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2019年6月16日 (日)

国がようやく無給医の存在を公的に認定

今さら感のある話題ではあるのですが、医師の働き方改革と関連してこのところにわかに世間的にも注目を集めているのがこちらのニュースです。

ある無給医の死(2019年6月4日NHK)

白衣で笑顔を見せる若手医師。大学病院で徹夜で緊急手術にあたった後、アルバイト先の病院に向かう途中に交通事故を起こして亡くなりました。この医師、「無給医」でした。(社会部記者 小林さやか)
無給医とは、大学病院などで無報酬で診療にあたっている若手医師のことです。取材した当事者たちは、生計を立てるため、病院のアルバイトを掛け持ちし、疲弊し切っていました。
「うつになった」「心身共に限界」「いつか死ぬのではないか」
そんな悲痛な声も数多く聞きました。そこで、無給医が過去に最悪の事態に至ったケースはなかったか取材したところ、今から16年前の前田伴幸さんという若手医師の死にたどりついたのです。
(略)
そんな伴幸さんが交通事故を起こしたのは医学博士の学位取得も決まり、大学院の卒業を目前に控えた2003年3月8日のことでした。
午前8時ごろ、伴幸さんが運転する車は鳥取県倉吉市の道路で、対向車線にはみだし、トラックと正面衝突。事故で車は大破し、伴幸さんは命を落としました。
当時、遠く離れたアルバイト先の病院に向かう途中だった伴幸さん。警察の調べで、現場にはブレーキ痕はなく、伴幸さんの居眠り運転が原因とされました。

なぜ息子は事故を起こしたのか。三女子さんの脳裏をよぎったのが生前の伴幸さんの異常なまでの働きぶりです。
実家には、弟の結婚式と父親の還暦祝いの時しか顔を出しませんでした。その式でさえ、途中で帰っていました。
気になって訪れた下宿の部屋は散らかり放題だったといいます。

そんな生前の息子の様子を聞こうと、三女子さんは夫とともに、事故後、医局の教授に面会を求めました。そこで教授の態度に大きな衝撃を覚えます。
 あまりにショックで何を言われたか覚えていません…。
こう話す三女子さん。記憶にあるのは若い医師を医局の駒としか見ていないかのような教授の態度だったといいます。
こんなところで息子は働いていたのかと本当にショックを受けました。このピラミッド構造の中、誰も何も言うことができず、息子も限界を超えて働いていたのではないかと直感的に感じたんです。
(略)
私は裁判を担当した松丸正弁護士に当時の話を伺いました。
判決から10年。しかし松丸弁護士は法廷で明らかにされた事実を鮮明に覚えていました。
 伴幸さんは、大学院での『演習』として無報酬で診療行為を行っていました。しかし『演習』といってもそれは名目で、実態的には勤務ですよ。しかも、尋常じゃない長時間労働だったのです。
松丸弁護士らは、勤務記録すら存在しない中、大学から電子カルテの記録などを取り寄せ、実態を明らかにしました。
時間外勤務は月に200時間。一般に過労死ラインと呼ばれる月100時間の2倍を超えていました。
さらに事故前の1週間は、徹夜勤務を4日間こなし、そのまま通常勤務を行っていたことも分かりました。
亡くなる直前も、徹夜で緊急手術にあたり、そのまま仮眠さえとらずにアルバイト先に運転して向かおうとしていたのです。

この異常な勤務を伴幸さんが働いていた大学側はどのように裁判で説明したのか。
以下が大学側の主張の概要です。
▽診療行為はあくまでも院生だった本人が選択した「演習」であり勤務ではない
▽アルバイトは、本人が希望し、自ら進んで行っていた。大学の業務とは関係がない。事故について大学には責任がない。
▽アルバイト先への移動は公共交通機関を使うように指導していた。車で移動したのは自己責任だ。
 これを聞いて、私自身強い憤りが湧いてくるのを抑えることができませんでした。それは大学の主張に対してでもあり、16年もたった今でも、無給医たちが私に訴える状況と、あまりにも似通っていたからです。

裁判では「実態としては勤務医に近く、自由意志で業務を辞めることができたとはいえず雇用契約がなかったとしても、大学側には安全に配慮する義務があった」として、大学側の責任を認め、損害賠償の支払いを命じる判決が出されました。
しかし、この裁判で私にはどうしても引っかかる点がありました。
それは大学での診療が無給で行われていたことが裁判では一切争われていなかったからでした。大学で生活できるだけの給料が支払われていれば、伴幸さんもアルバイトに行く必要はなく、事故を起こすこともなかったのではないかと感じたからです。
この疑問を松丸弁護士にぶつけてみました。すると、少し考え込んだあと、こんな言葉を口にしました。
 確かに、『演習』だから無報酬というのは違和感はありました。しかし、当時はそういうものだと思っていて、そこに問題があるということを私たちも気付くことができなかった。今思えば、きちんと裁判で争い判例を作るべきでした。
(略)
松丸弁護士も「今の社会情勢であれば、無給であることを裁判で争えば違法だと認められると思います。誰かが勇気を出して声を上げ、裁判を起こせば確実に世の中が動くと思うし、そうした支援をしたいです」と話しています。

「無給医」少なくとも2000人 国が初めて存在を認める(2019年6月7日ライブドアニュース)

大学病院などで無給で診療にあたっている「無給医」について、国は長年その存在を否定してきたが、全国の大学病院を調査した結果、少なくともおよそ50の大学病院に2000人を超える無給医の存在が確認できたとして、近く明らかにする方針だ。NHKニュースが報じた。

医局は教授を頂点とし、准教授、講師、助教と連なるピラミッドのような構造となっていて、最も下に位置する大学院生や医局員などは、医師として診療にあたっていても無給だったり、わずかな給与だったりすることがあるという。

2003年と言えばちょうど現行の臨床研修制度がスタートする直前だと思いますが、当時はまだ大学医局に所属してのストレート研修の時代であり、まだまだ大学医局の権威が強かった時代です。
翌2004年春からの卒業生は自ら勤務先を探して現在の研修を行うスタイルとなり、その後は各病院間での研修医の奪い合いを通じてずいぶんと待遇も改善され、また大学医局の力も弱まっていった経緯があります。
その意味では16年前だったからこそ起こった不幸な事故とも言えますが、しかし現代においても程度の差はあれ同様の状況はある一方で、国もつい最近まで無給医など存在しませんが何か?と言う態度でした。
ともあれ、こうした話を聞けばそもそも論として何故ただ働きをしているのか?と言う疑問も湧くところなのですが、外科医である中山裕次郎先生からかつての当事者からの見解としてこんな記事が出ていました。

なぜタダで働くのか?「無給医」たちの現実 ~医師の視点~(2018年10月28日yahooニュース)

(略)
 ここで3タイプの無給医を紹介しましょう。順に説明します。
1. 「勉強したいから無給」医
2. 「大学院生で無給」医
3. 「医局の都合で無給」医

1. 「勉強したいから無給」医
 「勉強したいから無給」医は、言葉のとおり「この病院で働きつつ高度なスキルを勉強したいから、無給で働かせて下さい」というもの。実は私も若い頃、月15日の給料のみという契約でしたが勉強したかったので月22日勤務していたことがあります。事務方からは、「その7日は趣味で来ているということにして下さい」と言われていました。私の先輩医師には、完全フルタイムで働きつつ無給で勤務した医師も数人います。
 この「勉強したいから無給」というスタイルは、医師の世界ではそれほど特殊なことではありません。なぜなら後述するように、医師は超長時間労働さえ覚悟すればアルバイトで生計を立てられるからです。

2. 「大学院生で無給」医
 次に、大学院生で無給というスタイルがあります。医局に入局した医師の多くは、だいたい卒業まで最短で4年かかる大学院に入学します。そこで大学院生として講義に出たり研究をしたりしながら、その4年のうち1、2年は大学病院で給与は出ないまま医師の仕事をするパターンが非常に多いのです。
 調査したわけではありませんが、耳に入ってくる医師の大学院生は8割以上がこれに当たります。下手をすると、「人手が足りないから」という理由で大学院に進学したが研究をする時間を与えてもらえず、ずっとタダ働きをしていたなんてこともあるのです。その結果研究が進まず論文が完成しないため、大学院には行ったが卒業できなかった、又は博士号が取得できなかったというケースも存在します。

3. 「医局の都合で無給」医
 最後は医局の都合で無給医をやっている医師です。このタイプが人数としては一番多いかもしれません。こちらは、医局が「大学病院に有給職として雇えるのは○人」と決まっており、しかしそれでは人手が足りないため無給医として大学病院に勤務させるというもの。
 そんなひどい話があるのか、それなら医局を辞めればいいのでは、という声も聞こえてきそうです。が、やはりアルバイトで生計がある程度立ってしまうのと、医局をやめることは大学病院医師としてのキャリアを失うことになります。さらには医局の人間のつながりがあり、「人助け」が信条の医師はついその立場に甘んじてしまうこともあるでしょう。また、大学病院でしかできない病気の治療や高度な治療、そして稀な病気の治療や研究に携わりたい人もいます。
(略)
 この無給医、なぜ今まで問題にならなかったのでしょうか。重要なポイントは2つあります。
 1点目は「医師はアルバイトで食っていける」という点です。医師には、アルバイトというシステムがあります。医師がするアルバイトは、普通のアルバイトと同じで時給か日給で一日~数日間など病院で働いてアルバイト代をもらうもの。中には金曜日の朝から日曜日の夜までぶっ通しで働くものがあり、割がいいのです。これだけ毎週やっていれば、年収は800万円を超えます。詳しくは日経ビジネスオンラインの記事にも書きましたが、アルバイトだけで生計が立つのです。ですから、本業(フルタイムの仕事)は無給でもやっていけるという事情があります。もちろん、労働時間は超長時間にはなりますが
 もちろん、「食っていけるからフルタイムは無給でいいだろう」という論理は誤りですが、場合によっては無給医みずからがそう考えていることもあります。

 2点目として、私は労働体制に文句が言えない業界体質を指摘します。医師の大多数は大学医学部の医局という組織に所属し、基本的にその医局の人事で動いています。医局とは教授をトップとするピラミッド型の構造で、多くの場合給与や階級(職位)はおおむね年功序列です。
 私は大学病院と無縁に働いているためこういった発言ができますが、大学病院勤務、あるいは医局に所属する医師にはまず不可能でしょう。大学病院を辞めても他の病院で働けばいい、という話はありますが、大学病院は多くの都道府県では1つしかなく、県内じゅうの大きな病院は医局が強い影響力を持っています。医局との関係が悪くなれば、そのエリアでは働きづらいという状況に陥る可能性もあるのです。
(略)

文字通りの無給となると大学病院以外の市中病院ではまず考えにくく、医局に所属せず大学と関わりのない医師には無縁な話かも知れませんが、逆に今の時代であれ大学で出世したい先生もいるはずです。
組織の中で這い上がっていこうとすれば、どれだけ組織に貢献し目上の覚えがめでたいかが問われることは医療の世界に限らない話で、逆に言えばギブアンドテイクの関係として成立する余地もあることなのでしょう。
ただ大学教授を目指すわけでもなく、ただたまたま学位取得を目指しているだけの大学院生が無給医として動員されている事例が多いなら問題で、得られる利益に対して代償が大きすぎると言えそうです。
臨床研修制度が変わって以来、大学など関係なく病院を渡り歩く先生も増えていて、こうした無給の兵隊候補も減っているはずですが、それだけに残る少数の医師が以前以上に酷使されかねません。
大学病院で医師の待遇改善が進まない最大の理由に医師の給料が最も安上がりで、だからこそ雑用に酷使されると言う説がありますが、医師の働き方改革を考える上でも放置は出来ない問題と言えますね。

個人的には冒頭の記事とも関連して、大学当局が雇用契約を締結しておらず労働者ではないから無給であると言うのであれば、この方々の診療行為に関連した報酬なりはどう扱われているのかが気になります。
大学病院であれば電子カルテが当然で、何をするにも誰がやったかの電子的記録が残るはずですが、存在していないはずの医師が何かしら行った場合に診療報酬を請求するなら、下手すれば詐欺行為ですよね。
そうでなくともこうした医師の診療行為で何かしらトラブルがあった場合、話が非常にややこしいことになると思いますが、それもあってか完全な無給ではなく限りなく無給に近い薄給と言う扱いの場合もあるようです。
大学の偉い先生方の中には医師の働き方改革に抵抗されている方もいらっしゃるようで、その背景にはこうした事情もあるのかと思えば納得はするのですが、世間的に受け入れられる話とは思えません。
百万歩譲って地域医療崩壊を避けるためだとか医師技能向上のためだとかで労基法無視の長時間労働をさせたとしても、だからといって医師をただ働きさせていい理由には全くならないはずです。

 

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コメント

かつての大学病院には、完全な無給ではなく、奨学金という月5万円程度の給料と、週1日か1日半のアルバイトと、週1回以上の当直という夜勤アルバイトをする医師が医局所属医師の半数以上を占めていました。患者の主治医は教授や助手(今の助教)などの有給の医師が務め、無給医は有給医の手伝いをしているという形式でした。医療行為の責任はあくまでも有給医が持つという建前でした。

投稿: | 2019年6月17日 (月) 00時09分

>医師は超長時間労働さえ覚悟すればアルバイトで生計を立てられるからです。

アルバイトに専念すれば遊んで暮らせるやんw、と気が付いた若き日のおいどんはやはり偉かったw自分で自分を褒めてあげたいwww

投稿: 10年前にドロッポしました | 2019年6月17日 (月) 09時32分

20年前の話か、今の話か、はっきりさせないと。
今無給医なら単純にアホなだけでしょう。
高給で長時間労働ならまだしも、無給で働くなんて、それこそ縛り首に賛同します。

投稿: 麻酔フリーター | 2019年6月17日 (月) 09時50分

この記事を読んだ後だと、ドロッポ先生が輝いて見えます。

投稿: | 2019年6月17日 (月) 11時00分

私は幸いにして最低賃金未満で働いたことはありません。
最近は医療事故が起きたときに無給医(=従業員では無い誰か)がやらかしていたらものすごくやっかいですので、
まっとうな病院ならそんな危ない橋は渡らないでしょう。

あと、鳥取大学は裁判で勝てると思ってたんだろうかというのが個人的には気になるところです。

投稿: クマ | 2019年6月17日 (月) 11時51分

大学病院であっても昔と比べればよくなったと言う話も聞くのですが、未だに御礼奉公的な行為はまかり通っているようですので、働いた分はきちんとした見返りを得ているのかどうかが気になります。

投稿: 管理人nobu | 2019年6月17日 (月) 13時03分

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