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2016年8月31日 (水)

日本の医療は安くて良質は嘘!?

先日出たこちらの話が一部方面で大きな反響を呼んでいることをご存知でしょうか。

日本の医療費、世界でも高額 対GDP 新基準で順位急上昇 「安く上質」の根拠崩れる?(2016年8月22日日本経済新聞)

 日本の医療や介護は諸外国と比べて安いのか。経済協力開発機構(OECD)がまとめた2015年の国内総生産(GDP)比の保健医療支出の推計値では、日本が順位を一気に上げて3位となった。厚生労働省や医療関係者は「低費用で上質なサービスを提供している」と主張してきたが、少なくともコストの面では疑ってみる必要がある。(中島裕介)


我が国の保健医療支出は米国、スイスに次ぐ第3位、「日本は低医療費」に疑問符―医療経済研究機構(2016年8月9日|目ディウォッチ)

 各国の保健医療支出を比較するに当たり、OECD(経済協力開発機構)は訪問介護や特別養護老人ホームなどの費用を含めるとする「新基準」(SHA2011:A System of Health Accounts)を定めました。
 これに基づくと、2014年度における日本の保健医療支出は55兆3511億円で、対GDP比は11.4%。これは、米国、スイスに次ぐ第3位となることが、医療経済研究機構の調べで明らかになりました。
 これまで我が国は「低費用で高い質の保健医療サービスを受けている」とされてきましたが、この認識を改める必要もありそうです(関連記事はこちら)。

OECDの保健医療支出の新基準では、多くの「介護費用」も含めることに

 OECDは、これまで各国の保健医療支出をSHA1.0という基準(旧基準)で比較してきました。この基準には、我が国の介護サービスのうち訪問看護や介護療養型医療施設などの費用は含まれていましたが、訪問介護や特養ホーム、多くの地域密着型サービスの費用などは除外されていました。
 この点、新基準であるSHA2011では、これまで除外されていた介護サービス費も保健医療支出に含むことになりました。医療経済研究機構は、新基準では長期医療(保健)サービスに「医療の有資格者が提供するサービス」(これまで含まれていた訪問看護や介護療養病床など)に加えて、「ADLに関するサービス」が含まれることになった、と説明しています。
 旧基準によると、2014年度の保健医療支出は49兆2059億円と推計され、対GDP比で10.1%となっています。OECD加盟35か国中10位(米国、オランダ、スイス、スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク、ベルギー、カナダに次ぐ)となります(諸外国は2012または13年度)。
 また1人当たり保健医療支出は、同じく旧基準によると38万6542円で、35か国中14位(米国、スイス、ノルウェー、オランダ、ドイツ、スウェーデン、アイルランド、オーストリア、デンマーク、ベルギー、カナダ、ルクセンブルグ、フラス、オーストラリアに次ぐ)となっています。
 これらは先進諸国に比べて低い水準となっており、「我が国は低い費用で、質の高い保健医療サービス提供を実現している」とされてきました。

 しかし、公的介護保険給付の多くを加えた新基準によると、2014年度の保健医療支出は55兆3511億円と推計され、対GDP比で11.4%となります。これは、米国、スイスに次ぐ第3位の数字なのです。(ただし1人当たりで見ると43万4816億円で、35か国中15位
 このため、我が国の「低費用で高品質の保健医療サービス提供を実現する」という認識を改めなければならない可能性もあります(関連記事はこちらとこちら)。もっとも医療経済研究機構では、「SHA2011の新基準に対し、諸外国がどのような対応をとったのかは明確になっていない」と慎重な姿勢をとっています。諸外国でも介護サービス費用の計上がなされていない可能性もあり、今後のOECDデータに注目する必要があります。

ちなみにこの安くて良質な医療と言う言葉、良質の方もそうですが安い高いに関しては特に、言う人によって国民総支出の多寡を問題にしているのか、それとも患者の立場での窓口負担を言っているのかが混乱していますから、話を聞く際にもその点には留意いただきたいと思います。
もともと医療と介護を始めとして各種社会保障の間に明確な線引きは出来ず、各国ごとの制度のあり方やデータの取り方も違うのですから同列に比較すること自体が困難ですが、今回新たに打ち出された新しい国際比較の指標においては日本の支出がずいぶんと多いことになってしまったと言う話で、これだけ社会保障コスト抑制が叫ばれている中でまあそうなのだろうなと納得は出来る話ですよね。
注目いただきたいのは一人当たりの支出で見れば決してそこまで高いわけではないと言う点で、やはり低成長による国家経済自体の縮小も影響している可能性もあるのですが、それよりも注目したいのは日本の医療費支出において公的支出の割合が非常に高いと言う点で、全体的なコストは増大を続ける一方で未だ自己負担は少ないと言う感覚とも一致する話かと思います。
当然ながらこの公費負担なるものも元を正せば国民から集めた税金なのですから、目先の自己負担のみでなく増大する一方の総支出を抑制しなければ大変なことになると言うのが昨今の社会保障抑制議論の出発点であり、これはこれで財政面のみならず国民負担を考える上でも根拠のある話であろうと思えます。

ただこの日本の医療費が急増していると言う話自体はかなり以前から断続的に出ていることで、ちょうど一年前に2015年のOECD統計を解析して「日本の医療費は過小推計。実際は米国に次ぐ2位」と言う記事が出ていましたし、2005年にはOECD平均並みだった支出がその後急速に伸びていることを問題視する記事も出ていました。
この原因として相変わらず諸外国よりも圧倒的に長い入院期間など日本医療独自の問題に加えて、年5%の高率で増加を続ける薬剤費の問題がこのところクローズアップされているのは周知の通りで、今後国としても更なる後発医薬品の推進あるいは半強制化に加えて、医師の処方内容そのものに対しても干渉を強めてくる可能性が十分にありそうです。
先日は皮膚疾患に用いられる高価な新薬を巡って、まず薬価が安い薬を先に使い、どうしても新薬を使う場合レセプトに理由を記載せよとの厚労省通知が出されたことが報じられ、また市場規模が当初予測の10倍超、かつ1000億円超の薬剤を対象に同様の使用に関する通知と共に「薬価に係る緊急的な対応」を行う方針だと報じられていました。
この薬効など医学的評価ではなく、純粋に経済的側面からの評価のみで医療のあり方を規制すると言うことは少なくとも公式には今まであまりなかったことですから、これ以上の介入を阻止したいと言うことであれば医療の側からの各種ガイドライン等で医療経済学的な視点を今まで以上に取り込んでいく必要がありそうですよね。

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コメント

これだけ医療費抑制って言うんだから金はかかってるんでしょ。
でもそれを誰が負担してるのかってことじゃないですか。

投稿: ぽん太 | 2016年8月31日 (水) 08時36分

議論の連続性を保つには、「医療・介護費」と言うべきでしょうな。>日経さん。

投稿: JSJ | 2016年8月31日 (水) 09時06分

大金払ってんだから遠慮なく元取らないと

投稿: | 2016年8月31日 (水) 10時25分

JSJ先生に追加。
介護の時給単価は訪問看護師並みになってる。信じられるか?
(現業の給与の悪さを合わせて考えると介護にはパラサイトが居るらしい)
コスパが悪すぎて足を引っ張ているのは介護だろ、日経さん。

投稿: | 2016年8月31日 (水) 11時02分

ちょうど介護保険料負担増の議論が始まると報じられていて、あるいは介護は今後前世紀における土建業的な位置づけになっていくのかも知れないと感じています。

投稿: 管理人nobu | 2016年8月31日 (水) 11時39分

なるほど。
 子請け、孫請けと多重階層にすることによって ブラックさをごまかしつつ、最底辺の価格でしか使えない人材にも雇用の道を開く。で 公共事業ですか。 

投稿: | 2016年9月 1日 (木) 10時41分

日本の介護が世界的にみても高コストなのは有名ですよ
それなのに働いてる職員は低賃金なんだから不思議だねw

投稿: | 2016年9月 1日 (木) 10時59分

10時59分付け シンプリチオ君や、
管理人さんの読みに拠ると、不思議でも何でもない。
公共事業で雇用対策になっていくだろう、ってこと。
公共事業は昔からコスパは悪い、世の安寧のために必要なコスト
こんなことにならないために?
 http://toyokeizai.net/articles/-/133608

医療保険と介護保険を切り離して、うるさい石や茄子の口を封じてから
料理を始めるつもりかもしれんが、、、、、、、、

投稿: | 2016年9月 1日 (木) 21時58分

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