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2018年8月29日 (水)

画像診断の見落としは医療が進歩するほど増加する?

正直なところ何故今さらという気もするのですが、このところこの種のニュースが話題になっています。

肺がん見落とし:女性死亡 外部検証委設置 杉並区 /東京(2018年8月23日毎日新聞)

 杉並区は22日、今年6月に死亡した40代の女性が、区内のクリニックで受けた検査で肺がんを見落とされていた問題をめぐり、原因究明と再発防止のための外部検証委員会を設けた。女性が受けた検査に区の肺がん検診も含まれるため、区は検証委設置のための条例案を提出。同日の区議会臨時会で全会一致で可決された。
 検証委のメンバーは田中良区長が委嘱する医師ら外部の委員4人。区の肺がん検診の精度をどうやって向上させるか検討するとともに、その他のがん検診に関しても非公開の会議で調査・審議し、今秋をめどに田中区長に答申する。

 区によると、死亡した女性は区内の河北健診クリニックで2014年と15年、職場の健診で胸部エックス線検査を受け、18年にも区の検診を受けた。しかし、いずれの検査でも腫瘤(しゅりゅう)影を見落とされ、異常なしと判定された
 女性は今春、呼吸困難などで別の病院に緊急搬送された際、腫瘤影を指摘され、区内の河北総合病院を受診したところ、肺がんの見落としが判明。今年5月、脳梗塞(こうそく)で河北総合病院に救急搬送され、その後転院した大阪府内の病院で抗がん剤治療などを受けたが、6月26日に死亡した。
 問題の判明後、14年9月以降に同クリニックで区の肺がん検診を受けた約9400人の胸部エックス線画像を改めて調べたところ、44人が「要精密検査」と判定された。区によると、このうち31人が精密検査を受けた。【福沢光一】

胸部単純レントゲン写真による肺癌検診に意味があるのかと言った議論はひとまずさておくとして、市中クリニックでの撮影となると医師複数によるダブルチェックが行われていなかったのでは、と真っ先に疑いたくなりますよね。
聞くところによるとこのクリニックの肺癌検診は内科医と放射線科医と二人で読影することになっていたそうですが、初回健診時には内科医は異常陰影を指摘していたものの放射線科医は問題ないとしていたそうです。
常識的にはいずれかが異常を指摘すれば要精密検査として引っかけるべきだと思うのですが、何故かこの施設では専門家である放射線科医の所見が優先され異常なしとされていたそうで、システム的問題とも言えそうですね。
この辺りは比較的判りやすい改善策が期待出来そうなものなのですが、今後医療関連技術の進歩に伴って画像の見落としが構造的に増えて行くのではないのかと言う指摘があるそうで、こちらのニュースを紹介してみましょう。

画像診断ミスは熟練医も 情報過多、追いつけず 見落とし阻止へ進むAI開発(2018年8月23日産経新聞)

 画像診断でがんなど病変の見落としが続発している問題で、見落としは医師の経験年数に関係なく発生していることが22日、医療事故情報を収集する日本医療機能評価機構の調べで分かった。背景には、画像診断技術が高度化したことで医師が扱う情報量が著しく増加し、ベテラン医師でも追いつけていない現状がある。人の目に全面的に頼らず、人工知能(AI)による診断開発も進んでおり、厚生労働省は抜本的な再発防止対策に乗り出した。

 ◆検診年420万人

 同機構は、平成27~29年の3年間に発生した32件の画像診断による病変見落としを調査。医師に職種経験年数を聞いたところ(複数人介在を含む)、1~5年=7人▽6~10年=6人▽11~15年=7人▽16~20年=4人▽21~25年=4人▽26~30年=7人と、ほとんど偏りはなかった32件のうち「撮影目的の部位のみ確認した」が27件で、「医師の目が広範囲に届いていなかった」と指摘する。
 こうした病変の見落としは近年、相次いでいる。東京都杉並区では40代女性が肺がん検診でがんを見落とされ、6月に死亡した。市区町村が公的資金で行う肺がんの検診は40歳以上が対象で年1回行われる。厚労省によると、肺がん検診は27年度に全国約420万人が受診している。

 ◆1回で数百枚撮影

 「画像診断の検査数が増加し、診断書の中に記載されている情報量が多く、主治医自身がその結果を消化しきれなくなっている」
 日本医学放射線学会は7月19日、異例の見解を出した。見落としの要因は画像診断を担う放射線科医と主治医の連携不足などに加え、医療の高度化に伴う情報量の増加もあるというのだ。特に画像診断の検査では息を1回止める間に数百枚以上の撮影が可能となったが、主治医が自分の担当領域を見ることに腐心し、十分な知識のない他の領域に映った病変の発見に及ばない恐れも出ている。
 東京慈恵医大病院では病変見落としで患者が死亡したケースを踏まえ、診断報告書を主治医が確認し、必要な対応をしたかスタッフが2回、医師に確認する仕組みを導入した。今春からさらに診断報告書を全患者に手渡すことも始めた。
 ただ、同病院だけで年間約8万5千件の画像診断があり、情報処理には時間がかかる。名古屋大病院の長尾能雅(よしまさ)教授(医療安全)は「技術向上で異常が見つかりやすくなった半面、フォローするシステムが追いついていない」と指摘する。

 ◆0・004秒で判断

 理化学研究所と国立がん研究センターの研究グループは7月20日、米ハワイの学会で、AIを使って早期胃がんを発見することに成功したと発表した。
 理研光量子工学研究センターの横田秀夫チームリーダーによると、早期胃がんは炎症との判別が難しく、画像では専門医でも発見しにくいというが、「熟練医に迫るところまで精度を高めた」。がんの80%を見つけ、かかった時間はわずか0・004秒だった。
 医療系IT企業「エムスリー」(東京)などは医療機関のニーズが増えているとして、今秋までにAI診断の支援システムの構築を目指している。
 ただ、将来的にAIが導入されても、AIが指摘したことを患者に伝えるのは医師だ。人為的なミスを見逃さない包括的なシステムが求められている。
 同機構や厚労省は24年から複数回、病変見落としを注意喚起する文書を発布。それでも続発していることから、厚労省は適切なシステムの構築に向けて今後2年間の研究調査を専門家に依頼している。

医師のキャリアによって見落としのリスクに差はなかったと言う点が興味深いのですが、特に見落としの原因として「撮影目的の部位のみ確認した」ことが圧倒的多数であったと言う点には留意いただきたいと思います。
混雑する日常診療では検査等に待ち時間がかかる、様々な検査のため何度も受診しなければならないと言った点で患者からクレームが来がちですが、検査後そのまま外来で結果説明をされている先生も多いでしょう。
その場合CTやMRIの放射線科医の読影がついていない場合が多く、いわばダブルチェックが機能していないことになりますが、それでも通常検査の目的とする領域に関しては専門家であるわけで、見落としも少ないでしょう。
問題になるのは記事にもあるように、画像の端にたまたま映っていた全く無関係な病変をどこまで見落とさずにチェック出来るかですが、専門家であるほど自分の専門領域以外は流してしまうリスクもあるでしょうね。

いずれにせよ検査技術が増えるほど情報量が増え、読影にもより大きなマンパワーを要するようになり、なおかつ想定外の病変がたまたま映ってしまう可能性も増すとなれば、医療が進歩するほど見落としも増える理屈です。
理想的には撮影後リアルタイムで放射線科医の所見が付けばいいのですが当然マンパワー不足であり、昨今広まってきている読影の外注サービスもリアルタイム性では今ひとつで、結局は時間をかけるしかないのが現状です。
少しでもリスクを避けるためにはCT等の撮影当日の結果説明は禁止すべき、と言った話にもなりかねませんが、時間外や至急の検査などもあるわけで、AIによる補助診断などは客観的読影として意味はあるかも知れませんね。
最近内視鏡検査においてリアルタイムで癌を検出するシステムが大きな話題になっていますが、AIのメリットとして判断の速さは人間も及ばない最大の利点で、この方向での技術的な進歩と普及を期待したいものです。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

経鼻内視鏡の普及で耳鼻咽喉科領域の見落としが問題になってるみたいなものかなあ

投稿: | 2018年8月29日 (水) 08時32分

>AIが指摘したことを患者に伝えるのは医師

AIが診断できる時代ならAIが診断した内容はAIがメールを送るで問題無いのでは?
個人的には、こういう説明をするのに医師免許は義務では無いと思うので、できれば他の職種にしてほしいなあ。

投稿: クマ | 2018年8月29日 (水) 09時01分

往年の皮膚科のエライ某先生は、例え顔の湿疹でも脱がせて全身まんべんなく視診されたそうですが、今やるとセクハラだよなあ…。

投稿: 10年前にドロッポしました | 2018年8月29日 (水) 09時41分

説明が面倒臭いのはその通りなのでしょうが、コメディカルが妙な説明をした結果こじれた後で事態収拾を強いられるのとどちらが面倒臭いのか、先生によっても意見が分かれるところですね。

投稿: 管理人nobu | 2018年8月29日 (水) 16時21分

>AIが診断できる時代ならAIが診断した内容はAIがメールを送るで問題無いのでは?

【AI診断結果】今回の検査で癌が発見されました

1年生存率:32%
5年生存率:0%

です。

なんて、メールが来たら心臓が止まると思うw

投稿: | 2018年8月30日 (木) 12時07分

日本が放射線科医に金を出さずに、CTMRIのハードばかりに金を出しているでFAではないのですか?CTMRIの数の日米比較とか、ちょっと前何回も見ましたけど、最近見ませんね?GEや東芝をマスゴミが忖度しているのでしょうか?

投稿: 麻酔フリーター | 2018年8月30日 (木) 19時44分

放射線科医に金出したら読影が当日中にできるの?

投稿: | 2018年8月31日 (金) 16時06分

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