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2018年4月25日 (水)

地域医療構想の中で大きな権限を握りそうな医師会と言う組織

医療リソースの不足が医師の過重労働の現員ともなり、また地域医療崩壊の引き金にもなることが言われて久しいのですが、その抜本的解決策の一つに挙げられるのがリソースの集約化です。
交替勤務制とは行かずとも、ある程度業務を分担できる程度に医師を集約化出来ればずいぶん業務の負担も軽減されると言う目算がありますが、医療崩壊の聖地の一つと言われる奈良県でこんな話があるそうです。

「たらい回し」教訓に集約 公立と民間、対立も(2018年4月18日共同通信)

 「産科の医療事故があり、救急はずいぶん問題になったが、それを受け『断らない病院』が整備されてきた。住民に喜んでもらえている」
 3月28日、奈良県知事の荒井正吾(あらい・しょうご)(73)は2018年度からの県の医療政策を発表した記者会見で胸を張った。

 荒井には12年前の苦い思い出がある。06年8月、同県大淀町の町立大淀病院で分娩(ぶんべん)中に意識を失った女性が約20カ所の病院に転院を断られ、死亡。「妊婦たらい回し」と報道され、医療崩壊の象徴として語られた。
 町立大淀病院はいま、建物が残るだけで閉鎖されている。同病院を含む公立3病院を集約・再編して、救急態勢を強化した「南奈良総合医療センター」を16年に同町内に開設したからだ。3病院がいずれも中途半端な規模だったために転院受け入れができず、女性の死亡につながったことを教訓にした。

 大淀町を含む12市町村の「南和医療圏」では、集約前は患者の6割が圏外の病院に入院していたが、医療センターが救急を積極的に受け入れるようになり、現在の患者流出は3割にとどまる。
 一方で、3病院合わせて約570床あった病院ベッドを約150床減らした。「この地域は病院の機能分化のめどが付いた」とセンター院長の松本昌美(まつもと・まさみ)(61)。超高齢化に対応し医療提供体制を見直す「地域医療構想」の一歩先を行った形だ。
 ただ、奈良の例は知事によるトップダウンの色彩が強い。公立病院や日赤、済生会などの公的病院が自ら病床を大幅に減らすのはまれだ。

 福井県では、3月26日に公立・公的16病院の計画が県の審議会に示されたが、ほとんどが病床数を現状維持とする内容で、削減は計40床にとどまった。推計では25年には民間も合わせ15年比で約1900床が過剰になる。鈍い動きに県の担当者は「引き続き議論していくしかない」と苦慮する。
 公立病院などの消極姿勢に、民間の医療機関からは不満の声が上がる。日本医師会(日医)が3月25日に開いた臨時代議員会では、山口県の出席者が「今のところ公立・公的病院が調整に応じる状況にはないが、普段お世話になっているので、あまり強くは言えない」と苦しい立場を説明。
 公立などが現状維持の姿勢だと、病床削減で民間病院が割を食うとの危機感がにじむ。日医役員は代議員会で「民間が公立などよりも先に淘汰(とうた)される事態が起きてはならない」と強調した。どちらが削減に動くのか。にらみ合いが続く。(敬称略)

日医の見解はともかくとして、医療に限らず何であれ既得権益と言ったものもあるわけで、全体を見渡してこうすればいいと考えたところで、現場がその通りに動くと言うわけには必ずしもいかないものです。
もちろん現場から見て明らかに絵空事、机上の空論と言うことであれば別ですが、現実的に雁字搦めの既得権益で話が進まないと言う状況であれば、トップダウンで話を進めていくしかないものなのかも知れませんね。
そのための強制力として自治体が権限を握り、地域の医療供給体制を総合的に構想し整備するのが地域医療構想と言うものですが、現実的に自治体にそこまでの絵図を引けるだけの人材が揃っているかどうかです。
この点で地域の医療専門家団体として今後権限を拡大しそうなのが各地域の医師会と言う組織ですが、医療リソース再編の過程でこの医師会の仕事ぶりが妙なところで注目されているようです。

県境またぐ移転で紛糾 住民と医師会、利害衝突(2018年4月20日共同通信)

 2025年自分が住む地域の病院がなくなることも、時に意味に向け国が進める医療提供体制の再編は、する。佐賀県と長崎県では公的病院の移転を巡り、県境をまたいで住民や医師会の利害が激しくぶつかった

 「松浦中央病院の開設は、地域包括ケアシステムの構築を進める大きな一歩と捉えています」。3月2日、長崎県松浦市議会。施政方針演説に立った市長の友田吉泰(ともだ・よしやす)(54)は、20年にオープン予定の新病院について意義を強調した。
 中央病院は、隣の佐賀県伊万里市にある「伊万里松浦病院」が移転して開設される。運営主体は、旧社会保険病院を引き継いだ独立行政法人「地域医療機能推進機構」。建物が老朽化し、伊万里市内の別地区での建て替えを考えたが、近くに別の公立病院があり、病床が過剰になるとして地元医師会が反対した。

 一方、松浦市には救急病院がなく、救急患者の約7割が市外に搬送されていたため、住民が熱烈な誘致活動を展開。昨年9月に開いた「決起大会」は参加者が会場のホールからあふれ、自治会連合会会長の向井勝正(むかい・かつまさ)(75)が「市民はいつも不安を抱え、安心した生活を送れない」と訴えた。
 ところが、市の医師会からは反発の声が上がった。新病院が救急・重症患者向けのベッドだけでなく、リハビリ向けの回復期病床も設ける計画であることが分かり、民間病院が患者を奪われると懸念したためだ。病院経営者らが集まって地域の医療提供体制を調整する会議は紛糾した。
 会議での承認を2回持ち越した末に、新病院が回復期の病床数を減らすことでようやく決着。向井は「思いが届いてよかった」と喜ぶが、収まらないのが伊万里市側だ。病院の周辺住民は「地域が廃れる」と心配する

 こうした利害の衝突は今後、各地で起きる可能性がある。25年に向け病院ベッドを再編する各都道府県の「地域医療構想」実現へ議論が本格化するからだ。慢性疾患を抱える高齢者が増えるのに合わせて病院ごとの役割分担を見直さないと、医療費に無駄が生じる。厚生労働省は全国341の「構想区域」で18年度内に具体的な病院名を挙げた議論に入るよう、都道府県の尻をたたく。
 ただ、多くの知事が地元医師会から選挙の支援を受けているため、担当職員は下手に動けず腰が引けがち。思うように進まない地域も多い。厚労省OBの一人は「医療政策を担える都道府県職員の育成が必要だ。知事の姿勢も問われる」と指摘する。(敬称略)

なかなか話がややこしいのですが、この種の公的な病院が県境をまたいで医療リソース再配分のため移転すると言うのも珍しい話で、今後地域医療構想の流れの中で類似の例も出てくるのでしょうか。
興味深いのがこの一連の流れの中で地域住民に加えて、地元の医師会が大きな役割を果たしたと言う点ですが、佐賀県側では病床過剰といい、長崎県側では回復期までやるのは困ると、いずれも反対を主張したそうです。
佐賀県側でも住民としては決して病院が余っていると言う認識ではなかったようで、それなりの規模の病院が消えてしまうわけですから住民不安も大きいでしょうが、医師会の反対で病院が消えたと言う形です。
さらに住民が誘致活動までやっている長崎県側で受け入れ反対を主張するとなると、もし移転が流れた場合に住民からの風当たりもずいぶんと大きかっただろうと思うのですが、あまりその種の評判は気にしないのでしょうか。

こうした利害調整は地域医療構想の下で自治体がきちんと目標を設定し、それに従って地域内の病床配分を決めていくべきなのですが、そのブレイン役になるだろうとも思われている医師会がいわば混乱を広げた格好です。
住民の立場からすれば地域の病床は過剰なくらいでちょうどいいと考えるだろうし、そうした民意ばかりを優先すると各地で小さな自治体病院が乱立することにもなりかねずで、基本的に病床数削減には反対の立場でしょう。
一方で医師会とすれば競争相手になる病院の病床は減った方がいいと言うことなのでしょうが、しかし病院もなければ開業医が送り先にも困るはずですし、そもそも地域医療の未来絵図をどこまで予想し言っているのかです。
自治体とすれば住民の意向にしろ地元医師会の意見にしろ、一定程度耳を貸さないわけにはいかない声だと言えますが、それが目先の利益ばかりを負う声ばかりとなると、地域医療構想の将来に不安も覚えずにはいられません。

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コメント

3病院集約のおかげで、家から200m強にあった災害拠点病院でもあった県立病院が、
最盛期220床→90床に減床させられ、且つ急性期での入院もなくなってしまった。
これによって、多分地域の過疎化が進むのだろうなぁ。

投稿: | 2018年4月25日 (水) 09時27分

>奈良県知事の

解散!(記事も読まずに

>もし移転が流れた場合に住民からの風当たりもずいぶんと大きかっただろうと思うのですが、あまりその種の評判は気にしないのでしょうか。

仮に風当たりが強くなったところで患者達は通院せざるを得ないワケで、強力な競合相手が出現するよりはよっぽどマシかと。

>しかし病院もなければ開業医が送り先にも困るはずですし、

伊万里とか佐世保に送ればいいからへーきへーきw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2018年4月25日 (水) 10時05分

実際のところ過疎化や人口集積に対して医療機関の存在がどの程度影響力があるものなのか、具体的なデータなりはあるものなのだろうかと思いました。

投稿: 管理人nobu | 2018年4月25日 (水) 22時05分

若い人は医療機関の有無なんか気にしないし、そもそも医療機関も碌にないような僻地には住まないし、年寄りは医療機関があろうがなかろうが死ぬまで動かない(動けないw?)からまあ関係ないでしょうねえw
*敢えて言えば医療機関がなくなる事によって年寄りが早く死に、結果過疎化が進むって可能性はあるかもw?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2018年4月27日 (金) 14時26分

旅行に行っていたので超亀レス。春休み夏休み中は、子供が学校休みの間に手術受けたいという需要が多いけど、案外GW前後は手術需要やや少なくて、休んでも大丈夫。外科系医師も休んでくれます。(まだまだ受け身の休暇取得で、ドロッポ師匠よりかは、奴隷根性が残っています。)奈良県の話は、全く興味わきませんねえ。というか、まだこの知事なの?奈良県民には関わらない方が良いという結論ですね。

投稿: 麻酔フリーター | 2018年5月 4日 (金) 14時40分

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