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2016年10月 5日 (水)

院内での予期しない死亡の結末

昨今は病院内での物騒な事件が報じられていますが、本日まずは事件とも事故とも言えるこんなニュースが出ていたことを紹介してみましょう。

患者転倒し死亡 別の患者逮捕(2016年9月20日NHK)

19日秋田市の精神科の病院で、入院患者の男性を転倒させて大けがを負わせたとして別の入院中の男が傷害の疑いで逮捕されました。
男性はその後死亡し、警察が詳しいいきさつを調べています。

19日午前5時半すぎ、秋田市内の精神科の病院で、入院中の50代の男性が転倒して頭を強く打ち、意識不明の重体となりました。
病院からの通報を受け、警察が調べたところ、入院中の20代の男が男性に足をかけて転ばせた疑いがあることがわかり、警察はこの男を傷害の疑いで逮捕しました。
重体となった男性は、別の病院で手当てを受けましたが、夜になって死亡しました。

警察によりますと、逮捕された男は調べに対し、男性を転倒させたと認めているということです。
警察は、詳しいいきさつを調べるとともに、男に刑事責任の能力があるかどうかについても調べています。

警察が絡んでいるとなると当然ながら刑事事件となる可能性もあるのだと思いますが、病状についてははっきりしていないものの精神科病院内での事件と言う点がひっかかるところで、仮に措置入院などであったなら社会的責任を問えないから入院させているのではと考えると、起訴して刑事責任を問えるものなのかです。
仮に刑事責任が問われないと言う場合民事訴訟に発展する可能性も高そうですが、この場合は相手患者に支払い能力もさほどに期待出来ないとなれば病院に対して賠償請求が行われることになりそうで、さてこの場合今後にどのような教訓を得るべきなのか、医療上の有益性や患者の権利との兼ね合いもあってなかなか難しい事件となりそうですね。
先日の院内異物混入事件などもそうですが、事件性があるものの扱いは医療現場としては未だ戸惑いが大きいところであり、そうではなくとも後日紛争化し刑事責任を問われることになるのではと言う懸念は常に念頭にあるかと思いますが、そうした現場の感覚を反映しているように見えるのがちょうど一年前に始まった医療事故調制度の現状です。

現場に戸惑い、届け出低調 責任追及に警戒感も 「医療事故調査制度1年」(2016年9月26日共同通信)

 診療に関連した患者の予期せぬ死亡を対象とする医療事故調査制度の開始から10月1日で1年となる。医療機関が自ら第三者機関へ届け出て、事故原因を究明する取り組み。患者側との信頼構築につながると期待されるが、届け出件数は想定の半分にも満たない。医療側からは「予期せぬ」の判断を巡る戸惑いや、責任追及への警戒感も。狙い通りに機能するには時間を要しそうだ。

 ▽判断に苦慮

 「病院では患者が突然亡くなることもあるが、届け出が必要なケースかどうかの判断が難しい事案が少なくない」。これまで、制度上の院内調査の対象となる事案はないという埼玉県の総合病院。それでも院長は運用に神経をとがらせる。
 制度は、患者の予期せぬ死亡や死産に関し、第三者機関「日本医療安全調査機構」への届け出とともに院内調査の実施を規定。その対象とするかどうかは、当該医療機関の管理者が、死亡リスクなどに関する患者側への事前説明や診療録への記録を確認して判断することになっている。
 機構は制度開始前、年間の届け出は千~2千件とみていたが、今年8月までの11カ月間で356件。当初から懸念された通り「『予期せぬ』の範囲の捉え方に現場が戸惑っている」との見方があり、遺族関係者からは複数の医療団体が別々に指針を示している状況を問題視する声も出ている。
 この総合病院は現在、院内に検討チームを設置。医療事故があった場合の対応に関し、調査委員会の発足や外部委員の招集方法などを定めたマニュアルを作成中という。

 ▽訴訟リスク

 一方で、院長は「もともと医療には不確実性が伴うが、その点の理解がなかなか広がらない」と嘆く。院内調査が遺族側による責任追及のきっかけになるのではないかとの意識が拭えないと本音を明かし、「判断に迷う事案ならば、そもそも届け出はしないという医療機関はあるかもしれない」と話す。
 こうした状況を踏まえ、厚生労働省や機構は、制度の趣旨はあくまで再発防止にある点を周知するため医療機関向けの説明会などで啓発を図っているが、訴訟リスクへの警戒感は根強く、機構の関係者からは「理解が浸透するにはまだ時間がかかる」との声が上がる。

 ▽見直し

 厚労省は6月、制度を定めた医療法の関係省令を改正。医師会などで構成する連絡協議会を各都道府県に一つずつ設置すると決めた。現場の相談窓口を統一し、死亡事案に関する情報を共有することで届け出判断のばらつきを防ぐ狙いだ。
 ただ機構によると、制度に基づく協議会が既につくられているのは全都道府県の半数程度とみられる。設置時期や運用は各地域に任されているため進捗(しんちょく)状況は地域ごとに異なり、本格的に機能するのはこれからだ。
 厚労省の検討部会で委員を務めた認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子(やまぐち・いくこ)理事長は「届け出が必要なのに医療機関が独自に『必要ない』とし、患者側も制度の内容を深く知らずに声を上げないケースがある。国民全体の理解を深めていく必要がある」。調査結果に関する報告書の交付義務がない点などに遺族らは不満を示しており「1年たって何が足りないか見えてきた。今後も状況に合わせて見直していくべきだ」と話す。

この医療事故調査制度、患者や国民の感覚からは後々紛争化しそうな可能性のある症例こそ届け出て調査をすべきではないかと言う感覚があるかと思うのですが、今回記事を読んで注目すべきところとして現場の感覚ではむしろ逆で、面倒なことになりそうな症例はなるべく届け出しない方向で対応しているらしいと言うことです。
その最大の理由としてはやはり調査に届け出ること自体が通常ではないことが起こっていたのだと受け止められ、本来起こらなかったはずの紛争化に至るリスクがあると言う点もありますし、何よりも事故調の調査結果を基にして後々刑事や民事での責任を問われるのではないかと言うことへの不安が大きいと言うことでしょうね。
訴訟リスクに関しては患者側は従来から調査結果の公開を望んでいるわけですから、何かしら有責めいた文言があれば訴えると言うのは当然あり得ることでしょうが、現時点でそれを防ぐ方法が用意されていない以上現場が自己防衛に走るのは当然で、結果的に患者の不信が高まり余計な緊張をもたらしていると言う側面も否定出来ません。
制度的に考えると届け出するかどうかの判断を当事者である医療機関側ではなく、第三者によって行われるべきではないかと言う声も根強くありますが、いきなりやってきた部外者に当事者がありのままに事実関係を語ると言う保証がない上に、膨大な数に上るだろう文字通りの意味での予期しない死亡症例を調べるとなると、どれだけのマンパワーが必要になるのかと言う話ですよね。

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コメント

当院ではまだ届け出がなかったと思いますね。
たぶん事故性や事件性があるものだけ届け出ることになりそうな気が。

投稿: ぽん太 | 2016年10月 5日 (水) 08時50分

半端ない書類仕事を押し付けられますからね。これが一番の問題点。
ちょっと書き方間違えたら、揚げ足とられて、最悪、殺人者として無実の罪に陥れられるかもしれないし。

投稿: ふぉれすと | 2016年10月 5日 (水) 10時29分

個人的に気になっているのが病理解剖との絡みで、臨床的に不明な点を病理解剖で解明すると言う論理で承諾いただくと自動的に事故調届け出対象にならないかと言うことでしょうか。

投稿: 管理人nobu | 2016年10月 5日 (水) 12時40分

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