« 医療訴訟に見る病院に求められる社会的責任の境界線 | トップページ | ヒット中の怪獣映画が意外なところで反響を呼ぶ »

2016年9月 2日 (金)

個人情報保護の流れが医療現場にさらに大きな影響を及ぼす可能性

以前からその懸念が言われていたところですが、先日こんな記事が出ていました。

症例報告にも「本人同意必須」の懸念(2016年8月24日臨床ニュース)

 日本医学会連合(会長:高久史麿氏)は8月17日、文部科学省、厚生労働省、経済産業省が合同で設置した「医学研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議」への要望書提出を発表した。昨年9月に改正された個人情報保護法に関連して見直しが進む医学研究等に関わる行政指針案に、懸念を示している。改正指針案の内容がこのまま確定した場合、従来は匿名化などで対応できていた症例報告などにも本人同意の手続きが必須となるなどの影響が懸念されると述べている。

 同学会が改正指針案で懸念しているのは(1)学術目的での個人情報利用・提供等が個人情報保護法の適用外と所管事務局の言明があったにもかかわらず、合同会議では同法を取り込んだ形、さらに法の規定がない上乗せの規制までもが検討されている(2)改正指針では改正法の規定に則り一部例外を除き、すべての医学研究で病歴を含む臨床情報の収集・利用・提供を行う場合には本人の同意を得るよう求めている(3)改正法で個人情報の定義に含まれる「照合容易性」が、改正指針では排除されている(4)改正法ならびに改正指針の規定が、既存の研究すべてに遡及して即時適用される見通しである(5)症例報告や専門医試験等のためのケースレポートへの診療録や病歴を含む臨床情報の利用は、本人の同意が得られなくても情報の匿名化などで利用が可能となっている。しかし、改正法がそのまま指針にも適用された場合、臨床情報は本人の同意を得なければ利用できなくなる―の5点。

 同学会は5つの項目が決定した場合には医学研究、特にレジストリ研究の停滞が危惧されると指摘する。学術目的での個人情報保護の在り方についてはそもそも法の適用除外にあたる事項で、来年4月を予定している改正法施行までの性急な取りまとめの必要はなく、医学研究の健全な発展・促進のためにも慎重な検討をすすめてほしいと述べている。

つい先日も患者に無断でネット上に症例画像を提示したとして医師が訓告処分を受けたことが報じられていましたが、ちなみにこうした匿名化された症例の写真などの公開に関しては個人を特定出来ない、学術目的に限るなどいくつかの条件を前提にして、米国などでは患者の所有権を放棄すると言う方向で話がまとまりつつあるようです。
ただ先日のケースでもまさに患者本人が自分の画像であると申告して発覚したそうですから、厳密に言えば症例として提示したくなるような希少なものであればあるほど個人の特定が完全に出来ないようにすることは難しいと言うことになりますし、それなら事前に本人から同意を得ていくべきだと言う考えになるのもまあ、理解は出来る話ですよね。
一般論としてはそうですが、個人と紐付けされていない全ての画像やデータについて、いちいち同意を得る必要があると言うのであれば仕事にならないと言う医学研究者の先生方も多いかと思うのですが、まさにそうした方向でいこうではないかと外部の方々が指針を定めようとしていることが問題視されているわけです。

あなたはASTがいくらなどと言われてもそれだけなら単に数字に過ぎないと言う考え方もある一方で、そうした検査数値が幾つも並んで時系列として提示された場合にはどのような患者のデータか見えてくるわけですから、単なる数字の羅列ですら個人情報の塊であると言う言い方は出来るかも知れませんし、実際に世間ではそうした何でもなさそうなものでさえ徹底的に保護する方向で話が進んでいるように見えますよね。
すでに一部では喀痰中の最近の写真ですら個人情報になってしまうなどと揶揄する人もいるようですが、少なくともそれが病理組織などであればかなり個人情報として認められる確率は高そうですし、特に医療や科学の世界にうとい人々ほどそうした考え方を当然のものとしそうに思いますが、それが現場に与える影響がどれほど大きなものになるのかです。
もちろん病院の玄関に「当院の診療行為によって得られた情報は匿名化した上で学術目的に利用させていただきます」云々の掲示で十分だと言う考え方もあり、実際すでにこうした対応を始めている施設もあるようですが、この調子で日本人お得意の事なかれ主義が押し広げられていくと、医療の世界も大変に面倒臭いものになってしまいそうです。
ともなくもまたぞろ医者が患者をモルモットのように扱おうとしているとどこぞの進歩的メディアが取り上げそうな話題なのですが、むしろそうしたセンセーショナルな話題になった方が議論が進んでいくものなのかも知れませんね。

|

« 医療訴訟に見る病院に求められる社会的責任の境界線 | トップページ | ヒット中の怪獣映画が意外なところで反響を呼ぶ »

心と体」カテゴリの記事

コメント

テレビの街角中継の方がよっぽど大きな問題かと。

投稿: ぽん太 | 2016年9月 2日 (金) 09時45分

最近はテレビの映像もしっかりぼかしをかけていますね。
でも今回のニュースの理屈だとぼかしをかけていても本人に同意が必要ってことなんですよね・・・

投稿: クマ | 2016年9月 2日 (金) 10時26分

御指摘のように突き詰めればかなり生活にも支障が出そうなのに、あまり世間で問題視していないように見えるのは不思議ですね。

投稿: 管理人nobu | 2016年9月 2日 (金) 13時03分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/64137789

この記事へのトラックバック一覧です: 個人情報保護の流れが医療現場にさらに大きな影響を及ぼす可能性:

« 医療訴訟に見る病院に求められる社会的責任の境界線 | トップページ | ヒット中の怪獣映画が意外なところで反響を呼ぶ »