心と体

2017年7月20日 (木)

乳癌で亡くなられた著名人が引き続き話題に

このところ著名人の訃報が単に流れると言うだけに留まらず、その亡くなられ方にまで言及される機会が増えてきていますが、その一因としてSNS等の発信手段の多様化もあって生前や死後に当事者サイドから多くの情報が出てくるようになったことが挙げられそうです。
ただこれらはしばしば当事者の肉声として貴重なものではあるものと、時として客観的な事実と整合性がないのではと指摘されることもあるようで、先日亡くなったこちらの著名人を巡っても最近こんなニュースが相次いでいます。

「あのとき信じなければ」小林麻央さんも後悔 がんを見落とす医者(2017年7月16日週間現代)

「心配いらないですよ」
乳がんで亡くなった小林麻央さんは、生前、ブログにこんな言葉を残している。
〈私も後悔していること、あります(中略)あのとき、/もうひとつ病院に行けばよかった/あのとき、/信じなければよかった〉('16年9月4日付)
その言葉からは、病院や治療の選び方についての後悔が滲む。とりわけ彼女は、がん告知までの医師、病院の選択を深く悔いていた。なぜなら、その過程で医師が、がんを見落とした可能性があるからだ。

麻央さんが初めてがんを意識したのは、'14年2月。夫の市川海老蔵と人間ドックを受け、医師にこう告げられた。
「左乳房に腫瘤があります。これはしっかり検査して診てもらったほうがいいので、なるべく早く病院へ行ってください」
麻央さんが「がんの可能性もあるということですか」と尋ねると、
「五分五分です」
この段階で、がんのリスクはハッキリと麻央さんに提示されていた。

しかしその直後、麻央さんは都内の虎の門病院で、マンモグラフィ検査などを受け、がんを疑う状況ではないと告げられる
麻央さんは重ねて、細胞を直接採取して調べる「生検」の必要はないかと確認したが、
医師は、「必要ないでしょう。心配いらないですよ。半年後くらいに、念のためまた診てみましょう」と答えた。
麻央さんはホッと息をついた。

ところが検査から8ヵ月経った同年10月、麻央さんは左乳房にパチンコ玉のようなしこりに気づき、不安を胸に、再診を受ける。しこりについて虎の門病院の医師に報告し、触診を受けた。
だがこの段階でも医師は、「大丈夫だと思います」と判断していたという。
しかし、エコー検査をすると医師の表情が曇る。腋にもしこりがあると分かり、ようやく生検を受けることになった。そして、検査から約10日後の10月21日、がんが告知された――。
麻央さんの担当医は、かなり迂闊だったと思います」と指摘するのは、乳がんを専門とし、数千の手術を行ってきたベテラン医師である。
「検査の段階でつまずいていた可能性が高い。当初、担当医はマンモグラフィを使ったようですが、授乳中はマンモグラフィが映りづらい。様々な可能性を考えて、生検も行うべきだったと思います。
もちろん乳がんは診断が難しいですが、麻央さんの例に限らず、医師が独りよがりに診断を下してしまい、『これで診察は終わり』と打ち切ってしまうケースは見受けられます。大抵は経験が浅かったり、過去の失敗の反省がない医師ですね」

がんは、数ヵ月発見の時期が遅れただけで患者の運命が大きく左右される病気だ。だからこそ患者は、医師はがんを真剣に見つけてくれるだろう、見逃すことなどないだろうと信じてしまう。
しかし、そうした患者の不安をよそに、流れ作業のように診察を行って検査結果を見落としてしまう医師や、十分な検査さえしない医師もいる。
(略)
師はがんを見落とすものだ――そう想定し、自衛したほうがいい。

小林麻央さん、標準治療を受け入れず… 命を奪った忌わしき「民間療法」(2017年07月13日デイリー新潮)

(略)
 2014年2月、PL東京健康管理センターで人間ドックを受けた際、左乳房に「しこり」が見つかった。「精査すべし」と判断が下り、虎の門病院へ。診察を受けたところ、腫瘍の存在が確認されたうえで、
「若い女性に多い良性の乳腺線維腺腫に見受けられたようです。全く問題がなさそうなら半年後と言うのですが、白黒はっきりしないので“3カ月後に来てください”と伝えたのです。彼女のブログには〈「授乳中のしこりですし、心配いらないですよ。半年後くらいに、念のため、また診てみましょう」と言われました〉と綴られていますが……」
 と、虎の門関係者。ところが、麻央さんは多忙だったためか、受診が遅れ、再検査を受けたのはその8カ月後だった。
「その時にがんが見つかり、針生検の結果、脇のリンパ節への転移がわかった。比較的、進行が速かったけれどこの段階で治療に取りかかれば5年生存率は90%超。当然、標準治療を勧めたのですが、麻央さん側は首を縦に振らなかったと言います」(同)
(略)
 いずれにせよ標準治療から遠ざかったのは事実だが、その理由は定かではない
 つまり14年10月から、16年6月9日にスポーツ報知が〈麻央夫人 進行性がん〉とスクープし、これを受けた会見で海老蔵が乳がんだと認めるまで、いや、その後も含めて、どこで何をしていたのか判然としなかったのだ。
(略)
 だが、ここへきてその一端が伝わってきたのである。
 事情を知る関係者は、
「気功に頼っていたのです。いわゆる標準治療は全くしていなかったと言います」
 と告白する。
(略)

この事例を巡ってはお亡くなりになる前から噂レベルも含めて様々な情報が駆け巡っていたものの、このところ話題になっているのは主に2点で、最初に診断された時点でそれが本来行われるべき時期よりも遅れた診断であったのか、いわゆる見落としがあったのかと言う点です。
一部には見落としがあったことを前提にしているような報道もあり、今回の記事も含め他の見落とし事例などと絡めて仕立て上げられた記事も少なくないのですが、無論どのような場合であれ人間である医師が決して見落としをしないことなどあり得ないことです。
ただ一方で医師はごく標準的な対応をしていただけであると言う見解もあり、特に授乳中の乳癌診断はしばしば難しいと言うことですから、後段の記事にあるように念のため3ヶ月後に再診をと指示されていたのであれば確かに特別おかしな対応ではなさそうに思われますね。
問題は当事者が自己発信している情報としてそうではなかった、次回は半年後と言われたと明記していることとどちらが正しいのかですが、当然ながらこの辺りはカルテにははっきりと事実関係が記載されているのだろうとは思います。

もう一つ多くの方々が疑問に感じている点として、仮に半年後の発見であったにせよこの時点から治療を始めていればまだ十分治る見込みがあったはずにもかかわらず、その後1年半もの間一体何をやっていたのかと言う点ですが、少なくとも標準的治療は何もしていなかったことは事実であるようです。
1年半の後に別な病院を受診した際にはすでに骨や肺にも転移した状態だったとのことで、専門家の中にも最初に診断した医師が「標準治療の有用性をもっと真摯に説明していたら、状況は変わっていたはず」だと批判する方もいるようですが、何故こうした判断に至ったのか本人以外には判らない部分もあるでしょう。
ともあれ先日ちょうど今回の事例とも関連した「癌患者さんに民間療法を受けたいと言われたら」と言う記事を見かけたのですが、高価でなくどうしてもやってみたいなら駄目元のつもりで許容はするものの、とても積極的に勧める気にはならないと言う意見は臨床医の最大公約数的な見解なのかも知れませんね。

先年も胆管癌を罹患した著名人が標準治療ではなく民間医療を受け亡くなった事例があり、あちらの場合では標準治療での成績があまり芳しくないことから意見が分かれる部分もありましたが、今回の場合比較的標準的な治療によって効果がそれなりに期待出来る乳癌であったと言うことも判断を難しくするところです。
もちろん初診の段階できちんと診断がつき、標準的治療を行ったところで100%完治するものではなかった可能性もあるのでしょうが、正しい時期に一定の根拠のある標準治療を行っていれば高い確率でよりよい結果が得られていたのではと考えると、民間医療に費やした時間は果たしてどうだったのかと誰しも感じるところではないでしょうか。
なお一部メディアの真偽不明の報道によればご遺族は病院と訴訟も辞さずの構えであるとのことですが、興味深いことにその対象は本人が悔いていたと言う虎ノ門病院ではなく、根拠に乏しい民間医療を行った施設でもなく、最後に患者を受け入れ在宅医療に移行する直前まで治療を受けていた有名病院だと言うことです。

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2017年7月18日 (火)

国が医療費抑制の成功報酬で自治体間の競争を煽る

都道府県が地域内の医療提供体制を計画的に整備していく地域医療計画の策定が原則的に昨年一杯が年限とされていましたが、今後はいよいよ計画に従って各地で独自の医療提供体制が整えられていくと言うことになります。
その結果これまで国民皆保険制度の建前であった、全国どこでも同じ医療を同じように受けられると言う非現実的な前提が制度上も崩壊することになる理屈ですが、当然ながら自治体間での差異と言うものも嫌でも目立ってくるようになるはずです。
特に医療費削減とも絡めて全国の平均的水準から各地域の医療コストが高いか低いかと言ったことが明らかになれば、それに従って国が何らかのペナルティーなりで是正してくると言う予想は以前からあったのですが、先日こんなニュースが出ていたことが注目されます。

医療費抑制で1千億円配分 国保支援、成果に応じ(2017年7月7日共同通信)

 厚生労働省は6日までに、国民健康保険(国保)の運営主体が来年4月に市町村から都道府県へ移るのに合わせ、医療費抑制の成果などに応じて来年度、都道府県と市町村に500億円ずつ、計1千億円を配分して財政支援する方針を決めた。自治体側に5日付で通知した。

 加入者1人当たりの医療費が低かったり、メタボリック症候群の該当者を減らしたりした自治体に報奨としてお金を配ることで、医療費抑制と住民の健康づくりを促す狙い。医療費の地域間格差の是正にもつなげる。

 都道府県分の500億円の内訳は(1)年齢構成を調整した後の1人当たり医療費が全国平均よりも低い、または前年度より減らした場合に150億円(2)市町村への指導状況や糖尿病などの重症化予防の取り組みに応じて150億円(3)管内市町村のメタボ健診実施率や、ジェネリック医薬品(後発薬)の使用割合などにより200億円。これまでの成果や来年度の取り組み態勢などを考慮して傾斜配分する。

 運営移管後も保険料収納や住民の保健事業を担う市町村分の500億円については、医療費抑制への取り組みに加え、保険料収納率なども評価し配分を決める。

 運営移管に当たってはこの1千億円とは別に、急激な保険料上昇の緩和などに約800億円を交付する。

 国保は低所得の加入者が多く2015年度の実質赤字総額は約2800億円に上る。保険給付費は約9兆5500億円、加入者は約3200万人。

国保と言うものは加入者の割合に地域差があり、失業者や高齢者なども含まれることから地域の高齢化率や経済力などとも無関係ではなく、この点で全国一律で比較して判断すると言うことは良いのかどうかと言う議論はあるでしょう。
現在の支出に対して幾ら幾らを減らしましたと言う削減率で判断すればいいと言う考え方もあるでしょうが、この辺りは炭酸ガス削減の議論と同じですでに努力して目一杯削減してきた自治体ほど損をすると言うことになりかねませんよね。
ただいずれにせよ国が各自治体の医療費削減の努力を横並び比較で競争させようとしているとは言える話で、今後どこまでこうしたアメとムチによる医療費削減努力の半強制化が進んでくるものなのかと興味深いところです。

実際のところ地域医療にどれほどの違いが出てくるものなのかと言うことも気になるのですが、健診実施率や予防医療の推進、ジェネリック使用の促進などについては特に誰が困ると言うことでもなく、さらに強く推し進められていくと言うことになろうかと思います。
問題は全体の3割と言う小さくない部分を占める医療費削減と言う結果に対するいわば成果報酬の部分ですが、具体的にどこをどのようにと言う細かい指定がなく結果だけを問われると言うことになれば、自治体によってその方法論に差が出るのは当然でしょう。
思いつくところでも高齢化率の高い地域における高齢者医療の在り方などはたちまち議論になりそうですが、他方で例えば小児医療費削減や現役世代への給付の抑制などについては、このところの世論の風潮を見る限り難しそうな気がします。
また地域の実情の差から、補助金導入で医療費地域間格差が縮まるのかどうかは何とも言いがたいとも感じるのですが、成績上位の地域は成績下位の地域に比べ改革への問題意識も強くないでしょうから、長期的に見ればある程度平均化する方向で機能するのかも知れませんね。

当然ながらどこの方面にも配慮してしまえば現状維持で何ら削減の余地がない、むしろ増額の要求ばかりと言うことになるはずですが、いずれにせよ長期的に見て副次的に発生してくるだろう現象として自治体毎に医療提供体制に差が付いてくるだろうと言う点があります。
とある県ではお年寄りの入院には厳しい制約があるのに対して、隣の県ではむしろ早期入院早期退院を推進していると言ったケースが考えられますが、この場合当然ながら自治体の境を越えてより有利な地域へ患者の自主的移動が発生するだろうと予想できますね。
現在でも首都圏などでは医療リソースの乏しい自治体から豊かな自治体への越境搬送が日常的に行われていますが、さらにこれが進んだ場合こうした越境患者の医療費は計算に加えるべきなのかなど、今までとは異なった問題も発生するかも知れません。
いずれにせよ制度として赤字が続いている以上早急に何とかしなければと言われればその通りなので、日本においても米国などと同様に保険者の顔色をうかがいながら、医療経済学的な観点も勘案しての医療が行われる時代が迫っていると言うことになるのでしょうか。

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2017年7月12日 (水)

幼児への延命治療中止を国が両親に強制

このところ話題になっていたのがこちらの成り行きですが、記事から紹介してみましょう。

<英国>乳児尊厳死に注目 トランプ氏ら治療継続を支援(2017年7月10日毎日新聞)

 【ワシントン山本太一】深刻な難病で生命維持装置をつけている英国のチャーリー・ガード君(生後11カ月)の治療を続けるかどうかに世界の注目が集まっている。回復見込みがないとして地元の病院は安楽死を提案したが、両親は拒否し、米国で治療を継続することを模索。3~4日、トランプ米大統領やバチカンが両親への支援を表明したことで、さらに関心が高まっている。

 英メディアなどによると、チャーリー君はロンドン在住のクリス・ガードさん(32)、コニー・イエーツさん(31)夫妻の長男として2016年8月に誕生。まもなく先天性の「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」と診断された。細胞が正常に機能しないため内臓や筋肉の形成が難しく、脳にも深刻な損傷を負っているという。
 16年10月から治療を続けている病院は「やるべき治療は全てやった」と強調し、両親に生命維持装置を外して安楽死を受け入れるように提案した。病院は裁判所に安楽死の許可を申請し、欧州人権裁判所は今年6月、治療継続は「さらなる苦しみを与える」として安楽死を認める決定をした。両親がチャーリー君を国外に渡航させることも禁じた
 これに対し、両親は「命が尽きるまであきらめないのが私たちができる唯一の務め」と安楽死を拒否。国外も含めた受け入れ先を探し、米国の医師を見つけた。医師は、治療としてチャーリー君の体内で生成できない物質を経口投与すると約束したという。両親は治療費や渡航費を募るため、ネットサイトを設置し、130万ポンド(1億9000万円)以上の寄付を集めた。

 トランプ氏は今月3日、「もし私たちが助けることができるなら喜んでそうしよう」とツイート。ホワイトハウスは政府職員が両親と連絡を取っていると明らかにした。
 さらに、フランシスコ・ローマ法王が、両親が最期まで子どもに寄り添い治療にあたることを認めるべきだと主張。バチカンが運営するローマの小児病院は4日、受け入れを表明した。しかし、ジョンソン英外相は裁判所の渡航禁止命令を理由に小児病院への転院は「できない」としており、当面は地元の病院での治療が続く見通しだ。

乳児尊厳死の是非、審理再開=医師団「回復不能」、両親は拒否-英(2017年7月11日時事通信)

 【ロンドン時事】英国で先天性の難病のため自力での生存が不可能と診断された乳児(生後11カ月)の尊厳死の是非が争われ、英最高裁と欧州人権裁判所でいったんは尊厳死が認められた裁判で、英高等法院は10日、新たな証拠を検討するため審理を再開した。

 この乳児はロンドンの病院で生まれたチャーリー・ガードちゃん。生まれつき細胞内の小器官ミトコンドリアに異常がある「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」というまれな疾患にかかっており、自力で呼吸もできない。医師団は「脳に回復不能の損傷がある」と診断し、生命維持装置を外す尊厳死を勧めた。両親は拒否し、米国での治療を求めていた。
 チャーリーちゃんの尊厳死の是非が問われた裁判で高等法院は今年4月、医師団の判断を支持。両親は上告したが、最高裁と欧州人権裁も6月にこれを棄却した。しかし今回、治療法についての「新たな証拠」が提出されたとして審理が再開された。
 両親の弁護士は最新の遺伝子科学による実験的な治療法が「劇的な臨床的改善」をもたらす可能性があり、「試してみる価値がある」と主張しているが、病院側は疑問視している。

 チャーリーちゃんについて、米国での治療を認めるよう求める35万人の署名が集まっている。トランプ米大統領が今月3日、ツイッターで「少しでも助けることができるなら喜んでする」と述べたほか、フランシスコ・ローマ法王も「子供に付き添い世話したいという願いが無視されるべきではない」と、両親を支持する声明を出した。

この耳慣れない「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」なる病気、先天性代謝異常の一つでミトコンドリアのエネルギー代謝が障害される状態の総称なのだそうですが、良い治療法も確立されておらず大人になるまで生きてはいられないと言う非常に重大な病気だと言います。
乳幼児に限らずいずれにしても命の終わりが見えている方にどこまで延命をするかは意見が分かれますが、今回興味深いのは両親が反対しているのに病院側が安楽死の話をどんどん進めていて、裁判所も延命治療の中止をいわば強要していると言う点ですよね。
この辺りは安楽死や児童虐待などに対する民族文化の違いを感じざるを得ませんが、治療費も自前で調達し国外で保険外の診療を受けたいと言う希望すら禁止すると言うのも、日本ではなかなか考えにくい状況ではないかと言う気はしますがどうでしょうか?

今回の場合延命治療を中止する消極的な安楽死とも言われるものですが、毒物を投与して死に至らしめる積極的安楽死に関しても世界各地で徐々に認められる国も出てきていて、実際その運用がどうなっているのかが注目されています。
法で末期患者へお毒物投与を認めたカリフォルニア州では施工後半年で111人が亡くなったそうですが、興味深いのは医師から薬を処方されていたのは191人だったそうで、59人は薬を使ったかどうかもはっきりしないと言いますから毒物管理体制としてどうなのかですよね。
海外では過去に何度も安楽死を巡る様々な事件があり、日本でも射水の事件など話題になってきた事例は少なくありませんが、日本の場合仮に助からないとされても全て保険診療で延命治療が続けられ、金銭的理由や外圧によって中止が求められることはあまりないようです。
逆にそうであるからこそ誰がそれの開始や終了を判断すべきかも難しいとも言えますが、継続を希望している延命治療が強制的に打ち切られるような医療を国民の多くが望んでいるとはとても思えず、その点ではまだしも日本は恵まれているのでしょうね。

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2017年7月10日 (月)

構造的に破綻が見えてきた介護業界のその後

人それぞれに思うところはあるのだろうと思うのですが、先日ちょっとした話題になっていたのがこちらのニュースです。

「介護ミスで母親が死亡」 遺族が特養老人ホーム提訴へ(2017年7月6日朝日新聞)

 埼玉県ふじみ野市の特別養護老人ホームに入所していた高齢女性が介護ミスで死亡した、などとして、遺族が近く、施設の運営法人に約4千万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こす。遺族は「同様の事故を減らすため、裁判で原因や背景を明らかにしたい」としている。

 亡くなったのは中野小夜子さん(当時86)。認知症を患い、2015年1月から特養「上野台の里」に入所。事故時は要介護度4で、座った状態を保つのも困難だった。原告となる中野さんの息子2人や代理人弁護士によると、事故は15年9月7日の夕飯時に起きた。中野さんは、食事を飲み込んだ後に吐き出す動作をくり返し、病院に救急搬送されたが、10月23日に死亡した。死因は食物が肺に入った場合に起きる「誤嚥(ごえん)性肺炎」と診断された。

 施設側が県に出した事故報告書では、食事介助の際に上半身を起こすベッドの角度を過度に垂直に近づけたことや、食事を早く食べさせ過ぎたことを認めている。遺族によると、謝罪され和解金の提示も受けたというが、「入院中の見舞いにも葬儀にも来ず、誠意を感じなかった。命を扱う事業者として責任感を持ってほしい」と提訴を決めたという。

 施設長は朝日新聞の取材に、「個人としても法人としても、取材は受けない」と回答。同市は取材に対し、救急搬送の直後に施設から報告があったことを認めたが「詳細な報告内容は言えない」としている。

当時の状況は記事からは何とも言いかねるものがあるにせよ、進歩的なメディアとして内外に知られる朝日新聞が大々的に取り上げていることからしても余程に事情があったのだろうと思うのですが、いずれにせよお亡くなりになった方のご冥福をお祈りするばかりですね。
この種の民事訴訟とは法律ではなく当事者の意志に基づいて起こされるものであり、その結果を度外視するならばどこの誰がどのような訴えを起こしても自由であるのですが、一般的に弁護士に相談が持ち込まれた段階である程度の専門的判断が働くのだそうです。
その意味でこうして裁判にまで持ち込まれたと言うことでそれなりに勝算があると言う判断が働いたと言うことなのでしょうが、関係者一同の証言や当時の状況などに基づいて司法の判断がどのようなものになるか知りたいところですね。
さて、このところ全国的に非常に求人倍率が高まっていて、それこそ何十年ぶりと言うほど雇用状況が改善しているのだそうですが、その一方で一部業界では慢性的な人手不足が続いていて、特に運送業や介護業界などはたびたび社会問題にもなっています。
介護業界などは3Kだ、いや4Kだとその過酷な労働環境が取り沙汰されることが多く、いざ勤め始めても皆すぐに辞めてしまうとも側聞するのですが、今やそれ以前の段階で介護業界離れが深刻化していると言うことが先日報じられていました。

ケアマネジャーなどの資格、志望者減 待遇に見合わない責任や負担 「介護の質」低下懸念(2017年8月7日産経新聞)

 高齢者が増える中、介護保険を利用する人のケアプランを作るケアマネジャーや介護福祉士を目指す人が減っている。平成28年度の資格試験の受験者や合格者は減少、人気低下が鮮明になった。研修時間増など制度変更が要因とされるが、背景には待遇に見合わない責任や負担の大きさがある。いずれも現場で中心的な役割を担うだけに、なり手が減れば介護の質の低下を招きかねない。

 東京都の高野清美さん(44)は、5年間務めた在宅介護でのケアマネジャーを辞めた。今は訪問介護事業所で、サービス提供の責任者を務める。
 ケアマネジャーは介護保険開始と同時に制度の要として創設された。比較的待遇が良いため、ヘルパーや介護福祉士が目標にするケースも多い。
 ケアマネジャーとしての高野さんの仕事は多忙を極めた。月1回の利用者宅への訪問に加え、関係者を集めたケア会議の開催、医師や看護師、事業者や家族との調整。書類作成も多く「利用者のために自分がいるのか、書類のためにいるのか分からなかった」。
 時間に関係なく呼び出され、夜に子供を置いて利用者宅に駆け付けたことも。「医療の知識やコミュニケーション能力も求められ、自分には無理だ」と離職を決めた。

 20万人を超えたこともあるケアマネジャー試験の受験者は28年度には12万4千人となり、前年度より約1万人減少。合格者は1万6千人、合格率13・1%と過去最低だった。
 日本介護支援専門員協会の能本守康常任理事は「必要な実務研修の時間が44時間から87時間とほぼ倍になったことが大きい」とみる。「仕事を長期間空けて自費で受講するのは難しい」ためだ。
 ケアマネジャーの仕事には多くの課題がある。独立しても経営が難しいため、特定の事業者に所属し、その意向に沿ったプラン作成を求められる。利用者から「何でも屋」と思われ、無報酬で動くことも
 施設関係者からは、ケアマネジャーなしでプランが作れるのではという「不要論」まで浮上。「国が進める在宅医療は医師主導。将来が見えない」といった声も上がる。

 一方、28年度の介護福祉士国家試験の受験者も7万6千人と前年度から半減。合格者は5万5千人で4割減った。受験資格に原則450時間の実務者研修が加わったためとされる。日本介護福祉士会の石本淳也会長は「受験者が本当に介護福祉士を目指す人に絞られたためで、これを機に質を上げなければならない」と話すが、根底には処遇問題が横たわる。
 「介護保険が『介護』をつぶす」の著書がある元ヘルパーの桜井和代さんは「介護現場で働く人を大切にしてこなかったつけだ」と指摘する。
 「資格を取っても待遇が同じなら、受験しなくなるのは当然。ケアマネジャー不足は質の低下につながり、利用者や家族にしわ寄せがいく。処遇を良くしなければ人材は逃げていくばかりだ」と話している。

 厚生労働省が発表した平成28年の賃金構造基本統計調査によると、ホームヘルパーの平均月収(残業代などを除く)は21万3000円、施設職員が21万5000円、ケアマネジャーは25万5000円。全産業の平均は30万4000円で、介護関連職種の低さが目立つ。男女の賃金格差もあり、女性はそれぞれさらに低水準にとどまる。

これだけどこの職場でも人材を求めている時代に低賃金で労働が厳しく、昼夜の別もなく働かされるではどんなブラック職場かと言う話なんですが、ある意味将来の保障がある資格職であるにも関わらず目指す人間自体が減少しているのは問題です。
その背景に待遇の悪さが知れ渡っているのももちろんですが、待遇が良く介護職の「あがり」の地位とも目されるケアマネージャーですら全産業平均の2/3の低賃金と言うのですから、「命を扱う事業者として責任感を持ってほしい」と言うならそれ相応の見返りを求められるのも当然でしょう。
この点で医療などと同様に全国一律の公定価格での仕事を強いられる介護保険と言うものの存在が良いのか悪いのかですが、利用車目線で見れば安い定額料金で利用出来るのですから基本良いこととして、将来的に人材不足がさらに深刻化した場合どうなるかです。
公的で平等なサービス利用がどんどん困難になり、かつ質的にも満足いくものではなくなった場合、多少の追加負担をしてもよりよいサービスを求めたがる人が必ず出てくるはずで、介護業界もいずれ付加価値の多寡により二極化が進んでくる可能性があります。
同様に公定価格である医療の場合治療成績など一定の客観的指標もありますが、介護の場合客観視が難しい顧客満足度での評価となる局面が大半であって、それ故進歩的な方々も一概に高負担高付加価値サービスの存在を否定はしにくいでしょうね。

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2017年7月 5日 (水)

臨床も医療費の無駄遣いを考慮しながら行われる時代に

何も考えずに読み流せば当たり前の話と思う方も多いのでしょうが、先日こんなニュースが出ていたことをご存知でしょうか。

高い抗がん剤使いません 効果同じなら安い薬を 日赤医療センター決定(2017年7月3日共同通信)

 日本赤十字社医療センター(東京)は30日までに、5月に保険適用が決まった抗がん剤「ザルトラップ」について、治療で原則使用しない方針を決めた。同じ効果で約半額の既存類似薬があり、割高な新薬を使うメリットはないと判断した。薬価が高いことを理由に医療機関が使用を差し控える決定をするのは異例

 がん治療薬「オプジーボ」など超高額新薬が保険財政に与える影響が問題化したことから、厚生労働省は薬価制度の見直しを進めている。同センターは医療費の抑制につなげる狙いで、今回の決定は国の制度見直し議論に一石を投じそうだ。

 ザルトラップはフランスの製薬大手サノフィが開発した点滴薬で、国内販売は今春始まった。一部の大腸がんが対象。100ミリグラム約7万9千円で、日赤医療センターによると、体重60キロの人が半年間使うと約278万円かかる。同じタイプの抗がん剤では「アバスチン」が先に保険適用されており、効果も副作用も同様で費用は約150万円と約半額で済むという。

 ザルトラップを巡っては2012年、米国のがん専門病院が「アバスチンより2倍以上高い」として使用しない方針をニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、話題を呼んだ。米国ではその後、ザルトラップの薬価は引き下げられた。

 日本では公的医療保険に「高額療養費制度」があり、治療費が一定額を上回ると患者の自己負担が大幅に軽減される。

 高額な新薬が次々に登場していることから、日赤医療センターは昨年、抗がん剤について「効果と副作用が同じなら薬価が安い方を使う」との院内方針を決めていた

このザルトラップ(アフリベルセプト ベータ)は既存のアバスチン(ベバシズマブ)やサイラムザ(ラムシルマブ)などと同様腫瘍の血管の新生を抑えるタイプのVEGF阻害薬と言われるもので、類薬で有りながら価格が高いのであれば安いものを使うのが当然、と言う考え方もあるかと思います。
ただ薬の効果は類薬であっても全く同じではないのもまた事実で、「同じ成分同じ効き目」のはずのジェネリック(後発医薬品)も未だに効きが変わるからと変更を拒否する先生もいらっしゃるくらいで、厳密に同じと言えるかどうかは疑問ではありますね。
ただ本質的にはそこまで大きな差はないのだろうとも思うのですが、それならそれで何故類薬でこうまで顕著な価格差を設定するのかで、このところ話題になることも多い厚労省の薬価算定の在り方にも疑問符が付きかねない話でしょう。
加えて今回の件で興味深いのはこの方針変更によって別に医療提供側にはさしたるメリットがないにも関わらず、医療費削減と言ういわば対極的視点からこうした話が決まったとされている点ですが、今後同様の方針がどこまで医療現場に広がっていくものかですね。

先日は日経の調査で医師の実に9割が国民皆保険制度による医療は維持できないと感じていると言う報道が出ていましたが、新薬が出るたびに薬価はどんどん高くなっていくわけですから、いずれ医療費の伸びは負担可能な範囲を超えるのは自明の理に思えます。
この医療費高騰問題は日本のみならず世界各国共通の課題と言えますが、先日の日本医学会のシンポジウムでは高価でありながらさほど役には立たない過剰医療問題が議論され、「賢明な選択」に基づく「過不足のない医療」が推奨されたと言います。
この点に関しては国も問題であると認識はしているものの、先日打ち出された「骨太の方針」でも試案で挙がっていた先発薬価引き下げや差額の自己負担化などが削除されているなど、必ずしも強力な対策が推進されているとも言えない面がありますよね。
いずれにしても現状のままでは早晩医療費増大に社会が追いついていけない時期は来るはずですので、面倒臭いから全部一律○%カットなどとされないためにも、賢明な選択に基づくお金の使い方についての議論を深めておく必要があるはずです。

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2017年7月 3日 (月)

救急医療崩壊への抜本的解決策

千葉県と言えば以前に県東部地域での救急医療の連鎖的崩壊が話題になった地域で、東金病院→成東病院→銚子市立病院→成田赤十字病院と崩壊の連鎖が続き最後の砦であった旭中央病院も救急受け入れ制限開始と言う絶望的な状況を紹介したことがありますが、県西部地域においても先日こんなニュースが出ていました。

救急搬送必ず受け入れ 千葉市内3病院を指定 8月にも開始(2017年6月29日千葉日報)

 千葉県議会は一般質問最終日の28日、自民党の阿井伸也(大網白里市)、坂下茂樹(市川市)、伊豆倉雄太(市原市)、今井勝(我孫子市)、阿部紘一(千葉市稲毛区)の5議員が登壇した。県は、全国ワースト2位の救急搬送時間の短縮に向け、搬送先が決まらない患者を必ず受け入れる病院を事前に定め、病床確保の費用も援助する制度を8月に始めると明らかにした。救急需要が多く、搬送時間も長い千葉医療圏(千葉市)の3病院で試行的に開始予定。坂下議員の質問に答えた。

 消防庁が昨年12月に公表した調査(2015年分)によると、千葉県の平均救急搬送時間(119番通報から病院収容まで)は44・6分で、全国平均(39・4分)を大幅に超え、東京都に次いで長い。前年調査時(44・5分)より悪化した。
 救急車が現場に到着するまでの時間は平均で9分と比較的短いが、そこから搬送先が1回で決まらずに別の病院を探して打診したり、その病院が遠いことで時間を要しているという。
 15年の県の調査で、けが・病気の程度別の平均搬送時間は重症で44分、中等症は43・8分、軽症が43・2分と、重いほど長い傾向に。古元重和保健医療担当部長は「こうした状況を踏まえ、搬送時間短縮により救命率向上を図ることを目的に、患者を必ず受け入れる医療機関を定め、空床確保の経費を助成する」と説明。国の基金を原資に費用の3分の1を助成する方式で、提案中の補正予算案に約3千万円を計上した。

 県によると、千葉医療圏は、病院数が豊富にもかかわらず、救急隊と病院との交渉回数が多い傾向にあり、県内九つの医療圏別で搬送時間が3番目に長い。
 県や千葉市による調整の結果、公立と民間の計3病院が指定受け入れに合意しており、予算が成立後に同市消防局と改めて協定を結ぶという。専用病床は1~2を想定。搬送が決まれば即応するスタッフの人件費などが助成対象となる。
 全国的にも実施例がまだ少ないが、県は開始後の検証で効果が確認できれば他地域にも広げたい考え。
(略)

空床確保にお金を出すことにしたと言うのはそれはそれでよいことなのですが、何でも受け入れに合意と言っても病院トップや事務方が補助金欲しさに話を取ってきただけで、現場で実際に救急医療を担当しているスタッフがどういう考えはどうなのでしょうね。
搬送先が決まらない患者と言うのも微妙な表現で、時間なり問い合わせ件数などが一定以上になればと言うことなのでしょうが、どうせ黙って受けてくれるのだからと何でもかんでも送り込んでくるようなことにならないのかと言う不安はあります。
こうした話が決まれば今まで以上に業務量が増えることが確実なのですから、あらかじめ紹介無しの飛び込み新患は拒否だとか一次救急はお断りだとかやらないと破綻しかねないと思うのですが、院内ではどんな対策を講じているのか興味が湧きますね。

今春に札幌市立病院の救命救急センター勤務医12人のうち7人が一斉退職すると言う件が報じられましたが、少なくとも自己申告による退職理由としては月平均80時間と過労死ラインの長時間労働を挙げる医師は一人もいなかったのだそうです。
救命救急を志すような医師はそうしたものであると言う考え方もありますが、今回のように全例受け入れとなれば当然救急だけでなく他診療科の負担も増す理屈で、院内勤務医の誰もが激務当然の救急医のような考え方でいるとも限りません。
今後千葉県では全県的にこうした制度を広めていく予定だそうで、その結果受け入れ指定医療機関がどうなっていくのかと言うことも気になりますが、まずは仕事を増やすのであればその分きちんと酬いるシステムを用意していただきたいものです。

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2017年6月30日 (金)

山岳救助有料化に見る、救急搬送有料化との類似性

もともとはこの春に決まったと言う話なのですが、先日改めて取り上げられていたこちらのニュースを取り上げてみましょう。

「受益者負担」「悪影響」 山岳救助ヘリ、有料化に賛否(2017年6月28日朝日新聞)

 埼玉県が防災ヘリコプターを使った山岳遭難救助を有料化すると決めた。「山ガール」という言葉まで生まれた登山ブームの一方、遭難は後を絶たない。これから夏山最盛期。有料化は是か非か。

 3月の埼玉県議会。最大会派の自民党県議団が、防災ヘリに関する条例の改正案を提出した。県内の山で遭難し、県の防災ヘリに救助された登山者などから「手数料」を徴収するという内容。料金は燃料実費で、県によると1時間あたり5万円程度という。
 「有料化は観光に悪影響」「まずは登山道の整備を」。議会では反対意見が出たが、提案者の県議は「有料化で登山者がより一層周到な準備をし、慎重な行動をとることが期待できる」「登山道はコスト面からどこまで整備すべきか」などと反論。転倒や滑落などの危険が潜む山岳に、自らの意思で赴く登山者の「受益者負担」を強調し、賛成多数で可決された。

 改正案提出のきっかけは2010年7月の事故だ。同県秩父市の山中で救助活動中の防災ヘリが墜落し、乗員5人が死亡した。自民党県議団は当時から、山岳救助は他の救助活動より危険性が高いとして、ヘリ救助の有料化を模索してきたという。
 警察庁によると、16年の山岳遭難者数は2929人で、統計の残る1961年以降2番目に多かった。総務省消防庁によると、全国の消防防災ヘリの出動件数は2015年で1345件。埼玉県内では昨年度、山岳遭難でヘリが21回出動し、12件で実際に救助した。


山岳救助 防災ヘリ有料化へ 埼玉県が条例改正案(2017年3月24日毎日新聞)

 埼玉県内の山岳で遭難した登山者が同県の防災ヘリコプターに救助された場合、ヘリの燃料費相当分として運航1時間あたり約5万円の「手数料」を県に納めることを義務付ける条例改正案が同県議会で審議されている。自治体の防災ヘリで救助された遭難者に「自己負担」を求める条例案は全国初で、27日の本会議で可決される見通し。

 同県は3機の防災ヘリを所有し、昨年度は計11回の出動で5回が実際に救助に当たった。県は運航経費を公表していないが、県内の山岳関係者によると「民間ヘリなら、1時間あたり数十万円かかる」という。
 今回の議案では、ヘリが1時間あたり360~550リットルの燃料を使うと見込み「手数料」を算出した。改正案を提出した自民党県議団は「山岳救助は大きな危険が伴う。受益者負担の観点から、遭難者に一定の負担を求めることが県民間の公平につながる。有料化によって無謀な登山も減る」と説明する。
 林業従事者や生活保護受給者などには減免措置を設けるとともに、埼玉県からの登山者が県境の山で遭難し、隣接県の防災ヘリに救助された場合に手数料を請求するかどうかは今後、調整する。

 改正案には異論もある。埼玉県内で最も登山観光客が多い秩父市の田代勝三・秩父観光協会会長は「『秩父の山は有料』というマイナスイメージが先行し、登山客から敬遠されるのではないか」と懸念。加えて「県外からの登山者に条例を周知徹底できるかなど課題もある」と指摘する。
 静岡大学教育学部の村越真教授(山岳リスクマネジメント学)は「登山は自己責任で行うべきもので、受益者負担は理解できる。ただ不可抗力の事故もあり、山岳事故防止の啓発活動も同時に行うべきだ。海の遭難についても同様の議論が必要だ」と話している。【森有正】

埼玉県が有料化 防災ヘリ救助条例成立、全国初 地元や山岳連盟反発 専門家は「議論の契機に」 (2017年3月28日産経新聞)

 埼玉県議会で27日に成立した公的防災ヘリコプターによる山岳救助を有料化する全国初の改正条例は、地元の山岳連盟などから反対や慎重な議論を求める声が上がる一方で、専門家からは「登山者自身がリスクマネジメントについて考えるきっかけにもなる」と評価する声も出ている。県は「徴収には総務省の判断が必要」としており、同省の判断や、施行に向け県が定める細目の内容にも注目が集まる。(菅野真沙美)

 条例改正案に対しては、秩父山岳連盟と秩父観光協会が3月上旬、提案した自民党県議団などに反対や慎重な検討を求める要望書を提出。小鹿野町議会も16日、「幅広い関係者からの意見聴取、近隣都県の動向等調査し、慎重に審議するよう強く要望する」とする意見書を可決し、「山岳救助の現場に混乱をもたらすばかりでなく、秩父地域の重要な観光資源である登山客の減少などの悪影響をもたらす恐れがある」と指摘した。
 27日の本会議では、反対討論で「公平性に欠け、現場を混乱させることになりかねない」「要救助者が防災ヘリでの救助を拒んだ場合でも手数料を徴収できるとする点に違法性があるのでは」などの意見が出された。上田清司知事は本会議終了後、「細目を詰めるとともに総務省の見解を待つ必要がある」と言及した。

 自然体験のリスクマネジメント学が専門の村越真・静岡大教育学部教授は、「条例案自体には当然メリット、デメリット両方がある」としつつ、「登山者が山登りの際のリスクについて考え、議論を起こすきっかけになる可能性がある」と期待を寄せた。また、施行までの県の取り組みについて「行政は山岳関係者を巻き込んで、登山事故のリスクをどのように分担するかという部分まで踏み込むべきだ」とした。

この種の話題では先年ヨットで太平洋横断に乗り出したマスコミ関係者が遭難し無謀な計画による自己責任の事故ではないか、巨額の救助費用を負担するべきではないかと言う議論があったことは記憶に新しいのですが、同関係者は後に海難救助に関わるボランティア団体に500万円を寄付したとのことで、やはり経費負担の問題は気になっていたと言うことなのでしょう。
今回の有料化はあくまでも経費のごく一部だけだと言うことですから、記事にもあるように無計画な登山を避けるなど事故防止と言う側面も強いのだと思いますが、しかし現地にお金を落としていくのは往々にして多くの計画性の乏しい登山客ではないかと言う気もするので、観光振興と言う面ではネガティブな影響もあるのかも知れません。
また実行段階で予想されるトラブルとして、とりわけ昨今しばしば批判の的となる「疲れた」「下山が面倒臭い」と気楽に救助を要請し過ぎる登山客と現場で揉めるのではないかと言うことに加え、本当に救助を必要としている人までが救助を拒否した場合どうするのかと言う問題もありそうですが、特に救助を拒否した登山客がその後本当に遭難してしまった場合どうなるのかですよね。

この話を聞いて連想するのが、同様に長年あまりに気楽に依頼しすぎる人が多いとして有料化がたびたび話題になる救急搬送の問題なのですが、あくまでも健常者が自ら望んで行う登山に対して、病気や怪我は誰であっても突然襲いかかってくるものであり、各種の世論調査を見ても有料化には反対する声の方が優勢と言うケースが多いようです。
興味深いのは救急医療の現場を実際に担っている医師に訊ねてみると実に9割が有料化に賛成していて、しかもその過半数が軽症だろうが重症だろうが関係なく一律に徴収すべきだと言う意見に賛同していると言うことなのですが、多くの病院の公表しているデータによっても救急搬送の多くはその必要がない軽症患者であったと言う事実とも関係しているのでしょう。
さらに興味深い点としてもう一方の救急の当事者とも言える救急隊員からは有料化に反対する声もあると言うことなのですが、その理由がまさに先ほど取り上げたようにその場になって面倒なことになってしまうのではないかと懸念していると言うことですから、有料化を行うにしてもその徴収方法には工夫が必要そうですよね。


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2017年6月28日 (水)

医師会が変わった方法で医師の指導を行っている件

先日は某新聞のトップを飾ったと言うこの記事、御覧になった方もいらっしゃるでしょうか。

<医療事故>「リピーター」医師は27人 13~16年度(2017年6月26日毎日新聞)

 ◇日本医師会が再発防止を指導・勧告

 日本医師会(日医)が、医療ミスや不適切な医療行為を繰り返していたとして、2013~16年度の4年間で医師27人に再発防止を指導・勧告していたことが、25日分かった。日医会員が医療事故に備えて加入する保険の支払い請求が多いケースについて、治療経過などを調べて判定した。民事裁判などでも被害者が異なるミスの繰り返しが表面化することは少なく、実態の一端が初めて浮かんだ。【熊谷豪】

 ミスを繰り返す医師は「リピーター」と呼ばれ、重大な医療事故が相次いだ1999年ごろからたびたび問題視されてきた。昨年12月には、愛媛県内の産婦人科医院で05年以降に死亡3件を含む6件の重大事故が起きていたことが発覚し、県が立ち入り検査した。
 だが、リピーター医師を見つけ出す国の仕組みはなく、15年10月に始まった「予期せぬ死亡」を第三者機関に届け出る医療事故調査制度でも、把握できない

 国内の医師約31万人のうち、約12万人は日医と保険会社が共同で運営する「医師賠償責任保険」に加入している。医療事故で患者や家族への支払い義務が生じた際の保険で、日医は会員医師から請求があれば治療内容や結果を調べ、査定している。
 日医は13年8月から、この仕組みを医師の倫理と資質の向上に活用。弁護士らで作る指導・改善委員会が、医師側に問題がある事故重複例をリピーターと判定している。日医によると15年度までに19人が該当し、25日に開かれた定例代議員会で、16年度は8人と報告された。氏名やミスの内容は明らかにしていない。
 対象となった医師は、地元の医師会から、重い順に▽指導▽改善勧告▽厳重注意--のいずれかを受ける。東京都医師会はこれまでに3件の指導をし、幹部が事故の経緯を聞き取った上で、危険性の高い手術を今後行わないと誓約する書面を提出させるなどしたという。

 ◇再発防止に向けた実効性や透明性に課題も

 損害保険の請求実績からリピーター医師をあぶり出す日本医師会の取り組みは、医療界自ら実態把握を進めるという点で評価できる。重要なのは、これを問題がある医師の再教育や排除に確実につなげ、医療安全の向上に役立てることだ。
 厚生労働相には医師の業務停止や免許取り消しの権限があり、年2回、医道審議会が厚労省から報告があった医師の審査をしている。だが、対象になるのは、診療報酬の不正請求や医療行為と直接関係のない刑事処分を受けたものが大半。医道審は2002年、刑事罰を受けていなくても明白な注意義務違反がある医療事故は処分対象とする方針に改めたものの、ミスの繰り返しを理由とした処分は12年の戒告1件しかなく、形骸化も指摘される。
 日医の取り組みは、強制力を伴わない「指導・勧告」で、ミスの内容も公表しないため、再発防止に向けた実効性や透明性に課題も残る。医療事故の遺族で「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表の永井裕之さんは「せめて医療界の中だけでも情報共有して背景や深層を追究してほしい」と訴える。【熊谷豪】

改めて言葉の定義の問題ですが、事故調制度に絡めて医療法で定義された医療事故とは「提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの(6条の10)」とされていて、死亡事例以外など世間一般で言うところの医療事故の概念とはいささか異なっていますよね。
ともかくも医療事故と言えば一般には医療の過程で何かしら患者に予想外の不利益が及んだ場合を示すものと言った辺りが最大公約数的なものかと思うのですが、この中の一部に関しては何かしらの不適切な行為に基づき発生した医療過誤(いわゆる医療ミス)と呼ばれ、また明らかなミスがなくとも一定確率で発生するものについては合併症や偶発症と言う言葉が用いられています。
ともかくも医療事故と言えばこの過誤に基づくものなのかどうかと言う部分が常に争点となりがちなもので、特に医療者側と患者側で過誤なのかどうかと言う認識に差異があることが紛争化の発端ともなるため、ともすれば入り口での議論から一歩も話が進まないと言うことにもなりかねないわけです。

今回医師会の試みを見ていてなるほどと思わされるのは、過誤があるかないかと言うことに関してはひとまず問わないと言う点なのですが、保険を使った回数と言う事は民事賠償に至ったケース、すなわち紛争化したものをカウントすると言うことであり、広義の医療トラブルを集計するのにはなかなかいい切り口なのではないかと言う気がします。
医療行為の何をどう処罰対象とすべきかと言う点については未だに意見が定まりませんが、客商売である以上少なくとも顧客と裁判で争う事態になると言うのは何かしら失敗であったと言わざるを得ず、手技的な問題があるのか手を出すべきでない症例や処置にまで手を出したのか、ともかくも同じことを続けて同じ失敗をさらに繰り返すと言うのはうまいことではないでしょう。
ただ記事にもあるように医師会ルートで保険に加入しているのは医師の4割程度と少数派であり、とりわけ相対的に非会員の多い勤務医に関しては一般に開業医よりも重症の患者を扱い、より高度な医療処置を行っている場合が多いと言う点から、こうした議論の対象としてむしろより重要なものであるはずですよね。
ともかくも保険と言うものを医師処分の根拠にすると言うのはかなり筋が違う話だと感じるかも知れませんが、過誤があったのかどうかと言う果てのない議論に敢えて踏み込まないと言う点では判りやすい話であるとも言えるので、だから全医師が医師会経由で保険に加入すべきなどと言った斜め上の話につながらなければ、もう少し広く応用を考えてもいいものに思えます。

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2017年6月26日 (月)

研修医の長時間労働は誰もあまり気にしていなかった様子

労基法無視の労働環境によって研修医が自殺すると言う悲惨な事件が先日も話題になっていたところですが、全国的に見ても同様の事態がいつ発生してもおかしくない状況にあると言う状況が報じられていました。

研修医自殺:疲弊する勤務医 長時間労働が常態化 過労死ライン超6.8%(2017年6月18日毎日新聞)

 昨年1月、1人の女性研修医が過労による自殺で命を絶ち、労働基準監督署から今年5月末に労災認定を受けた。そこから見えてきたのは、労使協定を無視した長時間労働の常態化だった。患者の安全のためにも、患者の命を預かる医師の過重労働の是正が求められている。

 「自己犠牲によって自らの生活や将来を失ったりしてはならない
 これは4月、厚生労働省の専門家会議がまとめた「医師・看護師等の働き方ビジョン」の一節だ。新潟市民病院の後期研修医だった木元文さん(当時37歳)の過労自殺は、この1年3カ月前に起きていた。
 医師の過重労働は、長い間改善が進んでこなかった。勤務医を対象にした厚労省調査によると、昨年6月の時間外労働時間は約5割が20時間以上で、6・8%は「過労死ライン」の80時間超。当直も多く、7割が宿直明けに通常勤務をしていた。日本外科学会の会員調査(2013年)では、医療事故やその手前の「ヒヤリ・ハット」の原因の81%に「過労・多忙」があった。

 なぜ過重労働は解消できないのか。一つには「正当な理由なく患者を断ってはならない」という医師法上の「応招義務」がある。
 また、東京大医科学研究所の湯地晃一郎特任准教授(血液内科)は「医師は看護師と違い、交代制になっていない。受け持ち患者の容体が急変すると、当直医に加えて主治医も呼ばれる」と指摘する。
 だが、高齢化や医療の高度化が進めば、医師の負担はさらに増す。ビジョンをまとめた渋谷健司・東大教授(国際保健政策学)は「女性医師が増え、働き方を変えなければ医療は回らなくなる。他の医療スタッフと仕事を分担し、医師本来の仕事の生産性を上げるべきだ」と訴える。
(略)
 労働組合「全国医師ユニオン」の植山直人代表は「入力作業などを他の職員に委ねても、医師の負担はあまり減らない。交代制勤務ができるよう医師数を増やすべきだ」と主張。聖路加国際病院の福井次矢院長は「救急や病理は医師不足が深刻で、国は診療科ごとに医師数の調整をしてほしい」と話す。
 政府が3月に公表した働き方改革実行計画は、医師については残業時間の上限規制適用を5年間猶予した。労働時間の短縮だけでは救急医療に支障が出るといった指摘もあり、議論は続きそうだ。【熊谷豪】

 ◇研修医自殺の新潟市民病院 「緊急対応」外来を制限

 木元さんが働いていた新潟市民病院は、医師にとって激務とされる総合病院の中でも過酷さが際立っていた。
 新潟労働基準監督署が認定した木元さんのうつ病発症1カ月前の残業時間は「過労死ライン」の2倍の160時間超。毎日新聞が情報公開請求で得た資料によると、同時期に後期研修医として在籍していた医師の7割以上の20人が、労使協定で定められた月80時間の上限枠を超える残業をしていた。
 病院側も手を打っていなかったわけではない。2009年に労基署から長時間労働の是正勧告を受けた後、医師数を2割増やし、医師の事務を代行する医療秘書も5倍以上に増員した。だが、外来患者も09年度の25万2753人から16年度は26万8703人に増加した。救急外来は過半数が軽症患者で「多くの市民が、うちに来れば何でも診てくれると思っている」(片柳憲雄院長)という状態だった。

 労災認定後の今月6日、市は同病院の「緊急対応宣言」を発表した。紹介状のない一般外来患者の受け入れ停止と、治療済みの患者を近隣病院へ回す対策が柱。篠田昭市長は「過重な負担が病院にかかり、これまで通り患者を受け入れて診察を続けるのは困難だ」と理解を求めた。
 同じく市内で3次救急を担う新潟大医歯学総合病院は、既に同様の対策を進めている。ここでは後期研修医の残業時間に労使協定違反がほとんどなく、過重労働の抑制に一定の効果が出ている。
 ただ市民病院は、地域住民の健康を守ってきた身近な存在だ。近隣病院が断った救急患者を「最後のとりで」として診てきた自負もある。「責任ある立場として患者を受け入れない選択肢はない」と複数の職員が語る。
 木元さんの夫は取材に対し「医師の使命感は分かるが、妻の死は病院による殺人だ」と訴えた。「全国過労死を考える家族の会」東京代表で、自らも医師の夫を過労死で亡くした中原のり子さんは警鐘を鳴らす。「医師の長時間勤務は、犠牲的精神など個人の力で解決できるものではない」【柳沢亮】

大淀病院事件を始めとして今日に至るいわゆる医療崩壊過程の引き金を引いたと言ってもいい毎日新聞が、今や他人事のような顔でこうした記事を書いていることに隔世の感を抱く方々も少なく内のではないかと言う気もするのですが、臨床研修制度が改まって以降かなり改善が進んでいた研修医の待遇もこれだけ問題があると言うことですかね。
しかし記事を見ていておもしろいなと思ったのが死者まで出した新潟市民病院の改善策なるものの内容なのですが、一般に研修医にはあまり関係がないだろう初診患者の外来診療を制限したところで、「過半数が軽症患者」と言うコンビニ化が進んでいる以上さして入院患者も減らないのだろうし、病床稼働率が大幅低下するのでもなければ研修医の負担はあまり変わらないのではと言う気がします。
この辺りは各施設によって様々な対策を講じているところだとは思いますが、仮に研修医の業務制限がうまく行ったとしてもその上の若手医師に負担がスライドしているだけでしょうから、施設全体としての業務量が減らなければどうにもならない理屈ですが、この点は常にフル回転で営業しなければ経営が成り立たないようになっている保険診療上の制約も大きいのでしょう。
そう考えると過重労働防止のためには抜本的な診療報酬体系の改革も必要になると考えられるのですが、諸外国との比較で日本の医療現場では医師の診療する患者数や病床数の多さが以前から指摘されているところで、この辺りの是正が労働環境改善に結びつくかどうかと言う視点での検討も行っていくべきかなとも思います。

医師の中でも研修医の長時間労働は世界的な課題でもあって、しかも世界各国とも「まあ仕方ないよね」とあまり深刻に問題視していないような気配もあったようですが、近年公的に研修医制度を廃止したドイツなどでも未だに「激務の割に報酬が少ない」「雑務ばかりで十分な研修を受けられない」と言った不満が根強く、現場に医師が定着してくれないことを問題視するようにはなってきているようです。
アメリカでは研修医の起こした医療事故が訴訟沙汰になり、結局これも過労が原因であるとして2003年より80時間ルールと呼ばれる一連の就業規制を導入していますが、面白いことにこの制限がこのところ部分的に緩和され、卒後1年目での連続勤務の上限がそれまでの16時間から24時間に引き上げられたと言いますが、要するに診療に影響がなければ普通ではない長時間勤務自体は問題視しないと言うことですよね。
この緩和に先立ってランダム化比較試験まで行われ、勤務時間制限を緩めても診療の質には影響しないと言うことが確認されたそうですが、しかし一方で長時間勤務を行えば研修の質が高まるのかどうかも気になるところで、そもそもの疑問としてどんな高度な医療を学ぼうとしているにせよ、16時間連続勤務しても出来ない研修とは一体どんなものなんだと率直に感じますね。


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2017年6月23日 (金)

医師の偏在対策、その方法論とは

医師偏在対策として様々な方法が検討、実施されてきたことは周知の通りですが、その一環として期待されていた医学部のいわゆる地域枠からの離脱者が問題とされていて、各種ペナルティの強化が検討されていると言う報道が先日あったところですよね。
この点についての抜本的対策としてそもそも地域枠への入学は原則地元出身者だけに限定するようにしようと言う話が報じられていたのですが、厚労省としては様々な医師偏在対策を検討しているようです。

「地域枠、地元に限定」「医師データベースで異動を追跡」「早期に実現可能な医師偏在対策」は地域医療支援センター強化(2017年6月16日医療維新)

 厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」の第10回医師需給分科会(座長:片峰茂・長崎大学学長)は6月15日、「早期に実現可能な医師偏在対策」として、医学部地域枠の入学生は原則として地元出身者に限定、卒後は都道府県の地域医療支援センター等が策定する「キャリア形成プログラム」に沿って、大学所在地の都道府県において研修することを求めるなどの方針を了承した(資料は、厚労省のホームページ)。
 地域医療支援センターが派遣調整できる地域枠医師の増加が今後見込まれるため、同センターを強化するのが厚労省の狙い。2008年度以降、医学部定員増に伴い地域枠入学者が今後増え、2024年度には臨床研修を修了した地域枠医師は、厚労省による単純推計で9676人(留年、中途離脱等は考慮せず)。
 主に地域枠医師を対象に「キャリア形成プログラム」を策定、医師のキャリア形成に配慮しながら、医師不足地域に実効的な医師派遣を行うことを目指す。同センターについては、大学と十分に連携するなどして運営体制を強化、類似機能を有する「へき地医療支援機構」や「医療勤務環境改善支援センター」との連携も進める。
(略)
 地域医療支援センターは、47都道府県の全てに設置済み。しかし、「キャリア形成プログラム」の未策定が7県、大学と連携していない県があるなど、都道府県によって取り組みは異なり、運営が成功しているとは言い難い
 日本医師会副会長の今村聡氏は、「確かに今までは機能していなかった」と指摘しつつ、医療法に位置付けられ、税金を投入している以上、なぜ機能していないのか、その検証が必要だとした上で、「国が一定のルールを設ける方針か」と質問した。厚労省医政局地域医療計画課は、地域定着を図るために、上図のような方策の検討を提案したと回答。
 全国医学部長病院長会議会長の新井一氏も、地域医療支援センターの運営実態の検証が必要だとしたほか、大学が日常的に医師の派遣を行っていることから、「大学がコミットしないとうまく行かないのではないか」と提案した。日医常任理事の羽鳥裕氏は、「へき地医療支援機構」や「医療勤務環境改善支援センター」、さらに新専門医制度についての都道府県協議会など、類似機能を有する組織が複数あるため、連携あるいは統合した運営を求めた。
(略)
 厚労省が構築し、都道府県が活用する「医師の地域的な適正配置のためのデータベース」は、2年に一度実施する「医師・歯科医師・薬剤師調査」の届出情報、医籍情報、専門医に関する情報を用いて構築。医師の異動やキャリアパスの経年的な追跡な可能になる仕組みだ。
 今村氏は、医師のデータベース作成には賛成したが、「適正配置」との名称を問題視。地域枠医師以外の医師情報もデータベースに入るため、行政が全医師を「適正配置」すると受け取られないからだ。自発的に地方勤務が進むよう、魅力ある「キャリア形成プログラム」を作るなどの動きと齟齬が生じかねない。厚労省医政局長の神田裕二氏は、行政が「適正配置」するのではなく、地域医療支援センターは各地域で医療者や住民も交えて議論し、医師の偏在解消に取り組む場であると説明。
 国際医療福祉大学医学部長の北村聖氏は、医学教育ではIR(Institutional Research)、臨床研修ではEPOCなど、さまざまなデータベースを既に用いていることから、将来的にはこれらとの連動も検討すべきと提案。岩手医科大学理事長の小川彰氏は、「医師偏在対策には、フリーランス医師への対応が問題」と指摘。「どんな医師がいかなるキャリアを積み、どんな実力を持て、どこで働いているか」の把握が必要だとした。

 もっとも、15日の「医師需給分科会」で強かったのは、「早期に実現可能な医師偏在対策」ではなく、「抜本的な医師偏在対策」をめぐる意見だ。
 聖路加国際病院院長の福井次矢氏は、「医師の地域偏在と同様に大切なのは、医師の専門性(診療科)の偏在の問題」と述べ、早急な着手を求めた。小川氏は、「医師数は西高東低。地域枠医師の問題だけを議論しても、医師の偏在は解消しない。日本全体の地域偏在と診療科偏在の議論をしないと意味がない」と指摘。
 津田塾大学総合政策学部教授の森田朗氏は、「現時点では、このような形で議論をまとめるのが妥当ではないか」と、地域医療支援センター強化の取り組みを支持しつつ、医師需給分科会の議論を次のように総括した。「インセンティブや情報提供などの、“ソフトツール”ではなく、“ハードツール”でないと問題は解決しないという議論になったところで、(2016年10月以降)医師需給分科会は中断した。しかし、今は地域医療支援センターや地域枠医師の活用など、また“ソフトツール”の議論に戻っているところに、むなしさを感じているのだろう」。

しかし都道府県によって人口がこれほど違うにも関わらず医学部定員は画一的に一大学百人前後なのですから、人口現象が続く地域などではよほどに定員を考えないと医学部学生の学力低下がさらに深刻化しそうなのですが、試験の点数と医師としての能力の相関云々はさておき、地域医療の場においては真面目に働いてくれるなら多少の能力差は問題にならないと言う局面の方が多いとも言えます。
他方では地域枠入学者も未来永劫各地方に根を張って医療に従事していると言う訳でもないでしょうから、こうしたゆるい競争環境での医療に従事してきた彼らが後々他地域に流出してきた際にどうなるのかで、あまりに大きな能力格差などが発生しないよう卒然卒後の教育方法などにも工夫が必要なのだろうと思いますね。
ちなみに地域枠なども偏差値が低くても医学部に入学出来る(失礼)お得なルートとして受験の世界では知られているのだそうですが、他に社会人からの医学部編入なども効率的な抜け道であるとして最近人気が出ているのだそうですし、ハンガリーの医学部経由で日本で医師になると言った道もそれなりの数いらっしゃるそうですから、昔と違って医師への道も多様化してきていると言えるのでしょう。

当日の会議資料についてはこちらを参照いただきたいと思いますが、見ていて興味深いと思ったのは診療科偏在と言うことも地域的な偏在と同等、あるいはそれ以上に重視されていると言うことですよね。
この点で修学資金貸与事業において対象者の1/4には診療科を指定しての勤務義務が定められていて、かつその年限は9年以上と言う長期間が圧倒的多数であると言いますから、キャリアを考えると事実上診療科を限定されているのと同じ事ではないかと思いますが、今後さらに広汎に診療科偏在対策が講じられていくのかどうかです。
一方で若手医師が地方勤務を拒否する理由の上位に「希望する内容の仕事が出来ない」と言うことが挙げられていて、この辺り公益性と個人の自由意志のバランスと言う永遠の課題も見え隠れしますが、診療科間で社会的需要や業務量も異なることからも、今後待遇や診療報酬等の格差付けによる診療科間の自由意志に基づく誘導も検討されていくのかも知れません。
地域的な偏在に関しては自治体病院を統括する総務省も別に対策を検討していて、興味深いデータとして非常勤医師を常勤よりも割高な給与を支払ってでも確保した方が経営が改善したと言いますから、場合によっては医師間の待遇格差を拡大することも経営的には相応の合理性があると言う解釈も出来るのでしょうか。



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