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2017年1月16日 (月)

裏を返せば男性医師が患者を殺していると

アメリカにおける話なのですが、こんな論文がちょっとした話題になっているそうです。

「死にたくなければ女医を選べ」日本人の論文が米で大反響(2017年1月13日ダイヤモンドオンライン)

女性医師(内科医)が担当した入院患者は男性医師が担当するよりも死亡率が低い」――。米国医師会の学会誌で発表された日本人研究者(米国在住)の論文が、現地のワシントンポスト紙、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの有力一般紙がこぞって取り上げるほどの騒ぎとなった。『死にたくなければ女医を選べ!』という報道まであったという。果たして、女性医師に診てもらった方が安全なのだろうか。日本でも当てはまることなのだろうか。その論文を書いたハーバード公衆衛生大学院の津川友介氏に取材してみた。(医学ライター?井手ゆきえ)
(略)
昨年12月、米国医師会の学会誌のJAMA Internal Medicineに「女性内科医が担当した入院患者は、死亡率や再入院率が低い」という調査結果が掲載された。
調査対象はメディケア(高齢者・障害者向けの公的保険)に加入している65歳以上の高齢者で、肺炎や心疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など日本でもおなじみの内科の病気で緊急入院した患者およそ130万人。
対象患者の入院後の経過と担当医の性別との関連を解析するため、メディケアに登録されたデータから病状や診療に関するデータを入手し、入院日から30日以内の死亡率(30日死亡率)と退院後の30日以内に再び入院する確率(30日再入院率)を女性医師と男性医師とで比較した。
この際、患者の重症度や年齢、入院の原因以外に持っている病気など患者の特性と、医師の特性(年齢、出身医学部など)、入院している施設をそろえるなど、結果に影響を与えそうな条件を補正したうえで比較を行っている。
条件を補正した後の30日死亡率をみると、女性医師の担当患者は11.1%、男性医師は11.5%、再入院率はそれぞれ15.0%と15.6%で、女性医師が担当した患者のほうが死亡率、再入院率ともに「統計学的に有意」に低いことが判明したのだ。

「どうせ、女性医師のほうが軽症患者を診ているんだろう?」という疑いの声が聞こえてきそうだが、同調査はこうした批判を事前に想定し、米国特有の職種である「ホスピタリスト」のデータも分析している。
ホスピタリストとは、入院患者の診療しか行わない病棟勤務の内科医のこと。勤務時間内に入院した患者を順番に担当するので、軽症患者を意識的に選ぶことはできないし、逆に「この先生がいい」と患者が医師を指定することも不可能だ。どの医者が誰を担当するかは「くじびき」のようなもので、必然的に各ホスピタリストが担当する患者の重症度は同じレベルにそろうと考えていい。
この結果、対象をホスピタリストに限定した場合でも女性医師が担当した患者の30日死亡率は10.8%、男性医師では11.2%、再入院率は女性医師14.6%、男性医師15.1%とこちらも「統計学的に有意に」女性医師のほうが低かったのである。

実はこの「統計学的に有意に」がミソ。つまり、偶然や計算上の誤差では説明がつかない「明らかな理由」で、女性医師に担当してもらったほうが命拾いする確率が高い、ということが示されたのだ。
研究者の一人が「この死亡率の差が真実であれば、仮に男性医師が女性医師なみの医療を提供すれば、メディケアの対象者だけでも年間3万2000人の命を救える」とコメントしたこともあり、日本と同じく「男性医師>女性医師」と見なす米国では、調査結果が公表されたとたん、ワシントンポスト紙、ウォール・ストリート・ジャーナルなど米国の一般紙がこぞって取り上げる騒ぎになった。
いったい男女の違いの何が、明らかな有意差につながったのだろうか。

慎重にガイドラインを遵守する女性
リスクを取りガイドラインを逸脱する男性

研究チームの一員であるハーバード公衆衛生大学院の津川友介氏は「一般紙では『男性医師は3万2000人を殺している』とか『死にたくなければ女医を選べ!』みたいな極端な扱いをされてしまってちょっと困っています」と苦笑しながら、「例えば、医学部で受けた教育プロセスが同じで勤務先や診療スタイルも同じ、しかも周囲の評判に差がなければ男性医師よりも女性医師のほうが質の高い医療を提供している可能性がある」という。
津川氏の説明によると、一般に女性医師は、診療ガイドライン(GL)などルールの遵守率が高く、エビデンス(科学的根拠)に沿った診療を行うほか、患者とより良いコミュニケーションを取ることが知られている。また、女性医師は専門外のことを他の専門医によく相談するなど、可能な限りリスクを避ける傾向があるようだ。
「ここにあげた理由は先行研究で示されたことですが、今回の調査でも女性医師のほうが、より詳しい検査を行うなど慎重に診療を進めている可能性が示唆されています」
(略)
津川氏は医師個人を客観的に評価する目安になるエビデンスの創出を目指しており、今回の調査結果はその第一弾だ。今後は対象を他領域や外来患者にも拡げていくという。
(略)
「同じ疾患を診ているにもかかわらず、医師の間で死亡率や再入院率にばらつきがあるなら、それは何故なのかを科学的に評価することで修正できるようになります。一般の人がエビデンスに基づいて医師を選択できる指標を提供する一方で、どの病院でどの医者にかかっても標準化された高い質の医療を受けられるというのが研究の最終的な目標ですね」。機会があれば、日本でも同様の研究を行いたいという。
医療者にとって「個人の評価」はあまり歓迎できないかもしれない。しかし、エビデンスに基づく評価基準とビッグデータの活用で医師の「診療成績」を見える化できれば、医療者と患者・家族の間にある情報格差が生み出している医師への過度な期待や極端な不信もなくなるだろう。患者・家族が求めているのは“神の手”ではなく、標準化された質の良い医療を「いつでも、どこでも」提供してくれる医師なのだ。

臨床現場の感覚として単純に男女の医師では客層が違うと言う声も根強いようなのですが、一応そうした因子は補正した上でのこの結果であると言うことですからどう解釈すべきなのかですが、今回の調査ではこの違いが何に由来するのかと言うことまでは明確には示されていません。
当然ながらこうした差異が何に由来するのかと言うことが気になるところですが、診療ガイドラインの遵守などより慎重な診療を心がける傾向にあると言うことであれば、やはりガイドラインと言うものは守った方がよろしいと言う結論になりそうには思いますね。
また大変に穿った見方をするならばメディケアを利用する高齢者と言うことで客層に一定のバイアスがあると言えますから、医療担当者の死生観や医療に対する考え方なども反映されている可能性もあるかと思うのですが、この辺りにも男女差があるとすれば興味深い話です。
いずれにせよ当然ながらアメリカにおける医療事情と日本における医療事情とはまた異なるはずで、特にアメリカの場合医療経済学的な側面から必ずしも医学的に妥当と思われる方法だけを貫くことが出来ない場合も多そうですが、むしろ現場が金勘定にルーズであろうと思われる日本でこそより明確な結論が出てくるのかも知れません。

現実的な女医であることの効能を考えてみますと、記事にもあるように他人に頼ることを厭わないと言うのは例えば疲弊した状態で24時間365日の診療に当たることを避けると言うことにもつながるのでしょうし、昨今しばしば言うところの女医が働きやすい職場はよい職場的な話ともつながってくるのかも知れません。
また男性医師には何も言わない患者が看護師には色々と話をすることは珍しいことではなく、記事にもあるように女性相手の方が気楽に話しやすいと言うことはあるのかも知れませんが、裏を返せば男性医師がしばしば権威的・拒絶的な態度を取っていると言うことでもあって、診療技術の一環としても接遇面に改善の余地があるのかも知れませんね。
こうした話を聞けばさて、これからは男よりも女の医師にかかろうかと考える人もいるかも知れませんが、現実的には未だ女性医師は少数派であり、診療科によっては極めて少ないと言うことですから、望んで受診したいと考えてもそうそううまく当たるものではないと言えそうですが、皆さんは選べる立場にあった場合どちらを選ぶでしょうか。

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コメント

男女の行動になぜそんな差が出るんだろ?

投稿: ぽん太 | 2017年1月16日 (月) 08時45分

女医さんに担当頂いた際 一昔前なら「担当を変えてくれ」ってな患者が多かった事を考え合わせると
隔世の感がありますね。

投稿: | 2017年1月16日 (月) 10時40分

はいはいトンデモトンデモ、と思いきや

>一般に女性医師は、診療ガイドライン(GL)などルールの遵守率が高く、エビデンス(科学的根拠)に沿った診療を行うほか、患者とより良いコミュニケーションを取ることが知られている。また、女性医師は専門外のことを他の専門医によく相談するなど、可能な限りリスクを避ける傾向があるようだ。

…なんかいちいち納得…。<オレ騙されてる?

>患者・家族が求めているのは“神の手”ではなく、標準化された質の良い医療を「いつでも、どこでも」提供してくれる医師なのだ。

「スーパードクターK」の、K自身の胃癌のオペをどっちかというとおちゃらけ要員っぽかった高品に託すエピソードで、「Kはオレ個人を信頼したんじゃない。医師達が黙々と研鑽し、積み上げてきた「医学」を信頼したんだ!医学を修めればオレみたいな凡人でもKを救えるはずだ!」みたいなセリフがありいたく感銘を受けた記憶があります。当時エヴィデンスだのガイドラインだの標準的医療だのの概念は少なくとも一般的ではなかったように思われますので案外先進的な漫画だったのかな?
*まあ結局Kは癌が再発して死亡するワケなんですが。妙にリアルだよなw


投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2017年1月16日 (月) 10時51分

この調査って、患者さんがより改善したのはどちらか、って部分については触れられていないのですかね?
評価が難しい部分ではありますが。

投稿: クマ | 2017年1月16日 (月) 15時55分

男性女性と言う区分けでここまでの差があるのであれば、その所以となったパラメーターについて比較すればどれほど差が出るのか知りたいですね。

投稿: 管理人nobu | 2017年1月16日 (月) 19時26分

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