« 免疫療法がノーベル賞を受賞したと言って回る人々の思惑 | トップページ | 今日のぐり:「ピザキング」 »

2018年10月11日 (木)

医療の受診抑制に関する最近の議論

医師の労働環境について議論されている中で、当然ながら供給体制の在り方だけではなく需要についても議論があってしかるべきですが、この点で日本の皆保険制度ではアクセスの自由を保障することになっています。
いつでもどこの医療機関でも自由にかかっていいと言う大前提が医療需要に大きな影響を持つことは自明の道理ですが、この点に関して以前から少しずつ自主的な受診抑制についても議論が進められてきました。

医療のかかり方を広める懇談会発足、デーモン閣下も参加(2018年10月9日医療維新)

 厚生労働省は10月5日、患者やその家族に医療のかかり方を周知・広報する方法を検討する「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」の第1回会議を開いた。会議では「受診前に患者の不安を解消できる情報発信が必要」「危機感を醸成できる客観的なデータで、医師の過酷な労働環境を発信すべき」などの意見が相次いだ。同省が医療機関の適切な利用方法を議論する場を設けるのは初めてで、不必要な受診を減らし、医師の負担軽減と医療の質向上につなげたい考え。今後月1回程度で会議を開き、12月に同省の「医師の働き方改革に関する検討会」に議論内容を報告する(資料は、厚労省ホームページ )。

 座長には東京大学大学院医学系研究科教授の渋谷健司氏が就任。構成員には、日本医師会常任理事の城守国斗氏や、電通でCMプランナーなどを務めた株式会社ツナグ代表取締役の佐藤尚之氏、元厚生労働省事務次官の村木厚子氏のほか、アーティストのデーモン閣下など、さまざまな立場の人が名を連ねた。
 懇談会冒頭では、小児医療に関する情報発信を行う一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表理事の阿真京子氏が同会の取り組みを紹介。「知識がなく相談できる相手もおらず、不安で病院に駆け込んでしまう保護者が多い」とし、不要不急の症状やその対処方法を学んだ保護者は「不安が解消され、受診行動が変化する」と述べた。
 続いて、宮崎県延岡市の地域医療対策室総括主任の吉田昌史氏が、夜間・救急患者の増加により医師の辞職が相次いだ県立延岡病院の取り組みを発表 (『「医療崩壊地域」払拭目指した延岡市vol.1』を参照)。市民団体と啓発活動を行った結果、夜間・休日の患者数が半減したとし、「医療が限りある資源だと伝われば、地域医療を守るために覚悟が生まれ、具体的な行動に移る」と強調した。

 自由討論では、佐藤氏が官公庁のホームページで必要な医療情報が検索しにくいと指摘。「ページの奥の方に有用な情報があり、PDFなので検索にひっかからない。文章も分かりにくい」とし、「ボランティアでも情報をまとめたいプロはいる。明日からでも変えた方がいい」と訴えた。城守氏も「信用が担保されていない医療情報が氾濫している。国としてまずここを見ればいいという情報の出し方をお願いしたい」と述べた。
 討論終盤ではマギーズ東京の共同代表理事鈴木美穂氏が、「この懇談会を通じて、専門家やボランティア、タレント、メディアを入れて、信頼できる医療情報を集めて発信するサイトを作りたい」と提案。座長の渋谷氏は「ぜひやりたい」と応じた。

「危機感醸成するデータを示して」

 構成員からは医師の過重労働を危惧する声も相次いだ。株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏は、厚労省が示した2015年度のアンケート結果で「自殺や死を毎週/毎日具体的に考える」勤務医が3.6%だったことを受け、「ショッキングだった。今までいろいろ見てきた中でも見たことがない数字」と驚きを見せた。
(略)
 患者・家族と医療をつなぐ特定非営利活動法人架け橋理事長の豊田郁子氏は「インターネットがあまり使えない、特定の地域から出ない人がどうしても頼りたくなるのが病院。『医療者が大変だから病院にかからないで』と伝えるだけでは、単にアクセス制限と誤解される」とした上で、「チーム医療として、医師や看護師以外の病院の職員がチームとして患者にしっかり対応できるような支援、理解が必要」とし、既存制度を活用した医療者支援の必要性を訴えた。
 懇談会終盤に駆け付けた根本匠厚生労働相は「閣議後の記者会見で、受診を抑制することが目的の懇談会かと問われたが、あくまで患者の視点に立ったもの」と強調。「医療を提供する質の向上や医療安全の確保につなげたい」と述べた。
(略)

もちろん公式には受診抑制が目的ではないと主張するしかないのですが、しかし議論の流れを見ても現実の医療需給の在り方を見ても、どうしてもこれからは受診抑制についても考えていかないではいられません。
その進め方をあくまで自主的な努力目標とするのか、それとも何らかの制度なりで強制力を発揮すべきなのかと言う点が問題になりますが、一例を挙げれば日中は混み合うから夜間にと言った方もいらっしゃるわけです。
夜間診療所が昼間と同等以上に混み合うとすれば、検査手段やスタッフの充実した昼間に来ようと言う動機にもなるでしょうが、この辺りは応招義務の定義なども含めて医療提供体制の在り方議論が必要でしょうね。

記事中にもあるように不安だからついつい病院にと言うケースは子供以外に高齢者でも日常的に見られる話ですが、この対策として医療機関以外での医療相談窓口を設けようと言う動きも各地で出てきています。
また若い世代ではとりあえずネット検索と言う方も多いはずですが、正しい情報へのアクセスが難しいと言う問題は以前にも取り上げた課題であり、ある程度の公的な認証制度のようなものも必要かも知れません。
ただこうした議論全般に関して、原理原則論に縛られずにはいられない厚労省よりもアクティブなのは財務省であるのが現実で、先日はそのものズバリとも言うべき方法論としてこんな記事が出ていました。

「かかりつけ医」以外受診は負担増…財務省提言(2018年10月10日読売新聞)

 財務省は9日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で、かかりつけの医師以外で受診した場合に患者の自己負担を増やす制度や、新薬の保険適用の際に費用対効果の検証を導入することなどを提言した。少子高齢化で膨張する社会保障費を抑制する狙いがある。
 財政審は今後、防衛や公共事業など各分野について議論を重ね、11月にも2019年度予算編成に関する建議(提言)を取りまとめる。

 政府は、医療費を押し上げる要因となる過剰な通院や受診を減らすため「かかりつけ医」や「かかりつけ薬剤師」への受診を推奨している。改革案では「少額の受診に一定程度の追加負担を求めていくべきだ」とした。
 医療の高度化で医療費が増加する要因となっている新たな医薬品の保険適用については、承認された医薬品全てを対象とするのではなく「安全性・有効性に加え、費用対効果や財政影響などの経済性の観点から」判断することを明記した。

このかかりつけ以外での利用に関するペナルティーと言う話、生活保護に絡んで議論されてきた経緯があることは周知の通りですが、今回は広く全体にかかりつけ医をいわば強制するもので、影響は大きいはずですね。
アクセスの自由を保障する立場に立ってきた医師会としては原理原則論に則って反対すべきか、会員への配慮から容認すべきなのか微妙なところですが、実際にどこがかかりつけになるのかと言うことが問題です。
特に数多くの疾患を抱えた高齢者の場合、一人の医師が全てを診るのは現実的に難しい場合が多いですが、医療費の観点からすれば総合病院よりも市中のクリニックのような施設がかかりつけになって欲しいでしょう。

そうした患者の場合必ず議論になるのが、専門外の基礎疾患を多数持つ患者を一人のかかりつけに押しつければ見落としや過誤も増えると言う危惧ですが、全てにおいて完璧を期せば医療費は増えるばかりです。
特に高齢者の場合どこまでやるかと言う見切りが重要であり、きちんと高齢者医療を理解しているかかりつけの先生なら総合的に判断していらっしゃるはずですが、大勢で診ればその辺りの線引きも難しいでしょうね。
当然ながら国としてもそうした部分も込みでかかりつけが責任を持ってやってもらいたいと言う気持ちがあるでしょうが、ガイドライン全盛の時代にあっては意図的に手を抜いたと言われかねない診療も難しいものがあります。
せっかく後期高齢者医療制度と言うものがあるのですから、高齢者における診療報酬や保険適応の範囲を現役世代とは別枠で設定すれば大部分片付く問題ですが、政治的には難しい判断でもあるのでしょうね。

|

« 免疫療法がノーベル賞を受賞したと言って回る人々の思惑 | トップページ | 今日のぐり:「ピザキング」 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

「かかりつけ医」って1カ所限定なんでしょうけど、理解できないんですよね。
慢性疾患を持っていていつもかかっている人以外は、会社員ならちょっとした軽い病気なら勤務地近くの診療所に
行くだろうし、高熱とか余り動けなければ自宅近くに行く。
さらに、自分を考えると、内科とかの診療所なんて、年に1回行くかどうか。でも腰痛とかで整形外科には数回くらいは
行く何てこともあるし、耳鼻咽喉科とか皮膚科に行くほうが多いという人もいるだろうに。

投稿: hisa | 2018年10月11日 (木) 09時21分

かかりつけが24時間365日対応してくれなきゃけっきょくは救急車呼ぶことになりそうな気がしますが。

投稿: 田舎モン | 2018年10月11日 (木) 12時04分

1か所にして、行きにくくすれば受診が減るってことでは?
出勤できる程度なら医者にかからなくていいんじゃない?とかね

投稿: | 2018年10月11日 (木) 12時30分

指定の一か所を経由しないと、他の病院受診できないような英国の制度でもなく、その一か所以外は、なんぼか追加で払ってね、に反対するような国民のレベル。その理由が、職場の近くと自宅近くと両方受診したい、ですか、、、関係ない科に勤めているとはいえ、脱力です。

投稿: 麻酔フリーター | 2018年10月11日 (木) 12時53分

一般論として聞き分けの良い患者はこうした努力目標に従い、そうでない患者は…と思われますので、努力目標に従わなかった場合金銭的に不利になると言う方法論は一定程度は有効性があるかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2018年10月11日 (木) 17時07分

かかりつけがヤブだったら、誰が責任とってくれるの?

投稿: | 2018年10月11日 (木) 18時35分

選んだ患者でしょ

投稿: | 2018年10月11日 (木) 18時52分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/67260745

この記事へのトラックバック一覧です: 医療の受診抑制に関する最近の議論:

« 免疫療法がノーベル賞を受賞したと言って回る人々の思惑 | トップページ | 今日のぐり:「ピザキング」 »