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2018年8月27日 (月)

医学部入試忖度問題、コメントに見え隠れする各方面の言外のニュアンス

先日以来未だに波紋が拡がっている東京医大の入試忖度問題ですが、全国医学部を調査した結果全体の約3/4と多くの医学部で、志願者に対する合格率において男女差があったことが話題になっています。
当然ながら各大学ともに特典操作などについては否定しているのですが、もっとも差が大きい大学では男女の合格率格差が倍以上だったと言い、よほどに志願学生層の学力に差があったのかと思わせる結果と言えますね。
この問題に関しては各方面から様々な意見も出ているのですが、進歩的な方々を中心に批判の声も強い一方で、別な視点での指摘も少なからず存在しているようです。

不正入試「憲法に反する」 東京弁護士会が会長声明(2018年8月22日共同通信)

 東京弁護士会は21日、東京医科大が医学部医学科一般入試で女子受験生の合格を抑制していた問題を受け「性別を問わず、ひとしく教育を受ける権利や職業選択の自由を保障する憲法の趣旨に反する」との会長声明を出した。

 声明では「(医科大は)私立であっても国から助成を受ける存在で、大学の自治や自主性を踏まえても、性別のみを理由とした差別として許されない」と批判した。

 その上で、医科大に対し、得点操作の結果、不合格となった女子受験生を漏れなく調査し謝罪するべきだとした。文部科学省にも再発防止策を講じるよう求めた。


女子受験生と3浪以上の減点は違法か?田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)(2018年8月23日日経メディカル)

(略)
 まずは、医学部入試で、私立大学が試験の成績以外に「男女」という基準で差異を設けることの可否についてだ。私立の東京女子医大はもちろん、国立女子大や県立女子高・男子高も多数あるし、男女ごとの入学定員をとる公立高校もある(設備の問題で説明されることが多い)。国公立大学で男女別学や入学定員に差異を設けることは、憲法14条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」に反しないというのが政府見解であり、ましてや私立大学の入学において男女で差異を設けること自体が違憲ではない
 なお、私人間での憲法上の平等原則については、最高裁は昭和44年12月12日判決で、「憲法14条は相互の関係を直接規律することを予定するものではないし、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない」と塩対応である。
 3浪については、司法試験自体、5年間で3振したら受験資格を失うという制度を最近まで採用していたのであるから、推して知るべしというものであろう。

 次に、合格基準についてだ。男女で差異を設けるなら、事前に告示をするべきであり、一種の受験詐欺ではないかという議論がある。しかし、例えば一次試験を筆記で行うことを公示したからと言って、その筆記試験の成績だけで採否を決めなければいけないという理屈は成り立たない。
 マスコミは、「テストの点ばかり良い受験秀才が医者になるのはけしからん」と常日頃言う割には、今回の件については随分と批判的である。また就職採用試験が試験の成績だけで決まっていると信じる人はいないのではないだろうか。様々なコネクションが採否に影響することなど、国際的にも常識であり、ペーパーテストなどは参考程度であろう。つまり、「一切女子を入学させないのに募集していた」というのならともかく、何点かハードルをあげたこと自体は大学の裁量の範囲内であるとして、司法審査で許容される可能性もあろう。試験を行ったとしても、その採点基準やどの科目を重視するかは、採用側の裁量が広範に認められると考えられる(同級生で数学の試験で字が汚くて落第した者もいた)。
 かつては国家試験ですら、「合否の判定は、法律上の争訟に当たらず、司法審査の対象とならないとしたうえ、そう解しても、憲法の趣旨に反するものではない」と最高裁第三小法廷昭和41年2月8日判決(判例タイムス190号126ページ)で判示していた。しかし、その後、群馬大学医学部の入試で成績が良いのに落とされたと訴えた55歳の受験生の事件では「合理的な理由なく、年齢、性別、社会的身分等によって差別が行なわれたことが明白である場合には、それは本件入試の目的である前記のような医師としての資質、学力の有無とは直接関係のない事柄によって合否の判定が左右されたことが明らかであるということになり(いわゆる他事考慮)、原則として、国立大学に与えられた裁量権を逸脱、濫用したものと判断するのが相当である。そして、そのような他事考慮がなされたかどうか、なされたとしてその他事考慮が許されるものであるかどうかの問題は、試験実施機関の最終的な判断に委ねる必要のない、裁判所が具体的に法令を適用して審判しうる事柄であると解するのが相当である」として一応、司法審査が及ぶとしている[東京高裁平成19年3月29日判決(判例時報1979号70頁)]。ただ、この事案では面接試験については裁判所は一切口を挟めないとしている。
 東京医大は私学なので、直ちにこのような枠組みになるかは疑問であるが、裁判所の判断も変遷している。仮に裁判を起こすにしても、「訴訟物」を何にするのかは弁護士の腕の見せ所であろう。

 そして、3つ目の論点は、今回の騒動で、医師になった後の女性の就労環境の問題が公のものになったことである。優先すべきは、女性医師の働き方改革であるとの意見も多い。これは根深い問題で、国民・国家全体に及ぶ話であるが、所与の現実として私立大学が独自判断で対応したことはむべなるかなと思わないでもない。
 東京医大が、本来は私学として「大学の自治」の一環として自由に学生を採用できるところ、強い批判を受けている原因の1つは、憲法14条でも保障されている男女間の平等原則に反しているとも考えられるからであろう。憲法14条は、生まれつきのもので、努力ではどうしようもない事項による差別を禁止する。女性は、最近の国政選挙ではほとんど男性より投票数が多く、マジョリティーであり、我が国の統治システムではむしろ権力側の立場である。それでも、生まれつきの問題での差別は許されないというのが憲法価値である。
 しかし、この価値観も最近は揺らいできている。「性同一性障害者」やLGBTの権利、結婚が認められる国が多くなり、我が国もこれに倣うようであるし、DSM-5からは「性同一性障害」ではなく「性別違和」という診断名が使われている。また、トランスジェンダーが女子大に入学する請求をしているなど、ジェンダーは「生まれつき」の問題というより、選好・自己決定権の問題として変容してきているようにも思える。自己決定権は、私人及び法人がそれぞれ享有する。従って、その調整はますます困難になることも予想されるのである。

入試と男女差別と言うテーマに関しては以前にも女子大に入学を求めた男子生徒の違憲訴訟がありましたが、さすがに国公立の女子大はほぼ絶滅状態で、基本的には私学に限られる特殊な大学であるそうです。
逆に言えば私学が独自の選抜方法を取り特定対象のみを選別することは許容されると言うことでしょうが、今回の場合も予め男女別定員など告知を行った上での結果であれば問題ないと言う声は多いようですね。
女子大に関しては別の興味深い指摘として、栄養学など女子大で多く見られる領域はそもそも女性が多く、優遇する必要は無いと言う意見もあって、その意味で医学部など男社会でこそ女子枠が必要とも言えます。
ただ東京弁護士会のコメントを見る限りとにかく男女で分けるのが悪いとも取れ、仮に進歩的な方々の間で男女別と言うことだけで問題視されるなら、全国の女子大はさっさと潰すべきだと言うことでしょうか。

恐らくはより微妙な問題なのが多浪生に対する不利益取り扱いですが、医学部では京大のような有名大学でも年齢差別が行われてきたと言われ、群馬大学では訴訟沙汰にまでなったものの原告敗訴に終わっています。
現実的に考えれば医学部がほぼ医師養成所的な位置づけである以上、実働年数に大きな影響のある年齢による差別には合理性があると言う意見がありますが、微妙なのは今回のような数年遅れのケースでしょう。
多浪したからと言って長い医師人生の中でさほどの違いは無く、表立って差別的な取り扱いをする合理性はなさそうですし、多浪生であろうが入試で合格点を取ったなら要求水準は満たしているとは言える理屈です。
ただ多浪生や社会人入学者ほどいわゆる奴隷労働を忌避すると言う意見も根強く、この点で多忙な現場では好まれない場合もあるようですが、女医の取り扱いと同様医師の労働環境問題とも言えそうですね。

田邉昇氏の記事で興味深かったのが、入試において点数以外の部分で評価し選抜すべしと主張してきたはずのマスコミ各社が、何故か今回点数以外での基準で合否を決めたことを批判していると言う点でしょうか。
この点でマスコミ各社などはまさに入社試験において様々な事情を忖度し選抜していると社会的に認識されていますが、女子アナ志望の女学生を容姿で選抜するなど考えて見ればきわどい話ではありますね。
また進歩的な方々の総本山とも言うべき司法の世界では、以前から堂々と多浪生差別が行われていたと言う事実も興味深いところですが、現在においても最大5回の受験失敗で受験資格を失うようになっています。
その観点から東京弁護士会のコメントを見返すと多浪生差別については言及せず、敢えて「性別のみを理由とした差別として許されない」と言っている点が意味深で、司法関係者の見解も問いただしてみたいですね。

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コメント

必要悪もやり方がヘタだとこうなる

投稿: | 2018年8月27日 (月) 09時00分

そもそも必要悪ですらなく、単なる悪じゃないかなあと。
点数を上乗せしてもらって医学部に入っても後が大変なだけじゃないかと思いますけれど。

投稿: クマ | 2018年8月27日 (月) 15時17分

大学として求める学生像に明確なものがあるのであれば、特に男女別定員などは堂々と募集要項に記載すればよかったと思うのですけれどもね。
むしろ学生としては入試の点数操作よりも、この大学に入学すると終身奴隷的労働者として期待されことになると言う点を問題視しなくてよいのかと思うのですが。

投稿: 管理人nobu | 2018年8月27日 (月) 16時36分

現役加点は合理的でしょう。1年間浪人して300点と、現役で290点。どっちが地力があるか自明。厳密には、入学後の成績等で何点加点が合理的か、計算するべきでしょうけど。一方、男子二浪20点加点三浪10点加点、女子現役加点なしの東京医大の不合理なこと。産休育休1-2年とっても、三浪より実働長いじゃん。しかも三浪より賢いし。まあ、フェミたちは、こういう試算しただけで、平等ガー、と怒るのでしょうけど。

投稿: 麻酔フリーター | 2018年8月27日 (月) 17時14分

↑だからどうしてそうエカテリーナ・ブダノワやリディア・リトヴァクを戦車随伴歩兵に徴用したがるダスかw?https://jp.rbth.com/history/80156-josei-ace

投稿: 10年前にドロッポしました | 2018年8月28日 (火) 10時03分

>>10年前にドロッポしました先生御侍史
 
医者はスコープドッグ乗りかなんかですかw

投稿: | 2018年8月28日 (火) 23時41分

↑そんなええもんじゃないですよ、割とマジで。

>>・迫撃砲の阻止放火を受けてミンチ
>>・対戦車砲の砲撃が飛んで来てミンチ
>>・機関銃で掃射されてミンチ
>>・小銃で狙い打たれてミンチ
>>・振り落とされて後続に轢かれてミンチ

>> 証言によればタンクデサント兵の寿命は従軍して一週間程度とも言われる。
https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%87%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88

投稿: 10年前にドロッポしました | 2018年8月29日 (水) 09時31分

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