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2017年6月26日 (月)

研修医の長時間労働は誰もあまり気にしていなかった様子

労基法無視の労働環境によって研修医が自殺すると言う悲惨な事件が先日も話題になっていたところですが、全国的に見ても同様の事態がいつ発生してもおかしくない状況にあると言う状況が報じられていました。

研修医自殺:疲弊する勤務医 長時間労働が常態化 過労死ライン超6.8%(2017年6月18日毎日新聞)

 昨年1月、1人の女性研修医が過労による自殺で命を絶ち、労働基準監督署から今年5月末に労災認定を受けた。そこから見えてきたのは、労使協定を無視した長時間労働の常態化だった。患者の安全のためにも、患者の命を預かる医師の過重労働の是正が求められている。

 「自己犠牲によって自らの生活や将来を失ったりしてはならない
 これは4月、厚生労働省の専門家会議がまとめた「医師・看護師等の働き方ビジョン」の一節だ。新潟市民病院の後期研修医だった木元文さん(当時37歳)の過労自殺は、この1年3カ月前に起きていた。
 医師の過重労働は、長い間改善が進んでこなかった。勤務医を対象にした厚労省調査によると、昨年6月の時間外労働時間は約5割が20時間以上で、6・8%は「過労死ライン」の80時間超。当直も多く、7割が宿直明けに通常勤務をしていた。日本外科学会の会員調査(2013年)では、医療事故やその手前の「ヒヤリ・ハット」の原因の81%に「過労・多忙」があった。

 なぜ過重労働は解消できないのか。一つには「正当な理由なく患者を断ってはならない」という医師法上の「応招義務」がある。
 また、東京大医科学研究所の湯地晃一郎特任准教授(血液内科)は「医師は看護師と違い、交代制になっていない。受け持ち患者の容体が急変すると、当直医に加えて主治医も呼ばれる」と指摘する。
 だが、高齢化や医療の高度化が進めば、医師の負担はさらに増す。ビジョンをまとめた渋谷健司・東大教授(国際保健政策学)は「女性医師が増え、働き方を変えなければ医療は回らなくなる。他の医療スタッフと仕事を分担し、医師本来の仕事の生産性を上げるべきだ」と訴える。
(略)
 労働組合「全国医師ユニオン」の植山直人代表は「入力作業などを他の職員に委ねても、医師の負担はあまり減らない。交代制勤務ができるよう医師数を増やすべきだ」と主張。聖路加国際病院の福井次矢院長は「救急や病理は医師不足が深刻で、国は診療科ごとに医師数の調整をしてほしい」と話す。
 政府が3月に公表した働き方改革実行計画は、医師については残業時間の上限規制適用を5年間猶予した。労働時間の短縮だけでは救急医療に支障が出るといった指摘もあり、議論は続きそうだ。【熊谷豪】

 ◇研修医自殺の新潟市民病院 「緊急対応」外来を制限

 木元さんが働いていた新潟市民病院は、医師にとって激務とされる総合病院の中でも過酷さが際立っていた。
 新潟労働基準監督署が認定した木元さんのうつ病発症1カ月前の残業時間は「過労死ライン」の2倍の160時間超。毎日新聞が情報公開請求で得た資料によると、同時期に後期研修医として在籍していた医師の7割以上の20人が、労使協定で定められた月80時間の上限枠を超える残業をしていた。
 病院側も手を打っていなかったわけではない。2009年に労基署から長時間労働の是正勧告を受けた後、医師数を2割増やし、医師の事務を代行する医療秘書も5倍以上に増員した。だが、外来患者も09年度の25万2753人から16年度は26万8703人に増加した。救急外来は過半数が軽症患者で「多くの市民が、うちに来れば何でも診てくれると思っている」(片柳憲雄院長)という状態だった。

 労災認定後の今月6日、市は同病院の「緊急対応宣言」を発表した。紹介状のない一般外来患者の受け入れ停止と、治療済みの患者を近隣病院へ回す対策が柱。篠田昭市長は「過重な負担が病院にかかり、これまで通り患者を受け入れて診察を続けるのは困難だ」と理解を求めた。
 同じく市内で3次救急を担う新潟大医歯学総合病院は、既に同様の対策を進めている。ここでは後期研修医の残業時間に労使協定違反がほとんどなく、過重労働の抑制に一定の効果が出ている。
 ただ市民病院は、地域住民の健康を守ってきた身近な存在だ。近隣病院が断った救急患者を「最後のとりで」として診てきた自負もある。「責任ある立場として患者を受け入れない選択肢はない」と複数の職員が語る。
 木元さんの夫は取材に対し「医師の使命感は分かるが、妻の死は病院による殺人だ」と訴えた。「全国過労死を考える家族の会」東京代表で、自らも医師の夫を過労死で亡くした中原のり子さんは警鐘を鳴らす。「医師の長時間勤務は、犠牲的精神など個人の力で解決できるものではない」【柳沢亮】

大淀病院事件を始めとして今日に至るいわゆる医療崩壊過程の引き金を引いたと言ってもいい毎日新聞が、今や他人事のような顔でこうした記事を書いていることに隔世の感を抱く方々も少なく内のではないかと言う気もするのですが、臨床研修制度が改まって以降かなり改善が進んでいた研修医の待遇もこれだけ問題があると言うことですかね。
しかし記事を見ていておもしろいなと思ったのが死者まで出した新潟市民病院の改善策なるものの内容なのですが、一般に研修医にはあまり関係がないだろう初診患者の外来診療を制限したところで、「過半数が軽症患者」と言うコンビニ化が進んでいる以上さして入院患者も減らないのだろうし、病床稼働率が大幅低下するのでもなければ研修医の負担はあまり変わらないのではと言う気がします。
この辺りは各施設によって様々な対策を講じているところだとは思いますが、仮に研修医の業務制限がうまく行ったとしてもその上の若手医師に負担がスライドしているだけでしょうから、施設全体としての業務量が減らなければどうにもならない理屈ですが、この点は常にフル回転で営業しなければ経営が成り立たないようになっている保険診療上の制約も大きいのでしょう。
そう考えると過重労働防止のためには抜本的な診療報酬体系の改革も必要になると考えられるのですが、諸外国との比較で日本の医療現場では医師の診療する患者数や病床数の多さが以前から指摘されているところで、この辺りの是正が労働環境改善に結びつくかどうかと言う視点での検討も行っていくべきかなとも思います。

医師の中でも研修医の長時間労働は世界的な課題でもあって、しかも世界各国とも「まあ仕方ないよね」とあまり深刻に問題視していないような気配もあったようですが、近年公的に研修医制度を廃止したドイツなどでも未だに「激務の割に報酬が少ない」「雑務ばかりで十分な研修を受けられない」と言った不満が根強く、現場に医師が定着してくれないことを問題視するようにはなってきているようです。
アメリカでは研修医の起こした医療事故が訴訟沙汰になり、結局これも過労が原因であるとして2003年より80時間ルールと呼ばれる一連の就業規制を導入していますが、面白いことにこの制限がこのところ部分的に緩和され、卒後1年目での連続勤務の上限がそれまでの16時間から24時間に引き上げられたと言いますが、要するに診療に影響がなければ普通ではない長時間勤務自体は問題視しないと言うことですよね。
この緩和に先立ってランダム化比較試験まで行われ、勤務時間制限を緩めても診療の質には影響しないと言うことが確認されたそうですが、しかし一方で長時間勤務を行えば研修の質が高まるのかどうかも気になるところで、そもそもの疑問としてどんな高度な医療を学ぼうとしているにせよ、16時間連続勤務しても出来ない研修とは一体どんなものなんだと率直に感じますね。


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コメント

>「責任ある立場として患者を受け入れない選択肢はない」と複数の職員が語る。

こいつら全員縛り首にしろ!!!!!!!!!

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年6月26日 (月) 10時11分

この職員って9時5時で帰る公務員事務員だろw

投稿: | 2017年6月26日 (月) 10時32分

こうした場合ついつい思考停止と言う言葉が思い浮かぶのですが、これを機会に地域内医療ネットワークの構築など何らかの対策が進めば市民に取っても良い話ではないかと思いますね。

投稿: 管理人nobu | 2017年6月26日 (月) 13時25分

法律を守らない管理者を逮捕するのが本筋でしょう。しかし、逆な方向で極端な例も、実際あります。同僚がバイトしている某私大病院では、15時にママ女医が4-5人一斉に帰って、初期研修医は17時で一斉に帰るそうです。で、大量にフリーターを雇わないと、手術室運営が出来ない訳ですが、それならフリーターだけで回す方が安上がりなのに。遵法は遵法なのですが、これはこれでどうかと思います。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年6月27日 (火) 18時04分

あんた達だって大学の手術場看護師が17時で手降ろしたら文句言うんだろ?
法律守れって言うなら他人が法律守ってるのもほめてやらないとおかしいじゃないの?

投稿: そうはいうけど | 2017年6月27日 (火) 18時40分

過労死基準上、「ホワイトな残業」である月間45時間以内の時間外業務を私は否定しません。よって、他人に仕事を押し付けて毎日17時で帰る人を、事務であろうが、医師であろうが、私は個人的には軽蔑します。もちろん、合法なので、軽蔑以外、何も出来ません。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年6月27日 (火) 18時51分

「ホワイトな残業」のラインが「月間 45時間」が 
時代とともに変遷してるだけのことでしょ。

個人の主観による「軽蔑」で「尊敬」でも ご随意に。
法的強制力と切り離されていることこそが、結構なこと。

「法を守ったら褒めてくれ」は 馬鹿じゃないの?
身を守るために法を使うことができないのは 市民じゃなく奴隷。

投稿: | 2017年6月28日 (水) 08時14分

自己研鑽する努力を放棄してる輩に便宜を払う必要はありません。
体力あるうちに「やればやっただけ伸びる環境」を利用しないと、なんですが。

マッチングでそんな研修医を取っちまった人事に見る目がなかっただけのこと。
費用負担についても、おいおい最適化されていくんじゃないですか。

投稿: | 2017年6月28日 (水) 08時21分

>「やればやっただけ伸びる環境」
それが研修先の病院にあればいいのですがね。
マッチングでそんな病院とマッチしてしまった研修医に見る目が無かったと言えばそれまでですが。

投稿: クマ | 2017年6月28日 (水) 08時50分

麻酔フリーター先生ってばHNからして「こっち側」だと勝手に思い込んで勝手にシンパシーを抱いていたんですが…正直ちょっとショックですw。

>「やればやっただけ伸びる環境」

老害奴隷頭乙w
そもそも「やればやっただけ伸び」て、それで何かいい事があるんで?「手榴弾を遠くに投げられるだろうって南方に送られた沢村栄治」がオチなんじゃないかと…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年6月28日 (水) 09時31分

フリーターが割り切った労働で何が悪いと開き直ってたところ、
常雇いの人間の同じ行動を見て逆切れするってなぜなんだろ

投稿: | 2017年6月28日 (水) 10時07分

こうして労働環境改善は今日も遅々として進まないのであったw

投稿: | 2017年6月28日 (水) 10時56分

ドロッポ先生。麻酔フリーターが17時以降の業務断ったら首ですわ。残念ながら。その分、金を取るしか交渉の余地はありません。
>常雇いの人間の同じ行動を見て逆切れするってなぜなんだろ
麻酔科の業務内容を理解するのは無理かもしれませんが、17時で毎日帰れると思っているなら、全く見当違いですよ。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年6月28日 (水) 11時30分

麻酔フリーター先生、事情は理解しましたが、好きで(ですよね?)謂わば個人事業主なフリーター麻酔科医を選択され、交渉次第で割増料金も取れる立場の先生が立ち位置の異なる、労働基準法を遵守しているだけの清く正しい労働者を一方的に腐すのはやっぱり正直如何なものかと…。

ちなみに「好きで」やってようが奴隷勤務医は縛り首にすべきなのは自明なのでそこんとこはよろしこw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年6月28日 (水) 12時33分

フリーター氏は、
フリーターが残業を断ったら首なのはおかしい、とは言わないのですね

投稿: | 2017年6月28日 (水) 16時02分

何らかの思いがあっての遵法闘争は、否定はしませんが、雇用主が36協定に基づいて、ある一定時間残業を命じるのは合法です。違法は縛り首には、全く同意しますが、合法な残業さえ認めないのもどうかとは思います。ただ、頑なに残業しない人が、結構たくさん実在し(例は、先に示した通り)それを支持する人が結構いることにも気づかされました。金銭による合法残業を受け入れる私は、まだまだ食っていけるようです。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年6月28日 (水) 17時28分

合法的な範囲内とは言え、本人が拒否してるのに残業を強いるのはどうかと思う自分がおかしいのか。。。。

投稿: | 2017年6月28日 (水) 18時42分

>フリーターが残業を断ったら首なのはおかしい

断る自由も断られるリスクもあるからこそのフリーター(というか個人事業主)なわけで、そこはおかしくないかなあ、と。
*アニメーターとかの、実情は雇われなのに名目のみ個人事業主あつかいでいいように労働搾取されている構造は正すべきですが。

>雇用主が36協定に基づいて、ある一定時間残業を命じるのは合法です。

労働者がそれを拒否するのも合法ですよね?

>合法な残業さえ認めない

え~と、誰もそんな事は言ってないように思われるんですが…。
少なくとも私は、合法な残業は容認しますが、同時に、残業したくない自由も尊重すべき、とのスタンスです。

>金銭による合法残業を受け入れる私は、まだまだ食っていけるようです。

くれぐれも労働ダンピングだけはなされぬよう、切にお願い致します。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年6月28日 (水) 21時38分

>合法的な範囲内とは言え、本人が拒否してるのに残業を強いるのはどうかと思う自分がおかしいのか。。。。
拒否には合理的理由が必要です。「単に嫌だ。」は、そもそも拒否できません。
逮捕されたり、賠償請求はされないですが、解雇事由されても文句は言えません。
解雇されるリスクも覚悟の上、他人に文句言われる筋合いはない、と言われれば、その通りです。
ただ、誰かが代わりに働くことになるので、「軽蔑する。」と表現したのです。

>労働者がそれを拒否するのも合法ですよね?
「出来ない合理的理由を示した場合」は、です。
ここで厳密な法律論をやる必要もないし、やる気もありませんが、
ちょっと合法の解釈が恣意的だと思います。

>くれぐれも労働ダンピングだけはなされぬよう、切にお願い致します。
競争相手が残業拒否ならば、ダンピングせんでも大丈夫ですね。

投稿: 麻酔フリーター | 2017年6月29日 (木) 07時51分

いくらでも逃げ道のある勝ち組の医者が厳しいのなんのと言ってもそれってどうなのよって感じ
たまにバイトするだけで悠々自適の暮らしができるんだから楽なもんだよね

投稿: ぶっちゃけると | 2017年6月30日 (金) 20時36分

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