« 今日のぐり:「ぶたかば焼き専門店 かばくろ 総本店」 | トップページ | マッシー池田先生、司法関係者の医学教育に鋭意努力中 »

2019年9月17日 (火)

医師偏在時代にあっての医師強制配置への布石

千葉県北部の匝瑳(そうさ)と言う地名は5世紀から伝わる古いものなのだそうですが、その千葉県匝瑳市でこんな記事が出ていました。

医師偏在地域に悲鳴 好条件は東京に集中 匝瑳市民病院「綱渡り状態」(2019年9月4日千葉日報)

 政府が掲げる「人生100年時代」を見据え、増加する医療ニーズへの対応が課題となっている。全国どこにいても安心して医療が受けられる体制整備が不可欠だが、地方で医師が足りない偏在問題は深刻だ。首都圏に位置する本県でも看護師などを含めた医療従事者が不足している地域があり、医療現場からは「このままでは体制を維持できない」との訴えも出ている。
 厚生労働省によると、全国の医師の総数は2016年末時点で約31万9千人と、増え続けている。ただ人口や診療需要を反映させ、数値が低いほど医師が不足している状況を示す「医師偏在指標」では、最も医師が充足している東京都と、最も不足している岩手県の間に2倍近い差があり格差が浮き彫りになった。

 東京から70キロ圏の距離にある県北東部の匝瑳市。複数の市区町村をまとめた「2次医療圏」の医師偏在指標を見ると、匝瑳市を含む「香取海匝」は全国平均を大きく下回り、医師不足が顕著だ。
 「都心の方が最新の設備も使えるなど条件がいいから、医師は東京に近い場所に集まってしまう」。国保匝瑳市民病院の菊地紀夫院長が嘆く。00年に24人いた常勤医は減り続け、今年は9人に。宿直や訪問診療を含む全ての業務を常勤医だけでこなすのは難しく、大学病院から応援をもらい乗り切っている「綱渡り状態」(菊地院長)だという。医師だけでなく看護師など他の医療従事者も足りておらず、救急車の受け入れ要請があっても夜間はほとんど断っている。

 厚労省は、医師が少ない地域での勤務経験を一部病院の管理者になる際の評価項目としたり、地元勤務を義務付ける大学医学部の地域枠を増員したりするなどの対策を打ち出している。ただ菊地院長は「即効性はない。へき地医療を一定期間義務付ける制度をつくるしかない」と訴える。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65年には65歳以上の割合が38・4%に。超高齢化社会を迎えるのは確実で、自民党は7月の参院選の公約に「人生100年時代にふさわしい社会保障制度の構築」を掲げ「医師偏在対策」を盛り込んだ。
 「公約に入ったのはよかったが、選挙戦で偏在問題はほとんど議論にならなかった」と菊地院長。「急激な高齢化が進む地方では関心の高い話。病院がないと地域社会は成り立たない。地域医療の実態を知り改善につなげてほしい」と訴えている。

全国的に人口分布が大きく昔と変わっていく中で、昭和の時代から変わらず存在する各県の医学部定員が既得権益化し、医師分布の不均衡の一因とも言われていますね。
また東京などは医大が多く医師供給源が豊富なのも事実ですが、研究職や官僚として働く名目だけの医師も多いとも言われ、額面ほど医師過剰ではないとも聞きます。
特に周辺県からの患者搬入も多く、以前にも救急搬送困難事例が多発したことでも知られますが、その一因として千葉や埼玉など近隣医師不足県の存在があげられます。
人口が多いにも関わらず医学部が少なく医師供給が歴史的に不足しがちであると言いますが、特に千葉などは県域も広く以前から救急連鎖崩壊先進地とされてきました


今後都道府県単位で地域医療計画に基づいた医療供給体制の整備が進められれば、医療環境の差異が生まれ現状より自治体間の格差がさらに拡大する可能性もありますね。
これに対して医師配置をある程度強制的に行うべきだと言う考え方もあり、例えば医学部の地域枠であるとか、新専門医制度の定員設定などはその手段となりえるものです。
ただ地域枠にしても定員が埋まらないだとか、お礼奉公を拒否する人もいるだとか実効性に疑問符があるとも言われ、今後どのように運用されるかが問われるところですね。
そんな中で先日地域枠と新専門医制度の定員との関係が厚労省から示されましたが、地域枠を利用する学生にとっては相応に厳しいとも言える話に思えます。

地域枠、自治医大卒医師、専攻医シーリング外での採用可能に(2019年9月11日医療維新)

 厚生労働省は9月11日、医道審議会医師分科会医師専門研修部会(部会長:遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)に対し、地域枠医師や自治医科大学出身の医師は、シーリング(専攻医の募集定員の上限)の枠外での採用を可能とするなど、2020年度開始の研修プログラムに関する日本専門医機構への意見・要請案を提案、修文等は部会長一任の上、了承された(資料は、厚労省のホームページ)。

 シーリングは、内科をはじめ、13の基本領域(診療科)で都道府県別に設定するのが骨子(外科など6診療科は対象外)で、今年5月の医師専門研修部会で了承された(『 2020年度専攻医シーリング、機構案通りに厚労省医道審で了承』を参照)。今回の措置は、都道府県から「特定の都道府県での勤務が義務づけられている専攻医に対する不利益が生じないような配慮が必要」との要望が挙がっていたことへの対応。5月時点でのシーリングが多少緩和されることになる。
(略)
 11日の会議では、「医師の地域的な適正分布のためのデータベース化事業」の方針も了承。厚労省の医師・歯科医師・薬剤師調査(三師調査)で用いる「医師届出票」のデータに加えて、専門医情報(専門領域や専門研修プログラム名など)を統合し、都道府県が医師確保対策に活用できるようなデータベース構築を目指す。今年度でも既に「医師届出票」に加えて、専門医情報の一部を連携させており、9月中に都道府県に提供する予定。さらに日本専門医機構に対し、専門医情報の登録の徹底などを求める。
 さらに地域枠など、卒業後に従事要件が課されている医師については、その情報を本人同意の下で取得し、非該当の都道府県の専門研修プログラムでは採用できないようにする。2020年度開始の専攻医募集には間に合わず、以降の対応になる見通し。2019年度研修開始の約8600人の専攻医中、地域枠制度利用者は736人で、うち29人(3.9%)は、奨学金を貸与した都道府県が離脱を認めていないケースだった。地域枠医師については、臨床研修でも離脱しないよう、厳しい対応を講じている(『東京医大の地域枠3人離脱、1人は自大学病院で採用』を参照)。

 聖路加国際病院副院長の山内英子氏は、「シーリングは、地域の必要医師数に基づいて計算している。地域枠医師等を枠外にするなら、必要医師数の計算に戻って、地域枠医師等を引いた数にする必要があるのではないか」と質問。
 厚労省医政局医事課長の佐々木健氏は、「必要医師数は、(医学部の)入学枠に関係なく計算している」と山内氏の考え方を認めた上で、地域枠医師等の従事要件の変更を強いることは容易ではないことから、各都道府県の地域医療対策協議会で、個々の医師について、シーリングの枠外にするか否かを検討する仕組みを要請すると説明した。2021年度開始の研修については、地域枠医師等の扱いも含めて、シーリングのかけ方自体を検討し直すことになるという。
 日本医師会常任理事の釜萢敏氏は、「(シーリングの枠外とする話は)地域枠医師等が、シーリングのためにその役割を果たせない場合があることから出てきた。地域医療対策協議会でしっかり枠外とするかどうかを峻別するということなので、それでいい」と述べた。

 全国市長会会長で、相馬市長の立谷秀清氏は、地域枠医師等は、従事要件を果たすために、医師不足地域等も含め、さまざまな地域に行くことから、「研修カリキュラム制が前提なのでは」と質した。その上で、地域枠医師等の大半が研修プログラム制を選択している現状で、地域枠医師等をシーリングから外すことに疑義を呈した。
 厚労省医政局医事課は、「研修カリキュラム制が分かりやすい制度として整備されていない現状なので、地域枠医師等がどちらに向いているかを判断することはできないと思っている」と述べ、厚労省として研修カリキュラム制の整備を日本専門医機構に求めていると説明。
 佐々木課長も、「今回、地域枠医師等について、シーリングの枠外での採用を可能とするのは、全体の提案と関連している。研修カリキュラム制をしっかり導入してもらいたいという要望は、この医師専門研修部会、全国知事会から出ている」などと述べ、制度全体をパッケージとして捉えた中で、地域枠医師等が従事要件を満たしつつ専門医取得ができよう研修カリキュラム制の整備と、シーリングの枠外とするかどうかを検討していくことが求められるとした。
(略)
 医学部入学定員に占める地域枠は年々拡大。2017年度時点では、9420人中、1674人(17.8%)
 山内氏は、「専門医制度の採用プロセスにおいて、各専攻医の特定の地域への従事要件等の有無を確認」など、厚労省の提案を支持したものの、地域枠の仕組みは都道府県によってさまざまなことから、各医師がどの地域枠か、またどんな条件が付いているのかなどの情報の提示が必要であると指摘した。「専攻医の採用において、縛りを設けることは賛成。1674人がきちんと配置されれば、地域医療の助けになる」。日医常任理事の羽鳥裕氏も、山内氏の考えを支持した。
(略)

地域枠でのお礼奉公を望んでいない学生にしてみれば、専門医の定員を理由にお礼奉公を果たせないと言う言い訳の道を、今回厚労省から塞がれた格好です。
一般論として言えば地域枠とは入学時に契約を結んでいるわけで、それに反して卒業後勝手に他地域に移動して診療を行うことは望ましいことではないと言えます。
ただ現状で地域枠が埋まらない大学も多いせいか、希望していないにも関わらず半ば強制的に地域枠を利用させられたなどと言う話もあり、単純な話でもないようですね。
もちろん医師不足の地域に求められた制度なのも事実であり、大多数の学生も理解した上で利用していると思いますが、進歩的メディアなどから批判を受ける余地がある制度ではあります。

今回地域枠のお礼奉公対象地域以外では専門医研修をそもそも出来ないようにすると言うことで、地域枠への強制力としてはかなり強力な制度になりそうに思えます。
なおごく希な疾患を学びたい場合、地域枠で縛られると学べる場所がない可能性が指摘されていますが、お礼奉公を済ませてから勉強しなさいと言うことになりそうです。
ただ今回お礼奉公のノルマに関しては本人同意の下で情報を取得すると言う、今の時代らしく個人情報保護に配慮した格好になっているのがあるいは抜け道でしょうか。
いずれにせよこれから医療を目指す若い先生方は今まで以上に統制も厳しくなるはずで、大学に入る前からある程度明確な将来のビジョンを持つべきなのかも知れませんね。

|

« 今日のぐり:「ぶたかば焼き専門店 かばくろ 総本店」 | トップページ | マッシー池田先生、司法関係者の医学教育に鋭意努力中 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

岩手とかなら人口あたりの医師数云々の比較は意味があるが、
常識的に考えれば首都圏等大都市圏の周辺府県の場合は、
平日昼間人口での比較をしないと意味無いと思うのだが、
それをしないのはなんでだろ。

投稿: | 2019年9月17日 (火) 09時04分

各大学ごとに地域枠を何人まで設定できるって制限はありましたっけ?
そういう制限が無いのであれば定員をすべて地域枠に割り振ってしまえば、人口の少ない県はそれで医師確保が可能ですね。

投稿: クマ | 2019年9月17日 (火) 13時16分

>定員をすべて地域枠に割り振ってしまえば、人口の少ない県はそれで医師確保が可能

これやったら募集倍率何倍くらいになるものだろう?

投稿: | 2019年9月18日 (水) 17時00分

一部大学だけが行うのではなく全大学で一斉に定員を地域枠限定としてしまえば、実質的な地域別医師免許になりそうですね。

投稿: 管理人nobu | 2019年9月23日 (月) 10時04分

余計なことを思いついたのですが、地域枠で卒業した医師の行動を合法的に縛れるのであれば、奨学金を免除する義理はありませんよね?
年利15%で返してもらっても何の問題も無いはずです。

投稿: クマ | 2019年9月24日 (火) 15時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 今日のぐり:「ぶたかば焼き専門店 かばくろ 総本店」 | トップページ | マッシー池田先生、司法関係者の医学教育に鋭意努力中 »