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2017年3月27日 (月)

免疫療法ガイドラインが専門家に与えた葛藤

かねて何かと(余り好意的ではない意味で)話題になることも少なくなかった免疫治療につき、先頃その一種とされる免疫チェックポイント阻害薬が保険収載されたことが知られていますが、それと関連して昨年末に免疫療法全般に関してのガイドラインが登場し話題になっています。

あらゆる癌免疫療法に言及した日本初のガイドライン発行 その免疫療法、本当に推奨できますか?(2017年3月21日日経メディカル)

 2016年12月に日本臨床腫瘍学会は、日本がん免疫学会、日本臨床免疫学会の協力を得て、「がん免疫療法ガイドライン」を新たに発行した。ポイントは、有効性が示されて保険収載された免疫チェックポイント阻害薬だけでなく、自由診療で行われているものやまだ有効性が証明されていないものなど、現時点で知られているあらゆる免疫療法に言及したことだ。

 近年、癌の薬物治療に関わる医師の間で必ず話題に上がるのが、免疫チェックポイント阻害薬だ。もともと免疫系には、免疫応答を活性化させる仕組みがある一方で免疫応答を抑制する仕組みが存在し、それを免疫チェックポイントと呼んでいる。癌はこの免疫チェックポイントを悪用することで、T細胞などからの攻撃を回避して増殖していることが明らかになってきた。そこで開発が進められたのが免疫チェックポイント分子を標的とする免疫チェックポイント阻害薬で、ニボルマブ(商品名オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)、CTLA-4を阻害するイピリムマブ(ヤーボイ)が先陣を切って使用可能になった。しかも悪性黒色腫を皮切りに、肺癌や腎癌、ホジキンリンパ腫など横断的に様々な癌で有効性を示し、薬事承認を経て保険診療で使われるようになってきた。今後も頭頸部癌、胃癌など、様々な癌に適応を拡大すると見込まれている。

日本臨床腫瘍学会ガイドライン委員長を務める室圭氏は「免疫チェックポイント阻害薬の登場でペプチドワクチンなどを再評価しようという研究も始まっている。今回、全ての免疫療法を定義できたことは今後のためにいい機会だった」と語る(写真撮影:森田直希)
 「標準治療と同等もしくはそれを凌駕する効果が臨床試験でしっかりと証明された。標準治療に組み込まれる初めての免疫療法だ」──。愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長で、日本臨床腫瘍学会ガイドライン委員長を務める室圭氏は免疫チェックポイント阻害薬をこう評する。

 免疫チェックポイント阻害薬そのものは抗体医薬だが、免疫系に作用する薬剤であることから免疫療法の一種とも言える。一方、従来から言われている免疫療法は、患者由来のリンパ球を体外で刺激して輸注したり、患者の癌細胞由来ペプチドを投与して免疫系を刺激するもの。世界中の研究者が研究に取り組んできたものの、これまで既存治療を上回ったり、既存治療への追加効果を示した免疫療法は存在しない
 にもかかわらず、一部に自由診療で患者に実施されている免疫療法が存在する。「癌の薬物治療に関わる医師にとって、効果が証明されていない免疫療法は標準治療になり得ず、はなから念頭になかった。効果が証明されていないのに一般診療で提供している一部の動きに『うさん臭いもの』『相手にする必要がない』と切り捨ててきた」(室氏)。
(略)
 これに対し、がん免疫療法ガイドライン作成ワーキンググループ長を務めることになった和歌山県立医科大学第三内科(呼吸器科・腫瘍内科)教授の山本伸之氏は、世の中に存在する全ての癌免疫療法に言及するガイドラインにするという方針を宣言した。
 「こちらは承認されているから良い、あちらは怪しいものだから相手にしない、というのはいわば先入観。ガイドラインだからこそ恣意性を排除する必要がある。存在する全ての免疫療法を対象にして、それぞれに有効性を証明する知見(エビデンス)があるかどうかを科学的に調査した上で推奨できる免疫療法を示すべきだと考えた」と山本氏は言う。
(略)
 山本氏は、「当たり前だが、我々は根拠のある治療を患者に対して示す必要がある。だから、全ての免疫療法と名の付く治療をリストアップし、現時点でどんな根拠があるか、推奨される免疫療法はどれか、ということを明示したガイドラインは、癌治療に関わる医師、ひいては医師の説明を受けて受ける治療を考える患者さんの役に立つはずだと考えた」と語る。

 文献検索については、定義に基づいたキーワードを設定し、2000年1月1日以降に発表されているもので、フェーズ2もしくはフェーズ3試験で、ヒトを対象とした論文を抽出した。そしてフェーズ1試験や単群フェーズ2試験などの非ランダム化試験、本体試験の付随研究などを除外して残った文献を吟味して推奨治療を決めている。
 その結果、ガイドラインに掲載されている18の癌腫を見てみると、何らかの免疫療法が推奨された癌は、造血器腫瘍、肺癌、頭頸部癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、悪性黒色腫の6つだ(表2)。
 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏は、「網羅的に免疫療法を紹介していることはとても重要なことだ」とガイドラインを評価する。「文献を網羅的にしっかりと調べた上で、推奨される知見がある免疫療法を推奨している。逆に、このガイドラインで推奨されていない免疫療法は患者に提供すべきではないと言えるだろう」(勝俣氏)。
 勝俣氏は、「効果が証明できていない免疫療法を一般診療として患者に提供するのは、科学的にも倫理的にも問題だ。有効だと思う治療法ならば、患者に説明し、同意を得た上で臨床試験として実施するべき」と指摘。「このガイドラインの内容こそ患者にも伝わってほしい。患者向けガイドラインも作るべきではないか」と語る。
(略)

非常に多くの免疫療法が網羅的に掲載されていると言う点が特徴として挙げられますが、注目されるのは全ての免疫療法について推奨される、されないと言うことを明示してあると言うことで、勝俣教授らのコメントからもうかがわれるようにやはり本音の部分では後者に相当な力点が置かれているのではないかと言う気もします、
この点で免疫療法に限らず代替医療の類全般に言えることですが、これまで明確なエヴィデンスも存在しないものは専門家としてスルーしてきたことが彼らの布教活動を助長してきた側面も否定出来ませんから、公的な見解として「患者に提供すべきではない」ものを定義したと言うことの意味は小さくはないように思います。
山本教授がこのガイドライン作成作業に関してインタビューを受けていますが、免疫チェックポイント阻害薬が今まで行われてきたいわゆる免疫療法とは違うものではないかと言う考え方もある一方で、そうした違いの明確化と言う意味でもガイドライン作成が必要であったのではないかと言う印象を受けます。

がん免疫療法ガイドライン作成WG長の山本信之氏に聞く 手のひら返しをしてでも免疫療法に注目するワケ(2017年3月21日日経メディカル)

(略)
 我々に「今まで存在してきた免疫療法が悪くて、今回新しく登場した免疫チェックポイント阻害薬という免疫療法はいいものなんだ」という先入観があるのかもしれない。だからこそ、そもそも免疫療法そのものを真摯に見直して、その上で患者さんに提示できるもの、まだ有効性が証明されておらず、患者さんに提示すべき段階ではないものを、整理すべきだと考えたのです。

 当初、「(新たに登場した免疫チェックポイント阻害薬を)保険適応のないような治療と一緒くたにされてはたまらない」という考えがあったことは否定しませんが、作成時にはそういう考えさえも先入観と考え、排除して取り組んできました。
(略)
 なお、効果や安全性を明らかにするためにしっかりと検証された結果があるものの、日本で保険償還の対象となっていない治療が文献検索で明らかになったらどうするかという課題がありましたが、これについては患者さんに大きな負担を掛けることはできないので、原則として保険償還の対象となっていない治療は標準治療として記載しないという方針を定めました。ただ当たり前の結果ですが、効果があることを証明した知見があるのに保険償還の対象になっていない治療はほとんどありませんでした。

──この「がん免疫療法ガイドライン」を、免疫チェックポイント阻害薬だけを対象としたガイドラインとして作成するという選択肢はなかったのでしょうか。

山本 我々、いや、ひょっとしたら私だけかもしれませんが、「免疫療法のことを十分理解しているわけではない」というスタンスから始めました。以前は免疫療法のことをよく知らなくても癌治療はできました。免疫療法は標準治療の選択肢の中になかったので、免疫療法の知識がなくても一番よい治療を提供できたからです。
 今回、免疫療法を整理するにあたり、保険償還の対象になっていないものというだけで排除していいのかと考えました。例えば、水道水を飲んだら治療効果があるという知見が、自分が知らないだけで世の中には存在するかもしれない。調べもせず、先入観だけで排除するのはよくないだろうと。しっかりと定義した上で、その定義に基づいて情報を集めたら、我々が知らなかっただけで、しっかりと検証された知見があるかもしれない。だからまず免疫療法と呼ばれるものを全てしっかりと定義し、ガイドラインに明示したのです。

──質の担保された情報さえあれば、ガイドラインで推奨されるというということですか。

山本 そうです。第三者が見ても妥当だと評価された知見が文献として示されていればガイドラインに掲載するという方針で作成しました。
(略)
 我々、作成ワーキンググループ委員は利益相反(COI)を抱えています。お金の面だけでなく思い入れという面でもです。COIがあるからこそ基準を決めて、その基準に基づいて客観的に作るということに腐心しました。
(略)
──一般的に、今まで特に内科医は「免疫療法なんて(怪しい治療だ)」と考えて、相手にしてこなかった傾向がありませんか。むしろ外科医は、手術をして、でも再発したり切除しきれないことも多く、だからこそ患者検体を持っていることを生かしてペプチドワクチンや体外でリンパ球を刺激して輸注する免疫療法の開発に取り組んできたような気がします。内科医、外科医というのはあくまで印象ですが。今になって内科医が手のひらを返したように「これからは免疫療法だ」と言っている感じも受けるのですが。

山本 その通りです。手のひらを返しました。極端な言い方かもしれませんが、患者さんにとってよい治療であれば治療方法は何でもいいのです。治療方法にこだわりがあるわけではありません。こだわりがあるとしたら、一番よい治療を提供しようというこだわりです。
 もし今までに「免疫療法なんて」と言っていたとしたら、それは今までの免疫療法には有効だという証拠がなかったからです。しかも中にはまだ有効性を客観的に評価できていないのに、臨床試験、臨床研究ではなくて日常診療として提供されているものがあります。有効性が客観的に示されていないのに“治療”を行うことは問題でしょう。もちろん標準治療の選択肢がなくなり、まだ有効性が示されていない開発中の治療法を試すことはあります。その段階で保険償還されていないような治療法を試すという選択肢を患者さんが選ぶことを否定するものではありません。
 でもそれは最低限の安全性を確認した上で、臨床試験として行われるべきものです。試験ではない診療として提供されるのは言語道断でしょう。
(略)

思い入れという面でも利益相反を抱えているとはなかなかに言い得て妙だと思いますが、言葉の端々に様々な葛藤があったことを伺わせる一方で、幸か不幸か古典的な意味でのいわゆる免疫療法に関しては有効であるというエヴィデンスは示されなかったと言うことで、ガイドラインにおいても躊躇なく推奨されざるものとして扱い得たと言うことですね。
この種のガイドラインにこうしたものをどこまで取り上げるべきなのかは当然様々な考え方があるのだろうし、当然今回のガイドラインがこうしたものにまで言及していることに諸手を挙げて賛同する人ばかりではないのでしょうが、いわゆる代替医療や似非医療による健康被害がしばしば報じられる現状を考えると、専門家集団として見解を示してもらいたいと言う声が少なくなかったのも事実でしょう。
今後は癌診療に限らず○○は高血圧に効くだとか、△△は糖尿病にいいと言ったものに対して専門家が見解を求められる機会も増えてくるのではないかと言う気もするのですが、この辺りに話が及んでくると免疫療法など比較にならないほど巨大な商売にも関わってくるだけに、それこそCOI的なしがらみも増えてくるのかも知れませんね。

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コメント

患者に説明はしやすくなったね

投稿: | 2017年3月27日 (月) 12時40分

患者に説明はしやすくなったね

投稿: | 2017年3月27日 (月) 12時40分

ビリーバーな方々がこのガイドラインをどのように引用するだろうかと、今から気になっています。

投稿: 管理人nobu | 2017年3月27日 (月) 17時40分

免疫療法やってる先生はこういうの全然気にしないんでしょうねえ。

投稿: ぽん太 | 2017年3月28日 (火) 09時01分

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