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2018年11月28日 (水)

医師の働き方改革のキモは睡眠時間確保にあり?

議論が続いている医師の働き方改革に関連して、厚労省検討会構成員である統括産業医の黒澤一東北大教授が、先日こんなことを言っていたそうです。

医師の時間外労働の上限設定、例外は許されない(2018年11月9日日経メディカル)

(略)
――「医師の働き方改革に関する検討会」の議論も佳境を迎えている。医師の働き方改革はどうあるべきか。
黒澤 大前提として大事なことは、医師も他の職種の人と同じ、「働く人間」であるということだ。本来であれば、医師にだけ例外的な労働基準法が定められるといったことはあるべきではない。年720時間(月平均60時間)の時間外労働時間を法定とするならば、医師も他の職種と同様であるべきだ。医師だけ、特別に長い時間外労働を設定するのは、医師の健康を守る観点、そして医療安全の観点からも非常に危険だということを強調したい。
(略)
 睡眠時間が5時間未満になると、疲労が蓄積するほか、血圧が高くなり、動脈硬化が進むと考えられている。また月当たりの時間外労働時間が増加するほど、疲労感と抑うつ傾向が右肩上がりになることが報告されている。一方で、労働時間の長さにかかわらず、睡眠時間が6時間以上であれば、うつ状態のリスクに有意差はなかったことも報告されている。
 こんなデータもある。私たちが十分に覚醒して仕事を行うことができる時間は12~13時間で、15時間以上起きていると「酒気帯び」と同じような脳機能になる。連続覚醒時間が17時間になると血中アルコール濃度は0.05%相当、24時間では0.1%相当だという。当直明けの連続勤務がいかに危険な状態か、よく分かるだろう。

 医師の働き方を議論する上では、「応招義務」は解決すべき問題だ。応招義務は、医師法で定められた義務であるものの、現実的にはその解釈は曖昧なままだ。また、それを方便として、勤務医が否応なく働かせられている現実がある。応招義務については、例えば、組織もしくは地域で担保していくことを明文化し、医師個人の過重労働を招く事態を避けるべきだ。
 医師の健康が守られる一方で、現在の働き方改革の改正法を医師にも適用して時間外労働規制を行った場合、「医療の供給量」が減少することは明らかだ。人的資源に恵まれた都市部では影響がさほど出ないかもしれないが、医師不足にあえぐ地方の病院では地域医療が崩壊する可能性が高い。直ちに働き方改革の原則に医師の労働環境を適用することは、日本の社会にとって非現実的であることも事実だ。
 従って、「長期的な取り組み」と「短期的な取り組み」に分けて対策を講じる必要があるのではないか。厚労省の検討会ではこれから論点の整理が行われると思うが、この区別を意識して議論を進めるべきと思う。

――長期的な取り組みと、短期的な取り組みとは?
黒澤 短期的な取り組みとしては、医師の過労死を防ぐ取り組みを行うことだ。検討会では今年3月、今すぐにでも取り組むべき6項目を提示した。この中で「医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み」「36協定などの自己点検」「既存の産業保健の仕組みの活用」の3項目は、労働基準法および労働安全衛生法に定められているもので、現時点で法的順守が課せられている事項だ。だが、夏に公表された実態調査では、36協定すら結んでいない医療機関があった。また、日本医師会の調査においては、医療機関の労働衛生管理体制において、長時間労働の面接指導や健診後の保健指導などの実施体制が十分でなかったりすることも明らかになった。まずは、これらの「当たり前のこと」を各病院にしっかりとやっていただきたい
 一方、長期的な取り組みとしては、タスク・シフティング(業務の移管)の推進、女性医師等に対する支援、シフト制や勤務間インターバルの設置など医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた種々の取り組みがある。地域ごとに状況も異なり、今すぐに実現できることではないかもしれない。5年間の猶予期間を利用し、実現するべきだ。
 同時に、国による支援も真剣に検討してほしい。医師の働き方改革によって提供する医療の量が低下した場合、個々の医療機関の収入も減ることは間違いない。多くの医療機関が益々経営的な問題に直面し、国民のための医療は危機にひんしてしまう。国は、働き方改革によって医師を守ると同時に、医療機関、特に勤務医を雇用する自治体病院などの地域医療を担う病院を、経営的な面で守る施策を行ってもらいたい。そうしないと働き方改革は進まないだろう。
(略)

様々な観点からの議論が進んでいることが判りますが、長期的取り組みとして経営的な視点が挙げられていることは注目すべきで、医師に限らず医療スタッフの労働環境改善において最も重要な因子と言えます。
多忙な急性期病院であっても救急車をもっと取れ、ベッドを空けるなと言われることは珍しくないと思いますが、要するに馬車馬のように働き続けなければ経営が成り立たないような診療報酬設定が根底にあるわけです。
この点の改善なくしていかに働き方改革を叫んでも、(経営的に)地域医療が崩壊するからそれは無理と反論されてしまうのが落ちなので、まずは厚労省および財務省がこの点をどう考えているのかが問題でしょうね。
他方で注目いただきたいのが睡眠時間さえ確保されていれば長時間労働でもうつ状態になるリスクは上がらないと言う点ですが、厚労省の検討会でもまさにこの点を軸にした議論が為されているようです。

医師の働き方改革で優先すべきは「睡眠時間確保」(2018年11月18日日経メディカル)

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が11月9日に開催され、厚生労働行政推進調査事業費「病院勤務医の勤務実態に関する研究」分担研究者である順天堂大学公衆衛生学講座教授の谷川武氏へのヒアリングが行われた。週の労働時間がより長いグループでも、1日6時間以上の睡眠時間を確保できていればストレス反応・抑うつ度に有意差はなかったことから谷川氏は、労働時間の制限よりも、睡眠時間の確保に留意すべきで、「十分な睡眠のためには、連続勤務時間制限と勤務間インターバルの規制を行う、もしくは当直時間帯などでの睡眠時間を確保することが必要だ」と指摘した。

 谷川氏は、米国の21~38歳の健康成人48人を対象に睡眠制限と持続的な注意力との関係を調べた試験を紹介。慢性的な睡眠不足の状態にある場合、たとえ眠気を感じなくても、実は客観的な覚醒度(持続的な注意力)は低下し続けることを説明した。例えば、4時間未満睡眠を2週間ほど続けると、全く眠らず2日を過ごした人と同じ程度まで持続的注意力が低下する。一方、全く睡眠を取らない場合は強い眠気を感じるのに対し、4時間未満や6時間未満の睡眠の場合には主観的な眠気は強くならず、軽い眠気を感じている状態だという。

 さらに谷川氏はタイムスタディ調査において睡眠時間・就労時間と高ストレス者・抑うつの関連を調べた結果を紹介。ストレス反応・抑うつ度は、労働時間とは有意な関連は確認されず、睡眠時間(6時間以上)と有意に関連したことを報告した。具体的には、「就労時間が週80時間以上かつ睡眠時間が6時間以上群」の抑うつリスクは、「就労時間が週80時間未満かつ睡眠時間が6時間以上群」と比べて1.92倍で有意差は認められなかったが、「就労時間が週80時間未満かつ睡眠時間が6時間未満群」は3.94倍、「就労時間が週80時間以上かつ睡眠時間が6時間未満群」では4.13倍といずれも有意差が確認された(P<0.05、図1右)。この結果について、谷川氏は「たとえ週80時間以上働いていても、6時間以上の睡眠時間を確保できていれば有意差はなかった。労働時間制限よりも、睡眠時間の確保に留意すべきと考えられる」と指摘した。労働時間と抑うつ障害との関連に関するシステマティック・レビューでも、労働時間と抑うつ障害との関連は明確ではなく、長時間労働が抑うつ障害に及ぼす影響は確定的ではなく、無視できないとしても小さいと考えられているという。
(略)
 勤務間インターバルとして何時間が理想かという質問に対して谷川氏は、「国によって異なり、一律には言えない」とした上で、米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)ではシフト間の最低インターバル時間を8時間にし、できれば10時間は取りたいという運用をしている点を指摘し、「参考になるのではないか」と話した。

 谷川氏の発表を踏まえハイズ株式会社代表取締役社長の裴英洙氏は、「時間外労働時間の規制と同じくらい、連続勤務や勤務間インターバルも大事だと再確認できた。時間外労働時間の規制は連続勤務と勤務間インターバルとの組み合わせで考えないと議論がなかなか前に進まない」と指摘。医療提供体制に留意しつつ、連続勤務や勤務間インターバルについて現場感と齟齬を生じないような運用案を提示するよう事務局に求めた。
(略)

こうした考え方をどう捉えるか、人によって様々な観点があると思いますが、睡眠時間として細切れの睡眠の総計でもいいのか、ある程度連続した睡眠でなければならないのかと言った点も興味がありますね。
いずれにせよ仕事の間の休養時間確保が必要であると言う考えは、ともすれば主治医制の名の下に24時間365日のオンコール状態を強いられている日本の医療現場にこそ求められる考え方ではないかとは思います。
その実現のためには当然ながらチーム医療による分業体制やシフト勤務の導入と言った方法論が考えられますが、看護師などでは当たり前に導入されているにも関わらず、医師の間では未だに導入が進みません。

この点についてはそもそも同じ診療科でシフト勤務が出来るほどスタッフの多い病院が少なく、現実的に実現が出来ないと言う側面もありますが、他方でそれが可能であっても断固拒否すると言う声も根強いようです。
自分の患者は他人には触らせたくないだとか、他人の失敗の尻ぬぐいまで押しつけられるのはたまらないなど理由は様々でしょうが、医療も決まり切った手順に従って治療が進む場合も少なくないわけです。
疾患毎に用意されたパス通りに話が進めらるような場合が代表的ですが、各種ガイドラインの整備が進んだ現代にこそ分業もやりやすいとも思われますので、各施設でもっと前向きに検討してもよさそうに思いますね。

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コメント

寝る時間さえとれればいくら働かせてもいいって、それ最低限度の文化的生活に入らないだろ

投稿: | 2018年11月28日 (水) 09時36分

酒が飲めればいいとか給料が高ければとか、人それぞれの満足度を高めるポイントはあると思いますが、生物学的には休養時間が鍵と言うのはある程度納得出来る話かと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2018年11月28日 (水) 18時46分

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