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2017年8月 2日 (水)

人間は嫌いな場所よりも好きな場所でより働きたがる

今の時代には色々なハラスメントがあるそうですが、この6月におよそ2年続いた航空会社客室乗務員の妊娠時の就労拒否に関する「CAマタハラ訴訟」が、原告側の完全勝利とも言える内容で和解したと報じられており、当然ながら原告側は勝利宣言を出していました。
ただ興味深いのは裁判中に関連する制度を次々と改めていった航空会社側が「会社の先進的な制度(他社にはないもの)が和解で確認された。当社としては、今後ともこの制度を率先して充実していきたいと考えている」と、まるで勝者のようにコメントしていた点です。
いずれにせよ法律で妊婦労働者に対する不利益な行為が禁止されている以上、雇用者側にはどうやっても勝ち目がないのだろうとは思うのですが、医療の世界においても先日同じくマタハラ問題でこんなニュースが報じられていました。

採用予定の医師にマタハラ 大阪の医療センター部長(2017年7月25日朝日新聞)

 大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)で、採用予定の医師に対するマタニティー・ハラスメント(マタハラ)があったとして、センターが小児科の女性部長を厳重注意としていたことがわかった。5月31日付。センターは懲戒処分ではないことを理由に公表していない。

 センターや関係者によると、女性医師は昨年末ごろに採用が内定し、今年4月から勤務予定だった。今年2月、妊娠がわかったと、部長にメールで伝えると、部長は「病院に全く貢献なく、産休・育休というのは周りのモチベーションを落とすので、管理者としては困っている」と記し、「マタハラになるかもしれない」としつつ、「非常勤で働くのはどうでしょうか」と送り返したという。

 センターは、部長のメールの内容は、男女雇用機会均等法で防がなければならないと定める妊娠、出産などを理由に不利益な扱いを示唆する言動で、いわゆるマタハラだったと認定。部長を厳重注意、監督責任のある病院長を所属長注意とした。女性医師はセンターで勤務しなかったという。

この件に関しては賛否両論様々な意見があるようなのですが、結果を見ればこの部長一人の言動によって医師一人の雇用に失敗したばかりか、こうして全国に知られたことで下手をすれば今後も他の医師から忌避される可能性すらあるわけです。
医師の場合もともと需要に対して供給不足であり、特に今回のような急性期の基幹病院で働ける小児科医師が非常に希少で争奪戦も激しい中で、雇用により「周りのモチベーションを落とす」場合とどちらが得かの判断が出来ていたのかどうかで、管理職としてそうした面で批判の余地はあったかも知れません。。
いずれにしてもお互い合意に至らなかったのですから仕方ないとしか言えませんが、社会全般に人材不足が叫ばれる時代にあってどこの職場でも優秀な人材をより多く持ちたいのは当然として、ではその方法論をどのようにするかと言うことには議論があるだろうと思います。
医師などは仕事が忙しいのは仕方ないと言う意見もありますが、その分給料が高ければ我慢すると言う人もいれば、いや休日はきちんと取れなければと言う人もいて一律に何がいい方法だとも言えませんが、先日雇用者側の立場でこんな記事が出ていたのを紹介してみましょう。

「この病院が好き」という気にさせる - JCHO大阪病院 清野佳紀・名誉院長インタビュー(2017年7月25日医療維新)

――改めてJCHO大阪病院が、女性医師支援をはじめ、ワークライフバランスの改善に取り組まれたきっかけをお教えください。

 私が岡山大学小児科教授を定年退職し、大阪厚生年金病院(当時)の院長に就任したのは、2003年です。就任して間もない頃、育児中の女性の産婦人科医から「辞めたい」と相談を受けたのです。「どうしたら、仕事を続けられるか」を尋ねたら、「毎日午後4時に帰れたら、続けることができます」との答え。産婦人科部長に聞いたところ、その女性医師がいなくなると、分娩を続けるのが難しくなるため、午後4時までの勤務でも構わないとの回答でした。女性医師の配偶者は、別の病院の産婦人科医だったので、週1回、当院に当直に来てくれることになりました。最初はこんな取り組みから始まり、院内の職員あるいは地域の理解を得ながら、ワークライフバランスの改善に取り組みました。
 その際の基本的な考え方は、ギブ・アンド・テイク。例えば、医師のワークライフバランスを悪化させている要因の一つが、主治医制。当たり前のことですが、一人の医師が24時間診療するのは無理です。複数主治医制や医師やコメディカルなどとのチーム医療制を導入して、お互いに業務を分担した方が、医師だけでなく、医療の質が上がることから患者にとってもメリットがあるはず。
 ワークライフバランスの改善には、地域との連携も必要です。例えば、産婦人科ではオープンシステムを採用し、地域で開業されている先生方が、当院で分娩を行うほか、小児科、産婦人科では夜間の当直も担当してもらいました。今は当院の医師が増えたため、地域の先生方への当直依頼は減ったのですが、10年くらい前は、両科では、当直の5~7割くらいは地域の先生方が担っていました。こうした地域連携は、開業の先生方のメリットも大きく、当院のような基幹病院とつながりを持っていることは、いざという時に患者さんを紹介できるほか、各種勉強の機会を得ることにつながっているようです。

――ワークライフバランス改善を進めるに当たって、院内の理解はすぐに得られたのでしょうか。ご苦労された点などは。

(略)
 文句を言う人は必ずいます。女性医師の中にも、「育児中だからと言って、時短勤務にするのはおかしい」と訴えてきた人がいました。それに対し、「あなたはうちの病院には、向かん」と言ったこともあります。男性医師には、「お前たちが“イクメン”しないから、病院が支援策を講じなければいけないんだ」とも、よく言っていました。最初は私自身、女性医師と一緒に保育所探しもたくさんしました。そうしたら、驚かれてね。彼女たちはうちに就職してくれましたよ。
 短時間正職員制度であっても女性医師を活用した方が、結果的に医師も集まり、働きやすくなる――。病院全体の雰囲気が変わってくるにつれ、各種制度が定着してきました。医師が少なかったり、女性医師が育児などで苦労をしている診療科の部長などは理解が早かった。一方で、女性医師が少ない診療科でも、「なぜそんなことしなければならないのか。男性医師を雇えばいい」という考え方で、最初はあまり本気ではなかったけれども、女性医師が増えてくるにつれ、変わってきました。診療科により10年くらい差があったでしょうか。

――医師の働き方改革では、例えば、自己研さん、カンファレンスや学会発表の準備などが、勤務時間か否かなどが議論になります。JCHO大阪病院ではどのように扱っているのですか。

 その点は、いつも議論になります。私は勤務時間でいいと思いますが、世間的にはそうは見ないのでしょう。当院の場合、タイムカードと自己申告で勤務時間を管理していますが、何が勤務時間に当たるのかなどについては各自の良識に任せています
 医療者は、モチベーションが高い集団。病院は、「働きたい」と考える人が勤務している職場です。診察や手術などをさせなかったら、医師はすぐに辞めてしまうでしょう。そうならないように、環境を整えるのがトップの役割。「この病院が好き」という気にさせないといけない

――先生が院長に就任された2003年から、お辞めになる2010年までに、医師を100人近く増やしています

 一気に100人増やしたわけではなく、毎年徐々に採用していきました。医師を増やしても収支は悪くならないことが2、3年経てば分かってくるでしょう。それで増やし続けたのです。とはいえ、当時は病院改築前だったので、診察室や手術室のキャパシティーを考えれば、200人程度が限度だったと思います。
 採用は、当時は医師不足が顕著だった時代なので、大学医局経由よりも、病院に直接応募してくる医師の方が多かったですね。また初期臨床研修もフルマッチの状態が続いており、後期研修もそのまま当院に残る医師が多い状況です。
(略)

「この病院が好き」と言う気にさせないといけないとは医療に限ったことではなくどんな職場にも言えることだろうし、かつての日本型企業経営はこうした職場を理想としていた部分もあったと思うのですが、なかなか今の時代に見られなくなったのは少し残念ではありますね。
しかしこの医師不足が言われる時代にこうまで医師を増やせると言うのも驚くような話ですが、ここで非常に興味深いのは医師が働きやすくするための制度を導入しようとすると、当の医師から強い反対意見が出たと言うのはなかなか示唆的な現象のように思えました。
JCHO大阪病院の内部事情は全く存じ上げないので現場の空気の変化などは何とも言いかねるのですが、これだけ医師が次々とやってきていると言うのは少なくとも対外的なイメージは悪くないのだろうし、冒頭の記事と比較すれば特に女医さんが大阪で勤務するならどちらを選ぶのかです。
それにしても個人的な意見としてではありますが医師の時間外勤務についての考え方も示されていて、先日紹介した新潟市民病院院長の見解とはまさに対象的とも言えるのですが、さて医師としてどちらの病院で働きたいかと言われるとさぞや判断に迷う先生も多い、のでしょうかね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

警備員の休憩時間も労働時間に当たるとして、大阪ガスの子会社の警備業「大阪ガスセキュリティサービス」(大阪市淀川区)が淀川労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けたことが31日、分かった。同社は8月1日から勤務体制を改善し、休憩時間としていた分の未払い賃金も対象者全員に過去2年分を支払う。

同社によると、警備員は24時間交代で会社の拠点に待機し、顧客の企業やマンション、個人宅で異常があった場合に駆け付ける。待機中には数時間の休憩があったが、この間も指示があれば出動しなければならなかった。

 労基署はこの時間も労働時間に当たると判断。労基法は、労働時間が8時間を超える場合は1時間以上の休憩が必要と定めており、今年5月、休憩時間の確保と未払い賃金の支払いを同社に勧告した。

 同社は休憩中の出動指示をやめるなど改善する。同社担当者は「休憩時間で見解の違いがあったが、適切に是正する。未払い対象者や額は精査中」としている。【根本毅】

https://mainichi.jp/articles/20170801/k00/00m/040/177000c

投稿: | 2017年8月 2日 (水) 07時50分

>ここで非常に興味深いのは医師が働きやすくするための制度を導入しようとすると、当の医師から強い反対意見が出たと言うのはなかなか示唆的な現象のように思えました。

奴隷頭は奴隷の敵だって、はっきりわかんだねw。
しかし、元岡山大学小児科教授なんつーキングオブ奴隷頭が2003年と比較的早期の時点で奴隷頭的思考から脱却されているのは興味深いですね。2ちゃんとかで意識改革されたんでしょうかw?

ところでウチのスタッフが一人、妊娠を機に辞める事となりました。ウチは産休はきっちり取れるんですが、彼氏(まだ結婚してないw)が警察官で、今後どこに異動になるかが分からないので、との事で…。

確かに1年きっちり産休取ったあげく、「旦那が異動なんでこのまま辞めますwみゃはww」とか言われた日にはさすがに心穏やかでいられる自信はないのでいやあ労働者の鏡wwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年8月 2日 (水) 10時06分

晩年の清野教授に教わりました。講義で見聞きした分には愉快な爺さんって感じで悪い印象はないヒトです。小児科医や教授としてどうなのかは存じあげないですが。

投稿: 元学生ですが | 2017年8月 2日 (水) 11時06分

大阪の件は医局人事じゃないかと疑ってましたがどうなのでしょうね?

10年前にドロッポしました。さまへ
>1年きっちり産休取ったあげく、「旦那が異動なんでこのまま辞めますwみゃはww」とか言われた日にはさすがに心穏やかでいられる自信はない
あなたならこのくらい余裕でスルーできると思ってましたけれどw

投稿: クマ | 2017年8月 2日 (水) 11時13分

自己レス、リンク元にありました。

>>私の妻は高校の教師でした。昭和40年代、共働きで2人の娘を子育てしながら仕事を続けるのに、ものすごく苦労しました。毎朝、保育所につれていくのは、私の役割でした。

>>しかし、娘は2人とも医師になったのですが、娘の子どもが保育所に行くようになっても、私の時代とは全然変わっていなかった。

>>私が岡山大学で小児科教授をしていた時代は単身赴任で、自宅は大阪。娘夫婦も大阪住まいだったのですが、大阪でうまく保育所が見付からず、配偶者の実家近くの京都の保育所に預けていました。月曜日の朝、私が、孫を京都の保育所まで連れていき、その後に新幹線で岡山へ。週末は岡山から京都まで孫を迎えに行き、大阪の自宅に戻るという生活を1年ほどしていた時期もあります。今はその孫も医大生になり、近くに住んでいるのですが、私の妻が最近亡くなったこともあり、私が夕食を作ることもよくあります。家事も育児も大変なことは、身をもって知っています。

>晩年の清野教授

誤用ではないようですが、個人的にはご存命の方に使うのは違和感がありますねえ…。

https://dictionary.goo.ne.jp/jn/181887/meaning/m0u/
ばん‐ねん【晩年】一生の終わりに近い時期。年老いてからの時期。「幸福な晩年を過ごす」

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年8月 2日 (水) 11時43分

医師にとって良い環境の職場に人材が集まり、そうでなければそれなりになると言う現象が定着すれば、自然と職場環境の改善も進むのではないかと思います。
この過程で注意すべきは苦労なきところに成長なし的な発想から来る反対論ですが、この点に関してはスポーツの世界の方が経験や実績の蓄積が多いのではないかと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2017年8月 2日 (水) 12時19分

すいません入れ違いでした。

>あなたならこのくらい余裕でスルーできると思ってましたけれどw

多分褒められたw
…もちろん表面的には余裕でスルー致しますが、内心の自由は奴隷にすらありますからwww

>苦労なきところに成長なし

明後日方向に苦労したところで人間が歪むだけかと。
*新潟市民病院院長とか、新潟市民病院院長とか、新潟市民病院院長とかwwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年8月 2日 (水) 13時03分

お前らもエラくなったら下っぱこき使うくせに

投稿: | 2017年8月 3日 (木) 10時01分

>1年きっちり産休取ったあげく、「旦那が異動なんでこのまま辞めますwみゃはww」とか言われた日にはさすがに心穏やかでいられる自信はない

何がどう産休が不当利益になるんだかいまいちわからない
産休中の給付金は雇用保険から出て、出産の手当金は健保から出るし、社会保険は免除
そうすると、職場には、ただ在籍だけして、いないだけ
何か、他人に損をさせてる?
どうなるかわからないんだったら、それがわかるまで在籍しとくことのどこが悪いんだ?
休もうが辞めようが、引き継ぎの負担は同じだろうし

投稿: | 2017年8月 3日 (木) 14時17分

>お前らもエラくなったら下っぱこき使うくせに

黙ってこき使われる必要はないんやでw?特に医師は。
*以前も書きましたが、今後過重労働は飲酒運転と同様、犯罪と認定されるようになります!どんどん告発しましょうw

>どうなるかわからないんだったら、それがわかるまで在籍しとくことのどこが悪いんだ?

悪くない だから余計に 腹が立ちw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年8月 4日 (金) 11時44分

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