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2019年4月24日 (水)

働き方改革、素直に改革を進めた場合と進めない場合の格差

先日は医師の働き方改革に関する最終報告書が公表されましたが、改革を強いられる雇用者側の立場からは未だに不平不満の声が山積しているようです。

医師の労働時間短縮と地域医療維持は両立するか(2019年4月15日日経メディカル)


 3月28日、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が最終報告書を取りまとめた。これを受け、医療界は残業時間の削減など、働き方の改革にようやく動き出すことになる。医師の過重労働解消の一方で、地域医療の崩壊を懸念する声も根強い。
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 1年8カ月の議論を経て、2019年3月28日に取りまとめられた報告書では、原則として勤務医の時間外労働の上限時間を年間960時間・月100時間(休日労働含む)とした。遵守できない場合は雇用する医療機関に対して6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられることになる。ここまでは一般の会社員の時間外労働の規定と同等だ。
 ただし医師には一部例外が認められた。例外は(ⅰ)から(ⅲ)の3種類。(ⅰ)地域医療に影響があると認められる場合、(ⅱ)初期・後期研修中や(ⅲ)6年目以降の医師で高度技能習得など技能向上のための診療が必要な場合─については特例として、年間の時間外労働を1860時間(月155時間)以下と基準を緩めた。また、罰則を伴う働き方改革法案は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されるが、医師は2024年4月。医師だけが4~5年遅れで改革が進むことになる。
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 今回の報告書に対して、現場の医師の反応はどうか。一部の例外の扱いとはいえ、労災認定される過労死ラインである「月80時間(複数月平均)」を大きく上回る「月155時間」が示されたことで、若手産婦人科医師を中心とした「医師の働き方を考える会」などが反対の署名活動を実施した。一方で、現場の医師からは「アルバイトの時間を入れると妥当な時間」「今よりは労働環境が間違いなく改善する」「今まで支払われていなかった残業代が支払われる」と好意的に捉える向きもある。

(略)
 医療提供体制への影響も懸念される。時間外労働時間を960時間以内に抑えるために、夜間の救急対応を中止する病院が出てくると、「それだけで地域医療が崩壊する可能性がある」と相澤病院最高経営責任者で日本病院会会長の相澤孝夫氏は懸念を示す。救急対応を中止することで、特定の病院に救急患者が集中。その病院は医師数を増やすことが必要になる。だが、「救急患者増加に伴う収入よりも人件費による支出の方が多くなり、救急体制の維持が困難になる病院が続出するのではないか」と相澤氏は指摘する。
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 医師自身の健康を守るためにも働き方改革を進めるのは必須だ。だが、これまで日本の医療は、医師の長時間労働という表に出てこない犠牲の下に成り立っていた。医師の長時間労働を制限することで、地域医療の崩壊などの問題が噴出すれば、改革の流れが揺り戻される可能性もある。
 事実、自由民主党厚生労働部会「医師の働き方改革に関するプロジェクトチーム」の座長を務めた羽生田俊氏は、上限時間を含め、報告書の内容をこれから変更する可能性についても含みを持たせる。「せっかく2024年3月末まで猶予があるのだから、他職種への業務移管など、2月末に示された『緊急的な取り組み』の効果を含めて検証した上で修正していけばよいのではないか」(羽生田氏)。
 今回の報告書は、医師の働き方改革の方向性を示したにすぎない。今後の議論や取り組みに注目したい。 

一般論として現場労働者を過労死レベルに追い込まなければ維持できないような職場が本当にあるのであれば、それは職場の在り方の大前提から根本的に見直してみるべきだと言う気がします。
その意味で今回の記事や各方面からのいわゆる危惧の声なるものを見る限りでは、どうも現状維持と言うことが大前提にあるように見えて仕方がないのですが、まず変わるべきなのは医療そのものの在り方でしょう。
検査待ち、手術待ちの期間が今までより少し伸びることでどれほど影響があるのか、もし影響があるなら急ぐ症例だけを先に回すシステムなどを用意すべきで、急がない業務は遠慮なく先送りすればよいわけです。
医療のコスト、クオリティ、アクセスのうち、現状でどれを抑制するのが最も許容されやすいのかと考えると、不要不急の医療におけるアクセス低下などは世間的にも十分受け入れられるものだと思うのですけれどもね。

とは言え、今回の働き方改革は未だそのとっかかりに過ぎず、今後状況を見ながらようやく世間並みの労働環境を目指していくことになるわけですが、その点で気になるのが改革の実効性です。
特に気になるのが医療にだけは改革スピードの緩和など特別扱いを強要しながら、罰則規定などは全く他業界と変わらないと言うことなのですが、これに関連して気になるニュースを取り上げてみましょう。

労基署の指導で夜勤手当が年9000万円も増額に(2019年3月29日日経)


 尼崎中央病院(兵庫県尼崎市)は2018年6月に労働基準監督署からの是正勧告を受け、それまで当直料として払っていた人件費全てを時間外労働扱いとし、割増賃金をプラスして支払うように求められた。これを実行すると、当直(夜勤)の医師1人当たり、これまでよりも年間3000万円の人件費増を余儀なくされるという。同病院の当直医師は3人体制なので、合計9000万円の増額。「これでは経営が成り立たない」と嘆く理事長の吉田氏は、このたび公表された「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書に願いを託すが……。

――労働基準監督署はいつ入ったのか。
吉田 2018年6月5日だ。事前の連絡もなく、午前10時に尼崎労働基準監督署から監督官2人が現れた。「何かありましたか?」と尋ねたところ、「日常の状態を見させていただきたいので来ました。いろいろと資料を見せてほしい」と言われた。
(略)
 当院の1日当たりの外来患者数は500人ほどで、309床の3分の2が一般急性期病床(7対1看護)、残りは回復期リハ病床、地域包括ケア病床、療養型病床だ。スタッフのワークライフバランスに配慮した病院であるという自負はあったし、看護師の時間外労働時間が月平均で5時間ほど、有給休暇消化率が約9割ということで、2011年に兵庫県から表彰されたこともあった。出退勤などの労働時間管理もICチップで行っており、所属長が毎月チェックして管理していた。だから、労基署から特段の指摘を受けるようなことはないと思っていた
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吉田 是正勧告書で改善を求められたのは12項目だが、1点を除けば問題なく対応できる是正勧告だった。対応しきれないと感じたのは、労働基準法37条違反に関するものだ。
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 その勧告内容は、(1)労働者に対し、1日8時間、1週40時間を超える時間外労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分増しの率で計算した割増賃金を支払っていないこと、(2)労働者に対して休日労働を行わせているにもかかわらず、通常の労働時間または労働日の賃金を計算額の3割5分以上の率で計算した割増賃金を支払っていないこと、(3)労働者に対して、午後10時から午前5時までの間において、労働させられているにもかかわらず、割増賃金を支払っていないこと――を指摘したものだった。
 つまり、これまで支払っていた「当直料」を、「全て時間外労働時間扱いで支払え」ということだ。当直は、医師3人、外来当直看護師は2人、診療放射線技師と臨床検査技師が1人ずつ、事務が1人で合計7人体制だった。看護師だけは1967年に宿日直の許可を得ており、今回は勧告の対象になったのは、宿日直許可を届け出ていなかった医師、放射線技師、事務員のみだった。遡って1カ月分の時間外労働の割増賃金支払いを命じられた。「医師、技師、事務員の当直業務は通常業務なので、宿日直手当にはならない。当直手当を時間外労働に換算して支払ってください」と労基署には言われた。その後、医師と技師、事務員についても、看護師同様に宿日直の許可を得ようと申請したが、却下された。

――それまでは、医師の当直に対してどのような形で手当てを支払っていたのか。
吉田 1回の当直で17時から翌9時まで、15時間を勤務してもらうことになるが、平日の当直は6万円、日曜は13万円を「当直料」として支払っていた。医師3人の当直体制で、年間2200台の救急車を受け入れてきた。ちなみに特別条項付き36協定は結んでおらず、時間外労働上限は月45時間に設定している。
(略)
 それまでは、年間の当直料として医師1人当たり年間3000万円ほどかかっていたが、これが労基署の指導の通りに支払うと、6700万円になる。当直医師1人当たり3000万円以上支出が増えることになる。3人だから1億円近い出費増だ。
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――医師については今後どうするのか。
吉田 医師については、まだ決着がついていない。8カ月間ほど労基署と協議を続けている状況だ。もし過去1カ月分を支払い、さらには今後、すべての医師の当直(夜勤)を時間外労働扱いで支払うとなれば、医師当直の人件費は倍以上に膨れ上がり、病院経営が成り立たない。これまでの当院の経営状況は良い方だと自負しているが、現在の診療報酬体系のままでこの人件費を払うのは非現実的だ。国や自治体に、何らかの形で補助してもらえないと支払えない。
 労基署には「医師の働き方改革については今、まさに検討会で議論しているのだから、その結論が出るまでは今まで通りの形で運営させてくれないか」と話している。それに対して労基署は「医師の働き方改革に関しては今後どうなるか不明であり、現時点では何ら考慮するつもりはない」と言われた。
 医師の人件費について、今の倍額以上かかることを伝えたら、「そんなにかかるのですか、しかし法律違反なので仕方ないです」と一蹴された。「高額な医師の給料を時間外労働で支払えというのであれば診療報酬で担保しないと無理だ」と訴えたら、「それは労基署の考えることではない。今後の体制については医療業界が考えること」と言われ、唖然とした。
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――勧告通りに全額支払ったら経営が成り立たず、病院が潰れる可能性があることについて、労基署は何と言っているのか。
吉田 それを言うと、一貫して「我々の感知するところではない」としか言わない。
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 打開策としては、年俸制の医師の給料に、残業代や当直代を含む形に変更するといった方法も考えられる。当直の回数が月によって異なるので、そこをどう考えるのかは難しいが。
 大学病院やDPC2群の基幹病院は、シフト制を導入する病院もでてきているが、それ以外の多くの救急指定病院は当直料で支払っていると聞く。実際、シフト制を取るのは簡単なことではない。今後もし「シフト制」を導入した場合は、技師の時と同様、夜勤前後は休みとなることから、当直医1人当たり医師2人の補充が必要で、年間約3000万円ほど人件費がアップする。現状、当直医3人体制のため、医師6人補充となり、年間9000万円も人件費がかかることになる。
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同病院の給与体系がそう特別なものだとも思いませんが、記事にもあるように実労働を反映したものとは必ずしもなり切っていないようで、年俸制から給与体系を変更すると言ったところが当面の対策になるでしょうか。
ただここで気になるのが労基署が法律に基づいて適正な給料支払いを命じるだけで、何千万円もの支出の増加が発生すると言う点ですが、先ほどの働き方改革の罰金30万円とは桁違いですよね。
今後働き方改革の考え方に基づく制度や運営の大改革が各施設には求められるはずですが、それに要する膨大なコスト増加を考えると、罰金の方がずっと安上がり…と言う考え方も成り立つかも知れません。
医療は基本的に性善説に基づいて制度設計がなされているとはよく言われることですが、スタッフに対して雇用者側がどれだけ性善でいられるものなのか、今後の改革の成り行きが明確に示すことになるのでしょうね。

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コメント

医者の昼間の勤務を減らして3交代or2交代勤務にするのが筋だとは思うのですがねえ。夜間救急中止でもいいんですけれど。
ここまで労働基準法守る気が無い人が病院のトップに多いようだと、条件付きで当直の許可なんかせず、医者の当直は全面的に禁止したほうがいいのかもしれません。

投稿: クマ | 2019年4月24日 (水) 09時10分

>現場労働者を過労死レベルに追い込まなければ維持できないような職場が本当にあるのであれば、それは職場の在り方の大前提から根本的に見直してみるべき

大野病院事件当時の時点で既にどこぞの産婦人科の教授がまさにそういった趣旨の事を述べられていたのですが…。奴隷医ドモは加藤先生の墓前で切腹して果てるべき!!!<死んでない死んでないww

>それに要する膨大なコスト増加を考えると、罰金の方がずっと安上がり…

交通事故だってなんだって被害者への損害賠償と罰金、懲役は別物な筈ですがまあ奴隷医だからなぁ…

>労働基準法守る気が無い人が病院のトップに多いようだと、

トップの意向なんて実のところどうでもいいんですよ奴隷医ドモを全部打ち首にすれば問題解決w

投稿: 10年前にドロッポしました | 2019年4月24日 (水) 09時57分

基本的には薄利多売を前提とする診療報酬体系が諸悪の根源とも言えますので、行政の面からも改善すべき余地はまだあると思いますが、一部に強い抵抗はありそうに思います。

投稿: 管理人nobu | 2019年4月24日 (水) 16時51分

日本にいなかったので亀レスですが、
>尼崎中央病院
わての病院経営者無能だから、年9000万の人件費増吸収できませんねん。
だから、法律ようまもりゃーしまへん。
と、堂々とマスコミに語る馬鹿経営者の所で働く医者はなんなんでしょうね。
はやり、ドロッポ師匠の仰る通り、縛り首しかなさそうです。

投稿: 麻酔フリーター | 2019年5月 5日 (日) 10時40分

医者ってやっぱり金銭感覚が麻痺してんのか経営がわかってないのか

投稿: | 2019年5月 6日 (月) 15時47分

釣りにマジレスすると、
経営分かっていたら開業するか、病院立てて、経営側に回るよ。
労働者だから、1円でも高く自分を買ってくれる経営者のために働くよ。
法律破ってまで残業代踏み倒すような所で働くことが経営分かってる労働者か?アホ丸出しやな。

投稿: 麻酔フリーター | 2019年5月 6日 (月) 18時55分

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