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2017年6月12日 (月)

進化する学生教育は正しい方向に進んでいけるのか

本日の本題に入る前に、近年ロボットや人工知能の発達が進み各方面での応用が期待されている中、先日こんな面白い応用例が報じられていたことを紹介してみましょう。

ここまで来たシミュレーター「痛っ」「おえっ」、内視鏡挿入でロボットがえずく(2017年6月8日日経メディカル)

 内視鏡検査用スコープが咽頭部に触れると、瞼を閉じ、「痛っ」や「おえっ」と声を発する――。これは生身の患者ではない。医療シミュレーターロボットの動作だ。見た目や内部臓器の構造だけでなく、えずきや咽頭反射といった生体反応も再現。患者の苦痛にまで気を配るトレーニングが、ロボット技術の進化によって可能となる
 内視鏡検査と気管挿管、喀痰吸引の手技をトレーニングできるシミュレーター「mikoto」。テムザック技術研究所(鳥取県米子市)と鳥取大学医学部、鳥取大学医学部附属病院が共同開発し、同院シミュレーションセンターに2017年中に導入する。他の教育機関からの受注も2017年3月に開始。参考価格は、3つの手技のトレーニングを行えるマルチタスクモデルが980万円、気管挿管のみを行うシングルタスクモデルが198万円としている(写真1、写真2)。
 mikotoは、これまでの“マネキン型”のシミュレーターや動かない臓器モデルとは一線を画す。というのも、「患者が苦痛を感じる反射や反応をロボット技術で再現した」(テムザック技術研究所代表取締役社長の檜山康明氏)からだ。開発に携わった鳥取大学医学部附属病院シミュレーションセンター長の中村廣繁氏(医学部副学部長、胸部外科学分野教授)も、「これまでにない新しいものができた」と評する。
(略)
 mikotoの口腔あるいは鼻腔からに内視鏡を挿入すると、咽頭部に設置したセンサーに一定以上の力で触れると、声で咽頭反射を再現する。上咽頭に触れると「痛っ」、中・下咽頭に触れると「おえっ」とえずき、同時に瞬きも行う。なお、実際の患者では舌根に触れることでも咽頭反射が起こるが、気管挿管の手技を行う際に邪魔になってしまうため、現状は中・下咽頭のセンサーで咽頭反射を再現している。

 開発の背景にあるのは、内視鏡検査を行った患者からの「研修医にやられたから痛かった」という声。患者の苦痛を少しでも抑えつつ、「研修医のスキルアップを図れないかと考えた」と檜山氏は語る。マネキン型のシミュレーターを使って手技のやり方を学んだ後に、mikotoを使って正確性を極めるという使い方を想定している。鳥取大学医学部医学教育学分野准教授の中野俊也氏は、「mikotoの登場でシミュレーション自体のレベルが一段階上がるのではないか」と期待する。
(略)
 リアルな生体反応以外にも、mikotoは、(1)手技を定量的に評価できること、(2)人に近いリアルな造形、という2つの特徴を持つ。
 (1)の手技の定量的な評価に関しては、現段階では、咽頭部のセンサーに触れた回数と検査にかかった時間、設定した難易度によって手技を点数評価している。難易度は、開口の制限と首の可動域(それぞれ3段階で変更可能)で決定する。これによって、口が開きにくい、顎が固い、口が小さいなどのいわゆる「挿管困難症」といわれる難しい患者を想定したトレーニングも行える(写真3)。
(略)
 このほか、医師と患者のコミュニケーションによる効果を再現する機能も考えられている。例えば内視鏡検査において、医師が「大丈夫ですよ、ちょっと楽にしてくださいね」と声をかけることで患者の力が抜け、スコープが入りやすくなる。「背中をさすったり声をかけたりすることに応じた反応をmikotoでも再現できれば」と檜山氏は展望する。
 「医学教育が実践を重視する変革期に突入したこともmikotoの開発を後押しした」と中村氏は言う。医師国家試験に実技試験を組み込む検討も進んでいて、今年中に複数の大学がトライアル実技試験を実施する予定という。これまで座学が中心だった日本の教育に、「実技やシミュレーションが浸透し始めている」(中村氏)。
 しかし、いきなり実践や実技を行うのは難しい。そこで、実習をサポートしたり手技のトレーニングを補完したりするものとして、思い切って失敗することもできるシミュレーターが重要になるというわけだ。「これまでの既成概念を打ち破るような、リアリティーに基づいた評価も行えるシミュレーターの開発を目指している。今後は医学教育に欠かせないものになるだろう」(中村氏)。
 中村氏は、mikoto開発の現状を「ファーストステージが終わった」と表現する。今後は、手技の評価基準や、シミュレーションを行う上でのシナリオ作りなどを検討して、mikotoをいかに活用するかという研究を始めたい考えだ。咽頭反射の再現方法なども検討の余地があると見られるが、mikotoを共通の“ものさし”にまでできれば、手技の定量化も可能となるだろう。

ちなみにこの内視鏡トレーニング用の人形と言うものは昔からあるものですが、簡易的なものであればまさに胃袋だけと言うものからある程度本格的な人型を模したものまで存在するものの、やはり生身の人間との間には相当な違いがあると言う共通の課題はあったわけです。
近年ではこの弱点を克服する試みとして電子的に患者の反応を再現するシミュレーターなども開発されていますが、実臨床の環境になるべく近い形でのトレーニングとなるとやはり人型の模擬的人体を用いてのトレーニングが有用な局面も多いのでしょうし、それが生体同様の反応を返してくるとなると指導する側にとっても有用そうには思いますね。
今後こうしたものがどこまで一般化していくものなのか現時点ではまだ何とも言えませんが、少なくとも大学病院レベルであれば学生教育用にこの種のトレーナー導入を進めているはずで、試験等にも実技の能力を問うと言うことになれば企画の統一などについて今後メーカーとも相談しながら詰めていくことになるのでしょうか。
とかく医学教育もこのように時代時代の変化に応じて変わっていかざるを得ないものですが、各大学それぞれに工夫を凝らしたカリキュラムを追及している中で、先日こんな興味深い試みが報じられていました。

常識はずれの医師を作らないために 京大が挙げた問題事例の驚愕(2017年6月9日J-CASTニュース)

   患者の個人情報をSNSに出してしまう、がんの告知中に居眠りをする、無断で遅刻や欠席を繰り返す――。倫理観や態度に問題のある医師に、万が一診断されることになったら不安で治るものも治らないかもしれない。
   こうした医師を世に送り出さないためには、学生のころから「プロフェッショナリズム」を評価・指導することが重要であると考え、京都大学医学部医学科が4年前から「アンプロフェッショナルな学生の評価」という取り組みを行っている。

   京都大学医学部医学科医学教育・国際化推進センターのウェブサイト上で公開されている評価の書式によると、「アンプロフェッショナルな学生」とは、
    「診療参加型臨床実習において、学生の行動を臨床現場で観察していて、特に医療安全の面から、このままでは将来、患者の診療に関わらせることが出来ないと考えられる学生
と定義されている。つまり患者の診療にあたっている現場での実習で、医師として明らかに不適切と思われる態度や行動が見られた医学生を指導している医師が報告するというものだ。あくまでも成績とは独立した評価だが、報告があった場合は指導の対象となり、報告が複数の診療科から出された場合は留年もあり得る

   なぜこのような評価を始めたのだろうか。評価法の考案者である同センターの錦織宏准教授にJ-CASTヘルスケアが取材をしたところ、「医療現場で起こる可能性のあるトラブルの原因を、学生のうちに見つけだし改善させる」ことが目的だと答えた。
    「(卒業後に経験を積むための研修を受けている)研修医になってしまうと忙しくなってしまい、こうした指導を受ける余裕がありません。学生の段階で評価が必要であると考えました」
   医師にプロフェッショナリズムが徹底されていないことで起きるトラブルは医療現場でも常に問題になって、早期の改善が求められているという。では、具体的にはどのような態度がアンプロと見なされるのか。「アンプロフェッショナルな学生の報告例」に上がっている事例を見てみると、

    「ナースステーション内でゲームをしていたので看護師が注意をすると『看護師のくせに』と逆ギレした」
    「患者に失礼な態度を取り、クレームが来たことを伝えると『あんな患者は来なくていい』と言い出した
    「実習で担当した外国人の患者からクレームが入ると、差別的な発言を患者に聞こえるような大声でした
    「インフルエンザに感染していることを隠して患者に接していた

など、全12例からいくつか抜粋しただけでも常識はずれの驚きの内容だ。すべてが実際に報告された内容ではなく、多施設での事例などを参考に作成したものだが、類似したようなトラブルが起きているとすれば大変なことだ。
   錦織准教授は、
    「気をつけなければパワハラやアカハラの原因となる危険性もあるため、賛否を含めた意見やフィードバックを踏まえつつ、今後も評価の設計を考えていくつもりです」

   ちなみに、現場でアンプロフェッショナルな医師が増えているという実態はあるのだろうか。都内で総合病院に勤務するある医師は、J-CASTヘルスケアの取材に「現場全体がどうかはわからないが、私が把握する限りここ数年で急にコミュニケーションや態度が原因でトラブルを起こす医師が増えたとは思わない」としつつ、こう話した。
    「かつては治療に関する技術や知識を有していれば、多少の"欠点"には目をつぶるという風潮もあったかもしれません。診療をしていればいいのではなく、プロとしてどのような姿勢で医療を提供するかがより問われるようになったのではないでしょうか」

しかしあげられた実例を見ていても感じるのですが、どちらかと言うと態度に問題があるのは大ベテランに多く、今どきの若手はしっかりしている人が多いのでは?と言う気もするのですが、いずれにせよ医学部入試でこうした面での評価が合否判定の基準から抜け落ちている以上、一定程度の割合で妙な方々が入学してくることは当然あり得ることですよね。
こうした方々をどうするのかと言うことは別に今になって発生した問題でも何でもなく、かつてであれば人間的人格的あるいは能力的にアレな方々は医局長がうまいことやり繰りして問題の起こりにくいポジションに配置していた時代もあったと聞きますが、今の時代そうした白い巨塔(苦笑)的な大学医局の権威など断じて忌避されるものであり、社会的害悪でしかないと認識されているようで難しいところです。
無論ひとたび医師免許を取得してしまえば余程の事がない限り行動を掣肘することが難しい以上、鉄が熱い学生のうちからどうしてもと言う事例はなるべく除外しておきたいと言う理屈はよく理解出来るのですが、問題はそうした学生の評価を行う大学の先生方の主観がどの程度まで信用出来るのか、むしろ社会的に非常識と言われる側に立つケースの方が多いのではないかと言う懸念ですよね。
「プロとしてどのような姿勢で医療を提供するかがより問われるようになった」のは別に若手医師に限った話でも何でもないし、学生時代からこうした系統的な教育を為されていないベテランの方が姿勢が問われる機会が多いはずですが、ではすっかり冷めきった鉄の塊となり果てた彼らを誰がどうやってたたき直すべきなのかと言うことです。

一例としてこのところ働き方改革で医療の世界でも早急に労基法無視の現状を改めなければと言う社会的圧力が高まっていますが、せめて明文化された法律くらいは守ってくれと言う当たり前のことに対してぐちぐちと文句を言いつつ何とか違法状態を維持しようとしているのは、決まって大学や大病院の幹部を務めるエラい先生方であると言う現実があります。
さすがに「俺達の若い頃は」式のことを言う方々はどこの社会であれ今どき単なる老害として相手にされませんが、医療の特殊性がだとか応召義務が云々と様々な言い訳を並べ立てるのはいいとして、他業界で大企業の社長が同じようなコメントをすれば社会的にどれだけ批判され炎上するか?と言う客観的視点を持てないと言う点でどうなのかですよね。
その意味で労基法何それ食べられるの?などと言い出しかねない常識外れの医師を送り出さないよう、学生時代からきちんと社会常識を学習させておかなければ…と切実に感じるのですが、当然ながら指導する側の大学のエラい先生方も当たり前の社会常識を持っている人間であるのが大前提と言うことでしょう。
以前から大学教員の評価が研究などの業績中心に偏っていて、重要な業務であるはずの学生や若手医師の指導力などが評価されないのが問題とは指摘されるところですが、学生や若手から「あの先生のようになりたい」と慕われ尊敬される先生なら「コミュニケーションや態度が原因でトラブルを起こす」ことも少ないのではないかと言うことですよね。

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コメント

学生がここまで言えたら大物でしょ。
けどこういうの誰を見習ったんだろ?

投稿: ぽん太 | 2017年6月12日 (月) 08時17分

学士入学で20台半ば過ぎの学生にはいるんですよ、
「おま、宮廷出て企業入って適合できずに辞めて、資格取りに来たの判るわぁ」って子。
そんな子の場合、見習ったんじゃなくって素ですよ、しかも臨床志向。

投稿: | 2017年6月12日 (月) 11時19分

学部教育として行うならこうあれ(こうあってはならない)と言う供覧だけではなく、どうやってそこに至るかの方法論も教育すべきかと言う気がします。
昨今流行りのロールプレイングなどで、市民ボランティアにクレーマーを演じていただき対応を学ぶなど面白そうですけれどもね。

投稿: 管理人nobu | 2017年6月12日 (月) 12時34分

>インフルエンザに感染していることを隠して患者に接していた

20年くらい前まではむしろ「医師はかくあるべし」の一例として言われていたような気がします。

投稿: クマ | 2017年6月12日 (月) 17時17分

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