無断キャンセル問題がますます広がっている理由
正月早々に話題になっていたのがこちらの事件ですが、記事から紹介してみましょう。
正月の宿泊無断キャンセル、業界悩ます「ノーショー」(2020年1月21日朝日新聞)
栃木県那須塩原市や日光市などの温泉地で、正月に宿泊予約の無断キャンセルが相次いだ。少なくとも7施設で計約250万円の被害が出ていることが20日、宿泊業者への取材でわかった。県は春の観光シーズンに向けて観光関係者と防止策を協議する考えだ。
関係者によると、いずれも同一とみられる人物から那須塩原市、日光市、那須町の宿泊施設8カ所に電話で1月2日の宿泊申し込みがあり、うち1カ所にのみ泊まったとみられるという。被害に遭った施設は県警に対応を相談し、この人物を特定して損害賠償を求めることも検討している。県観光交流課の担当者は「あってはならない行為。宿泊業者や関係団体と対策を話し合いたい」と話す。那須塩原市の旅館「湯守田中屋」では昨年8月末、男性の声で電話があり、男女10人で泊まるとして「露天風呂付きの最高の部屋」を指定されたという。住所、氏名、電話番号などを聞き、翌日には要望に応じてパンフレット10部も宅配便で送った。しかし、宿泊予定日の約2週間前に電話をした際は不通で、当日、客は現れなかった。連絡先とされた千葉県の住所に宿泊費約36万円の請求書を送ったところ、転居先不明で戻って来たという。
日光市鬼怒川温泉のホテルでは、1月2日からの予約申し込みがあったものの、満室で、3日から1泊で男女計10人の予約を受け付けた。求めに応じてパンフレットも送ったが、客は来なかったという。被害額は約26万円だった。一般社団法人「那須塩原市観光局」の小林紀明・事業部長(51)によると、予約をした人がキャンセルの連絡もなく現れないことを業界では「ノーショー」と呼び、近年増えている。「被害が少額の場合は大半の宿泊施設が泣き寝入りしている」という。
今回のキャンセルの理由は不明で、予約の手段も異なるが、無断キャンセルが起きる原因の一つに、インターネット予約サイトの普及があるとされる。サイトで空室確認をして複数に予約を入れた後、実際に泊まる施設を決めたにもかかわらず、ほかの施設の予約を取り消さないケースが散見されるという。
施設側は「無断キャンセル」とみなし、予約者に代金を請求するが「キャンセル電話をしたはずだ」「何回もしつこい」と拒否する人も多いという。
小林さんは「かたくなに拒否されたあげく、逆にネットで中傷されるのも避けたくて、請求をあきらめてしまうことが多々ある。今回の問題で、宿泊予約をすれば支払い義務が生じる場合もあることが認知されてほしい」と話した。(池田敏行、梶山天、池田拓哉)
この種の問題はすでに飲食店では久しく以前から問題視されてきたところですが、今回は繁忙期で各旅館とも最上級の部屋であったことから被害総額も大きかったそうです。
飲食店を始めこの種の問題への対応策に頭を痛めていて、例えば無断キャンセル分の料金支払いを受ける保険的制度なども登場し大変な反響があると言います。
また記事にもあるようにネット予約との関連性が高いと指摘されている点から、ネットの顧客管理システムを応用していわばブラックリストを作成する動きもあるようです。
それだけこの種の行為を繰り返す常連が存在すると言うことですが、そもそも何故彼ら一部の常連がこうした行為を繰り返すのかと言うことが論じられてきました。
例えば取引先の接待などで相手の好みが判らない場合、何店か予約を入れておき当日相手の希望で確定し、いちいちキャンセルの連絡はしないことが多いそうです。
しかし宿泊予約キャンセルに関してはもう少し別の理由もあるらしいと言うことが判明してきていて、これも今の時代らしい話だと話題になっていました。
宿泊無断キャンセルで親子逮捕(2020年1月22日NHKニュース)
ホテルの無断キャンセルを繰り返したとして、51歳の女とその息子が逮捕されました。
警察は、宿泊予約サイトで得られる特典のTポイントに目をつけて、全国のホテルなどで無断キャンセルを2200回以上行い、Tポイントを不正に得ていたとみて捜査しています。逮捕されたのは、住所不定の自称・自営業、岸田治子容疑者(51)と息子で自称・会社員の治博容疑者(30)です。
警察によりますと、2人は去年8月、インターネットの宿泊予約サイト「一休」を通じて偽名で予約した京都市の4つのホテルを無断でキャンセルし、業務を妨害したとして、私電磁的記録不正作出・供用や偽計業務妨害の疑いが持たれています。
「一休」を通じて予約すると、特典として宿泊代金の一部がTポイントとして還元されますが、ホテル側の手続き忘れなどによって、無断キャンセルでもTポイントが付与されるケースがあるということです。
警察は岸田容疑者が特典のTポイントに目をつけて、全国のホテルや旅館の予約と無断キャンセルを2200回以上繰り返し、およそ190万円分のTポイントを不正に得ていたとみています。調べに対して、息子の治博容疑者は「間違いありません」と容疑を認め、母親の治子容疑者は「覚えていません」と容疑を否認しているということです。
2人の所持品からは、60枚以上のTポイントカードなども押収されていて、警察は、気付かれないように、大量のカードを使いわけながら、不正にポイントを得ていたとみて、調べを進めています。
(略)
【被害にあったホテルは】
無断キャンセルの被害にあった京都市のホテルは、去年8月、宿泊当日の夜に、朝食付きツインルームの1泊の予約をインターネットの宿泊予約サイトを通じて受けました。
しかし当日、宿泊予定の2人は現れず、そのまま無断キャンセルされたということです。
このため、登録時に入力された電話番号に連絡しましたがつながらず、その後、警察から岸田容疑者が偽名で予約していたことを知らされたということです。
このホテルでは、無断キャンセルのあと宿泊予約サイトに連絡して手続きを行ったため、ホテル側が負担することになるTポイントは付与せずにすみました。
ホテルの担当者は「今回の事件は詐欺行為のようなもので、絶対に許せません。無断キャンセルは、毎月10件以上は起きており、本来宿泊できたはずの別の人が宿泊できなくなり、ホテルとしても大きな損害です。宿泊予約サイトには、入力する個人情報のチェックを厳格化するなど、対策してほしい」と話していました。【一休コメント】
宿泊予約サイトを運営する「一休」では、「サイトが犯罪に利用されたことを真摯に受け止めています。安心して利用者や宿泊施設に使用してもらうため、システムの改善に取り組むとともに、悪質な無断キャンセルを防ぐための啓発を行なっていきたい」とコメントしています。
偽名での宿泊予約が出来てしまう点からも判るように、利用する顧客側の利便性優先で満足に個人情報確認もしていない予約システムが悪かったと言う声もあります。
逆に利用者の側からすれば宿の予約一つで根掘り葉掘り個人情報を要求され、あげくに厳重な確認を繰り返されるのではやっていられないですし、何が便利かですよね。
ただ昔ながらの電話予約であれ無断キャンセルはあり得るとは言え、今回無断キャンセル自体が利益を生む制度だったことが被害拡大の一因だったとは言えそうです。
人間誰しも自分の利益になることを行う傾向はあり、特にネット予約を活用するなど利便性を求める顧客層にはその傾向がより強いのではないかと想像されます。
便利だから、お得だから利用すると言う延長線上で、これをやれば利益につながると言う抜け道があるなら当然やる人も出てくるはずで、制度設計に問題ありと言えそうです。
施設側から予約サイトへのフィードバックも重要ですが、偽名や虚偽の連絡先を認めているようではブラックリスト化も難しく、対策には予約システムの見直しが必要そうですね。
今後施設側から予約サイト側に損害賠償請求でもあれば予約サイト側も動かざるを得ないでしょうが、最終的に皆が満足する落としどころがどの辺りになるかです。
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