心と体

2020年1月20日 (月)

病院もキャッシュレス化のすすめ

今年はオリンピック開催もあって海外からの訪日客増加が見込まれていますが、それに伴いいくつか不具合もありそうだと懸念されているようです。

訪日客トラブルに保険続々 病院不払いやSNS炎上(2020年1月14日共同通信)

 訪日観光客の急増を受け、受け入れに関わる国内事業者と旅行者のトラブルに備えた保険商品が多様になっている。外国人の医療費不払いに見舞われる病院や、会員制交流サイト(SNS)が悪評で染まる「炎上」に悩む飲食業などの需要が拡大しているためだ。東京五輪・パラリンピックで訪日客がさらに伸びると騒動も増えかねず、損害保険大手による商品開発競争は加速しそうだ。

 観光庁の2018年度の調査では、滞在中のけがなどに備える海外旅行保険に加入済みの訪日客は7割程度。日本でのトラブル防止へ官民で加入を呼び掛けた結果、損害保険ジャパン日本興亜がインターネットで扱う旅行保険は18年度の加入者数が前年度の1・8倍に伸びたものの、客の急増に追い付いていない。

 「ノーマネー」。厚生労働省によると、急病で診療を受けても支払いを拒んで帰国する客が後を絶たない。そこで、あいおいニッセイ同和損害保険は外国人患者に特化した「医業未収金補償保険」を昨年、医療機関向けに発売した。一定額まで不払いを補い、治療費回収は同社が代行する。東南アジアからの訪日客の入院治療費が1千万円を超えた例もあり、反響は大きいという。

 三井住友海上火災保険は中国の保険会社と提携し、日本での医療費をキャッシュレスでカバーする保険を中国で発売。取り扱いを伸ばしている。
(略)

この医療機関での未収金問題、以前から当「ぐり研」でも何度か取り上げてきたところですが、特に無保険者が多い外国人の未払いを2割の病院が経験していると言います。
日本の医療機関はある時払いの性善説に立つ施設が多く、未収金に対しても強く支払いを迫ってこなかった経緯もありますが、そうであるなら対策を講じるべきでしょう。
この点でかねてクレジットカードをもっとうまく活用できないかと思っているのですが、特に無保険外国人の場合原則カード提示を求めるようにすべきではないでしょうか。

海外ではクレジットカードによるデポジットが広く活用されていて、あらかじめ提示しておいたカードによる支払いでも現金払いでも精算時に選べるようになっています。
現金払い文化が広く蔓延している日本では従来カードの活用があまりされていませんでしたが、消費税増税を機にキャッシュレス決済導入も進められているご時世ですよね。
残念ながら医療業界は特にキャッシュレス化の遅れた業界の一つとされていて、国民からも現金払いしか出来ない不便さを最も痛感する場所だと認識されているそうです。
キャッシュレスの便利さはすでに認知されつつありますが、病院などはむやみに長くなりがちな会計の待ち時間対策と言う点でもかなり強力な売りになりそうですけどね。

病院待ち時間なくすクレカ ライフカードと京大病院(2019年8月8日京都新聞)

 アイフル子会社のライフカードと京都大医学部付属病院(京都市左京区)は、病院会計の待ち時間を省く「エクスプレス会計」機能を付けた提携クレジットカードを発行した。診察後に専用窓口へカードを提示すれば、その場での会計が必要ない

 東京の7病院で導入しており、西日本では京大病院が初めて。診察券とひも付いた提携クレジットカードを、診察後に専用窓口へ提示するだけで帰宅できる。支払いは後日、登録した口座から引き落とされる。

こちらのシステムの場合患者にとっても会計の待ち時間が減らせると言うメリットがありますが、運用の仕方によって実質的なデポジットとしても活用出来そうです。
別に専用のシステムでなくとも同様のやり方はどこででも出来そうなものなのですし、医療機関にとってもマンパワーの点からのメリットもありそうに思いますね。
ただ現状では手数料負担が課題で、零細事業者や利益率の低い業界でカード手数料負担は厳しいものですが、実は多くの医療機関はまさにこれに該当すると思われます。
その点であまり利用されすぎても困るのも本音かも知れませんが、未収金対策だけではなく患者にとってもメリットのあることなら誰はばかることなく導入しやすいですね。

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2020年1月14日 (火)

応招義務があるからどんな患者も受け入れなければ、と言う間違った呪縛

上司としての在り方が職場の士気に大いに影響することは言うまでもないことですが、こちら職場のみならず全国的に称讚を集めた事例です。

店長になったのでクレーマーを全員出禁にしたら…(2019年12月17日ライブドアニュース)

飲食店やコンビニなどで声を荒げるお客と、平謝りの店員……。最近よく見かける光景ですよね。
店員さんも困るし、他のお客さんも気分が悪い。それでも悪質なクレーマーが減らないのは、店の責任者が「お金を払ってくれるから」と黙認してしまうからでしょう。
しかし、バイトから店長になったネヴァダ(@nevadan2)さんは、バイト時代から来店していたクレーマーを全員出入り禁止にしたそうです。
その結果どうなったかというと……。

バイト時代に幅利かせてた頭おかしい客を店長になってから1人残らず出入り禁止にしたら、まともな客が三倍以上入ってきたのでクレーマーなんか追い出すに限るのだ。クソ客は他の客を遠ざけている。
-ネヴァダ (@nevadan2) July 12, 2019

なんと、クレーマーを追い出したら、集客が3倍以上にもなったそうです! やっぱり悪影響だったのか…。
この結果に称賛コメントが多く寄せられました。

出入り禁止のお客様は貧乏神だったんですね。
- JADTI (@JADTI76) July 11, 2018

素晴らしい!正しいことして利益も増える理想のカタチだと思います。クレーマーを大事にするアホな企業も見習って欲しい
- Yuichi (@yuichi_support) July 12, 2018

勇気ありますね。素晴らしい接客だと思います。酷いお客様に時間を割くより、良いお客様に時間を割いた方がお店の雰囲気も良くなります
- こけ (@kokekeoukoku) July 12, 2018

店員さんも、他のお客さんも、そして経営者も。度を越したクレーマーには毅然とした態度で接すると、みんなが幸せになれるかもしれません。

医療施設でも同じような立地、施設であっても問題患者ばかりが集まる施設や、見るからに客層の良い施設と様々ですが、少なくとも客層の悪い施設にまともな顧客が集まってくる可能性は低いでしょう。
特にクリニックなどでは長期的な経営安定のためにも客層のコントロールとは非常に重要な課題ですが、しばしば応招義務と言うものを勘違いした医師ほど問題患者に誤った初期対応をしてしまいがちです。
昨年夏に厚労省内での議論で応招義務の在り方が整理された結果、営業時間外であり緊急性もあると言う場合を除いて望まない診療を強いられずとも良いことなどがこのたび正式の通知として提示されました。


◆応招義務「患者を診察しないことが正当化される事例」整理 厚労省が通知、「公法上の義務であり、私法上の義務にあらず」(2019年12月27日医療維新)

 厚生労働省は12月25日、「応招義務をはじめとした診療治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」と題する医政局長通知を都道府県に発出した。医師法第19条第1項と歯科医師法第19条第1項に規定する応招義務は、医師や歯科医師が国に対して負う義務であり、患者に対する私法上の義務でないとしている。厚労省医政局医事課によると、国は診療に従事する医師の基本姿勢として応招義務を求めるものの、例えば、診療契約を結んだ患者について、医師が正当な理由なく診療を拒んだ場合に、それは応招義務ではなく、診療契約上の問題になるという(資料は、厚労省のホームページ)。
 他方、1949年(昭和24年)の旧厚生省通知を根拠に、医療機関が組織として、患者からの診療の求めに応じて必要十分な治療を行うことが求められ、正当な理由なく診療を拒んではいけないとも明記している。

 医療機関や医師個人が、診療の求めを拒むことが正当化される理由として、緊急対応の必要性が最も重要な考慮要素だが、それに加えて診療時間・勤務時間内であるか否か、患者との信頼関係があるか否かも重要な考慮要素であるとした。緊急対応が必要な場合かつ時間内の場合には、「事実上診療が不可能と言える場合」にのみ正当化されるとした一方、緊急対応が不要で時間外の場合、かつ患者の迷惑行為がある場合などは新たな診療を行わないことが正当化される。
(略)
 通知では、医療機関の勤務医が労使協定・労働契約を超えた診療指示等の解釈についても記載。勤務医が協定・契約を超えた診療指示等を受けた場合に、結果として労働基準法等違反になることを理由に診療を拒否したとしても、それは応招義務違反ではなく、労務関係法令上の問題になるとの整理だ。

 「患者を診察しないことが正当化される事例」は、緊急対応が必要な場合か否か、診療時間・勤務時間内か否かの4パターンに分けて整理している。
 緊急対応が必要で時間内であれば、医療機関・医師の専門性・診察能力等を総合的に判断して、「事実上診療が不可能と言える場合」にのみ正当化される。一方、時間外であれば、応急的に必要な処置を取ることは望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない
 緊急対応が不要な場合も、時間内であれば患者の求めに応じて必要な医療を提供する必要はあるものの、緊急対応が必要な場合と比べて、正当化される理由は緩やかに解釈される。時間外については、時間内の受診依頼等を行うことが望ましいとしたものの、「即座に対応する必要はない」とした。

厚労省HPで公開された今回の通知では幾つか興味深い点がありますが、最も注目されているのが応招義務とは国に対して負う義務であって、患者に対する義務ではないことが明示された点でしょうか。
未だに時折「応招義務違反だ!訴えてやる!」と窓口で騒いでいる患者もいるやに聞きますが、この点については全く誤解であって患者に対して医師は何ら診療の義務は負わないと言うことですね。
法的には医師に応招義務があっても患者に診療を受ける権利がない以上権利侵害自体も発生しないので、応招義務違反を根拠に民事的に損害賠償請求をすることも出来ないと言うことになります。
無論診療時間内に緊急性の高い患者を、診療可能であるにも関わらず拒絶した場合、国に対して行政処分を求めることは可能ですが、その際にはどうして診療不能であったかを訴えることになるのでしょうか。

ちなみに過去にはいくつか民事訴訟上の損害賠償請求を認められた事例がありますが、今回の通知と照らし合わせてみると責任を認めるのもどうなのか?と思われるものもないではないようです。
今後はこの基準に基づいた判例の蓄積が求められますが、特に患者との信頼関係がないことも重要な考慮要素であるとされている点は、クレーマー対策として非常に心強い根拠となるでしょうね。
他方で不要不急であるにも関わらずやたらと医療機関受診を繰り返すタイプの問題患者に関しては、それが緊急性のある状態でないことを証明しない限り営業時間内の対応が求められることになりそうです。
ただこのタイプの多くは夜間時間外に何度も押しかけることが問題なので、日中の外来診療に限定して対応の義務を求められると言うことであれば多少扱いやすくはなりそうに思われますね。

ところで昨今の働き方改革を巡る議論も反映してか、今回の通知では労使協定や労基法等の範囲を超えた診療を勤務医は拒否出来るし、それは診療拒否には当たらないと言う重要な文言が示されています。
この場合は医師と患者の問題ではなく、医師と雇用者との間の問題であると言う理由からですが、限度を超えた長時間労働を理由として勤務医が救急受診の求めを拒否出来る場合もあると言うことですね。
この点で労使協定でどこまでの義務を課せられているかと言うことが非常に問題で、勤務医は今後ますます労使協定の詳細について知っていなければならないし、不当な契約は避けなければならないでしょう。
逆に労使間の問題であると言うことで、実際に診療を拒否した場合病院当局との争いになることも考えられるはずですから、いざと言う時に備える意味でも労働時間の把握と管理が必要であると言えますね。

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2020年1月 6日 (月)

高齢者の医療費負担増加はまだまだ序の口か

後期高齢者の医療費窓口負担がいよいよ2割に引き上げられそうだと言う話ですが、未だに対象者に関してきわめて限定的な条件をつけるべきだとか様々な反対意見があるようです。
個人的には単に窓口負担割合を変えるのではなく、年代に応じた医療給付の差別化こそ必要かと思っているのですが、後期高齢者に限らず医療費削減策が打ち出されることについて記事が多く出ています。

医療費改革で75歳超の薬代大幅アップ 湿布80倍、ビタミン剤76倍(2019年12月31日マネーポストWEB)

 政府は医療費を抑えるための制度改革を次々と打ち出そうとしている。その第一弾として、政府は2020年6月に自営業者や退職後の元サラリーマン(75歳未満)が加入する国民健康保険の保険料を値上げする方針だ。そして、第二弾として準備しているのが、75歳以上の窓口負担を現行の1割から2割に引き上げる案だ。
 この保険料値上げ、窓口負担増に続く医療費改革が「薬代」の大幅アップだ。これはすべての世代に影響が及ぶ。

 現行制度では、風邪を引いて病院にかかり、処方箋を書いてもらえば薬代にも保険が適用され、69歳以下は原則として薬価の3割、75歳以上は1割の負担となり、市販薬よりはるかに安く入手できる。どうしても薬の使用量が多くなる高齢者の強い味方だった。
 しかし、「全世代型社会保障検討会議」では、ドラッグストアなどで購入できる市販薬と同じような効果の「市販品類似薬」を医療保険の対象から外し、全額自己負担で買わせることを検討している。
 保険対象外となる薬の候補は、風邪薬(漢方の感冒薬)や花粉症治療薬、湿布薬、ビタミン剤、皮膚炎や乾燥肌などの痒みを取る皮膚保湿剤などが挙げられている。

 この改革による薬代の負担増は想像以上に大きい。財務省は財政制度等審議会に提出した資料で医療用医薬品(保険薬)と同じ成分・分量の市販薬(OTC医薬品)の価格を比較している。
 その資料をもとに作成した図を見ると、「全額自己負担」が現実のものとなった際に、どれだけ出費が増えるかに驚かされる。
 湿布1袋の医療保険の薬価は320円で、窓口負担1割となる75歳以上の人は「32円」で購入できる。それに対して同成分の市販薬のメーカー希望小売価格は2551円なのだ。
 腰痛や関節炎でつらい思いをして病院で医療用(保険薬)の「湿布」の処方を受けていた75歳以上の人が、湿布が保険の適用除外になって、ドラッグストアで買わなければいけなくなると、支払う薬代は一気に約80倍にハネ上がる計算である。
 同様に計算していくと「ビタミン剤」の薬代は約76倍、「漢方薬(感冒薬)」は約46倍、「皮膚保湿剤」は約22倍に負担が膨れあがることがわかる。

 年金生活の高齢者にとって風邪を引いても高くて薬が買えないという状況に直面しかねない。医師の間にも、「市販品類似薬」の保険適用を除外すれば、高齢者の薬の買い控えが起き、病状を悪化させてかえって医療費の増加を招くと懸念する声が上がっている。
 医療改革は保険料、窓口負担、薬代アップという家計へのトリプルダメージになる。

この場合医療費の公費負担削減に加えて、そもそも不要不急の受診を抑制することも狙っていることは明白ですが、確かに湿布やビタミン剤が本当に医学的に必要な人がどれほどいるのかとも思います。
世の中には自分が何か大病にでもかかっているのではないかと不安を訴え続ける患者なども一定数いて、安いビタミン剤で納得してくれるならかえって医療費が安くつくと言った意見もあるようですがどうなのでしょうね。
いずれにせよこうした改革で患者の受診行動も変化すれば、結果的に医療費がどうなるのか、国民の健康上の影響はどうなのかと言った検証も同時並行で必要となるはずで、今後の経過を見たいところです。
他方では医療費削減と言う点ではより影響が大きそうなのが高額な医療費を要する入院医療ですが、こちらも医療政策によりようやく世界水準の医療に近づきつつあるようだと報じられています。

「えっ!もう退院?」背景にある病院の綱渡り経営(2019年1月3日47ニュース)

 「家族がたった1週間で退院させられ、自宅での介護を余儀なくされた」という経験がある人もいるだろう。実際に2000年代以降、入院は大幅に短期化しているという。どういった背景があるのか。ニッセイ基礎研究所の篠原拓也氏に、公的なデータなどから読み解いてもらった。

▽入院医療費は16兆円

 医療の主要な部分を占める「入院」。病気になったばかりの「急性期」の患者や、重篤な症状の患者の医療を行う場合、さまざまな診療を効率的に行うため入院が前提となる。入院医療の質が、退院後の患者の回復や社会復帰を左右するといっても過言ではない。
 入院医療が国民の医療費に占める比重は大きい。厚生労働省のまとめでは、2017年度の医療費43.1兆円のうち、入院医療費は16.2兆円と、4割近くを占める。
 そうはいっても、「最近長く入院させてもらえなくなった」と感じる人もいるのではないだろうか。各種のデータから、その実態と理由を検証してみたい。
(略)
 (1)の新入院(患者調査を実施した日に新たに入院した患者の数)は、今も徐々に増加している。17年の新入院は人口10万人当たり44人。02年の36人から大きく増加した。高齢化が要因ではないかと筆者はみている。
 一方、(2)の入院から退院までの平均在院期間は短期化している。退院した患者の平均在院日数は、02年の37.9日から、17年には29.3日まで減った
(略)
 それでも、日本の平均在院期間は世界の国々の中でも突出している。これはOECDの入院患者の平均入院日数に関する統計をみると歴然だ。厚労省の患者調査とは算定方法がやや異なるものの、日本は2位以下の国を大きく引き離している。高齢化が進む中「なかなか退院できない」患者が未だ多いのも事実だろう。
(略)
 短期化の背景には何があるのだろうか。
 厚生労働省の第22回医療経済実態調査(19年11月発表)によると、民間の医療法人が運営する病院の18年度の利益率(損益の差額)は2.8%。前年度より0.2ポイント改善したものの、近年は1~2%台という「ギリギリ」の経営が続く。
 一方、入院診療収益のない医療法人の診療所の利益率は6.3%、個人経営の診療所にいたっては30.4%という高水準だ。つまり、入院医療は他の医療に比べて、収益性が低いのだ。病院にとって入院医療の収益性向上が長年の課題となっている。
(略)
 現在、病院の一般病棟のケースでは、入院1日当たりの基本料は、7人の患者に対して1人の看護職員が配置されている場合は1万5910円。患者が10人になると1万3320円、13人だと1万1210円だ。15人では9600円となる(公的医療保険が適用される場合、患者の自己負担額はこの金額より少なくなる)。
 ただし、この基本料の設定には、その病棟に入院する患者の平均在院日数に要件が設けられている。患者7人に1人の看護職員がいる場合、患者を平均18日以内に退院させなければ基本料は減額される。
 患者が10人になると21日以内、13人では24日以内、15人で60日以内。病院側は前述の基本料を確保するために、この要件を強く意識するようだ。
 病院の一般病棟などでは、入院から間もない患者については、基本料などに「初期加算」が上乗せされる。一般病棟の場合、加算額は、1~14日は1日当たり4500円。15~30日は1920円。31日以降は加算されなくなる仕組みだ。病院側は、加算額を得るため、日数を意識せざるを得ないようだ。2017年の患者調査では、退院した患者の7割は14日以内に退院していた。
(略)
 現在、進められている国や自治体の地域医療構想では、介護施設を充実させて入所を促す「医療から介護へ」の流れが目指すべき方向性の一つとされていることも背景にある。
 しかし、介護施設の充実のためには、用地の選定・建物の建設だけでなく、介護職員体制の整備、補助金を含む財源確保など、課題が山積している。地域ごとに事情が異なるため、それぞれの自治体で検討を進めていかなければならないものの、進み具合はまちまちなのが実情だ。
 入院を短期化できるかどうかは、地域医療構想の実現にも密接にかかわっているといえる。

ひところ話題になった救急崩壊などに代表されるように、医療と言えば真っ先に注目されやすいのが何かあったときに救急の受け入れ先はあるか、すぐ入院出来るかと言う急性期医療のキャパシティの問題です。
ただ急性期の医療を担当する基幹病院に負担が集中しスタッフが疲弊する、あるいは常時満床で物理的に受け入れられないと言った諸問題を考えれば、急性期からどう患者を送り出すかが重要な課題ですね。
地域医療構想に基づいて一部の受け入れ実績の乏しい急性期病床は、こうした急性期からの受け皿としての役割を担っていくことが求められると思いますが、この場合診療報酬が安くなると言う問題もあります。
安定し手間がかからなくなった患者であれば多大なリソースや高いコストはかけなくていいはずだと言うのもごもっともですが、受け皿として病院経営が成り立たないのであれば誰も引き受けたくないのは当然ですね。

長期入院患者の問題はリハビリに長い期間を要するなど高齢者になるほど発生しやすくなるのは記事の分析にもある通りですが、長期入院となれば患者の支払いは自己負担上限に達している場合が多いでしょう。
逆に言えば患者側にとっては病院を出て介護施設なりに移るメリットが乏しいことも、皆保険制度下の日本でこれだけ長期入院が蔓延してきた理由でもありますが、その結果として医療費も増える道理です。
こうした点を比較した場合、外来で湿布薬を保険外にすることで節約出来る程度の金額よりも、入院医療の在り方をどうにかした方がよほど医療費を削減出来そうだとは誰にでも判る話だろうとも思います。
湿布薬は薬屋で買ってねと言う話と同様、もう救急病院にいる必要はないから他所に行ってねと言う話ですが、さて患者に対してどう説明したものか工夫がいりそうですよね。

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2019年12月23日 (月)

立場が違えば見え方も異なるのは当然であり

医療費削減政策の一環として、さらに多くの医薬品を保険診療の対象から外そうと言う動きが報じられていますが、これに意外なところからクレームがついたようです。

生活保護の人々からなけなしの健康を奪う「医療券」のカラクリ(2019年12月13日ダイヤモンドオンライン)

 来年度から「市販薬類似薬」を公的健康保険の対象外とする検討が、政府で行われている。同様の検討は、過去数回行われては立ち消えとなっている。今回も立ち消えになるかもしれないが、現実化する可能性もある。
 もしも現実になると、生活保護で暮らす人々にとっては、特に大きな打撃だ。公的健康保険でカバーされなくなると、生活保護でもカバーされなくなる。街の薬局で医薬品を購入する費用は、健康で文化的な「最低限度」の生活費から捻出され、生活は「最低限度」以下になる
 費用が捻出できず購入できないと、病気の症状を放置することになる。いずれにしても、「最低限度」のはずの生活から何かが削られる。とはいえ、「医療が無料だから、不要な診察や検査や医薬品を欲しがる生活保護の人々」という俗説は根強い。一部に実在しているのも確かだ。

 実際は、どうなのだろうか。生活保護のもとで暮らす2人のシングルマザーと、生活保護で暮らす人々の医療にあたる1人の開業医に尋ねてみた。
 大都市に住むシングルマザーのリンコさん(50代)は、次のように語る。
「そうなったら……ウチでは医薬品を買えなくなるでしょうね。病気を悪化させて、『どうしても、病院に行かなくては』というところまでガマンして、結果として医療費を増やすことになるだろうと思います」
(略)
 病気を悪化させず、医療コストを抑制するために有効な「早期発見早期治療」からリンコさんを遠ざけているものの1つは、様々な「生活保護差別」だ。

 しかし、リンコさんとマミさんは今シーズン、すでにインフルエンザの予防接種を自費で終えている。生活保護の暮らしから、合計8000円以上の予防接種費用を負担する理由は何だろうか。
「罹ってしまったら、医療を受けるための時間や手間や体力や気力が必要です。交通費が必要かもしれません。脱水を予防する必要もありますし、栄養のあるものを食べる必要もあります。そう考えれば、まだ予防接種の方が安くつくんです」(リンコさん)
 極めて合理的な、素晴らしい危機管理だ。言い換えれば、リンコさん母娘の日常はそれほどの危機なのだ。私は言葉が出なくなった。
 なお、通院に必要な交通費は「通院移送費」として生活保護に含まれており、申請すれば後払いで精算される。しかし病気で心身が弱っているとき、「またケースワーカーに嫌味を言われるのか」と考えたら、申請できなくなるのが自然ではないだろうか。
(略)
 生活保護制度が発足した1950年、まだ国民皆保険制度は成立していなかった。医療を給付するために考案されたのが、「医療券」だった。
 生活保護制度が発足してから11年後の1961年、国民皆保険制度が施行された。このとき、生活保護の医療を国民健康保険に統合し、低所得による保険料や自費負担の減免の延長に、保険料と自費負担の「0割負担」を設定するという選択肢もあった。
 しかし実現させると、「もともと医療ニーズが高い」という生活保護の事情が、国民健康保険に持ち込まれる。保険料も自費負担も、軽減しにくくなるだろう。統合の検討は実際に繰り返されてきたが、健康保険側の抵抗によって実現しなかった。統合は無理でも、医療機関に「生活保護」という情報を与えない方法を考案することは可能だろう。とはいえ、もしも実現すると、ごく一部の「無料だから不要な医療を求める」という傾向が促進されるかもしれない。

 この危惧に対して、開業医として「貧」や「困」を抱えた多くの患者に接してきた医師の松尾徳大氏は、次のように語る。
「医療の原則の1つに、『オーバートリアージ(過度の救済)は許容されるべき』というものがあります。ですから、制限は設けない方が良いと思います」(松尾さん)
 生活保護の「医療券」制度による受診控えや治療の遅れは、医療の利用抑制につながっているかもしれない。でも結果として、健康に大きなダメージを与えがちだ。松尾さんが医師として問題視するのは、患者の健康と生活と幸福が損なわれていることだ。もちろん結果として、より多額の医療費も必要になる。
「いわゆる“不公平感”を抱く方々も多いことは承知していますが、普遍的な社会保障の1つであるということを、皆さんにご理解いただくしかないかなあ、と思っています。誰もが、当事者になり得るのですから」(松尾さん)
 今、健康保険料を支払うことができているのなら、市販薬類似薬の健康保険からの除外は「仕方ない」と受け止めることが可能かもしれない。でも生活保護の当事者が、薬を買えなくなると何が起こるのか。少しだけ、そういう毎日を想像してみよう。

医療現場の方々の実感とはかなり異なる部分もあるのではないかと思うのですが、もちろん世の中広いですからこうしたことで実際に困っていると言う方々もいらっしゃるかと思います。
ただ一般論にどんな制度であれ国民全てに久しく完璧で素晴らしいものにはならないのは仕方のないことで、そうであるからこそなるべく多くの方々に許容出来る妥協点を探すと言うのが政治の仕事でしょう。
その意味ではどこまでを保険薬の対象から外すべきかと言う議論は引き続き必要ですが、一定程度市販薬へ移行していくことについては国民負担との兼ね合いで許容される妥協点ではないかと思いますね。

この種の多くの人々は許容しているが特定の立場から見れば大問題と言うことは幾らでもあって、例えば死刑制度などは昔から繰り返し議論になっているものの、未だ廃止しようと言う具体的動きは見られません。
ある程度広く国民に受け入れられているものであれば最後は多数派の主張が通りやすいのは当然なのですが、他方では議論そのものが別れている問題も少なくなく、命に関わる問題などはその好例でしょう。
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/20150401_6.html
ただ議論そのものを進めなければ認識も深まらないのは当然なのですが、先日NHKが放送した番組を巡ってこんなクレームがついていると報じられていました。

NHK「安楽死」番組に波紋…障害者支援団体が問題視する点とは?(2019年12月20日AERA)

 医師の幇助による自殺が認められているスイスに渡った難病患者を取材したNHKのドキュメンタリー番組が波紋を呼んでいる。障害者・難病患者の支援団体が放送倫理上問題があるなどとして声明を出した。医療ジャーナリスト・福原麻希氏が問題点とその背景を取材した。

 番組は今年6月放送のNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(詳細は後述)。放送後に障害者や難病患者の自立生活を推進する団体「日本自立生活センター(JCIL)」(京都市)が「障害者・難病患者の尊厳や生命を脅かす」として声明を出した。NHKに質問状を送り、回答を得た上で、さらに放送倫理・番組向上機構(BPO)に放送倫理上の問題の有無の調査・審議を依頼した。障害者や難病患者に、番組はどのように映ったのか。

 まずはこの番組を見た人を取材した中で聞いた、ある重度障害者の女性の声を紹介する。
 京都市在住の岡山祐美さん(39)は頭や首を支えるヘッドレストと背もたれがなければ、上半身が崩れ落ちてしまい座ることもできない。食事・寝返り・トイレなど、生活のすべてで介助が必要なため、24時間連続の重度訪問介護を利用しながら、家族と離れて一人で暮らす。
(略)
 NHKの番組では、安楽死した女性と同じ病気に罹患しているが、人工呼吸器を装着して家族と共に生きることを選んだ女性のことも紹介した。岡山さんはこう感想を漏らす。
「2人の事例が出てきたものの『重度障害者になったら死んだほうがいい』というメッセージのほうがより強く印象に残りました。私と同じような境遇の人に安楽死を誘発しないといいですが……」

 JCILが6月に公表した声明には、こんな文章が並ぶ(声明から抜粋)。
 ──私たちの中には、障害や難病による不自由な日常生活や様々に受ける差別の中で、毎日がこんなに苦しいのだったら、こんなにみじめな思いをするのだったら、死んでしまいたい、家族に迷惑をかけて生き延びたくない、などと思っている者、思ってきた者が少なからずいます。
 ──今回の報道は障害や難病を抱えて生きる人たちの生の尊厳を否定し、また、今実際に「死にたい」と「生きたい」という気持ちの間で悩んでいる当事者や家族に対して、生きる方向ではなく死ぬ方向へと背中を押してしまうという強烈なメッセージ性をもっています。

 声明を起案したメンバーで、JCILの介助コーディネーター(支援者)の渡邉琢さんはこう話す。
「日頃から障害者や難病患者は『ベッドで寝たきりのまま生きていて、どうするの』と社会から生に対する否定的なメッセージを浴び続けています。番組の影響を考えると、社会がさらにその方向へ動くのではないかという怖さや強い危機感を持ちました」


 さらに、JCILが問題視したのは、番組で放送した安楽死に至る瞬間の映像だった。医師が致死薬の点滴を処方し、女性が手首のストッパーを外すと眠るように亡くなった。それは視聴者にとって、まるでドラマのようにも見えた。
 実際のできごとをそのまま映したそのシーンは重度障害者や支援者に衝撃をもたらしただけでなく、「放送番組の倫理基準から逸脱しているのではないか」とJCILは指摘する。
(略)
 だが、NHK報道局はJCILへの回答書でスイスの自殺幇助団体の「自殺とは単純に言えない」の見解を引用してこう説明する。
 ──安楽死は実現に厳格な要件(筆者注:1.耐えられない痛みがある2.回復の見込みがない3.明確な意思表示ができる4.治療の代替手段がない)があることや医師が介在すること等、世間一般に言う「自殺」とは大きく異なる部分があるため、自殺に関する放送基準が必ずしもそのまま妥当するとは考えていません(回答書の抜粋)。
 この点について、JCILの声明公表時にコメントを書いた鳥取大学医学部の安藤泰至(やすのり)准教授(生命倫理・死生学)はこう指摘する。
番組のようなケースを『自殺ではない』とするのは合法化していくための政治的な戦略です。自殺という言葉のイメージが悪いから、言い換えをしなければならないわけです」

 安楽死合法化について、海外では1970年代からオランダや米国で議論されてきた。国内でも海外で安楽死のニュースが流れたり、医療における裁判の解説などで議論されたりしたこともあったが、全体的に安楽死の議論は端緒についたばかりとも言える。
 NHKのこの番組に取材協力をした横浜市立大学国際教養学部の有馬斉(ひとし)准教授(倫理学・生命倫理)は、合法化の問題点について、こう指摘する。
安楽死合法化賛成派の意見は『自分で死を選べるようにするべきだ(自己決定の尊重)』『痛みや苦しみから解放してあげるべきだ』などとわかりやすい。一方、反対派の障害者・難病患者が置かれている状況や合法化によるリスクは社会から見えにくい。理解されにくいから問題になるわけです」
(略)
 さらに、この番組では「患者と社会とのつながり」が出てこなかった。特に、がんや神経難病の患者には医療者による「緩和ケア」が生きる支えになる。
「NHKの番組で取りあげられた女性のような神経難病に対する緩和ケアはまだ普及していません。そのようなときに、安楽死を合法化する流れができることは危ないです」と川崎市立井田病院緩和ケア内科医長の西智弘医師は指摘する。
(略)

これまた何が正解と言うことは恐らくはなく、今後も引き続き議論が続けられていくだろう問題ですが、世界的に見ればこの種の安楽死への需要は決して少ないものではなく、合法化されている国も出てきています。
難病であれその他の事情であれ自分から死にたいと思う人は多数派ではないのだろうし、多数派であるべきでもないでしょうから、きちんとした社会的サポートが用意され生きていけるような環境が望ましいのは当然です。
ただその上でもやはり考え方の個人差はあるので、こうした番組こそ待ち望んでいたと言う人も一定数はいるはずなのですが、そうした考え方自体をあるべきものではないと否定するのも少し偏っているように思いますね。

冒頭の記事なども生活保護受給者の一面を丹念に取材し記事にしているのでしょうし、その意味で現場の実情の少なくとも一側面を切り出したものと言えますが、また別の実情も少なからずあるとも言えます。
NHKの当該の番組は残念ながら拝見していないので内容については何とも言えませんが、安楽死を望んだ側だけを取り上げたとすればこうした批判を受ける余地はあり、少し脇が甘かったと言うべきですね。
その点ではシリーズとして逆の立場からの番組もセットで放送していればと思うのですが、放送されたこと自体は安楽死を巡る議論を一段と深めた点で有意義であったとも言え、放送の意味はあったように思います。

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2019年12月16日 (月)

長年やるやると言われている話が未だぐずぐずと引きずられている陰で

本日まずはこちらの記事から紹介してみますが、ありとあらゆるメディアを通じて大々的に取り上げられた話題でもあります。

病院窓口負担 2割に引き上げへ 75歳以上の高齢者(2019年12月3日FNN)

政府は、2022年に、75歳以上の病院での窓口負担を原則1割から2割に引き上げる方向。

政府の全世代型社会保障検討会議では、75歳以上の後期高齢者医療制度で、原則1割となっている医療機関での窓口負担について、原則2割への引き上げを検討している。
関係者によると、政府は、団塊の世代が75歳になり始める2022年に引き上げる方向で調整している。
75歳以上の全員を一斉に2割にする案と、導入後、75歳になった人から順に2割にする案の2つがあり、順に2割にする案が有力

また、低所得者に配慮する軽減措置も検討し、12月中旬の中間取りまとめへの明記を目指している。

後期高齢者の自己負担率引き上げははるか以前から決まっていた話で、一体いつまで引っ張るのかと思うような話なのですが、とうとう今度こそは実際に2割負担にまで引き上げられる可能性が高そうです。
そのことの是非はこの場で取り上げることではありませんが、注目いただきたいのは負担の引き上げについて非常に慎重な態度で考えられていると言うことで、特に現在すでに後期高齢者となっている方々の扱いです。
現時点の1割負担をいわば既得権益として維持し、今後後期高齢者になってくる人々だけを引き上げの対象にすると言うことですが、それだけ関係各方面の抵抗が根強くあると言うことなのでしょうね。
さて、ひるがえってそうした各方面への配慮が全くないまま決まっていたこちらの制度に関して、当事者が悲鳴混じりの抗議の声を上げていると言う記事が地方紙に小さく出ていました。

「あまりに不条理」制度変更で授業料免除の対象外 医大生、支援継続訴え(2019年12月13日京都新聞)

 低所得世帯を対象に来年4月から導入される高等教育の修学支援制度により、現行の国立大の授業料減免制度の対象外となる滋賀医科大の学生5人が12日、大津市の県庁で会見し、現行制度の存続や救済支援を訴えた。

 新制度は、住民税非課税世帯とそれに準じる世帯を対象に、国や自治体が学生の年間授業料を私立大は最大約70万円、入学金は国公立大が最大約28万円を減免するほか、年間約91万円(私大など)を上限に返済不要の給付型奨学金を支給する。
 私大生の対象者が大きく増えると見込まれる一方、世帯収入や年齢などの条件が加わることによって、国立大生の場合、現行の減免制度より負担が増える場合がある。高校卒業後3年以降に入学した学生や学士編入生らは対象外となる。

 5人の説明によると、滋賀医大では、現行の減免制度で、全額または半額を免除されている学生は本年度前期で約70人いるが、新制度導入で約50人が対象から外れたり、減免額が削減されたりする。多年浪人した学生や学士編入者らが多いためという。
 代表の男子学生(26)は「政権が高等教育無償化を打ち出している陰で、現在在学している国立大生が犠牲になり、あまりに不条理だ」と話す。学生らは大学側に独自の支援金制度の設置などの救済策を要請している。さらに、現行制度の存続を求めて学生や教職員らから署名を集め、全日本医学生自治会連合(東京都)を通して文部科学省に提出する予定。
 滋賀県内では、滋賀県立大(彦根市)は昨年度後期に授業料減免を受けた学生のうち、5人が新制度の対象外になり、6人の学生が給付型奨学金も含めて支援額が減少する試算という。県立大は「予算内でどこまで支援できるのか考えていく」とする。滋賀大(同市)は「対象外になったり、負担が増えたりする在学生には支援策を検討したい」としている。

これまた制度の是非はこの場では敢えて議論するところではありませんが、医療現場では未だ医師不足感が根強くあり、医学部定員の拡充が継続されている中でこうした制度変更がなされたと言う点です。
特に制度設計上、国公立大医学部学生と言ういわば理系トップエリートに不利なものであるようで、医療現場としては喉から手が出るほど欲しがりそうな優秀な人材が冷遇されると言うのは如何なものかです。
興味深いのは後期高齢者の自己負担率引き上げにあれだけ長年反対してきた某医療系団体などが、この制度変更に関しては全く目立った反論も反対もせず、易々と実施されているように見える点ですね。
彼らにとって優秀な学生と後期高齢者と、どちらがより重要で尊重すべき存在であるのかが明確に理解出来る話だと思いますが、当の医療現場においてはまた違った意見があるのかも知れませんね。

 

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2019年12月11日 (水)

記者氏の言うところの『「大学勤務医は低賃金」を所与とした議論続く』状況はおかしいと思うのですが

来年度の診療報酬改定の議論が進んでいて、本体部分は横ばいか微増、薬価も含めて全体としては減額と言うありがちな結論になりそうだと報じられています。
今後団塊世代の高齢化が進み医療費など社会保障全般の財政的、人材的な逼迫が懸念される中で、永続的な医療供給体制をどう構築していくべきなのかと言う問題はきわめて重要かつ難しい課題ですね。
ちょうどそのタイミングで医師ら医療専門職の働き方改革の議論も進んでおり、特に医師を雇用し働かせる側である医療系諸団体にとっては、稼ぎ手である医師が働いてくれなくなることを懸念しているようです。
単純に医師が働かなければ病院の収入が減って困るだとか言う理屈では説得力がないとは自覚しているのでしょうが、見ていますとどうも少し奇妙な論理で医師を働かせ続けることを求めているようです。

医師の働き方改革「健康は確保、収入は確保できず」、地域医療への影響も(2019年12月9日医療維新)

 社会保障審議会医療部会(部会長:永井良三・自治医科大学学長)は12月9日、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」と「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」の議論の報告を受けたが、時間外労働の上限規制が厳しくなると、大学等からの医師派遣が少なくなり地域医療に支障が生じたり、医師個人の収入が減少するなど、副業・兼業をめぐる懸念が相次いだ

 「副業・兼業によって収入を得て生活をしていた医師が、上限規制で兼業に影響が出ると生活ができなくなる。健康が確保できても、収入を確保できなければ問題であり、その辺りのバランスをどう取るかも考えていかなければいけない」(国立病院機構理事長の楠岡英雄氏)、「大阪では、2次救急医療機関の当直の4割は、大学からの医師に頼っている。こうした状況が急に破壊されることがないように、副業・兼業のことをしっかりと考えてもらいたい」(日本医療法人協会会長の加納繁照氏)といった意見だ。
 副業・兼業の在り方は、厚生労働省内でも労働基準局の検討事項であるため、「医師の副業・兼業を一般労働者と同じように扱うのか。医師がいない中で、物事が決まることに危機感を覚える。医師の働き方について、何らかの形で意見を言う立場、機会を設けるべき」(日本医師会副会長の今村聡氏)といった要望も挙がった。
(略)
 9日の医療部会で議論の口火を切ったのは、楠岡氏。医師の時間外労働の上限規制の根拠となった調査は、副業・兼業を含めたものかどうかを確認。厚労省医政局医事課長の佐々木健氏が副業・兼業を含んだものであると答えると、「それでは副業・兼業先に医師が行かなくなるケースは少ないと考えていいのか」と尋ねた。
 佐々木課長は、「現時点でも約2万人の時間外労働は、年1860時間を超えている。まず年1860時間未満にしなければならないことを考えると、さまざまな取り組みをしていかなければいけない。単純に今の役割分担、業務をそのままにし、何もしなければ影響が出てしまう。各医療機関および地域での取り組みが必要」と回答した。それを受けて、楠岡氏は「(時間外労働時間が減って)健康が確保できても、収入が確保できないと問題であり、その辺りのバランスをどう取るかも考えていかなければいけない」などと述べたのだった。
 加納氏は、「大阪府では、2次救急医療の8割は民間病院が担っている。その当直の4割は大学からの医師に頼っている。こうした状況が急に破壊されることがないように、副業・兼業のことをしっかりと考えてもらいたい」と求めた。
 早稲田大学人間科学学術院准教授の松原由美氏も、「大学病院の勤務医が、時間外労働の上限を課せられ、生活ができるのか。家族を持っている医師など、大学病院を辞めざるを得ない医師が出てくるのではないか。大学病院が最後の砦になっている地域では、地域医療が崩壊しかねない」と述べ、医師の働き方改革により、医師の収入や病院経営がどう影響するのかについてのシミュレーションを要望。
(略)
 政策研究大学院大学教授の島崎謙治氏は、「医師の働き方改革の影響は甚大で、相当丁寧に議論していくことが必要。“巨大なスポンジ”、言ってみれば無尽蔵の働き方で医療ニーズを吸収してきたが、それが吸収できなくなれば、ニーズがこぼれる」と、たとえを交えながらコメントした。日本の約1.2倍の面積のスウェーデンでは、病院数も外来受診回数も日本よりも格段に少ないというデータを紹介しながら、「国民もある程度、我慢しなければいけない」「医療資源を再編するしかない」などと述べ、地域医療構想も念頭に地域ごとに丁寧に進めて行くことが必要だとした。
(略)

もちろん地域医療への影響など様々な議論が必要であることは言を待ちませんが、大前提として医師の大きな供給源となっているのが大学病院であると言う現実があります。
その大学病院の医師がアルバイトを制限されると困るだろう、だから働き方改革を厳しく進めすぎると大変だと言うのもごもっともなのですが、何か違うと言う気もします。
本来的に問題なのは大学病院の給与が生活も出来ないほど低すぎることであり、それ故に多忙であるにも関わらず夜間休日のアルバイトを強いられてきたことでしょう。

未だに大学病院勤務医の低待遇があったからこそアルバイトの需要があり、地域への医師派遣機能が働いていたのだと、妙に前向きに評価する声も根強く残っています。
他の業界で企業経営者らがそんなことを口にすれば、たちまち国民と進歩的マスコミ諸社の集中砲火を浴びて当然ですが、未だに医師の常識は世間の非常識なのでしょうか。
今回の記事を見ても、社保審の場では大学病院の低待遇を問題視する声すらないようですが、こうした方々によって医療のあり方を巡る議論が進んでいると言うことです。

これを「そうは言っても現実問題としてそうなっているのだから仕方ないじゃないか」と言うなら、何故大学病院医師の低待遇だけ聖域視するのかと反論されるでしょう。
診療報酬や働き方改革、あるいは医療のあり方など様々な難問は単独で解決出来るものではなく、相互に関連づけて一体的に改革を進めなければならないでしょう。
場合によっては現状を破壊する勢いで抜本的に改革しなければならない困難な状況で、特定の問題だけは現状がこうだから仕方がないと言うのはおかしな話ですよね。
それをあえて許容しているとすれば、議論している方々にとってはその現状こそが都合が良いと言うことですが、現場の医師達の声は届いているのかと不安になります。

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2019年12月 9日 (月)

今の時代危ないことは一定確率で起こると言う前提での対策が必須

身につまされる人も多いのではないかと思うのですが、先日こんな記事が話題になっていました。

ダイアモンド ユカイが母親の免許返納体験を語り称賛の声が続々(2019年12月6日アサゲイビズ)

 ダイアモンド ユカイが実力行使で85歳だった母親に運転免許を返納させたことが反響を呼んでいる。
「婦人公論.jp」によると、ユカイの母は2年前に90歳で亡くなったそうだが、免許返納は説得を始めてからおよそ5年もかかったという。それを踏まえて、「親が自分の衰えを自覚し自ら返納してくれる」と夢を見てはいけないと警鐘を鳴らしている。

 ユカイは免許返納を納得してくれない母親の車が、何度か損傷していることを見ていたため、数回目のキズを発見した時に「目立つから修理に出す」と言って車を持ち出して処分。母が新車を買うために連絡しそうな近所のディーラーに事情を話し、車を売らないよう頼み込んだという。さらに親戚や友人など、母親の手助けをしてくれそうな人に手を回して協力を仰いだそうだ。
「ネット上では『この人の発信力って地味にすごい。高齢者に免許返納させるための具体的なアドバイスは絶対に役に立つ』『何年か前に男性不妊治療の体験談もすごいためになったし、今回の高齢ドライバーに免許返納させる方法もすごく参考になる』『この人の勇気は本当に愉快』など、称賛の声が相次いでいます」(女性誌記者)

 高齢ドライバーの自主的な免許返納が難しいことを教えてくれたユカイ。彼の体験を知り、自身の親と向き合う決意をした人も多いのではないだろうか。

近年危険運転行為に対する社会的対応の重要性が話題になることが多く、先日も危険運転動画の通報を開始し初の検挙につなげた岡山県警の取り組みを紹介したところです。
また認知症や身体能力の低下などによる高齢ドライバーの危険運転に関しては、特に逆走や暴走など危険性の高い事故がたびたび報じられたこともあって注目されているところですね。
他方で以前から持病を持っている方々による事故のリスクも注目されていて、特にてんかんなど意識消失を来す可能性のある疾患に関しては、社会的にも厳しい目線が向けられるようになってきています。
ただ意識消失を来す疾患とは別にてんかんに限らず、糖尿病や高血圧などでも意識朦朧とする可能性があるのですが、先日こうした誰にでも起こり得る事故の恐さを知らしめるニュースがありました。

死亡事故起こした「はとバス」運転手はインフルエンザで高熱(2019年12月5日NHK)

東京 新宿区で4日夜、観光バスの「はとバス」が停車していたハイヤーに追突し、ハイヤーの運転手が死亡しました。バスのドライバーはインフルエンザにかかっていて、事故当時、高熱があったということで、警視庁は詳しい状況を調べています。
(略)
バスを運転していた37歳のドライバーはその場で逮捕されましたが、いったん釈放され、病院に入院して検査を受けました。
警視庁によりますと、検査の結果、ドライバーはインフルエンザにかかっていて事故当時は38度を超える高熱があったとみられることがわかりました。
バスのドライブレコーダーには、事故が起きる数秒前からドライバーの頭が前後にゆっくりと揺れている様子が写っていたということです。
(略)
「はとバス」によりますと、事故を起こした37歳のドライバーは、4日午前6時半すぎに出勤し、同7時前に出庫前の点呼を受けたということです。
この点呼では、アルコールの呼気の検査や、本人からの健康状態の申告のほか、チェック役の担当者が対面でドライバーの様子を確認することになっていますが、本人から体調不良に関する申告はなく、対面の確認でも異常は見られませんでした
(略)
はとバスによると、事故を起こした運転手は会社の聞き取り調査の中で、自身の体調について「事故の前日、少しかぜ気味だったため、漢方のかぜ薬を服用して午後8時に寝た。事故の当日は午前5時に起床し念のため再度、漢方のかぜ薬を服用して出勤した。その後も若干、かぜ気味だと感じていたが、それ以上の症状だとは思わず、警察病院での検査で初めてインフルエンザに感染している事が分かった」と話しているということです。
そして、事故については、「事故を起こす前後の記憶がなく、気が付いた時には街路灯に激突していた」と話しているということです。
(略)

事故により亡くなられたドライバーのご冥福をお祈りしますが、インフルエンザの場合この時期誰にでも発症し得るもので、また今回のように短時間に急速に悪化することも全く珍しくはないものです。
もちろん早期から軽い症状が出ている場合もあるでしょうが、どこの業界でも人手不足と言われ代替人員の確保もままならぬ中で、軽い風邪かな?程度でインフルエンザを疑って休養と言うのも難しいでしょう。
その意味では今回の事件、どこの業界でも一定の確率で起こり得る事故が起こるべくして起こってしまったと言うべきものですが、ではこうした事故をどうしたら防ぐことが出来たのかと言うことですね。

誰しも思いつくのは自動ブレーキ装置などの装着で、特に大型車両や業務用車輛には早急に強制化すべきだと言う意見もあり、また高齢者など運転スキルに問題のある人々にも装着させろと言う声もあります。
ただ工事現場で活躍する特殊車両や列車、航空機なども同様のリスクはあり、また特殊な業界であるほど代替要員の確保にも困難があるはずで、ついつい無理をしてしまいがちなものですよね。
医療現場の場合ちょっとしたミスが文字通り命取りになる場合もあり、またインフルエンザなどは職場に広げてしまう方がよほど痛手になるものですので、体調不良を推しての出勤など本来あってはならないはずです。
職場の状況から1人欠けても回らないと言うのであれば、それは突発事態に対応出来ない危険な職場環境であると言うしかなく、働き方改革が推進される中でこうした面も併せて見直したいものですね。

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2019年11月26日 (火)

改革の抵抗勢力、断固たる態度で改革に反対

社会保障制度改革は喫緊の課題が山積していますが、年金や雇用に優先してまずは真っ先に医療制度改革を前倒しで推進すべきだと、国が方針を固めたと先日報じられていました。
その原動力となるのが団塊世代が後期高齢者に突入する令和4年以降の医療費膨張の予測で、とりわけ高齢者と現役世代における負担と給付の見直しがキーワードになると考えられています。
この点に関連して受益者負担の推進と言う点からも、安易な過剰受診の抑制の観点からも導入が期待されているのが受診時定額負担ですが、日医はかねてこんな主張を繰り返していることが知られています。

日医横倉会長「定額負担、容認できない」と直訴(2019年11月26日医療維新)

 政府は11月25日、第2回全世代型社会保障検討会議(11月8日に開催)の議事録を公表した。第2回会議には、日本医師会会長の横倉義武氏、日本歯科医師会会長の堀憲郎氏、日本薬剤師会会長の山本信夫氏が出席し、意見を述べた。横倉会長は安倍首相ら構成員に対して、「財政論に偏って議論を進め、結論を急ぐべきではない」と訴え、受診時定額負担の導入などに反対する姿勢を示した。一方、民間の構成員からは、「後期高齢者が大幅に増える時期が迫る今こそ、給付と負担の見直しが必要だ」などの声が上がった(資料は、首相官邸のホームページ)。

 横倉会長は、会議内で必要性が検討されている受診時定額負担を巡って「将来にわたり 患者の療養給付を最大でも3割までしか負担を求めないとしてきた、これまでの原則を破って患者に負担を求めていくものであり、容認できない。社会保障としての国民皆保険の理念に反する」と批判。予防医療に力を入れ、健康寿命を延ばせば、結果として社会保障の支え手が増えるとして「従来の医療は、診断・治療に重点を置いてきたが、病を防ぐということも医療の大きな役割で、しっかり取り組んでいきたい」と述べた。
(略)
 横倉会長らの意見に対し、構成員からは厳しい声が上がった。
 日本総合研究所理事長の翁百合氏は「多くの国民は今後も医療の恩恵を受けられることを望んでいるが、医療制度の財源面が、持続可能なのか不安を持っている」と強調。横倉会長が受診時定額負担にしか明確に触れていなかったことから、「低所得者に十分配慮すれば、後期高齢者の窓口負担引き上げはやむを得ないと考えているのか」と質問した。
 日立製作所会長の中西宏明氏は「やはり今、高齢者の方が優遇されていて、若い人に閉塞感があるという現実を踏まえて、負担能力のある高齢者に負担をお願いしていくという方向性については、はっきり今出すべき時期ではないか」と迫った。

 横倉会長は「当然現役世代に負担がかかっていることも、十分に理解し、低所得者に十分配慮しながら、国民が納得できるよう十分な議論を尽くしていくべきだろうと考えている。国民が納得するような形で、負担ができる方には負担を上げていくことには私も賛成をしている」、「負担ができる方を上げることには強い反対は申し上げていない」と応じた。

 東京大学公共政策大学院客員教授の増田寛也氏は、日医が自己負担の増加による受診抑制が健康への悪影響を及ぼすと主張していることを挙げ、「(受診時定額負担を)仮に100円とすると、診療報酬30点強に相当する。このレベルの点数の新設、かさ上げというのは、診療報酬改定で行われており、診療報酬のプラス改定では当てはまらないけれども、受診時定額負担ではこういう悲劇が起こるというのはちょっと無理がある」と指摘した。

受診時定額負担に関してはかねて受診機会の多い高齢者をターゲットにした制度だと言う批判があり、日医もかねて後期高齢者の負担増と言う観点からこの制度導入に反対しています。
ただ今回興味深く感じたのが本音では後期高齢者の受診抑制は困ると言うことであるのに、患者自己負担は最大で医療費の3割までとの既定の原則に反していると主張している点でしょうか。
そもそも後期高齢者は自己負担率の点でも未だに1割負担が続くなど優遇されているのですから、定額負担が加わっても3割になどなるはずがないと思いますが、日医としても反論に苦労していると言うことでしょうか。

ちなみに日医自身も認めているように、自己負担増加による自主的な受診制限ではなく、自由な受診を制限し予約制にするなど医療側による受診制限によって医療費を管理する国もあります。
イギリスなどがその代表格で、日本でも昨今基幹病院などは実質的な受診制限を敷いている例がありますが、応招義務と言う法的制約に加えて、日医ら医療系団体が受診の自由を断固主張しています。
要するに患者が医療をどの程度利用するかは完全な患者側の自主的判断に委ねられているのが日本の現状であり、まずはこれを制限するべきかどうかが議論の出発点にならなければなりませんね。

今後医療の提供体制に関しては自治体が主体となる地域医療構想に従って構築されることになりますが、施設間の機能分化が推進されれば、急性期を担当する医療機関は額面上減ることになると思われます。
他方で患者側からすれば調子が悪い時には救急を扱うような急性期施設に真っ先に受診したいはずで、こうした施設は今まで以上に多忙になる恐れが強そうですから、現実的にも無制限な受診は困るでしょう。
医療のコスト、クオリティー、アクセスのうち国民が最も受け入れやすいのはアクセス制限だと思われるのですが、それに反対するなら日医はどこを制限することで医療の永続性を図ろうとしているのか知りたいですね。

 

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2019年11月25日 (月)

なにが上手な医療のかかり方かは、立場によっても正解が異なる

先日厚労相主体でこうした活動が始まっていると言うニュースが出ていました。

デーモン閣下「医療現場の実情、もっと知らなくては」上手な医療のかかり方大使に任命、3児の母・中村アナも(2019年11月18日医療維新)

 患者の受診行動を適正化し医師の負担軽減につなげようと、厚生労働省は11月18日、アーティストのデーモン閣下とフリーアナウンサーの中村仁美氏を「上手な医療のかかり方大使」に任命した。医療機関や自治体などの優れた取り組みを表彰する「上手な医療のかかり方アワード」を開催するほか、電話の相談窓口などをアピールして、不要不急の受診を減らすのが狙いだ。
 任命証を手渡した厚生労働大臣の加藤勝信氏は「医師は一人の人間でもある。働き方改革は現場だけで実現できるわけではなく、社会全体で考えなくてはいけない課題だ。患者は医療機関を自由に選べる仕組みにはなっている。しかし、医療のかかり方には、いろいろと改善できる余地があるのではないか。国民が正しい知識と相談できる窓口を持ち、上手なかかり方を実践することが大事だ」と述べ、2人の発信力に期待を寄せた。加藤厚労相はデーモン閣下に白衣もプレゼントし、笑顔を見せていた。

 厚労省は2018年度に開催した「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」での検討結果を踏まえ、上手な医療のかかり方アワードを創設。11月1日から12月20日まで、各団体からの応募を受け付け、2020年2~3月頃に表彰式を行う。
 11月1日に開設したサイト「上手な医療のかかり方.jp」では、休日・夜間に子どもの症状について相談できる「#8000」や、救急車を呼ぶべきか迷った際に相談できる「#7119」(一部地域)などを紹介しており、今後、内容を充実させる予定だ。
 同懇談会のメンバーでもあったデーモン閣下(『「国民全体が医療危機に取り組むべき」デーモン閣下、宣言発表』を参照)は「医師が大変だということを、国民はもっと知らなくてはいけない。知ることによって、もう少しかかり方を考えようと思うはずだ。どうやって病院に行くのか、相談してから行くのか、正しいプロセスを実践するだけで、医療現場の負担は軽減していく。多くの国民にぜひ知ってもらいたい」と意気込みを語った。
 3児の子育てをしている中村氏は「(病院に連れて行かず)子どもに何かあったときに親の責任としてつらいと思うので、夜でも病院へ行くことがある。自分のことではないので、どれくらいつらいのか分からず、余計に心配になる」と母親としての真情を吐露。子どもの症状などを相談できる電話窓口「#8000」の取り組みを紹介されると、「プロの意見を聞いて安心したいという親御さんは多い。ぜひ勧めたい」と語った。

 東京女子医科大学東医療センター救急救命センターに勤める救急医の赤星昂己氏も登壇し、「救急出動件数は10年間で100万件以上増えている。一方、医師も増えてはいるが、救急や外科は増えていないのが現状だ。ドクターなので全員を助けたいと考え、救急患者は絶対に断らないつもりでやっているし、どんな症状でも来てほしいと願っている。それでも現場はギリギリで、必死に頑張っている。緊急度の低い方がたくさん受診すると、受け入れられなくなる恐れがある」と実情を訴えた。
 株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏は、「本当は翌朝に通院すればいいが、勤務先のプレッシャーが強いと、夜間のうちに救急へ行き薬だけもらって、這ってでも会社へ行くということがある」と、一般企業の働き方改革も重要だと指摘した。

しかし赤星先生もお忙しい中で昨今医療現場以外でも大活躍の御様子ですが、小室氏の言うところの日中受診出来るよう一般企業の働き方改革をと言う意見も、まことにごもっともと言うしかありませんね。
公的なスタンスとしての患者の受診抑制への誘導に関しては、以前から一部医療系団体の熱烈な反対もあるようですが、受診行動の適正化と言うことに関して少なくとも表向き反対することは難しいはずです。
とは言え、経営的観点から未だにどんどん救急車を取れ、患者は断るなとスタッフに強要する病院もいないでもないようで、今後医師の働き方改革との絡みでこうした施設がどうなっていくのかも注目されますね。
そんな中でスタッフ数の制約などから物理的にこれ以上の応需は難しく、医療需要を制限せざるを得ないと言う場合も当然あるはずですが、地域にとっては必ずしも歓迎される話と言うわけでもないようです。

内科の初診外来を制限 県立八重山病院、医師が不足(2019年11月20日琉球新報)

 【八重山】県立八重山病院(篠﨑裕子院長)は医師不足のため、12月2日から内科の初診外来を原則、紹介状のある患者に制限する。期間は未定。同院は「まずは地域のかかりつけ医で受診してほしい」と呼び掛けている。

 八重山病院の内科では19日に医師1人が退職するほか、12月2日以降は常勤医不在となった西表西部診療所に同院内科医を週4日常勤で配置し、週末なども別の医師を派遣する。そのため19日現在で13人いる内科医は、12月2日以降、実質11人に減少する。
 2018年10月の新病院開院以降、外来患者数も増加傾向にあるとしており、地域の一次医療と二次医療の役割分担を進める観点からも内科外来の制限を決めた。救急患者は従来通り24時間受け付ける。

 篠﨑院長は「内科医の減少で医師の負担が重くなるため、理解してほしい。従来通り地域の病院とは連携し、何かあれば紹介を受ける。責任持って二次医療を担いたい」とした。

県立八重山病院内科 来月2日から診療変更(2019年11月20日八重山毎日新聞)

 県立八重山病院(篠﨑裕子院長)は内科の医師が14人から2人減り医師が不足するため、12月2日から内科の診療取り扱いを変更することが19日、分かった。紹介患者、救急患者を優先させるため、紹介状を持たない内科初診患者は民間の医療機関を受診するよう促している。医師の過重労働軽減に対応し、1次医療や2次医療のすみ分けを行う考え。開業医等の診療所を介することで「かかりつけ医師」の定着を図る。

 中核医療を担う同院はこれまで、すべての外来患者を診察してきたが、変更により急患や紹介患者に専念できるほか、地域の病院・診療所などを後方支援することで地域医療支援病院を目指す。
 同様の体制は、県立の北部、中部、南部でも取っている。今後、宮古病院も変更を計画している。

 内科は消化器、呼吸器、腎臓、感染症など各専門に分かれ、それぞれの専門医が所属している。同院の医師は当直、急患ヘリ添乗、オンコール待機など業務負担が大きいなか、限られた人数で業務を行っているという。今回、医師の退職と西表西部診療所へ代わりの医師を派遣するため、内科医は12人に減る。
 篠﨑院長は「開始直後はトラブルも予想される。医師に負担がかかり過ぎると、今後、当院に医師が来ないかもしれない。土日や夜間の救急医療を守るためにも協力をお願いしたい」と求めた。

 2日以降、民間の医療機関に患者の集中が予想される。八重山地区医師会(会員37人)の上原秀政会長は「理事会で理事の方々に伝えた。『仕方がない』という意見や『患者さんのためにならない。八重山病院に頑張ってもらいたい』という声もあった。医師会としてどうこう言えない。あとは会員個々が判断すると思う」と話した。

ちなみにこうした場合応召義務云々はどうなるのかと思う方もいると思いますが、先日も紹介した通り緊急性のある場合を除き、昨今は通常営業時間内においても緩く解釈する方向で厚労省見解が示されています。
マンパワー等の限界から現実問題として対応困難であり、かつ他に適切な医療機関を案内出来ると言うことであればまず問題ないと思いますが、しかしHPを見ると制限とは言ってもその実効性が怪しく思えてきますね。
紹介状を持たなければ予約をして受診をと言うことですが、2200円を払って待ちさえすれば診察はしてくれると言うことですので、どの程度受診抑制に有効なのかは地域住民の意識にも関わってくることでしょう。

しかし今回の場合住民よりもむしろ地元医師会会員の反応がかなり興味深いと感じたのですが、「患者さんのためにならない。八重山病院に頑張ってもらいたい」とは率直な反応と言いますか、色々と意味を考えさせる意味深なコメントです。
一般論としてこうした場合飛び込みの患者が受診そのものを中止することは多くはなく、ほとんどの場合他の医療機関に回っていると思うのですが、当然その分周囲の医療機関には負担がかかる理屈です。
もちろん患者が増えて嬉しいと言うクリニックもあるでしょうが、今現在一杯一杯でやっている施設は他にもあるはずですから、最悪の場合各地で見られたように地域医療崩壊の連鎖現象が発生する危惧もありますね。
ただ基幹病院と開業医とどちらが地域医療に必須かと言えば当然前者だと考えると、その機能は最後まで最優先で保持されるべきと言う考えは妥当性があり、意識改革は地域医療関係者の間でも必要でしょう。

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2019年11月20日 (水)

医師不足が叫ばれる中で医学部定員が削減に転じた理由

先日取り上げました来年度の診療報酬改定の話題に関して、今回も薬価に関して厳しい改定が予想されそうだと紹介しましたが、厚労省の調査では薬局は未だ黒字であることが報じられています。
薬価改定で経営的にどのような影響があるかは単純には言えない話ですが、今後薬局に関しても厳しい目線が注がれる可能性が高く、場合によっては新規解説規制などもないとは言えない状況だと言いますね。
以前から日本医師会などは薬局が儲けすぎだと目の敵にしていて、医薬分業自体の意義を問い直す声も根強くありますが、薬局の場合保険外の商品取り扱いで儲けは出しやすく、経営上有利とは言えるでしょう。

ところで薬剤師の供給元となっている薬学部の定員は年々増加を続けていますが、長期的に見ればいずれ減少に転じるはずだと言う予測があります。
薬学部6年制への変更やドラッグストアへの薬剤師配置などで当面売り手市場となっていたとは言え、今後法科大学院や歯学部と同様に過剰となるだろうと言うことですね。
現時点ではもっとも不足感が強い医療職は医師と看護師だと思いますが、その医師にしてもそろそろ過剰の懸念がささやかれる中、先日はこんな記事が出ていました。


2020年度の医学部地域枠、12大学で計77人減(2019年11月18日医療維新)

 文部科学省は11月13日、2020年度医学部入学定員を大学設置・学校法人審議会に諮問、臨時増員計画による地域枠の定員が2019年度と比べて12大学で計77人減少することが明らかになった。過去の充足率が低い大学で定員削減が目立ち、旭川医科大学と山形大学は、同計画による地域枠を廃止。一般やAO入試によって地元に定着する卒業生の確保を目指す。一方で、3大学で計13人増加し、臨時増員による地域枠は計65大学で計863人(2019年度比64人減)だった。

 医学部の定員は臨時増員計画が始まった2008年度以降、増加傾向が続き、直近3年間は2017年度が9420人、2018年度9419人、2019年度9420人とほぼ横ばいだった。地域枠の減少もあり、2020年度は90人という大幅減の9330人となった。今月内にも答申を受けて、正式に認可される見通しだ(資料は、文科省のホームページ)。
(略)
 勤務地が制限されることもあり、地域枠で入学しても、奨学金を返却するなどして義務年限を果たさない学生が少なからずいる。厚生労働省の調べでは、2018年の地域枠の定員充足率が81.6%にとどまっていた(『2018年度の地域枠充足率81.6%、24府県が「8割未満」』を参照)。
 厚労省は、地域枠だけの試験を実施する「別枠方式」と比べて、一般と同じ枠で試験を行ってから入学前後に希望者を募る「手挙げ方式」では、卒業後に指定された地域や診療科で勤務しない割合が高いために問題視。「別枠方式」に統一するよう改善を求めていた。
(略)
 医学部の定員は2008年度以降、地域枠や研究医枠の創設、歯学部からの振り替え、東北医科薬科大学医学部(定員100人)と国際医療福祉大学医学部(定員140人)の開設によって、大幅に増加。2017年度から2018年度に1人減ったのを除いて、毎年増え続けていたが、2020年度は大幅に減少に転じた
 医学部入学定員は、2020 年度と2021 年度については、厚労省の医師需給分科会の2018年5月の第3次中間取りまとめで、「2019 年度の医学部定員を超えない範囲で、その必要性を慎重に精査していくこととする」となっていた(『医師需給の「第3次中間取りまとめ」、了承』を参照)。

この地域枠問題、本来的には基本的人権を無視した御礼奉公を強要されるからこそ不人気であると捉えるべきと言え、一般枠が高倍率であるにも関わらず地域枠は定員が埋まらない大学も多いそうです。
その意味では医師過剰とは本来別の問題であるはずなのですが、注目すべきは地域枠定員を削った分をまるまる医学部定員削減としていることで、結果的に医学部定員の大幅減となっている点ですね。
医師不足が今後も長く続くと言うことであれば、一般枠に振り分けるなどしてでも定員総枠を維持すべきところでしょうが、文科省としては現時点で医学部の定員削減にゴーサインを出したと言う形です。
医療行政は基本的には厚労省の管轄であり、医師の需給予測に関して厚労省と文科省でとらえ方が違うと言う可能性もありますが、この種の問題では両者がある程度協議した上で決めていると思われます。

要は厚労省としても少なくとも定員削減に反対ではないと思われるのですが、地域枠の減少は医師の勤務地について強制力を発揮出来る手駒の減少に直結する問題で、本来あまり歓迎できないはずです。
他方で2018年より新専門医制度がようやく実施の運びとなりましたが、実質的な勤務先の制限など医師配置についてより強力な規制手段としても活用出来るものであり、地域枠よりよほど有用とも言えますね。
必要な場所に適切に配置されるなら同じ医師総数であっても効率的な医師の活用が可能になるはずで、仮に全医師が最善の効率で活用されるなら医師数をこれ以上増やさずともすむ可能性もあります。
不人気の地域枠を強いて維持する必要性に乏しい体制が整った以上、奨学金など余計なコストもかかり不確実な地域枠が次第に減少、廃止されていくことは既定の路線なのかも知れないですね。

 

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