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2019年11月 5日 (火)

80~240円払えば専門家がやってくれる仕事とは

本日まずはこちらのニュースを紹介してみましょう。

紹介状なし負担「200床以上」に…厚労省検討、来年度から 初診5000円以上 義務化拡大(2019年10月29日読売新聞)

 厚生労働省は来年度、紹介状なしで大きな病院を受診した患者に定額負担を義務化する制度について、現在の「400床以上」から「200床以上」を軸に対象を拡大する方向で検討に入った。軽症者には身近な「かかりつけ医」への受診を促し、大病院や中核病院が専門性を生かした治療に集中できるよう、役割分担を進める。
 厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)で今後、検討し、2年に1度の診療報酬改定の具体的な内容に盛り込む。

 定額負担の義務化は、原則1~3割の窓口負担とは別に、初診で5000円以上、再診で2500円以上を徴収する仕組み。軽症でも大病院や中核病院を受診する人が少なくないため、定額負担を求めることで自宅近くの診療所などで受診する患者を増やし、大病院などへの患者の集中を緩和する狙いから導入された。
 救急患者ら一定の条件に当てはまる患者は対象外で、定額負担を求められない
 2016年度に「500床以上」で始まり、18年度に400床以上に拡大された。現在は420病院が対象になっている。200床以上にすれば、対象病院が250程度増える
 200床以上の病院は現在でも、初診の追加料金を徴収することができ、厚労省によると、200~399床の病院では平均2500円程度を徴収している。これを5000円以上に義務化する方針だ。
 厚労省は、症状が軽い場合は、地域の診療所を受診してもらうように理解を求める。

 厚労省の調査によると、18年度から定額負担が義務化された病院では、同年10月時点で、1年前と比べて紹介状なしの患者が4・4ポイント減少した。大病院や中核病院は患者数の減少により、専門的な技術を生かした治療に専念しやすくなる利点があるとされている。

現時点では徴収可能と言う扱いの200床以上の中規模病院においても、一定金額以上の窓口負担徴収を義務づける内容で、地方の地域基幹病院も大規模病院並みの受診抑制を図ると言うことでしょう。
この定額負担制度の効果については、地域医療機関で紹介状を書いてもらうのが二度手間だとか、実際には大して患者は減らないと言った不満の声もありますが、一定の効果はあったと言う意見が多いようです。
窓口に直接来る飛び込みの初診患者を抑制し紹介・予約と言うワンクッションを挟むことで、外来診療をある程度計画的に回せると言う効果もあり、過度の患者集中を防ぐことにある程度有効と言えそうです。

この件に関しては厚労省から出た話ですが、このところ財務省主体で患者負担引き上げを求める意見が強く、以前からの懸案となっている後期高齢者の窓口2割負担への引き上げなどが議論されているところです。
経営者の権益を代弁する日医などは例によって反対姿勢ですが、現役世帯の医療費負担が今後も一向に減る見込みがない以上、少なくとも負担能力のある高齢者にも応分の負担をいただくのが筋でしょう。
他方では厚労省の主張する診療報酬本体マイナス改定などは現場の医療従事者にとっても看過できない話ですが、産業全体で給与引き上げが議論される中で医療業界だけ例外はおかしいと言う意見もごもっともと言えます。
現実的には政策誘導的に何らかの加算なりで色をつけることで限りなくプラマイゼロの改定くらいになりそうですが、この種の新設された加算の算定に関連して先日興味深いやり取りがあったと報じられていました。

診療側と支払側、機能強化加算の患者説明を押し付け合い「保険者の仕事」「診療前の説明要件化を」、中医協(2019年10月31日医療維新)

 中医協総会(会長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)で10月30日、診療側と支払側が2018年度診療報酬改定で導入された、かかりつけ医機能を評価する点数である機能強化加算について患者への説明を押しつけ合う場面が見られた。診療側は「医療費を意識した受診行動、かかり方について説明するのは、基本は保険者の仕事だ」と主張し、もともと機能強化加算に批判的な支払側は「診療前の説明の要件化」を提案した(資料は、厚生労働省のホームページ)。

 機能強化加算(80点)は「かかりつけ医機能に係る診療報酬を届け出ている医療機関において、専門医療機関への受診の要否の判断等を含めた、初診時における診療機能を評価する」として、2018年度改定で新設された。厚労省保険局医療課の調査では2018年6月審査分で 1048の病院、1万1793の診療所が届け出て、178万3064回算定された。
 健康保険組合連合会理事の幸野庄司氏は、支払側の意見をまとめたとして代表して発言。診療報酬は患者が受けた医療行為に対する対価ということが基本的な考え方であるとした上で、「機能強化加算はかかりつけ医を推進するために必要であることは百歩譲って理解する」と、基本的には懐疑的な見方であることを強調。医療課調査で機能強化加算を届け出ているにもかかわらず、他の医療機関の受診状況やお薬手帳を見せていない、薬の服用状況を説明していない患者が一定程度いるとの結果から、これらを「見ていない、確認していない医療機関が一定ある。また、かかりつけ医の役割さえ説明していない医療機関が過半数存在している。体制は有しているが、機能を果たしているとは言いがたい」として批判した。こうした理由から、かかりつけ医機能を有していることを院内掲示した上で、診療前に文書を用いて患者に説明することの要件化を求めた

 日本医師会常任理事の松本吉郎氏は、機能強化加算の届出がある医療機関の患者では74.4%、届出のない医療機関の患者では66.9%が「かかりつけ医を決めている」と回答したなどの調査結果から、「かかりつけ医を持つ意義が国民に浸透してきたのではないかと感じるとともに、現場でかかりつけ医が頑張っていることが垣間見られることは喜ばしい。さらに努力をすべきだとは思うが、改定でもかかりつけ医の一層の充実が図れるような対応をすべきと考えている」として全く逆の見解を表明。体制への加算は他にも多くあるとして、「たくさんの体制加算について全て説明すれば、患者1人1人に30分、40分かかることを理解していただきたい。かかりつけ医に関する説明を実施し、同意を得た旨を診療録や文書に記載することは働き方改革という流れにも矛盾している」と指摘し、事前の周知で十分との考え方を示した。

 これに対し、幸野氏は「この機能強化加算は(他の加算と)意味が違うと思う。かかりつけ医機能を持っていて、この病院でかかりつけ医として決めるとこんなにいいことがありますよ、こんなこともしてもらえますよと説明するわけだ」と述べると、日医常任理事の城守国斗氏は「機能強化加算だけは他と異なると言うが、個別の診療報酬とは別にそれぞれの体制を整えていることにコストがかかっているので評価する体制加算がある。他の体制加算と何も変わるところはない」と反論。医療費を意識した受診行動、かかり方について保険者が周知して、それに基づきかかりつけ医機能を持つ医療機関であることを示すのが良いとして、「それ以上、医療機関に求められるというのは筋が違う」と述べた。

 このやりとりに対し、経団連社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理の宮近清文氏は、「複雑なことをたくさん並べるのではなく掲示の仕方を工夫して、普及のことも考えながら診療所がかかりつけ医機能をもっていることを示してもらえればいい」と助け船を出した。松本氏は「宮近委員の発言には、医療機関としてはほっとした」と謝意を示し、今後さらに工夫が必要とした。

こうした政策誘導的な各種加算の算定については年々ややこしい制度が新設され、特に小さな開業の先生などにおいては大変な労力になるだろうと思うのですが、経営上も加算は適宜とらないわけにはいきません。
そもそも論としては過去にも政策的誘導の失敗は数多く見られたことで、より効果的かつ簡潔な制度を目指して適宜効果の検証と制度の改定が必要ですが、まずはどこを目指すのかを明確にする必要があります。
かかりつけ医の役割にしても病院勤務医と開業医の立場の差から求める機能も違う場合もありますが、正直厚労省の描くかかりつけ医機能を十分果たしているとは言えない施設も少なくないように思えますよね。
実際に理想通りのかかりつけ医機能を満足しようとすれば大変な労力で、とても初診時80点程度の報酬では割に合わないと思うのですが、逆に言えばその程度の仕事で十分と言うことなのかも知れませんね。

ともあれ真面目にかかりつけ医機能を果たそうと頑張っている地域の開業医にとって、たった80点でどこまで仕事を押しつける気かと不満が募るのは当然で、制度の説明くらい保険者がやれとは納得出来る話です。
昨今のご時世なら胃カメラ(1140点)をやります、CTをとります(1470点)と言ったことなら相応の説明もするでしょうが、採血よりも安い点数でどれだけ丁寧な説明を期待出来るかは推して知るべしですよね。
この辺りの労働量と報酬との乖離は日本社会全般の課題としても指摘される問題ですが、つまり国としてもかかりつけ医制度の存在意義などその程度だと考えているのだと言うメッセージでもあると言えます。
支払い側は制度自体に反対していると言う点も示唆的ですが、では地域医療体制の在り方をどのように考えているのか、政策的誘導をするならするで目指す方向性くらいは明確にしていただきたいものです。

 

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コメント

多少診療報酬が下がってもいいから、病院の窓口で3割分のお金をやりとりする今のシステムをやめてほしい。
保険者が保険料と一緒に患者の自己負担分を回収して病院に10割支払うシステムの方がよっぽどシンプルです。

投稿: クマ | 2019年11月 5日 (火) 08時50分

↑ 全患者層から、ナマポや小児無料化でのモンスターが湧き出す悪寒。

投稿: | 2019年11月 6日 (水) 06時58分

それやると査定されまくって悲惨な支払い額になりそうだけどw

投稿: | 2019年11月 6日 (水) 20時51分

保険者も診療報酬の設定などに口を出すだけではなく、相応の役割を果たすべきだとは思うのですが、下手な口出しで余計に悪くなる可能性もありますね。

投稿: 管理人nobu | 2019年11月 7日 (木) 20時43分

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