心と体

2018年12月12日 (水)

「女子はコミュ力が高いので」は世が世なら流行語大賞候補にも?

医学部入試における各種の忖度について、文科省から追加指摘のあった各大学のコメントが振るっていると話題になっていました。

医学部不正、3大学で同時会見…福大副学長「びっくり」(2018年12月9日朝日新聞)

 岩手医科大、金沢医科大、福岡大の3私立大が8日、一斉に各大学で会見を開き、医学部入試で「文部科学省から不適切な点があると指摘された」と公表した。募集要項で明記せずに現役生や地元高校の卒業生ら、特定の受験生を優遇していたが、いずれも「問題ないと思っていた」と釈明した。
 文科省は同省幹部の汚職事件をきっかけに、東京医科大の医学部入試で不適切な得点操作が発覚したことを受け、全国81大学の医学部入試を調べている。10月に「複数の大学で不適切な入試が行われている」と発表し、大学の自主的な公表を求めていた。

 岩手医科大は、34人が受験して7人が合格した今年の編入試験で、同大歯学部の出身者3人を優遇した。地域医療に貢献する人材育成のために出願時に約束させている、付属病院や関連病院で卒業後6年以上、勤務する条件を守る可能性を重視したという。佐藤洋一・医学部長は「出身者に優位性を持たせるのは、私学の裁量の範囲内と考えていた」と話した。
 今年度入学の一般入試で不合格となった7、8人より、評価が明らかに低かった1人を追加合格させた点も、不適切と指摘されたという。判断の基準について問われた佐藤医学部長は、「公表を差し控えたい。特定の属性で合格させておらず、不都合な点はないと考えていた」とした。

 金沢医科大は今年度のAO入試で同窓生の子ども、北陸3県(石川・福井・富山)の高校の卒業生、現役生と1浪生に加点していた。同窓生の子は10点、石川の高校出身者には5点、富山、福井については3点、現役・1浪生には5点を加えていた。編入試験でも北陸3県の高校出身者や年齢に応じて得点を調整。これらの操作によって約10人が不合格になったという。さらに、一般入試の補欠合格者を決める際にも年齢を考慮していた。
 会見した神田享勉(つぎやす)学長は「大学の機能を保ちながら、北陸の医療を支えていくのは困難。同窓生の子どもや現役・1浪生、北陸3県出身者の方が地域に残るというデータがある」と得点調整の理由を説明した。

 福岡大では、高校の調査書の評価を点数化する際、現役生を有利にしていた。一般入試の評価では、1浪は現役生の半分で、2浪以上は0点だった。2浪以上は受験できない推薦入試でも、同様に差をつけていたという。「高校時代の学力・成績も評価したかったが、卒業から年数が経つと基礎学力評価の有効性が下がる」として、2010年度入試から始めたという。11月下旬に文科省から不適切との指摘を受けて再検討し、高校側の保存期間を過ぎて調査書を提出できない浪人生もいることなどから「不適切」と結論づけた。月内に第三者を含む調査委員会を設け、追加合格などを検討するという。
(略)

順大、一次試験で一部の女子・多浪を不合格に(2018年12月10日医療維新)

 順天堂大学は12月10日、都内で会見を開き、医学部入試で、女子と多浪生を不利に扱っていたと明らかにした。一次試験では筆記試験の成績が201位以下の生徒を浪人年数に応じて不合格とし、二次試験は女子が一律に不利となる補正をかけていた。一次試験で受験生を属性により不利に扱っていた事実が明らかとなるのは初めて。ただし、性別と浪人年数以外の要因による不正は、同窓子弟枠を含め確認されなかった。
 学長の新井一氏は「(不利に扱う)根拠があり、(大学の)裁量の範囲と考えていた」と説明し、「深くお詫び申し上げる」と謝罪。順大は、2017、2018年度の二次試験で不適切に不合格となった48人を追加合格候補とする。12月28日までに意向確認を行う予定(詳細は、順大ホームページ)。
(略)
 少なくとも2008年度から不適切な入試を行っていたとみられ、新井氏は「(不利に扱う)根拠があり、(大学の)裁量の範囲と考えていた」と理由を説明、学内から問題視する声は上がっていなかったという。「第三者委員会から『不適切』との評価を受け、現時点では不適切と判断している。次年度から不適切と評価された合否判定基準を廃止する」と表明した。一次試験では学力試験の成績順位のみで合格者を決定するほか、二次試験の面接では女性教員を面接者に加えるなどの対応をする。
(略)
 女子を不利に扱っていた理由を代田氏は、「長年の経験から、女子の面接評価点が高かった」と説明。「一般的に大学受験時点で、女子の方が精神的な成熟が早く、相対的にコミュニケーション能力が高い傾向があるのは学問的にも証明されている」とし、「客観的データに基づき、判定の公平性を確保するため、男女間の差異を補正する意図があった」という。
 また、順大の医学部では1年生が全員寮生活を送るが、女子寮の収容人数が男子寮よりも少なかったことが、女子の人数抑制につながっていたという。2018年にスポーツ健康科学部の定員増に伴い新たな女子寮を開設したが、医学部の合格判定基準は残存していた。
 新井氏は、女性に不利な扱いをしていたことを、「18歳では女性の方が精神年齢が高く、20歳で同じになるというデータが正しいとすると、将来成熟する男子学生を救う発想だった」と説明。現場に男性医師を増やす意図だったのではないかと問われると、新井氏は、「(順大は)初期研修医は女性が多く、その意図は全くない」と否定し、今後女子の合格者の方が多くなったらどうするかという質問には、「(多くなったら)それでいい。医療現場の女性活躍は、むしろ積極的に進めていきたい」と強調した。なお、順天堂大医学部には、計176人の教授がおり、うち女性教授は13人だという。

特に順天堂大学の「女子はコミュニケーション能力が高いので」と言う弁解は世間的にも大受けしているようですが、まあしかしこうした考え方は他に幾らでも応用が利きそうではありますけれどもね。
私学の裁量の範囲と言われれば、OBの子弟を優遇するのは私学として医学部に限らずごく一般的に行われていることでしょうし、過去の他学部入試においてそうした点を問題視されたことはなかったと記憶します。
その点で何故今さら、それも医学部だけが問題視されるのかと考えるのも理由がなくもないのですが、興味深いのは今回の東京医大の報道を受けた後でも全くこうした選抜での忖度が問題視されなかった点です。
客観的根拠として妥当かどうかはさておき、一定の根拠があれば特に問題ないと考えていたと言うことですが、さて大学入試におけるこの種の忖度がどこまで許容されるのかと言う点は難しいところですね。

大学に限らず一部のいわゆる名門と言われる教育機関では、家庭的にも一定以上の水準にある者しか受け入れないと言う話があり、別に社会的にそれが差別だ忖度だと非難されると言うこともないようです。
今回の場合男女差別と言う生得的な差異によって忖度が行われた点を問題視する意見もありますが、ジェンダーの転換が当たり前に行われるようになってきた時代に性別だけを固定的に考えるのもおかしなものです。
むしろ一部私学で高い寄付金を要求されるのは、資産がなければ入学出来ないと言う点で社会的階層の固定化だと批判されるべきだとも思うのですが、先日の寄付金報道でもその点は全く問題視されませんでした。
こうしてみるとこの医学部入試忖度問題、どこがツボだったのか判りにくい問題でもあるのですが、多様な選抜方式を推奨してきた進歩的な方々がどう考えていらっしゃるのかは聞いてみたいところですね。

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2018年12月10日 (月)

人を騙す商売に敢えて騙される人もいる不思議

先日日経メディカルで「医師を狙う詐欺・悪徳ビジネスに関するアンケート」を実施、4000人弱の医師の回答が寄せられたそうですが、その中で多かったと言うのがこちらの問題です。

なぜセールス電話は受付を突破できるのか(2018年11月26日日経メディカル)

(略)
 医師からは「業務中にかかるセールス電話に悩まされている」という訴えが数多く寄せられた。王道は不動産投資の勧誘電話だろう。他にも先物取引、未公開株などの金融商品、貴金属類など多種多様な売り込み電話が、当直中や診療中にかかりまくっているようだ。「交通事故患者の蘇生中にしつこく電話された」(50歳代病院勤務医、整形外科)という声もあったほど。誇張ではなく、印象としては自由記述の半分くらいが「業務中のセールス電話が迷惑だ」という内容で占められていた(図1)。
(略)
 そもそもセールス電話など、医療機関の受付の時点で遮断すればいいと思うのだが、そうもいかないようだ。以下に示した自由記述からは、受付を突破してきたセールス電話の様々な手口がうかがえる。

【医療関係者を装うパターン】
●当直室に病院の名をかたって電話をかけてきて、こちらが出ると一方的にしゃべり出された。(30歳代病院勤務医、総合診療科)
実在の医師の名前で業者が電話をかけてきた。完全な嘘だったので業者に問い正すと、「その医師と懇意にしているのだ」と言い訳してきた。(40歳代病院勤務医、消化器内科)
●「○○大学から論文に関する問い合わせです」「本日そちらの病院の当直医を派遣している医局から、急ぎの連絡です」という電話がいずれも不動産会社からだった。(40歳代病院勤務医、リハビリテーション科)

【似ている音でだますパターン】
「○○クリニックの△△医師」と名乗って受付に電話がかかってきた。転送された電話に出たら「○○クリエイトの△△」だった。(40歳代病院勤務医、精神科)
●○○(大手電子カルテメーカー)からの電話だとのことで出てみると「先物取引の○△(似た会社名)」だった。(40歳代診療所勤務医、一般内科)
●最近、自らの社名をアルファベット3文字に略して名乗り、SRLやBMLなどの検査会社っぽい雰囲気で電話をつなげてくる業者がある。(40歳代病院勤務医、小児科)

 このほかにも、「大学の同窓会関係者」「患者の家族」「医師会の関係者」「学会関係者」などになりすます手口があった。こうした場合、確かに受付職員は電話をつながざるを得ないだろう。一方で、「『電話の相手が怪しいと感じた場合は私の専門分野を答えさせるように』と受付や家族に伝えている。私を知らない人間はまず正解できないので、怪しい人間をあぶり出せる」(50歳代病院勤務医、神経内科)などと、独自の工夫を凝らしている人もいた。
 一方、こんな意見もあった。
「某県立病院にいたときは平日の診療中にも関わらず、マンション関連のセールス電話が多かった。県立病院の事務職員は仕事をせず、医師の個人情報は駄々漏れだし平気で電話をつなげてしまうので、仕事に支障が出た」(40歳代病院勤務医、代謝・内分泌内科)
 このように、セールス電話をほぼスルーしてしまう病院だと、さすがに業務への影響は無視できない。少なくとも、受付の時点で怪しいと感じたら「どのような要件ですか」と尋ねてもらったり、「折り返して連絡させていただきます」などと相手の連絡先を聞いて、その電話番号をインターネットで検索してもらうなど、可能な範囲で対策を講じたい。

学生時代など暇だった頃にはこの種の電話の相手もしたものですが、こうしたものはかかってきやすい人、狙われやすいタイプもいるのだそうで、迷惑電話の受け答え方にもコツがあるのだそうですね。
ともかく何の商売であれセールス電話を受けた経験のない人はそうそういないのではないかと思うのですが、実際ネット上でも数限りないほどの解決法なるものが掲載されているものの、未だ根絶に至っていないようです。
昨今のようにどこの業界でも人手不足で大変な時代に、こうした非効率な人海戦術で売りつけようと言う商売ですから元より良い話などあるはずもないとは思いますし、実際詐欺紛いの話も少なくないと言います。
売っている側もほぼブラック企業と呼ばれるもので、使い捨ての電話要員を使っての商売ですから大多数は無駄打ちなのですが、それでも最低限の営業が成り立つ程度には成約があるのだそうです。

嘘をついてまで電話をつなげるメリットは?

 だが、ここでふと考えるのは「嘘をついてまで医師に電話をつなげる意味なんてあるのか」ということ。不動産であれ金融商品であれ、1回嘘をついた営業担当から買おうと思うのだろうか
(略)
 不動産業界の暗部を描く漫画『正直不動産』の原案を手掛けるなど、業界に詳しい夏原武氏にインタビューした際、実はこの疑問もぶつけていた。返ってきた答えは大変シンプルなもの。「医師と効率的に接点を持つには、電話以上に良い方法がまだないから彼らは電話するんですよ。嘘をついてでも電話をつなげなきゃ始まらないし、営業トークによって実際にそこから不動産を売っている人もいるから続いているんです」(夏原氏)。
 確かに、万が一でもお客を取れるのであれば電話をした方がいいし、門前払いされるくらいであれば、嘘をついてでも医師と電話をつなげた方が成功確率が上がるのだろう。相手に迷惑が掛けようが、嘘をついてでも営業電話をかけ続けることが医師顧客を発掘するための彼らの最善の選択なのだ。
 電話営業というのは1日200~400件の電話をかけてアポイントを数件取れればいい世界で、不動産のような高価なものになれば、成功率はもっと下がるという。「電話中は受話器を置いてはならず、切るときはフックを手で押して、すぐに次の電話をかけなくてはいけない」といったルールがまかり通っている超体育会系の現場だ。そこでは「嘘をついてまで電話する意味なんてなくない?」みたいな生ぬるい考えは通用しないのかもしれない。
(略)
 しかし、人海戦術によるテレアポであれ、名簿屋から医師の個人情報を買うのであれ、「コストが相当かかるだろうに」と考えてしまうのは筆者だけではないはずだ。裏を返せば、こうした営業電話をかけ続けられる業者は、そのコストを十分回収できるほど利幅が大きいビジネスができているわけで……、そこに闇を感じてしまう。

実際には人件費最小化のノウハウがあるわけですが、しかし数百人に1人だろうがこうした電話を相手にしている医師もいて、実際に購入にまで至っていると言うのですから金と暇に不自由しない先生もいるのでしょう。
とりわけ一刻を争うような緊急処置の最中にこうした電話を取らされた経験のある先生であれば、二度とまともに相手にする気にはならないと思うのですが、医師不足の時代に仕事にならないのでは困りものです。
各病院での対策も年々進化し効果も上がっている実感はあるようで、受付で営業電話を撃退することで業務効率を改善した病院などもあるそうですが、時間だけではなく医師のストレス軽減にも有効そうですね。
必ずしも迷惑電話と言うものではないにせよ、患者からの延々と際限のない問い合わせやクレームなども医師に全部対応させる施設もあって、こうした点を何とかするだけで医師の士気もずいぶん違うと思うのですがね。

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2018年12月 4日 (火)

あまりにも不人気な地域枠が改めて話題に

先日こんなニュースが問題になったのをご存知でしょうか。

30大学で地域枠埋まらず 18年度入試で190人 不適切運用、直近まで(2018年11月28日共同通信)

 地方での医師不足解消に向け、地元で一定期間働く代わりに都道府県から奨学金が貸与される大学医学部の「地域枠制度」に関し、厚生労働省と文部科学省が2018年度の入試分を調べた結果、全国の約30大学で計約190人分の定員が埋まっていなかったことが27日、関係者への取材で分かった。
 希望者が少なかったことなどが原因で、学生を勤務地に制限のない「一般枠」に振り分けた大学もあったとみられる。都市部と地方との医師偏在問題の解消を目指し、医学部の定員は地域枠に限り定員増が認められているが、理念とかけ離れた不適切な運用が今春まで続いていたことになる。

 調査によると、18年度の地域枠の定員は計約千人。充足率が10~20%台だった大学もあることも分かった。文科省は、充足率が低い医学部の地域枠については20年度以降、定員を削減する方針を決めている。
 厚労省は10月、既に過去11年間で計約2600人分の地域枠が埋まらず、一般枠に振り分けられていたと発表したが、大学数などは明らかにしていなかった。今回の調査結果には大学ごとの人数も含まれており、医師の偏在対策を議論する厚労省の有識者会議で28日に報告される。
 地域枠と一般枠を区別して選抜する「別枠方式」よりも、一緒に選抜し、入試前後に希望者を募る「手挙げ方式」での定員割れが多く、厚労省は既に20年度以降に入学する学生の選抜に関しては、別枠方式に一本化するよう通知を出している。
(略)

それは若い時期に何年も進路を縛られる地域枠で入学するよりも、一般枠で入学した方がいいと考えるのが自然ですし、同枠での選抜が行われている以上こうした結果になるのはごく当たり前の結果と言えます。
ただここで問題視されているのは別枠での地域枠として定数を増やしたはずが枠が埋まらず、一般枠に余った地域枠の定員分を振り分けて単純な定員増として扱っている大学が多いと言う点です。
本来定員増加分は地域枠だけに限って認められたと言う経緯があり、こうした運用自体が不適切であると言う声が上がってくるのは理解出来るのですが、こちらの記事も参照いただきましょう。

「医学部の地域枠、一般枠と峻別を」、自民議連が決議(2018年10月24日医療維新)

 自民の衆参両院の国会議員約180人で組織する「医師養成の過程から医師偏在是正を求める議員連盟」(会長:河村建夫・衆院議員)は10月24日の総会で、大学医学部入試において、地域枠は「別枠方式」、つまりそれ以外の入試枠と峻別して募集を行い、必要な地域枠学生の確保を確実にすることなど、3項目から成る医師偏在対策の決議文を採択した(文末を参照)。来週、柴山昌彦文科相、根本匠厚労相に提出予定。

 医学部の地域枠の定員は、2008年度の医学部定員増に伴い、増加してきた。医師偏在対策が目的だが、決議文では「地域枠による臨時定員増と称しながら、一部の大学において地域枠が充足されていない上、その不足分を一般枠等に用いてきたという実態が明らかになった」と問題視している。
 地域枠には、入試段階から別に行う「別枠方式」と、入試は同じ枠で行い、入学前後に地域枠希望者を募る「手挙げ方式」に大別できる。厚生労働省が都道府県に対して、この9月から10月にかけて実施した調査では、「別枠方式」は、募集数の91%に奨学金貸与実績(確保率)があり、義務年限(卒後9年相当)の推定履行率は95%(2008年度以降の医学部の臨時定員増関連)。一方、「手挙げ方式」の確保率は79%にとどまり、推定履行率も86%。決議文で、「別枠方式」を求めているのはこのためだ。同日開かれた厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会」の第23回医師需給分科会でも、都道府県知事は大学に対して、「別枠方式」の地域枠を要請することで意見の一致を見ている。

 議連後、事務局長を務める自見はなこ・参院議員は、「地域枠に関する実態が明らかになるのは今回が初めて」と断った上で、「地域枠卒の医師は、地域医療に従事していると思っていたが、手挙げ方式では思ったほど高くはなかった」と語った。地域枠として定員増が認められた部分を一般枠に振り替えることは「不誠実」であり、定員が埋まらなかった場合にはその分を返上すべきだと指摘。「文科省には、突っ込んだ対応をしてもらうことが必要」(自見氏)。
(略)
 冨岡勉・衆院議員は、「長崎県では、医師が余っている現状がある」と指摘し、医師不足や医師偏在の現状認識を質した。厚労省医政局医事課長の佐々木健氏は、「将来的には医師が過剰になっていくのは明らかだが、地域や診療科の偏在があるのは確かなので、偏在問題については引き続き是正をしていくことを考えている」と回答した。
(略)

記事を読んでみますともちろんタテマエ論の部分もあるのですが、背景の状況として地域枠分を医師偏在対策に用いたかったのだがそれは達成できず、単に総数的な医師不足だけが解消しつつあると言うことでしょうか。
医師偏在解消策にも様々な考え方がありますが、医師の多い都市部で医師が余った分が次第に地方へと流れていくことを漫然と期待していたのでは、全体としては医師過剰になってしまうと言う予測があります。
財務省など国にしろ医療系団体にしろ医師過剰は望んでいない以上、余る前に配置の工夫によって偏在問題を解消したいのは当然ですが、その道具として地域枠は今ひとつ機能していないと言うことですね。

この点で極論すれば国としては医師偏在が解消されればいいので、例えば専門医取得維持の要件なり開業や施設管理者就任の条件なりで僻地勤務を義務づければ、別に地域枠にこだわる必要はないと言えます。
他方で既得権益の代弁者である医療系団体とすれば、学生や若い先生を人身御供に差し出すことで話が済むのであればそれにこしたことはないわけで、その意を受けた議員さんも地域枠制度是正に動く道理です。
この辺りは当事者である学生に需要のないものを無理矢理押しつけると言うことにもなりかねない話ですが、今後地域枠の実態に応じて医学部定員が削減されれば学生が真っ先に影響を被る形になります。
地域の研修病院にしても現状の定員を元に研修医のマンパワーを見込んでいるとすれば、卒業していく若い先生にとっても仕事量が増える可能性もあり、いずれにせよ若い方々にとってメリットのない話ではありますね。

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2018年11月28日 (水)

医師の働き方改革のキモは睡眠時間確保にあり?

議論が続いている医師の働き方改革に関連して、厚労省検討会構成員である統括産業医の黒澤一東北大教授が、先日こんなことを言っていたそうです。

医師の時間外労働の上限設定、例外は許されない(2018年11月9日日経メディカル)

(略)
――「医師の働き方改革に関する検討会」の議論も佳境を迎えている。医師の働き方改革はどうあるべきか。
黒澤 大前提として大事なことは、医師も他の職種の人と同じ、「働く人間」であるということだ。本来であれば、医師にだけ例外的な労働基準法が定められるといったことはあるべきではない。年720時間(月平均60時間)の時間外労働時間を法定とするならば、医師も他の職種と同様であるべきだ。医師だけ、特別に長い時間外労働を設定するのは、医師の健康を守る観点、そして医療安全の観点からも非常に危険だということを強調したい。
(略)
 睡眠時間が5時間未満になると、疲労が蓄積するほか、血圧が高くなり、動脈硬化が進むと考えられている。また月当たりの時間外労働時間が増加するほど、疲労感と抑うつ傾向が右肩上がりになることが報告されている。一方で、労働時間の長さにかかわらず、睡眠時間が6時間以上であれば、うつ状態のリスクに有意差はなかったことも報告されている。
 こんなデータもある。私たちが十分に覚醒して仕事を行うことができる時間は12~13時間で、15時間以上起きていると「酒気帯び」と同じような脳機能になる。連続覚醒時間が17時間になると血中アルコール濃度は0.05%相当、24時間では0.1%相当だという。当直明けの連続勤務がいかに危険な状態か、よく分かるだろう。

 医師の働き方を議論する上では、「応招義務」は解決すべき問題だ。応招義務は、医師法で定められた義務であるものの、現実的にはその解釈は曖昧なままだ。また、それを方便として、勤務医が否応なく働かせられている現実がある。応招義務については、例えば、組織もしくは地域で担保していくことを明文化し、医師個人の過重労働を招く事態を避けるべきだ。
 医師の健康が守られる一方で、現在の働き方改革の改正法を医師にも適用して時間外労働規制を行った場合、「医療の供給量」が減少することは明らかだ。人的資源に恵まれた都市部では影響がさほど出ないかもしれないが、医師不足にあえぐ地方の病院では地域医療が崩壊する可能性が高い。直ちに働き方改革の原則に医師の労働環境を適用することは、日本の社会にとって非現実的であることも事実だ。
 従って、「長期的な取り組み」と「短期的な取り組み」に分けて対策を講じる必要があるのではないか。厚労省の検討会ではこれから論点の整理が行われると思うが、この区別を意識して議論を進めるべきと思う。

――長期的な取り組みと、短期的な取り組みとは?
黒澤 短期的な取り組みとしては、医師の過労死を防ぐ取り組みを行うことだ。検討会では今年3月、今すぐにでも取り組むべき6項目を提示した。この中で「医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み」「36協定などの自己点検」「既存の産業保健の仕組みの活用」の3項目は、労働基準法および労働安全衛生法に定められているもので、現時点で法的順守が課せられている事項だ。だが、夏に公表された実態調査では、36協定すら結んでいない医療機関があった。また、日本医師会の調査においては、医療機関の労働衛生管理体制において、長時間労働の面接指導や健診後の保健指導などの実施体制が十分でなかったりすることも明らかになった。まずは、これらの「当たり前のこと」を各病院にしっかりとやっていただきたい
 一方、長期的な取り組みとしては、タスク・シフティング(業務の移管)の推進、女性医師等に対する支援、シフト制や勤務間インターバルの設置など医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた種々の取り組みがある。地域ごとに状況も異なり、今すぐに実現できることではないかもしれない。5年間の猶予期間を利用し、実現するべきだ。
 同時に、国による支援も真剣に検討してほしい。医師の働き方改革によって提供する医療の量が低下した場合、個々の医療機関の収入も減ることは間違いない。多くの医療機関が益々経営的な問題に直面し、国民のための医療は危機にひんしてしまう。国は、働き方改革によって医師を守ると同時に、医療機関、特に勤務医を雇用する自治体病院などの地域医療を担う病院を、経営的な面で守る施策を行ってもらいたい。そうしないと働き方改革は進まないだろう。
(略)

様々な観点からの議論が進んでいることが判りますが、長期的取り組みとして経営的な視点が挙げられていることは注目すべきで、医師に限らず医療スタッフの労働環境改善において最も重要な因子と言えます。
多忙な急性期病院であっても救急車をもっと取れ、ベッドを空けるなと言われることは珍しくないと思いますが、要するに馬車馬のように働き続けなければ経営が成り立たないような診療報酬設定が根底にあるわけです。
この点の改善なくしていかに働き方改革を叫んでも、(経営的に)地域医療が崩壊するからそれは無理と反論されてしまうのが落ちなので、まずは厚労省および財務省がこの点をどう考えているのかが問題でしょうね。
他方で注目いただきたいのが睡眠時間さえ確保されていれば長時間労働でもうつ状態になるリスクは上がらないと言う点ですが、厚労省の検討会でもまさにこの点を軸にした議論が為されているようです。

医師の働き方改革で優先すべきは「睡眠時間確保」(2018年11月18日日経メディカル)

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が11月9日に開催され、厚生労働行政推進調査事業費「病院勤務医の勤務実態に関する研究」分担研究者である順天堂大学公衆衛生学講座教授の谷川武氏へのヒアリングが行われた。週の労働時間がより長いグループでも、1日6時間以上の睡眠時間を確保できていればストレス反応・抑うつ度に有意差はなかったことから谷川氏は、労働時間の制限よりも、睡眠時間の確保に留意すべきで、「十分な睡眠のためには、連続勤務時間制限と勤務間インターバルの規制を行う、もしくは当直時間帯などでの睡眠時間を確保することが必要だ」と指摘した。

 谷川氏は、米国の21~38歳の健康成人48人を対象に睡眠制限と持続的な注意力との関係を調べた試験を紹介。慢性的な睡眠不足の状態にある場合、たとえ眠気を感じなくても、実は客観的な覚醒度(持続的な注意力)は低下し続けることを説明した。例えば、4時間未満睡眠を2週間ほど続けると、全く眠らず2日を過ごした人と同じ程度まで持続的注意力が低下する。一方、全く睡眠を取らない場合は強い眠気を感じるのに対し、4時間未満や6時間未満の睡眠の場合には主観的な眠気は強くならず、軽い眠気を感じている状態だという。

 さらに谷川氏はタイムスタディ調査において睡眠時間・就労時間と高ストレス者・抑うつの関連を調べた結果を紹介。ストレス反応・抑うつ度は、労働時間とは有意な関連は確認されず、睡眠時間(6時間以上)と有意に関連したことを報告した。具体的には、「就労時間が週80時間以上かつ睡眠時間が6時間以上群」の抑うつリスクは、「就労時間が週80時間未満かつ睡眠時間が6時間以上群」と比べて1.92倍で有意差は認められなかったが、「就労時間が週80時間未満かつ睡眠時間が6時間未満群」は3.94倍、「就労時間が週80時間以上かつ睡眠時間が6時間未満群」では4.13倍といずれも有意差が確認された(P<0.05、図1右)。この結果について、谷川氏は「たとえ週80時間以上働いていても、6時間以上の睡眠時間を確保できていれば有意差はなかった。労働時間制限よりも、睡眠時間の確保に留意すべきと考えられる」と指摘した。労働時間と抑うつ障害との関連に関するシステマティック・レビューでも、労働時間と抑うつ障害との関連は明確ではなく、長時間労働が抑うつ障害に及ぼす影響は確定的ではなく、無視できないとしても小さいと考えられているという。
(略)
 勤務間インターバルとして何時間が理想かという質問に対して谷川氏は、「国によって異なり、一律には言えない」とした上で、米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)ではシフト間の最低インターバル時間を8時間にし、できれば10時間は取りたいという運用をしている点を指摘し、「参考になるのではないか」と話した。

 谷川氏の発表を踏まえハイズ株式会社代表取締役社長の裴英洙氏は、「時間外労働時間の規制と同じくらい、連続勤務や勤務間インターバルも大事だと再確認できた。時間外労働時間の規制は連続勤務と勤務間インターバルとの組み合わせで考えないと議論がなかなか前に進まない」と指摘。医療提供体制に留意しつつ、連続勤務や勤務間インターバルについて現場感と齟齬を生じないような運用案を提示するよう事務局に求めた。
(略)

こうした考え方をどう捉えるか、人によって様々な観点があると思いますが、睡眠時間として細切れの睡眠の総計でもいいのか、ある程度連続した睡眠でなければならないのかと言った点も興味がありますね。
いずれにせよ仕事の間の休養時間確保が必要であると言う考えは、ともすれば主治医制の名の下に24時間365日のオンコール状態を強いられている日本の医療現場にこそ求められる考え方ではないかとは思います。
その実現のためには当然ながらチーム医療による分業体制やシフト勤務の導入と言った方法論が考えられますが、看護師などでは当たり前に導入されているにも関わらず、医師の間では未だに導入が進みません。

この点についてはそもそも同じ診療科でシフト勤務が出来るほどスタッフの多い病院が少なく、現実的に実現が出来ないと言う側面もありますが、他方でそれが可能であっても断固拒否すると言う声も根強いようです。
自分の患者は他人には触らせたくないだとか、他人の失敗の尻ぬぐいまで押しつけられるのはたまらないなど理由は様々でしょうが、医療も決まり切った手順に従って治療が進む場合も少なくないわけです。
疾患毎に用意されたパス通りに話が進めらるような場合が代表的ですが、各種ガイドラインの整備が進んだ現代にこそ分業もやりやすいとも思われますので、各施設でもっと前向きに検討してもよさそうに思いますね。

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2018年11月26日 (月)

いまさら岩手医大の寄付金強要が話題に

東京医大の件に端を発した一連の医学部入試に関わる報道が続いている中で、先日こんなニュースが出ていました。

「娘落第…寄付金3000万円返して」父が岩手医大を提訴 大学側は争う姿勢(2018年11月22日河北新報)

 岩手医大に十分な寄付をしたのに次女が落第したとして、北海道苫小牧市の父親が大学に寄付金計3000万円の返還を求める訴訟を盛岡地裁に起こして21日、第1回口頭弁論が開かれた。大学側は全面的に争う姿勢を示し、請求棄却を求めた。

 訴えによると、次女は5年生だった2014年度末の進級試験で落第。大学から「成績が悪かったのではなく、寄付金の振り込みが遅れたからだ」と指摘を受けて15年3月末、大学に1000万円を送金した。
 しかし進級は認められず15年11月、それまでに寄付した全額を返還することで医学部長らと合意したという。

 父親の代理人弁護士によると、次女が10年4月に入学する際、大学は6年間に計3000万円以上を寄付するよう求める文書を送付。父親は11年11月までに2000万円を寄付していた。
 岩手医大の代理人弁護士は河北新報社の取材に「寄付金は受け取っているが返還には合意しておらず、返還義務もない。全面的に争う」と話した。

岩手県唯一の医学部として知られる岩手医大ですが、70年余の歴史を誇る私立大学であるものの、入試偏差値や国試合格率などは全国最低ランクであるそうで、特に学年が進むほど留年も増えると言います。
その意味で5年の進級試験で落第したこと自体は別に珍しいことではなかったのだろうと思いますが、風の噂によれば成績だけなら落第水準ではなかったとも言い、学費振り込みの遅れがその理由だったと言います。
私立医大に金がかかることは周知の事実で、岩手医大の学費は私大の中では中位どころで特に高額ではないとは言うものの、大学側から具体的に金額を明示され支払いを求められるものなのですね。

こうした大学指定の金額の支払いが進級に必須となれば、それは寄付金ではなく学費として扱うべきではないかと思うのですが、金額を明示しない寄付金扱いの方がより多くの支払いを期待出来る面もあるでしょう。
支払う親としても学費扱いよりも寄付金の方が税金面などで有利なのでしょうが、しかし以前から公然と続けられてきたシステムだとは言え、改めて考えてみると何やら釈然としない思いを抱く人も少なくないようです。
ちなみにこうした寄付金の扱いは大学によっても異なるそうで、私大医学部であっても別に特別な寄付金なしで問題ない場合もあるそうですが、願書を出す前に志望先での扱いは確認をした方がいいようですね。

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2018年11月21日 (水)

外国人成りすまし受診問題が日本人にも波及?

このところ外国人労働者受け入れ問題とからめて、外国人のいわゆる保険医療タダ乗りが話題になる機会が増えています。

健康保険が狙われる…外国人受け入れで懸念される“穴だらけ”の実態(2018年11月12日FNN)

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上の画像は、中国人観光客がSNSで日本に住む中国人に送ったメッセージだ。
「友達が日本に来ていて、子供が病気になりました。誰か保険証を貸してくれる人は、いませんか?」
保険証の不正利用をしようとしたのだ。
20年以上日本に住む中国人男性は、こうした“なりすまし受診”はよくあるとした上で、「保険証を人に貸すというのは、相当昔からあることなんです。中国では、なにか病気があっても見つけてくれないのではないかという、医療に対する不信感がある。不正使用だという事を分かったうえで、“なりすまし受診”している」とその実情を語った。
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日本の健康保険制度では、高額な医療を受けても、一定以上の負担については税金から支払われる“高額療養費制度”もあり、この制度を利用すれば、ノーベル賞で脚光を浴びた高額なオプジーボによる治療も、格安で受けられることになる。この制度を使って、中国人が日本で医療を受けるツアーまであるという。
旅行代理店のホームページの書き込みを見ると、中国人が、日本で無料の治療を受ける方法がありますとあり、ここではさらにクイズ形式で、日本の健康保険を使い治療費を浮かす方法を指南していた。
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外国人による健康保険の不適切とも思える利用は、これだけではない。
東京荒川区で区議を務める小坂英二氏がある資料を見せてくれた。それは荒川区が1年間に支払った出産育児一時金の件数。出産育児一時金とは、出産時に支払われる補助金の事。国民健康保険では子供一人につき42万円が支払われ、保険証を持つ在日外国人も対象だ。
2016年の荒川区での出産育児一時金の支払いは304件、1億2700万円が支払われた。しかし、304件のうち168人が日本人で、残りの5割近くが外国人と高い数字となっている。
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その中、突出している国が…“中国”だ。実に63%を占めている。一体これの何が問題なのだろうか?小坂区議はこう語る。
「それはまさにブラックボックスで、本当に生んだのかということを、役所の窓口では全く調べようがない。ウソの証明書を出されたら、それを信じて42万円出すしかない
別の自治体では、実際に出産一時金の不正受給が明るみに出て、逮捕されたケースもある。
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すでに数年前からこの種の記事が断続的に出ているのですが、その都度問題視されているのが中国人の不正利用で、単純に近くで大人口を要すると言うだけではなく、文化的背景もあるとも言います。
本来的には医療が目的で入国する外国人は健康保険には加入出来ないはずなのですが、制度的な穴があって何とでもなるとは言われているところで、悪用しようと思えば悪用し放題であるとも言えます。
今後外国人労働者を受け入れるのであれば、こうした不正利用問題はますます増えてくるものと思われますが、これに対して先日政府がこんな対策を打ち出したそうです。

病院で「なりすまし防止」外国人に身分証要求へ(2018年11月18日読売新聞)

 政府は外国人が日本の医療機関で受診する際、在留カードなど顔写真付き身分証の提示を求める方針を固めた。来年4月開始を目指す外国人労働者の受け入れ拡大で、健康保険証を悪用した「なりすまし受診」が懸念されるためだ。外国人差別につながらないよう、日本人にも運転免許証などの提示を求める方向だ。

 来年度にも運用を始める。厚生労働省が在留外国人への周知徹底を図るとともに、身分証の提示要請を各医療機関に促す

 国民皆保険制度を採用する日本では、在留外国人も何らかの公的医療保険に原則として加入することが求められる。保険証を提示すれば、日本人か外国人かを問わず、原則3割の自己負担で受診できる。ただ、保険証には顔写真がついていない。「別人かもしれないと思っても『本人だ』と主張されると、病院側は反論が難しい」(厚労省幹部)という。

 自民党の「在留外国人に係る医療ワーキンググループ」が医療関係者や自治体から行ったヒアリングでは、なりすまし受診の実例が報告された。神戸市では不法滞在のベトナム人女性が2014年、日本在住の妹の保険証を悪用してエイズウイルス(HIV)の治療を受けていた。他人の保険証で医療費の自己負担軽減を受けることは、違法行為に当たる可能性がある。

もともと日本では保険証そのものが身分証的に使われる場合も多く、さらに加えて別な身分証を出せとは二重の証明ではないかと言う気もしますが、おかげで日本人も写真入り身分証提示を求められるのだそうです。
ただこの種の成りすまし問題は外国人受給者に限らず、日本人の間でも昔からある話で、特に不景気だった頃には失業者が友人知人の保険証を借りて受診すると言うことはしばしば見られたものでした。
大きな病気が見つかってしまった場合など大変に面倒な話になったりもするのですが、逆に保険加入のための健康診断などで成りすましと言った利用法?もあり得るので、医療現場での個人認識は重要です。
大多数の善良な受診者にとっては迷惑かつ面倒な話なのですが、将来的には保険証に限らず画像なり指紋認証なりによる個人認識を厳格化していくことになるとすれば、システム的対応の手間も大変なものですね。

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2018年11月19日 (月)

タトゥー施術は医療行為ではないとの高裁判決下る

以前に話題になっていた裁判の続報ですが、大阪高裁で無罪判決が出たそうです。

タトゥー彫師に逆転無罪 「医療行為に当たらず」 医師法違反事件、大阪高裁(2018年11月15日共同通信)

医師免許を持たずに客にタトゥー(入れ墨)を施したとして医師法違反の罪に問われた大阪府吹田市の彫師増田太輝(ますだ・たいき)被告(30)の控訴審判決で、大阪高裁は14日「タトゥー施術は医療関連性を欠いており、医師法上の医療行為に該当しない」とし、罰金15万円とした一審大阪地裁判決を破棄、逆転無罪を言い渡した。
 判決理由で西田真基(にしだ・まさき)裁判長は、タトゥーは歴史や現代社会における位置付けに照らすと装飾的、象徴的な要素や美術的な意義があり「医療目的の行為ではない」と指摘。施術に求められるのは美的センスやデザインの素養で、医学的技能を基本とする医療業務とは根本的に異なり「医師に施術を独占的に行わせるのは相当ではない」とし、医療と関連がない行為は医師法の規制対象外と判断した。

 公判で弁護側は、彫師に医師免許を求めるのは職業選択や表現の自由を侵害し違憲だと主張。この点について判決は「タトゥー施術に医師法を適用すると職業選択の自由との関係で疑義が生じる」と言及したものの、憲法違反かどうかの判断は示さなかった。
 施術に伴う保健衛生上の危険性については、業界による自主規制や行政指導などで対処するのが相当だとした。
 昨年9月の一審判決は、医療行為に当たると認め「皮膚障害やアレルギー反応など、医師でなければ保健衛生上の危害が生じる恐れがある」とし、有罪としていた。

 判決によると、2014年7月~15年3月、自宅兼スタジオで、針を取り付けた施術用具を使い、女性客3人の腕などに色素を注入した。被告は15年8月に略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けたが、納付を拒否して正式裁判となった

このタトゥー問題に関しては以前にも取り上げたものですが、もともとは特に問題視されていなかったものが2000年代から取り締まりが厳しくなり、その背景に2001年の厚労省の医師法違反との見解があったようです。
この見解自体は主に美容的な目的での脱毛行為を取り締まることが主目的だったようですが、あわせて入れ墨行為についても医師法違反としており、2010年以後各地で彫り師の逮捕が報じられるようになりました。
警察としても歴史的経緯などもあってか、素直に罰金を支払えばそれ以上のお咎めなしと言う扱いだったそうですが、今回素直に罰金を払わず裁判になった結果がこの判決に至ったと言うことですね。

厚労省の出した見解自体は人体に悪影響を及ぼす可能性がある以上、医師法違反であると言う解釈も一面の真理ではあると思いますが、ではその考えが行き着くところがどこなのかが問題です。
例えば理容師と言う職業はかつては外科医や歯科医の業務も兼ねていたことは有名ですが、現代においても危険な刃物を人体に振るい体の一部を切除しているわけで、文字通り解釈すれば危険な業務です。
うっかり手を滑らせて体を傷付けるリスクがある点では脱毛などと同様ですが、こちらに関しては理容師法によって資格が定められていると言う点で、医師法違反とはされていないわけです。
裁判所の言うところの「業界による侍従規制や行政指導などで対処するのが相当」だとはまさにそうしたことが念頭にあったのでしょうが、今後適切な資格の創設なりが求められると言うことでしょうか。

一連の経過を見ていて感じるのが医師法と言うものをこうした取り締まりの道具として使うことの是非ですが、そもそも論として医療現場は多忙であり、外来に入れ墨希望の患者に押し寄せられても困るわけです。
その意味で各業界が感染防止対策や技術研修、認定などの適切な対策を講じた上で、それぞれの仕事をきちんとこなしてくれることが歓迎される面もありますが、他方で反対の考え方もありますね。
その医療業界から批判を受ける業界の例として、最近全国的に増えていると言う柔道整復師の問題が挙げられますが、保険診療を取り扱っている以上医療財政を圧迫すると言う点からも問題視されています。
ただこれも慢性腰痛の患者が整形外科に押し寄せパンクさせるよりは、きちんと対応してくれる施設があれば行ってもらいたいと言う声もあり、柔整業界自身がきちんと改善を図ってくれることが望ましいところです。

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2018年11月14日 (水)

公立病院の経営改善策、必ずしも奏功せず

医療専門職も世間並みには売り手市場だと思うのですが、その医療現場でちょっと珍しいニュースが出ていたのを御覧になったでしょうか。

赤字の市立旭川病院、医師・看護師らの給与削減へ(2018年9月12日朝日新聞)

 北海道旭川市は11日、市立旭川病院の医師や看護師らの給与を2年間、削減する方針を決め、関連議案を定例市議会に提出した。同病院は深刻な赤字が続き、経営改善が喫緊の課題だ。給与削減で年約1億3千万円の節減を見込む。

 市によると、市長部局との人事交流で来た職員や昨年4月以降の採用者を除く約430人が対象。給料本体を削減するのは、管理職、課長補佐級を中心とした医師や看護師、薬剤師らで、削減割合は20~1・8%。ボーナスにあたる勤勉手当は若手も含め、1回あたり0・5~0・25カ月分削減する。削減は11月から2年間で、労組とも合意しているという。

 同病院は2009年度以降、ほぼ毎年、単年度赤字が続き、昨年度の赤字は6億3千万円だった。今春以降、病床利用率は向上しているというが、経営立て直しのため、給与削減に踏み込んだ。

派遣元の旭川医大から身を切る覚悟での改革が足りないと言われた結果だと言い、こうして身を切る改革を進めた以上大学としても医師を派遣することでしょうから、今後同病院に送られる先生方も大変ですよね。
興味深いのは市は「他職場との関係もあることから、一般事務職員については対象に含まない考え」なのだそうで、医療関係者においては他職場との関係を考えたのかどうか興味があるところです。
いずれにせよ合意の上で施行することで、文句があるなら退職すればいいと思うのですが、こうまでされてもなお市立病院にしがみつきたい方々と言うのは永年勤続を目指しているのか、改革が成功すれば良いですね。
公立病院と言うところは昔から経営的にはあまり良い話を聞かないもので、その理由も様々なものがあるのだと思うのですが、ちょうど先日はこんな記事が出ていてなるほどそうだろうなと感じさせられました。

患者増加、安易に盛りこむ…65病院が経営悪化(2018年11月12日読売新聞)

 全国141の病院を運営する独立行政法人「国立病院機構」が、2016年度に設立以来初めて赤字に転落したことを受け、会計検査院が各病院の経営状況を調べたところ、同年度に経営改善計画を立てていた92病院のうち、約9割の82病院が計画を達成できていないことが分かった。約7割の65病院は15年度より経常収支が悪化していた。

 機構は、国の医療政策や地域医療の向上に貢献することを目的に、04年に設立され、国立病院・療養所の大半の経営を国から引き継いだ。ただ、全体の経常収支比率は10年度の107%をピークに悪化に転じ、診療報酬改定や消費増税の影響などから16年度は99・2%(経常収支は68億円のマイナス)と設立以来初めて経常赤字を記録。17年度も99・7%(同21億円のマイナス)で2年連続の赤字となった。
 検査院は、機構の財務状況や各病院の経営改善に向けた取り組みを調査。その結果、国公立や医療法人などの他の病院に比べ、支出に占める医薬品や医療器具などの購入にかかる材料費の割合が高く、一貫して上昇傾向にあった。収入の大部分を占める一般大規模病院では、病床利用率が低下していた。

 各病院は、資金余力に不足が見込まれる場合、機構の通知に基づき経営改善計画を作成し、実行することになっている。しかし、16年度決算では、15年度より経営が改善されたのは27病院にとどまった。
 各病院が経営改善計画で掲げた実施項目は「収益の増加」が89%を占め、その内容は「患者数を増加させる」が大半だった。実現可能性や医療需要などを加味しないまま、患者数の増加を安易に盛り込んだことで、計画を達成できなかった病院が多かったとみられる。

病床利用数が下がっているから患者を増やすと言うのは一見すると妥当な対策に見えるのですが、しかし医療現場で働く人々にとっては給料は増えず仕事ばかりが増えるわけで、やる気の出る話ではありませんよね。
何であれ多忙な職場では仕事を増やすことは歓迎されず、特に多くの公的病院のように労働量が報酬に反映されないような給与体系では、なるべく仕事をしないで給料をもらう方が賢いと言う考え方が出来ます。
救急医療などは別として予定を立てて待機的に行う医療も少なくないわけで、検査処置の予定をちょっとずつ先延ばしするだとか、手のかからない軽症患者でベッドを埋めてしまうと言った自衛手段も行われるようです。
こうしたことをやっていれば顧客単価が上がるはずもないので、一見病院の求めるように数だけはこなしているように見えても、売り上げは一向に伸びず経営的には全く改善が進まないと言うこともあり得るわけです。

医療に限らずどこの職場であれマンパワーが基本である以上、職場のスタッフの士気をどう高めるかを考えることが経営改善の基本だと思うのですが、その意味で数を減らしてでも質の高い顧客に絞りたいところでしょう。
経営的観点からも紹介率を高めましょうとはよく言われるところですが、顧客の質を高めるためにはむしろ逆紹介率の方が重要であるのに、安定していて開業医でも十分そうな患者が案外病院に来ているものです。
外来をやっている医師としては重症患者ばかりでも大変で、月一回薬をもらうだけの患者と世間話でもして一休みしたいのも人情ですが、日本の場合医師一人が扱う患者数が多すぎるのも問題なのでしょうね。
病院当局としては試しに医師達の外来枠を強制的に何割か削減してみれば、顧客単価の安い患者など診ている余裕はなくなると思うのですが、患者に合った逆紹介先を探すのもそれなりに大変な作業ですよね。

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2018年11月12日 (月)

認知症高齢者に関するニュース2題

かねて安楽死容認の先進国として知られてきたオランダで、先日こんなニュースが出ていました。

認知症患者を安楽死させた医師を訴追へ、オランダ合法化後初(2018年11月10日AFP)

【AFP=時事】オランダ検察当局が、認知症を患った女性(74)を安楽死させた医師の訴追手続きを進めていることが分かった。当局者が9日、発表した。同国で2002年に安楽死が合法化されて以来、こうしたケースは初。

 オランダと隣国ベルギーは「慈悲殺」とも呼ばれる安楽死を世界に先駆けて合法化した。しかし、極めて厳しい条件の下で医師が行う場合しか安楽死を認めていない。
 すべての安楽死を厳しく監視する安楽死地域審査委員会(Regional Euthanasia Review Committee)の2016年の報告書によると、この女性医師は認知症の女性患者に対し、致死薬を投与した際に苦しまないようコーヒーに催眠鎮静剤ドルミカムを入れたが、その数分後に致死薬を注射している途中で女性患者が立ち上がったため、家族が協力して体を押さえ付け、その間に医師は残りの薬を注射した。

 検察は9日、老人ホームに入居する数年前に作成された女性患者の意思表明書は「不明確で矛盾」しており、「女性は日頃から死にたいと言っていたが、死にたくないと言うこともあった」と指摘し、医師は女性と話し合い、今も死にたいと思っているかどうかを確認すべきだったと主張。今回の件は認知症患者の安楽死についての重要な法律問題に関わるとして、同様の問題に対処するため裁判に持ち込むことにしたと述べている。
 オランダ放送協会(NOS)が医師の代理人の話として報じたところによると、医師は慎重に行動したと思っているとした上で、認知症患者らの意思確認についての指導を受け入れる意向を示す一方、訴追については遺憾だと話している。

 安楽死地域審査委員会によると、オランダでは2017年、全死亡者15万人超の約4.4%に当たる6585人が安楽死で命を絶った。同委員会はその12件に懸念を表明。うち2件について現在、検察が捜査を行っている。

全死者のうち約20人に1人が安楽死だったと言うのも少しばかり驚く数字なのですが、これだけ一般的になってくると手続き上の不備があるケースと言うものもどうしても出てくるのだろうとは予想出来ます。
記事から見ると鎮静剤の量が不足していたのではないかと感じるのですが、これも呼吸抑制の来やすいことで知られる薬で、高齢者に過量投与をしてしまえばそれだけで命に関わると言う事があり得ます。
どうせ死なせるのだから同じ事だろうと言う気もするかも知れませんが、その辺りの手順をきちんと踏んだ上での合法化と言うことで、今後は担当医にもより慎重な対応が求められると言うことでしょうね。
さて、これから死なせようと言う人間ですら意志に反して押さえつけてはならないとなれば、一般の患者ではますます論外と言うことになるのでしょうか、このところまたぞろ話題になっているのがこの種のニュースです。

認知症の人の身体拘束(上)「やむを得ず」病院の苦悩…少ない人員 絶えぬトラブル (2018年11月5日読売新聞)

 認知症の人が病気やけがの治療で一般病院に入院した際、事故防止を理由に手足などを縛られる身体拘束。入院患者のほぼ3割が拘束を受けているとの調査結果もある。医療現場の苦悩と改善への動きを報告する。

 午後7時を過ぎても、2階と3階の病棟はざわめいている。東京都内の約60床の一般病院で、当直の院長に同行した。患者は70歳代後半から90歳代が中心だ。入院の理由は様々だが、認知症の人が多く、4人に1人は何らかの拘束を受けている
(略)
 院長の当直は月8回ほど。当直医は1人で、救急車も受け入れる。夜間の病棟の看護師は各階に1人ずつ。看護助手は2人ずつの体制だ。
 入院患者のトラブルは一瞬で起きる。転倒して打撲や骨折をしたり、点滴チューブを引き抜いて服が血まみれになったり、ベルトで胴を拘束されたのに、すり抜けて、ベッドから出て転んだり……。
 「助けてくれー」「外してくれー」。暴れる患者を拘束しようとすると、そう叫ばれることがある。興奮が収まらない場合は、睡眠剤を注射して眠ってもらう。身体機能が低下した高齢者は薬の成分が朝まで残り、ふらついたり、食欲が落ちて朝食も薬も口にしなかったりするなどの悪循環も起きる。それでも、身体拘束を行わざるを得ない。これも病院の一面なのだ。
(略)
 9月、病院で起きた入院患者のトラブルは31件。珍しく事故に至るケースはなかったが、これまでには転倒による 大腿 骨骨折や脊椎圧迫骨折事故も起きた。見守りを徹底しても、少人数では限界がある。病院の経常利益率は一般的な3~5%。看護師を増やす余裕はない
 看護師から「罪悪感がある」「身体機能が落ちないか不安」「家族から同意を得ても、認知症の患者本人が理解しておらず、胸が痛む」などの声も届く。
 「病院内での事故は許さないという患者の家族や社会の意識が、拘束は必要だという医療現場の判断を後押ししている」と、院長は言う。
 医療界には、家族側から損害賠償訴訟を起こされれば過失責任を問われるという認識がある。実際には、勝訴、敗訴それぞれのケースがある。ただ、家族側の主張を退けたある判決で、「適切に拘束をしていたため、転倒事故は病院の注意義務違反ではない」とする見解が示されるなど、裁判が過失の有無を問う以上、病院は拘束を重視せざるを得ない状況もある。

 一部だが、院長が、言動に違和感を覚える家族もいる。「縛っていい。それで動けなくなれば在宅介護が楽になる」という家族。寝たきりに近い患者について、「退院させるなら自分でトイレに行けるように治してほしい」と、無理な要求をする家族にも会う
(略)
 「患者さんに対し、拘束して申し訳ないと思う。その気持ちを医療者と家族、社会が共有することが、問題を改善するためのスタートではないか。不必要な拘束を減らすことは何より患者さんのためなのだから」と、院長が言葉を継いだ。

この種の記事に関しては以前から周期的に出てくるものですが、それだけ拘束と言う行為が医療現場で変わらず行われ、それを問題視している人がいると言うことなのでしょうが、問題は誰が問題視しているのかです。
基本的に家族が24時間付き添い見張ってくれるならば拘束は必要ない場合がほとんどであり、病院側としても拘束するか付き添うかの選択肢は提示しているはずで、その結果やむなく拘束が発生していると言えます。
こうした経緯を考えると家族側から拘束を問題視することはあまりなく、むしろ適切な拘束を行わず事故になった場合の責任を問うケースの方が多いと思うのですが、そこで出てくるのが社会の意識なるものですね。
進歩的な方々に言わせると拘束などほとんどの場合必要ないと言うことであり、事実適切な対応を取れるのであれば拘束が必要ない場合も多いのでしょうが、その適切な対応が取れない現実が問題です。

もちろん問題となるような患者が各病棟に1人、2人であればまだしも、今回の記事のように高齢者ばかりを受け入れている施設であれば全員に手厚い拘束回避策をとることなどまずもって無理だろうとは思えますね。

相対的に若い患者が多い急性期の病院も重症患者が多いと言うことであって、結局のところ認知症老人を入院させること自体が問題発生のリスクと言うしかないのですが、では結局どうするべきなのかです。

現状では医療機関側としては限られたマンパワーで出来ることをするしかありませんが、適切な拘束を行って訴えられ負けるリスクよりも、適切な拘束を行わず事故を起こして裁判に負けるリスクの方が、今のところ高いと言う判断は妥当なのだと思います。
本人家族として拘束も嫌だし付き添いも出来ないと言うのであれば、お金を出して個人的に付添人なりを雇えば良いでしょうが、そこまでやってまで拘束を拒否している人は極めて少ないのではないでしょうか。

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2018年11月 7日 (水)

進む財務省の医療介入、意外と強力なツールにも?

財務省が医療に口を出すことは今や全く日常的な光景となっていますが、先日はこんなニュースが出ていたことをご存知でしょうか。

財務省「病床数と入院医療費は相関、病床削減を」財政審で提案、国保の法定外一般会計繰り入れ解消も(2018年10月30日医療維新)

 財務省は10月30日の財政制度審議会財政制度等分科会(分科会長:榊原定征東レ相談役)に、入院医療費と病床数に強い相関が見られるとして、病床数削減など地方ごとの「医療提供体制適正化」の取り組みを求めた。地域医療構想の進捗が遅く、公立・公的医療機関だけを見ても地域差があるとも指摘し、民間医療機関も含めて具体的対応方針作成の推進や病床の機能分化・連携を進めるため、都道府県の権限強化を検討することも求めた。
 国民健康保険では、制度上の公費支出に加え、決算補填などの目的で法定外一般会計繰り入れが市町村により毎年度3000億円以上行われている。収支圧迫の要因となっており、給付と負担の対応関係が不明確になるとして、都道府県単位の運営となることを機にやめることを求めた。

 財務省が提出した資料では、入院医療費(年齢調整後)と病床数に強い相関があるとして、「高齢化率等の年齢構成の違いでは説明できない地域差である」と主張。医療費は医療提供体制に強い影響を受けると考えられ、「各地方による医療提供体制適正化の取り組みが重要」だと求めた。
 地域医療構想の推進に関しては、2025年までに増減すべき病床数について、具体的対応方針に合意済みの施設数が約1万4000のうち約280施設にとどまり、公立・公的医療機関約1650施設の進捗状況を見ても、合意した施設や議論を開始していない施設の割合で地域差が大きいことを指摘した。推進のためには都道府県の権限強化を推進するべきと提言し、記者会見した分科会長代理の増田寛也東京大学公共政策大学院客員教授によると、委員の1人からも、「民間病院を含めて地域全体の取り組みが必要で、そのためには知事の権限強化を考えるべきでは」との意見があったという。

 この日の会議ではニッセイ基礎研究所准主任研究員の三原岳氏からのヒアリングも行われ、同氏は「社会保障制度改革における自治体の役割を問う~医療行政の都道府県化の現状と課題~」としてプレゼンをした。その中で、「地域医療構想の実情」として、政府文書や当局の説明で「過剰な病床の適正化」と「提供体制構築」という2つの目的が混在しており、当初は前者、特に急性期病床の適正化のための政策としてスタートしたものが政策形成のプロセスで変化したのではないか、と指摘。2025年の必要病床数について地域医療構想で「削減目標ではない」と明記した都道府県が過半数の29に上ったことを明らかにした。
 三原氏は、地域医療構想と国保の都道府県化、医療費適正化を「3点セット」とし、「これを地域医療構想の中で明確にリンクさせたのが奈良県のみで、他の都道府県は、地域医療構想を医療費に絡めて説明した場合の地元医師会の反発を避けた可能性があり、ガバナンス強化を促す国と都道府県との間に認識のギャップがあるのではないか、また都道府県は過剰病床の適正化による医療費削減に消極的で、ここにも国と認識のギャップがあるのではないか」と指摘した。地域医療構想の策定に携わった委員の1人は、「これらの指摘はガイドラインをつくったときに想定内で、初めはどうしてもそうなるだろうということだった。これから適正化をしていくことが重要だ」と述べたという

このベッド数問題に関連して先日川崎市で外国人向けのメディカルツーリズムを標榜する病院を開設すると言う話があり、医療系団体がそれに反対するコメントを出したことが報じられていました。
医療ツーリズムはさておき、自由診療でやる分には地域医療計画等での病床数規制の対象外であることが、いわば抜け道として機能する危惧があると言う意見が出されているようですね。
外国人医療問題に関しては昨今の外国人労働者受け入れ拡大に伴い、今後各地で無保険外国人の医療費問題が頻発するとも予想されるのですが、特に地方の末端医療機関にとっては頭の痛い問題です。
外国人を受け入れた雇用者側には健康保険もセットで付けることを義務づけるくらいのことはしておいた方が良いのではないかと思うのですが、この方面でもきちんとルールを決めておく必要があると思いますね。

いささか脱線しましたが、奈良県と言えば先日は医療費適正化のために診療報酬一律カットを目指すと報じられていましたが、財務省的視点で見ると極めて先進的で高い評価に値する方針であると言うことですよね。
この診療報酬と病床数との関係は古くからあるテーマで、昔から日本ではベッド数が諸外国に比べて多いと言われていますが、逆に療養型の病床数は少ないことから、単純に国毎の分類の違いもあるとは言います。
とは言え高い医療費を要する急性期病床が多いことは事実であり、医療費を多く消費すると言うことは医療リソースも多く使っていると言うことですから、日本の医療は多くのマンパワーを要する構造であるとも言えます。
このことから考えるならば、特に急性期の病床数削減は医療費を削減するのみならず求める医療リソースとりわけマンパワーも削減することにつながるとも言えますが、その結果として医療現場の過重労働がどうなるのかです。

先日出たばかりの過労死等防止対策白書2018年版では、過労死ラインの残業月80時間を越える医師がいる病院が2割強あったと言うのですが、急性期で勤務している先生にとってはたった2割?が実感でしょう。
これも先日出たばかりの医師の働き方改革に関する検討会の調査結果によれば、病床数の多い病院ほど医師が長時間の時間外労働を強いられている実態が明らかで、ベッドの多さも過労の原因か?と思えます。
では逆にベッド数を減らせば労働時間も減るのかですが、基本的に外来患者より入院患者の方が手がかかる以上、入院患者が減れば少なくとも一定程度は労働時間削減効果が期待出来るだとうとは思いますね。
財務省の目的は全く別なところにあるのは明らかですが、医療費削減すなわち診療報酬を産みだしている医師の労働削減とも言える以上、案外とこの方面から考えてみるのも興味深い結果を生むかも知れません。

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