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2016年7月20日 (水)

高い薬が患者からも拒否される時代

薬の価格が年々高くなっていると言うことがこのところたびたび否定的なニュアンスで取り上げられていますが、一方でこんな記事も出ていました。

【千葉】患者の経済的理由で治療中断 医師37%経験(2016年7月8日読売新聞)

 県保険医協会は、県内会員の医師や歯科医に受診実態調査を行い、結果を公表した。昨年秋までの半年間に患者側の経済的理由で治療を中断したことがあったのは医師が37%、歯科医が50%だった。
 調査は2015年12月~16年2月、医師約1900人、歯科医約2100人を対象に実施し、医師247人、歯科医257人から回答を得た。患者からの未収金があったと答えたのは医師が47%、歯科医が36%だった。

 75歳以上の患者の窓口負担は現在1割だが、調査では2割に引き上げた場合の影響も聞いた。選択肢から選んでもらったところ、「受診抑制につながる」は医師が66%、歯科医が69%に上る一方、「影響しない」を選んだのは医師が8%、歯科医が10%だった。
 2割への引き上げに関する意見は、「国家財政を考えるとやむを得ない」などとする賛成派と、「絶対に阻止するべきだ」などの反対派で割れた

45%の医師が値段で薬を変更した経験あり 医師3542人に聞いた「経済的な事情での処方変更は?」(2016年7月13日日経メディカル)

 効果が高そうな新薬を使いたいが、薬代を安くしたいと患者に請われれば、処方を変更せざるを得ない。45%の医師はそうした経験をしているようだ(上図)。
 さらに現在は、桁違いの価格の新薬が続々登場する状況。ほとんどの医師が医療保険制度の存続に危機感を覚え、対策が必要と考えている(下図)。高額薬剤による亡国を避けるすべはあるのか。

●患者の施設入所に際して、新規経口抗凝固薬(NOAC)をワルファリンに泣く泣く切り替え。行く先がなくなって途方に暮れるよりはマシかと思い、諦めました。(30代一般内科、20~199床)
●当地では乳幼児の医療費は無料ですが、小学生になると3割負担になります。気管支喘息患児にフルチカゾンとモンテルカストのチュアブル錠で長期管理している場合、小学校に入学した4月からモンテルカストを中止することがあります。(40代小児科、300~499床)
●地方自治体病院に勤務時、同じ疾患でも、国保患者と社保患者では薬価の違う処方を行った。(60代整形外科)
●病院勤務医(特に若い先生方)は案外と薬価を知らず、高い薬剤や最新の薬剤を出してから紹介してくることも多い。そういう薬剤はまだ院内で採用していないこともあり、安価な薬剤によく変更する。(60代一般内科、開業医)
●神経膠腫に対するテモゾロミド治療の経済的負担が大きく、継続できなくなった患者を数人経験しています。(50代脳神経外科、300~499床)
分子標的薬のお金が払えずに、諦める方がしばしばいます。一方で、生活保護の方は標準治療を受けています。(40代一般外科、500床以上)
●前立腺癌のホルモン療法の薬代が高く、「高齢だし、悪くなって死んでもいいからやめさせてくれ」と懇願されました。(40代一般内科、診療所勤務医)
●てんかん発作のコントロールに新薬の増量で対応していたが、「この先、薬代で毎月数万円は痛い」と言われ、昔からの安い薬に変更した。(50代脳神経外科、300~499床)
●再発乳癌への分子標的薬投与で自己破産した患者がいた。その後から、レジメンの選択には患者の経済状態を確認するようになり、安価なレジメンを選択することも是とするようになった。(50代一般外科、300~499床)

調査概要 日経メディカル Online医師会員を対象にウェブアンケートを実施。期間は2016年6月13~19日で、回答数は3542人。回答者の内訳は、病院(20~199床)勤務医19.3%、病院(200~499床)勤務医28.9%、病院(500床以上)勤務医22.3%、開業医14.3%、診療所勤務医10.6%など。

この場合話題になっているのは必ずしも昨今話題の一粒何万円と言った超高額薬のことばかりではなく、むしろ日常的に使用し一生飲み続けるような類の薬のケースも多いのではないかと思うのですが、いずれにしても従来であればほんのわずかでも治療効果が高そうだとなれば例えコストが高まろうが使われていた新薬が、今やそうそう気楽に出せなくなってきたと言うことだと思いますね。
高血圧などは安い従来薬でも用量の調整で何とでもなるもので、むしろ治療に関するエヴィデンスと言う点では古い薬の方がよほどしっかりしていると言う場合もありますから、製薬会社のプロパーに勧められるまま新薬が出るたびに処方を切り替えると言う先生も今やそう多くはないかと思いますが、そもそも医師の側ではあまり薬価と言うことについて詳しい知識を持っていなかった先生も多いのではないかと思います。
この点で価格について患者と直接交渉する立場にあるのが院外薬局の薬剤師ですが、こちらは処方権はありませんからせいぜい安い後発品にするかどうかを相談できるくらいで、薬の価格を真剣に意識しているのは薬代も含めて丸めになる療養病棟勤務の先生くらいなのかも知れませんね。

国の医療財政も逼迫している中で、価格のことを全く考えずに高い薬ばかり処方されても困るのは確かで、このところ特に高額な薬剤を中心にどのように適正使用を図るべきかと言うことが議論されるようになっていて、先日も厚労省の医薬局長が高額薬適正使用対策の重要性を語った上で、対象患者や使用医師の要件等を決めていく必要があると言及するなど、コストの問題が現場の診療にも直接影響が出かねない話になっています。
ただこの種の高額薬は抗癌剤など命の行方に直結するものも多いだけに、コストパフォーマンスと言うことを考えた場合にどうしても命の値段をどの程度に評価すべきなのかと言う議論が避けられないはずですし、わずかでも高い有効性が期待出来そうなものを国が認めないから使えないと言うことになれば、近年のドラッグラグ解消推進などの流れとも矛盾する話にも聞こえます。
この辺りは結局のところどうしても使いたければ自費で使うことは認めますと言う混合診療の問題とも絡んでくる話ですが、医療支出が無制限に増大すれば皆保険制度自体が破綻しかねないことは誰しも理解せざるを得なくなってきているだけに、どこまでを皆保険制度でまかなうかと言う点に関してはもっと多くの人が関心を寄せて議論に参加していただきたいところですよね。

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コメント

毎年一律に薬価引き下げたらいんじゃね?

投稿: | 2016年7月20日 (水) 07時54分

効果が大差ないなら安い治療をって意識がどこまで浸透するかですね。
わざと治療成績落とせっていってるのと同じことでしょ。
医師に何のメリットがあるのかってことですよね。

投稿: ぽん太 | 2016年7月20日 (水) 08時50分

医師の処方行動に一番影響が大きいのはまるめの報酬にすることだと思いますが、例えば外来報酬を英国式に人頭割の報酬にした場合どれほどの影響が出るか、ガイドラインから改定がいりそうです。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月20日 (水) 13時01分

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