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2016年11月 9日 (水)

市販薬拡大路線の功罪

処方薬の市販薬化拡大の問題に関してはどちらかと言えばそのリスクを強調する論調が目立っていた印象ですが、先日はこうした記事が出ていました。

米国は医療費の大幅削減に成功 “強い”薬も薬局で買える(2016年11月6日.dot)

 風邪薬、下痢止め、咳止め、酔い止め、鎮痛剤……。ドラッグストアでさまざまな薬を手軽に入手できる点はアメリカも日本も同じだが、決定的に異なるのは、日本では医師の処方が必要な「強い」薬が、アメリカではドラッグストアでも売られているところだろう。
「赴任したとき、日本では医師が処方しなければならない胃潰瘍薬、『プロトンポンプ阻害薬』がドラッグストアに並んでいたことに驚きました」
 と、アメリカのマサチューセッツ州ボストン在住の医師、大西睦子さんは言う。

 米国では、病気などの初期症状が出たとき、ファーストステップとして、病院に行くより、市販薬に頼るケースが一般的だ。
 2015年度の米国消費者ヘルスケア製品協会の報告によれば、米国の市販薬市場は400億ドル、平均的な家庭は年間に約338ドルを市販薬に使っていることになるという。
「8割以上の成人は、軽い病状が現れた場合、まず市販薬に頼りますし、深夜に子どもに症状が出た場合も、7割近い親が市販薬を与えているというデータがあります。医療費が高額になりがちな米国では、市販薬は、手ごろな価格でアクセス可能な、貴重な医療手段なのです。市販薬がないと、軽い症状でも、高額な医療に依存しなければなりません」

 市販薬は医療費の削減という意味でも効果的だ。医療機関を受診すれば6~7ドルかかるが、市販薬では1ドルで済むとされる。医療費を770億ドル、薬のコストを250億ドル削減しているという。セルフメディケーションが成功しているように見える米国だが、消費者リテラシーはやはり高いのか。
副作用や他剤との飲みあわせなどの諸注意は、『ドラッグファクト』としてパッケージに大書きされ、メディアで定期的に周知されているので、理解は進んでいると思います。市販薬のポーションは大きく、数百錠単位で売られているものもあります。子どもが大量に誤飲してしまえば大事ですから、保存場所にも気を配るのが常識です」
 それでも、特に健康リスクの上がる高齢者は、多剤服用での相互作用や、腎機能や肝機能低下などが問題になるケースは後を絶たない。手に入れやすいために、乱用して中毒に陥るケースも報告されている。
「たとえば、解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンは、過剰服用で毎年3万人が入院し、重篤な肝障害を引き起こすこともあるため、FDA(米国食品医薬品局)も注意を促しています」

 医師にかかりづらいといわれる米国だが、市販薬を服用する際は、かかりつけ医(プライマリードクター)に電話で相談できる仕組みもあるという。
「セルフメディケーションは、消費者の理解が進むことはもちろんですが、薬剤師や医師など医療従事者の理解と協力、それを支える仕組みが機能してはじめて、成立するものだと知ってほしいです」

市販薬の服用でもかかりつけ医に相談できると言うのはありがたいことだと思いますし、電話相談でお金が取れるシステムが確実に出来るのなら日本でも欲しいところですが、例の安い料金で24時間365日対応義務の主治医制ではまあ、現場のモチベーションとしてはどうなんでしょうねえ…
こうした習慣が根付いていれば医療費削減効果も相応に高いだろうと言うことは理解出来るのですが、医療費、薬のコスト合わせて1000億ドル以上を削減していると言われると大変なもので、逆に言えば今さらこの部分に規制を入れると言うわけにもいかない状況なのでしょうね。
日本ではこれとは逆に市販薬として容易に手に入る薬であっても保険が効いて安いから、安心だからと医療機関で処方してもらいたがる患者が多く、昨今では処方薬の市販薬化を推進すべきかどうかと言う議論が続いていますが、当然ながら薬に対する理解がなければ不安も高まろうと言うもので、「何の薬か知らないけど白くて丸いやつ」レベルの患者さんにも問題なしとしません。
この辺りの妥協的なアイデアとして最初は処方薬として診察後に出し、その後は理解が良い患者についてはリフィル処方箋なりを用いて継続すると言ったやり方もあるかと思うのですが、医療現場のリソース負担軽減などには相応に有効かも知れませんが、こうした再診患者への処方で食っている先生方からは反発も出そうですよね。
ただ市販薬にしても基本的には安全性の高いものが選んで売られているとは言え、使用法を間違えれば何でも毒にはなるもので、特に先日こんな記事が出ていたことは注目したいところです。

風邪薬「パブロン」でトリップする<金パブ中毒>な人たち~市販薬をドラッグ代わりに乱用(2016年10月27日ヘルスプレス)

(略)
 巷では「金パブ中毒」なる現象が起きている。「効いたよね、早めのパブロン」のCMでおなじみのパブロンシリーズの「パブロンゴールド=金パブ」(大正製薬)だ。
 金パブを頻繁に使ううちに手放せなくなり、毎日、大量に摂取するようになる依存者は少なからずいる
 原因は主に、パブロンゴールドに含まれているジヒドロコデインリン酸塩だ。このジヒドロコデインリン酸塩やリン酸コデインなどのコデイン類の成分は、咳を鎮める効果に優れている。
 咳は本来、異物が体に入り込まないようにするための防御反応で、脳内の「咳嗽(がいそう)中枢」という神経中枢がコントロールしている。
 咳嗽中枢の働きを抑えれば、止まらない咳も抑えることができるのだが、その感覚が「ふわっと気持ちいい」のと、依存性があるのとで、いつのまにか薬を手放せなくなる傾向のある薬だ。

 同じ鎮咳剤で「非麻薬性」があるのに対し、コデイン類はアヘン由来の成分で、「麻薬性」中枢性鎮咳薬に分類される。
 麻薬性といっても医療用なので、もちろん安全レベルの含有率なのだが、大量服薬すれば事情が変わってくる。コデイン類の麻薬性に魅了され、1日1箱ペースで乱用する「金パブ中毒者」もいるぐらいだ。

咳止めシロップはウケがいい?

 咳止め効果の高いコデイン類は、何も金パブ特有の成分ではない。その他の風邪薬や、特に咳止め薬の多くに含まれている。
 金パブと同じく、いや、もしかしたらそれ以上にウケがいいのは、「エスエスブロン錠」(エスエス製薬)だ。金パブもそうなのだが、コデイン類に加え、エフェドリンが含有されているからだ。
 エフェドリンは、生薬の麻黄に由来する成分だが、覚せい剤に似た交感神経の興奮作用がある。もちろん覚せい剤ほど強力ではないが、スポーツ選手のドーパミン偽陽性反応に関わることもあるパワーアップの成分だ。

 また、咳止め薬のシロップタイプも<ウケ>がいい。体内吸収がいいのだ。錠剤や粉薬に比べ、そのまま飲める飲みやすさも、シロップならではの利点。薬局で購入後、その場でただちに飲み干せる手軽さがある。
 「咳止めシロップをごくごく飲むとトリップできる」という話が、まことしやかに伝わっているが、一気飲みすれば、人によっては「ふわっとした心地」を強く感じるので、あながち嘘ではない。
 ましてや、1回に2~3本まとめて飲めば、いい「景気づけ」になるという。それを1日に1度ならず、何度も繰り返す人々もいる。
(略)
 そこまで来たら、薬物依存の領域である。正しい判断力や言動を保てず、仕事や家庭に問題をきたし、生活が破たんする人も現れる。自力でその状態から脱するのは難しく、精神科の加療が必要だ。
(略)

この種の飲み合わせや過量投与による副作用を利用して別世界に行ってしまう方々と言うのはいるもので、何と何の組み合わせが効く云々と言った情報も幾らでも世にあふれている時代ですが、市販の感冒薬などは特に肝障害など重大な副作用トラブルを起こす可能性があることに加え、風邪と誤解して肺炎や喘息などの疾患をこじらせてしまうリスクも指摘されているところです。
それだけに用法用量など使用上の注意を守り、改善が見られなければ医療機関を受診すると言ったことは当然だろうと思うのですが、しかし記事にもあるように意図的な誤用、過量投与に関してはいくら添付文書で注意を促しても改善するとは思えず、さてどうしたものかと悩ましいところですよね。
ただ市販薬だから危ないのかと言えば全くそういう話ではなく、当然ながら医療機関で出される処方薬の方がずっと強力な成分を含んでいるものが多いわけですし、複数の医療機関を渡り歩いて危険な薬物を大量入手する方々も実際にいらっしゃるわけですから、これをもって市販薬拡大に反対する論拠とするのも無理があるようには思います。
安全性に配慮はしていても当然ながらリスクもあることは承知しておくべきだとしか言えないし、これも含めて自己責任で利用するのが市販薬と言えばそれはその通りなのでしょうが、しかしこうした用法用量外の使用が拡大すれば医療現場においても今までのように救急車を受けて、かかりつけ医療機関の処方薬だけチェックしておけば済むと言う話ではなくなってくると言う恐さはありそうですね。

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コメント

作成者 さま はじめまして

ブログ読んでいます。

誠に恐れいりますが

該当日記のURL

http://gurikenblog.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-87b2.html

この記事へのコメント 2013/08/20を削除してください。

よろしくお願いします。

投稿: 読者です | 2016年11月 9日 (水) 08時39分

薬局薬店の薬剤師が市販薬も含めてすべてお薬手帳に記載して情報共有、を妄想した人がいた
(恥ずかしながら自分も)、ですが
薬歴未記載とか、かかりつけ何とかのすったもんだもあり、今後も役に立つとは思えない。
TPPが通れば、宗主国と同じ状態になるのでしょう。

投稿: 感情的な医者 | 2016年11月 9日 (水) 10時19分

不肖管理人もお薬手帳は持ち歩いておりませんので、基礎的な病歴薬歴の類は保険証なりにデータを書き込むようなやり方の方がいいのかなと言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2016年11月 9日 (水) 13時03分

=保険薬の薬価=
 ガスター錠10mg(アステラス)→24.6円/錠
 最低薬価のゾロ品→9.6円/錠
=OTCの販売価(いずれも価格comの最安値)=
 ガスター10(第一三共ヘルスケア)12錠 最安価格(税込):¥1,008→84円/錠
 ファモチジン錠 クニヒロ(皇漢堂製薬) 12錠 最安価格(税込):¥397→33円/錠

わが国では
>受診すれば6~7ドルかかるが、市販薬では1ドルで済むとされる
みたいなことにはならなそうな値付けなんですよねえ

投稿: kawakawa | 2016年11月10日 (木) 10時06分

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