると、40歳以上が18万4244件で全体の4割以上を占めた。ただ、出産に成功する確率は40歳で9・1%と1割を切っており、41歳6・5%、42歳4・5%と、年齢が上がるにつれ低下する実態も明らかになった。

元ニュースにあるグラフを見る限りでもその急増ぶりは驚くばかりですが、技術的進歩に関わらず必ずしも成功率として未だ高いとは言えないものの、全出産の19人に1人が体外受精で生まれていると言う現実には率直に驚くべきなのでしょうね。
その背景には平成23年に平均初産年齢が30歳を超えなお上昇を続けているなど、全般的に妊娠、出産の高齢化が進んできていることが否めないと思いますが、社会的にはこの対策として行政による結婚支援など出産年齢引き下げを優先させている様子です。
ただ実際に大学を出て働いていると30歳などすぐ来てしまいますから、現実的には出産年齢引き下げを試みるよりも高齢出産のリスク低減、生殖医療の技術的革新などの方が需要としては大きいのだろうと思うのですが、産科の先生も大変だろうとは思います。

一方で少子化が言われる時代に人口妊娠中絶が未だ20万人近くにも及ぶことへの対策も必要だと言う声もあるのですが、こちらに関しても当然ながら望まぬ妊娠問題など様々な課題もあり、女にばかり妊娠出産のリスクを押しつけるなと言う意見ももっともですよね。
ちょうど先日はアフターピルのOTC薬化がまた先送りされそうだと言う記事が出ていたのですが、おかげで通販等で偽物をつかまされた、思わぬ健康被害に遭ったと言うケースもあるようで、中絶件数などを見る限り潜在的な需要はかなりあるのだろうなとも思います。
望まぬ妊娠や人工中絶のリスクを避けるためにも女性が主体的に確実な避妊法を持つことの意義は言うまでもなく、薬の性質上思わぬ時に急に必要になると言う場合もままあるだけに、国としても何故日本では駄目なのかと言う理論武装は必要になりそうですね。

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2017年9月19日 (火)

医師の働き方改革、急ぎたい人々と先送りしたい人々

先日ご紹介しました国立循環器病センターの時間外労働を月300時間まで認めると言う労使協定について、興味深いことに当事者よりも外の世界からの批判が強いようですが、特に2001年に同センター看護師が過労死している点に注目する方が多いようです。
2008年に過労死認定が行われ、そのわずか2年後の2010年に独法化を契機に300時間と言う非常識な時間外労働の協定が結ばれ現在に至ると言うのですが、時系列を考えても到底死者まで出した状況を真面目に受け止めているようには思えないのも当然ですよね。
働き方改革を推進する国策を反映してか、このところ医師の過労死について現場に近い筋ほど極めて深刻な危機感を感じていて、もはや労働規制強化を一刻も先送り出来ないと言う声が高まっているのですが、この点に関して先日興味深い記事が2つ出ていたので紹介してみましょう。

社会保障審議会 主要検討テーマは4項目、「医師の働き方改革」への懸念根強く(2017年9月15日医療維新)

 厚生労働省の社会保障審議会医療部会(部会長;永井良三・自治医科大学学長)は9月15日、医療提供体制のあるべき姿(地域医療構想等)の推進、医師の働き方改革、特定機能病院のガバナンス強化など医療法等の一部改正の施行に関する事項、介護医療院の創設に伴う見直しという4点を、今後の主要な検討テーマとすることを確認した(資料は、厚労省のホームページ)。並行して今年末までに、2018年度診療報酬改定の基本方針の議論を進める。
(略)
 15日の会議は総論的な議論に終わったが、特に委員の関心が高かったのは、「医師の働き方改革」。医療関係団体代表の委員からは、「救急や産科などに対し、医師の時間外労働の上限規制を厳しく適用すると、医療が成り立たなくなる懸念がある。医師の時間外労働の問題だけでなく、医療提供体制を守るという視点で検討してもらいたい」(全日本病院協会会長の猪口雄二氏)、「他の職種と同様に、医療の現場に杓子定規に労働基準法の基準を適用すれば、地域医療が崩壊するのは目に見えている。医療の質を落とすことはできないので、量を減らすことになると、地域医療は混乱する」(全国自治体病院協議会会長の邉見公雄氏)など、幅広い視点からの議論を求める声が相次いだ。

 これに対し、患者代表の委員からは「医療崩壊につながりかねないというのも理解できるが、一方で、地域医療が個々の医師の犠牲のもとに成り立つのはいかがか。(医師の時間外労働が減れば、医療サービスの量が減少するなら)国民の理解を得ながら、議論を進めていくことが必要」(知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表の阿真京子氏)といった意見が出た。

 今後の議論の進め方について、厚労省医政局総務課長の榎本健太郎氏は、「医師の働き方改革に関する検討会」が2018年年明けを目途に中間整理を行う予定であり、それが出た段階で社保審医療部会でも議論、それを踏まえ、同検討会で議論を続けるというスケジュールを説明。
(略)

「医療が壊れるか、勤務医が壊れるか」都内で医師の過重労働シンポジウム(2017年9月11日医療維新)

 全国医師ユニオンと東京過労死を考える家族の会、過労死弁護団全国連絡会議が9月9日、「過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウム~医師の働き方改革への提言~」を東京都内で開催した。過労死弁護団全国連絡会議代表幹事の松丸正弁護士は、国立循環器病研究センターで、勤務医に「月300時間、年2070時間」まで時間外労働をさせられる「36協定」が結ばれていたことを「常軌を逸した協定」と指摘。ただし、過労死を生まず、健康を守るためには、勤務時間の適正把握が最も大事であるとし、「今は医療が壊れるか、勤務医が壊れるかの二律背反の状況だ」と訴えた。
(略)
 松丸氏はもともと、「36協定」に盛り込まれるこのような「特別条項」が、「何時間働かせてもいい」という根拠になり、過労死の大きな原因があると考えていたが、多くの事例に携わる中で、考えが変わってきたという。現在は「そんなに生やさしいものではなかった。一番の問題は、勤務時間が適正に把握されていないこと。そこでは労働基準法は死に、『特区』が生まれる」と考えていると指摘。勤務時間の把握は、過重労働に関する裁判で必ず突き当たる問題で、パソコンのログイン・ログアウトや電子カルテのアクセス記録などを用いて、使用者側が適正把握に努めるべきだとした。

 2016年1月に新潟市民病院で後期研修中の女性医師が過労で自殺し、2017年6月に新潟労働基準監督署から長時間労働是正などの勧告を受けた問題で、女性医師の遺族の代理人を務めている齋藤裕弁護士は、過重労働の改善を求め、新潟市に対して労働時間の把握や医師の負担軽減などについての申し入れをたびたび行っていることを紹介(『新潟過労自殺、「医師の勤務適正化図る」―新潟市長』、『病院の責任と「働き方改革」のジレンマ - 片柳憲雄・新潟市民病院院長に聞く』などを参照)。新潟市民病院の回答では、労働時間の把握が「自己申告によるもので、各医師が適切に申告していると信じている」というものだったとして、「これでは速度計のない自動車を走らせているようなものだ。客観的な把握が全てのスタートだ」と述べた。また、これまでに過労死に至った事例について、プライバシーに配慮しながら、年齢や診療科などのデータを詳細に公表し、過労死予防のための議論をしていくべきだと主張した。
 東京都内の公的医療機関の産婦人科に勤務していた男性医師が2015年7月に自殺し、長時間労働が原因だったとして、労災認定された事件で遺族側代理人を務める川人博弁護士は、開業医だった父が、元々肺が弱かったこともあり、深夜にドアを叩く患者の診療をした後には、たいてい体調を崩していたことを紹介し、「倫理観や応招義務があるから医師は頑張ってきたが、限界に達している。解決していく必要がある」と指摘(公的医療機関の記事は、『『産婦人科後期研修医の自死、労災認定』』を参照)。長時間労働を正当化する理由として「公共性が高いこと」が挙げられることに対して、「全ての仕事には公共性があるはず。『俺の仕事は公共性が高い、おまえは金儲けだけだ』などというのは変な話。公共性とは何ぞや、公共性と労働とは、ということも提起したい」と述べた。

 全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、長時間労働の主な原因になっているのは医師の絶対数不足で、「当直明けで手術するような国は、先進国では日本しかない。制度の問題であり、ヨーロッパではそんなに働かずとも命を守っている」と指摘。トラック運転手では拘束時間に厳しい条件があり、破れば道路交通法違反で「免許取り消しと、3年以下の懲役または50万円以下の罰金」という重い罰則があることを例に、「安全性が求められる職業には、体調管理が求められる」と述べた。
 また、長時間労働の問題は、その多くが時間外勤務手当の不払いとリンクしていることも指摘。「300時間も時間外勤務をさせたら、病院はそんなに(手当を)払えない。だから不払いになる」ことも問題点であるとの見解を示した。

応招義務、「廃止すべき」、「現代に合わせて」

 自由討論では、時間外労働の上限規制について、応招義務などの医師の「特殊性」を理由に5年間の適用猶予とされたことなどが議論された。植山氏は応招義務について定めた医師法19条についての旧厚生省の解釈が、1948年から1955年にかけてのものであることを挙げ、「現代の医療水準に合った、現実的な解釈を厚労省には求めたい」と主張。川人氏は「廃止すべき。国が個人に対し、業務上の義務を課す規定で、これが過重労働を肯定する背景になっている」、松丸氏は「個人の義務として位置付けるのは無理。医療機関の義務として議論しないといけない」とそれぞれ述べた。

社保審の議論で興味深いのは医療側がもっと働かせろと言い、患者側がいやいやそれは危ないと言っていると言う逆転の構図?なのですが、よく見れば医療側委員と言う方々は全日本病院協会会長だの、全国自治体病院協議会会長だのと言う方々であるようです。
要するに赤の他人を過労死に追い込んでいる側の方々であり、自分達はまかり間違っても過労死などしなさそうな方々がまだまだ過労死逝ける!と主張しているわけで、道義的責任を感じるべき立場として社会通念上もその態度はいささかどうよ?と言うものでしょう。
意外な点として患者側代表が必ずしも医療の質的低下を拒否しているわけではなく、むしろそれを前提に議論をしなければ話が進まないことを理解しているように見えることですが、ともかくも一瞥するだけでもこの問題に関して誰が抵抗勢力なのかよく判る話ですよね。
ちなみに今後中間報告をまとめていくと言う「医師の働き方改革に関する検討会」の方はまだしも現場に近いメンバーも含まれているようなので、こちらで今後どのような方向に議論が進んでいくのか、仮に前向きな意見が出ても素直に最終報告に引き継がれていくかには注目していくべきでしょう。

一方で医師ユニオンらの主宰するシンポに関してはその性格上、労働者としての医師の立場を如何に守っていくかに議論の焦点があることは言うまでもないのですが、ここで指摘されている諸点はすでに各方面で指摘されていることばかりで、ごもっともと言うしかありません。
医師を始め公共性が高く、他人の安全に責任を持つ立場にある人間は過労をしてはいけないと言う論理は首肯できるものがありますが、注目すべきはその当然の論理が無視されている根本原因として応召義務など医師の特殊性が挙げられ、その解消を求めている点でしょう。
応召義務などもいきなり廃止とは無理としても、義務を負うのは医師個人ではなく病院など組織であることを明示するだとか、対象を救急指定機関などに限定するなど当座の対策は幾らでもあると思いますが、社保審に出るようなエラい先生方にとってこの部分の議論は聖域化している様子ですよね。
それが単に年齢的な問題による思考の硬直化によるものなのか、それとも聖域化しなければ被雇用者に奴隷労働をさせる根拠が乏しくなってしまうが故なのかは判りませんが、一般論としては利害関係者に自己規制の議論をさせると言うのもいささか問題なしとしない気はします。

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2017年9月15日 (金)

福岡県鞍手町唯一の病院で逃散事件が発生

またぞろ逃散の報告が届いていますが、先日報じられたこちらのニュースを御覧になったでしょうか。

くらて病院 医師6人が辞職表明 来年3月末/福岡(2017年9月13日毎日新聞)

 鞍手町の地方独立行政法人「くらて病院」の内科医6人が来年3月末で辞職することを表明した。病院には「来年4月には診療に支障をきたす可能性が高く、近隣の病院、医院を紹介する」旨の張り紙が出され、深刻な事態となっている。

 病院側は、背景として、徳島真次町長が人事に介入するなど逸脱した権限行使があるとして、「職員一同」名で徳島町長に要望書、町議会に嘆願書を提出した。11日の議会一般質問の答弁で、病院側の指摘について、徳島町長はすべて否定した。

 同病院は17診療科、224床で、2013年度に町立から独法に移行した。8月に就任した河野(こうの)公俊理事長は「後任医師探しは難航しており、このままでは病院の存続も危ぶまれる」と話す。徳島町長は「患者に迷惑がかかるのが一番の問題で、設置者として地方独立行政法人法に基づき、病院に改善命令を出すことも考えている」としている。【武内靖広】

全内科常勤医退職を表明 くらて病院 「町長が逸脱した権限行使」 徳島町長は否定「無責任」 [福岡県] (2017年9月12日西日本新聞)

 鞍手町の地方独立行政法人「くらて病院」の院長を含めた内科常勤医師6人全員が来年3月末までに退職を表明している問題が11日、町議会一般質問で取り上げられた。病院職員約270人は「町長独断の逸脱した権限行使で町への不信感が募った」と徳島真次町長への要求書、町議会議長への嘆願書を提出している。徳島町長は要求書の内容を全面的に否定した上で「6人の医師が辞めるのは無責任」と話している。

 要求書などによると、徳島町長の「逸脱した権限行使」として(1)事務統括・新病院建設担当の副理事長を退職に追い込んだ(2)外部理事3人を含む役員構成を指示した―など6項目を挙げ、6人の医師の診療継続が困難と主張している。内科医の退職に伴い、産業医科大病院からの医師派遣も困難になるという。要求書などは病院職員約330人の大半の署名を添え、8月30日付で町と議会に提出された。

 一般質問では、無所属の岡崎邦博議員が嘆願書の内容などをただした。徳島町長は6項目全てについて否定。取材に対して「6人の医師の退職はあるまじき行為。町として対抗策を考えていかなければならないが、まだ話し合う余地はある。町民にも説明したい」と語った。

 一方、病院関係者は「内科医がいなければ外科の手術も困難になる」「このままでは病院の存続が危うい」と危機感を募らせている。8月に就任した河野公俊理事長は「各大学を回っているが、常勤医師の確保は厳しい。地域医療を守るため、今後もできる限りリクルート(求人)は続ける」という。

 くらて病院は、元炭鉱の病院を町が譲り受け、1965年に町立病院として開設。2013年に地方独立行政法人に移行した。町で唯一20床以上の入院施設を持つ医療機関。17診療科で、222床。1日220~230人の外来がある。町は老朽化などを理由に移転新築を予定。同病院整備基本構想では18年度着工、20年度完成を目指している。

ちなみに鞍手町とは福岡県北部の筑豊地域に位置する人口1万5千人ほどの町で、北九州市に隣接し福岡市とも通勤圏内と言いますからなかなか良い立地なのでしょうが、そんな小さな町に224床の町立病院があると言うのも驚きですよね。
さらに驚くのはこの地方自治体病院の経営が厳しいご時世に黒字であったと言うことなのですが、以前の公立病院時代はご多分に漏れず万年赤字であったものを、近年独法化後は経営改革もあって黒字が続いているようで、なかなか立派なものですよね。
その経営的には安定している同病院が町長への反発から内科医逃散を招き、さらに外科など各診療科も後追いしかねない勢いだと言うのですが、注目すべきは病院職員の大多数もこれに賛同しているらしいと言う点で、雇用面でも地域に密着したこの種施設には珍しい現象です。
またこれだけ様々な問題点が指摘されていることに対して町長が完全否定している点もなかなか強気に思えるのですが、しかし病院に改善命令を出して何がどうなると言うつもりなのかも興味深い話だと思いますね。

真偽不明の便所の落書きによれば、近く予定されている病院新築移転に絡んで町長のゴリ押しによる人事が病院側の反発を招いたと言うことなのですが、特に全く医療素人の新事務長や経営コンサルタントの押しつけに反発が強かったと言います。
ちなみに新病院は1.5万m2で建築費が56億円余と言うことで単純計算ではm2あたり約38万、病床辺り約2500万円につく計算ですが、せっかく独法化したにも関わらず総務省の公立病院向けガイドラインも越える相当な高単価に思えるのも気になるところですね。
新築計画は独法化と言っても町が主導して行っていることで、特にこうした小さな自治体にとってはそう滅多にない巨大事業とも言えるわけですから、事業の在り方についてはきちんと透明性の担保されたものになっているのかどうかです。

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2017年9月13日 (水)

個人と権利と責任の在り方のバランスとは

NHKで興味深いニュースが出ていたのですが、まずはこちらの記事から御覧いただきましょう。

梼原町が患者遺族に損害賠償(2017年9月12日NHKニュース)

梼原町にある町立梼原病院で6月、入院していた80代の男性が昼食をのどに詰まらせて死亡し、町は、当時介助する職員がそばにいなかった過失を認めて遺族に2500万円あまりを賠償することになりました。

梼原町などによりますと6月11日、町立梼原病院に入院していた80代の男性患者が昼食に出されていたおかゆなどをのどに詰まらせてまもなく死亡しました。
男性はその4日前に誤えん性肺炎のため入院していて食事などの時には看護師による介助が必要だったということです。
しかし町などによりますと、看護師は当時ほかの患者に対応するために男性のそばから離れていたということで当時、食堂には看護師は1人もいなかったということです。

町は看護師が目を離した間に男性が自分で昼食をとって詰まらせたと過失を認め、遺族に対して2544万円の損害賠償を行うことを11日開かれた議会で可決しました。
また病院は、患者が食事をとる際には食堂に看護師を少なくとも1人配置するなどの対策をとったということです。
町立梼原病院の池田幹彦院長は「注意不足から重大な事故を起こしご遺族におわびします。人員の配置を見直すなど再発防止に取り組みます」とコメントしています。

お亡くなりになった方はまことにお気の毒であったとお悔やみ申し上げるしかないのですが、先日紹介しました介護施設での誤嚥死亡事件以上にこれも様々な議論を呼びそうな事件ではあり、事実各方面に大きな反響を呼んでいるようです。
嚥下能力の低下し食事も自力で取れない高齢者への賠償金として2500万円と言う金額が妥当なのかどうかは議論が別れるところですが、これが裁判所の命じた判決であればいわゆる見舞金的賠償金ではなく、かなり重大な過失を認定した金額になるのだろうと思います。
町としてはそれに相当する過失があったと判断したと言うことなのかも知れませんが、こうした非常に小さな自治体では町民全員の関係性が非常に濃いのが普通ですから、単純に客観的基準だけではなく何らかの忖度が働いた結果である可能性もあるでしょうか。
いずれにせよ檮原町立病院では今後こうしたレベルの対応を行っていくと言う方針であるとして、こちらどのレベルの対応が妥当なのか判断が分かれていると言うもう一つのニュースを紹介してみましょう。

人工呼吸器でもスクールバスに 児童と父親が人権救済申し立て(2017年9月11日NHKニュース)

人工呼吸器を常に装着する必要がある児童や生徒をスクールバスに乗せることについて、神奈川県教育委員会が安全管理が難しいとして認めていないことに対して、県内の特別支援学校に通う難病の児童と父親が日弁連=日本弁護士連合会に人権救済の申し立てを行いました。
申し立てを行ったのは、先天性の筋肉の難病があり、神奈川県内の特別支援学校に通っている綾優太くん(7歳)と父親の崇さんです。

申し立てなどによりますと、神奈川県教育委員会は去年12月、人工呼吸器の装着が常に必要な児童や生徒について、車の走行中にたんの吸引が必要になる場合などがあり安全管理が難しいとして、スクールバスに乗せないよう県立の特別支援学校に通知しました。
これに対して、優太くんと崇さんは「集団生活のルールを学ぶ機会が奪われるなど、教育を受ける権利が侵害されている」として通知の撤回などを求めて、日弁連に人権救済の申し立てを行いました。

崇さんは会見を開き「対応の理由がわからず、納得できない」と訴えました。
一方、神奈川県教育委員会特別支援教育課の横澤孝泰課長は「高度な医療が必要な児童や生徒が通学するケースは増えてくると考えられ、子どもの命を最優先に保護者の要望も受けて対応を検討していきたい」と話しています。

実際に患児の状況がどのようなものであるかは何とも言えませんが、先天性の筋肉の病気と言いますから呼吸器を装着し自己吸痰が出来ない状態と考えられ、車中に限らず痰詰まりが発生した際には誰かの介助を必要とする状態だと言えそうです。
この状況で第三者が勝手に吸痰など行っては無資格で医療行為を行うことになりますし、ましてスクールバスであれば運転手が運転を放り出して吸痰と言うわけにもいきませんし、他の学童にさせるわけにもいきませんから、毎日命のリスクを背負わせてスクールバスに乗せると言うことにもなりかねません。
この問題については今後どのような結論が出るのか注目していきたいですが、冒頭の記事などと照らし合わせて考えた場合、やはしより多くの権利を主張するほど取るべき責任を考え、受け入れられるための条件が厳しくなっていくと言う現実は確かにあるのだろうと思います。
この辺りはどこまでを許容しどこまでを求めているのかは人それぞれに異なっているのでしょうから、可能であれば権利と責任の範囲について各個人が選択出来るようになればいいのでしょうけれども、限定された責任の取り方に後で納得出来るかどうかですよね。

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2017年9月11日 (月)

膀胱炎で一刻も早い専門病院での診察を求め病院を駆け巡る患者

良くも悪くもありがちなシチュエーションではあると言うのでしょうか、読売新聞に先日掲載されていたのがこちらの記事ですが、御覧になったでしょうか。

お粗末な受付対応 東京都葛飾区 主婦 59(2017年8月29日読売新聞)

 84歳の義母がぼうこう炎の症状を訴えた。総合病院での診察を望んだので、付き添った。あいにくその日は休診。翌朝出直したが「診察は午後。急ぐなら系列の別病院を」と紹介され、30分車を飛ばした。診察券を作るなどして待っていたが、またも「診察は午後から」。受付が新人で「教えるのを忘れた」そうだ。

 連日の猛暑。義母はつらそうだった。結局、別の専門病院を訪ねた。気さくで親切な医師に、義母は明るい表情になった。最初から、こちらにすればよかった。

まあしかし急ぐなら系列病院にとわざわざ案内するくらいですからそちらの診療時間を知っていてしかるべきだと思うのですが、この辺りはタイトルにあるようにお粗末な受付の対応であったなと言う気がしますね。
一方で多くの人が気になった様子なのが別に重症でも何でもなく、単に膀胱炎症状を訴え飛び込みで総合病院を受診する、そして特に急ぐようでもない症状であるのに病院のハシゴをしてでも専門病院に行きたがると言う、一市民の受診行動の是非でしょうか。
ただ多忙を極める医療現場から見ると「そんなものそこらの町医者にかかれば30分で終わっていたものを」とリソースの無駄遣いのように思ってしまう行動ではあるのですが、医療の中の人においてもこうした行動を是とする声が未だにあるようです。

日病会長、「医療続けられるのか」と危機感 診療報酬改定、機能転換など会員懸念(2017年8月29日医療維新)

 日本病院会会長の相澤孝夫氏は8月28日の定例記者会見で、「2018年度は大きな曲がり角の同時改定といわれ、下手をすると病院を閉じなければいけない、あるいは大きく機能を変えなければいけないような事態になるのではないか、今までやってきた医療を続けていけるのかという意見が上がってきている」と述べ、診療報酬のマイナス改定や、地域医療構想をはじめとした病棟、病床機能の見直しなどによって経営や先行きへの不安を訴える会員が多くいるとして危機感を示した。

 相澤氏は、そうした事情を抱えているところに「医師の働き方改革」の議論が加わり、さらに不安が大きくなっていると指摘。日本の病院では当直医が救急患者に対応することが現実に行われているが、その場合に当直ではなく超過勤務となって手当を支払わなければならず、また休みを与えるためには医師をさらに雇用する必要がある。相澤氏は「今の経営状況の中で超過勤務手当を出せ、もっと医師を雇えということになると、経営が全くできないという意見もある」と述べるなど、会員病院の苦境を訴えた。

 このような状況の中、「保険証1枚でどこでも自由に病院に行って診療を受けられるような、安心で安全な医療を守れるのかということも含め、病院長たちにとって将来像が見えなくなっていると強く感じている」との問題意識を明らかにし、国や病院だけでなく、受診行動の面など国民も含めた議論をしていく必要があると述べた。

何と言いますか医師の働き方改革議論を全くの逆風としか捉えていないらしい辺りに、この種の経営団体のトップらしい発想だなとは感じるのですが、この調子ですと超過勤務手当を出すことももっと医師を雇うこともしないで済ませたいのが本音なのでしょうね。
それはさておき、ここで注目すべきは「保険証1枚でどこでも自由に病院に行って診療を受けられるような、安心で安全な医療を守れるのか」と言うコメントで、日病としては受診の自由を金科玉条として考えているのでしょうね。
一方でそうした自由が「今までやってきた医療を続けていけ」なくなってきている大きな要因の一つになっていると思うのですが、特に昨今医師の超過勤務解消が急務である中で、いつでも好きに受診出来る自由を担保していては医療現場は保たないでしょう。

医療評価の三要素と言われるコストとアクセス、クオリティについて、現状では程度の差はあれ相応にコストに配慮しながらクオリティは保ちたいと言う考えが主流だと思いますが、そのために何が犠牲になるのかと考えた場合アクセスの制限が現実的な解決策だろうと言うことです。
その方法論も様々なものが議論されていますが、昨今開業医などから地域の外来医師は過剰であると言う声が非常に増えていることから、英国のNHSほど厳密ではなくとも地域の開業医を初診担当兼ゲートキーパーにすると言う考え方もあり、実際国はこうした方向で開業医の総合診療医化を推進したいようです。
一方で冒頭のケースのように患者がいきなり病院窓口に来た場合応召義務との絡みもどうするのかと言う問題も指摘されていますが、少なくとも軽微な症状で専門病院に飛び込み受診するような患者には高い特別料金を取ってもいいのではとも思うのですけれどもね。
ひと頃から選定療養加算の絡みで大病院への紹介状を書いてもらうだけのために開業医を受診する患者が出現するようになってきていますが、患者の受診行動をうまくコントロールするには病院窓口だけでなく病診連携での各段階で系統的・戦略的な価格設定も必要になるのでしょう。

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2017年9月 8日 (金)

国立循環器病センターの労使協定が斜め上過ぎると話題に

このところ働き方改革と盛んに喧伝される中で、先日は愛知労働局から月80時間を越える労働を強いていた運送会社が実名公表されましたが、国としてもこの問題に真剣に取り組むと言う意志の現れであると受け取れる話ですよね。
そんな中で先日報じられ幾ら何でも非常識すぎるだろうと話題になっていたのがこちらのニュースですが、まずは誤記載ではないかと多くの人が目を疑ったという記事をそのまま引用してみましょう。

国循「残業300時間まで」の労使協定 過労死基準3倍(2017年9月7日朝日新聞)

 臓器移植や救急など高度医療を担う国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)が、勤務医や看護職員の時間外労働を「月300時間」まで可能にする労働基準法36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)を結んでいたことが、弁護士による情報公開請求でわかった。国の過労死認定基準(過労死ライン)の「月100時間」の3倍にあたる長さで、国循は今後協定内容を見直す方針という。

 府内の主要病院が労働基準監督署に届け出た36協定の開示を、過労死問題に取り組む松丸正弁護士(大阪弁護士会)が国に請求。国循の36協定(2012年4月1日付)では、非常勤を含む勤務医や一部の看護師、研究職ら約700人について、特別な事情がある場合、「月300時間、年間2070時間」まで時間外の労働時間を延長できる(年6回まで)内容となっていた。

 病院側と「労働者過半数」の代表とが取り交わしたもの。ほかの病院は上限100時間前後までの協定が多かった。

 国循は取材に、実際の勤務は「(36協定の上限時間までに)十分余裕はある」と説明。長時間労働の場合は所属長に勤務の分担を求めたり、職員に産業医との面談を勧めたりしているとした上で、「国で議論されている(働き方改革の)内容を踏まえ協定内容を見直す予定だ」と明らかにした。


過労死の看護師の母「悲しみ再び誰かに…」国循労使協定(2017年9月7日朝日新聞)

 国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)で月300時間までの時間外労働が許容される労使協定が結ばれていたことに、医療関係者から驚きの声が上がっている。患者に寄り添う医師や看護師の勤務時間は長くなりがち。負担軽減を訴える声が上がっている。

 「娘の死の教訓が組織内できちんと共有されているのか疑問です」。国循の脳神経外科病棟に勤務していた2001年、くも膜下出血で倒れ、亡くなった看護師村上優子さん(当時25)の母加代子さん(67)はそう話す。

 優子さんの死を過労死と認定した08年の大阪地裁・高裁の判決によると、優子さんは患者の世話に加え、勉強会や研修会の準備で日常的に時間外労働を続けていたところに、新人指導係にもなった。

 優子さんの死後、両親は過労死認定と遺族補償を求めて提訴。倒れる前の時間外労働は過労死ラインを下回る月50~60時間前後だったが、1日の勤務を終えて次の勤務が始まるまでの間隔が5時間程度しかない日が月平均5回もあった事情などが考慮され、過労死と認められた。
(略)

ちなみに月300時間の残業をどのようにこなせるものかと多くの方々が計算しているようですが、いずれにせよ睡眠時間以外はほぼ働いているような状況には変わりないので、さすが国循ともなるとこんな環境でも人材が集まるのだなと感心するしかありませんね。
同協定は独法化した2010年から毎年無条件で締結されていたそうで、院内で過労死まで出しているにも関わらずこんな常識外れの労使協定を結んでいたと言うことで、それは進歩的な朝日新聞でなくとも突っ込みたくもなろうと言うものです。
同センターの人事担当者によれば実際に300時間働いているケースはないとのことですが、もちろんこれは残業代の支給対象となる労働時間ではと言う意味でしょうから、新潟市民病院的基準がこちらでも用いられているとすれば勉強会などは労働のうちには入らないのでしょうね。

医師については応召義務などを理由に働き方改革に基づく改正労基法の適用を5年間免除されることになったそうですが、そもそも月100時間と言う過労死レベルの残業が認められる予定であると言うことに違和感を覚える方々も多いようです。
先日は全国医師ユニオンがこうした点に反対する声明を出していましたが、応召義務が理由で真っ当な労働環境が構築出来ないと言うのであれば、時代にそぐわない法律の改正を求めていくべき時期ではないかとも思いますね。
ちなみにアメリカでは過労研修医の起こした医療事故を契機に労働環境の強い規制が敷かれていますが、どの程度の労働時間であればもっとも効率的なのかと言うこともデータに基づいて議論されており、日本においても議論の叩き台として客観的な事実は明らかになって欲しいですね。

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2017年9月 6日 (水)

司法の世界に関わる最近の興味深いニュース

本日の本題に入る前に、専門家の見解と言うものはしばしば素人目には判りにくいものがありますが、先日多くの人々が「んなアホな」と突っ込んだと言うのがこちらのニュースです。

強制わいせつで無罪判決「女性が好意と誤信」 名古屋地裁(2017年9月5日サンスポ)

 電車内で女性に無理やりキスをしたなどとして、強制わいせつの罪に問われたブラジル国籍の男性(44)に名古屋地裁は5日、「自分に好意を抱いていると誤信した可能性があり、女性の意思に反していたとまでは言えない」として無罪を言い渡した。検察側は懲役2年を求刑していた。

 判決理由で田辺三保子裁判官は「女性は隣に座った男性に名前や勤務先を教えており、周囲に助けも求めなかった」と指摘した上で「私的な情報を教えてもらい、男性が好意を抱かれていると誤信した可能性がある」と結論付けた。

 男性は昨年6月26日、名古屋市熱田区の名鉄金山駅に向かう電車内で、23歳だった女性の頭をつかんでキスしたり、手を引っ張って自分の下半身に触らせたりしたとして今年4月、起訴された。

しかし公衆の面前で何とも破廉恥な行為に及んだものだと思いますが、名前や勤務先を教えればこうした行為をされても仕方がないと言うのであれば、世の営業職の方々はうっかり求められて名刺も渡せないと言うことになりそうですよね。
この判決を出した裁判官が女性であることに何らかの意味を見いだしたい方々もいらっしゃるようなのですが、田辺裁判長と言えば自分の女性器データを公表した女性漫画家に「表現の自由は無制限ではない」として有罪判決を出した裁判官としても知られています。
過去の判決などをざっと見る限りどちらかと言えば保守的思想をお持ちの方なのか?とも感じたのですが、いずれにせよこのまま控訴せず確定するものなのかどうか、今後の成り行きにも注目していきたい興味深い判決だと思いますね。

ところで裁判も一審判決が二審でひっくり返ると言うことがままあるように、司法の世界でも専門家各人によって判断が分かれると言うことは当然あることだと思うのですが、このところ全弁護士の意見を代表するかのような行動が目立っているのがご存知日弁連です。
医師会などと違ってこちらは全員加入が義務づけられた組織であるだけに、その権力は日医などとは比較にならないようですが、個人の思想信条の自由にも関わる政治的見解などに関しても組織として特定の意見を発信しすぎると会員からも不満の声が出ていますね。
この日弁連の活動に対して先日こんな公開質問状が出されたと報じられていましたが、これがなかなか興味深い内容なので紹介してみましょう。

死刑廃止「阻止の法的根拠示せ」 弁護士106人が日弁連に質問状(2017年8月28日産経新聞)

 「死刑廃止宣言」を採択した日本弁護士連合会(日弁連)に対し、「全国犯罪被害者の会(あすの会)」顧問の岡村勲氏ら弁護士106人が28日、「法相の義務である死刑執行を阻止しようとする法的根拠」などを示すよう求める公開質問状を提出した。
 回答期限は3週間。日弁連は昨年10月の人権擁護大会で「2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきだ」とする宣言を採択したが、犯罪被害者支援に取り組む弁護士を中心に「被害者の人権への配慮がない」など、反対の声が上がっていた。

 質問状は、人権擁護大会での決議参加者が全会員の約2・1%だったにも関わらず、日弁連が「死刑廃止および関連する刑罰制度改革実現本部」を設置し、平成29年度予算に2500万円の支出を計上したことから「死刑廃止を求める活動方針が組織決定かのように対応している」と指摘。死刑廃止宣言が日弁連の意思として効力を持つ法的根拠を示すよう求めている。
 また、「法の支配を常に主張する日弁連が、法相の死刑執行を阻止しようとする法的根拠」のほか、日弁連が死刑廃止活動をすることで「被害者と弁護士の信頼関係構築を困難にしないか」「裁判員に予断や不当なプレッシャーを与えないか」といった質問への見解を示すよう求めている。

 東京・霞が関の司法記者クラブで会見した岡村氏は「死刑制度に関しては弁護士によって賛否がある。廃止の活動をするなら、弁護士会の名前と会費を使うのではなく個々の弁護士の名前と資金で活動すべきだ」と述べた。

ちなみに同大会参加者のうち死刑制度賛成がおよそ7割程度と言う調査結果があるのだそうで、多数派の支持を得ていると言う言い方は出来るのでしょうが、こうした思想信条にも関わる重要な問題に対して多数決でいいのかと進歩的な方々から声も挙がりそうです。
世間的にも当然ながら賛否両論ある問題なのですが、弁護士の場合職業上自らの思想信条に反して弁護活動を強いられる場合もあるのでしょうし、そもそも死刑制度に限らず組織として特定の意見を主張する必要があるのかと言う声も根強くあると言います。
特に興味深いと思ったのが、「法の支配を常に主張する日弁連が、法相の死刑執行を阻止しようとする法的根拠」云々の下りなのですが、法改正に先んじて法に反した行為を求めると言うのでは法によって立つ職業人としていささか問題なしとはしないように思えますね。

皆で集まって決めたことだから従えと言う声もありますが、全会員のごくごく一部が参加しただけの場で話を進めていくことには反発も強く、そもそもこれだけ通信技術も発達した今の時代に大勢がスケジュールを合わせて一堂に会さなければ決められないものではないでしょう。
それでも敢えてこうしたイベントに参加する人間は平均的な会員の意見を代表すると言うよりも、むしろ強い目的意識を持ったごく一部の特殊な例外とも言えるかも知れませんが、そうした少数派の意見だけで自分達のお金が妙なことに使われるは確かに嫌でしょうね。
日医などの活動についても全く同様の批判の声があり、実際に地方の医師会が日医の意向に反するような行動を取るケースも見られますが、幸いこちらは強制参加の組織ではありませんので、多くの先生方はそもそも加入せず相手にしない自由を発揮していらっしゃるようです。

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2017年9月 4日 (月)

自由診療で行われる、「いわゆる免疫療法」にはまる人々

このところ各方面で利用者が増えていると言うことでしょうか、ネットで癌治療と検索すれば必ず出てくる治療法が悪い意味で注目されるようになってきています。

「夢の治療法」「副作用なし」 怪しい免疫療法になぜ患者は惹かれるのか?(2017年9月2日Buzzfeed)

手術、抗がん剤、放射線ががんの3大療法として知られるが、これに近年、「第4の療法」として期待が高まっているのが患者の免疫に働きかける「免疫療法」だ。しかし、免疫療法には、治療効果が科学的に証明されたものと、明らかになっていないものがある。
だが、効果が証明されていない「免疫細胞療法」などの免疫療法が日本では高額な自由診療で提供され、広く宣伝されている。それに患者が飛びついてしまうのはなぜなのか。BuzzFeed Newsは、効果不明な免疫細胞療法を受けて亡くなった、すい臓がん患者の遺族に話を聞いた。【岩永直子 / BuzzFeed Japan】

告知の時からこじれた主治医との関係

静岡県磐田市に住み、膵臓がんの患者・家族会「パンキャンジャパン」静岡支部長を務める石森恵美さん(55)が、中学校校長だった夫、茂利さん(当時57歳)の異変に気づいたのは2010年5月のことだ。夜、風呂上がりに着替えていた夫の皮膚が異様に黄色くなっているのに驚いた。
本人に痛みなどの自覚症状はなかったが、翌日行ったかかりつけのクリニックで「深刻な病状だと思う」と告げられた。その翌日には紹介された地元の大きな総合病院に即入院。精密検査を受け、入院3日目には肝臓や十二指腸にも転移した末期のすい臓がんと告知を受けた。
(略)
当時、すい臓がんには2種類の抗がん剤しかなく、1種類ずつ使っていく治療方針が決まった。二人の息子はまだ中学1年生と受験を控えた3年生。子供達には病状を伏せ、告知された日の夜、自宅に帰った石森さんは、一人インターネットで「すい臓がん 末期」などの言葉を検索し、何かできることはないか必死に探した
(略)
風水や「遠隔気功」も試した。そして、ネット検索で上位にあらわれる免疫療法を調べ始めた時、偶然、テレビのワイドショーで効果が証明されていない「免疫細胞療法」が「夢の治療法」として紹介されているのを見た。
「番組では医師も登場して効果があると話していました。紹介されていたクリニックをネットで検索すると、ホームページに効果があったというがん患者の事例が掲載されています。すい臓がん患者は一人しか挙げられていなかったのですが、『でも一人は治ったんだ』と都合よく受け止めました」
(略)
効果はなくても、後悔はしていない

夫が通った免疫細胞療法は、患者から血液を採取して免疫細胞を培養し、がんを狙い撃ちする機能を強化して体に戻し、がん細胞を攻撃させるとうたうものだった。臨床試験を行って効果が証明された治療ではなく、保険も適用されていない
クリニックの医師は、「数十回分は培養した免疫細胞を注射することができます」と説明したが、結局、体調が悪化する方が早く、3回しか打つことはできなかった。3回でも合計約300万円。途中から、石森さんも「これは効果がないだろう」と薄々気づいていたが、「後悔はしていない」と話す
「夫は免疫療法のクリニックに行くのを楽しみにして、帰る時はいつもニコニコしていました。こうした怪しい免疫療法を批判する医師は、『そんなお金があったら世界一周旅行でもしたらいい』とよくおっしゃるのですが、患者や家族が求めているのは、普段と変わらない日常が続くこと。免疫クリニックは医師から受付の女性まで皆、夫の日常を支えるという姿勢を見せてくれました
(略)
絶対に人には勧めない治療 押しとどめるために何ができるか

夫が亡くなって7年。石森さんは、免疫細胞療法について「効果はない」と冷静に判断し、相談に来る患者や家族に絶対に勧めることはない
悪徳商売をやっているからせめてもの罪滅ぼしに優しく対応をしようという医師もいるでしょう。支払えなくなった患者に、『もうやることはないから出て行って』と見捨てたという話も聞きます」
しかし、高額な治療だからこそ、患者は自分たちなりに納得の上で選んでいるという。なぜ科学的に根拠があり、その時点で最善と評価されている「標準治療」より、そちらを信じてしまうのか。
今、冷静になって振り返ると、その頃は、突然末期のがんと宣告され、「抗がん剤治療だけでは不安。もっと治療を受けたい」という焦りや不安があった。そして、今、石森さんが治療の相談に乗っているすい臓がんの患者や家族も、そうした不安から、「上乗せの治療」「特別な治療」を懸命に探すという。
「『もしかしたら自分にだけは効くかもしれない、ここでできることを全てやらないと後悔する』と藁にもすがるのが患者の心理です。主治医が反対するだろうからと内緒でやる人もいますが、すぐに決断できずに私たちのように主治医に相談する人も多い。その不安に主治医が応えてくれなかったら、患者や家族はよそに救いを求めてしまう」
そして、石森さんは、患者が怪しい免疫療法に流れていくのを押しとどめるためにまず、国が効果の証明されていない治療に規制をかけることが必要だと考えている。さらに、主治医や医療者が患者や家族の不安に寄り添うことが大事だと訴える。
(略)
がんの薬物療法を専門とする日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之さんのもとには、免疫細胞療法に何百万円もつぎ込み、病状を悪化させて駆け込んでくる患者が後を絶たない
「科学的根拠のない治療で患者さんから貴重な時間や金を奪い、心身にダメージを与える行為はもはや医療ではなく、医師としての倫理観に欠けた人体実験であり、詐欺的な商売です。保険がきかないのは効果がないからで、効果があると主張するなら臨床試験で証明してから行えばいい。臨床試験なら患者の自己負担は原則ありませんから、高額な費用を支払わせて行うことがいかに問題かわかるはずです」と強く批判する。
こうした状況に対し、日本臨床腫瘍学会は昨年12月、「がん免疫療法ガイドライン」で効果のある免疫療法とそうでないものを明示した。がん対策情報センターも、がん情報を提供するサイト「がん情報サービス」で、「免疫療法、まず、知っておきたいこと」「免疫療法、もっと詳しく知りたい方へ」を公開し、患者が惑わされないように情報提供を始めている
(略)
患者に届くコミュニケーションとは?

ここ数年、根拠のない免疫療法の相談が増えたという卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表の片木美穂さんも、「標準治療は臨床試験で効果が証明された最善の治療ですが、言葉の響きから『並みの治療』と捉え、お金さえ出せば他にもっと良い治療があるのではないかと考えるのが患者の心理です」と指摘する。
そして、そんな心理状況にある患者に対し、科学的根拠を数字で示して理論で納得させることは難しいと片木さんは言う。
「患者は『大勢の誰かにとって良い治療』を求めているのではありません。『私にとって良い治療かを考えてくれていますか?』と主治医に問い、自分にとって最善と感じられた時に治療に納得します。医師は、完治ができない状況であっても、『目の前にいるあなたのことを考えていますよ』というメッセージを患者に伝えてほしい」と願う。

しかし一見真っ当な医療情報を掲載しているかのようなサイトでも、まともな治療法と並んで当たり前のように免疫療法を併記している辺り罪が深いと言えますが、投資について説明されたサイトに当たり前のようにネズミ講が掲載されていればどうなのかで、中には確かに儲かる人もいる!と言われて納得出来るでしょうか。
話がややこしいのはこのところ超高価な抗癌剤として話題になっている新薬(免疫チェックポイント阻害剤)なども(広義の)免疫療法と呼ばれていると言うことなのですが、この方々が行っているのはそれとは全く異なる免疫細胞療法と言うものなので混同してはいけませんね。
免疫細胞療法の方は30年も前から行われながら、未だに何ら効果が立証されていないものですが、一応は真っ当な施設でも研究的に行われているものの、さすがにこうした施設では病勢進行など標準的治療の対象とならない患者だけを相手に行っているようで、信仰などが救済になりにくい日本ではこれはこれで有りなのかも知れません。
他方で市中の小さなクリニックなどで行われているものは大抵がかかりつけ病院での治療と並行して実施するスタイルですが、問題なのは記事にもあるように病勢進行やお金が尽きたなどの理由で、結局最後には放り出されてしまうと言う点で、かかりつけ医からすれば無責任に思えるのも当然でしょうね。
もともと命に関わる大病の治療を行うのですから何かあって当たり前なのですが、治療中に体調が悪化したり何かトラブルが起こった場合きちんと対応してくれるかと言う点は十分確認しておくべきで、少なくとも「何かあった場合はかかりつけに行って」などと無責任なことを言う施設で治療を受けるべきではないでしょうね。

この種の効果の全く証明されてはいない治療法は様々にあって、特に一部で見られるような治療とも到底言いかねるようなものに引っかかる人も少なくありませんが、何ら役には立たないと知っているはずなのに溺れるものはついつい藁をも掴んでしまうものなのでしょうか。
それでも免疫療法などは比較的真面目に行われている場合も多く、やっている医師本人がこれは効果があるはずだ!と信念を持ってやっていることならばまだしもですが、中には高い治療費を取ることだけが目的ではないかと言う詐欺紛いの施設もあると言うのですから穏やかではありません。
興味深いのはこうした施設はテレビ等マスメディアも動員して大々的な宣伝を行っている場合もあると言うことなのですが、番組内容はスポンサーに大きく依存するとは言えテレビ局等も道義的社会的な責任を問われないで済むものなのか、疑問に感じる人も少なくはないようです。
もともと医療法による厳しい広告規制もあって真っ当な医療機関は宣伝などしていないもので、内容に多大な疑問符がつく宣伝紛いの番組でもしょせんテレビだから信じる方が馬鹿なのだと言うことなのか、命に関わる重大な病気であるほど正しい知識に基づいて医療を受けていただきたいものです。

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2017年9月 1日 (金)

朝日新聞が高齢者の高額治療を批判?!

このところ高齢者医療費の抑制について、以前であれば門前払いされていたようなかなり踏み込んだ議論も表立って見かけるようになってきていますが、先日こんなそのものズバリなニュースが出ていました。

超高齢者に保険で700万円治療 命の重さと医療費膨張(2017年8月27日朝日新聞)

 日本は世界に誇る長寿国となった一方、それが医療費を膨張させている。薬や医療機器の高額化も進むなか、高齢者への医療はどうあるべきなのか。

■余命短い超高齢者、どこまで施術?

 西日本のある病院に昨年末、90代後半の重症心不全の女性が運び込まれた。心臓から血液を全身に送るための弁が硬くなり、呼吸困難に陥った。本来なら胸を切って人工弁を埋める外科手術が必要だが、高齢過ぎて体力的に耐えられない。
 そこで、太ももの血管から細い管を通して人工心臓弁を届ける「経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI〈タビ〉)」という治療が行われた。体への負担が少ない最先端の技術で費用は700万円ほど。保険が利くので患者負担は少ないが、保険料や公費の負担は大きい
 治療は成功して女性は無事に退院したが、その数カ月後に肺炎で亡くなった。治療を担当した医師は振り返る。「症状が悪化するまで畑仕事をしており、『もう一度元気になりたい』という思いが強かった。高齢になるほど肺炎や脳梗塞(こうそく)のリスクは高くなるが、発症するのか予測は難しい」

 TAVIは国内では2013年に保険適用され、8千例以上行われた。だが、比較的余命が短い「超高齢者」にどこまで使うのか、医療現場は模索している。
 北里大学では、95歳の患者まで対象としたことがある。阿古潤哉教授は「体力や認知能力などから適応をしっかり選んで実施している。国民皆保険がこのまま持つかどうか懸念はあるが、年齢だけで区切っていいのか難しい」と漏らす。
 TAVIの費用対効果は高いとされるが、合併症を起こす可能性が大きい高齢者には費用対効果が低いという海外の研究もある。TAVIの関連学会協議会の事務局を務める鳥飼慶・大阪大講師は「手術できない高齢者にとってTAVIは福音となる技術。ただ、超高齢者にどこまで適応をするかは、医療費の観点も含めて議論していく必要があるのではないか」と話す。

急性期医療に投じられるコストを知れば誰しも一度は抱く疑問ではありますが、注目すべきはこの記事が進歩的メディアとして有名な朝日新聞に掲載されている点で、当然ながらこの後「だがちょっと待って欲しい」と続くのが本音であろうと思われるところです。
医療費削減のために一生懸命努力している一方で、老い先短い方々のわずかばかりの余命延長のためにこんな巨額のコストを投じるのは無駄であると考える人も多かろうし、実際昨今では各種学会においてもこうしたケースでは抑制的な対応を求める考えが増えているようです。
とは言えこの種の議論になると90代では駄目だが80代ならいいのか、700万は多すぎるが500万なら許容範囲かと言った話になりがちであり、結局のところ個々の患者の考え方や状態にもよることで一律には決められないと言う玉虫色の結論になりがちですよね。
制度的に見ればせっかく後期高齢者医療制度で高齢者を別枠にしたのですから、高齢者に新規の透析導入は保険で認めないと言ったやり方は出来るはずですが、厚労省としても国民世論が喚起されるのを気長に待っていると言うところでしょうか。

高額な医療費と言う点で昨今新規抗癌剤なども話題に上る機会が増えていますが、国立がん研究センターの報告によれば高齢者の癌治療は若年者とは異なる傾向があり、特に超高齢者になると無治療も少なくないと言いますが、それが誰の意志に基づくものなのかです。
同センターでは高齢者への抗癌剤投与は延命効果がないと言う報告も出していますが、エヴィデンスのない治療を保険収載すべきなのかと言う観点から考えても、今後制度的にも高齢者の癌治療は見直されてくる可能性もありますよね。
癌などは比較的国民の間でも死病と言う認識があることがあって、ある程度コンセンサスが得られやすいと思うのですが、高齢者が血圧やコレステロールなど山ほどの薬をもらっている現状を考えると、いずれ高齢者向けの医療の在り方を考え直す必要性は高そうに思えます。

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