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2016年9月16日 (金)

労働環境改善の抵抗勢力

先日も取り上げました残業時間上限の導入問題につき、こんな続報が出ていました。

残業上限規制を議論=働き過ぎ是正へ-厚労省検討会(2016年9月9日時事ドットコム)

 厚生労働省は9日、残業時間の上限規制導入について議論する有識者検討会(座長・今野浩一郎学習院大教授)の初会合を開いた。安倍政権が掲げる「働き方改革」の一環として、長時間労働の是正を通じ仕事と家庭の両立を支援するほか、企業の生産性向上を促すのが狙い。欧米など海外の残業実態も調査し、月内にも政府が設置する「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)に検討結果を報告する。

 今野氏は会合で「問題は単純ではなく、いろんな観点から意見をぶつけて良い方向を考えたい」と述べた。他の委員は、長時間労働の背景について「依頼されると断れない下請け構造や、24時間営業など過剰なサービスがある」「残業代が減ると困るという労働者の声もある」などと発言。上限規制の効果に関しては「サービス残業が増えるだけかもしれない」との意見が出た。

この残業代上限導入と言うことに関しても色々と言いたいことはあるのですが、予想通り出てきたのが「残業代が減ると困るという労働者の声もある」等々の現状肯定論的意見で、恐らくその労働者にきちんと問い直せば「過労死レベルまで残業代を稼がなくても生活出来るくらいの給料を出してくれ」と言った声も聞けるのではないかと言う気がします。
働かせる側としては最低限のスタッフを過労死寸前まで酷使するのが一番効率がいいのだろうし、法律上の上限を盾にサービス残業を強いることが出来るならこれに越したことはないのでしょうが、一方でそうした事情があるからこその公的規制が必要なのであり、現状ではその規制が有名無実化していると言うのが出発点になっているはずです。
この点で残業時間に限らずこの種の問題では当事者がどれだけ問題意識を共有し、その解決解消を切実に願っているかと言うことが非常に大きな要素を占めてくるわけですが、かねて依頼されると断れないだとか、24時間営業などの過剰なサービスを法的に強いられていると言う某業界ではこんな当事者の声が出ているそうです。

「労働基準無視、失敗すれば責任負う」「医師は長時間労働も仕方ない」(2016年9月11日医療維新)

Q:医師の時間外労働について、問題点はどこにあるとお考えですか? 問題点と、対応策についてご意見をお寄せください

・能力と技能を切り売りしている上に、時間外についてはほぼ無視。当直開けには休みなしが当たり前。労働基準なんてくそくらえ的な労働環境で今まで生活してきました。周りも給料が高いのだから当たり前だと、全く同情すらしてもらえない有様。失敗すれば全責任は負わされるし、同情されれば良い方で、働きが足りなかったとか、努力が足りなかったとか、手を抜いた的な指摘を受けるのみ。ますます条件は厳しくなります。これではなり手は減少すると思いきや、比較的拘束時間の負担のちいさい科に進まれるんですなあ。この頃は。【開業医】
(略)
雇用側の大学病院が、医師を労働者として適切に扱っていない。教員でもあるから労働基準法は当てはまらないと言って、時間外労働をしてないことにされている。日報として出勤時間は書かせるが、退勤時間の記載項目がなく、皆17時に帰宅していることにされている。患者に対する責任感だけで何とか頑張っている。【勤務医】

・[医は仁術]で、自己犠牲が当たり前との通念が浸透しきっているところ。医師も人間であれば家庭もあることを理解してもらうことと、コンビニ受診をなくすことが重要。【開業医】
(略)
・時間外労働が当然という慣習。そして、自分が研修医の時はもっと働いたといった武勇伝を語る上級医が後を経たない。定期の外来診療や手術が、当直明けにあることはなかなか避けられない。また自分が執刀した患者の術後管理は、特に手術当日夜間など自分でみたいという外科医は多い。  心情でいくとなかなか解決できない問題なので、法的にオーバーワークに規制をかけることも解決策だと思う。【勤務医】
(略)
・医療者の献身的な取り組みを、行政も患者•家族も、当たり前だと思っていることに、最大の問題がある。病院の管理側が、十分にその取り組みを行っていない場合もある。行政は、医療者の献身的な取り組みの上に胡坐をかいていてはいけない。医療者の献身的な取り組みを、正当に評価できる社会の仕組みづくりが急務である。直接的には、給与を上げることと休暇を確保することであるが、医師の場合、チーム医療であっても個人にかかる責任を逃れられない局面も多く、そのような労務には正当な対価が支払われなくてはならない。医療者側も、不満に思うことを自ら声に出して主張しなくてはならないし、それを受け止められる社会の仕組みを作ることが必要である。
(略)
・診療の質(患者満足)を高めることを考えると、可能なことは多々あり、それらを追求するためには知識,技術は常に未熟であり、習得するためにはいくら時間があっても足りない。医学の知見は膨大であり、診療に必要と考えられるものだけを選択したとしても,その学習には多くの時間を要する.時間外労働を含めた長時間労働は,医師という職業に求められるものであり,ある意味仕方がないと思う。個々の医師が、どこまで努力をするかあるいはできるかという問題だろう。【勤務医】

まあ何と言うのでしょう、こうした方々ばかりを雇用する職場はさぞや雇用主にとってもいい環境なのでしょうが、しかし以前からも指摘されている通り医師の労働環境改善を阻んでいる最大の抵抗勢力は一体誰なのかと言うことが、おぼろげながら浮かび上がってくるようには思います。
別に人それぞれ人生についてのの考え方があることであり、労基法の上限を超えてまだまだ働きたいと考える人は無給で居残りをやっても別に構わないと言えば構わないのですが、これからの時代そうした考え方はおかしいんじゃないかと世間並みの常識を身につけた若い先生方がますます増えてくると予想される中で、さすがにいつまでも昔の武勇伝を語るばかりの老人の時代ではないはずですよね。
医療現場では未だに過労死なども発生していると伝えられているし、そもそもろくに休養も取っておらず疲れ果てた担当医に患者も命を預けたくないだろうと思うのですが、過労や睡眠不足がパフォーマンスに大きく影響すると言うエヴィデンスが数多くあるのに未だに奴隷自慢をしているような先生は、自ら進んでわざわざ質の低い医療を目指しているのかと言われる可能性もありそうですね。

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コメント

患者接遇の教育にカリキュラムの時間を割いている位なのですから
そのカウンターパートナーとして、医師の労働者としての権利と、
それが侵された際の対抗処置の教育を学生の内にしてあげては如何か?
そうすればドロッポして相当年数経っているはずなのに
今だにグチグチと恨み節を唸らざるを得ない気の毒な先生も
生まれずに済むのでは?

投稿: | 2016年9月16日 (金) 07時32分

現場にいちゃなかなか声をあげる余裕もないんですよね。
うちももうちょっとベッド数が減らせたら違うのかも知れないですけど。

投稿: ぽん太 | 2016年9月16日 (金) 08時20分

>労働環境改善の抵抗勢力
医師に限って言えば、それは医師です。
1)院長は医師です。
2)辞めても収入減らない再就職先はあります。
3)麻酔科に限らず、非常勤化(非正規化)しても、収入は減りません。麻酔科に限れば、倍増します。

投稿: 麻酔フリーター | 2016年9月16日 (金) 10時23分

経営方針的な面も含めて、これからの時代若手からは老害の弊害を云々する声も聞こえてきそうです。

投稿: 管理人nobu | 2016年9月16日 (金) 12時54分

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