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2016年8月 4日 (木)

医療の現物給付は次第に必要最低限なものに限られていきそうな気配

医療介護を始めとする社会保障のコストが増大を続ける中でその抑制策が議論されて久しいのですが、いよいよ負担増と給付の抑制が本格的に始まろうとしていると報じられていました。

医療費負担増、すぐそこ 国が議論本格化 進む高齢化、サービス縮小も(2016年8月1日毎日新聞)

 厚生労働省は医療と介護の負担増の議論を本格化させている。社会保障審議会医療保険部会は今月14日、高齢者の医療費負担増の議論をスタート。20日には介護保険部会が掃除などの生活援助のサービス縮小に向けた具体的な議論を始めた。【細川貴代、鈴木直】

 ◇70歳以上の高額療養費

 医療の負担増では、病院の窓口で支払う自己負担に上限額を設ける「高額療養費制度」のうち70歳以上の高齢者の負担増が焦点だ。
 高額療養費制度は、家計の医療費負担が過重にならないよう患者が1カ月に病院の窓口で支払う自己負担に限度額を設ける仕組みだ。限度額は年齢や所得に応じて設定されており、70歳未満よりも70歳以上の方が負担が軽い
 例えば、1カ月の医療費が100万円の場合、70歳未満は3万5400円~約25万4000円だが、70歳以上なら入院で最高8万7430円で、外来は4万4400円で済む。これをどの程度引き上げるのか、年内に結論を出す。
 高齢者医療では、75歳以上の後期高齢者の窓口負担の見直しも検討している。医療費の自己負担割合は年齢で異なり、75歳以上は1割(年収約370万円以上の現役並み所得者は3割)。これは2018年度までに結論を出す予定だ。
 このほか、高齢者に限らず入院時の患者の光熱水費の自己負担引き上げや、かかりつけ医以外の医療機関を受診した場合に新たに負担を導入することなども検討し、今年末までに結論を出すことにしている。
(略)
 ◇増え続ける財政負担

 高齢化によって医療・介護ともに財政負担は増えている。13年度の国の医療費総額は40兆610億円で、このうち後期高齢者医療費の割合は32・7%を占める。また、医療技術の進歩で高度な医薬品が増えたことなどから高額療養費制度の利用も伸びており、13年度の支給件数は5406万件、支給額は2兆2200億円となっている。
(略)

色々と考え方はあると思うのですが、自己負担増加によって医療の受診抑制を起こせるかどうかもさることながら、そもそも起こさせるべきなのかどうかと言うことが問題で、医療は求めた分だけ際限なく与えられるべきだと無邪気に信じ込んでいる方々も未だに少なからずいらっしゃるようなのですが、財源もリソースも限られている以上それをどこに使うかと言う考え方は必要ですし、その結果一定の制限が加わることも必然ですよね。
病院外来が高齢者の社交場と化しているなどと一般マスコミも批判的に取り上げるような状況ですから、安い自己負担が過剰受診を招いていると言う見方はかなり広く滲透しているのだろうと思えますが、一方で医療費抑制の方法論として考えた場合、やはり高額なコストを必要とするのは外来よりも入院診療であって、こちらをどう抑制するかと言う点で高額医療費上限の引き上げだけでどの程度効果があるのかです。
例えば月額8万円が10万円に引き上げられたとしても、そうした自己負担上限の高い=所得の多い高齢者の方々にとっては月々入ってくる年金の範囲内でしょうから、家族全員がその年金に依存して暮らしているとでも言うのでない限りお金の節約のために早く退院しようと言う気持ちにどれほどなるのかですよね。
こうして考えていくと多少の自己負担引き上げで医療費がどれほど抑制されるものなのかどうかは不確実不透明な部分もあり、根本的に患者の受診行動を変えていくにはまず医療に対する考え方、あるいは期待値を変えていく必要があるのだろうと思うのですが、一例として日常臨床でも遭遇しそうなこんな話を取り上げてみましょう。

入院当日に退院先探しを指示され家族が激怒(2016年6月14日日経メディカル)

 介護施設に入居の相談で来訪される家族の中には、頭の中で整理がつかないまま、不安を抱えた状態で飛び込んで来られる方が少なくありません。
 相談内容の多くは、急性期病院からの退院先について。先日も、入院患者のご家族からこんな相談がありました。

 「1人暮らしで要介護2の母が自宅で熱を出し、病院に受診しました。肺炎とのことで、即日入院になったのですが、医療ソーシャルワーカーの方から、退院後は一人暮らしを継続するのは難しいだろうから、施設への入居を検討した方が良いと言われました。『1週間程度で退院になると思いますので、すぐに退院後の行き先を探してください』とのことだったのですが、突然のことでどうしたらいいのか分からず困っています」。

 もう一件、同様の相談もありました。「母は88歳。大阪で一人暮らしをしていたのですが、昨日熱中症で救急搬送され、入院となりました。私は昨日、東京から駆けつけたのですが、病院からはいきなり『5日程度で退院してほしい』と言われ、それまでに介護施設を探すよう勧められました。母は1人でトイレに行くこともできない状態です。家族は、息子の私一人だけで、遠方に住んでいるため同居は難しいし…。すぐに何件か介護施設の見学に行きましたが、納得して母を預けられる施設がありません。昨日入院したばかりで、まだしんどそうにしている母を、病院は追い出そうとしているとしか思えない!あそこの病院はおかしい!」。

 どちらのご家族も、途方に暮れた様子で、「とりあえず何かをしなければいけない」との思いから来訪されたようでした。体調を崩した親を心配し、やっと入院が決まって少し安心した矢先に、退院先を探すよう言われているのです。病院への不信感を持ってしまうことも少なくありません。

「病院」ならすべて同じだと思う家族も

 国の方針で、病院の機能分化や病院から在宅への流れが加速し、診療報酬改定でもそれらが誘導されている中、急性期病院には、平均在院日数の短縮が求められています。患者の状態が落ち着き退院の目途がついてからの退院支援になると、退院できる状態であるにもかかわらず、受け入れ先が見つかるまで入院を継続することになるため、病院側としては、新規患者の受入れができなくなるといった事情があるでしょう。

 ただ、患者さんやご家族は、このような背景については知りませんし、関心もないのが現状です。それどころか、高額療養費制度の自己負担限度額内の費用負担で入院できるのですから、1日でも長く病院という安心できる環境で過ごしたいと考えるでしょう。

 多くの患者さんやご家族は、「病院」は、どこも同じだと思っています。「評判の良い病院」、「よく名前を聞く病院」という判断基準はあるものの、病院によって得意とする診療科目が違う点や、受け入れ患者の層がそれぞれ異なることなどは、ほとんどの方が理解できていません。家族の中で誰かが病気になった時に初めて関心を持ち、焦って行動する人が多いのが現状なのです。
(略)
 家族は、医療ソーシャルワーカーから介護施設への入居を提案されると、大抵反応が悪く、積極的に行き先を求めることはまずありません。介護施設の見学や相談にもあまり行かないのが現実であり、結局、病院への不信感が募るだけで、退院予定の期日が過ぎてもなかなか退院先が決まらず、入院期間が長くなる傾向にあるのです。
(略)

こうした場合いきなり急性期から在宅ではなくひとまず回復期なりに転院させるべきだろうし、送り先についてもいきなり施設入所が無理ならまずはショートステイで時間を稼ぐ必要があり、こうしたことは素人の家族任せではなくノウハウを持っているケアマネや地域連携室などが段取りをつけるべきかと思うのですが、それでも早期の退院、転院云々の話で今さら驚かれると言うのでは困ったものですよね。
家族の方でも一番安上がりで安心出来るのは病院であり、「納得できる施設がない」等々と言い訳を探しては少しでも長く居座ろうとする方々も少なくないのが現実ですが、「まだ元通りになっていないのに退院させるのか!」式のクレームに対しては「いや、それは我々急性期の役割ではなく回復期でやるべきことだ」ときちんと理解させると言うのは、個々の病院ではなく国の責任で行われるべきことではないかと言う気がします。
こうした場合患者の自己負担をどんどん引き上げていくよう制度改定すべきだと言う極論もあるようですが、必要も適応もないまま急性期病院に居座ることは単に医療費を無駄に浪費していくだけではなく、リソースの消費によって助かるはずの誰かの命を危険にさらしているのだと言うことを理解いただくためには、国やマスコミにももっと広報を頑張っていただく必要がありそうに感じますね。

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コメント

>こうしたことは素人の家族任せではなくノウハウを持っているケアマネや地域連携室などが段取りをつけるべき
その通りですしそうしているんですが、家族の中には「すぐに施設を見つけて出て行けと言われた!」と誤解されてしまう人も少なからずおられます。

投稿: クマ | 2016年8月 4日 (木) 08時02分

ごね得を期待したクレーマー体質の患者も時々いますからね。
そういう人には徹底的に事務的に対応しちゃいますが。

投稿: ぽん太 | 2016年8月 4日 (木) 08時54分

すぐに施設を見つけて出て行けと言うのは多くの場合、実のところ誤解ではないのかも知れないですけれどもね。
昔は地域の中小病院がバックベッドになっていたのですが、今後ますます引受先探しに難渋すれば受け入れにも影響が出るかどうかです。

投稿: 管理人nobu | 2016年8月 4日 (木) 14時18分

やっぱりカネ。
カネのインセンティブがないのに、患者・家族側が動くはずがない。

単純明快に「5日以上は自費で1日5万円かかります。ホテルか、介護施設か、自宅か、どうぞご自由にお選びください」

これで十分でしょう。

投稿: | 2016年8月 5日 (金) 13時12分

アメリカってそんな感じ

投稿: | 2016年8月 5日 (金) 14時36分

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