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2016年8月17日 (水)

教育へのこれ以上の投資は無意味か

先日作家の橘玲氏がこんなことを言っていたそうですが、長い記事ですのでごく一部だけを引用させていただきます。

知識社会の「格差」が生む 言ってはいけない「日本の内戦」(2016年8月13日NEWSポストセブン)

(略)
 戦後の高度成長期は、工場で真面目に働けば、住宅ローンでマイホームを買い、家族を養うことができた。だがグローバル経済では、そうした産業は人件費の安い中国などの新興国に移ってしまい、先進国の労働者は新しい仕事を探さなくてはならない。
 このことに最初に気づいたのはアメリカのクリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュで、いまから20年以上前に、21世紀のアメリカ人はスペシャリスト(知識労働)とマックジョブ(単純労働)に二極化すると予言した。
 ライシュはアメリカの中流層がマックジョブへと転落していく未来を危惧したが、リベラリストとして移民排斥や自由貿易批判をとなえることはなかった。その代わり、中流層が知識社会に適応できるよう、教育にちからを入れなければならないと力説した。
(略)
 多くの若者が知識社会から脱落していくのは、教育のやり方が間違っているからだと、誰もが最初は考えた。貧困層の幼児教育に効果がないとわかると、乳児までさかのぼって教育すべきだという話になった。ITの仕事に就くために、失業者にプログラミングの基礎を教える試みもあった。だがなにをやっても状況は改善せず、経済格差は拡大するばかりだ。
 こうして、「これ以上の教育投資は効果がなく、税金の無駄遣いだ」と主張する論者が現われた。彼らは最初、「差別主義者」として徹底的に批判されたが、その声は徐々に大きくなっていった。なぜなら彼らの主張には科学的な証拠(エビデンス)があったからだ。

 知能や学力が遺伝なのか、環境(子育て)なのかという論争は、科学的には行動遺伝学によって決着がつけられた。一卵性双生児や二卵性双生児を多数調べることで、知能や性格、精神疾患や犯罪傾向にどの程度、遺伝の影響があるのかが正確に計測できるようになったからだ。
 詳しくは拙著『言ってはいけない』をお読みいただきたいが、そのなかでも知能の遺伝率はきわだって高く、論理的推論能力は68%、一般知能(IQ)は77%とされている。知能の7割から8割は、遺伝によって説明できるのだ。

 この科学的知見をもとにして、政治的にきわめて不穏な主張が現われた。彼らは次のようにいう。
 知識社会における経済格差は知能の格差だ。知識社会とは、定義上、知能の高いひとが経済的に成功できる社会のことだ。だからこそ、「教育によってすべての国民の知能を高める」という理想論が唱えられるのだが、いまやその前提は崩壊しかけている。
 先進国で社会が二極化するのは、知識社会が、知能の高いひととそうでないひとを分断するからだ。知能のちがいは、環境ではなく遺伝によってほぼ説明できる。だからこそ、どれほど教育にちからを注いでも経済格差は拡大するのだ。
 これはリベラルの立場からはとうてい受け入れることのできない主張だが、だからといってそれが科学によって裏づけられている以上、「差別」のひと言で否定することもできない。
(略)
 高齢化社会では、若者に対して老人の数が圧倒的に多くなる。民主政は多数決だから、政治家が高齢者の顔色ばかり窺うようになるのも間違いとはいえない。
 だが需要と供給の法則では、数少ない若者は、いくらでもいる高齢者より希少性が高いはずだ。実際、大手企業は若手社員を引き止めるために涙ぐましい努力をしている。これまでのように雑巾がけをさせようとすると、彼らはさっさと転職してしまうのだ。
 もっとも、ここにはひとつ条件がある。希少性を持つのは「知能の高い」若者だけなのだ。

 企業の本音は、優秀な若手社員を厚遇して人件費だけ高く不要な中高年をリストラすることだ。しかしその一方で、希少性を持たない若者は「非正規」という身分で差別され、高校中退などで学校教育からドロップアウトした若者(先進国に共通するが、その多くは男性だ)は貧困層に落ちていく。
 日本では幸いなことに、こうした社会の分断がテロや暴動として噴出することはない。だが欧米社会と同じように、知能の格差による「見えない内戦」は確実に始まっているのだ。

全文を読んでみると割合と面白い話も載っていて、個別の反証は幾らでも挙げられるかとは思うものの一つの意見として拝聴したのですが、資本主義社会では効率よく働けば収入が増える建前ですから経済格差で社会を語るのはあまり意味のあることではなく、満足に食っていけない貧困層が増えているのか減っているのかの方が社会評価の指標として有効な気がするのですけれどもね。
それはさておき世間で大きな話題になっているのがこの「これ以上の教育投資は効果がなく、税金の無駄遣い」と言う一説なんですが、その前提条件として語られている知能と言うものに関して遺伝的素因が大きな要因を占めているとは実感としてもあるのではないかと言う気がしますし、特にいわゆる地頭の良さと言うものは持って生まれた遺伝的要因が大きいようにも感じますがどうでしょうね。
ちなみに有名大学学生の親には高収入の人が多く経済格差が学力格差につながる例だと批判的に取り上げられますが、一方でそうした親もまた多くが高学歴であると言うことはあまり取り上げられる機会がないようで、少なくとも日本社会においては遺伝的素因によって頭の良さが決まると言う学説はあまり社会的に認められていない、あるいは認めたくないと考える人が相応に多いのではないかと言う印象を持ちます。
やはり誰しも事実に対する解釈と言うものはこうあるべきだと言う願望が入り込みやすいもので、子供の頭が悪い理由の大半は親のせいだと言う考えは世の多くの親にはあまり喜ばれないものなのでしょうがが、もう一つ受け入れられにくい事実として東大生の親の多くは子供にあまり勉強しろと言わなかったと言う話もあって、これまた学齢期の子供を持つ親世代には耳の痛い話ですよね。

いささか脱線しましたが、先進国における仕事が少数の知的エリートと多数の単純労働者に二分化されると言う考え方が必ずしも正しいのかどうかで、日本においては飲食店などに代表されるサービス業の従事者が今や最も多くなっていますが、これらは知的エリートでもないけれども専門的知識を備えた非単純労働者であり、年収においても非常にバラエティに富んでいますよね。
こうした産業の従事者に必要な教育と言えばまずはその職業における専門知識と技能であり、次いで一般的な広い社会常識、教養だろうと思うのですが、こうした需要に対して日本の高等教育がさほど役に立つかと言えば必ずしもそうではなく、むしろ大成するためにはなるべく早く業界に飛び込んで修行を積むべきだなどと未だに言われることがあるようです。
要するに教育と言うものはただ漠然と学校に通う年数を長くすればいいと言うものではなく、その中身がどれほど後々のキャリア形成に有用であるのかと言う観点が必要なのだろうと思うのですが、この点で日本でも例外的に職業的技能に直結する高等教育として知られているのが法学部と医学部であり、それぞれ文系と理系のトップエリートとして学歴上もその後の収入等においても上位を占めていると言うのは示唆的ですよね。
不景気だと言われていますが工業高校などの卒業生は引く手数多で一般大卒よりよほど就職率がいいだとか、大学の中でも理工系技術職は就職に有利だとか言う話は当事者からもしばしば聞く話ですが、教育にお金を使うことの是非を議論するなら学部毎の投資効率なりコストパフォーマンスなりを叩き台にして議論した方が、より実際的な改善点も見つかりやすいのではないかと言う気がします。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

Fラン私大には投資はいらないだろJK

投稿: | 2016年8月17日 (水) 10時45分

偏差値が高い国立は安く、偏差値の低い私立は高いと言う構図が曖昧になって来ましたが、あれはあれで合理的だったようにも思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年8月17日 (水) 14時40分

 個人が「投資」をするのは結構です。
「ハイリスクハイリターン」を声高にいう人間が同じ口で「教育に投資」するとなどというものだから、教育への投資が個人責任による投機、のような風潮が定着した、かな?

 税による初等~中等教育=インフラの維持 に手を抜き、高等教育で国民に自己責任の博打を強いるような国の先行きは、明るいとは思えません。現に今、自称高等教育機関が引き受けている人口の半数近くが(多様性の追求とは聞こえはよいが)自称中等教育の尻拭い状態。

 公的責任で低価格な高等教育機関が存在意義をもつには 適切な入学資格の選別と卒業者への義務(高給な職につき給料に見合った働きをして高額の税をおさめる)=エリート主義が必要。民主制の中でのエリートがどんなものなのか、拝金米英の猿真似をやめて独仏の選抜制を研究してみるべきですね。手遅れっぽいけど。

投稿: | 2016年8月19日 (金) 09時47分

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