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2017年9月19日 (火)

医師の働き方改革、急ぎたい人々と先送りしたい人々

先日ご紹介しました国立循環器病センターの時間外労働を月300時間まで認めると言う労使協定について、興味深いことに当事者よりも外の世界からの批判が強いようですが、特に2001年に同センター看護師が過労死している点に注目する方が多いようです。
2008年に過労死認定が行われ、そのわずか2年後の2010年に独法化を契機に300時間と言う非常識な時間外労働の協定が結ばれ現在に至ると言うのですが、時系列を考えても到底死者まで出した状況を真面目に受け止めているようには思えないのも当然ですよね。
働き方改革を推進する国策を反映してか、このところ医師の過労死について現場に近い筋ほど極めて深刻な危機感を感じていて、もはや労働規制強化を一刻も先送り出来ないと言う声が高まっているのですが、この点に関して先日興味深い記事が2つ出ていたので紹介してみましょう。

社会保障審議会 主要検討テーマは4項目、「医師の働き方改革」への懸念根強く(2017年9月15日医療維新)

 厚生労働省の社会保障審議会医療部会(部会長;永井良三・自治医科大学学長)は9月15日、医療提供体制のあるべき姿(地域医療構想等)の推進、医師の働き方改革、特定機能病院のガバナンス強化など医療法等の一部改正の施行に関する事項、介護医療院の創設に伴う見直しという4点を、今後の主要な検討テーマとすることを確認した(資料は、厚労省のホームページ)。並行して今年末までに、2018年度診療報酬改定の基本方針の議論を進める。
(略)
 15日の会議は総論的な議論に終わったが、特に委員の関心が高かったのは、「医師の働き方改革」。医療関係団体代表の委員からは、「救急や産科などに対し、医師の時間外労働の上限規制を厳しく適用すると、医療が成り立たなくなる懸念がある。医師の時間外労働の問題だけでなく、医療提供体制を守るという視点で検討してもらいたい」(全日本病院協会会長の猪口雄二氏)、「他の職種と同様に、医療の現場に杓子定規に労働基準法の基準を適用すれば、地域医療が崩壊するのは目に見えている。医療の質を落とすことはできないので、量を減らすことになると、地域医療は混乱する」(全国自治体病院協議会会長の邉見公雄氏)など、幅広い視点からの議論を求める声が相次いだ。

 これに対し、患者代表の委員からは「医療崩壊につながりかねないというのも理解できるが、一方で、地域医療が個々の医師の犠牲のもとに成り立つのはいかがか。(医師の時間外労働が減れば、医療サービスの量が減少するなら)国民の理解を得ながら、議論を進めていくことが必要」(知ろう小児医療守ろう子ども達の会代表の阿真京子氏)といった意見が出た。

 今後の議論の進め方について、厚労省医政局総務課長の榎本健太郎氏は、「医師の働き方改革に関する検討会」が2018年年明けを目途に中間整理を行う予定であり、それが出た段階で社保審医療部会でも議論、それを踏まえ、同検討会で議論を続けるというスケジュールを説明。
(略)

「医療が壊れるか、勤務医が壊れるか」都内で医師の過重労働シンポジウム(2017年9月11日医療維新)

 全国医師ユニオンと東京過労死を考える家族の会、過労死弁護団全国連絡会議が9月9日、「過重労働と医師の働き方を考えるシンポジウム~医師の働き方改革への提言~」を東京都内で開催した。過労死弁護団全国連絡会議代表幹事の松丸正弁護士は、国立循環器病研究センターで、勤務医に「月300時間、年2070時間」まで時間外労働をさせられる「36協定」が結ばれていたことを「常軌を逸した協定」と指摘。ただし、過労死を生まず、健康を守るためには、勤務時間の適正把握が最も大事であるとし、「今は医療が壊れるか、勤務医が壊れるかの二律背反の状況だ」と訴えた。
(略)
 松丸氏はもともと、「36協定」に盛り込まれるこのような「特別条項」が、「何時間働かせてもいい」という根拠になり、過労死の大きな原因があると考えていたが、多くの事例に携わる中で、考えが変わってきたという。現在は「そんなに生やさしいものではなかった。一番の問題は、勤務時間が適正に把握されていないこと。そこでは労働基準法は死に、『特区』が生まれる」と考えていると指摘。勤務時間の把握は、過重労働に関する裁判で必ず突き当たる問題で、パソコンのログイン・ログアウトや電子カルテのアクセス記録などを用いて、使用者側が適正把握に努めるべきだとした。

 2016年1月に新潟市民病院で後期研修中の女性医師が過労で自殺し、2017年6月に新潟労働基準監督署から長時間労働是正などの勧告を受けた問題で、女性医師の遺族の代理人を務めている齋藤裕弁護士は、過重労働の改善を求め、新潟市に対して労働時間の把握や医師の負担軽減などについての申し入れをたびたび行っていることを紹介(『新潟過労自殺、「医師の勤務適正化図る」―新潟市長』、『病院の責任と「働き方改革」のジレンマ - 片柳憲雄・新潟市民病院院長に聞く』などを参照)。新潟市民病院の回答では、労働時間の把握が「自己申告によるもので、各医師が適切に申告していると信じている」というものだったとして、「これでは速度計のない自動車を走らせているようなものだ。客観的な把握が全てのスタートだ」と述べた。また、これまでに過労死に至った事例について、プライバシーに配慮しながら、年齢や診療科などのデータを詳細に公表し、過労死予防のための議論をしていくべきだと主張した。
 東京都内の公的医療機関の産婦人科に勤務していた男性医師が2015年7月に自殺し、長時間労働が原因だったとして、労災認定された事件で遺族側代理人を務める川人博弁護士は、開業医だった父が、元々肺が弱かったこともあり、深夜にドアを叩く患者の診療をした後には、たいてい体調を崩していたことを紹介し、「倫理観や応招義務があるから医師は頑張ってきたが、限界に達している。解決していく必要がある」と指摘(公的医療機関の記事は、『『産婦人科後期研修医の自死、労災認定』』を参照)。長時間労働を正当化する理由として「公共性が高いこと」が挙げられることに対して、「全ての仕事には公共性があるはず。『俺の仕事は公共性が高い、おまえは金儲けだけだ』などというのは変な話。公共性とは何ぞや、公共性と労働とは、ということも提起したい」と述べた。

 全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、長時間労働の主な原因になっているのは医師の絶対数不足で、「当直明けで手術するような国は、先進国では日本しかない。制度の問題であり、ヨーロッパではそんなに働かずとも命を守っている」と指摘。トラック運転手では拘束時間に厳しい条件があり、破れば道路交通法違反で「免許取り消しと、3年以下の懲役または50万円以下の罰金」という重い罰則があることを例に、「安全性が求められる職業には、体調管理が求められる」と述べた。
 また、長時間労働の問題は、その多くが時間外勤務手当の不払いとリンクしていることも指摘。「300時間も時間外勤務をさせたら、病院はそんなに(手当を)払えない。だから不払いになる」ことも問題点であるとの見解を示した。

応招義務、「廃止すべき」、「現代に合わせて」

 自由討論では、時間外労働の上限規制について、応招義務などの医師の「特殊性」を理由に5年間の適用猶予とされたことなどが議論された。植山氏は応招義務について定めた医師法19条についての旧厚生省の解釈が、1948年から1955年にかけてのものであることを挙げ、「現代の医療水準に合った、現実的な解釈を厚労省には求めたい」と主張。川人氏は「廃止すべき。国が個人に対し、業務上の義務を課す規定で、これが過重労働を肯定する背景になっている」、松丸氏は「個人の義務として位置付けるのは無理。医療機関の義務として議論しないといけない」とそれぞれ述べた。

社保審の議論で興味深いのは医療側がもっと働かせろと言い、患者側がいやいやそれは危ないと言っていると言う逆転の構図?なのですが、よく見れば医療側委員と言う方々は全日本病院協会会長だの、全国自治体病院協議会会長だのと言う方々であるようです。
要するに赤の他人を過労死に追い込んでいる側の方々であり、自分達はまかり間違っても過労死などしなさそうな方々がまだまだ過労死逝ける!と主張しているわけで、道義的責任を感じるべき立場として社会通念上もその態度はいささかどうよ?と言うものでしょう。
意外な点として患者側代表が必ずしも医療の質的低下を拒否しているわけではなく、むしろそれを前提に議論をしなければ話が進まないことを理解しているように見えることですが、ともかくも一瞥するだけでもこの問題に関して誰が抵抗勢力なのかよく判る話ですよね。
ちなみに今後中間報告をまとめていくと言う「医師の働き方改革に関する検討会」の方はまだしも現場に近いメンバーも含まれているようなので、こちらで今後どのような方向に議論が進んでいくのか、仮に前向きな意見が出ても素直に最終報告に引き継がれていくかには注目していくべきでしょう。

一方で医師ユニオンらの主宰するシンポに関してはその性格上、労働者としての医師の立場を如何に守っていくかに議論の焦点があることは言うまでもないのですが、ここで指摘されている諸点はすでに各方面で指摘されていることばかりで、ごもっともと言うしかありません。
医師を始め公共性が高く、他人の安全に責任を持つ立場にある人間は過労をしてはいけないと言う論理は首肯できるものがありますが、注目すべきはその当然の論理が無視されている根本原因として応召義務など医師の特殊性が挙げられ、その解消を求めている点でしょう。
応召義務などもいきなり廃止とは無理としても、義務を負うのは医師個人ではなく病院など組織であることを明示するだとか、対象を救急指定機関などに限定するなど当座の対策は幾らでもあると思いますが、社保審に出るようなエラい先生方にとってこの部分の議論は聖域化している様子ですよね。
それが単に年齢的な問題による思考の硬直化によるものなのか、それとも聖域化しなければ被雇用者に奴隷労働をさせる根拠が乏しくなってしまうが故なのかは判りませんが、一般論としては利害関係者に自己規制の議論をさせると言うのもいささか問題なしとしない気はします。

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コメント

「俺はやってきたから 今の若いモンもやれ」
「俺が喰う旨いメシの為 若いモンが死ね」
まだ面と向かって言ってくれるセンセ方は親切ですよね、
ヤクザ者がラメの腹巻きしてるようなものですから。
問題は理解者の顔をして近づいてくる悪魔の方で。。。

投稿: | 2017年9月19日 (火) 07時09分

どうにもユニオンも信用できないんだなあ……

投稿: | 2017年9月19日 (火) 10時36分

「問題は理解者の顔をして近づいてくる悪魔の方」とささやく
面と向かって言わない人たちの手先もいるようで。

投稿: | 2017年9月19日 (火) 10時42分

医療系団体が真っ当な圧力団体であれば、条件闘争として応召義務の撤廃なり制限なりを獲得できたかも知れませんが、そうした必要性を感じていないと言うことでしょうかね。

投稿: 管理人nobu | 2017年9月19日 (火) 15時33分

えーと。労働者の闘争方法には色々ありまして、ストライキだけじゃないんですよ。そのストライキさえ日本は絶滅状態ですけど。内科の先生とかは、患者一人に15分以上丁寧に見て、外来混乱させるとかの遵法闘争も可能ですし、その他にも色々。入院継続希望する限り退院させずに、楽な患者で病棟埋めちゃう方法とかもあるかなあ。私のように非常勤となって学会で問題になる程度の報酬を得るというのも闘争の一つと認識しています。こんな審議会に期待せんと各自が行動しないとダメですね。ストライキしない労組は労組ではなく、入る価値はありません。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年9月22日 (金) 10時26分

>患者一人に15分以上丁寧に見て
当然タイムカードを押してから8時間経ったら帰宅するんですよね?
現状のママじゃそのまま延々と働き続けそうな悪寒が。。。

それにしても我が国もドイツみたくストすりゃいいんですよ。
一部知識人の方達は「地球よりも重いイノチガー」なんて叫ぶでしょうけど
その命の護り手の値段を安く見積もっている現状を見過ごしている時点で
戯言寝言の類でしか無くなるのは自明の事の筈ですもの。

投稿: | 2017年9月22日 (金) 12時24分

闘争方法は自分の性格に応じて選択する必要があるのは当然です。頭良いことになっている職種なんだから、自分で選びましょう。逃散は、本来闘争方法ではありませんが、医師免許は自分についてくるので、医者の場合は一つの方法として選ぶことができます。逃散が嫌な人の場合として、遵法闘争を例示しましたが、定年間際の公務員医師以外は、選ぶメリットはないでしょう。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年9月22日 (金) 13時12分

嫌なら辞めろでFA

投稿: | 2017年9月23日 (土) 20時54分

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