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2017年6月28日 (水)

医師会が変わった方法で医師の指導を行っている件

先日は某新聞のトップを飾ったと言うこの記事、御覧になった方もいらっしゃるでしょうか。

<医療事故>「リピーター」医師は27人 13~16年度(2017年6月26日毎日新聞)

 ◇日本医師会が再発防止を指導・勧告

 日本医師会(日医)が、医療ミスや不適切な医療行為を繰り返していたとして、2013~16年度の4年間で医師27人に再発防止を指導・勧告していたことが、25日分かった。日医会員が医療事故に備えて加入する保険の支払い請求が多いケースについて、治療経過などを調べて判定した。民事裁判などでも被害者が異なるミスの繰り返しが表面化することは少なく、実態の一端が初めて浮かんだ。【熊谷豪】

 ミスを繰り返す医師は「リピーター」と呼ばれ、重大な医療事故が相次いだ1999年ごろからたびたび問題視されてきた。昨年12月には、愛媛県内の産婦人科医院で05年以降に死亡3件を含む6件の重大事故が起きていたことが発覚し、県が立ち入り検査した。
 だが、リピーター医師を見つけ出す国の仕組みはなく、15年10月に始まった「予期せぬ死亡」を第三者機関に届け出る医療事故調査制度でも、把握できない

 国内の医師約31万人のうち、約12万人は日医と保険会社が共同で運営する「医師賠償責任保険」に加入している。医療事故で患者や家族への支払い義務が生じた際の保険で、日医は会員医師から請求があれば治療内容や結果を調べ、査定している。
 日医は13年8月から、この仕組みを医師の倫理と資質の向上に活用。弁護士らで作る指導・改善委員会が、医師側に問題がある事故重複例をリピーターと判定している。日医によると15年度までに19人が該当し、25日に開かれた定例代議員会で、16年度は8人と報告された。氏名やミスの内容は明らかにしていない。
 対象となった医師は、地元の医師会から、重い順に▽指導▽改善勧告▽厳重注意--のいずれかを受ける。東京都医師会はこれまでに3件の指導をし、幹部が事故の経緯を聞き取った上で、危険性の高い手術を今後行わないと誓約する書面を提出させるなどしたという。

 ◇再発防止に向けた実効性や透明性に課題も

 損害保険の請求実績からリピーター医師をあぶり出す日本医師会の取り組みは、医療界自ら実態把握を進めるという点で評価できる。重要なのは、これを問題がある医師の再教育や排除に確実につなげ、医療安全の向上に役立てることだ。
 厚生労働相には医師の業務停止や免許取り消しの権限があり、年2回、医道審議会が厚労省から報告があった医師の審査をしている。だが、対象になるのは、診療報酬の不正請求や医療行為と直接関係のない刑事処分を受けたものが大半。医道審は2002年、刑事罰を受けていなくても明白な注意義務違反がある医療事故は処分対象とする方針に改めたものの、ミスの繰り返しを理由とした処分は12年の戒告1件しかなく、形骸化も指摘される。
 日医の取り組みは、強制力を伴わない「指導・勧告」で、ミスの内容も公表しないため、再発防止に向けた実効性や透明性に課題も残る。医療事故の遺族で「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表の永井裕之さんは「せめて医療界の中だけでも情報共有して背景や深層を追究してほしい」と訴える。【熊谷豪】

改めて言葉の定義の問題ですが、事故調制度に絡めて医療法で定義された医療事故とは「提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であって,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの(6条の10)」とされていて、死亡事例以外など世間一般で言うところの医療事故の概念とはいささか異なっていますよね。
ともかくも医療事故と言えば一般には医療の過程で何かしら患者に予想外の不利益が及んだ場合を示すものと言った辺りが最大公約数的なものかと思うのですが、この中の一部に関しては何かしらの不適切な行為に基づき発生した医療過誤(いわゆる医療ミス)と呼ばれ、また明らかなミスがなくとも一定確率で発生するものについては合併症や偶発症と言う言葉が用いられています。
ともかくも医療事故と言えばこの過誤に基づくものなのかどうかと言う部分が常に争点となりがちなもので、特に医療者側と患者側で過誤なのかどうかと言う認識に差異があることが紛争化の発端ともなるため、ともすれば入り口での議論から一歩も話が進まないと言うことにもなりかねないわけです。

今回医師会の試みを見ていてなるほどと思わされるのは、過誤があるかないかと言うことに関してはひとまず問わないと言う点なのですが、保険を使った回数と言う事は民事賠償に至ったケース、すなわち紛争化したものをカウントすると言うことであり、広義の医療トラブルを集計するのにはなかなかいい切り口なのではないかと言う気がします。
医療行為の何をどう処罰対象とすべきかと言う点については未だに意見が定まりませんが、客商売である以上少なくとも顧客と裁判で争う事態になると言うのは何かしら失敗であったと言わざるを得ず、手技的な問題があるのか手を出すべきでない症例や処置にまで手を出したのか、ともかくも同じことを続けて同じ失敗をさらに繰り返すと言うのはうまいことではないでしょう。
ただ記事にもあるように医師会ルートで保険に加入しているのは医師の4割程度と少数派であり、とりわけ相対的に非会員の多い勤務医に関しては一般に開業医よりも重症の患者を扱い、より高度な医療処置を行っている場合が多いと言う点から、こうした議論の対象としてむしろより重要なものであるはずですよね。
ともかくも保険と言うものを医師処分の根拠にすると言うのはかなり筋が違う話だと感じるかも知れませんが、過誤があったのかどうかと言う果てのない議論に敢えて踏み込まないと言う点では判りやすい話であるとも言えるので、だから全医師が医師会経由で保険に加入すべきなどと言った斜め上の話につながらなければ、もう少し広く応用を考えてもいいものに思えます。

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