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2018年10月 9日 (火)

免疫療法がノーベル賞を受賞したと言って回る人々の思惑

先日本庶先生のノーベル賞受賞が大々的に報じられる中、免疫療法免疫療法と連呼されていることに危ういなと一抹の危惧を感じておりましたら、やはりすでにそうした風潮があるようです。

ノーベル賞受賞で相談殺到 誤解してほしくない免疫療法(2018年10月3日BuzzFeed)

日本中がお祝いムードに包まれた京都大学特別教授、本庶佑(ほんじょ・たすく)さんのノーベル医学生理学賞受賞。
その研究成果は、免疫療法の一種であるオプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」開発に結びつき、がん治療に新たな道を開いたと華々しく報じられた。
ところが、研究成果や受賞会見の報道で、患者を含めた一般の人に、免疫療法に対して危うい誤解が広がっているのではないかという懸念が患者団体や医療者からあがっている。
(略)
問題は、臨床試験で効果が証明された「免疫チェックポイント阻害剤」とは別に、効果不明な「免疫細胞療法」なども、「免疫療法」という名前で一括りにされていることだ。
自由診療のクリニックが効果が証明されていない治療を高額な自己負担で行い、患者が標準治療を受ける機会を逸したり、副作用が出ても放置されて体調が悪化したりというトラブルが相次いでいる。
卵巣がん体験者の会「スマイリー」代表、片木美穂さんのもとにも、一夜明けた2日、「免疫療法をしたら再発しないですか?」と患者から相談の電話があった。ノーベル賞報道を見て、「オプジーボ 再発予防」というキーワードでネット検索し、自由診療のクリニックが再発予防をうたう説明を見たようだった。
「最初の治療として標準治療を受けている最中の人だったのですが、まだ子供が小さいので死ねないと検索して行き着いたようです。これはインチキですと伝えると、とてもがっかりしていました」
(略)
最近では、自由診療のクリニックが、効果の証明されていない免疫細胞療法だけでなく、通常の2~3割の量でオプジーボを投与して副作用が少ないとうたったり、オプジーボと免疫細胞療法を組み合わせて『アクセル+ブレーキ療法』と効果が強化されているように見せかけることもある。
勝俣さんは、保険診療では免疫チェックポイント阻害剤を受けられないがんの患者が、ノーベル賞報道で期待を持ち、適切でない形で免疫チェックポイント阻害剤を提供するクリニックに引き寄せられるのを心配している。
「免疫チェックポイント阻害剤は効果が出るように使うのが難しいですし、副作用に対応するためにも、製薬会社が施設要件や医師要件を定めています。こうした要件を満たさないクリニックでは適正な使い方もしませんし、副作用が起きた時の対応もできません。患者を食い物にしており非常に無責任です」

日本臨床腫瘍学会は、2016年7月に、不適切な施設が免疫チェックポイント阻害剤を個人輸入して、効果が証明されていないがんにも使っていることに注意を促している。
製薬会社も効果不明な免疫細胞療法と免疫チェックポイント阻害剤を併用し、重い副作用で死亡した患者が出たことを医薬品医療機器総合機構に報告している。
(略)

「オプジーボは万能ではない」患者団体が注意呼びかけ(2018年10月5日朝日新聞)

 ノーベル医学生理学賞に本庶佑(ほんじょたすく)京都大特別教授が決まり、その研究をもとに開発されたオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤に注目が集まる中、全国のがん患者団体でつくる「全国がん患者団体連合会」は5日、これらを含む免疫療法への注意を呼びかける声明を出した。

 声明は免疫チェックポイント阻害剤について、「現状で効果の期待できるがんの種類が限られ、特有の副作用もある」と指摘。一方、科学的根拠が明らかでない免疫療法の情報も広がりつつあり、「一部クリニックで、有効性や安全性を担保できない危険な治療が行われている」とした。
 患者や家族に、不確かな情報に惑わされないよう、主治医らに相談する▽自費診療で行っている免疫療法の情報や、がんが消える、治ったなどの安易な情報に注意▽デメリットについても十分な情報を集める――などを求めている。
(略)

自由診療クリニックなどで長年行われてきたいわゆる免疫療法なるもの、このところ単に有効性が確認されていないと言うだけではなく、その有害性が盛んに言われるようになっていますが、未だにハマる人もいるようです。
様々な理由から標準治療を受けられなくなった患者さんがイワシの頭的に使う分にはいいのでは?と言う意見もあり、実際に一部の真っ当な病院でそうした条件に限って施行もされているようですが、非常に例外的と言うべきでしょう。
ただこうした有効性の確認されていない治療にハマりお金を失い、適切な治療を受ける時間やタイミングも失してしまう例が目立つ点が問題ですが、そこに輪をかけたのが今回のノーベル賞受賞です。
そもそも論として言えば免疫チェックポイント阻害剤と言う名称が誤解を招く恐れがあるなと感じていたところですが、案の定免疫療法免疫療法と言い始めた途端にいわゆる免疫療法が活気付いているようですね。
無論彼らも商売でやっているわけですから、宣伝に使えるものは何でも使って当然と言えば当然なのですが、商売とは別な面から現行の標準治療に噛み付いていらっしゃる方々ももいらっしゃるように見受けられます。

本庶氏ノーベル賞で浮き彫り、医学界の「免疫療法」への歪んだ評価(2018年10月4日ダイヤモンドオンライン)

本庶祐・京都大学特別教授のノーベル賞受賞に日本中が沸く中、にわかに免疫療法が誉め称えられるという現象が起きている。無論、インチキな免疫療法もあるが、エビデンスに固執するがあまりに、免疫療法の持つ可能性を否定してきた日本の医療界は、大きな問題を抱えているのではないか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

「ノーベル賞詐欺」の毒牙にかかる人が現れてしまうのだろうか。
 本庶佑・京都大特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことで、にかわに「免疫療法」に注目が集まっているが、それに乗じて「インチキ免疫療法詐欺」が増加すると一部医療関係者から警鐘が鳴らされているのだ。

 ご存じのように、ネット上には既に、怪しげな免疫療法をうたう自由診療のクリニックが溢れている。キノコを食べて免疫力アップ、水素水でがんが消えたなどなど、本庶氏が発見した免疫を抑制する効果をもつ分子・PD-1などと接点ゼロの「民間療法」だ。
 そんな怪しいクリニックが「ノーベル賞で世界も注目」「あの本庶佑氏も認めた」などとブームに便乗した虚偽広告を行い、がん治療に悩む方たちを餌食にするのではないかというのである。
(略)
 ただ、その一方で、医療関係者の方たちは「あれはインチキだ」「これは怪しい」という詐欺の啓発に力を入れることよりも、もっとやらなくてはいけないことがあるのではないのかという気もしている。
 それは、抗がん剤が効かない患者やその家族に対して、免疫療法という選択肢があるということを説明し、この治療をもっと多くの人が受けることができるよう啓発に務めていただくことだ。
 本庶氏がノーベル賞を受賞してから、マスコミは免疫療法について「最新のがん医療」だと盛んにヨイショしているが、実はちょっと前までは「エビデンスがない治療」と、イロモノ扱いをしていた。
(略)
 例えば、本連載で少し前、東京・有明にある公益財団法人がん研究会「がんプレシジョン医療研究センター」の中村祐輔所長のことを取り上げた(『世界が注目する最先端がん医療が日本では「怪しい治療」扱いの理由』を参照)。リキッドバイオプシーと、ネオアンチゲン療法という、最新の免疫療法を引っさげて、6年ぶりにアメリカから帰国をした中村氏は、こう述べている。
「シカゴにいる間もメールなどで、多くのがん患者やその家族の方からの相談を受けましたが、気の毒になるほど救いがない。原因は国の拠点病院。標準治療のガイドラインに固執するあまり、“がん難民”をつくり出している自覚がありません。こういう人たちが医療界のど真ん中にいることが、日本のがん患者にとって最大の不幸です」(中村氏)

 日本のがん医療では、外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の3つが「標準治療」と定められている。免疫療法は今回、本庶氏の受賞によって掌返しで、「第4の治療」などとおだてられるようになったが、実はがん医療現場ではいまだに、「標準」から大きく外れた「怪しい治療」扱いされているのだ。
(略)
 なぜこんなことになってしまうのかというと、免疫療法は抗がん剤ほどには、「有効性が確立されていない」からだ。薬の「有効性」というのは極端な話、何万人にワッと飲ませたら、そのうち2割には効かなかったが8割くらいには効いた、といった具合にデータを取るという、「統計学」である。
 世界のがん医療の現場では当たり前のように免疫療法の効果が認められ、本庶氏はノーベル賞も受賞したのだが、免疫療法はこの統計上の問題がクリアできていない。なぜかというと、今回の受賞に端を発する”免疫療法ブーム”の中で報じられているように、これは「化学薬品ががんを殺す」のではなく、「個々の人間が持つ免疫ががんを殺す」からだ。

 免疫は個人によって違う。よって、免疫チェックポイント抗体の効き方も当然、個人差が出てくる。そうなると、膨大な数の人に化学薬品を飲ませて経過観察をする大規模治験のように、スパッとイエス・ノーが出ない。「統計上の問題」がなかなかクリアできないのである。。

 そういう理屈を聞けば、免疫チェックポイント抗体に「有効性が確立されていない」というのがかなり不毛な話だということがわかるが、一部の医療関係者はこの「統計上の問題」を取り上げて、「エビデンスのない怪しい治療」とディスってきた。
(略)
 インチキ免疫療法に引っかかる人たちの多くは、抗がん剤が効かず、自分の医師から「免疫療法なんかエビデンスのない怪しいものです」と諭され、誰にも頼れなくなった「がん難民」である。その弱みにつけ込む詐欺師が悪いのは当然だが、ではそこまで患者や家族をまともな判断ができなくなるまで追いつめたのは、いったい誰なのかという問題もある。
 あっちの免疫療法はインチキだ、本庶氏の免疫療法は本物だ、騙されないように気をつけようと触れ回るだけでは「がん難民」を救うことはできない。エビデンスに代表される、「数字で証明できる有効性」のみに固執するのではなく、今そこでがんで苦しむがん患者やその家族に、どうにか手を差し伸べる方法を考えることが、「医療」のやるべきことなのではないだろうか。

内容に関して敢えて論評は避けますけれども、今回の件に限らず何かしら大きなニュースが出るたびに同様の話はよく聞くところで、別に目新しい論点ではないようには感じるでしょうか。
一般論として言えば一方では多くの人に有効と言う治療があり、他方ではごく少数の人にしか効果がないと言う治療があれば前者が標準治療とされるのは当然であり、少なくとも保険診療であればまず前者から使えと言われるのは当たり前でしょう。
それを敢えて後者から始めて見るのは前者が何らかの理由で使えないと言う場合と、その患者に関してだけは明らかに後者の方が効くだろうと言う確証に近い根拠が必要で、それを抜きにして何でも使えるものは使えと言う主張こそ無責任です。

現在進行形で遺伝子の変異などを検索した上でのオーダーメード治療が研究されているところですが、将来的に有効無効の判断基準が明確になった時に、始めて各治療の有効性が本当に明らかになるのでしょう。
ただ本来的にどういう条件であれば効くのかと言った情報は、その治療法を使いたい側に立証責任があるはずで、特定条件下であればどんな治療より効くと言った話であれば喜んで使いたい医師は幾らでもいるのではないでしょうか。

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コメント

http://japannews01.blog.jp/archives/50514566.html
>>代替医療の免疫療法についてどう思う?みたいなクソ質問に対して「そういうのについて正しい情報を伝えるのはマスコミの役割でしょう」とフルカウンターしてたのが印象的でした。

草w

投稿: 10年前にドロッポしました | 2018年10月 9日 (火) 17時08分

まったくもっておっしゃる通りとしか言いようがないことなのですが、それを理解出来る人は賞をもらったからと言って今さら先生の元に殺到してはなかったでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2018年10月10日 (水) 11時52分

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