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2017年8月 7日 (月)

制度的に推進される医療費削減、それで最終的な破綻は避けられるのか

医療費削減についてこのところ直接的なアプローチが増えている印象がありますが、先日はこんなニュースが出ていました。

企業の健保組合に成績表 厚労省、来年度から 医療費削減狙う(2017年7月31日共同通信)

 大企業を中心に全国に約1400ある健康保険組合に対し、加入者全体の健康状態や医療費水準などを「成績表」にして通知する取り組みを、厚生労働省が来年度から始める。健保組合を通じて経営者に自社の状況を把握してもらい、企業と健保組合が一体となって従業員の病気予防や健康づくりを進めることで、医療費削減につなげる狙いがある。
 厚労省は8月下旬に財務省へ提出する来年度予算の概算要求に必要経費を盛り込む方針。

 人手不足の深刻化や、仕事と生活の両立に対する意識の高まりを受け、従業員の健康増進に積極的に取り組む「健康経営」に企業の注目度が上がっている。成績表は一般には公表されないが、企業が自主的に発表すれば学生が就職活動で判断材料にすることもありそうで、企業間の競争を生む可能性がある。
 厚労省は、経済界や医療団体でつくる「日本健康会議」と連携。40~74歳を対象にした特定健診(メタボ健診)のデータを使い、健保組合ごとに(1)食事や喫煙、運動などの「生活習慣」(2)肥満や血圧といった「健康状況」(3)医療給付費(4)特定健診や保健指導の実施率―などの項目について、全国平均と比較して点数をつけて通知する。
 同業他社との比較や、ランキング表による評価も想定。公務員らが加入する共済組合などにも今後、広げていく。

 厚労省は、健保組合で特定健診や保健指導の実施率が一定の基準を下回った場合に、高齢者医療への拠出金負担を増やす「ペナルティー」についても、来年度から段階的に強化する方針を決めている。

少し前までペナルティ導入による医療費削減まで行うのが妥当なのかどうかと議論されていたように思うのですが、いつの間にか既成の事実としてこうした方針が決まっているところと言い、国もかなり本気で医療費削減に取り組んでいるのが判る話ですね。
しかしこうした健保組合への締め付けが学生への訴求力につながると言うのもかなり無理がある話なのではないかとも思うのですが、少なくとも真面目に健診くらい受けさせていなければペナルティがあると言うことで、一部ブラック企業に関しては抑制的に機能する可能性があるのでしょうか。
いずれにしても医療財政がそれだけ危機的な状況であると言うことなのですが、実際に医療費を使う側がどの程度危機感を共有しているのかと言う点で、先日日経新聞らが行ったこちらの調査結果を照会してみましょう。

「国民皆保険は維持できない」、医師の過半数が悲観的見解…過剰医療蔓延で医療制度破綻の危機(2017年8月15日ビジネスジャーナル)

(略)
医師の52%が「国民皆保険は破綻する」

 これは日本経済新聞と、10万人の医師が登録する情報サイト「メドピア」が共同で、全国の医師に対して行った調査の結果だ。インターネットを通じて1030人の医師から回答を得た。
 その中で「現状の皆保険制度に基づく医療は、今後も持続できると思うか」と聞いたところ、「そうは思わない」との回答が539人(52%)に達した。その理由としては「高齢者の医療費の増大」や「医療の高度化」を挙げる医師が多かったという。
 一方、「持続できる」と答えた医師261人(25%)でも、その多くが「患者負担の増加」「消費税の増税」など、財源を確保できることを条件として追記している。どちらにせよ、現状のままでは維持が難しいとの認識が大半を占めた。

 国民医療費は1990年度に20兆円を超え、2015年度は概算で41.5兆円。国民が支払う健康保険料と患者負担でまかなえているのはその6割にすぎず、残りの4割は税金などから補填されている状態だ。
 しかも政府の推計によれば、2025年度には国民医療費は54兆円に達するという。日々現場を見続けている医師達の危機感は、想像以上に大きい。
 対策としては「支払い能力のある人の負担増」「紹介状なしでも受診できる『フリーアクセス』に一定の制限を」という回答のほか、「医療の効率化」「過剰医療を見直すべき」という医療側の意識改革を求める声もあったという。

アメリカでは500もの過剰医療をリスト化

 近年、現代医療における過剰医療は日本だけでなく多くの先進国で議論されてきた問題だ。
 本来、医療行為にはそれを行うに値する科学的なエビデンスが伴う。しかし現実には「患者が要求する」「お金が儲かる」「患者に訴えられたくない」といった理由で、科学的な根拠に乏しい「無駄な医療」が行われている。たとえば、本来は必要のない検査や手術、抗生物質の使いすぎ、高齢者への多剤処方などだ。
 アメリカでは医療費高騰のかなりの部分を「過剰な治療」や「医療連携のミス」などの過剰医療が占めており、その割合は低く見積もっても「医療費全体の20%を超える」との報告もある。
「医療費支出」と「患者の身体」の両方に負担をかける過剰医療は改めるべき--。そうした声が高まったアメリカの医療界では、2012年に「Choosing Wisely(賢明な選択)」というキャンペーンが立ち上げられた。具体的には、臨床系の医学会に呼びかけ、「考え直すべき医療行為」をエビデンスと共に具体的に5つずつ挙げてもらったのだ。
(略)
 この活動には各国が注目し、現在では、カナダ、イタリア、英国、オーストラリアなど10カ国以上に広まっている。日本でも昨年10月に「チュージング・ワイズリー・ジャパン(CWJ)」が発足。今年6月1日には日本医学会がシンポジウムで取り上げた。
 CWJ代表で佐賀大学名誉教授の小泉俊三医師は、「医療費削減が目的と誤解しないでほしい。大事なのは患者と医師がじっくり考え、望ましい医療を一緒に決めること」と語る。
 それでも、医師と患者が協力して適切な治療を選ぶことが、結果として医療費削減に少しでも寄与するならば、運動を進める意義はさらに大きくなるだろう。

 国民皆保険制度を維持するためには、自己負担の増加や増税など、なんらかの財源の手当が必要になる時が来る。しかし、負担を増やす前にすべきなのは、まず意識を変えることだ。
 私たち患者も過剰な治療のデメリットを知り、「心配だから」というだけの理由で安易に医師に求めないことを意識したい。

過剰医療の問題と言われると何かやらなくてもいいことを無理矢理やっているかのようにも聞こえるのですが、やらなくても良かったと判るのは多くの場合やって結果が出た後の話であって、やらない前の段階ではその可能性も否定出来ないと言う言い方しか出来ないわけです。
とりわけひと頃のマスコミ諸社による熱心な医療バッシングにより、「○○さえしておけば助かったのに!」式の批判が医療現場にさんざん投げかけられた結果、万一の可能性を考えないでいられるほど自分自身に自身のある臨床医はそうそういないのではないかと思いますね。
これを避けるためには一定確率以下と考えられる疾患への見逃し等に関しては免責すると言った公的ルールの整備でもするか、それとも無過失補償制度なりを大々的に普及させるかだと思うのですが、少なくとも現在の日本ではそうした方向に話が進んでいる気配はありません。
医療ミスだ、見逃しだと言われるたびに症例検討的にどうすべきだったのかを考えていけば、当然例外的な可能性も考慮してさらに検査や処置を行っておくべきだったと言う結論にしかならないのですが、これではいくらお金やマンパワーを投じても切りがないのは当然ですよね。

一般的に医療の評価はコストとアクセス、クオリティーの3要素で為されるとされていますが、日本はこの3要素がいずれも高い水準で保たれていると言う点で世界的に見ても医療水準の高い国だと目されている一方、国民の医療満足度は思いの外低いと言う特徴があります。
何故データ上は優れているはずの日本の医療がそうまで不人気なのかと言う点について、調査によれば約2割の人が診察の時に待たされることを理由に挙げたのだと言い、表向きアクセスフリーであるはずが実際には制限があることに不満が募っているとも言えそうです。
この理由としてしばしば言われることに日本の医師が抱える患者数は諸外国の2-4倍以上と際だって多いのに対して、一回当たりの医療費は非常に低く、要するにあまり医療の必要性のない人がたびたび医療にアクセスをしていると言う可能性があるわけですね。
この当たりはとにかく数をこなさなければ儲けが出ないようになっている診療報酬体系に起因する構造的な問題だとも言え、不要不急の受診は控えようとキャンペーンを打ってもあまり意味はないのかも知れませんが、こうした問題点まで把握して国が医療制度を考えているのかどうかどうかです。

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コメント

風邪の患者に安静指示したら処方箋のお代もらってもいいのかな…。

投稿: ぽん太 | 2017年8月 7日 (月) 08時20分

短期的には忙しい外来を止めて患者説明を行い初診料をいただくよりも、さっさと処方箋を切ってお帰りいただく方が良さそうなのですが、長期的な利益不利益と言う点ではまた別な考えもあるかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2017年8月 7日 (月) 13時10分

まずは出来高払をやめることだろうと愚考いたします。

投稿: JSJ | 2017年8月 7日 (月) 16時16分

外来は特にね

投稿: | 2017年8月 7日 (月) 16時25分

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