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2018年6月20日 (水)

医師の働き方改革と応召義務の微妙な関係

厚労省では医師の働き方改革についても議論を重ねていますが、先日こんなニュースが出ていました。

自民・医師の働き方改革PT「裁量労働制」の検討方針(2018年6月15日医療維新)

 自民党の厚生労働部会「医師の働き方改革に関するプロジェクトチーム」は6月14日、全国医学部長病院長会議と日本私立医科大学協会へのヒアリングを実施した。会議後、座長を務める参議院議員の羽生田俊氏は、医師への裁量労働制の導入に関して「どういう形なら可能なのかをPTとして方向性を出したい」との見解を示した(前回のヒアリングは『「医師の働き方、ベテランと若手で意識に差」』を参照)。

 羽生田氏はヒアリングの結果について、裁量労働制について「国立大学は適用しようとしているのが多い。私立は少ない」と説明。「専門業務型裁量労働制(※)」にはさまざまな制約があるとし、医師にも適用できるかについては、「今のままだと無理。プログラマーなどとは違う。医師の場合は、生きている人間(患者)が対象で、常に連続して対応しなくてはいけない。それを考えた上で裁量労働制ができるかどうか、それは今後の課題」と説明した。
 次回以降で、若手医師や他職種からの意見をヒアリングする方針。

※専門業務型裁量労働制:業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令および厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度。19業務に限り、事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定を締結することにより導入することができる。厚労省ホームページより引用。

ちょうど先日は高度プロフェッショナル制度が成立の見込みと報じられていて、幾ら残業を強いられても報酬は変わらず過労死を強いる制度だと労組等からも反発の声が根強くあるようです。
年収1075万円以上に相当する層は労働者の1%と言いますが、相対的にその中で多くを占めるはずの医師に関してはかねて高プロ制導入は難しいとされ、その理由としてやはり応召義務の存在は小さくなさそうです。
患者から求められれば診療に応じる義務が法律上課せられている以上、自分で適正な労働管理を行うことが不可能であることは自明と言え、逆に高プロ的制度導入を強いるなら応召義務撤廃も必要に思えます。
他方で昨今話題になることの多い医療現場での労基法違反の違法労働の横行と、応召義務との関連に関しては様々な解釈が成立する余地があるようで、先日こんな興味深い記事が出ていました。

医師の働き方改革は「病院管理者の働かせ方改革」、全医連シンポ(2018年6月12日医療維新)

 全国医師連盟は6月10日、「医師の働き方改革と応召義務ー勤務医の場合ー」をテーマに都内で第11回集会を開催した。登壇した4人のシンポジストは、医師の過労死防止と医療安全のために、医師の働き方改革を進めるべきであり、その責任は医療機関の管理者や行政にあると指摘。応召義務についても、撤廃するか、あるいは医師個人ではなく、医療機関の管理者の責務とすべきとの意見が出た。

 同連盟代表理事の中島恒夫氏は、「勤務医の働き方改革は、病院管理者の働かせ方改革。例えば、夜勤回数を減らすには、夜勤医師を増やすか、夜間受診を制限すればいい。診療体制というシステムを変革できるのは、病院管理者」と指摘した。長時間の時間外労働をさせる病院管理者は、その管理能力の法的責任を問うべきとし、「労使でともに進めるのではなく、病院管理者が先頭に立って、働かせ方改革を行う必要がある」と提言した。
 厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」では、病院勤務医の場合、男性医師の41%、女性医師の28%が「過労死基準」(週60時間以上の勤務)を超えていることを紹介。厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の今年2月の論点整理で、「必要な医療ニーズに対応できる医療提供体制を維持できるような上限時間とすべきではないか」としているのに対し、「逆の発想が必要ではないか」と指摘し、「できる医療提供体制に対応した医療ニーズとすべきではないか」と提言した。
 さらに働き方改革が進まない、あるいは改革を進めない理由として、中島氏は、「医師は、応召義務に応じなければならないことを挙げる病院管理者がいるものの、現状の社会状況にそぐわない」との考えを述べた。応召義務を定める医師法19条を全廃するか、「医療機関の管理者は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とし、応召義務を、個々の医師ではなく、医療機関の管理者に課す内容に改正すべきと提案した。
(略)
 田辺総合法律事務所の三谷和歌子氏は、弁護士の立場から応召義務について解説。「応召義務は、『正当な事由』があれば、診療の求めを拒絶することができる。『時間外労働の上限超過』は、法律上では不可能であり、応召義務を免除する『正当な事由』になり得るのではないか」と私見を述べた。「応召義務は神聖不可侵とされてきたが、そうではないというところから出発して考えて行かざるを得ないのではないか。医療安全、医療勤務環境改善のためにも、医師の長時間労働は是正しなければいけない。応召義務と医師の労働時間の調和を図っていけるよう、応召義務の解釈について検討していくことが必要だろう」(三谷氏)。
(略)
 弁護士の三谷氏は、「正当な事由があれば拒否ができる。どんな場合に正当な事由があるかが問題になってくる」として、(1)医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない、(2)診療時間を制限している場合であっても、これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない――とした厚労省の1949年9月通知を紹介。その後、1955年、同省は長野県の問い合わせに対し、「医師の不在または病気等により事実上診療が不可能な場合に限られると解される」との回答を出している。
(略)
 三谷氏は私見と断り、「救急患者の対応は病院の業務であり、病院は、勤務医に対し、36協定の上限を超える労働をさせてはならない。災害等の例外規定(労働基準法33条)の適用は難しく、時間外労働の上限を超えた医師に対して、救急患者の診療をさせることは、論理的に考えれば難しいのではないか」との見解を示した。その延長線上で考えれば、時間外労働の上限超過は、応召義務を免除する「正当な事由」に該当し、救急患者に対する診療患者に対する診療を拒否してもいいことになる。「しかし、患者を見捨てるのか、といった話にもなりかねない」とも三谷氏は指摘し、「応召義務と医師の労働時間の調和を図っていけるよう、応召義務の解釈について検討していくことが必要だろう」と提起した。

弁護士の三谷氏が最後に提示した概念が非常に興味深いのですが、その根底にあるのが応召義務規定があろうが無かろうが、労基法違反の労働を病院は医師らに強いることは出来ないと言う大前提です。
仮に医師の通常業務がすでに労基法違反の状態にまで達していた場合、さらに上限を超えて時間外救急を命じることは法律違反であり、応召義務を免除される正当な事由に該当すると言う考えです。
要するに普段から多忙な医師に関しては、時間外救急を拒否することも許容されると言うことなのですが、院内の医師全てが過剰な超過勤務を行っているわけではない場合、組織として応召義務は生じるでしょう。
当直の割当等を普段の労働時間によって決めると言うのも難しいとは思いますが、少なくとも組織管理者としてはスタッフ間の業務量の平準化を図る必要があるだろうとは言えるでしょうね。

なお医師個人ではなく組織としての義務であると言う応召義務の解釈については、すでに事実上広く採用されているものではないかと思うのですが、実臨床の現場においてそれが何を意味しているのかです。
担当医・主治医のいる患者であっても、時間外救急対応は当直医がまず診ると言うルールを導入したとしても、当直医の専門外の疾患であればやはり担当医・主治医が呼ばれてしまう可能性も高そうです。
今後新臨床研修制度の下で各診療科の横断的なスキルを身につけた先生が増えてくれば、理想的には何科であれ初期対応くらいは任せられるかも知れませんが、まだまだ10年20年と言う歳月が必要でしょう。
医師の人数の多い施設であれば、各診療科毎にグループで時間外当番を決めて対応すると言ったことも可能かも知れませんが、ベテランの先生の中には自分の患者を他人に任せるなと反対する方もおられますね。

こうして考えて見ると、院内での各スタッフ間での適正な労働の割り振りがかなり大きな課題となってくるのではないかと思うのですが、どこの職場でも同様でしょうが仕事が出来る人に仕事が集中するきらいはあります。
ただ一方で組織内での権力の無い若手スタッフにばかり仕事を押しつけると言ったことは許容されるはずもないので、特に管理職医師の方々などは積極的に当直を買って出るくらいの覚悟が必要になりそうですね。
また以前から同じ院内でも内科・外科などのメジャー診療科と、マイナー診療科での労働量格差も指摘されますが、むしろ労働量ではなく年功序列傾向の強かった医師の報酬体系を問題視すべきかも知れません。

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コメント

>ベテランの先生の中には自分の患者を他人に任せるなと反対する方もおられますね。

そんなクソな職場で働く医師は縛り首(脊髄反射

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2018年6月20日 (水) 09時21分

逆に患者さんには24時間365日いつでもみますと言っといて、いざ患者がとびこみ受診したら自分はいっさいみないで他人任せな先生もいらっしゃいますが

投稿: | 2018年6月20日 (水) 13時03分

法律をどう解釈したら裁量労働制や高度プロフェッショナル制度を医師に対して導入できるのかさっぱり分かりません。
法律守る気がないならサービス残業させておけばいいだけですし・・・

投稿: クマ | 2018年6月20日 (水) 14時27分

遵法精神の欠損した職場も少なくないようなので、労基署に空気を読まず介入していただくのが一番手っ取り早いと言う声も根強くありますね。

投稿: 管理人nobu | 2018年6月20日 (水) 17時42分

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