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2020年7月22日 (水)

「地域枠離脱者は専門医認定せず」は初めの一歩になるか

以前から義務年限を途中離脱するなどその存在意義が危ぶまれるところも多かった医学部の地域枠に関して、先日厚労省からこんな注目すべき対策が打ち出されてきたと報じられています。

「専門医認定せず」、都道府県の同意なき地域枠離脱防止策(2020年7月17日医療維新)

 厚生労働省は7月17日、医道審議会医師分科会医師専門研修部会(部会長:遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)に対し、従事要件が課されている地域枠医師等について、離脱防止のため、都道府県の同意を得ずに専門研修を開始した者については、日本専門医機構の専門医認定を行わない方針を提案、了承を得た。認定する場合も、都道府県の了承を得ることを必須にする。7月中にも都道府県の地域医療対策協議会に諮り、意見を聞いた上で国として同機構に正式に要請、2021年度専門研修開始分から適用される見通し(資料は、厚労省のホームページ)。

 医師不足対策として、2008年度以降、医学部の地域枠は増加。2020年度研修開始の専攻医の場合、地域枠制度利用者は973人で、地域枠離脱者は15人(1.5%)。日本専門医機構の専門研修システムでは、「地域枠」であるかどうかを自己申告する欄があるが、「いいえ」と回答したのは11人、「未登録」4人。15人のうち、都道府県の同意を得た離脱者は9人だが、同意を得ない離脱者も6人いた。2019年度の736人中、29人(3.9%)からは減少したものの、離脱防止は完全ではない。

 具体的には、▽専門研修システム登録時に本人の同意を取得した上で、地域枠離脱に関する都道府県の同意の有無について、専攻医募集時および研修開始後に日本専門医機構が都道府県に対して確認、▽研修開始後に都道府県の同意を得ていないことが判明した場合は、専門研修中に従事要件を満たした研修を行うよう、プログラム統括責任者が指導し、ローテーションにおいても変更することを含め配慮するよう努める――という対応を行う。それでもなお、「都道府県の同意なき地域枠離脱」に該当する場合には、専門医として認定しない

 委員からは、地域枠の離脱医師に対し、「地域枠として入学するときに、相当の説明を受けているはず。嘘をついて、専門研修を受けるのはとんでもない。約束違反に対しては、厳しく取り締まった方がいい」(全国市長会会長、相馬市長の立谷秀清氏)など、厳しい対応をすべきとの意見が相次いだ。ただし、聖路加国際病院副院長・ブレストセンター長・乳腺外科部長の山内英子氏からは、より良い指導医の下での研鑽を求めて離脱する医師もいると想定されることから、都道府県が離脱を不同意とする場合、その理由を明らかにするなど、慎重な対応を求める声も上がった。
(略)
 日本医師会副会長の今村聡氏は、まずは大学入学時点で、地域枠の従事要件を認識してもらうため、「大学と本人の口約束ではなく、説明の仕方をある程度統一し、第三者が入った中で署名」といった方法を提案。日医常任理事の釜萢敏氏は、地域枠医師か否かの確認で、日本専門医機構の事務負担が増えることから、関係機関が連携して取り組む必要性を指摘した。

 日本病院会常任理事の牧野憲一氏は、臨床研修でも地域枠離脱防止に取り組んでいることから、その情報を専門研修に引き継ぐ可否について質問。加藤室長は、「(臨床研修から)そのまま個人情報として継続するのはハードルが高い」と答えた。

 日医常任理事の羽鳥裕氏は、臨床研修の場合、都道府県の同意なき地域枠離脱者を採用した病院を、厚労省の審議会という公開の場でヒアリングを行うことから、同様な仕組みを専門研修でも採用することを提案した。この点については、厚労省医政局医事課長の佐々木健氏が、次のように回答した。「臨床研修は法律に基づく制度であり、国の補助金も出している。国の制度として適切な運用しているかどうかを確認するために、ヒアリングを行っている。一方、専門研修は、地域医療の確保という観点から、国が日本専門医機構に意見を言う仕組みはあるが、機構で運営している制度。今の話は機構の中でどうすべきかについて議論すべき問題」。

二つの側面がある話だと思いますが、まずは厚労省としては地域枠は重要であり維持されるべきものであると言う認識で、今後も一定の強制力を持って継続する方針であると言うことがうかがえると思います。
地域枠に関しては黙っていても一定数の医師を安定的に確保出来ると言う点で、特にいわゆる医師不足の地域では非常に重宝する制度ですが、かねて志願者割れや途中離脱が問題になっていた経緯があります。
制度そのものも往年の看護師の御礼奉公などと同様、法的に突っ込まれれば問題必ずしもなしとしない危ういシステムですが、厚労省は地域枠学生が枠外地域に就職しないよう通達を出して来た経緯があります。
学生から初期研修にかけて及ぼしてきた影響力を、今回その後の専門研修にまで広げてきたという形ですが、いわゆる医師強制配置論の視点から今後その対象がどこまで広がっていくのかです。

もう一つの側面として、新専門医制度がこうした医師への強制力の担保として実際に活用されるのはこれが初めてのケースではないかとも思うのですが、これもかねて予期されていたことではあります。
各学会が独自に認定していた従来の制度であれば、医師が主体的に組織する学会が定めた内部ルールだけで専門医になれると言う点で、外部から見ればなかなか介入しがたい制度であったと言えます。
これに対して専門医機構はほとんどの医師が加入する巨大な組織であり、厚労省の検討会に基づいて組織された経緯や幹部に医師以外が含まれている点など、公的性格が強められたシステムになっています。
公的組織であれば公的な規制や介入も行いやすいだろうし、今後も専門医制度を利用して医師に対する各種の強制力を発揮していくのだろうとは容易に想像出来るところですね。

今回厚労省佐々木医事課長のコメントとしては、この介入は厚労省の意向ではなく専門医機構の内部での議論であるとのことですが、今後厚労省が何かしら意見を出してくれば機構側も無視は出来ないでしょう。
地域枠を絡めて初期研修医に対しては強制力を発揮してきた厚労省が、今後専門研修に対しても同様に影響力を発揮していく第一歩と言えますが、専門研修だけが専門医機構の管轄ではありません。
今後新専門医制度のもとで多くの医師が何かしらの形で専門医機構の統制下に置かれるとなれば、弁護士に対する弁護士会とまでは行かずとも、医師会などよりはるかに強力な権威を持つ組織と言えますね。
厚労省に限らず誰がその強力な権威を活用し医師に影響力を及ぼしてくるのかですが、医師の世界ではこうした権威は今まで存在しなかっただけに、支配下に置かれる側もなかなか実感は持ちにくいかも知れません。

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コメント

さっぱり意味が分かりませんね。
地域枠というのは経済的に恵まれていない学生に対して奨学金返済免除を餌に地域で働いてもらうシステムです。
離脱させたくないなら自治医大みたいに8桁の奨学金渡して離脱を躊躇するようにするのが先です。それでも離脱する人はいるでしょうけれど。

今回のルールが本決まりになってしまったら、そもそも奨学金貸与→返済免除という手続きが必要なくなってしまいます。
奨学金返済免除を使って地域で働いてもらう必要がないですからね。

以前も書きましたが、私の母が「紐付きの奨学金は借りちゃいけない、借りたければ育英会か銀行で借りろ」と言っていたのは正しかったなあと。

投稿: クマ | 2020年7月23日 (木) 22時35分

有利子奨学金と言う名の学生ローンは一般には評判が悪いのですが、こうなると医学部学生に限って言えば地域枠よりは安全と言えるかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2020年7月25日 (土) 20時14分

この記事へのコメントは終了しました。

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