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2016年7月27日 (水)

著名人遺族から終末期医療への問題提起

先日亡くなった大橋巨泉氏について、こんな記事が話題になっていることをご存知でしょうか。

巨泉さんの妻 治療に不信感「モルヒネ誤投与許せない」(2016年07月21日東スポ)

 12日に死去したタレントで元参院議員の大橋巨泉(本名・大橋克巳=享年82)さんの妻・寿々子さん(元タレント浅野順子)は、20日に発表したコメントで「闘病生活に“アッパレ!”をあげて下さい」と故人をたたえつつ、治療への不信感をのぞかせた。

「もし、一つ愚痴をお許し頂ければ、最後の在宅介護の痛み止めの誤投与が無ければと許せない気持ちです」

 4月から在宅介護を受けていた巨泉さん。夫人はコメントで「先生からは『死因は“急性呼吸不全”ですが、その原因には、中咽頭がん以来の手術や放射線治療などの影響も含まれますが、最後に受けたモルヒネ系の鎮痛剤の過剰投与による影響も大きい』と伺いました」と明かしている。

 がん闘病において、モルヒネは「痛みを消し、延命効果もある」最高の鎮痛剤などといわれる。巨泉さんへの投与の実態は不明だが、夫人がわざわざ記述したことは、相当の憤りをうかがわせる

このモルヒネ誤投与云々については詳細がよく判らないところですが、緩和医療医の大津秀一氏が記載している記事などを参照にするところでは在宅介護中の4月に大量に届けられた鎮痛剤の使用でもうろうとなり緊急入院となった、その後一時は回復したものの肺炎等を繰り返し7月に亡くなったと言うことで、4月時点の投与量が誤投与だったかどうかは置くとしても7月の死亡に関係するのか?と言う疑問は抱くところです。
この辺りの前後の経緯については本人自身も記載していて、何かしら薬物過剰投与をうかがわせる状態ではあるものの誰がどう間違ったのかははっきりしませんが、気になるのは最後を看取った担当医は死因は急性呼吸不全であり、「最後に受けた」モルヒネ過剰投与の影響が大きいと言ったと言うことで、素直に文脈を読めば次第に増量されていったモルヒネにより呼吸抑制に言及しているのではないかと言う気がします。
要するに4月時点で誤投与があったかどうかは別問題としても担当医が言う死因への影響と言う点で直接的なものではなく、担当医は別の意味でのモルヒネ過剰投与と言っていたにも関わらず家族は4月時点のエピソードが関係していたと誤解している可能性もありそうに感じたのですが、ただこうした報道が出れば世間ではまた別な反響が出てくるものです。

巨泉さんモルヒネ報道の悪影響を懸念する(2016年7月22日日経メディカル)

 大橋巨泉さんが82歳で亡くなりました。巨泉さんが残した功績は大きく、その死を悼む報道が続いています。その中で、医師として見過ごせない報道がありました。「モルヒネ系鎮痛薬の誤投与で体力を奪われた」という趣旨の報道です。
(略)
 今回、筆者が問題に感じているのは、マスコミがご遺族の言葉をそのまま強調するように報道していることです。「モルヒネ=怖いもの、体力を奪うもの」という誤解を、一般の方に与えてしまいかねないことを憂いています。
 これから癌の疼痛に対してモルヒネを開始すべき患者がいたとして、今回の報道により抵抗感を抱いてしまうのではないでしょうか。現在、癌と闘病されていて、モルヒネを使用している患者も多くいます。そのような患者や家族が今回の報道をみて、どのように思うでしょうか。
 「モルヒネを使うのは怖いことだ」「モルヒネのせいで体力が弱っている」と感じて、悲観的になるかもしれません。場合によっては、モルヒネをやめたがるかもしれません。
 マスコミは、インパクトのある記事を書かなければならないのかもしれませんが、記事が与える影響も考えてほしいと思います。例えば、巨泉さんのご遺族はこう話しているけれど、医療用麻薬は適切に用いれば安全な薬剤である、という論調まで含めて書いていただくこともできたはずです(マスコミの中には、このような配慮された記事を書かれていたものもあったことを記載しておきます)。全ての癌患者が疼痛から解放される世の中にするため、マスコミも正しく「適切な」報道をしていく責任があることを自覚してもらいたいですし、私たちも協力は惜しみません。

 さて、最後にモルヒネの影響について。巨泉さんは体力を奪われて…という受け止め方になってしまいましたが、むしろ逆に体力がついて元気になったという方も多くいることをご紹介したいと思います。
 ある卵巣癌の方は、モルヒネを「適切に」用いることで、これまでできなかった趣味に出掛けられるようになり、身体も気持ちも元気になれた、と喜んでくださいました。ある悪性リンパ腫の方は、モルヒネを「適切に」用いることで、これまでは無理と諦めていた海外旅行に出掛けることができました(注:モルヒネの海外持ち出しには、事前の申請が必要です)。
 もちろん、癌が進行すれば最終的には弱ってしまうことは避けられません。ですが、時期によっては、モルヒネが患者の生きる力を支える薬となることは疑いようのない事実です。緩和ケアは、死を待つだけではありません。『どう生きるか』を支える力だと信じています。

麻薬性鎮痛剤が単なる鎮痛以外にも様々な好影響があることが知られるようになってきて、末期患者に積極的に投与されるようになってきていますが、一方で日本では以前から麻薬性鎮痛剤と言えば手の施しようのない末期と宣告されたような気分になるだとか、麻薬中毒になってまで生きたくないと言った拒否感も根強いとされ、使用量も世界平均の半分以下、アメリカなどの20分の1だとも言います。
もちろんこうした忌避感は患者側だけではなく医師の側にも未だに残る場合もありますが、昨今ではこの種の疼痛緩和は薬剤師など複数のスタッフが関与して話を進める施設が多くなっていますから、医師だけが自らのポリシーを貫き通すと言う局面はあまりなくなってきているのではないかと思いますね。
時として延命効果もあるとは言っても基本的には本人の苦痛を緩和するためのもので、患者が拒否する場合に無理に使うような性質のものではないのかも知れませんが、その拒否感が妙な誤解から生じているのだとすれば残念なことですし、今回の一件を大きく取り上げたマスコミ諸社は是非ともそのフォローアップ記事にも十分な時間と手間を費やしていただきたいものだと思います。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

マイケルジャクソンも医者に殺されたらしいね

投稿: | 2016年7月27日 (水) 08時37分

退院後、皮膚科系の在宅医がオピオイドを増量、どんどん意識低下し慌てて5日で入院


現在判明している情報からは、どう考えてもオピオイドに不慣れな在宅医が、痛いという言葉だけで不適切に増量ケースです。
ちゃんと使えばこんなことはあり得ません。

この件に関しては「緩和医療、モルヒネを使うからしょうがない」という医師側に多く見られる主張には全く同意出来ません。
モルヒネを使えば意識が下がる、命が短くなるという偏見に一番とらわれているのは擁護する医師たちです。

投稿: おちゃ | 2016年7月27日 (水) 09時22分

在宅でのコントロールを依頼するのであれば、レスキューのやり方についてもきちんと指示をしておくのが安全なのかも知れませんが、わかっている先生には何をいまさらでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月27日 (水) 12時13分

ご自慢の事故調で…

投稿: 非医師 | 2016年7月27日 (水) 22時28分

夫人のコメントの

(前略)その原因には、中咽頭がん以来の
『手術や放射線治療などの影響』
も含まれますが(後略)

という部分も気になります。

どうしても「医者に殺された」ことにしたいという強い意志を感じます・・・


投稿: mskw | 2016年7月28日 (木) 05時15分

ただ癌で死んだのにどうして死んだんですかって食い下がったんだろうなあ

投稿: | 2016年7月28日 (木) 07時20分

これホント?
http://www.news-postseven.com/archives/20160801_434576.html

投稿: | 2016年8月 2日 (火) 22時24分

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