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2019年7月 1日 (月)

自治体毎に異なった医療体制が当たり前になれば医療現場はどうなるか

医療行政については厚労省が所轄官庁とは言え、財務省も大きな関与を為していることは周知の通りですが、先日財務省筋でこんな議論があったと報じられています。

「社会保障、このままでは持続可能とは言えず」財政審建議(2019年6月19日医療維新)

 財政制度等審議会(会長:榊原定征・東レ特別顧問)は6月19日、「令和時代の財政のあり方に関する建議」をまとめ、麻生太郎財務大臣に手渡した。社会保障について「このままでは制度が持続可能とは言えない。着実かつ迅速に改革を実施していく以外に途がない状況にある」などと厳しく指摘する内容で、榊原会長は記者会見で「令和は受益と負担の乖離、将来世代へのツケ回しに歯止めをかける時代にしなければならない」などと語った。

 建議では、まず今後の社会保障改革の考え方を提示。65歳以上人口が2040年頃にピークを迎えて社会保障費の伸びが落ち着く可能性があるとの指摘について、さらなる医療の高度化や、75歳以上人口は2040年以降も増加する見込みであることから、「伸びが自動的に抑制されると仮定することは適当ではない」と主張。制度の支え手である65歳未満人口は減少を続けることから、「社会保障改革の手綱を緩めてはならない」と強調した。
 社会保障費の伸びの抑制については、「新経済・財政再生計画」に盛り込まれた「実質的な増加を、高齢化という人口動態による増加分に相当する伸びに収める」との方針を「引き続き達成する必要がある」と指摘。2018年秋の建議で示した(1)保険給付範囲のあり方の見直し、(2)保険給付の効率的な提供、(3)高齢化・人口減少下での負担の公平化――という3つの視点で取り組んでいくこととした。

建議の医療についての概要は、以下の通り。

(1)保険給付範囲の在り方の見直し
 「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」との考え方の下、高額医薬品や医療技術を引き続き保険収載していく場合には、小さなリスクについて、薬剤自己負担の引き上げや、少額受診等に一定程度の追加負担を求めることなどが必要である。

(2)-1 保険給付の効率的な提供(国保のさらなる改革)
 今後、保険給付に応じた保険料負担を求める本来の仕組みとするとともに、地域差の是正など医療費の適正化に向けたインセンティブを強化する観点から、さらなる改革を続けていく必要がある。

(2)-2 保険給付の効率的な提供(病床に係る医療提供体制の改革)
 こうした進捗状況を踏まえ、今後、地域医療構想の実現に向けて、診療報酬の適正化に加え、都道府県に実効的な手段・権限を付与しつつ取組の結果に応じた強力なインセンティブを設ける必要がある。都道府県は国保の財政責任を担う保険者として、医療費の適正化に向けて主体的に取り組むべきである。

(2)-3 保険給付の効率的な提供(公定価格の適正化)
 国民医療費は、令和元年度予算ベースで約46 兆円となっており、近年、高齢化・高度化等により、毎年度2.4%程度増加している。この財源は、税金、保険料、患者の自己負担等で賄われているため、こうした毎年度の増加により国民負担が毎年度1.1 兆円程度増加していることを意味する。
 他方、国民医療費は、診療報酬の総額であることから、仮に診療報酬を▲1%適正化すると、約▲4,600 億円医療費が抑制され、これが医療機関の収入の減となるとともに、国民負担が軽減されることとなる。

 このように、高齢化・高度化等により医療費が毎年増加しているなか、診療報酬本体、薬価など、保険償還の対象となるサービスの価格については、国民負担を軽減する観点から、できる限り効率的に提供するよう、診療報酬の合理化・適正化等を進めていく必要がある。
(略)

ちなみに給付の元となる医療費の負担に関しては、従来の年齢別から能力に応じた負担に切り替えていくべきとは言うのですが、増え続ける高齢者という大票田を政治的にどう扱うかと言う問題はありそうです。
給付抑制の観点では低賃金化が定着し生涯現役が求められる時代の特性から、現役世代は自然に受診抑制が働いていると言え、この点でも高齢者対策をどうするかはまだまだ中心的な課題と言えるでしょう。
自己負担比率の引き上げや定額負担の導入などによる自主的な受診抑制への誘導は以前から言われていたもので、特に受診回数の多い高齢者対策として窓口支払いが増えることは受診抑制的に働くでしょう。
逆に英国NHSにかかりつけ医への報酬を定額とし、無駄な検査投薬を抑制させる方法も検討中と聞きますが、高次医療機関への受診が自由な日本の医療制度では基幹病院に丸投げが増えそうにも思います。

また今後地域医療計画に基づいて地方自治体が主体的に医療行政を主導していくことになりますが、当然今までのような全国均一ではなく、各自治体で特色が出たものに分化していくことになるでしょう。
国としては医療費の都道府県別比較を根拠として、有形無形の効率化圧力を強めていくと予想されますが、そもそも全国統一の公定価格での医療であるのに、自治体毎に医療の内容が異なるのもおかしな話ですね。
この点では昨年奈良県から都道府県別の診療報酬の提案があったと報じられ、特に医療系諸団体から強烈な反発があったと言いますが、先日改めて日医からこんなコメントが出ていました。
http://gurikenblog.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-de60.html

「都道府県別診療報酬、断固阻止」、中川日医副会長(2019年6月24日医療維新)

 法改正をして、仮に地域別診療報酬が導入されたとすれば、その当該県の医療の質は低下すると思う。住民の安全、安心が脅かされることは間違いない――。
 日本医師会副会長の中川俊男氏は、6月23日の第145回日医定例代議員会で、地域別診療報酬に対し、このように答弁。現行制度でも導入するには非常に厳しい手続きが必要である上、仮に法改正の動きがあった場合には断固阻止すると主張した。

 奈良県代議員の安東範明氏は、「都道府県保険者協議会と第2期医療費適正化計画の実績評価」について質問(『「保険者協議会、都道府県医師会が正式参画を」、江澤日医常任理事』を参照)。これに関連して、6月19日の財政制度等審議会の建議で、地域別診療報酬について言及していることについて、中川氏に質した。建議では、「その他国保改革の取組みについて」の項で、「県による受益と負担の総合的マネジメントの一環として地域別診療報酬の活用を検討。県庁組織を整備」と記載。

 中川氏は、「地域別診療報酬については、高齢者医療確保法(高確法)第14条に定められている。この第14条は医療費適正化計画の中の医療の効率的な推進に係る目標、つまり2つの目標を達成するために必要だと言う時に初めて発動する」と説明。

 2つの目標とは、後発医薬品の使用促進に関する数値目標と、医薬品の適正使用の使用促進。「これら2つの目標について、全国目標と都道府県目標の両方が達成できない時に厚生労働大臣を起点として、この高確法第14条を発動することになる。ただし、この際にも全国の都道府県医師会が構成員になることができる保険者協議会が防波堤の役割を果たす。このように高確法第14条を発動するためには、非常に厳しい手続きが必要になってくる。財政審の建議に書かれているような医療費を直接抑制するために、診療報酬単価を引き下げることは、高確法の仕組みにはない」。
(略)

日医としては当然ながら断固反対と言う立場だそうですが、記事中にある高齢者医療確保法第14条には、診療報酬の特例と題してこのように記載されています。

第十四条 厚生労働大臣は(略)医療費適正化を推進するために必要があると認めるときは、一の都道府県の区域内における診療報酬について、地域の実情を踏まえつつ、適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の定めをするに当たつては、あらかじめ、関係都道府県知事に協議するものとする。

法律に関しては今後必要に応じて変わる可能性もあるでしょうが、現実的に特定都道府県で明らかに多額の医療費を使っているとなれば、公平性の観点からも国が何かしら指導なりをすべきと言う話にはなるでしょう。
それに対して自治体が拒否出来るかと言えば難しいのだろうし、拒否するなら医療費支出を抑制しろと言われるのは必然で、結果的にこうした自治体では医療費支出は削減されていくことになると予想されます。
要するに自治体が医療に主体的に関わり合う時代にあっては、国は各自治体間で競わせるだけで今までより容易に医療費削減を果たせる可能性があり、その場合恨まれるのは国ではなく自治体と言うことになりますね。
こうして考えてみるとそれなりによく考えられた、国にとってはメリットの多い制度だと思うのですが、自治体境界を越えた医療難民流入の可能性なども含めて、医療現場への影響がどこまで及ぶかも気になりますね。

 

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