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2016年7月28日 (木)

許可なく医師を当直させた結果どうなったか

むしろそんな許可が必要だったのかと知らない人の方が多かったのではないかとも思うのですが、先日こんなニュースが出ていたことを御覧になりましたでしょうか。

無許可で医師ら宿直、労基法違反状態の県立病院(2016年07月26日読売新聞)

 埼玉県病院局は25日、県立循環器・呼吸器病センター(熊谷市)で、労働基準監督署の許可がないまま、医師や看護師の宿直勤務が行われていると発表した。
 人員不足が原因で、労働基準法違反の状態が続いている

 労基法では、夜間の宿直や休日の日直勤務を行う際は、労基署の許可が必要と定めている。宿日直勤務の職員は、病室の巡回などの軽度な業務しか従事できない
 同センターは1994年5月の開院当初に許可を得たものの、許可書を紛失。2014年2月に再申請したが、熊谷労基署が不許可とした。理由として、医師や看護師が足りず、通常勤務と宿日直勤務の境目が不明確で、心臓へのカテーテル治療などの高度な医療行為を宿日直職員が常態的に行っていると指摘された。
 同局は「許可がないのは好ましい状況ではないが、医療サービスの質は低下させない。許可を受けられるよう、勤務条件の整備や、医師の増員に努めたい」としている。

 同様の労基法違反が千葉県の6病院で今月判明したことを受け、同局が県立4病院の状況を調べた。

労基署の許可なく当直勤務 千葉県立6病院、医師ら 背景に人員不足(2016年7月22日共同通信)

 千葉県がんセンター(千葉市)など千葉県立の全6病院で、労働基準法に定められた労働基準監督署の許可がないまま、医師や看護師に夜間、休日の当直勤務をさせていることが21日、県への取材で分かった。
 厚生労働省は当直の勤務内容について、原則として「待機や病室巡回など軽い労働」に限定している。だが実際は人員不足で、頻繁に急患の対応などを求められるケースが多く、病院が適切な当直態勢を取れないことなどが背景にある。
 無許可では国のチェックが及びにくく、労働組合「全国医師ユニオン」の植山直人(うえやま・なおと)代表は「医師らの過重労働につながる恐れがある。全国的に他の病院でもあり得る」と指摘している。

 県によると、6病院のうち県がんセンターは5月、千葉労基署の立ち入り調査を受けた。県病院局は「許可を得ないまま当直をさせている現状は違法状態と認識している」とする一方、医師の確保が困難で、国が求める当直勤務をさせるための適正な態勢をつくれないとして「早急な解決は難しい」としている。
 厚労省は2002年、全国の病院に勤務の適正化を求める通達を出しており、「無許可の場合は違法労働となる可能性がある」としている。

 県によると、県がんセンターはこれまで数回、医師らの当直について許可申請したが、「勤務内容が通常業務と変わらない」などとして認められなかったという。通常業務として夜間や休日に働く場合、割増賃金が支払われる必要がある。6病院とも過去に許可を得た記録はなく、長期間、無許可状態が続いているとみられる。
 県がんセンターでは、14年に腹腔(ふくくう)鏡手術を受けた11人がその後死亡した問題が発覚するなど医療を巡る問題が相次いでいる。病院が設置した複数の第三者委員会の調査結果で、医師の過重労働や人員不足など、病院の労働環境を改善する必要性が再三指摘されていた。

 ※医師らの当直勤務
 労働基準法は労働時間の上限を1日8時間、週40時間、休日は毎週少なくとも1日と定めるが、医師や看護師の夜間や休日の当直勤務はこれらの定めの適用除外となり、時間外や深夜労働の割増賃金も支払われない。ただ、病院が医師らに当直をさせる場合、事前に労働基準監督署の許可が必要で、別途手当も支払う。厚生労働省は、医師らの当直は原則として夜間は週1回、休日は月1回が限度の「ほとんど労働の必要がない勤務」と基準を示す。待機や病室の巡回、患者の脈拍検査など軽度の労働に限定され、睡眠を取るための設備の整備も要件になっている。

 【解説】国が医師らに当直勤務をさせる際に許可を得るよう求めるのは、厳しい現場で日々働く医師らの健康を守り、医療の安全を確保するためだ。無許可のままでは、軽度の労働に限定されるはずの当直勤務の原則から外れた働き方でも、労働基準監督署のチェックが届きにくくなる。国は、全国的に医療機関を調査して適正化を図る必要がある。
 労働組合「全国医師ユニオン」が2013年に発表した「勤務医労働実態調査」によると、当直勤務が軽勤務のみと答えたのは回答者約1600人のうちわずか1割強。当直後も勤務が続き1日半以上も連続で働く医師は約8割以上に上った。
 調査対象となった病院には、当直の許可を得た病院も多数含まれる。同ユニオンの植山直人(うえやま・なおと)代表は「医療業界では労働基準法が軽視されている」と訴える。
 調査では医療過誤の原因として、「過剰業務・疲労」や「医師の負担増」に加え「スタッフ不足」を挙げた医師が多かった。不適切な当直勤務が多い背景には人員不足もある。国や医療機関は、医師の働きやすさが患者の安全につながることを肝に銘じるべきだ。

許可書を紛失云々はいささかお粗末でしたが、ここで注目頂きたいのは再度許可を申請したものの労基署からの許可が出ない状態が続いていて、その理由として当該病院における当直の実態が実際にはほぼ労働が行われないことになっている当直業務には相当せず、通常業務と同様の労働が行われているからだと言うことです。
現実的にはいやしくも救急車を受けるような急性期の病院で、本来的な当直に相当する寝当直と言う状況はまず想定しにくいと思いますが、こうした場合には労基法36条に基づいて労使協定を締結するか、同37条に基づいて割増賃金を支払わなければならないはずであるのに、そのいずれも行われていなかったと言うことが問題とされていると言うことです。
ルールも定めずお金も支払わず時間外も当たり前に働かせると言えば昨今流行りのブラック企業めいていますけれども、注意いただきたいのはこうした時間外労働をさせていること自体が悪いと言っているのではなく、時間外労働をさせているにも関わらず協定や賃金などの面で労基法を守っていないことは問題だと言っていると言うことですね。

記事にも出ている2002年の厚労省による通達「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」によれば、「集団指導を実施し(略)宿日直勤務の趣旨及び許可基準に定められた事項の遵守又は交代制の導入等勤務体制の見直しを行う必要があることについて説明し(略)宿日直勤務で対応することが適切でないことが明らかになった場合には、許可の取消を行う旨の説明を行う」と記されています。
ただ今回明らかになったこととして許可の取り消しが行われても現場の実態としては何も変わらないと言うのでしょうか、相変わらず違法状態のままで同じように時間外労働が継続されていると言うことで、労基法によれば36条、37条違反への罰則としては六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金だと言いますが、さて全国の病院管理者がいつこれらの罪に問われることになるのかですよね(棒)。
厚労省としてはあまりいい加減なことをしているとこうした罪に問われる可能性もあるよと脅しをかけたつもりなのかも知れませんが、15年を経ても「許可がないのは好ましくないが…」程度のごく軽い受け取られようであったことが明らかになった形で、当然ながら医療安全のための医師の労働環境改善と言う点では通達は全く意味がなかったと言われても仕方ないのかも知れません。

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コメント

こういうのは役所もマスコミもスルーですか…

投稿: ぽん太 | 2016年7月28日 (木) 08時08分

労基法違反自体は比較的ありふれたものだと思いますので、記事のサイズ感としては特に他業種よりも冷遇されているわけでもないと思いますが、今後処分なりで臨床に影響が出ればもっと大きなニュースになるのでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月28日 (木) 11時10分

そもそも労働基準法自体が軽視されているように感じますが・・・
あと36協定は、当事者である医師を無視して協定が結ばれることが多いのも問題のひとつだと考えています。

投稿: クマ | 2016年7月28日 (木) 13時21分

割り増し賃金さえ請求しない、労働者が悪いと思います。医者の場合、首になっても生活に困ることもないので、ビビッて躊躇する必要もありません。

投稿: 麻酔フリーター | 2016年7月29日 (金) 10時29分

↑ブラック病院に勤めちゃう医師は全労働者の敵だからして縛り首にすべきw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年7月29日 (金) 13時51分

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