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2017年3月 3日 (金)

改正道交法で高齢ドライバーが医療機関に殺到?

3月12日に施行される改正道交法で75歳以上の高齢者に対する認知症対策が強化される事になっていますが、免許更新時の検査で認知症の恐れと判断されると、今までと違って違反などの問題が何もなくとも必ず医師の診断を受けることが義務化されることになっています。
この結果医師の診察を受けることになる高齢者が年間5万人、うち免許取り消しに至るケースが年間1万5千人と試算されているそうで、これらはいずれも現状の10倍に上ると言うことですが、この激増ぶりに対してそもそも医療機関側が対応出来るのか?と言う疑問の声も根強くあります。

免許更新の認知症診断に医療機関は対応できるか(2017年2月21日日経メディカル)

 2017年3月12日の改正道路交通法施行で、75歳以上の高齢者は運転免許証更新時の認知機能検査で第1分類(認知症のおそれ)と判定されれば、全員が医師による認知症の診断を求められるようになる。この制度変更によって運転免許に関わる診断を要する高齢者は年間およそ4000人 から5万人弱と、大幅に増えると見込まれる。かかりつけ医や非専門医にも診断書作成を依頼する患者が訪れる可能性がある。
山鹿中央病院の原暁生氏は「通院する際や生活にも車が欠かせないこの地域で、私の診断書がきっかけでもし免許取り消しにでもなったら、苦しい思いをさせるのではないか――」と不安に感じている。

 2017年3月12日に迫った改正道路交通法(平成27年法律第40号)施行を前に、認知症患者の診療に関わる医師たちの間では慌ただしい動きが見られている。
 「2月に入り、熊本県警から改正道路交通法に関するアンケートが届き、公安委員会指定の診断書を持ってきた高齢者が初診で訪れた場合、診断書作成に協力できるかを尋ねられた」と話すのは、熊本県内陸部の山鹿市で認知症診療を担う山鹿中央病院院長の原暁生氏だ。神経内科専門医の原氏は、「診断書の作成に可能な限り協力し、診断が困難な場合には専門医など他の医療機関を紹介する」の項目に丸を付けた。
 とはいえ、状況を把握していない高齢者の認知症の有無を初診で判断することに対して強い不安も抱いている。「短期間で初診の人が認知症であるかどうかを診断するのは難しい。さらに、通院する際や生活にも車が欠かせないこの地域で、私の診断書がきっかけでもし免許取り消しにでもなったら、苦しい思いをさせるのではないか……」と不安を吐露する。
(略)
 改正道交法施行後の運転免許証更新に関わる認知症診断を円滑に進めるため、日本医師会は対応法をまとめた手引きを準備中だ。日本認知症学会をはじめとする関連学会も合同で、会員から寄せられた質問に対する回答をまとめたQ&A集の作成を進めている。いずれも改正法施行の3月12日の前を目途に、作業を急いでいる。
(略)
 八千代病院(愛知県安城市)愛知県認知症疾患医療センター長の川畑信也氏は日経メディカルOnlineの連載「プライマリケア医のための認知症診療講座」 で、今回の道交法改正に対する懸念を再三指摘している。その川畑氏に一番の懸念を改めて尋ねると、「明らかに認知症と診断できる症例であればよいが、そうでない患者も多い。認知症で『ない』ことを証明するのはそもそも非常に難しいし、それをかかりつけ医の先生ができるのかという問題もある」と説明する。岡田医院の岡田氏も同様に、「認知症に限らず、その疾患が『ない』ことを証明するのは『ある』と診断するよりも難しい」と指摘する。
 かと言って、「認知症」と診断するのにも相応の覚悟は求められるのは前述の通り。認知症にせよ、認知症でないにせよ、運転免許証更新で求められる診断書を目的に受診する高齢者が増えれば、短時間で難しい判断を迫られる局面も出てきそうだ。
 なお、警察庁が2月13日に示した診断書様式では、診断結果の選択肢の1つとして「認知症ではないが認知機能の低下がみられ、今後認知症となるおそれがある」という項目がある。医師が認知症の有無の判断を保留したい場合にも選ばれそうな項目ではあるが、この項目が選ばれた場合、半年後に運転免許保持者は、臨時適性検査の受検もしくは医師による診断書提出のどちらかが再び求められることになる。
(略)
 ただし、運転免許に関わる診断書を書くことに抵抗感を覚える医師は多いだろう。岡田医院の岡田氏も、これまで多くの認知症患者を診てきたものの、免許に関する診断書は書いたことがない。「専門医に集中するとパンクしてしまうので、かかりつけ医がスクリーニングの役割を果たすことが大切」とは考えているが、「3月以降に急にやるのは難しいので、マニュアルが必要」という条件が付くようだ。

 日本認知症学会などのQ&A集作成の取りまとめを担当している同学会理事長の秋山治彦氏(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター臨床研究部部長)は、「これまでの診療と同様に対応することであって、過剰な不安を抱く必要はない」と説明する。「認知症かどうかの診断には、専門医とかかりつけ医が協力してあたる必要がある。道交法改正への対応で、かかりつけ医の先生がこれまで以上に大きな役割を担う地域もあるかもしれない。ただ、今回の改正がなくても認知症患者は確実に増加する。多くの医師がこれまでと同じく、あるいはより積極的に認知症医療に関わっていただけたらと思う」と話す。
(略)

当然ながら地方に行けば未だに車の運転が出来なければ行動に極めて大きな制約を受けると言うケースは少なからず見られるわけですし、地元の人間以外には狐や狸が走る程度の田舎の農道で多少の認知症の有無が問題になるのかと言う声もないではないですが、それならそれでローカルエリア内だけの免許制度なりを新設するか、セニアカーなどの普及に対して補助金を出すかするべきなのでしょうね。
ともかくも認知症であるかどうかの診断も難しいと言えば難しいのでしょうが、現場で危惧されているのはやはり認知症と診断し免許取り上げにいわば医師がお墨付きを与えることで患者との信頼関係はどうなるのかと言う点で、この観点から長年の診療で気心が知れているかかりつけ医での対応がいいのか、それとも情に流されず客観的に判断出来る専門医で対応すべきなのかも意見が分かれるところです。
ただ医師が認知症と判断し患者がそれを聞き入れず無免許運転で事故を起こしたと言うケースならまだしも患者の責任ですが、場合によってはその逆のケースと言うことも十分想定されるわけで、こうした場合に法的に医師が責任を問われるのかと言う点は誰しも気になるところだと思います。

認知症ではないと診断した患者が事故を起こしたら医師は責任を問われる?(2017年2月17日日経メディカル)

(略)
 今後、医師は、診療した患者さんが認知症と判明したときには、自動車運転は禁止と患者さんと家族に伝えること、さらに書面(カルテ)に必ず残しておくことが必須となります。馬場先生の原著によりますと、認知症と診断しながら、患者さんの免許取消しを回避するために診断書に記載しなかったところ、患者が自動車事故を起こした場合、診断書に虚偽の記載をしたことになるので虚偽診断書作成(刑法160条)、虚偽公文書作成(刑法156条)に該当するそうです。被害者やその家族から賠償請求される可能性もあります。

 「認知症ではないと診断した患者が、その後に人身事故などを起こし、別の医師が認知症と診断した場合、最初の医師の診断の適否を問われないか」の疑問もあるかと思います、これに関しては通常、医師の刑事責任が問われることはないと言われています。事実、2013年11月19日の参議院・法務委員会において警察庁交通局長が同様の趣旨を答弁しています。ただし、民事に関しては別です。民事で相手方から訴訟を起こされる危険性は否定できません。もし民事裁判で敗訴になったとき、入っている保険会社から賠償金が出るのか否かに関しても現時点ではよく分かりません。この件が医療過誤に当たるのか否かなどについて争点になるかと思います。

 認知症と診断された患者が免許取り消しとなり、その後、診断が誤りであったと判明したときも悩ましい問題かと思います。ある病院の神経内科にて認知症と診断された者が免許取消し処分を受けたのですが、1年後に同一の病院の別の神経内科医が認知症ではないと診断し免許証が復活した事例があります。もし、この患者さんが車乗務にて生計を立てていた場合、運転ができなった期間の保証を金銭で求められたらどうなるのでしょうか

診断書や行政処分に不服の場合
 免許取消し等の行政処分に不服がある者は、処分を下した都道府県公安委員会に対して審査請求や取消し訴訟をすることができます。公安委員会は、処分をする相手に対して、不服申立てができること、不服申立て先(都道府県公安委員会)、申立てができる期間について教示することになっています。もし、訴訟という事態になっても各公安委員会が責任を持って対応するとのことであり、医師が直接裁判所などに出頭することはないと思います。

 認知症であるとの医師の診断書に納得がいかない場合には、別の医師に診療を求めることは可能です。つまりセカンドオピニオンは可能とされています。極端な事態を想定すると、認知症ではないとの診断書を作成してくれる医師を求めてあちこちの医療機関を渡り歩く者が出てくるかもしれません。2人の医師の間で診断に齟齬があるときには、公安委員会指定医による適性検査が施行されることになるかと思います。
(略)

今のところ細部までは断定的ではないものの、民事訴訟で訴えられる可能性に関しては(当然ながら、ですが)否定は出来ないと言う話なのですが、それに関しても実際に免許取り消し処分を行う公安委員会が責任をもって対応すると言うことですし、実際にそれで対応しないとなればどこの医療機関も診断書など書かなくなるでしょうね。
ただ最後にさりげなくドクターショッピングへの危惧について語られていますけれども、診断書作成が命じられてから3ヶ月以内に提出と言う期限が定められていること、そして医師の側では診断書作成に関して書けないと思えば断っても良い自由があると言うことですので、実際にはそう無制限にドクターショッピングが出来ると言うわけでもないようです。
ただ実はこの診断書作成とそれに必要な検査自体保険でやっていいものか、自費診療になるのかと言うことも未だはっきりしていないと言う話もあって、聞くところでは某関係省庁の側でも認知症の疑いが高いなら保険診療でいいだろうがケースバイケースで云々とあまり明確な基準を示していないとも言いますから、診断書の内容と併せて窓口支払いにおいても揉める可能性があると言うことですね。

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コメント

今回のような認知症診断を公務ということにして国賠法の対象にしていただければ、医師も安心して対応出来るのですけれども。
ちなみに私は、私の実家(駅へ行くバスが1日3本)よりも交通の便が良い場所なら車がなくても生活が出来ると通常は判断しています。

投稿: クマ | 2017年3月 3日 (金) 08時00分

運転免許に関して問題になるのは「運転する能力があるかどうか」であって「認知症があるかどうか」とは少々異なるとおもうのだが・・
なんで医者が運転能力を診断できるなんて幻想を抱くのか。
65歳以上は数年ごとに筆記試験・運転シミュレーター試験をして合格することを免許更新の条件にするのが一番客観的で公平なんじゃなかろうか
完璧なシステムでなくても野放しよりはよっぽどましなんだが

投稿: | 2017年3月 3日 (金) 08時02分

診断書作成はお断りするよう、私の中の人は方針を決めています。

投稿: JSJ | 2017年3月 3日 (金) 08時22分

何度も言わせないで。「嫌なら辞めろ。」
そもそも運転の可否なんて、わかる医者いるの?

投稿: 麻酔フリーター | 2017年3月 3日 (金) 10時24分

「毎月第2&第4水曜日」ってな感じで日を決めて
医師である保険所長が診断して書く案件にするわけには行かないのでしょうか?

投稿: | 2017年3月 3日 (金) 12時16分

診察時にも訴訟となった場合にも、医師は認知症の診断をするだけで免許を取り消すのは公安委員会である事を説明していく必要がありそうです。
それで医師が責任を問われるなら専門家を守れない社会制度の欠陥と言うしかありません。

投稿: 管理人nobu | 2017年3月 3日 (金) 12時52分

街宣車などで信号無視を繰り返したとして、警視庁公安部が昨年5月に道交法違反(共同危険行為)容疑で書類送検した右翼団体「草莽崛起の会」の男性構成員20人について、全員の免許が取り消される見通しとなったことが3日、捜査関係者への取材で分かった。

捜査関係者によると、暴走族対策に適用することの多い共同危険行為の規定を、右翼団体の街宣車を使った活動に適用し、免許取り消し処分になれば全国で初めて。

20人は栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川の1都4県の40~50代で、東京区検は2日、全員を起訴猶予処分にした。いずれも大筋で容疑を認めているという。
https://this.kiji.is/210359622900056072?c=39546741839462401

投稿: | 2017年3月 3日 (金) 23時50分

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