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2018年12月20日 (木)

そこに送り込まれるのは誰なのかと言う議論、密やかに進行中

先日以来お伝えしている医師の働き方改革について、興味深い議論がされているようです。

厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」 時間外労働の上限規制、労災認定基準を考慮した案で議論(2018年12月7日日経メディカル)

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が12月5日に開催され、「医師の時間外労働規制についての基本的な考え方(案)」が事務局から提示。2024年4月から適用される罰則付き時間外労働の上限規制のあり方について議論が交わされた。今回示された案のポイントは、医療は24時間365日ニーズがあり、休日勤務の必要性が生じることから「休日労働時間」を含んだ上限時間を設定するほか、「脳・心臓疾患の労災認定基準(2~6月平均月80時間以内、単月100時間未満)」を考慮して上限時間を設定する考えを示した点。同時に、一般労働者の時間外労働の上限時間(月45時間・年間360時間以内、臨時の場合年間720時間以内)を超えることから、「健康確保措置」として連続勤務時間制限と勤務間インターバルの確保、代償休暇の付与を努力義務として課す考え方も示した(図1)。具体的な上限時間は今後議論される。
(略)
 一方、日本労働組合総連合会総合労働局長の村上陽子氏は、「(案の中に)一般則が出てこないほか、2024年以降も経過措置があるということで、違和感を覚える。働き方改革の議論の始まりはそもそも自殺をどのようになくしていくかという観点があった。(働き方改革関連法で規定された、連続する2~6カ月の平均)月80時間以内、単月100時間未満という上限設定に対しても大きな批判があったことを知った上で議論してほしい」と懸念を表明。全日本自治団体労働組合総合労働局長の森本正宏氏も、「地域医療提供体制を確保するために、恒常的に過労死基準を超える労働をし続けないとならないこと自体に根本的な問題がある」と指摘した。

 これらの懸念に対し、日本医師会女性支援センター長の今村聡氏は、「上限時間を設定するに当たり、その時間まで医師に働いてもらうということを言っているのではなく、やむを得ず上限を超えるケースがあったときに罰則がかかるようなことがないようにするため、安全面から設定する時間ということだ」とコメントした。
(略)

「連続勤務は28時間まで」「勤務は9時間のインターバル」時間外労働の上限緩和は「医師の健康確保措置」が義務(2018年12月17日医療維新)

 厚生労働省は12月17日の第14回「医師の働き方改革に関する検討会」(座長:岩村正彦・東京大学大学院法学政治学研究科教授)に、医師の時間外労働の上限を「一般則」よりも長時間とする条件として、「勤務時間と次の勤務時間までには、9時間のインターバル(休息)を確保」「連続勤務は28時間までとし、当直明け後の勤務間インターバルは9時間×2日分の18時間」とすることを提案。
(略)
 一方で、現場の医師の立場から、東京女子医科大学東医療センター救急医の赤星昂己氏は、「現場で働いているからこそ、(勤務間インターバルの)9時間が適用されると、厳しいということは分かる」と述べた一方、「今の勤務と何が変わるのか」と疑問を呈した。厚労省案では、経過措置の期限が明確ではない上に、時間外労働が具体的に進むかは未知数。経過措置を認める代わりに、タスク・シフティングを義務化するなどの検討も必要だとした。
 順天堂大学付属病院医師の猪俣武範氏も、経過措置を設けるのは、やむを得ないとしても、タスク・シフティング、医師の偏在や医療提供体制などについて強力に見直さないと「あまり変わらない」と指摘。「経過措置の対象となる医療機関には、働き方改革を推進していることを『見える化』してもらいたい」。

 医師以外の第三者の立場からも、異論が相次いだ。早稲田大学法学学術院教授の島田陽一氏は、「一般則」でも時間外労働の上限の例外が認められるが、「医師の場合は、恒常的なこと」と指摘し、勤務間インターバル等では、「上乗せの追加的な措置として、弱いのではないか」と述べた。
 保健医療福祉労働組合協議会事務局次長の工藤豊氏は、医師の健康と地域医療の両方を確保していかなければいけないと認めたものの、「きつい病院に医師が来るのか、そこに対する配慮が必要だろう」とコメント。地域医療確保の観点から、時間外労働の上限時間数の経過措置を設ける場合、その「対象医療機関」は特定される。「過労死水準を超えるような時間数を認めるのは論外。いかに一般則に近い時間外労働とするかが重要」と付け加えた。
 ハイズ株式会社代表取締役社長の裴英洙氏からは、「(経過措置対象として)“ブラック認定”されると、ただでさえ医師が集まらない病院は厳しくなる。経営努力不足による場合は致し方ないが、地方ではいかに努力しても難しい場合がある」との意見も上がった。

(略)
いや、過労死基準もはるかに超える労働を強いた施設などは当然ながら厳しいペナルティを課すべきだと思うのですが、どうも議論の根本的な部分で妙な方向に逸脱しているような気がするのは不肖管理人だけでしょうか。

ともかくも地域医療崩壊阻止を錦の御旗にして、医師に関しては一般に年間960時間、特定の医療機関に限り倍の年間1920時間までの残業を認めると言った話が出ていると言う事は先日お伝えした通りです。

数字そのものの是非は今さら議論するものではありませんが、ここで注目したいのは過労死水準の実に2倍と言う極端な過重労働を認める施設に関しては「対象となる医療機関を特定」した上での認定となる点です。

要するにこうしたトンデモ労働環境を許容するブラック病院に関してはあらかじめ公開されていると言うことで、それに対して求職する側でどうするか判断する自由が認められていると言うことですよね。
想定される施設としては医師不足地域の基幹病院などが予想されるところですが、記事にもあるようにこうした施設がブラック認定されることでますます医師の足が遠のき、過重労働が加速する可能性があります。
これに対する一つの解答と言うべきなのでしょうか、かねて噂になっていた医師偏在是正策の一環として先日こんな厚労省案が提示されたのですが、前述の記事とセットで考えると興味深いものがありますよね。

「医師少数区域等で6~12カ月勤務」で医師認定、厚労省案(2018年12月12日医療維新)

 厚生労働省は12月12日の「医療従事者の需給に関する検討会」の第25回医師需給分科会(座長:片峰茂・長崎大学前学長)で、医師偏在対策の一環として2020年度から導入する「医師少数区域等で勤務した医師を認定する制度」について、「認定に必要な経験」や「認定医師を一定の医療機関の管理者として評価」という2つの視点からたたき台を提案したが、さまざまな意見が出て継続審議となった(資料は、厚生労働省のホームページ)。

 この認定医師制度は、今年の医療法・医師法改正に盛り込まれた医師確保対策の一つ。
 厚労省は、「認定に必要な経験」としては、患者への継続的な診療・保健指導、他の医療機関や介護・福祉事業者等との連携、健診などの地域保健活動という3つの業務に、6~12カ月従事することを挙げた。「認定医師を一定の医療機関の管理者として評価」の対象は、「地域医療支援病院のうち、医師派遣・環境整備機能を有する病院」が該当するとし、具体的要件は、同省の「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」での議論を踏まえると提案。

 これに対し、会議の冒頭から、異議を唱えたのが座長の片峰氏。2017年12月の本検討会の第2次中間取りまとめの際に、認定医師を管理者に求められる基準の一つとする対象として、地域医療支援病院以外にも加えるべきとの議論があったことを踏まえ、「地域医療支援病院だけに限定するのは実効性に問題があるとして、この議論は持ち越しとなったと理解している」などと指摘し、厚労省の考えを質した。「(地域医療支援病院の)管理者になることが(医師少数区域等に勤務する)インセンティブになるのか、弱いのではないか。それ以外の病院についても議論すべき」(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏)など、他の構成員からも同様の意見が上がった。
(略)
 「認定医師の候補は誰か」という関連では、今村氏は、「医師偏在対策に一番大きな影響があるのは地域枠だろう。それを補完するためにこの仕組みがあると理解している」と述べ、地域枠の医師の方が、一定の経験を積んだ医師よりも圧倒的に多くなるのではないかと予測した。
 一方で、片峰氏は、「地域枠の医師は当然だろうが、眼目はそれ以外の医師にいかに医師少数区域等に行ってもらうかではないか」と指摘した。

 厚労省が「医師少数区域等で6~12カ月勤務」と提案したのは、自治医科大学や地域医療振興協会の医師派遣事業が原則1年単位であるからだ。構成員からも「最低1年くらいはいて、地域住民と顔が分かる関係にしていくことが必要ではないか」といった意見が出た。
(略)

しかしながら地域枠の先生方が動員されるのはもはや既定の事実化していると言う流れにも驚きますが、こうなりますとますます地域枠の不人気化に拍車がかかりそうな勢いではあります。
当然ながらこうした制度を議論しているエラい先生方は自分が今さら僻地に赴くことなど毛ほども考えてはいらっしゃらないので、身を売られるのは今後医師になる若手の先生方と言うことになりそうですね。
日医を始め既得権益者の代弁勢力である医療系諸団体としてもその点には異論がないと言う構図ですが、さてこうした得手勝手な議論が当事者である若い先生方や学生さん達にどう見えているのかです。
将来的には地域枠=田舎病院で奴隷労働を強要される身分と言うことになりそうですが、かつて看護師の御礼奉公を散々批判した進歩的メディアがこうした議論には沈黙を守っているのもおもしろいですね。

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コメント

現時点で国公立大学や公立病院の特定のポストに就くには医博縛りがありますが、
ならば専門医の資格継続みたく彼らエラい先生方に「トンデモ労働環境を許容するブラック病院」に
数年ごとに地域の患者さんに顔を覚えてもらえる程度の期間、えっと1年程度ですか、
移籍して貰わないとその役職を更新できないようにする---では、あきませんかな?

投稿: | 2018年12月20日 (木) 07時53分

人身御供

投稿: | 2018年12月20日 (木) 08時44分

医師でこういう勤務が可能なら医師以外でも可能だね、って結論に至るのを恐れる人はいないのでしょうかね?
看護師にも適応したら楽が出来る病院たくさんあると思いますよ(棒

投稿: クマ | 2018年12月20日 (木) 08時51分

総合内科専門医などはまさにこうした需要に対応するべき資格だと考えるのですが、専門医取得や維持に何らかの勤務地制限なりを課すと言う意見が今後出てくるのかどうかです。

投稿: 管理人nobu | 2018年12月20日 (木) 12時13分

インターバルの時間を制限しても、オンコールなどで拘束されるのは変わりません。交代勤務の確保と医者の増加による対応が必要です。なぜ看護師は7対1とかあるのに医者にはないのか?

投稿: oldD r | 2018年12月21日 (金) 09時03分

医者の中の既得権益層の意向でできないってことに尽きるんじゃないの
医者が増えないのも医者自身が反対してるからだし

投稿: | 2018年12月21日 (金) 09時06分

医者の力は弱いので、医者は増えてますよ。人口減少中に、毎年医者が何名増えているか調べたら分るでしょう。なぜ僻地にいかないかは、僻地で数年勤務すれば誰でも分かります。そもそも自分たちの子供や孫が逃げ出している地域に、なんで医者が来ると思うのかが不思議。

投稿: 麻酔フリーター | 2018年12月21日 (金) 10時43分

>インターバルの時間を制限しても、オンコールなどで拘束されるのは変わりません

オンコールなんてしたら勤務間インターバルを守っていないことになりますけれども。

投稿: クマ | 2018年12月21日 (金) 12時40分

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