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2018年2月13日 (火)

労基法無視を強いる方々の弱々しい反論

このところ全国的に労基署の動きが活発化していて、今まで半ば聖域扱いだった医療業界にもその手が伸びていることは周知の通りですが、医療現場の方では今ひとつ対応が進んでいないようです。

中核99病院、医師の違法残業などで是正勧告(2018年2月9日読売新聞)

 地域医療の中心となる全国約350の病院のうち、少なくとも99病院が2016年1月以降、医師の違法残業などで労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが、読売新聞の調査でわかった。

 病院側は長時間労働の理由を、医師不足や正当な理由なく診療を拒めない「応召(おうしょう)義務」があるためなどと説明。医師の厳しい労働実態と労務管理の難しさが浮き彫りになった。

 読売新聞は今年1月、大学病院など全国85の特定機能病院をはじめ、救命救急センターや総合周産期母子医療センター、基幹災害拠点病院(救急センターは昨年8月、その他は昨年4月現在)として認定されている計349病院にアンケート調査を実施。8日までに約8割の288病院から回答を得た。

医師、月150時間残業容認も 過労死ライン超す協定(2018年2月9日京都新聞)

 京都府南丹市の京都中部総合医療センターと綾部市立病院が過労死ライン(月100時間、複数月平均80時間超)の残業を認める労使協定(三六協定)を結んでいたことが分かった。両病院とも「医師不足の中、救急態勢を維持する」ことを理由に挙げ、センターは産婦人科医に月150時間、綾部は全医師に月90時間以内に残業時間の上限を設定していた。医師の働き方改革と地域医療確保の両立の難しさが浮き彫りとなった。

 京都新聞社が京都府、滋賀県内の自治体病院、大学病院で救急患者を受け入れる25病院に協定の有無や上限時間を調査した。京丹後市立の弥栄病院、久美浜病院、長浜市立湖北病院は協定を締結せずに残業をさせていたことも分かり、両市とも労働基準法に違反していることを認めた。
 京都中部総合医療センターの産婦人科は24時間態勢で患者を受け入れるが、常勤医は3人しかいない。「現在70時間超の残業はないが、医師が減った時に備えている。住民ニーズに応えるには仕方がない」という。綾部市立病院も「残業超過を理由に急患を断るわけにはいかない」と回答した。
 滋賀医科大付属病院は昨年1月、協定の上限を超えて残業させたとして、大津労働基準監督署から是正勧告を受けた。このため、月60時間以内だった協定を4月から過労死ラインギリギリの月100時間未満、複数月平均80時間未満に引き上げた。働き方改革に逆行する改定だが、病院は「実態に合わせないと協定が絵に描いた餅になる」。また9病院で月80時間以内に設定され、勤務医の厳しい労働実態が明らかになった。

 政府は過労死ラインや年間720時間を超える残業をさせた事業所に罰則を適用する労働基準法改正案を通常国会に提案する。この基準に当てはめると、京都市立病院など7病院の協定が超過する。日本医師会などが「地域医療が崩壊する」と慎重意見を出し、医師は5年間、適用が除外されることになった。全国自治体病院協議会は「医師不足地域で自治体病院は急患を一手に引き受けている。規制を強行すれば、診療科縮小や救急を休止する病院が続出する」と危ぶむ。
 信楽中央病院を運営する甲賀市は「調査したが、協定があるのか、ないのか分からなかった」とした上で、「常勤医は全員管理職で、非常勤の医師も残業はなく、協定は必要ない」とした。

他業界で「協定があるのか、ないのか分からなかった」などと言えばどれだけ世間の批判を浴びるのか判ったのではありませんが、この辺りにも法令違反が続く背景となる当事者意識の欠如が現れていると言うことなのでしょうか。
仕事が多いから仕方がないと言うのであれば仕事を制限すべきなのは当然で、特に自治体病院などは二重の意味で利潤を追求する必要もないのですから、妥当な状況に落ち着くまで診療体制を縮小すべきでしょう。
その方法論として救急や24時間対応がどうしても必要だと言うのなら、外来診療や予定検査・手術の枠を削って総労働時間をコントロールする手法もあるわけで、事実今や各地の病院でそうした対応が行われています。
どうしても断れない仕事があるなら不要不急の部分を削減するしかないと言うのは当然のことなのですが、この診療制限と言うことに対しての立場による意識の格差とも言える現象が見え隠れするようになってきています。

時間外労働を減らすには診療制限せざるを得ない 労働者健康安全機構理事長の有賀徹氏に聞く(2018年1月30日日経メディカル)

(略)
――2018年に入ってから、北里大学病院や杏林大学医学部付属病院に対して労働基準監督署が立ち入り調査(臨検監督)を行ったことが相次いで報じられており、医師の働き方について社会の関心も高まっている。
有賀 労基署が病院に立ち入り調査するケースが急に増えてきたという訳ではない。医療者が労基署へ通報することは昔から一定数あったようだ。マスコミで大々的に報じられているため、あたかも臨検監督が増えているように見えるだけだろう。

――初期研修医が労基署に通報しているケースが多いと、複数の関係者が指摘している。これについてどう思うか。
有賀 はっきりとしたことは分からないが、おそらく実際に初期研修医からの通報が多いのだろう。ただし、一言で研修医といっても、現在の卒後臨床研修制度が導入された2004年より以前と以後では事情が異なる。現在の制度導入前は、研修する診療科は本人の希望に基づいていた。しかし導入以降は、プログラムを選んで研修を受けるようになった。自分の希望を全て満たすプログラムでは必ずしもないだろうし、興味のない診療科をローテートしなければならないケースもあるだろう。こうしたことも労基署に通報するきっかけになっている可能性はある。
 制度として、研修医を雇う病院側は当直後の研修医を十分に休ませ、その労働時間を管理することが強く求められている。そのため、初期臨床医はとりわけ医師の中でも「労働者」として扱われてきた側面が強い
 しかし、全ての世代を通して医師の多くは自らを「労働者」と思わずに働いてきた。医師になるために必死で勉強し、そのまま医師になる。そして寝食を忘れ、患者に必要とされて24時間365日働く。そういう親の姿を見ながら医師になった人も多いだろう。患者を助けることを一心不乱に考えており、無理矢理に働くよう求められた感覚が己の中にないのではないか。自分がそうであったがゆえに、部下を無理矢理働かせているという感覚も芽生えにくいのだろう。そういう文化を背景に、「我々は一般的な労働者とは違う」と思っている医師は正直、多いと思う。
 ただし、「医師は労働者か」の議論については、厚労省に設置された検討会で「労働者であることに議論の余地なし」と決着が付いた(関連記事)。今後は労働者として十分に労働時間を管理し、上限規制を守ることが求められることになる。
(略)
――既に全国的に医師の働き方改革に着手している病院も出てきている。そうした病院に勤務する医師の中には、「仕事の総量は変わっていないが、時間外労働をしづらくなり、結果として収入だけが減った。でも研究したいしもっと学びたいから、このまま働き続けたい」と悩んでいる方もいるようだ(関連記事)。
有賀 そうした反応が現場から出てくることは、新しい仕組みが普及していく過程のプロセスの1つだ。
 昔の方が働きやすいし、給料ももらえると感じる人は多いかもしれない。しかし医師にも時間外労働時間の上限規制が適用されることは決まっている。病院長が医師らの意見を全部汲んだ上で働く分量を減らす必要がある。例えば土曜日の外来を中止するなどの診療制限を行うといった選択肢も当然あり得るだろう。
 これまで10時間働いていた人が8時間しか働かず、これまでと同じ結果を得ようとするならば、生産性を向上させる必要があるが、そもそも生産性を向上させることは容易ではない。単純に勤務時間を減らせば、その分だけ病院の収入が減る。結果的に国の医療費も抑制される方向に進む。これは必ずしも改悪というわけではない

脳外科医である有賀氏は昭和大学救急医療講座教授・病院長などを歴任していますが、2016年春の教授最終講義において救急医療逼迫をテーマとして語っていますが、この際に総力戦と言う言葉を使っています。
救急に限らず今後の医療は看護師などパラメディカルや地域のあらゆるリソースを用いなければ間に合わないが、その司令塔役である医師は全体を俯瞰し、常に優先度を考える姿勢が求められると言うことですね。
この観点で言えば今現在の医療における管理階級が医療現場の優先度をきちんと考えているとはとても思えませんが、今後は何が必要かと言う視点と同時に何が先送り、縮小できるかと言う視点も必要になると言うことです。

前述の記事で興味深いのは、こうした旧来の価値観に縛られた年配世代に対して若い世代の意識は全く異なると言うことで、初期研修医が労基署に通報しているケースが多いと言うと言うのは非常に納得出来ますね。
自分で職場を探し採用試験を受け就職すると言う、世間で当たり前の就職活動で医師となった若い先生達にとっては、古い頭の先輩方の「俺達もこうしてきたんだからお前達も同じでやれ」式は通用しないでしょう。
仮に労基法無視の違法労働の強要が通用するとすれば、それが必要であるとか有効であると言った明確なエヴィデンスが示される場合に限られるでしょうが、実際にそれが示されている職場が全国どこにあるのかです。
逆に過労は医療の質を低下させミスを誘発させると言うエヴィデンスはすでに明快になっているのですから、それに対する反論が「だって給料減るし…」だけでは「なら給料いい病院にかわれば」で終わってしまいますよね。

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コメント

記事見てて病院の中の人ってどうしてこうもマスコミ対応が下手なんだろ?って思うんですが。

投稿: ぽん太 | 2018年2月13日 (火) 08時19分

>「我々は一般的な労働者とは違う」と思っている医師は正直、多いと思う。

勝手に他の医師の気持ちを代弁しないでいただきたいですね。
少なくとも私はこれっぽっちもそんなことを思っていません。

投稿: クマ | 2018年2月13日 (火) 08時51分

厚労省調査では年代が進むほど医師の労働時間は減っていきますが、医師は労働者であることを否定する考えは年齢が進むほど強固になっていくようです。
ベテランの先生方が法規無視の時間制限無しで働きたいと言う考えを必ずしも全否定するつもりはありませんが、それならそれで若い先生の業務を肩代わりして差し上げれば皆が幸せになれるのかも知れませんね。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000178016.pdf

投稿: 管理人nobu | 2018年2月13日 (火) 12時05分

小生も「医師は労働者ではない」と考えるアラフィフ勤務医の一人です.ですから10年間一人医長をやっております.

投稿: 耳鼻科医 | 2018年2月13日 (火) 16時33分

権利と義務がぶつかるときどちらを優先するか?ですよね。
労働者の権利は健康で文化的な生活に欠かせない基本的人権の一部だと思います。
応召義務ごときでは到底覆すことはできないでしょう。
ご自身の権利を放棄されるのは自由ですが、他人の権利を剝奪することは許されない行為でしょう
私もアラフィフ一人医長みたいなものですが、それを他人には強要できません。
今の研修医を見ていると、現在のほとんどのアラフィフのスタイルは滅びゆくものではないでしょうか。

投稿: | 2018年2月13日 (火) 17時47分

どんな理屈をこねようが他人に違法行為を強要するのは許されません

投稿: | 2018年2月13日 (火) 18時28分

>どんな理屈をこねようが他人に違法行為を強要するのは許されません
賛成です.僕も大学医局から「部下の派遣」を打診されましたが,断りました.
僕の下なんかに来ても,何もいいことはありません.

このようなスタイルで「非人道的業務」をやっているのはダメなのかしら??
ドロッポ先生いうところの「ダンピング」になるかしら??

投稿: 耳鼻科医 | 2018年2月13日 (火) 18時34分

ご自身の権利を犠牲にして献身なさることは尊いですが公言してはいけませぬ。
それをスタンダードと勘違いする馬鹿者がいるからです。
私もそこそこいろいろ犠牲にした気はしますが、赤ひげを持ち出されて説教されたらムカッと来ます。
自分がどこまで犠牲にするかはどこまでも私自身の問題で他人と比較されるものではありません。
今の若い人の感覚の方が正しく、自分もやったからお前もやれという経営者の言い分が醜悪なのです。
頑張った自慢はアホ経営者をつけあがらせるだけです

投稿: | 2018年2月13日 (火) 19時09分

>それをスタンダードと勘違いする馬鹿者がいるからです
最近の若い先生も,そんな勘違いはするのですか? きっとしないでしょう.

上層部には勘違いさせておけばいいです.特に事務と看護部.
「こりゃダメだ」と思ったら,直ちに辞職し,開業したらいいではないですか!!!

投稿: 耳鼻科医 | 2018年2月13日 (火) 20時17分

勘違い病院からはさっさと逃散でFA
そのうち自然淘汰が進むわな

投稿: | 2018年2月13日 (火) 22時24分

この問題って…

「医師は労働者だ」と時間外勤務を制限する
「国の財政が大変」と診療報酬は下げる
両方を推し進めて行ったらどうなっていくのだろうね.
5年くらいで見えてくるだろうか.
そこで医師たちや国民たちがどう行動するか楽しみです.

投稿: | 2018年2月14日 (水) 05時35分

嫌なことは嫌だと声出さないと、医者は好きで奴隷働きしてるなんて言うバカが出てくる

投稿: | 2018年2月14日 (水) 08時49分

 05時35分氏のご懸念のように お上はしっかりと進める腹つもりでしょう。但し、5年よりは余計にかかるのではないかな。
 女性医師が三人に一人ですから、馬看護部の言い草を梃子に医師の看護師並み勤務を実現させるように動けば、当分医師の売り手市場は続きますよ。 宗主国と比べても日本の医師の奴隷ぶりはひど過ぎた。 

投稿: | 2018年2月14日 (水) 14時08分

>当分医師の売り手市場は続きますよ。
医師の給与がどう変化するかに興味があります.
診療報酬が上がらずに,時間外勤務を認めなくなれば…

小生はあと10年で子育てが終わるので,夫婦が食っていければいいや.
それなら今の1/3の給与でも大丈夫だな.

収入が欲しい医師たちが「はしたない」行為に走りませんように.

投稿: | 2018年2月14日 (水) 20時35分

おいどんドロッポ医やっで、王者にふさわしく2週間程パタゴニアに遠征しておりました。うはwwキングサーモン大漁www

>初期研修医が労基署に通報しているケースが多い

今どきの若い奴ってほんっつとぉに立派です。それに比べて今どきの年よりときたら…。

>「だって給料減るし…」

するってえと、大して働いてもいないのに年収ン千万、100坪の豪邸住まいで好きな時に好きな所に好きなだけ釣りに行ける生活をエンジョイしているおいどんの立場わw?
*まあ100坪の豪邸ってのは築50年な元有床診療所なんですがw

>ベテランの先生方が法規無視の時間制限無しで働きたいと言う考えを必ずしも全否定するつもりはありませんが

いやいや、そこは全否定しないとw

>このようなスタイルで「非人道的業務」をやっているのはダメなのかしら??

ダメですwwwww

>ドロッポ先生いうところの「ダンピング」になるかしら??

どう見てもダンピングですw。本当に以下ry

>ご自身の権利を犠牲にして献身なさることは尊いですが公言してはいけませぬ。
それをスタンダードと勘違いする馬鹿者がいるからです。

糞喰うシュミが尊いとはとても思えないんですが…。ましてや同じ職業ってだけで糞を無理やり喰わそうとする輩に事欠かないわけで、はっきり言ってメイワクです!

>赤ひげを持ち出されて説教されたらムカッと来ます。

赤ひげ先生は正義の味方みたいに強い完璧超人で、DQNは文字通り半殺しにするし、金持ちからはボッタくるし、そもそもメインの勤務先である小石川養生所は幕府が設置した「無料」の医療施設だし…。原作読んでないの丸わかりですよね。
*まあ私も読んでないんですがwwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2018年2月14日 (水) 21時40分

この話は、毎度盛り上がりますね。
200時間で協定結んで、きっちり金を払う病院の方がマシですね。過労死認定も容易だから労災から給付金も出やすいし、現時点では合法です。協定結んでいないとか、現時点でも完全違法なふざけた管理者を逮捕して実刑にしない限り、法改正しても解決はしないでしょう。60時間程度の協定結んで、残業代踏み倒すだけです。

投稿: 麻酔フリーター | 2018年2月15日 (木) 13時36分

遠隔診療で盛り上がる株式会社情報医療が京都大学の名をかたって個人情報を収集する事案が発生
京都大学との共同研究打ち切りにびくともせず
収集した個人情報は社内でしっかり活用するんですって

京都大学大学院医学研究科社会医学健康系専攻 医療疫学分野
http://www.healthcare-epikyoto-u.jp/news/index.php#info86

株式会社情報医療
https://micin.jp/news

投稿: 遠隔診療会社ってこんなの? | 2018年2月15日 (木) 14時13分

労働時間に見合った割増賃金をきちんと支払ってるかどうかも記事にしてほしいですね。

ぐり研ブログさんの2013年2月15日(金)の記事
奈良県産科医時間外労働訴訟 最高裁で原告勝訴が確定
から5年経ってるのにまだこんなレベルの話をしてるなんて

投稿: REX | 2018年2月16日 (金) 00時25分

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