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2017年3月15日 (水)

厚労省がついに医療行為と刑事責任について研究を開始

先日こんな話が出ていたことをご存知でしょうか。

「医療行為と刑事責任」の関係、厚労省研究開始(2017年3月10日医療維新)

 厚生労働省は3月10日、「医療行為と刑事責任」に関する研究に着手、同日にその「準備会」を開催した。座長は、東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏が務め、医療や司法の専門家ら10人前後で構成、近日中にもう1回開催し、2017年度からの本格的な研究につなげる。医療事故が業務上過失致死罪に当たるのか否か、当たる場合にはどんな医療事故が該当するのかなど、刑法の本質に踏み込んだ研究になる見通し。厚労省医政局医事課によると、異状死体の警察への届出を定めた医師法21条とは別問題として、研究を進める。

 準備会は厚生労働科学研究として開催。2017年度からの本格的研究に備え、過去に医療事故で刑法211条に定める業務上過失致死罪に問われた判例、関連の研究、海外の事例などの収集が目的だ。樋口氏のほか、日本医師会常任理事の今村定臣氏、虎の門病院顧問の山口徹氏、東京大学大学院法学政治学研究科教授の佐伯仁志氏のほか、弁護士、裁判官OB、検事OB、警察OBらがメンバー。10日は、樋口氏が医事法関係、佐伯氏が刑法の専門家の立場から過失論について概説したほか、自由討議などを行った。オブザーバーとしては、厚労省医政局、法務省刑事局、警察庁刑事局が参加。

 2017年度からは、医療行為と刑事責任の関係について、学術的な視点から研究を進める。体制は未定だが、準備会のメンバーを中心に検討する予定。また厚生労働科学研究あるいは厚労省の委託研究など、いかなる形で進めるかは未定。取りまとめの時期や方針なども未定。1年ではなく数年にわたり研究を続けたり、途中の段階で、中間的な取りまとめを行うことも想定し得るという。「医療行為と刑事責任の関係については、これまであまり議論されてこなかった。今後議論に資する資料等を取りまとめになればと考えている」(厚労省医政局医事課)。

 2015年10月からスタートした医療事故調査制度の根拠法である、医療介護総合確保推進法附則では、法の公布(2014年6月25日)から、2年以内に必要な見直しをするとされた。自民党の「医療事故調査制度の見直し等に関するワーキングチーム」で検討した結果、2016年6月の取りまとめで、「医療行為は一定のリスクを伴うものであるにもかかわらず、全ての医療事故が業務上過失致死罪等の捜査対象となり得る状況では、医師が医療を提供するに当たって萎縮しかねない。このような状況を解消するため、医師法第 21 条の見直し、医療行為と刑事責任との関係等について、更に検討を深めていく必要性について、意見の一致をみた」という意見が出たことが書き込まれたことが、今回の研究につながっている。

今からようやく研究に着手すると言うことは今まで何も考えていなかったのかと言われそうな話なのですが、そもそも医師とは唯一合法的に他人に傷を付けることが許される職業であるなどと言われることもあり、一般的な意味での刑事責任をそのまま適用しては医療そのものが成り立たない部分があります。
医療崩壊の危機が盛んに叫ばれた21世紀初めの頃には医療には刑事免責が必要であると言った主張が盛んに為された時期もありましたが、さすがに他の職業と比較してあまりに特権的過ぎると言う批判が避けられなかったこともあるのでしょうか、近ごろではあまり大きな声で主張されることはなくなったように思えるのは何事にも厳罰主義を求める傾向が広まってきたこととも関係しているのでしょうか。
厳罰主義の反動として指摘されているのがいわゆる萎縮医療であったり、JBM(司法判断に基づく医療)であったりするわけですが、ここで注目したいのはこうした状況を解消するための手段として真っ先にいわゆる異状死体の届け出義務を定めた医師法第21条の見直しがあげられていると言う点なのですが、個人的には医師法第19条に定める応召義務などの方が影響が大きい気もします。

ともあれ処罰されるべき医療行為とは何かと言う議論もなかなか難しく、様々な異論反論もあるところですがひとまずその点は置いて、一般に処罰のあり方としては刑事罰、民事賠償、行政処分と言う三つの方法論があり、医療の側からは民事賠償や行政罰は仕方ないとしても、特に刑事責任を問われることに対する忌避感が非常に強いと言えます。
ただこの点に関しては医療の側からの視点と司法の側からの視点で考え方にかなり違いがあり、司法側からは医師に鍵っての刑事責任免除はあり得ないと言う見解が一般的であるようですが、航空機事故調に関わる議論などにおいてもたびたび出てくるように、海外では処罰を前提としては正しい証言は得られず、再発防止のための教訓を得ることが出来ないと言う考え方であるようです。
他方で一般に日本において司法が被害者の復讐として機能している側面が強いと言う指摘もありますが、実質的な刑事免責のために迅速に行政罰を下すべきだとか、強制力を持つ医師の自律的組織を作るべきだとか言った意見もあり、医療業界内部でもコンセンサスが得られていない中で厚労省がどのような結論をまとめてくるのか注目されるところですよね。

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コメント

なにひとつはっきりした結論は出ない予感。

投稿: ぽん太 | 2017年3月15日 (水) 08時19分

座長以下司法関係の方々が多いのでそういう方向での議論が主導されるのだろうとは思うのですが、検察や警察の立場からどのような見解を打ち出してくるのかに注目したいところです。

投稿: 管理人nobu | 2017年3月15日 (水) 12時06分

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