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2018年10月29日 (月)

意外と差はないのか、差はあっても構わないのか

印象レベルでは多くの方々が見解をお持ちだと思いますが、先日こんなレポートが出ていたそうです。

医療費や死亡率に出身大学による差はない(2018年9月26日BMJ電子版)

 大学医学部や医科大学の評判は、出身医師の医療の質やコストに関係するのか? 米California大学Los Angeles校の津川友介氏らは、メディケア患者の診療データを用いて、US News & World Report(USNWR)誌の大学医学部/医科大学ランキングの順位と、それらの大学を卒業した医師が担当した患者の30日死亡率、30日再入院率、医療費の関係を調べ、ランキングトップ10大学出身者と50位以下の大学の出身者の間に、ほとんど差はなかったと報告した。結果は、BMJ誌電子版に2018年9月26日に掲載された。
(略)
 分析の対象にする診療データは、年齢65歳以上のメディケア受給者が2011年1月1日から2015年12月31日までに内科系疾患で入院した事例で、担当医のデータをマッチさせることができたケースから20%を抽出することにした。診療科による違いを避けるために、一般内科医の治療を受けたケースを選ぶことにした。また、患者と医師の親しさの影響を受けないように、急性期病院に救急入院した事例から選ぶようにした。こうして99万6212件の入院データを選び出した。そして、医師の出身大学のUSNWR誌ランキング別に、30日死亡率、30日再入院率、パートB医療費請求額を調べることにした。再入院率については、確定できない2015年12月分のデータを除くことにした。
 医師のプロフィールは、米国最大の医療従事者のソーシャルネットワークであるDoximityを用いて、年齢、性別、出身大学、卒業年度、診療科目などを照合した。メディケア患者の担当医のうち、約8割について出身大学を特定できた。米国以外の国で医学を学んだ医師は分析から除外した。出身大学のランキングは、1~10位、11~20位、21~30位、31~40位、41~50位、50位以上の6カテゴリーに分類した。

 入院患者の担当医3万322人のうち、4039人(13.3%)がプライマリケアランキングのトップ20大学出身者で、4071人(13.4%)がリサーチランキングのトップ20大学の出身者だった。両方のランキングでトップ20に入っていた大学は、7校に留まった。トップ20大学出身医師と、21位以下の大学出身医師で、担当した患者特性などに偏りはなかった。
 99万6212人の入院患者のうち10万6003人(10.6%)が30日以内に死亡していた。プライマリケアランキングと30日死亡率には、有意な関係が見られなかった。30日死亡率は5つのランキングカテゴリーで10.7%、50位以下だけが10.6%だった。ランキング1~10位を基準とし、患者特性や病院の違いを補正したリスク差は、50位以下でも-0.04%(95%信頼区間-0.4から0.3%)で有意差はなかった
 30日以内に再入院していたのは97万3484人中15万6057人(16.0%)だった。プライマリケアランキング1~10位の再入院率は15.7%、50位以下の再入院率は16.1%だった。ランキング1~10位を基準とし、患者特性や病院の違いを補正したリスク差は、50位以下で0.4%(0.1-0.8%)で、わずかだが有意になった。
 メディケアパートBの医療費は、プライマリケアランキング1~10位が1029ドル、11~20位が1062ドル、21~30位が1043ドル、31~40位が1054ドル、41~50位が1053ドル、50位以下が1066ドルだった。1~10位を基準とした補正後の50位以下の金額差は、36ドル(20-52ドル)だった。

 リサーチランキングを用いると、30日死亡率、30日再入院率、医療費とカテゴリーの関係は見られなかった。1~10位を基準とした50位以下の補正後の死亡率のリスク差は-0.3%(-0.7から0.1%)、30日再入院率のリスク差は0.05%(-0.4から0.5%)だった。医療費の差は17ドル(-5から39ドル)だった。
 これらの結果から著者らは、同じ病院で働いている医師の場合、出身大学のUSNWRランキングと、担当した患者の死亡率・再入院率・医療費の間の関係はほとんどなく、あるとしてもわずかだったと結論している。なお、この研究は米国National Institutes of Healthなどの支援を受けている。
(略)

要は同じ病院で働いている医師の間では出身大学によらずさほど差はないと言う結果ですが、個人的にも臨床能力に関しては卒業大学よりもその後の卒後教育の内容が重要ではないかと言う印象を持っています。
ただ今回の調査の場合同じ病院内ではと言うところがポイントで、当然ながら難しい症例ほど医師相互に相談をしたり、手助けをしてもらったりはあるはずですので、ある程度当然ではないかと言う気もしますね。
純粋に出身大学だけで能力を評価するにはもう少し別な指標が必要なのかも知れませんが、どんな大学出身の先生であれチーム内で働く限りきちんと人並みの水準の仕事をこなせているとも受け取れる結果です。
この辺り臨床上の経験から同意すべきか異を唱えるべきか各先生方の間でも意見は分かれるところでしょうが、能力差に関して先日以来世間を賑わせているあの問題についてもこんな意見が出ていました。

2浪以上を不利にした医学部不正入試。現役生の方が能力は上か?(2018年10月18日mag2ニュース)

東京医科大に続き、昭和大医学部でも明らかになった不正入試問題。女子や2浪以上の受験生が不利になるような得点操作が行われていたとあって、各所から批判の声が上がっています。この問題を取り上げているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、「医師とは残された命に光を与えてくれる存在」とした上で、「人生は思いどおりならない」という経験を持つ2浪医師の言葉が必要になってくることもあるはず、という持論を記しています。

医学部の不正入試をめぐる問題で、昭和大学でも医学部の一般入試で、2浪以上の受験生が不利になるような得点操作を行っていたことがわかりました。
(略)
現役と1浪を優遇した理由について昭和大学は、「(現役・1浪は)活力があるとか、アクティブに動ける可能性が高いと判断していた」と説明しています。
(略)
でも、本音は「能力」。「(現役・1浪)の方が、能力が高い可能性があると判断していた」ということだったと思うのです。
実際、テレビなどのメディアで関係者は、「能力」という言葉を使っていましたし、「現役生より2浪生は時間をかけて勉強している→能力が低い」というコメントも少なくありませんでした。
要するに「コスパ」。労力と結果という視点で捉えれば、現役生の方が優秀。流行りの言葉でいえば、「生産性が高い」ということなのでしょう。

ただ、医学生は将来の医師です。試験に合格する能力は、現役生の方が高いかもしれません。でも、だからといってそれは、医師に求められる能力なのでしょうか?
(略)
私の専門である健康社会学では、「医者と患者のコミュニケーション」も研究領域です。医療技術が発達し、「病とともに生きる」今の時代に、医師が患者さんといかに向き合うかは、患者のQOLを考える上で極めて大切です。
しかしながら、現実はどうでしょうか。医師は「患者」を看るより、パソコンの数値を見ています。
確かにさまざまな検査結果の数値をいかに読み解くか?ということは病気を治療する上では重要かもしれません。でも、私は…、医師というのは、医療現場が考えている以上に、患者や家族にとって、大きな存在だと思うのです。
(略)
医師とは「残された命」に、光を与えてくれる存在なのです。
そんなときに「人生は思いどおりならない」という経験をした2浪医師の言葉が、必要になってくることもあるのではないでしょうか。

(略)
まあしかしこの種の意見もよく見かけるものではあるのですが、不思議なことに直接現場を知る医療の当事者からはあまり聞かれることのないタイプの意見ではある気がしますけれどもね。

2浪くらいですと微妙なところですが、高校生気分を多分に残した現役・1浪と比べると多浪生や社会人経験者などは明らかに異質感があって、医療に限らず視点の違いと言うものは少なからずあるのだと思います。
そうした視点の違いが求められる局面ももちろんあるのでしょうが、一般的な医療現場に求められるスキルとはとにかく過酷な現場に耐えてひたすら奴隷労働が続けられる心身のタフネスさだったとは言えるでしょうね。
特に社会人入学組などは人生経験が豊かな分、より効率的な働き方や勝ち上がり方を追及する傾向がある印象ですが、それが良いのか悪いのか、良いとすれば誰にとって良いことなのかと言うことでしょうか。

昨今話題になっている医師の働き方改革に関わる議論などを見ても、今までの医療現場で常識的に行われてきたやり方が社会の非常識であることは明白ですが、ではいつまで現状路線を続けるのかです。
歳をとって体力が低下したり、子育てでフルタイムの労働が出来ないと言った場合でも出来る仕事は幾らでもあるわけで、そうした多様な働き方を肯定すると言うことがすなわち働き方改革であるとも言えますね。
この点で医療現場ではあの先生は夕方にさっさと帰る、あの先生は当直もしないと言った批判の声が上がりがちですが、その原因として医師に特有の給与体系が不公平感をもたらしている印象もあります。
働いた分だけ正当に報われると言うことになれば、人より余分に頑張っている先生方にとっても悪い話ではないと思いますが、この点では雇用者側にも被雇用者側にも意識改革が必要となりそうです。

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コメント

>健康社会学者
ユニークな仕事ですなあ。
>そんなときに「人生は思いどおりならない」という経験をした2浪医師の言葉が、必要になってくることもあるのではないでしょうか。
それを論文で証明するのが、学者の仕事でしょ?これでは、ワイドショーの芸人レベルです。

投稿: 麻酔フリーター | 2018年10月30日 (火) 08時17分

その結論が、得点操作をするな、得点で決めろ、てんだから面白いねぇ。

投稿: JSJ | 2018年10月30日 (火) 09時20分

2浪以上の方の大多数は、能力が今ひとつだからそうなっているのだろうとは思います。
ただ、そういう今ひとつな方々に入試の点数で負けてしまう現役生が果たして能力が上なのだろうかという疑問も。

投稿: クマ | 2018年10月30日 (火) 11時06分

言い悪いは別にして合法的に?大学の求める人材を選抜するためには、ペーパーテストの比率を足切りレベルにまで下げて、ほぼ面接だけで決めるような配点にしておけば良かったのではないかと感じました。

投稿: 管理人nobu | 2018年10月30日 (火) 13時28分

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