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2017年8月28日 (月)

奴隷的労働の解消に抵抗する人々への対策

先日こういう記事が出ていたのですが、その一部を引用させていただきましょう。

もはや新興国にとどまらない奴隷的労働リスク 日本に「奴隷」は存在するか?(2017年8月23日日経ビジネス)

 8月10日、英国のリスクコンサルティング企業であるVerisk Maplecroftが公表した2017年度版現在奴隷指標(Modern Slavery Index 2017)は、昨年欧州連合(EU)加盟国の約3/4の国で「現代の奴隷」リスクが増加したと報告した。

 2015年に施行された英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)は、サプライチェーンにおける強制労働や人身売買といった「奴隷制度」を特定し、排除するための取り組みを企業に求めている。英国で事業活動し年間売り上げが3600万ポンドを超える場合、奴隷的労働が、サプライチェーン上で行われていないことを確認し報告することが必要だ。既に日本企業の多くが、対応状況に関する声明をホームページ上で公開している。

 この法律は経済のグローバル化を背景に制定された。世界に展開するサプライチェーンによって引き起こされる奴隷的労働の防止を意図した内容だ。英国内のみならず、拡大したサプライチェーンに含まれる国や地域まで含め、奴隷的な労働による、人権侵害の撲滅をめざしている。英国外の企業でも、本社所在地に関係なく適用される。
(略)
 日本では、公式的には移民の流入が問題になっていない。だからといって奴隷的労働発生のリスクが低いかといえば、話は別だ。日本でも奴隷的労働か? と感じさせる労働の存在が明らかになっている。国内に奴隷的労働? と違和感を覚えるかもしれない。日本では「ブラック企業」と称されている企業がある。ブラック企業とは、厚生労働省のホームページによると、次の3つの一般的な特徴が示されている。

    ①労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
    ②賃金不払い残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い
    ③このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う

 こういった特徴は、1つひとつは奴隷的労働に定義される「強制労働」には該当しない。しかし、違法な長時間労働に加えて、そういった働き方を強いるパワーハラスメントが行われた場合、強制労働と酷似した状況と想定される。拘束して働かせているのではないから、強制労働には当たらないとする考え方もあるだろう。発注企業とサプライヤーは異なる企業であり、現状に対する見解のミスマッチが発生する可能性が高くなる。この点に関しては、発注する際にコミュニケーションを十分に行って、見解のミスマッチを排除しなければならない。
(略)
 人口減少によって、人手不足はあらゆる企業や業界で顕在化している。従業員が頑張って持てる以上の力を発揮するにも限度がある。複数の顧客の無理な要求が重なり生じた強制力が、サプライヤーの奴隷的労働を助長する可能性を想定しなければならない。顧客の無理強いが重なった結果、サプライヤーの従業員に何らかの問題が発生した場合、すべての顧客が奴隷的労働の共犯になるかもしれないのだ。
(略)

今どき奴隷と言えば日本などでは縁遠いものと思いがちですけれども、これが奴隷労働と言えば一転してごく身近なものになってしまう感があって、特に厚労省の示すブラック企業三条件に当てはまる企業・団体など今どきどこにでもありそうですよね。
そのうちで特に違法な長時間労働に加えて、そういった働き方を強いた場合には強制労働と酷似した状況だと言うのですが、しかし特に医療業界などでは幾らでも思い当たる組織はあるのではないでしょうか。
特に三条件のうちの2番目については全くその通りと言うしかなく、先日研修医を死にまで追い込んだ某病院などはまさにその典型例と思うのですが、この種の職場に共通する傾向として医師の仕事を労働ではないと言い出す人がトップに居座っている点があるように思いますね。
この辺りは昨今働き方改革の旗振り役を務めている国としても問題意識があるようで、最近厚労省関係者から繰り返し「医師も労働者である」と言う一見当たり前のコメントが続いていることからも現実に横たわる問題の根深さがうかがえます。

「医師は労働者」、共通認識で議論を - 岡崎淳一・厚労省働き方改革担当参与に聞く(2017年8月21日医療維新)

 政府は今年3月、「働き方改革実行計画」を策定、長時間労働の是正に向け、罰則付きの時間外労働の上限規制導入などを盛り込んだ。今秋の臨時国会への関係法案提出、2019年度からの施行を目指す。
 ただし、医師は、上限規制の適用猶予対象になり、2018年度末を目途に規制の具体的な在り方、労働時間短縮策などの議論を別途進める。8月には、厚生労働省が「医師の働き方改革に関する検討会」を設置、議論がスタートした(『医師の時間外労働の上限規制、年明けにも中間整理』を参照)。
 「働き方改革実行計画」策定に携わった前厚労省審議官の岡崎淳一氏(現厚労省働き方改革担当参与)に、策定時の議論や医師の時間外労働について、どう捉えるべきかをお聞きした(2017年8月18日にインタビュー)。

――医師については、時間外労働の上限規制について、適用猶予にすべきという声が関係団体から出てきたのは、今年に入ってからのことです。

 去年の9月に政府は「働き方改革実現会議」を設置、働き方についての全体的な議論を重ねてきました。医療者に限らず、長時間労働の議論が出てきたのは、年明けからで、まず時間外労働についての基本的ルールを決めないことには、個別分野の議論ができなかったわけです。
(略)
 一方、医師は、現行では「36協定の適用除外業務」には当たらないこともあって、医師をどう扱うかという議論が始まったのはさらにその後です。医療関係団体は、たたき台を見て、「(時間外労働の上限規制を)そのまま当てはめるのは難しい」との声を上げたのだと思います。もっとも、タイミングが遅かったため、建設業、自動車運転手については、適用猶予の内容を3月にまとめた政府の「働き方改革実行計画」に盛り込むことができました。しかし、医師についてはとても短期間で議論を深めることができず、「2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討する」とされました。
(略)
――医師が高度プロフェッショナル制度の対象に該当する可能性はあるのでしょうか。

 大学などで研究がメーンの医師をどう扱うかという議論はありますが、臨床に相当程度従事している勤務医については、概念から考えると、あまりないと思います。通常の労基法の概念で考えれば、患者さんへの診療行為を行う時間を勤務医自身が決めているとは言えないからです。

――では医師の働き方について、どう見ておられますか。「自己研さん」の時間の扱いなどは、どう考えればいいのでしょうか。

 医師という専門職としての評価は当然必要でしょうが、一方で医師自身の健康を守るためのルールを設けて然るべきでしょう。夜勤が続く、当直明けも働くなどの現状が本当にいいのか。各病院の経営者から見れば、医師確保の問題もあるのでしょうが、他の業種の働き方と比べても、医師の無定量な仕事はやはり何とかしていかなければいけないでしょう。
 また「自己研さん」ですが、これは他の業種でも議論されることがありますが、勤務先への貢献になる研さんであれば、一般的には労働時間と見なされます

――応招義務については、勤務医個人ではなく、医療機関単位で考えることも可能かと思います。

 ご指摘の通り、医師法が定める応招義務が、施設単位なのか、個人単位なのか、という点も議論しなければなりません。しかし、短時間で結論が出る話ではなかったので、2年間かけて議論するという整理になったのです。

――医師を「労働者」を見なすことに、心理的な抵抗感を覚える方もおられます。

 「医師は専門職だから、労働者ではない」と言ったところで、労働時間、賃金などの条件について、使用者と労働者は就業時に契約を結び、それを遵守することが必要。これが労働法制のルールであり、「医師は労働者ではない」「労働法制のルールの外側」というのは無理筋の議論。例えば、ノーベル賞受賞学者であっても、大学の教授であれば、労働者。金融機関で何億円もの年収を稼いでいるディーラーでも労働者です。ただし、労働法の全てを一律に適用しているわけではなく、それぞれの業種で例外を認めているわけです。
 また医師が疲弊していて、医師の過労死も見られる現実があるわけです。一方で、各医療機関が必要な医療を提供することを全く無視してルールを作ることはできません。医療政策的な面と、労働政策的な面の両方をにらみながら、検討していくことが必要です。

一般的に業界団体の類は業界の権益を守るための主張を国に行うもので、この種の議論の中で医療系団体が揃って医師の労働規制除外を訴えていると言うのは、彼らの立ち位置を明確にする上で興味深い現象ではあると思いますね。
ここに挙げられた中にも色々と興味深い話題が含まれているのですが、他の厚労省関係者のコメントを総合しても医師の特殊事情は考慮する一方、だからといって労基法等諸法規の除外対象にはならないと言う点は明言されています。
ただその前提条件として応召義務に代表される医師の法的地位や、コンビニ受診など過度の医療需要などの問題もあることは明確で、今後国がどれほど真剣に医師の違法労働是正を目指すつもりなのか、この辺りへの対応がポイントになりそうですね。

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コメント

労働改革が進まないから応召義務撤廃って話にはならないんですかね?
時代も医療体制も変わって不要になった古い制度だと思いますけど。

投稿: ぽん太 | 2017年8月28日 (月) 08時19分

ミスはあってはならない、とか、
延命の期待値を損なったらちょっぴりでも賠償(死体換金)、とか

 頭のおかしい裁判官や患者に付き合うのをおしまいにすれば、まともな働き方で十分にお互いの満足度を上げられますよ。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/dispute/201708/549469.html?n_cid=nbpnmo_twbn 
わずかの延命は賠償に値せず、高裁で逆転判決
2017/8/28 田邉 昇

投稿: | 2017年8月28日 (月) 11時04分

どこかの会長の違和感という感情論と違って理路整然とした意見ですね

投稿: | 2017年8月28日 (月) 19時29分

応召義務などもそうですがある程度臨床上のトラブル回避法が確定してきているので、今後はそうした情報を共有する機会を設けていく必要があるように思います。

投稿: 管理人nobu | 2017年8月28日 (月) 21時28分

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