大学病院が医局員の給与カットを要請
このところのコロナ騒動で開業医、勤務医ともに大きく収入減少を来していると言いますが、特に売り上げ減少が収入源に直結する開業医では深刻で、クリニック閉鎖に追い込まれるケースも発生しているようです。
他方勤務医にとってもボーナス削減を迫られたなど悲しい話もありますが、特に非常勤医や期間契約の場合解雇や契約打ち切りと言った深刻な事態に至りがちで、生活設計が狂ったと言う先生もいらっしゃるようです。
一部にはこの際にと問題ある医師の首を切っているだけだとの声もあるようですが、それだけではすまない話なのではないかと思わされるのが、先日出ていたこちらのニュースです。
医局が関連病院に申し入れた「給与3割カット」(2020年7月6日日経メディカル)
首都圏の大学病院で外科系の医局に所属するC氏は現在、大学病院に籍を置きつつ、基本的には少し離れた地方にある大学の関連病院で診療を行っている。
コロナ禍でこの関連病院の患者数は減った。特に、軽症の救急受診が激減し、C氏は平時の忙しさからやや解放されていた。そんな中、C氏が所属する医局からこの関連病院に提示されたのが、医局から派遣された医師の30%の給与減だ。
「この話は『給与を減らしてもいいから医局員の雇い止めだけはしないでくれ』という名目で、医局から申し出があったもの。患者が減って関連病院の経営も苦しいはずなので、医局の意図はよく分かる。ただ、私達としては単純に収入が減ってしまった」とC氏。結果的に月25万円ほどの収入減になったという。当時は、スポットで入れるアルバイトもほとんどなく、減収を埋め合わせることはできなかった──。日経メディカル Onlineでは医師会員を対象に2020年6月3日~6日に「コロナ禍での収入変化に関するアンケート」を行い、3992人から回答を得た。そのうち大学病院を主な所属先としている医師475人に対して、COVID-19によって医師としての収入が月額ベースでどう変化したか聞いたところ、半数超の51.6%が収入減少に見舞われていた(図1)。中には、上記のように医局の意向で「給与減」が決まった医師もいる。
アンケートに回答のあった医師全体で、収入が減少していたのは39.8%、民間病院の勤務医では30.4%だったことを踏まえると、大学病院の勤務医は他の職場と比べてコロナ禍で給与を減らした割合が大きいといえる(参考:「待機手術ゼロ」で成果給100万円を失う)。この背景には、大学病院勤務医の給与が一般的に低いことが挙げられる。国立大学病院長会議が開催した2019年10月のプレスセミナーでは、当時会長の山本修一氏が「国立大学病院の役職なしの医師の平均給与は560万円で、国立病院機構の1520万円に比べて960万円もの差がある」との試算を公表(参考記事:国立大学病院長会議「研究は残業規制の枠外に」)。大学病院勤務医の多くは、大学の関連病院で働いたりアルバイトに行ったりすることで、この給与格差を埋める構図になっている。
しかしCOVID-19の影響で、この「外勤」が制限される事態が起きた。理由は、感染リスクを下げるために医局からアルバイト禁止を通達されたり、外勤先の患者数が減った結果、出勤を求められる日数が減ったりなど様々なようだ。今回行ったアンケートで、収入変動の理由について聞いたところ、最も多かったのが「他院でのアルバイトの禁止・制限」で25.7%、次いで「雇い止め・出勤日数減」(15.6%)、「残業時間の減少」(9.9%)だった(図2)。
(略)
アンケートでは大学院生からの悲痛な声も寄せられた。
30歳代のある腎臓内科医D氏は、国立医学部の大学院生。大学院に通う傍ら、他県の病院に通勤して月50万円以上の収入を得ていた。しかし4月に緊急事態宣言が発令され、他県への移動を自粛するよう国から要請があったことで、D氏は出勤が一切、できなくなってしまった。「医学部の大学院生はフリーランスではないし、家族を養いながら通う人も多いことから、アルバイトだとしても収入規模が他学部の学生と違う。こうした立場の人たちにも保証が必要ではないか」。こうD氏は訴える──。経済産業省は、COVID-19で事業収入が下がった中小企業や個人事業主向けに持続化給付金を用意している(個人事業主の場合、最大100万円)。6月29日からは「主たる収入を雑所得・給与所得で確定申告した個人事業者」と「2020年に新たに創業した者」も対象に含まれるようになったが、アルバイトや非常勤など、病院と雇用契約を結んで給与が支払われる場合は対象外だ。
一方、文部科学省はアルバイト収入が減少して修学が困難になった学生のために、「学生支援緊急給付金」(10~20万円)を用意している。ただ、これは経済的に困窮している学生が対象で、既存の奨学金制度を活用しているなどの要件がある。大学院に通いながら被雇用者としてアルバイトをこなす医師は、どちらも対象にならない可能性が高い。加えて、大学院を修了するまでは基本的に環境を変えにくく、収入を埋め合わせるための打ち手が限られるのも大学院生の難しいところだ。
医局と言えば所属する医師の権利を守る立場であるべきではないかと考えれば、医局が自ら所属する医局員の給料カットを申し出るなどとんでもない話にしか聞こえませんが、無論事情はあると言うことです。
解雇よりは給料を減らしても良いから雇用は維持してくれと言う要請だと言うことですが、とは言え当事者である医局員に十分な説明と同意を得た上での話であるのかどうか、記事からは読み取れませんね。
医局側が医局員よりも関連病院の利益を優先して減給のお墨付きを与えたとすれば無論医局員としては面白くないはずですが、とは言え大学院生など弱い立場の医局員も多いのが実情です。
この種の一方的な取り決めに限らず、今回のコロナ騒動で特に大学院生は極めて深刻な経済的困難に見舞われていると言い、県境を越えてのアルバイトは軒並み出来なくなったと言います。
また否応なく大学でのコロナ対応に動員され、満足出来る手当はもちろん、いざ罹患してしまった場合の保証すらないそうですが、当然ながらこうした行為を強要するならパワハラ、アカハラと言われるべき問題です。
制度的な救済措置も記事にあるように大学院医師にはほとんど対象にならないようで、学業を中断し常勤医としての雇用を目指すにしても、需要の少ない今の時期は職探しに良いタイミングではないですよね。
ただ医師不足の施設にとっては貴重な即戦力や若手有望株を割安で雇用できる好機とも言え、コロナ騒動を契機に各施設での医師の移動が加速、流動化していく可能性がありそうに思えます。
他方ではコロナ騒動によって最低限の医療需要に限れば案外多くはなく、既存の医療リソースは全体的には最低欠くべからざる医療に対してはむしろ過剰とも言える状況であったことも明らかになってきています。
当然ながら全ての診療科で均等にと言うわけではなく、相変わらずリソースの逼迫している領域もあれば、患者が減って閑古鳥が鳴いている領域もあり、施設内でのワークシェアリングを促す一因ともなっていますね。
こうした需給状況の変化がコロナ騒動が落ち着いた後でどう解消されていくのかは注目したいところですが、特に若い先生にとっては将来の進路選択に関しても再考していく必要があるのかも知れません。
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コメント
病院行ったら「安心」って思っていた高齢者が、「危険」って思うようになったのでコロナ禍が終息しても厳しいかもしれませんね。ただ、病院に行くことによって助かっていた命が失われた場合もコロナのせいになるのでしょうか?
一方で「死にそうな人が亡くなるだけですよ」って言ったら優性思想呼ばわり。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00079/?P=2
お医者さんも大変ですね。
投稿: | 2020年7月18日 (土) 09時10分