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2016年11月29日 (火)

新聞の煽り報道の後始末は誰がどうつけるべきか

マスコミと医療の関係について、先日面白い話が出ていました。

新聞のネガティブ報道は健康政策に影響する(2016年11月15日日経メディカル)

 日本におけるHPVワクチンに関する新聞報道の変化について分析した帝京大学ちば総合医療センターの津田健司氏らは、接種後に健康を害した1人の患者を紹介したセンセーショナルな1本の記事が、その後のネガティブな報道の基調を形成し、ワクチンと健康被害の因果関係が証明された例はないとする政府の発表後もその傾向は変化しなかったと報告した。詳細はClinical Infectious Disease誌電子版に2016年9月22日に掲載された。

 日本では「Cervarix」と「Gardasil」という2種類のHPVワクチンがそれぞれ2009年と2011年に承認されており、2013年4月に、思春期の少女に対する定期接種が始まった。しかし2013年3月に、朝日新聞が、HPVワクチン接種後に歩行と計算が困難になった1人の女子中学生に関する記事を掲載して以来、同様の症例の報道が相次いだ。接種から症状発現までの時間はさまざまで、ワクチンとの因果関係は明らかではなかったが、ワクチンの安全性に対する国民の懸念は高まり、日本政府は2013年6月に、HPV ワクチンに関する積極的な接種勧奨を一時的に差し控えることにした。
 著者らは、HPVワクチンに関する新聞記事の特徴を分析するために、国内の主要な5紙(朝日、毎日、読売、産経、日経)の記事を対象とする文献調査を行った。具体的には、日本最大の新聞記事データベースである日経テレコン21に登録されていた、2011年1月から2015年12月までに発表された「HPVワクチン」または「子宮頸癌ワクチン」に関する記事を選出し、内容について検討した
(略)
 記事のトーンは2人の医師がそれぞれ別個に判断し、ポジティブ/ニュートラル/ネガティブに分類した。ワクチンの利益に焦点を当てている記事はポジティブ、利益とリスクの両方に触れている記事はニュートラル、有害事象などワクチンの危険性に焦点を当てている記事をネガティブとした。個々の記事に対する2人の評価に基づいて、記事を以下の6群に分類した。2人の判断が一致(ポジティブ・ポジティブ、ニュートラル・ニュートラル、ネガティブ・ネガティブ)、相違(ポジティブ・ニュートラル、ネガティブ・ニュートラル、ポジティブ・ネガティブ)。

 1138本の記事を同定した。それらは、その期間に掲載された新聞記事の0.02%に相当していた。2013年3月より前の記事が487本、それ以降の記事は651本だった。13年3月以前に比べ、それ以降は、HPVワクチンに関する記事が一面に掲載される頻度が高まった。一面掲載記事は、13年3月以前は6本(487本のうちの1.2%)、それ以降は20本(651本のうちの3.1%)で、相対リスクは2.49(95%信頼区間1.01-6.16)だった。
 有害事象に関係するキーワードを含む記事は、2013年3月より前が77本(15.8%)、それ以降は565本(86.8%)で、相対リスクは5.49(4.46-6.75)だった。効果に関係するキーワードを含む記事は384本(78.9%)と340本(52.2%)で、相対リスクは0.66(0.61-0.72)になった。監督当局関係のキーワードを含む記事はそれぞれ、10本(2.1%)と45本(6.9%)で、相対リスクは3.37(1.71-6.61)だった。
 記事のトーンについては、1138本のうち記事全文のテキストが入手できなかった12本は評価対象から除外した。問題の記事以後にネガティブ・ネガティブが増加、13年3月より前は7本(1.4%)だったが、それ以降は196本(30.5%)になっており、相対リスクは21.1(10.0-44.5)になった。ネガティブ・ニュートラルも9本(1.9%)から148本(23.1%)に増加、相対リスクは14.2(6.39-24.1)になっていた。一方で、ポジティブ・ポジティブは94本(19.4%)から27本(4.2%)に減少、相対リスクは0.22(0.14-0.33)、ポジティブ・ニュートラルも、194本(40.1%)から25本(3.9%)に減少し、相対リスクは0.10(0.07-0.15)だった。
 13年3月以前の記事では、ネガティブ・ネガティブとネガティブ・ニュートラルを足しても全体の3.3%で、ポジティブ・ポジティブまたはポジティブ・ニュートラルが59.5%を占めていた。ところがそれ以降は、ネガティブ・ネガティブとネガティブ・ニュートラルを併せると53.6%になり、ポジティブ・ポジティブまたはポジティブ・ニュートラルは計8.1%に減少していた。

 現時点では、国内の専門家のほとんどが、HPVワクチンの接種と、問題とされている有害事象の間に因果関係があることを示す証拠はないと結論している。しかし、一部の医師や研究者、被害者の家族などは、HPVワクチンが有害事象の原因であると非難している。
 2016年3月、信州大学の池田修一氏は厚生労働科学研究の発表会で「子宮頸癌ワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究」と題された発表を行った。この研究は、マウスを用いた基礎研究や少数の臨床データから、ワクチン接種と脳損傷の関係を論じており、ピアレビューを受けたものではなかったにもかかわらず、ワクチンと有害事象の関係を示唆したとして、メディアは発表の内容を広く報道した。こうした否定的な報道は世論に影響を与えやすい。
 過去の同様の事例として、Lancet誌の論文でMMRワクチンと自閉症の因果関係が疑われたことがある。英国ではサウスウェールズ・イブニングポスト誌の報道後に、ウェールズでのMMR接種率が減少した。しかし、現在ではMMRと自閉症の因果関係はないとされている(訳注:わが国ではMMRの接種率が減少した世代で、逆に自閉症の発生率が増加していた)。

 世界の保健当局は、繰り返しHPVワクチンの安全性を主張している。また、16年4月には、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本感染症学会、日本耳鼻科学会など、予防接種に関わりのある15の学術団体で構成される「予防接種推進専門協議会」が、HPVワクチンの接種勧奨の速やかな再開を求めた。しかし、こうした動きにメディアが注目することはほとんどない
 今回の分析は、センセーショナルな症例報告がその後の報道トーンを形成し得ること、当局が科学的な声明を出しても状況は変わらない可能性があることを明らかにした。著者らはワクチンの信用を取り戻すためには、政府が情報発信のイニシアチブを取り、学術団体が信頼の回復に努め、無過失責任の予防接種による健康被害補償制度を作り上げることが必要ではないかと提案している。
(略)

全体的な結果としては予想通りと言うべきでしょうか、こうした報道によって接種対象者の受診行動にどの程度の影響が出ているのかと言うことも知りたいところですが、客観的事情に注目するならば世界的に見ても専門家の大部分が利益が不利益を上回ることから接種を勧めている一方、マスコミは例外的少数派の反対意見の方をより大きく取り上げているとは言えるでしょうか。
もちろん安全性が確認されたと言っても副作用ゼロではないのですから、補償制度などの整備は社会的にも推進する価値がありますが、今回のHPVワクチンに関してはかつてのインフルエンザワクチンの学童集団接種のような社会防衛を目的としたものではなく、個人の防衛を目的としたものですから基本的にはリスクと利益を各個人で勘案して接種の是非を決めればいいのだとは思います。
ただし今回何故ここまで騒ぎが長引いているのかと言う一つの要員として、HPVワクチンの場合はワクチン受益者となる接種対象者が未成年である一方、接種するかどうかを決めるのが保護者である親であると言う点も挙げられると思いますが、将来子供が成長し子宮癌になった場合に接種させなかった親が責任を取れるのかと言う指摘はあるところですよね。
この辺りは親が宗教的思想的信条から子供の輸血拒否をすると言ったケースと同様の問題だとも言えますが、輸血拒否事例の場合緊急にそれを行わなければ死んでしまうと言ったケースでは児童虐待として一時的に親権を停止してでも輸血をしたと言うケースが実際にある一方で、ワクチンに関しては結果が出るのは何十年も先の話であると言う難しさもあります。

今回の事例に限らず、一部の進歩的なマスコミなどはともすれば少数意見こそ多数意見であるかのように大々的に取り上げる傾向は以前から指摘されていましたが、当然ながら患者の受診行動はもちろんのこと、万一副作用が出るなりして医療訴訟にでもなった場合患者や家族が訴えの根拠として真っ先に注目するのがこうしたマスコミによる報道だと考えられますよね。
一方で実際の法廷において本来的には専門家内部での多数派によって形成されるコンセンサスと言うものが判断の根拠となるはずなので、訴えた患者や家族にすれば「あれだけ新聞テレビで大騒ぎされたのにおかしい!不当判決だ!」と言いたくなる気持ちも理解出来るのですが、この辺りの齟齬は煽りに煽ったマスコミにその是正や摺り合わせを期待することが出来るのかどうかです。
医療業界の内部においても全く問題なしとしないところはあって、もちろん学問ですから何でも多数派が正しいと言うわけではなく少数意見を主張する自由も当然あるわけですが、少なくとも訴訟の場において多くの専門家からは首をかしげられるような奇妙な意見が採用されると言うのはあってはならないことで、参考人や鑑定人として登場する医師の資質については業界としてどう担保していくかが課題でしょうね。

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コメント

関わらない関わりたくない

投稿: | 2016年11月29日 (火) 10時09分

HPVだろうとなかろうと治療を受けるのは難しそうだから気の毒

投稿: | 2016年11月29日 (火) 10時59分

今時マスゴミの煽りにノセられるような情弱は○んでどうぞ!と思わないではないですが…、

>将来子供が成長し子宮癌になった場合に接種させなかった親が責任を取れるのか

君はいい患者さんであったが、君の母上がいけないんだよwwww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年11月29日 (火) 11時04分

説得しなかった医者の責任にされたかないんでしょうから
親にだって病気の責任負わせるのはどうかとw

投稿: | 2016年11月29日 (火) 12時09分

以前にも紹介したところですが、医師の側でも接種拒否者には無理に勧めない傾向になってきており、関係者皆がリスクのある行為に対しては腰が引けてきている時代になっているとも言えます。
もちろん治療行為に伴うトラブルを忌避するあまりそもそもの疾患に伴うリスクを無視するのは本末転倒なのですが、そちらに関して将来自己責任として甘受出来るのかどうかが今後の課題でしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2016年11月29日 (火) 12時53分

接種を勧めなくて子宮頸癌になったとしても、何十年も先の話ですから責任も問えないでしょうし
ワクチン否定派になった方が仕事は楽そうですね。

投稿: | 2016年11月29日 (火) 22時27分

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161124-00000043-jij-soci
前代未聞w

投稿: | 2016年11月29日 (火) 22時35分

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