心と体

2017年2月22日 (水)

日産婦がついに態度を軟化?

アメリカはさすが進んでいるなと感じさせるのが、先日報じられたこちらのニュースです。

ゲノム編集で将来子どもも 米学術機関、条件付き容認(2017年2月15日共同通信)

 【ワシントン共同】生物のゲノム(全遺伝情報)を自由に改変できる「ゲノム編集」の技術を使って子どもをもうけることについて、米科学アカデミーは14日、将来技術的な課題が解決されれば、遺伝性の深刻な病気を防ぐ目的に限り、条件付きで容認できるとする報告書をまとめた。

 人の精子や卵子、受精卵の遺伝子にゲノム編集で改変を加える。子どもをもうけると、影響が子孫へと受け継がれるため否定的な意見も強い。遺伝子の間違った場所を改変するミスもまだ多く技術的課題が山積みだが、アカデミーは「技術の進歩は速い」として、世界で初めて実施に向けた道筋を示した。ただ子どもの身体能力や知能を増強させる試みには不快感を示す人が多く「許されない」とした。
 報告書の作成メンバーは「生殖にかかわるゲノム編集には慎重になるべきだが、禁止するということではない」とした。

 報告書によると、受精卵などのゲノム編集は、遺伝性の病気を防ぐため、他に手段がない場合にのみ適切な規制や監視の下で実施できる。改変する遺伝子がその病気に関連していることや、改変後の遺伝子の塩基配列が未知のものではないこと、体への悪影響がないことを確認する必要がある。数世代にわたる追跡調査や可能な限りの情報公開も求めた。
 「人の尊厳に反する」と倫理的な問題を指摘する声もあるため、実施の際は一般の意見も反映させたルールを作る

 アカデミーは政府や議会から独立して科学技術政策を助言する機関。2015年末の国際会議では、病気の予防目的であっても「無責任だ」との声明を出したが、今回の報告書は容認へ一歩踏み込んだ。米政府は現在、人の受精卵へのゲノム編集に公的研究費を投じることを禁じている

 ※ゲノム編集

 生物の遺伝情報を担うDNAを狙い通りに改変できる技術。農産物の品種改良や、遺伝子の異常で起きる病気の治療を目指した研究への利用が広がっている。複数の手法があるが、2013年ごろに開発された「CRISPR/Cas9」は扱いやすく精度も向上したため、研究者の間で普及した。動物の受精卵など、まだ細胞の数が少ない段階で遺伝子を改変すれば、全細胞に望む改変を加えることも理論的に可能だが、成功した例はまだない。

この種の技術は年々進歩していくものであるのは言うまでも無いのですが、人間に対してそれを用いるとなると生命倫理だ、道徳観だと言った話との絡みもあって、世界的に見ても非常に厳しい制約が課されているのは周知の通りですよね。
一方でこれまた当然のことながら人間で応用出来れば非常に有益な結果も期待出来るのは明らかであり、特に今の時代ですと技術的な優位を保つことは国策としても非常に重要視されますから、さていつからどこまでを認めるべきかと言うことは各国がお互いの顔色をうかがっているところだと言えます。
今回の米科学アカデミーの報告書もあくまでも将来的な含みを持たせたと言う内容で、今から直ちにそれを行える状況になったと言うものではありませんが、これに比べればはるかに控えめな段階ではあるものの、日本においてもこんなニュースが報じられていました。

着床前検査、日産婦学会が臨床研究開始 妊娠率向上など調査(2017年2月14日産経新聞)

 日本産科婦人科学会が、体外受精させた受精卵の染色体異常を調べる「着床前スクリーニング」(着床前検査)の臨床研究を始めたことが13日、分かった。流産を繰り返す女性を対象に、染色体異常がない受精卵を子宮に戻し、妊娠率が向上するかを調査。ダウン症などの染色体異常も判明するため、「命の選別」につながるとの批判もある。
 関係者によると、日産婦は検査の対象となる女性の登録を開始した。施設を限定した上で、当面は検査する女性の人数を絞り、試験的に実施。体外受精で3回以上妊娠しなかった女性や、流産を2回以上経験した反復流産の女性などが対象となる。
 検査費用は原則として患者負担。日産婦はこれまで、夫婦のいずれかが重い遺伝病を持つ場合などに限り、受精卵を調べる「着床前診断」を認めてきた
 流産の予防を目的とした着床前検査は禁止してきたが、海外では実施されていることもあり、学会の倫理委員会で審議。検査が流産予防につながるかを確かめるため、平成26年12月に臨床研究として進めることを認め、実施施設の選定を進めていた。

 着床前スクリーニング 体外受精させた受精卵を子宮に戻す前に染色体の数の異常を検査し、異常のない受精卵だけを戻して出産を試みる技術。通常は受精卵が4~8分割した初期段階で1~2個の細胞を取り出し、染色体や遺伝子を調べる。特定の病気に伴う異常ではなく、健康な人を含めて網羅的に異常がないかを検査する。

ネットで調べればすぐ判ることですがこの着床前スクリーニングなるもの、すでにコマーシャルベースで当たり前に行われているものであり、国内においても全国各地で妊娠率向上のために禁止されているはずの着床前スクリーニングをやりますとうたう施設があることがうかがえますが、当然ながら学会が何を言おうが別に法的に禁止されているわけではないと言う話ですよね。
しかし世界的にみてもほとんど全ての国で認められ行われていることを今まで認めておらず、今になってようやく試験的にやってみると言う段階の日本産科婦人科学会はどれだけ保守的なのかと言うことになりますが、その理由として命の選別につながると言う批判はある一方で、これだけ晩婚化が進み社会的に需要が増加している生殖医療の実態に社会的議論が追いついていないと言う声も多いようです。
特に実際に不妊に苦しむ方々を相手にしている現場の臨床医にとっては歯がゆい限りなのだろうと思いますが、生殖医療に関しては社会的コンセンサスと個人の自由のいずれを重視すべきかと言う問題は以前から顕在化していたわけで、学会がこうした話を進め一歩、二歩前進する間に現場では十歩も二十歩も前進していくと言うことが今後も続いていきそうですね。

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2017年2月20日 (月)

専門医制度、ひとまず5都府県で総数規制を導入

2018年度からも始まると言う噂の新専門医制度について、先日こんなニュースが出ていました。

専攻医数の上限設定は5都府県、京都は除外へ(2017年2月17日医療維新)

 日本専門医機構は2月17日の理事会で、2018年度から開始予定の新専門医制度において、都市部への専攻医の集中を防ぐため、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の5都府県において、専攻医の募集定員の上限を設定する方針を固めた。「専攻医採用実績の過去3年間の平均値」が上限になる見通し。1月の理事会では、6都府県で検討していたが、京都府が除外された(『6都府県、専攻医の募集上限設定、都市部集中防ぐ』を参照)。ただし、5都府県においても、外科、産婦人科、病理、臨床検査については上限を設定しない。
 新専門医制度では、大学病院への専攻医の集中を問題視する声も根強い。過去5年間の専攻医採用実績が平均350人以上の基本領域学会については、「基幹病院は、大学病院のみ」という体制にならないよう、各都道府県に基幹施設の複数設置を原則とする。現時点で想定されているのは、内科、小児科、精神科、外科、整形外科、産婦人科、麻酔科、救急科の8領域。
 これらを盛り込んだ「専門医制度新整備指針」の運用細則は、次回3月の日本専門医機構理事会に諮る。同機構理事長の吉村博邦氏は、理事会後の記者会見で「大枠はかなり煮詰まったが、まだ詰めるべき事項があり、次回理事会で正式決定したい」と説明した。募集定員の上限設定や基幹病院の在り方は、重要かつ地域医療への影響が大きい問題だ。「(各基本領域の学会が集まる)基本領域連携委員会を近く開催し、さらに調整を重ねた上で、最終案としたい」(吉村理事長)。
(略)
 5都府県、「4以上の医学部・医科大学あり」

 都市部への専攻医の集中を防ぐため、募集定員の上限を設定する5都府県は、「医籍登録後3~5年」の全医師のうち、5%以上の医師が勤務しているという基準で選んだ(2014年「医師・歯科医師・薬剤師調査」の特別調査による)。5都府県とも、4以上の医学部・医科大学を有する。
 外科など4基本領域を除外するのは、「医師・歯科医師・薬剤師調査」において、2014年の医師数が、1994年と比較して減少しているため(外科は89%、産婦人科は97%など)。
 日本専門医機構副理事長の山下英俊氏は、都市部での専攻医の上限設定は、医師の地域偏在解消が目的であるとしたものの、「むやみにシーリング(上限)をかけると、都市部の大学等から、地域に医師を派遣している機能が損なわれる。その結果、困るのは地域」と述べ、引き続き丁寧な制度設計を進めるとした。

 総合診療専門医、「外科の追加、定員削減」が焦点

 総合診療専門医について説明した松原副理事長は、まず「医師の地域偏在に務める、また学術的に高いレベルを確保することが求められる」が前提になると説明。
(略)
 総合診療専門医の研修プログラムは現時点で、基幹施設が404施設、連携施設として計5505施設の関与が想定されている。「募集定員は約1600人まで絞り込んでもらったが、3分の1は都市部。さらに削減するか、あるいは丁寧に配分しないと、地域偏在が起きてしまう」と松原副理事長は述べ、都市において、内科や外科の専攻医になれなかった場合、総合診療の専攻医を選ぶことなども想定されるため、地域偏在が起きないよう、さらに検討を進めていくとした。

この新専門医制度については、予想通りいわゆる医師偏在解消への強制力となるよう制度設計されそうなのですが、当然ながらその定数設定をどのようにするのかが問題であって、どこの地域であっても今現在いる数を認めませんと言われたのでは文句なしではいられないはずです。
東京などは確かに医師数も大学数も多いですが、隣接する千葉や埼玉が全国有数の医師不足地域とされていることを考えると決して多すぎると言うことはないと言う考え方もあり、この辺りは都道府県単位よりもブロック単位なりで考えた方がより地域の実情に沿った配置が行えるのかも知れませんね。
ただあまりザルな制度にしてしまえば医師配置の強制と言う目的に沿ったものになりませんから難しいところですが、ひとまず今回5都道府県に限定したと言うことで今後は状況を見ながら次第に定数の調整をしていくと言う腹づもりなのでしょうが、さてそれを誰が主導で決めるのかと言う点でもまた何波乱もありそうですよね。

どのような医療供給体制が望ましいのかと言う点に関しては当然ながら人それぞれの考え方がありますが、先日厚労省で開かれた「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」のヒアリングでは民間病院を中心とする四病院協議会の神野正博氏が強力な医師偏在対策を求め、それが出来ないなら医師総数を増やせと主張したと報じられていました。
2020年以降医学部定員をどうするのかは同検討会で結論を出すのだそうですが、今も医師数が増えれば医療費も増えると言う考えは厚労省に根強くあるようですから、医師総数を無制限に増やすくらいなら医師配置への強制力を強めるべきだと言う結論になりそうですし、医療現場からもそれを強く望んでいると言う言質は取った形です。
医師が十分に増え適正な配置もなされた世界がどのようなものになるのかは何とも言えませんが、例えば交替勤務制を取っている看護師などは有資格者に対して実働数はかなり少なく、現状でも看護師不足による激務解消が叫ばれているような状況ですから、現場の医師が十分に人間的な生活を送れるほど過剰になるには相当な数を増やさなければならないのかも知れません。

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2017年2月17日 (金)

千葉市がインフルエンザ迅速検査を中止へ

ちょうどインフルエンザの患者が非常に多いと話題になっている時期ですが、臨床現場で常に医師の頭を悩ませてきたあの問題について、千葉市が公的な指針を公表したと話題になっています。

流行期のインフル迅速検査中止 千葉市が休日夜間診療所の対応を発表(2017年2月9日臨床ニュース)

 「急病で(休日夜間診療所に)来られた救急患者さんへの診療をすみやかに行うため、インフルエンザ簡易迅速検査は原則行いません 」。2月8日、千葉市が公式サイト上で市民向けに通知を発表した。インフルエンザ流行期に迅速検査を行わないとの立場を公式サイトで広報する自治体はあまり例がないようだ。

 同市保健福祉局健康部健康企画課の担当者によると、休日夜間診療所で流行期にインフルエンザ迅速検査の実施を中止すると決めたのは、最近ではなく、2009年のA/H1N1pdmによる流行発生の翌年。千葉市と同市医師会で独自のガイドラインを作成し、2010年以降、このガイドラインに沿ってインフルエンザ流行が注意報レベルを超えた際に、外来患者の増加に伴う診療の効率化や迅速検査の限界等を考慮し、休日夜間診療所でのインフルエンザ迅速検査の中止を発表しているとのことだ。

 なお、流行期の迅速検査は原則行わないが、重症例など医師の判断で例外もあることや、迅速検査を実施しなくても「医師の診察でインフルエンザと診断された場合には、抗ウイルス薬の処方が行われる」との但し書きも付けられている。

 インフルエンザ流行時の迅速検査の意義については、陽性の場合の診断確定には有用だが、陰性であった場合、インフルエンザの診断を除外できるわけではないとの限界が指摘されている(Ann Intern Med 2012; 156: 500-511)。また、インフルエンザが地域内で流行している間には、発症48時間以内の咳や熱といったインフルエンザ様症状がある場合はインフルエンザの可能性が高いとも報告されている(Arch Intern Med. 2000; 160: 3243-3247)。

 2009年のインフルエンザ流行時には、厚生労働省が「無症状者のインフルエンザ陰性を証明するために医療機関を受診させ、簡易迅速検査などを行う意義はない」ことの周知を求める通知を出している。また、「臨床所見や地域の流行状況などから医師が総合的に判断し、薬物療法が必要と判断した際には迅速検査やPCR検査は必須ではなく、診療報酬や調剤報酬上も抗ウイルス薬投与に迅速検査の実施は必須ではない」との見解も示している(2009年10月16日事務連絡「新型インフルエンザによる外来患者の急速な増加に対する医療体制の確保について」)。

このインフルエンザの迅速検査なるもの、発症のごく初期ではやや感度が落ちるとされていることや、陰性に出たからと言ってインフルエンザではないとは言えないと言う限界もあって、特に症状の出始めの場合に少し判断に迷うケースがあるかと思うのですが、病歴や症状等からこれは間違いなくインフルエンザだろうと言う場合に単なる証拠固めで検査をする必要があるのかと言う疑問はありますよね。
抗ウイルス薬に関しては処方に当たって特に迅速検査が必要と言うわけではありませんから、症状を見て医師の判断で処方してもいいじゃないかと言う考え方も当然あるのでしょうが、一方で近年のエヴィデンスに基づいた治療と言う考え方からすると、せっかく簡単な迅速検査のキットまであるのにそれを活用しないとは何事かと言う意見もあるだろうとは思います。
今回の話にしても流行期に限定しての話と言うことで、そうでない時期には原則的に検査をした方がいいとも読めるニュースなのですが、小児科などでは例の異常行動の問題もあるし検査をするのも大変だから麻○湯を出すと言う先生もいらっしゃるようですから、治療前の手続きとして必ずしも迅速が必須と言うわけでもないのだと言う程度に緩く受け止めておけばいいのでしょうね。

そんなわけで医師の裁量権を広く認めるまずまず妥当な方針ではないかと言う声が多いようなのですが、一つ気になる点としてあげられるのがインフルエンザの場合学校や職場を休むことになり通常診断書を記載させられることになるはずですが、その書き方をどのようにすべきなのかと言うことです。
杓子定規に「インフルエンザと診断していないのだから書けない」などと言い出せば「それならちゃんと検査して白黒付けてくれ」と言われるでしょうし、症状からインフルエンザと判断し云々と言えば本当にインフルエンザだったのかと突っ込まれる余地もありそうで、特にこの時期受験生などにとってはインフルエンザと診断されるかどうかはかなり重要な分かれ道にもなりかねないですよね。
中には証拠がないのだからインフルエンザではないと曲解して?勝手に出かけてウイルスをまき散らす人もいるかも知れずで、今現在でもちょっと熱が出れば会社や学校から検査してこいと言われ医療機関を受診する人が少なくないのですから、集団防疫の観点からはインフルエンザとして対応を要求するならならきちんとそう診断しておくべきだと言う考え方も当然あるだろうと思います。
社会的にもインフルエンザであるかないかで話が全然違ってくる場合もある以上、治療法の選択以前に診断の段階でも分かれ道があるのは当然で、単に流行期か否かで対応を決めるのではなく今までと同様ケースバイケースでの判断は必要になるはずですが、今回の通知も「心配だからとにかく検査してくれ」と言う患者をあしらう根拠くらいにはなりそうです。

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2017年2月15日 (水)

これは命の差別と言うのかですが

あまり大きく報じられているようでもないのですが、このところ密かに注目しているのがこちらの裁判です。

「命の差別があってはならない」 事故死した重度知的障害少年の両親、施設側を提訴 逸失利益焦点に(2017年2月14日産経新聞)

 重度の知的障害を持つ松沢和真さん=当時(15)=が平成27年、東京都八王子市の福祉施設から抜け出し、約2カ月後に山林で遺体となって発見された事故で、両親は14日、福祉施設を運営する「藤倉学園」(東京)に約8800万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。請求には松沢さんが生存していれば将来見込まれた利益(逸失利益)として、平均賃金から算定した約5千万円を盛り込んだ。重度知的障害者の逸失利益算定が争点になる見通し。

 提訴後に会見した松沢さんの父、正美さん(60)は「重度の知的障害があったとしても、和真は施設側の不備で将来の全てを奪われた。所得格差による命の差別があってはならない」と話した。

 訴状などによると、松沢さんは職員が目を離した隙に施設から1人で外出。藤倉学園は過失を認め、慰謝料2千万円を提示したが、松沢さんに重度の知的障害があったため逸失利益はゼロと算定した。「知的障害があることを理由に損害賠償額を低く認定することは差別に当たる。松沢さんには将来の可能性があった。障害のない少年の死亡事故と同じ基準で損害賠償額を算定すべきだ」などとしている。

 藤倉学園は「訴状を見た上で今後の対応を考えたい。現時点ではコメントは控える」とした。


障害者の逸失利益で両親提訴へ(2017年2月10日NHK)

重い知的障害のある少年が入所先の施設を出て死亡した事故の賠償をめぐり、少年の両親が「将来働いて得たと予想される『逸失利益』を施設側がゼロとしたのは障害者差別だ」として、国内の平均賃金を基準に逸失利益を認めるよう求める訴えを近く、東京地方裁判所に起こす方針を決めました。
弁護団は障害の有無で逸失利益が決まることが妥当かどうか、問いたいとしています。

東京都内の障害者施設に入所していた松澤和真さん(当時15)はおととし9月、鍵が開いていた扉から外に出て行方が分からなくなり、2か月後、山の中で遺体で見つかりました。
施設側は賠償交渉の中で、安全管理の過失を認め、慰謝料として2000万円を示しましたが、和真さんが将来働いて得たと予想される「逸失利益」についてはゼロとしたということです。
両親は「将来、社会に貢献する大きな可能性を秘めていた。障害者の命の価値を低くみた差別だ」として、国内の平均賃金を基準におよそ5000万円の逸失利益を含む賠償を施設側に求める訴えを、近く東京地方裁判所に起こす方針を決めました。

重い知的障害のある人の逸失利益をめぐっては「徐々に働く能力を高めることができた可能性があった」などとして、8年前に青森で、5年前には名古屋の裁判所で、それぞれ一定額を認める判決や和解がありました。
しかし、原告が求めた平均賃金を基準にした算定ではなく、弁護団は「障害があるかないかで、命の価値とも言える逸失利益をゼロにしたり、少なくしたりすることが妥当かどうか、司法に問いたい」と話しています。
これに対し施設側は「訴状を見ていないので具体的なコメントは控えたい。裁判の中で主張したい」と話しています。

父親の松澤正美さんによりますと、亡くなった和真さんは3歳のとき、自閉症と診断されました。
和真さんは単語を話して好きなものを言えたほか、何をしたいのか意思を表すことはでき、人の話を聞いて理解していたということです。
特別支援学校の中等部になると、落ち着きのない行動が見られ、両親は医師の勧めもあって、複数の職員がいる施設への入所を決めたということです。
松澤さんは「息子は成長過程で多くの可能性があった。司法は命の価値を差別しないような判断をしてほしい」と話しています。

まだ働いていない重い知的障害のあるひとが死亡した場合の逸失利益をめぐっては、これまでも裁判で争われてきました。
大分県で特別支援学校の男子児童が死亡した事故では、平成16年、大分地方裁判所が「医療技術の進歩を考慮しても児童が将来、働けるようになる可能性を認めるのは難しい」として、県が逸失利益を支払う必要はないとする判断を示しました。
これに対し16歳の少年が施設で死亡した事故で、青森地方裁判所は平成21年、「健常者と同じ程度ではなくても、徐々に働く能力を高めることができた可能性があった」として、県の最低賃金をもとに600万円あまりの逸失利益を認めました。
さらに、名古屋市で15歳の少年が施設の階段から転落して死亡した事故では、平成24年に名古屋地方裁判所で、将来働けた可能性を認めたうえで、障害年金の受給額を基準に逸失利益を770万円あまりとする和解が成立しました。

何とも不幸な事故であったとお悔やみを申し上げるしかないのですが、そもそもこの裁判のキーワードになっている「逸失利益(いっしつりえき)」なるもの、損害賠償の対象となる事故なりがなければ得られていただろうと考えられる利益と言う意味合いの言葉ですが、おおよそ交通事故などにおいても大いに揉めるところでもあります。
ある程度労働実績のあるサラリーマン等であれば、定年まできちんと勤め上げた場合の給料総額を元に計算しておけばまあそう大きくは外れないのだろうなとも思えるのですが、今回のように未就労の学生等の場合ですと平均賃金を元に算出されるのが通例なのだと言いますが、一流大学のエリート学生と三流大学退学寸前の落ちこぼれで同じかと言われると何となく釈然としませんよね。
実際に過去にも医学部学生の死亡事故において医師の平均的な賃金を元に算定すべしとの判断が下されたケースがあり、医学部の場合ほぼ確実に将来医師になることを考えると妥当な考え方ではあると思うのですが、では医学部受験予定で合格が確実視されていた高三学生の場合はどうなのか等々悩ましく、一般的にこうした場合訴えた側が「そうであった可能性が高い」と証明する必要があるようには感じます。

平均よりも高い収入を得られることが予想される場合とは逆に、平均よりも低いと予想された場合が今回のケースですが、ある程度社会的な関心も集まっているのか近年障害者の逸失利益を巡っての裁判が連続して起こっているそうで、今回の裁判においてもどのような判断が下されるのかは注目されるところです。
個人的に今回のニュースを見ていて思ったのが、寝たきり超高齢者の関わる医療事故で千万単位と言う単位の損害賠償が命じられると言うケースが時にあり、あれはどのような判断に基づいて逸失利益を計算しているのだろうとかねて疑問に思っていたのですが、基本的にこれらはほぼ慰謝料と言う扱いであり、また年金収入なども考慮される可能性があると言うことです。
時折高齢者の年金で一家全員が暮らしていて、入院させようものなら家族から「死なせたら訴えるぞ」などと凄まれたと言う経験をした先生もいらっしゃるかも知れませんが、しかし年金にせよ何にせよ残りどれだけ生きられるかと言う年数をかけて計算されるはずですから、平均余命もはるかに過ぎた超高齢者に高い賠償金を払えと言われても釈然としないと言う人は少なくないでしょうね。
この辺りはいわゆる弱者保護的な視点も少なからず含まれてくるのだろうと思いますが、稼ぎ出すお金より介護等でかかるお金の方が多いのであればどうなんだと言った素朴な反発もあり、また医療訴訟においてもかつてほど弱者救済的な判決やいわゆるお悔やみ金めいた賠償判決は出なくなってきているとも言いますから、今後は金額的にも変わっていく可能性もあるのでしょうか。

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2017年2月13日 (月)

女医の引っかかった結婚詐欺が話題に

大変に下世話なニュースなのですが、先日話題になっていたのがこちらの事件です。

4千万円の結婚詐欺疑い 女性医師2人に、男女逮捕(2017年2月8日共同通信)

 医師に成り済まし、交際相手の20?30代の女性医師2人に結婚をにおわせて計約4千万円をだまし取るなどしたとして、大阪府警泉大津署は7日までに、詐欺や窃盗などの疑いで、住所不定の自動車販売業石田恭介(いしだ・きょうすけ)容疑者(32)と、大阪市中央区のラウンジ従業員行岡雅美(ゆきおか・まさみ)容疑者(27)を逮捕した。

 同署によると、石田容疑者は医師免許証を偽造し「府内の病院に勤務する精神科医」と偽り、出会い系サイトで知り合った女性医師2人と交際。「金は返すつもりだった」などと容疑を否認している。

 逮捕容疑は昨年5月?今年1月、共謀して大阪市内の金融機関で20代の女性医師名義のキャッシュカードを作り、カードローンで引き出した約500万円を盗んだ疑い。

 また石田容疑者は、同居していた30代の女性医師の自宅金庫から約1500万円を盗んだり、同医師に「夫婦の収益物件としてマンションを買いたい」とうそを言い、2千万円を石田容疑者が管理する口座に振り込ませたりした疑い。

 石田容疑者は、行岡容疑者が以前に働いていたキャバクラの客だったという。

医師装い女医2人から4000万円 32歳男を逮捕(2017年2月8日毎日放送)

 インターネットの会員制「合コン」サイトで知り合った女性医師2人に対し、医師を装い結婚話を持ちかけ、現金約4000万円を騙し取ったなどとして、32歳の自動車販売業の男が逮捕されていたことがわかりました。

 不敵な笑みを浮かべ車に乗り込む男をMBSのカメラが捉えました。詐欺や窃盗などの疑いで逮捕された、住所不定の自動車販売業・石田恭介容疑者(32)です。石田容疑者は去年5月、20代の女性医師の医師免許証のコピーなどを使ってキャッシュカードを作成し、現金約500万円を引き出した疑いがもたれています。
 この女性医師だけではなく、別の30代の女性医師からもマンションの購入資金として2000万円を騙し取った容疑と、自宅から1500万円を盗んだ容疑で逮捕されていた石田容疑者。なぜ、女性医師2人は騙されたのでしょうか?

 「大阪府内の病院に勤務する精神科医です」

 石田容疑者は女性医師2人と、インターネットの会員制「合コン」サイトで知り合っていて、女性医師らに偽造した医師免許を見せるなどして信用させていました。女性医師2人とは結婚を前提にそれぞれと同居し、30代の女性医師とは結婚式も挙げていました。

 「久しぶりのランボルギーニ。行くところないからあんまり使わないね」
 「弾丸で韓国に。いつもボロ負けのカジノでのブラックジャック」

 高級外車に海外旅行など、派手な生活ぶりを自身のSNSで公開していた石田容疑者。警察の取り調べに対して、「女医は了承していた」などと容疑を否認しています。

冷静になってみると偽医者として決してレベルが高いと言うわけでもなかったのかも知れませんが、報道を見る限りではなかなかにいい男だったようですから、あまりにストライクゾーンのど真ん中であったりで男を見る目が曇ったりと言うこともあったのでしょうかね。
第三者的に結果だけを見るとなかなか愉快な事件だったとも言えるこのニュースですが、20代、30代でこれだけの大金を持っていることに対する驚きなど世間の評判も様々ではあるものの、女医も出会い系サイトを利用しているのだと言うことに驚く人も少なからずだったようですね。
ただ冷静に考えてみると医学部学生においてもどんどん女性比率が高まっている時代にあっても、ごく普通に結婚している女医さんと言うのは案外少ないと言うのも事実で、この辺りの女医特有の事情に事件の遠因があったのかも知れません。

生涯未婚率と言う数字があって、日本人においてはこの数字が年々急カーブを描いて上昇していることに少子化の遠因があるのだ、などと言う指摘もあるところですが、ともかくも最近のデータによれば男性20%、女性10%程度なのだそうで、興味深いことに女性の場合男性とは逆に学歴が高いほど生涯未婚率が高まる傾向にあるのだそうです。
そしてこの生涯未婚率は職業によっても平均および男女間に大きな差があると言うことが明らかになっていますが、全職種の中でもこの男女差が最大限に開いているのが医師と言う職業で、男性医師は限りなく全員が結婚しているのに対して女性医師の1/3は一生結婚出来ないと言う、実に10倍以上もの格差があると言います。
ちなみに予想通りと言うのでしょうか、女性医師の過半数は男性医師と結婚しているのだそうですが、結婚に関する意識調査によれば男性の6割が相手の学歴にはこだわらないと答えた一方、女性の7割は自分と同等以上の学歴を求めたいと答えたそうで、女医さんの結婚難の理由を考える上でなるほどと頷ける話ではあります。
女医さんにとっては教育期間が世間の平均より長くなりがちなことや多忙であり出会いの場が少ないことなど不利な要素ばかりが山積していますが、女性の社会進出が当たり前になっている時代であるだけに、優秀な女性の資質をどう後代に伝えていくのかと言うことも社会的な課題になっていくのでしょうか。

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2017年2月10日 (金)

あなたは狙われている、わけではないらしい

日本では一般にチップの習慣がないだけに海外旅行となるとつい迷うところがありますが、ことアメリカにおいては従業員にとっての労働の対価の一部であり、サービスが悪かったからとチップを減らすのはよろしくない、その場合はマネージャーに文句を言うべきだと言う声もあります。
一方で現実問題として従業員の人種や性別などサービス以外の要因でチップの額に差が付くと言う生々しい傾向もあるのだそうですが、そんなアメリカで先日大いに話題になっていたのがこちらのニュースです。

「ゲイにチップはあげない」女性客がウエイターにメッセージを残す(米)(2017年01月31日テックインサイト)

「『ゲイだから差別をされても当たり前』という社会になってほしくはない」そう訴えるのはつい先日、自身が辛い差別行為を受けたカイル・グリフィスさんだ。1月17日、カイルさんはいつものようにウエイターの仕事に従事していたが、2人の女性客に残酷な差別発言が書かれたレシートを残されたという。米メディア『WDRB.com』が伝えている。

17日、米ケンタッキー州ルイビルのウエスト・ポートにある「Buffalo Wild Wings(バッファロー・ワイルドウイングス)」というレストランで、カイルさんは若い女性2人の接客をした。
会計時になり、カイルさんは残り物を箱に詰め請求金額20.13ドル(約2,300円)が書かれたレシートとともに女性客のテーブル席へ持って行った。ところが最後まで丁寧な接客をしたカイルさんに、その女性2人はチップを渡すどころか心無いメモ書きをレシートに残したのだ。
「悪いけど、ゲイにはチップは払わない。神の救いが必要なんじゃないの。」
乱雑な字で書かれたそのメッセージを見た時、カイルさんは激しいショックを受けたという。「僕は家賃や水道光熱費、食費など生活費全般をチップに頼っているんです」とカイルさんが言うように、アメリカでは客からの日々のチップが生活費になっているという人は決して少なくない。カイルさんはこのメッセージを書いた女性客の名前は伏せ、この出来事を写真に撮ったレシートと共にFacebookに投稿した。
翌日、思ってもいなかった反響が寄せられていることに気付いたカイルさんは、たくさんの人がシェアしてくれたことに喜びを感じながら『WDRB.com』のインタビューでこのように話した。
「僕はこの出来事が嘘ではなく、毎日どこかで誰かに起こっている真実なのだということをみなさんに伝えたいのです。このような理由のない差別行為は止めなければいけません。」
24日の夜にはレストラン側が「この出来事を実に遺憾に思う。今後は一層、お客様と従業員へのリスペクトの念を持ち、より良いサービスが提供できるよう心掛ける所存だ」という声明文を発表し、カイルさんにも全面的にサポートする姿勢を見せている。
また、カイルさんが投稿したFacebookにも様々な励ましのコメントが寄せられたそうだが、なんとそこにはレシートにメッセージを残した本人と思われる女性客からもコメントがあったという。「ジョークだった。ジョークにするべきことじゃなかったし申し訳なく思っている」といった内容が書かれてあったそうだ。これに対してカイルさんは「他人のセクシャルな嗜好をジョークにするべきではない」と述べたものの、その後は攻撃的なコメントが相次いだために現在は非公開になっている。

アメリカでは時に、驚くほどの金額をチップとして与えてくれる親切な客もいる。その一方でチップは「黒人には渡さない」と言われたウエイトレスや「市民にしか渡さない」と言われたウエイトレスも存在するように、肌の色や国籍で判断する客はあとを絶たない。今回カイルさんが訴えるように、こうした差別がなくなる日が果たして来るのだろうか。

歴史的経緯や宗教的な禁忌などから同性愛に対する認識も文化圏によって大きく異なるもので、世界的に見てもかなり寛容な日本からするとアメリカでのゲイに対する風当たりの強さは時に不可思議なものにも見えることがありますけれども、まあ支払うかどうかの是非は別としてもずいぶんと大人げない振る舞いには見えるでしょうかね。
文句があるならサービス提供を断るべきで、サービスを受けておいて対価を支払わないのは食い逃げと同じだと言うもっともな声もある一方で、店側が従業員を全面的にサポートすると言っていることに対して、そもそも店側がきちんと給料を支払ってチップ頼りの生活に追い込まなければよかっただけの話と言う声もあり、チップ制度そのものの是非にも議論が拡がっているようです。
ただそもそも論として従業員がゲイであることを何故客が知ったのか?と言う疑問の声も根強くあって、昨今しばしば話題になるカミングアウトの流れを取り上げて日本でもLGBTの人々はやたらと自分の性癖を告白したがる、アメリカのゲイも同じなのではないかと言う穿った意見もあるようですが、さすがに仕事中の告白もないでしょうから何らかの言動なりファッションなりでそれと察せられるような状況だったのでしょうか。
いずれにせよ「ジョークだった」と言うコメントが本当に当事者のものであったならまさにシャレにならなかったと言うことなのでしょうが、この近ごろ取り上げられることも多いLGBTとカミングアウトと言う話題に絡んで先日こんなニュースが話題になっていたことを紹介してみましょう。

ミッツ・マングローブ 同性愛に対する生理的嫌悪に持論(2017年2月3日トピックニュース)

3日放送の「5時に夢中!」(TOKYO MX)で、女装家のミッツ・マングローブが、同性愛を「生理的に受け付けない」とする感覚との付き合い方について持論を展開した。

番組では「突然のカミングアウト」と題して、夕刊フジが掲載した人生相談コーナーを取り上げた。相談者の男性は、入社以来20年来の同期男性から「実はゲイなんだ」をカミングアウトされたそう。その場は「関係ないよ」とやりすごしたが、翌日からはどう付き合っていいかわからなくなり、頭では理解できても「生理的に受け付けない」と吐露している。

スタジオでは、同性へのカミングアウトが議論に。ミッツは男性の場合は同性の友人からカミングアウトされた場合、「自分が恋愛対象として狙われるんじゃないかって勘違い」をしてしまうと指摘する。「その辺の(思考)回路が若干図々しいというか」「別に男なら誰でもいいわけではないよ」と否定した。

また、同性愛への「生理的に受け付けない」感覚について、ミッツはそうした感覚が湧き上がってしまうことは「しょうがない」とし、否定するのは「不自然」とも語る。セクシャルマイノリティの人々はそうした違和感、嫌悪感とも「上手に付き合っていかなければダメだ」といい、「偏見だ、差別だ」と批判するだけでは「前に進まない」というのだ。

一方で異性愛者の側も、生理的な嫌悪感をどのように表明していくかは考えるべき課題とし、そうでなければ「差別とかが生まれてしまう」と懸念を示していた。

性的嗜好に限らず人間人それぞれの好みや考え方の問題があって、自分と異なる考え方を不快に感じること自体は特におかしな話でもありませんが、そうであるからこそ一般的に意見が分かれそうなものに関しては直接的な意見の開陳を避けると言うのも人付き合いのテクニックとして広く習得されているもので、例えば政治向きのことなどはそうそう不特定多数を前に話題にされることはありませんよね。
同様に自分は○リ○ンだ、おっ○い○人だと言ったこともプライベートならまだしも、職場などでそう簡単に語り合うような話題でもないと思うのですが、近ごろでは職場や学校でカミングアウトしたら引かれてしまったと言ったニュースが目立つこともあって、LGBTとは自分の性癖を語りたい人達なのか?と考える人も実際少なからずであるようです。
LGBT自体にさほど拒否的でない人であっても、実際にカミングアウトされたとして「それで一体何をどうして欲しいの?」と疑問に感じるだろうと言う声は少なくないようで、特に個人的に親しい関係である場合ほど今回の「もしかして狙われているのかもと感じる」と言う指摘と同様の感想を抱きそうだと言う人は少なくないのでしょうね。

とある調査によれば不利益を被らないなど条件さえ整えばカミングアウトしたいと考えているLGBTの人は実に4割以上もいるのだそうですが、当事者の声を見てみるとその理由としてトイレなど実際上の不便を感じる場面が多いと言うこと、特に保険や社会保障、福利厚生などの面で異性の配偶者を当たり前の前提にしているケースが少なくないと言う現実があるようです。
更衣など同性同士だからとあまり気兼ねなく脱いでしまうのが当たり前のような扱いですから、男性更衣室に女性が一人放り込まれている状況を考えると確かにその困惑ぶりは理解出来ようと言うものですが、この辺りは当事者の声を聞くと実益もさることながら隠し続けることでのストレスも極めて深刻である一方、カミングアウトすることへの不安も相当強いそうで、カミングアウトなどしなくていい社会が理想だと言うのも判る気がします。
ちなみにゲイ向けのアドバイスをまとめたサイトなどでもまずは組織に対してよりも個人に対しての、特に親しい相手へのカミングアウトから始めよと書かれているものが多いようで、その理由としては思ったような結果が得られなかった場合の不利益が最小化出来る可能性があるからだと言うことのようですが、つまりは親しい友人だけにそっと打ち明けると言うのも別に狙っているからと言うわけでもないと言うことですよね。
なおカミングアウト後に後悔したと言う声も少なからずありますが、その中でも特に多かったのがまさにこの「自分を狙うのはやめてくれ」と言う反応だったそうで、つまりはマニアックな趣味がバレした時に投げかけられる冷たい視線に傷つくのと同じような状況であると考えると理解しやすいのかも知れません。

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2017年2月 8日 (水)

旧帝大歯学部でも留年続出…は決して珍しい話ではないのだそうで

少し前から密やかに出回っていたのだそうですが、先日ついに表立って登場したのがこちらのニュースです。

東北大歯学部、留年が突如1割超 卒業試験で不合格続出(2017年2月7日朝日新聞)

 東北大学歯学部が6年生を対象に実施した2016年度の「卒業試験」で、これまでほとんどゼロだった留年生が突如、1割以上生まれた。約50人のうち留年したのは6人で、1割を超える「留年率」は国公立大学としては異例の高さ。東北大は「たまたま水準に達しない学生が多かったため」と説明している。

 歯学部によると、実際に患者を診ながら知識や技術を習得する必修科目「臨床実習」の試験は、事実上の卒業試験とされる。昨年10月中旬に実施され、約半数にあたる二十数人が不合格となった。11月中旬の追試験を経て、最終的に6人が不合格となった。

 歯学部は16年度から、それまでの卒業試験の出題形式を一変させた。以前は13の診療科ごとに口頭試問も交えて合否を決めていた。これを国家試験と同様に、全診療科分の選択式問題をまとめて解答させる形式に変更。国家試験を強く意識したものとなった。

 さらに以前の再試験は不合格科目だけを受け直せば良かったが、16年度からは合格した科目でも一律に受け直す形に変更。学生によると、こうした変更は試験直前に伝えられ、対応が難しかったという。

数年前に広大医学部の神経解剖学で本試験で6人しか合格出来ず、追試験を受けた120人全員が不合格になると言うニュースが出て話題になりましたが、広大のケースでは例年本試験と追試験で同様の問題が出ていたためほとんどの学生が追試験合格を目指していたのに対して、突然全く違う問題が出るようになったため対応出来なかったと言います。
この種の試験と言えばおよそ試験対策を行ってから受験するのが普通でしょうから、いきなり出題形式ががらりと変われば合格率も落ちるだろうとは予想出来るところですが、注目されるのがその内容が国家試験形式になったと言うことで、国立大の卒業試験も国試対策と位置づけられるようになったのかと言うことですよね。
東北大医学部では2015年に全国国公立歯学部で最低クラスの国試合格率を記録しているのだそうで、持ち直したとは言え昨年も必ずしも高い数字ではなかったと言うことですから、学内でも相当な危機感があったのかも知れませんが、この程度の留年率は国公立大学においても全く珍しいものではないとも聞きます。

ちなみに国公立歯学部の学生が6年間ストレートで卒業出来る率は6-7割程度なのだそうですが、医学部においても7割前後だと言いますから意外と歯学部凋落説も当てにならないのか?とも感じるのですが、昨年に全国医学部長病院長会議が発表したデータによれば、2008年に比較して2014年では医学部1年生の留年率が実に1.74倍に急増しているのだと言います。
その背景として医学部定員増加やいわゆる地域枠等の拡充など様々な要因が挙げられていますが、単純に医学部での教育が厳しくなってきていると言うこともありそうで、その背景としてかつてと比べて新卒医師に求められる知識や技能の水準が高くなってきていると言う見方もあります。
医学部学生の学力低下が医師の質低下につながると言う声は根強くありますが、もともと高かった医師国試合格率が特に下がってきたと言う傾向もなく、国試がふるい分けとしての機能を果たしていない以上、大学での進級・卒業のハードルを高くしていかなければ質を保てない、などと大学の先生方が考えているのだとすれば、学生にとってはいい迷惑と言うしかないでしょう。
もっとも医学部のエライ先生方はちょうど新専門医制度がどうなるか気になっているはずで、いきなり制度激変などと言うことがどれほど迷惑な話かは身をもって知っていらっしゃるはずですから、東北大歯学部のようにいきなり試験を大幅に変えて学生を困らせるようなことは考えもしないのだと思うのですけれどもね。

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2017年2月 6日 (月)

白玉団子を喉に詰めるなら白玉団子を食べさせなければいい、は確かに正論ですが

司法判断として妥当なのかどうかは意見が分かれるところだと思いますが、先日こんな判決が出ていました。

給食の白玉で窒息「予見できず」(2017年2月2日共同通信)

 栃木県真岡市の市立小の当時1年だった飯沼晃太君が給食の白玉団子を喉に詰まらせ、死亡したのは市が安全管理を怠ったことなどが原因として、両親が市に損害賠償を求めた訴訟で、請求を棄却した2日の宇都宮地裁判決は「誤嚥する危険性は予見できなかった」と認定した。
 吉田尚弘裁判長は判決理由で「当時7歳の健康な児童に対し、直径約2センチの白玉団子がほかの食品と比べて誤嚥する危険性が高いというのは困難で、半分ないし3分の1にして提供する義務があったとはいえない」と指摘。
 救護措置については「速やかに救急通報しており、救命するため行うべき処置をした」とした。


児童だんご窒息 過失認めず(2017年2月2日NHK)

7年前、真岡市の小学校で1年生の男の子が給食で出た白玉だんごを喉に詰まらせて、その後死亡し、遺族が真岡市に損害賠償を求めていた裁判で、宇都宮地方裁判所は「小学校や給食センタ-に過失があるとは言えない」として遺族の訴えを退ける判決を言い渡しました。
平成22年2月、真岡市の亀山小学校で当時小学1年生の飯沼晃太君が給食の白玉だんごを喉に詰まらせて重体となり、その後死亡しました。
裁判は、晃太くんの両親が真岡市に管理上の責任があったとして慰謝料や介護の費用などおよそ8400万円の損害賠償を求めたもので、真岡市は市に明らかな過失はなかったとして争う姿勢を示していました。
(略)
判決のあと父親の健一さんは県庁で弁護士とともに会見を開き「判決は非常に残念で、このままだと晃太が亡くなったことが無駄になってしまうという思いです。行政にはきちんと対応してもらいたかった」と話し、近く控訴するとしています。
事故を受けて、真岡市は5年前から年に1回、全教員を対象に3時間をかけて心肺蘇生法やAEDの使い方、気道に異物が詰まった時に除去する方法を学ぶ講習会を始めました。
教員は少なくとも3年に1回講習を受けるよう義務づけられています。
また真岡市の給食センターでは白玉だんごの他、同じような形状のうずらの卵やミニトマトなどを直径おおむね1センチ以上の食材を給食に出すことを中止しました。
それ以外でも、形が大きい具材は小さく切るなど、事故を防ぐための対応を行ってきたということです。


給食の“白玉団子”で窒息死、父思い語る(2017年2月2日日本テレビ)

栃木県真岡市で給食の白玉団子をのどに詰まらせ、その後、亡くなった小学生の男の子。遺族側は、市に対して損害賠償を求めて提訴し、2日判決が出た。男の子の父親がその思いを語った。
(略)
提訴から4年、迎えた判決の日。宇都宮地裁は、飯沼さんの訴えを棄却した。白玉団子に食品としての危険性はないと判断した。判決後、飯沼さんは―
「こういう結果になったのは現実あると思うんですけど。多分このままだと、また変わらないっていう」「行政の中で変わっていかないと、事故が起きそうという気が自分はあるので、それを防ぐには行政がちゃんと色々なことに取り組んでやってもらいたいというのが一番」
消費者庁によると、食べ物をのどに詰まらせたことによる9歳以下の子どもの死亡事故は、2015年は19件起きている。こどもの窒息事故を防ぐにはどうしたら良いのだろうか。専門家は―
「小さい子どもがなぜ窒息しやすいかというと、1つはのみ込む機能がまだ未熟である。小さい子供の場合、歯が十分に生えていないため、十分かみ切ることができなくて、そのままのみ込んでしまう、こういうことが窒息を引き起こす原因と考えられる」
みたらし団子やミニトマトなど弾力があって丸いモノに注意が必要で、小さい子どもには細かく切ってあげることが大事だという。
そしてこの時期に注意したいのが節分の豆。歯が生えきっていない小さい子どもは、豆を完全にかみ砕くことができないため、破片が気管に入ることが多いという。
消費者庁は、3歳頃までは豆類を食べさせないよう注意喚起している。

人類の歴史を振り返ればおよそあらゆる食品には誤嚥や窒息の事例があるでしょうから、予見可能性があったと言うことは出来るでしょうが、ではその対応策はどうなのかと言われれば今回真岡市では直径1センチ以上の食材は給食に出さないと言うかなり妥協的な対策を実施していると言うことです。
細かく刻もうが流動だろうが誤嚥する人は誤嚥し窒息するのですから、根本的な対策と言えばそもそも給食を出さない、ものを食べさせないと言う結論に行き着くしかなさそうですが、学校が午前も午後も行われている以上食べずにいると言うことは困難であり、仮に弁当持参にしたところで学校内で窒息誤嚥などを起こせば同様の紛争になる可能性は十分にあるわけです。
給食がなかった初期の学校では家が近所の学童は自宅まで昼食に帰ると言うこともあったそうですが、21世紀の日本においても学童の食事は各自が自己責任で自宅なりで取ると言うのがご遺族の求める抜本的な対策と言うことになるのかどうか、いずれにしても真岡市の給食はずいぶんと様変わりしたものにはなりそうですよね。

ところで今回の学校内で起こった窒息事件では学校側の対応は妥当であると判断されたようですが、救急車を呼べばokと言うのはさすがに医療機関では成り立たないでしょうが、世間一般における責任の追及に関して一定の歯止めとして考えるべきかです。
こうした場合難しいのは同市では今後教員に救命救急処置の講習を義務づけると言うことなのですが、それによって専門的知識を持っていることが当たり前と言うことになれば今後は責任追及の要求される水準も高くなる道理で、また同じような事故が起き対策を講じればさらに高い水準の対応を当然視されと、果てしがないですよね。
また当然ながら人間には個人差と言うものがあり、誰かにとって何でもないことでも別の誰かにとっては重大な問題となることはままありますが、固形物が喉に詰まる子供がいるかも知れないから給食は全てペースト食だけにしますでは、まあ大抵の子供にとってはあまり愉快なものではないだろうとは思いますし、かといって一人一人の好みや希望に個別に対応できる状況にあるのかどうかです。。
医療機関や介護施設内ではこの種のトラブルは決して珍しいものではなく、実際に裁判においても専門家なのだから高い水準の要求をされて当然だと受け取れる判決が見られるようですが、医療機関の側にとっても一定以上のリスクだと判断されれば回避せざるを得ないのは当然ですから、正しい対策を突き詰め過ぎることは誰に取っての幸せにもつながらないと言う声も根強いのは仕方がないのでしょうね。

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2017年2月 3日 (金)

世間で人気の健康食品、あれもこれも効果が否定される

まあそうなんだろうなと感じるのが、先日出ていたこちらの記事です。

「水素水」はただの水!? 国民生活センターが衝撃調査 メーカー側に反論聞いてみたら…(2017年1月23日産経ニュース)

 ブームが続く「水素水」について、国民生活センターが実施した調査が話題を呼んでいる。飲用水素水として売られる一部商品で開封時に水素ガスが検出されないなど驚きの結果が出たのだ。水素水は「ただの水」との指摘もあるなか、企業サイドの“反論”を聞いてみた。(夕刊フジ)

 調査は昨年9~11月に実施。ネット検索で消費者が目にする機会が多いと考えられる「飲用水素水」10銘柄と「水素水生成器」9銘柄について、水素濃度などを調べた。
 「飲用水素水」の調査では、開封時、水素ガスが検出されなかったのは2銘柄。パッケージに表示された充填(じゅうてん)時や出荷時の水素濃度より、実際の測定値の方が低かったのは3銘柄あった。
 こうした結果に飲用水素水の販売業者は“反論”も見せている。
 開封時、水素ガスが検出されなかったとされた「逃げない水素水36」(500ミリリットル)。製造する奥長良川名水の担当者は「私どもの商品は『開封後』に水素が発生する仕組み。体内に取り込むことによって発生するほか、開封2日目で水素が発生することも確認している」と説明する。
 同様の指摘を受けた「日田天領水」(同)を製造する日田天領水にいたっては、「(商品パッケージに)『天然活性水素水』との表示があるので調査対象となったようだが、そもそも原材料に水素ガスは入っていない。商品は『水素水』として売っていないのだが…」と困惑気味だ。
 一方、「水素水生成器」の調査では、生成直後、説明書などに表示された値より測定値が低くなるとされたのは3銘柄あった。
 その一つである携帯型「充電式高濃度水素水生成器」を販売する「日省エンジニアリング」の担当者は、「うちの製品は乾燥した状態で出荷しており、使い始めは(発生水素は)米粒ぐらいの気泡に止まるが、何度か使うことで濃度が上がる」と説明。水温などによっても濃度は変わってくるという。

 水素水は美容やアンチエイジングなど「健康にいい」というイメージで人気を集めているが、事業者アンケートでは、水素水の飲用により期待できる効果としては「水分補給」が最も多かった
 だが、水素水ビジネスでは、水素濃度が高いことを“売り”にしているケースも多い。
 国民生活センターは調査報告で、「水素水には公的な定義などはなく溶存水素濃度もさまざまだ」などと指摘。効果・効用については「特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として許可、届け出されたものは現在のところはない」と消費者に呼びかけた。
 また、事業者には、一部の商品パッケージ、広告で、健康保持増進効果などがあると受け取れる記載があったとして、「医薬品医療機器等法や健康増進法、景品表示法に抵触する恐れがある」と改善を要望した。
 法政大の左巻健男教授(理科教育)は「飲むことで取り込める水素は微量に過ぎず、体に及ぼす影響はほとんどないといっていい。水素水は『あらゆる病気に効く』とか『アンチエイジングに効く』などと言って売られているが、健康効果に関する医学的根拠はない。水素水はいうならば『清涼飲料水』だ。こうした点を認識した上で、購入するかどうかだ」と指摘している。
 消費者はどう判断するのか?

そもそもこの水素水なるものが体にいいのかどうかと言う話は触れないものとして、聞くところでは水素を溶け込ませた正しい?水素水であっても水素は非常に抜けやすく、ペットボトルに密封していても時間が経てば単なる水になってしまうと言うことですので、あくまでも製造時には水素水でしたと言うことでしかないようです。
今回の調査も製造後どれだけの期間が経っているかを統一して調べなければあまり意味のないことだと言えますが、ただいずれにせよ実際には飲用時に水素水ではなくなっている可能性も高いわけで、これが経時的劣化によるものなのかそれとも製造時から(以下略)なのかはユーザーレベルでは何とも言えない話ですよね。
水素水などはいずれ一過性のブームに過ぎないのであって、有害無害など論ずるにも足りないと達観していらっしゃる方もいらっしゃるかも知れませんが、昔からの定番商品とも言えるあれについても先日こんな話が出ていたことを紹介してみましょう。

健康食品「ウコン」(ターメリック)には薬効はないことが判明(2017年01月30日Gigazine)

黄色い見た目が特徴的な「ターメリック」、またの名を「ウコン」は、日本では二日酔いに効くとされ、本場インドでは傷薬や虫刺され、ひいては「ガンに効く」とまで言われています。カレーの原料としても知られるウコンは民間療法にも用いられる万能プレイヤーとして認識されているのですが、実は医学的な効能は認められていません

A large scientific review study shows that curcumin in turmeric has no medicinal properties — Quartz

ウコンにはさまざまな種類が存在しており、日本でもカレーの原料として広く知られるウコンは「秋ウコン」と呼ばれており、苦みが少ない特徴があります。一方、健康食品として用いられるのは、苦みがあって黄色が強い「春ウコン」で、中に含まれているクルクミンに効果があると考えられてきました
しかし、ミネソタ大学の研究チームによる論文では、クルクミンに含まれる物質について「不安定かつ科学的に反応性が高く、体内に吸収できない化合物であるため、(薬剤の開発に役立つ)可能性は極めて少ない」とする結論を導き出しています。薬剤の検証が行われる際には、多くの場合で特定のタンパク質に作用する能力についての検証が行われます。そして、クルクミンの化学組成には、実際にはタンパク質に作用していないにもかかわらず、あたかも効果があったかのような結果「False Hits (偽の結果)」をもたらす効果があることが明らかになっています。
このような特性は人々にクルクミンの効果を期待させ、さらに間違った期待をもとに研究が進められるために、不要な予算が消費されることにつながります。この結果についてミネソタ大学のマイケル・ウォルターズ博士は「クルクミンの一件は私たちに対する教訓です」とコメントしています。このような特性を持つ物質はPANIS(pan-assay interference compounds:広範な試験法に干渉する化合物)とも呼ばれ、科学的な誤解を生む物質として注意すべきものとされているとのこと。

医学誌「Journal of Medicinal Chemistry」の共同編集長を務めるガンダ・ゲオルグ氏は、「多くの労力と資金がクルクミンの研究に浪費されてしまいました」と、クルクミンを取り巻く誤解と混乱を語っています。しかしその結果はまだまだ十分に周知されておらず、いまでもクルクミンの効能についての論文が次々と寄せられているといいます。
最新の研究からは、クルクミンの効能は「プラシーボ効果」に等しいともいえる結果が出ているとのことですが、一方で「クルクミンの研究はまだ十分ではない」として、さらに掘り下げた調査を行うことで、PANISであることを踏まえた理解を目指す研究も行われているとのこと。しかし前出のウォルター博士は「クルクミンの研究に投じられるリソースを、他に研究されるべき何千という化学物質の研究に投じるべきである」としています。

有益な効果があるのかどうかはひとまず置くとしても、臨床的な知見からはウコンに全く効果がないとも思えない部分があって、ウコンを主原料とする健康食品が原因と思われる肝障害などは日常臨床でも経験することがありよく知られたものですよね。
有害な作用があるくらいですから何かしら有益な作用も及ぼす可能性は否定は出来ないと言うことになるのでしょうが、当然ながら損得勘定としてどちらがより有用なのかと言うことが薬物としての価値を大きく左右するもので、今のところは有益な作用はさほど期待出来ず有害作用は重大なものがあると言う、やや期待感に乏しいものであると言う結論になるでしょうか。
健康食品の類に限らず何であれ有害な副作用が出ることはあり得ることですし、一般的には有益なものであっても人によっては有害であると言うことも珍しくありませんから、自己判断で使用することまでは仕方ないとしても、病院などで服薬歴などを訊ねられた際にはこれらについてもなるべくきちんと申告しておいた方がよいかもですね。

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2017年2月 1日 (水)

クレーマー的親族の存在は患者の不利益に

恐らくは小児診療に限った話ではないと思うのですが、先日こんな記事が出ていました。

医療スタッフに対する親の態度が小児の治療に影響(2017年1月20日HealthDay News)

 新生児集中治療室(NICU)では、患者の親が医療スタッフに横柄な態度を取ると、医療の質が低下する可能性のあることが新たな研究で明らかにされた。研究共著者の1人である米フロリダ大学ウォリントン経営大学院のAmir Erez氏は、「医療分野では、社会的相互作用が仕事に及ぼす影響について全く注目されていない」と指摘している。

 今回の研究では、イスラエルの教育病院で、4つの医療チームに丸1日分に相当する5つの救急医療のシナリオを実演してもらった。そのうち3チームは、1日のはじめに「母親」役から診療内容について強い言葉で非難を受け、残りの1チームは「対照群」とした。
 非難を受けた3チームのうち1チームは何も準備せず、1チームは事前に敵対的感情に対する感受性を和らげることを目的としたコンピュータゲームを行い、1チームには非難を受けた後でその出来事について書いてもらうことにより影響を減らすことを試みた。
 以前の研究では、権威ある人からの不作法な態度が医療チームの仕事に影響を及ぼすことが示されていたが、今回の研究では、親の態度も医師や看護師の決定を誤らせる原因となることが示された。しかし、事前にコンピュータによるトレーニングを受けると、負の感情に対する潜在的な耐性が向上し、対照群に劣らない仕事ができることもわかった。書くことによる便益はみられなかった。
 この研究は「Pediatrics」1月号に掲載された。

 米国小児科学会(AAP)のBrian Alverson氏は、「人として感情的になると、論理的な思考が難しくなるのが現実である」と述べている。米クリーブランド・クリニックのJessica Madden氏は、NICUではほとんど知らない人同士でチームを組み、ストレスの多い環境で治療に当たることが多いという事実も、問題を悪化させていると付け加えている。現在は新しいチーム内でのコミュニケーションに焦点を当てた研修が実施されているが、患者中心の医療モデルで親が介入してくることは考慮されていないと、同氏は指摘する。
 しかし、一瞬の判断が生死にかかわるような状況に直面しているわけではない他の部門にも今回の知見を適用してしまうと、実際の病院システムの問題を軽視することにもつながると、Alverson氏は言う。「家族が無礼な態度を取ってくるときは、多くの場合こちらに何らかの原因がある。自分たちの姿勢を見直し、患者を喜ばせるにはどのような診療を行うべきかを考える機会の損失となる」と、同氏は付け加えている。

結論部分についてはまた異論のある人も多いのではないかと思うのですが、エライ人から介入されると仕事の効率が下がる、顧客からのクレームが入っても仕事の効率が下がると言えば別に医療に限った話ではなく、どこの業界でも当たり前に起こり得る話だと思うのですが、何故そうなるのかと言う部分には多少の解釈の余地があるのかも知れませんね。
職業人としては「あの家族は態度が悪いから」と意識的に手を抜くと言うことはあっていいことではないのでしょうが、少なくとも職務上求められる義務的な作業以外のプラスアルファの部分で余計なサービス精神を発揮しようとは思わなくなることはありそうですし、医療の現場とはこうした余計な労力を発揮してくれることが前提でようやく回っている部分が少なくありません。
一方で家族の側からするとクレームをつけることで何らかのよい対応を期待しても全く無駄であるか、むしろ黙っていた方がましであると言う解釈も成り立ちそうですが、この辺りは同じような内容であっても横柄ではない態度での指摘なら受け入れられるかも知れずで、診療上の不満についての伝え方と言うものも検討してみる価値はあるのかも知れません。

今回の話で興味深いのは結果そのものよりも後段の解釈の部分にあるように、「患者中心の医療モデルで親が介入してくることは考慮されていない」と言う医療現場の現実が存在していると言うことで、確かにクレーマー的な家族が介入してくることに対するマニュアルと言うものは一般に存在せず、その場その場で現場が凌いでいるのが現実ではないでしょうか。
少なくとも悪い態度での介入は医療にも悪影響があると言うことですから、医療を成果や効率性の点から考えるなら患者本人の為にもこうした介入は阻止すべきであると言うのが結論になるかと思いますが、他方で患者の救命が難しいと言った局面の場合、結局は患者本人よりも家族の満足度の最大化を医療のエンドポイントに設定せざるを得ないと言う場合も少なくないわけです。
こうした場合にクレーマーだからと家族を隔離しておくと言うわけにもいかないでしょうから、いかにしてその影響を緩和するかと言うのが医療側の対策になるかと思うのですが、今回の研究でも相応に有効性が示されたと言う対策はあると言うことですから、医療現場でどう活用するかと言うことを考えていくべきなのでしょうか。

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