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2019年4月22日 (月)

新しいことの導入はたいていがすぐには進まないものですが

胃癌発生に大きく関わるヘリコバクター・ピロリの除菌治療に関して、今年の初めに北海道医療大学学長の浅香正博先生がこんな興味深いコメントをしていました。

H. pyloriで消化性潰瘍制圧、胃癌も(2019年1月9日平成の医療史30年)


(略)
――除菌療法の普及にも尽力されてきました。

 米国では1994年に国立衛生研究所(NIH)から、消化性潰瘍は初発でも再発でもH2ブロッカーなどの酸分泌抑制薬に加えてH. pylori除菌療法を行うよう勧告が出て、これに世界中が応じました。ところが日本で保険適用されたのは2000年。世界に遅れること約6年でした。日本では、製薬企業が臨床試験を行い、そのデータを提出してから保険の審査が始まるためです。
 遅れた理由はそれだけではありません。1990年代後半にようやく、PPIとアモキシシリン、クラリスロマイシンによる大規模臨床試験が始まり、私は治験総括医師を務めました。ところが、結果を提出しても厚生労働省はなかなか許可してくれません。そのとき、厚労省の役人が「先生、(H. pylori除菌療法保険適用の話が進まないよう)圧力をかけているのはどこの団体だと思いますか? 日本内科学会でも、日本消化器病学会でも、全国医学部長病院長会議でもありません。日本医師会なのです。われわれ厚労官僚に圧力がかけられるのは自民党だけで、その自民党に圧力をかけられる医学団体はたった一つ、日本医師会しかありません。その日本医師会が今回の保険適用に賛成していないのです」と話してきました。
 当時の日医では、H. pyloriの診断や除菌療法は専門的な難しい処置が必要なため、潰瘍患者の多くが大病院に流れてしまうのではないかと誤解していたのです。
(略)
 ところが、保険適用後にもさらなる問題が発生しました。除菌療法の件数が伸びないのです。よくよく調べてみると、一部の開業医は自分と家族は除菌したものの、再発が減ると自分の患者が減ってしまうと考えたのか、患者には除菌療法を施していませんでした。そんな中で、沖縄県のある開業医が、除菌療法を積極的に行ったところ消化性潰瘍の再発がなくなり、消化性潰瘍患者の受診は減ったものの、「すごい名医がいる」と評判になって患者が大幅に増加したと専門誌に報告しました。このようなことにより、開業医の間でも不安なく除菌療法が普及していきました。
 除菌療法の普及によって、消化性潰瘍の患者は保険適用後10年で65%も減少しました。十二指腸潰瘍に限定すると80%以上の減少です。消化性潰瘍の研究はかつて日本消化器病学会の華で、研究者は何百人もいました。しかし、H2ブロッカーやPPIの登場によって消化性潰瘍が治癒する疾患になると研究者の数は明らかに減り、その後、消化性潰瘍研究の主流は再発に移ったのですが、H. pylori除菌療法の普及によって消化性潰瘍が完治する疾患になった現在では、学会での消化性潰瘍に関するシンポジウムは10年ほど開催されていません。NSAID潰瘍を除き、通常の消化性潰瘍はほぼ制圧されたと言えます。
(略)


一周回って高齢者のピロリ除菌などは内視鏡専門医の間でも意見の相違があるとも言いますが、潰瘍もさることながら胃癌リスク低減の意味からは除菌した方がいいと言う点には異論がないでしょう。
それだけ有り難みもあるピロリ除菌に関しては長く潰瘍のある方のみに保険適応が限定されてきたことは知られた話ですが、当時から反対している勢力として財務省や日医の名が噂されてきたところではあります。
当時はどちらかと言えば一気に多数の患者が除菌に走ることによる財政負担云々と言う話が主だったと記憶しますが、今回の話が事実とすれば案外身近な利害関係から発した部分もあると言うことでしょうかね。
いずれにせよ今や遠い昔になりにけりと言うことなのですが、こちら未だ現在進行形で話が進みつつあるところ、どうも気になる部分もあるようだと言うニュースが出ていたことを紹介してみましょう。

その「液体ミルク批判」誰のため? 世界に取り残されている日本の母乳指導(2019年4月15日ブズフィードジャパン)


3月5日、グリコより国内初の液体の人工ミルク「アイクレオ」が発売されました。3月下旬には明治からやはり液体ミルク「明治ほほえみ らくらくミルク」も販売が始まりました。
液体ミルクは、従来、国内メーカーより発売され、使われてきた粉ミルクと比べると割高ですが、調乳の手間が省けるため、繰り返し要望されてきました。
しかし、今後、出生数が減って行く中で需要が見込めないこともあり、国内メーカーは液体ミルクの生産に消極的でした。そんな中、災害時に備えた備蓄という大義名分も手伝って、承認・販売されることとなったのです。
(略)
育て層からは液体ミルクを歓迎する声が上がる一方、パッケージに書かれている「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養」(消費者庁の定めた許可基準によって液体ミルクや粉ミルクなどの人工乳に表示が義務付けられているもの)という文言に傷つけられるという声にも多くの共感が集まりました。
インターネット上では子育て層の喜びの声とは対照的に、授乳の当事者でない層から「そこまで楽する必要があるのか」「粉ミルクを溶かす手間をかけることで親としての自覚が生まれる」など、育児にかかる手間を省くことに消極的な意見が多数見られました
(略)
また、母乳育児を強く推進する層(主に医療従事者)からは液体ミルクの登場により「安易に」人工栄養や混合栄養を選ぶ親が出てこないか危惧する意見が見られました。
(略)
親子のために医療従事者がすべきことは、声高に母乳育児のメリットや「素晴らしさ」を啓発したり、人工ミルクを利用する心理的ハードルを上げたりすることではありません
必要なのは、出産直後の母親が苦労せず授乳姿勢を取れるように医療従事者が手を動かしたり、電動搾乳機を着けて回ったりするようなサポートだと思います。
(略)
親の立場から見ると、母乳に関する情報を集めようと思っても、情報発信者の価値観が反映されていない情報を探すことが非常に難しいです。
医学的な事実と発信者の価値観を見分けながら読む必要がありますが、数多ある論文から発信者の価値観に合致するものだけを集めて書かれている場合、一般の人がなかなかそんなバイアスがかかっていると知ることは難しいと思います。
(略)
赤ちゃんが元気に育ち、養育する人たちが笑顔になれるように、母乳に限らず育児のおせっかいがなくなるといいなと思います。栄養法が主体でなく、赤ちゃんと家族が育児の主役だと医療者も忘れないようにしたいです。

この液体ミルクなるもの、災害時の備蓄としても有用だと取り上げられる機会が増えているのですが、興味深いのはこのところ北海道地震で被災された地域において、液体ミルクが大量に破棄されていた事実です。
北海道庁からわざわざ「日本では使用例がなく、衛生管理が難しい製品ですので、使用しないよう」との文書が配布されたそうですが、実際には東日本大震災など各地の被災地で使用実績のあるものです。
ただ一般に販売が解禁されたのは地震直前の2018年8月からであると言うことで、被災者心理として普段目にしない珍しいものより、いつも目にしているものを口にしたがり需要がなかったと言う指摘はあるようですね。

ただ前述の記事で気になったのが、主に医療関係者から液体ミルク使用に反対する声が根強いと言う記載なのですが、さてこの場合どこの誰が反対しているのかと言うことが気になりますね。
小児科学会HPには液体ミルク使用への注意点を列挙し「何よりも大切なことは(略)母乳代替食品であり(略)母乳育児を妨げることのないよう、必要なときに必要な分だけ活用することを心がけましょう」とあります。
助産師会なども液体ミルク導入に当たり乳児が母乳を飲む権利を守るべし等々の意見書を国に提出していますが、これらをどこからどう見ても液体ミルク導入を喜んでいるようには見えません。
ネット上で反対意見を口にしている方々が全てこうした諸団体関係者と言うわけでもないのでしょうが、少なくとも小児科学会など真っ当なはずの医療団体がこうした立場でいることは影響力が大きそうですよね。

普段から粉ミルクでの哺乳をしていた方々ほど、改めて温度や清潔さを管理しながら調剤しなくて済む便利さを実感されているそうで、今どき粉のスポーツドリンクを使う人がいるか?と言う判りやすい例えがありました。
もちろん無理のない範囲でなら母乳保育も結構なのですが、プライバシーの守られない避難所等での母乳保育の難しさなどを想像するに、少なくとも非常時など必要な時に用いることに反対する理由はなさそうです。
医療系諸団体にしても医学的に根拠があってこうまで母乳を推しているのでしょうが、母乳の優越性も他の諸要素も勘案した上で総合的に判断されるべきものですし、小児科新生児科領域の先生方としてはこうした見解がコンセンサスなのか気になりますね。

 

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コメント

母乳と人工乳で比較したら母乳の方が優れているって二重盲検試験でもあるんですかね?

投稿: クマ | 2019年4月22日 (月) 08時54分

>小児科学会など真っ当なはずの医療団体がこうした立場でいることは影響力が大きそうですよね。
麻酔科学会はまともでありませんから、小児科学会がまともとは思えません。
ましてや助産師系なんて。

こんなに影響されるのは悲しいことです。

投稿: 麻酔フリーター | 2019年4月22日 (月) 11時52分

助産師系の団体が主張するのはまあ過去の経緯からも納得出来るのですが、いやしくも医師団体である以上小児科学会には相当なエヴィデンスがあるのではないかと。

投稿: 管理人nobu | 2019年4月22日 (月) 20時05分

自分たちの会員の労働環境を守る運動を全くしない団体のエビデンスに期待しますか?学会なんて、どこも使えない爺教授の寄り合いでしょう。ほんまもんの教授は研究指導に忙しいはず。

投稿: 麻酔フリーター | 2019年4月23日 (火) 12時00分

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