« 大口病院に行政指導、その実効性には疑問符だが | トップページ | 今日のぐり:「満天香(まんてんしゃん)南蔵王店」 »

2016年11月 2日 (水)

劣悪な労働環境のトップに立つあの業界で改善が進まない構造的背景

先日の悲劇的な大手広告代理店社員の過労死が社会問題化し、企業による長時間労働の実質的強要をどう対策を講じていくべきかが各方面で盛んに議論されていますが、この方面ではトップランナーとも言える某業界についてこんな話もあるそうです。

「長時間・深夜労働、パワハラ」の典型、電通社員過労死 厚労省協議会で川人弁護士、医療機関「労基法違反」の指摘も(2016年10月25日医療維新)

 「このケースは、長時間労働、深夜労働、パワハラといった特徴が、全て重なって発生している。さらに健診では、医師が面談する機会もあったが、そこでも十分なチェック機能を果たすことができなかった。過労死等防止対策推進法の施行後も、日本の職場の現状が全く変わっていない。そのことを改めて痛感した。残念でならない」
 厚生労働省の「過労死等防止対策推進協議会」(会長:岩村正彦・東京大学大学院法学政治学研究科教授)の10月25日の会議で、こう問題提起したのは、弁護士の川人博氏。「このケース」とは、昨今話題になっている電通の新入社員が2015年12月に過労自殺、労災認定されたケースだ。川人弁護士は、社員の遺族の代理人を務める。
 2014年11月の過労死等防止対策推進法の施行後、初めての「過労死等防止対策白書」がこの10月、まとまった。川人弁護士は、「白書は第一歩」と評価しつつ、法施行後も、職場環境の改善が容易には進まない現状を指摘。さらに、川人弁護士は、電通では2013年6月に死亡した社員も労災認定されたこと、2015年8月には労働基準監督署から、長時間労働の是正勧告を受けていたことを挙げ、「労働行政が職場の状況を察知する機会があったにもかかわらず、事件が起きた。労働行政は十分に反省する必要がある」と問題視した。

 厚労省は、25日の「過労死等防止対策推進協議会」で、「過労死等防止対策白書」の概要のほか、過労死防止についての施策を説明(資料は、(厚労省のホームページ)。
 委員の一人、全国過労死を考える家族の会東京代表の中原のり子氏は、白書に盛り込まれたデータで、業種別の「ストレス状況」で、トップが「医療、福祉」であることを挙げ、医療分野での労働基準法の徹底、医療機関への遵守を求めた。中原氏は、小児科医の夫が1999年に過労死、それを機に、医療機関等の勤務環境改善に向け、過労死等防止対策推進法の制定にも尽力してきた(『最高裁が医師不足や医師の過重労働に警鐘』を参照)。
 「医療現場において、長時間労働が常態化しているにもかかわらず、労働基準監督署も監督せず、医療機関も、当然のように労働基準法を遵守していない」と中原氏は指摘し、医師が過労死した昨今の事例を挙げ、「医療者の労働環境改善は、早急かつ重要な課題」と訴えた。
 中原氏は、(1)医師の宿日直を、時間外労働として認める、(2)常態化している長時間労働が放置されている理由の解明、(3)交代制勤務における深夜労働の過重性についての分析、(4)2015年12月からスタートした、メンタルヘルスチェックにおける産業医の負担増――といった、医療機関における現状や課題を挙げ、厚労省と医療機関が対応する必要性を強調した。
(略)

記事の中にあるところの「白書に盛り込まれたデータで、業種別の「ストレス状況」で、トップが「医療、福祉」」と言う指摘には取り立てて意外性はないものの、やはりこれだけ過労死だ、働かせすぎだと社会全体が大騒ぎしている中で医療だけが取り残されているように感じている人も多いのではないでしょうか。
この点に関しては以前と比べれば多少は改善していると言う話もあって、新臨床研修制度や医局制度崩壊、あるいはいわゆるフリーター医の台頭などで「嫌なら辞めます」と言うスタンスを公言する先生方も増え、また雇用者側としても医師不足が喫緊の課題であることから以前よりも医師の労働環境改善に意を用いるようにはなってきているようです。
とは言え施設や状況によっては相変わらず過酷な労働を強いられていることは確かであり、その根本的な背景にいわゆる応召義務の存在があると指摘する声もあって、要はいくら現場が過労死防止のために労働を抑制しようとしても、患者が来てしまえば診療に応じざるを得ないではないかと言うことですよね。
この点では例えば現在他の患者の診療に従事していて手が離せない場合、事情を伝えて他の医療機関に回ってもらう等は当然に考えられるかとも思うのですが、患者側にも妙なところで自意識の肥大した方々も一定数いらっしゃるようで、「診療拒否とは何事か!」と窓口でゴネてかえって手間がかかると言ったケースもあるように側聞するところです。

医療現場の慢性的な過労状態を解消するためにはリソースを大幅に増大させると言う対策も理屈の上ではあり得るのですが、現行の保険診療における報酬体系では病院は常にフル回転していなければ経営が成り立たないようになっていることから、古来リソース増大は医療費増大を招くと警戒する声が根強いことはご承知の通りですよね。
先日気になったのが厚労省の「医師の働き方ビジョン検討会」において提示された医療の目指すべきビジョンとして「患者の価値中心」が掲げられ、「患者の複合的なニーズ・多様な価値観に応え」ることが求められるとされている点ですが、一般的な客商売においては全く当然とも言えるこうした話も、全国一律公定価格によるワンプライス商売を義務づけられている皆保険制度下での診療に合う話なのかどうかです。
同じく皆保険制度をとっているイギリスでは専門医療機関に受診するにはまずホームドクターを受診し受診を指示してもらわなければならない、しかも紹介されても実際の診療ははるか先まで待たされると言うかなり不自由な制度でコストを抑制する一方で、それが嫌ならお金を出してプライベートの医療機関を受診すると言う逃げ道も用意されており、一見不自由そうでありながら非常に高い国民の満足度を得ていることが知られています。
日本では皆保険制度を絶対視する日医のような勢力も根強く、また多くの場合保険診療の方が医療側にもリスクが少ないと言うメリットも多いのですが、長々と待たされず疲れていない先生にしっかり診てもらえると言うことに余分なお金を出そうと言う需要がどれほどあるものなのか、それこそ特区ででも実証実験をやってみるのも面白いかも知れませんね。

|

« 大口病院に行政指導、その実効性には疑問符だが | トップページ | 今日のぐり:「満天香(まんてんしゃん)南蔵王店」 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

奴隷とまでは言わないがハードワークしてくれないと回らないってのはあるでしょうねえ。
仕事量をどうやってコントロールしたらいいのかってことなんだろうなあ。

投稿: ぽん太 | 2016年11月 2日 (水) 08時54分

>奴隷とまでは言わないがハードワークしてくれないと回らないってのはあるでしょうねえ。

そんなところに勤めちゃう奴が悪い!謝れ!過労死してあの世で中原先生に謝れ!!!

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年11月 2日 (水) 09時33分

ハードワークしないと回らないと思い込んでいる人が多いのではないかと。そう思っている人が上層部に多いと、話は進みません。
初期臨床研修も国が週40時間でやれって言っているのに週40時間を超える指導計画を立てる指導医は、自身の指導能力が低いことを自覚するべきです。

投稿: クマ | 2016年11月 2日 (水) 10時13分

まずは目の前の仕事をどこまで先送り出来るかだとか、その辺りから考えていくのが切り口なのかなとも感じています。

投稿: 管理人nobu | 2016年11月 2日 (水) 13時04分

電通も週末の夜に「月曜にプレゼンやるから資料を持ってこい」という無茶なお客の要求に応えるビジネスモデルだから起こったことで。
お客(病院でいえば患者)が「自分のを通すために労働者をこき使うのが消費者の権利」と思っている以上、いくら制限しても無理でしょう。

日本から過剰労働をなくすには過労死した責任を企業だけでなく、顧客にも負わせるしかないでしょうね。
特に我が国の場合は、強者の立場に立つと遠慮を知らないので、かなり目に見える形で処罰しないと学習しないかと。

「無茶ぶりで自殺させたクライアント(患者)が業務上過失致死で逮捕」→「実刑判決を受ける」
というのが年に数回あれば下手な行政指導より効果的でしょう。

投稿: | 2016年11月 2日 (水) 15時36分

医者も出入りの業者酷使してるくせに

投稿: | 2016年11月 2日 (水) 17時42分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/64420799

この記事へのトラックバック一覧です: 劣悪な労働環境のトップに立つあの業界で改善が進まない構造的背景:

« 大口病院に行政指導、その実効性には疑問符だが | トップページ | 今日のぐり:「満天香(まんてんしゃん)南蔵王店」 »