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2016年10月 4日 (火)

日本の医療費支出が本当に世界最高水準であるとしたら

先日OECDが発表した2015年の医療費国際比較で、安さが売りだったはずの日本の順位が3位に急上昇していることをお伝えしましたが、これは統計の取り方が変更になった結果であって、新たな基準に従って再計算すると2011~2013年はなんとアメリカについで2位だったと言うことになるのだそうです。
何故こうしたことになったかと言えば長期医療サービスの定義が変更になったことが大きく、具体的には介護領域における「通所介護」「訪問入浴介護」「認知症向けの生活介護」など38サービスが医療費統計に含まれるようになったことが原因だと言いますが、これについて先日こんな記事が出ていました。

日本の保健医療支出は先進国で最高水準の可能性 医療・介護の抜本改革が急務(2016年9月29日日経ビジネス)

 財務省が2016年8月末に取りまとめた概算要求の総額(国の一般会計)は約101兆円で、100兆円の大台を3年連続で突破した。2016年12月に閣議決定する2017年度予算案に向けて、これから本格的な予算編成が始まる。その際、歳出抑制の主な対象となるのは、医療・介護を含む社会保障費である。
 このような状況の中、OECDが衝撃的なデータを公表した。保健医療支出(対GDP)など保健医療関係の最新データだ。このデータが衝撃的である理由は、2015年の日本の保健医療支出(対GDP)が、OECD加盟35か国中3位(米国とスイスに次ぐ)に急上昇したからである(図表1)。
 厚生労働省は、財務省との予算折衝などにおいて医療予算の増額を要求するとき、高齢化が進展しているにもかかわらず、日本の医療費が先進国の中で低水準かつ効率的である根拠として、保健医療支出(対GDP)の国際比較を利用してきた。しかし日本の保健医療支出が3位であることが事実であれば、その根拠が弱まる可能性がある。

 OECDの「保健医療支出」は、(1)「国民医療費」に、(2)介護保険に係る費用のほか、(3)健康診査や(4)市販薬の売上などの費用を加えた概念。急上昇した主な原因は、保健医療関係データの基準をOECDが変更したことである。
 旧基準(A System of Health Accounts 1.0)に基づけば、近年の日本のランキングは10位前後。例えば2014年の日本の保健医療支出(対GDP)は10.1%で、OECD加盟35か国中10位(米国、オランダ、スイス、スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク、ベルギー、カナダに次ぐ)であった。
 だが、新基準(A System of Health Accounts 2011)を適用すると11.2%になり、その順位は(微妙な差で)3位だが、2位のスイスと同水準に急上昇する。「高福祉国家」の象徴であるオランダ、スウェーデン、デンマークなどよりも上位となる。
(略)
 これは一体、何を意味するのか。日本の保健医療システムは、1961 年に掲げた「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」という理念の下、最近まで、比較的少ない負担で質の高い保健医療サービスを提供してきた。これは事実だが、高齢化により医療費が伸びる事態は避けがたくなりつつあるということだ。
 例えば、厚労省の推計(「社会保障に係る費用の将来推計について《改定後(平成24年3月)》」)では、2015年度に約50兆円であった医療・介護費は、2025年度には約74兆円に膨らむ見通しである。団塊の世代が全て75歳以上になるからだ。この10年間で、医療費は約40兆円から約54兆円に、介護費は約10兆円から約20兆円に増加するという試算だ(合計24兆円)。これは2025年度に向けて、医療・介護に関する抜本的な改革が急務であることを示唆する。
(略)
 今回の基準変更に伴い、日本以外に、保健医療支出(対GDP)が大幅に変化した国はどこか。2013年のデータに基づき、比較したのが以下の図表2である。図表では、「変化幅」を「新基準の保健医療支出(対GDP)から旧基準のものを引いた値」と定め、変化幅の大きい順に左側から並べた。
 変化幅はアイルランド(2.37%ポイント)、英国(1.47%ポイント)、日本(1.09%ポイント)、フィンランド(0.87%ポイント)、スペイン(0.23%ポイント)の順で大きく変化した。

 新基準に基づく公表は今回が初めて。対象となった国々の医療・介護制度は極めて複雑かつ多様であり、新基準で加算すべき他の国の介護関係コストなどに見落としがあれば、今後順位が変わる可能性も十分にあり得る。各国の数値は慎重に評価する必要があることはいうまでもない。
 ただし、日本の保健医療支出(対GDP)が今後も上位を占める場合、それは我々に重い宿題を突きつけることになるはずだ。財政赤字が恒常化して債務残高が対GDPで200%を超える中、社会保障の給付と負担のバランスを含めて再検討する必要が生じる。
(略)

介護保険制度と言うものが出来て医療と介護が切り離された結果、こうした統計的な区分によって議論の元となるデータをどう取り扱うべきなのか曖昧になっていたところがありますが、ひとまずOECDが一つの基準を示したと言うことで今後はこの数字をベースにした議論が始まるのでしょうが、こうなりますと日本の医療費は決して安くはないと言うことになってしまいますよね。
各国の医療制度によって順位変動に大きな差が出るのが当然なのですが、興味深いのは筆者自作のグラフを見る限りでは新旧基準で大きな変動があったのはアイルランドからフィンランドまでの上位4カ国くらいで、その他の国々では目立った変化はないと言うことですから、日本にとっては額面医療費が安く見えるありがたい基準が使われてきていたと言う言い方も出来るでしょうか。
もちろん基準がどうあれ実態は一つであり、国内的には個々の領域の数字や統計に基づいて対応を決めていく必要があるはずですが、近年その抑制が言われることの多い医療介護コストに関して、「まだ国際比較で見れば安く済んでいるから」と言う理由で増大傾向を容認すると言うことは今後やりにくくなってきたと言えそうです。

この点で先日も紹介しましたが日本の医療費対GDP比は実に2005年頃から毎年5%と急速に伸びていると言う話があって、もちろん長期的に低迷する不景気の中でGDPが伸び悩む中で、いわば固定経費である社会保障コストの比率が高まってくるのは当然と言えば当然なのですが、この2005年頃と言えば医療の世界では様々なニュースが連日報じられていた時期とも重なりますよね。
2004年には新臨床研修制度も開始され、これに伴い各地の医療機関から医師が引き上げられ医師不足問題が一気に顕在化する一方で、医療現場に大きな影響を与えた大野病院事件が2004年、大淀病院事件が2006年であり、2006年には小松先生の「医療崩壊」が出版されており、このままでは日本の医療は一体どうなってしまうのかと業界内部だけでなく社会的関心をも集めていた時期でもありました。
当時は全国各地で様々な医療崩壊対策が講じられ制度的にもいわゆる医療費抑制政策が見直されるなど一定の配慮や手当がなされたわけですが、その結果いわば先送りされてきたとも言える諸問題の解決が今後抜本的に行われることを迫られるようになるのかどうかで、医療を巡る本当の激震はむしろこれからが本番になってくるのかも知れませんね。

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コメント

金儲けのための無駄な検査ばっかだから仕方ない

投稿: | 2016年10月 4日 (火) 08時55分

>金儲けのための無駄な検査ばっかだから仕方ない

そこは私達と認識が違いますね。「訴訟対策の無駄な検査」なんです。

投稿: ふぉれすと | 2016年10月 4日 (火) 10時21分

金儲けと言うから聞こえが悪いだけで、正しくは赤字を出したくない、減らしたいからでしょう。
普段の無駄が許せないなら、いざという時の利便性もあきらめてもらわないと。

投稿: JSJ | 2016年10月 4日 (火) 11時04分

民営団体である以上制度の中で黒字化を追及するのは当然なんですが、医療の場合何を以て無駄とするのかはなかなか判断に難しく、また割り箸事件のような例外的なケースも時にはあるわけです。
しばしば聞く話ですが検査で異常がなかったから無駄な検査だった、金返せと言うのもどうなのかですが、訴訟対策でなくとも除外診断目的の検査はどこまで必要かも今後の検討課題かと思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年10月 4日 (火) 14時10分

最近二人程、手術は受けるけどお金もったいないから病理検査は出さなくていい!って患者サマがおられました。だったらウチでは手術出来ません他へ行って下さい、で終了でしたがw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年10月 4日 (火) 14時48分

そういうのって診療拒否って言われないもの?>ドロッポ先生

投稿: 通りすがり | 2016年10月 4日 (火) 15時18分

病理検査が必要だと言う説明は難しいってことなのかな?

投稿: | 2016年10月 4日 (火) 15時42分

悪性なら病理の結果でその後の治療が変わるのだから病理は必要
それが受け入れられないなら丁重にご紹介でいいのでは

投稿: | 2016年10月 4日 (火) 16時43分

10年前の2006年のGDPと比較すると、他国が2-3割増えているのに、日本はほとんど増えていない印象です。
http://www.garbagenews.net/archives/1335765.html
医療費の対GDP比率をみると、分母が増えていないため、国際比較で相対的に順位が上がったのではないでしょうか。
医療費の伸びが問題というより、GDPが伸びないのが、この現象の主因とも思えます。

投稿: 通りすがり | 2016年10月 4日 (火) 19時57分

>そういうのって診療拒否って言われないもの?

言ってくれないかな~言ってくれたら100倍くらい言い返してやるのにな~w、と手ぐすね引いてわくわくしながら待ち構えておりましたが生憎言って下さいませんでしたw

>病理検査が必要だと言う説明は難しいってことなのかな?

今のところそんなことおっしゃりやがったのはそのお二人だけですから…ねえw?

>悪性なら病理の結果でその後の治療が変わるのだから病理は必要

色素性母斑だと思ってたら悪性黒色腫だった、脂漏性角化症だと思ってたら基底細胞癌だった、ってのが実際ありましたからねえ。
*もちろん基幹病院にポイー、でw

>丁重にご紹介

紹介の必要はないでしょう自分で探せ、って事で。病理検査もケチるくらいにお金にシビアな患者サマから紹介料取ったらますますもめそうだし。
*紹介料取らないっていう選択肢はないw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年10月 5日 (水) 10時01分

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