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2016年10月21日 (金)

医療費自己負担と受診抑制の関係

現役若年世代のワープア化が問題になる中で、国の進める少子化対策にも大いに関係しそうなこんな記事が出ていました。

子供が医者行けない世帯は1.8% 大阪府調査(2016年10月11日産経新聞)

 経済的な理由で、この1年間に子供を医療機関に受診させることができなかった経験のある大阪府内の世帯が1・8%あることが11日、府が公表した子供の生活に関する実態調査の集計(概要)で分かった。習い事や学習塾に通わすことができなかった世帯は1割を超えた。一方で、放課後を「ひとりでいる」と回答した小学生は16・6%、中学生は17・1%にのぼった。

 7月に実施した調査は、単独で行った大阪市などを除く府内30市町村の小学5年と中学2年がいる計8千世帯が対象。郵送で計5173人分を回収した。

 保護者への質問(複数回答)では、経済的な理由で食費を切り詰めるなどの経験がある世帯が約4割にのぼった。

1.8%が多いのか少ないのかは微妙なところだと思いますが、子供の医療費も倹約せざるを得ない世帯が一定数いるだろうとは想像出来る一方で、今どき子供は医療費無料ではないのか?と素朴な疑問も抱いたのですが、大阪府内の小児医療費自己負担は一医療機関あたり1日最大500円を月二回までが上限なのだそうで、総額月2500円以上の自己負担は返却されるのだそうです。
この金額が医療受診を躊躇する金額として高いのか安いのかは議論のあるところだと思いますが、いずれにしても最大で月に2500円の自己負担が出来ないと言うことであれば他にも様々に日常生活への影響が大きそうですから、ひとまずは貧困対策を優先すべきだと言うことなのでしょうか。
この問題の場合医療費負担を懸念してのいわば自主的な受診抑制が働いていると言えますが、国全体の方針としては医療費増大への対策としてむしろ受診を抑制させる方向に誘導をかけようとしているのは周知の通りで、先日もこんな記事が出ていました。

入院患者の光熱水費負担拡大、賛否分かれる/医療保険部会、「金融資産等の保有状況考慮した負担」は反対(2016年10月12日医療維新)

 社会保障審議会医療保険部会(部会長:遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)は10月12日、療養病床の65歳以上の入院患者の光熱水費負担額を1日320円から370円に引き上げるほか、現在徴収していない65歳未満の入院患者から徴収するなど、入院時の光熱水費に関する患者負担の見直しについて議論したが、賛否は分かれ、結論を出すには至らなかった(資料は、厚生労働省のホームページ)。
 一方、介護保険の「補足給付」と同様の考え方で、医療保険でも「金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担」を導入する是非について議論したが、医療者や患者の立場だけでなく、保険者の立場の委員からも「時期早尚」との声が相次ぎ、慎重な検討を求める意見が大勢だった。

 入院時の光熱水費に関する患者負担と、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担についての検討は、2015年6月の「骨太の方針2015」で、「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化」の観点から提言された。2016年末までに結論を得て、法改正が必要な見直しを行う場合は、2017年の通常国会に法案提出する予定になっており、引き続き社保審医療保険部会で検討する。
(略)
 今回は、光熱水費の負担を求める対象を拡大するかが論点。具体的には、(1)療養病床の65歳以上の入院患者の負担額を、320円から370円に引き上げ(介護保険では2015年4月から370円)のほか、(2)療養病床の医療区分2と3の入院患者、(3)療養病床の65歳未満の入院患者、(4)一般病床や精神病床等の入院患者――について、新たに光熱水費の負担を求めるか否かが論点。
 健康保険組合連合会副会長の白川修二氏は、(1)については、介護保険と揃える観点から支持。(2)と(3)についても、在宅療養との整合性なども踏まえ、「年齢区分なく、療養病床の入院患者については全て光熱水費を求めるべき」と述べた。(4)の一般病床の入院患者については、短期で退院する患者と長期入院する患者に分かれることから、「一定期間、例えば、90日を超える人には負担を求めるという考え方がある」とし、精神病床については、「療養病床と同様に負担を求めるべきではないか」と提案した。日本商工会議所社会保障専門委員会委員の藤井隆太氏、全国健康保険協会理事長の小林剛氏などが、白川氏の意見を支持。

 医療者など光熱水費負担の対象拡大に反対

 一方、「いずれも慎重な検討が必要ではないか」と述べたのは、連合副事務局長の新谷信幸氏。2006年に「医療区分1」について光熱水費負担が導入された際、「病院での食事・居住サービスは、入院している患者の病状に応じ、医学的管理の下に保障する必要がある」との議論がなされた点を踏まえ、医療区分2と3の入院患者について負担を求めることや、年金支給対象外である年齢層については、「年金給付との調整」は不要であることから、(2)や(3)の導入には反対、(4)についても、一般病床と精神病床には、「住まい」としての機能がないことから導入には異議を唱えた。
 さらに新谷氏は、厚労省が、一般病床等については、「入院期間が長期化しているケースや入院医療の必要性の低いケースもあり、これらの点も含め、どう考えるか」との論点を提示したのに対し、「光熱水費負担と長期入院の問題は、分けて議論すべき」と指摘した。
 日本医師会副会長の松原謙二氏、日本歯科医師会常務理事の遠藤秀樹氏らも、基本的には新谷氏と同意見だった。
(略)
 「医療保険」と「金融資産」、なじまず

 金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担は、介護保険で導入されている。施設入所等に係る費用のうち、食費と居住費は本人の自己負担が原則だが、低所得者については、預貯金なども含め、資産を把握し、「補足給付」を支給し、負担を軽減している。同様の考え方で、医療保険でも低所得者への負担軽減の際に、金融資産等の保有状況を考慮に入れた仕組みを導入するか否かが論点。
 ただし、現状では金融資産等を把握するためには、自己申告をベースとせざるを得ない。マイナンバー法等の改正により、2018年度から、銀行等の預金者は、銀行等にマイナンバーを告知することが求められるが、法律上の告知義務は課されないからだ。
 白川氏は、低所得者への配慮がある高額療養費制度のほか、保険料に、金融資産等の保有状況という考え方を入れることは、金融資産を100%把握することができない現実や、把握するための事務手続きのコストに見合う効果が得られないと想定されることから、「慎重に検討すべき」とコメント。「医療保険に、金融資産等の保有状況という考え方を入れるかどうかが本質的な問題だが、私は慎重に考えるべきであると思う。日本ではそこまで議論が深まっているわけではない。今後、審議会等で議論して方向性を決めるべきであり、今の段階では、時期早尚」とも指摘した。
 新谷氏や松原氏も同様の意見。東京大学大学院法学政治学研究科教授の岩村正彦氏も、「社会保険である医療保険において、金融資産の多寡で給付が決まるという考え方を入れることには、原理的な疑問がある」と指摘した。

この光熱費自己負担に関しては、年金患者では入院すればするほど自己負担と年金支給額との格差からお金が貯まっていくと言う現象が発生し得るケースがあり、家族としてもなるべく長く入院させて欲しいと希望しやすいことから不要な長期入院の温床となると言う指摘もあって、以前から食費の自己負担など段階的に是正が図られてきたことは周知の通りだと思います。
今回の対象年齢の拡大に関しては表向きの理由付けは色々とあるところだと思いますが、やはり自己負担を増やすことで少しでも早期退院を促したいと言う気持ちが表れていると言え、その意味で白川委員の言うところの長期入院患者には自己負担をと言う考え方も一理あるように感じられます。
一方で資産による負担額の増加は理念としては理解出来るものの、記事にもあるようにマイナンバーに紐付けて資産情報が保険証からわかるならまだしも、医療現場でその都度資産状況など調べられるわけがないのですから現実味の乏しい話で、この辺りは利用開始時に時間をかけての審査が有り、利用開始後は原則一生ものの介護とは少し話が異なるところですよね。
いずれにしても今後医療の利用に関してはますます自己負担増加による自主的受診抑制が図られていくのだと思いますが、一方では自己負担を懸念して必要な医療も受けていない人も一定数いるわけですから、この辺りのバランスを制度的にどう取っていくのかも課題になりそうです。

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コメント

>経済的な理由で、この1年間に子供を医療機関に受診させることができなかった
窓口で払う医療費の問題というよりも、受診させるために仕事を休むと収入が減る、ということではないかと想像します。

投稿: JSJ | 2016年10月21日 (金) 07時52分

私も財布の中に入っていた現金が少なくて受診をあとまわしにしたことならありますが、それも1.8パーセントの中に含まれるのでしょうかね?
すべての病院でクレジットカード決済ができるのであれば「患者側からすれば」助かります。

光熱水費については、各患者さんの自宅での使用量をベースに算定するのが公平ではないかと思われます。

投稿: クマ | 2016年10月21日 (金) 09時11分

親は煙草を吸うけど、子供に野菜を与えない。スマホ月2万だけど、子供を受診させない。親に金を与えても、無駄になることは明白です。子供への投資をどうするべきか、誰かアイデアあるのでしょうか?

投稿: 麻酔フリーター | 2016年10月21日 (金) 10時36分

子供の受診抑制を促す目的と言うことであれば、親に休業補償を支給する等の対策も考えられそうですが、現場の小児科医としては勘弁してくれかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2016年10月21日 (金) 11時23分

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