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2016年9月 1日 (木)

医療訴訟に見る病院に求められる社会的責任の境界線

最近またこの種の記事が増えた気もするのですが、先日こんな訴えがあったそうです。

入院中食事詰まらせ死亡 遺族が病院機構提訴(2016年8月24日河北新報)

 国立病院機構盛岡病院(盛岡市)に入院していた女性=当時(69)=が死亡したのは、病院側が食事を喉に詰まらせないようにする注意義務を怠ったためとして、盛岡、滝沢両市の遺族が23日までに、病院を運営する独立行政法人国立病院機構(東京)に2200万円の損害賠償を求める訴えを盛岡地裁に起こした。

 訴えによると、女性は2014年1月22日、肺炎のため入院。同26日に病院が用意した昼食を喉に詰まらせて心肺停止状態に陥り、同2月2日、低酸素脳症で死亡したとされる。

 遺族は「アルツハイマー型認知症で早食いする癖があったにもかかわらず、病院は食事の介助や付き添いを怠った上、食材を細かく刻むなど誤嚥(ごえん)を防止する配慮をしなかった」と主張している。

 機構側は「係争中のためコメントは差し控えたい」としている。

お亡くなりになった患者さんにはご冥福をお祈りするしかありませんが、この種の誤嚥自体は高齢者には日常的に見られることで、病院側も対応に不十分なところがあれば検討し今後の診療に生かしていただきたいものだと思いますね。
事故が一定確率で起こるのと同様この種の医療訴訟は一定確率で発生しているもので、病院内で何か起これば全て病院側に責任があると言われればさすがにそれはどうよ?と反発を覚える人も少なからずだと思いますが、こうした場合少なくとも現在であれば医療事故調への届け出対象にはなるはずで、今後こうした事例において事故調と訴訟との関係性がどうなるのかと言うことが気になる方も多いかと思います。
一方でまだしも病院内の事であれば責任論も判らないではないのですが、病院外で発生した事例において病院の責任が問われたと言うことで話題になった事件で、先日その判決が確定したと報じられていました。

病院の責任否定、判決確定 入院患者が男性刺殺、香川(2016年8月26日共同通信)

 香川県で2005年、統合失調症の男(47)に高知市の会社役員の男性=当時(28)=が刺殺された事件を巡り、男が入院していた病院側を相手に遺族が損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(木内道祥(きうち・みちよし)裁判長)は23日付で、遺族の上告を退ける決定をした。病院の責任を認めなかった二審判決が確定した。

 確定判決によると、男は05年12月、入院先から外出し、香川県香川町(現高松市)の駐車場で男性の胸を包丁で刺して殺害。殺人罪などで懲役25年の判決が確定した。

 遺族は、病院が適切な治療をせず、外出を許可した過失があると訴えたが、一審高松地裁判決は「患者の管理体制に不備はなかった」と退け、二審高松高裁も支持した。

 遺族は男に対しても賠償を求め、すでに約1億2千万円の支払い命令が確定している。

この事件に関しては以前から何度か当「ぐり研」でも取り上げて来たところですが、興味深いのは殺人事件の被害者側はともかく加害者側も病院を訴えていると言うことで、精神科医療を手がけている施設にとっては何とも困った時代になってきているのではないかと感じるのですが、これで一つは安心出来る材料が増えたと考えるべきなのでしょうか。
司法判断の観点から考えてみると、精神疾患の加療歴がある男が退院後に殺人事件を犯し懲役25年が確定したと言うことは、その時点で犯行は精神疾患の故ではなく責任能力があったのだと認めた形ですから、別件の裁判とは言えここで精神病は治っていなかった、まだ退院させるべきではなかったと言ってしまうと司法判断の整合性が取れなくなってしまうでしょうね。
ともかくこの種の裁判は精神科領域だけの問題ではなく、例えば急性期の病院で感染症治療後に他施設に転院した高齢者が一ヶ月半後に感染症で亡くなったのは急性期の病院が早期退院をさせたからだと言った訴訟も実際にあるわけで、医療費削減が推進される医療現場においてもJBM的対応はある程度念頭に置いておかなければならないと言うことになるのでしょうか。

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コメント

もうあれだ、救急病院は絶食点滴のまま転院させないといかんわ

投稿: | 2016年9月 1日 (木) 08時21分

と言うよりも、国はそうした施設間の厳密な役割分担を目指している気がします。

投稿: 管理人nobu | 2016年9月 1日 (木) 12時33分

>遺族は男に対しても賠償を求め、すでに約1億2千万円の支払い命令が確定している

判決文が出ても、被告人に支払い能力がなければ、単なる空証文

ディープポケットを病院に求める気持ちも分からなくもないが、無理筋ですな

投稿: Med_Law | 2016年9月 3日 (土) 20時02分

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