« 高すぎると話題の新薬が医療現場に意外な影響を及ぼす | トップページ | 著名人遺族から終末期医療への問題提起 »

2016年7月26日 (火)

風邪など寝ていれば治るが推奨される時代に?

今春の診療報酬改定で急性期病院の算定基準が厳格化されるなど見直しが行われた結果、全国各地で収入低下で経営の悪化する病院が続出しているのだそうで、特にもともと経営基盤の怪しかった地方の中小自治体病院は完全な自治体からの持ち出しになり自治体財政にも大きな影響を与えていると言います。
国としては医療についてもコストパフォーマンスと言う観点が必要と言う方針であり、効率の悪い地方小病院などは真っ先に淘汰の対象であると考えているのかも知れませんが、オラが町の公立病院が廃止されたり診療所に格下げになった場合には基幹病院としても患者の送り先に困ると言うケースもあり得るわけですから、地域医療計画でどのような地域医療のトータルプランを描いていくのか今後自治体の力量も問われるのだと思いますね。
そのコストパフォーマンスと言う観点が医療を大きく変えていきそうだと言う気配は昨日の高価な新薬絡みの話題からもうかがわれるところで、基本的に今まで日本の医療現場があまりにもコスト意識が乏しかったことへの反省と言う点では悪くないとも思うのですが、一方で少しばかり気になることとしてこうした記事も出ています。

費用対効果の検証が進めば診療行為も対象に?(2016年7月14日日経メディカル)

高額薬剤問題は、既に日常診療にも影響を及ぼしている。今後は医師の処方に、様々な角度から制限が掛かりそうだ。将来的には、診療ガイドラインにコストを意識した治療が規定され、個々の診療行為にも費用対効果が問われる時代がやって来る。
(略)
 日経メディカルOnlineが行った医師会員向け調査では、回答者3542人のうち、患者の経済状況が原因で治療内容を変えたことがあるという回答が45%に達した(「医師1000人に聞きました」参照)。変更した治療内容を聞いたところ、高額な抗癌剤や生物学的製剤だけでなく、新規経口抗凝固薬(NOAC)や抗精神病薬、DPP-4阻害薬などを、患者の申し出によって安価な薬剤に変更したという回答が多く寄せられた。
 国民皆保険の日本では従来、医師は薬剤を治療効果の観点のみから選択し、ほぼ自由に処方することができた。しかし、高額な薬剤の増加に伴い、今後は患者の懐具合を意識した処方を考えざるを得ない局面が増えていくに違いない。
(略)
 最近、幾つかの抗癌剤で、服薬を中止して様子を見る臨床試験が行われるようになってきた。今年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、非常に高い効果が得られた場合、その後の投薬を中止するというデザインの臨床試験の結果が発表された。しかもこの臨床試験は、企業主導で行われた
 製薬企業がこうした臨床試験を行うようになった背景には、不必要な投薬継続は副作用リスクを上げるだけだという考えとともに、治療が長期間にわたることで経済的な負担に耐えきれない患者が増えていることがあるようだ。
 この研究は幸いにも、効果が得られた患者のその後の経済的負担を考えて中止の可能性を探るものだ。しかし、効果がないのに投薬を継続することは患者には無用な身体的負担になるし、医療保険財政上の負担にもなる。患者がどのような状態になったら高額薬剤の使用を中止すべきなのか。まだ知見が少なく、客観的な指標を設定するには、しばらく時間が必要だろう。しかし、投薬の「やめどき」を巡る議論が活発になっていくことは間違いないだろう。
(略)
 最近、日本肺癌学会の診療ガイドライン委員会では、抗癌剤治療のコストをガイドラインでどう扱うべきかについて、「専門家を交えて議論を開始する方針が決まった」と九州大学の中西洋一氏は言う。しかし、ガイドラインの中で、どのようにコストに言及するかまでは検討が進んでいないという。
 ただし、そのヒントは英国の国立医療技術評価機構(NICE)の取り組みにある。英国では99年にNICEを設立。高額な薬剤を対象に費用対効果の分析を行って、その結果を公的医療制度の給付対象とするかどうかの判断に活用してきた。一方でNICEは、診療ガイドラインの作成も担当している。つまり、費用対効果を検証して得られた成果を、診療ガイドラインに反映させているわけだ。
 NICEが給付対象の基準としているのは、新たに投じられる年2万~3万ポンド(272万~408万円)のコストが、健康な余命1年(1QALY)をもたらすかどうか。この基準で利用可能な薬剤をリスト化して、ガイドラインを組み立てている。
 我が国では、承認された新薬は基本的に薬価収載され、たとえわずかでも既存薬より有効であれば、診療ガイドラインに盛り込まれるケースが多い。そこには薬価の設定と同様に、費用対効果の視点が抜け落ちている
 近い将来には日本でも、高額な薬剤については、費用対効果の検証結果を加味した薬価が設定されることになるはずだ。そして診療ガイドラインの薬物療法の項には、高い費用対効果が実証された薬剤が優先して記載されるようになるかもしれない。

個々の診療行為も検証対象に

 医薬品の費用対効果についての分析が進めば、その後は個々の診療行為にも、費用対効果の視点が持ち込まれるようになる可能性が高い。
(略)
 また、診療行為の費用対効果が明らかになるということは、一つの診療行為を取り上げて医療機関や医師ごとに比較をすれば、それぞれのパフォーマンスが一目瞭然になるということでもある。将来的には、こうしたデータが、医療機関や医師を評価するツールとして使われるようになるかもしれない。
 今はまだ、医療分野で費用対効果を検証する動きの対象は医薬品、それも高額薬剤に限られている。だが、医療保険制度の持続性確保の掛け声の下、今後は検証の対象が全ての薬剤に、そして個々の診療行為へと拡大していくことも十分に考えられる。

しかし抗癌剤治療などは初期には治療効果が出ていてもそのうち効かなくなってくるもので、抗癌剤の辞め時を探る試験が企業主導で行われたなどと聞けばおいしいところだけのデータを集めようとしているのか、などと考えてしまうのは自分だけでしょうか。
もちろん薬のコストパフォーマンスのように比較的数字として明示しやすい話には説得力があるし、今後はガイドラインの記載においてもコスパを考慮に入れた優先順位がつけられていくのは当然だろうと思うのですが、ここで注目したいのは最後の段落で取り上げられているように個々の医師の診療行為そのものもコスパ検証の対象となり得ると言う視点です。
当然ながら病院経営において雇用している医師それぞれの診療がどれほどのコスパを示しているのかは重要で、将来的に本当に医師余りの時代にもなってくれば医師を雇うかどうかや給料の算定に当たってもこうした数字が重視されるようになるのかも知れませんが、それ自体は社会の多くの専門職において普通に行われていることですから卒後何年目かで自動的に給料が決まる方が不自然だったとも言えますよね。
ただ疑問に感じたのがご存知のように日本の診療報酬体系では医師が診察すると言う行為自体ではほとんど報酬がつかず、検査や処置などを行うことに対して報酬がつくと言う形になっていて、この結果必然的に導き出される結論としてコストパフォーマンスによって医療行為を評価するなら検査など行わず、問診や理学所見など時間と手間はかかるがコストはほとんどかからない行為で診断がつけられる方がコスパはいいと言う話になります。

CTやMRIなど高価な検査機械が末端医療機関にまで普及しているなど、この診療報酬体系のもたらした弊害は以前から指摘されてきたところでもあり、DPCに基づく定額払い報酬制度なども可能な限り余計な検査や処置はせず治療をすれば儲かりますよと言う政策的な誘導であったと言えますが、今後は医療財政の側面からもなるべく検査はしないと言うスタイルが望まれるようになると言うことでしょうか。
画像診断などについては後日の検証に耐える客観性のあるデータが保存出来ると言うメリットもあり、一概にお金の無駄であるとも言い切れないものがありますが、一方で高い機械を導入したことで償還をするために不必要な検査を行っていると言うケースも少なからず見られるのも事実で、逆に言えば本当に必要な検査だけではペイしない設備投資は過剰投資であったとも言えるかと思います。
ただ日本の現状でおよそ病院と名のつく施設でCTもないではお客が来ませんから、経営戦略上も周囲との横並びで入れざるを得ない面もあるはずですが、特に施設同士が近接している都市部などでは設備の共用化や検査センター方式の導入が出来れば経営的にも医療財政的にもメリットがあるはずですから、国もコスパ追及を云々するなら現場がそれを行いやすいような制度的バックアップをしていただきたいところですよね。

|

« 高すぎると話題の新薬が医療現場に意外な影響を及ぼす | トップページ | 著名人遺族から終末期医療への問題提起 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

診療のコストが医師の腕を評価する目安になるのかな。
でも安かろう悪かろうにならなきゃいいですけど。

投稿: ぽん太 | 2016年7月26日 (火) 08時20分

抗生物質の使い方とか検査項目の選び方とかを見ていると
センスの良し悪しを感じることはあります。

投稿: JSJ | 2016年7月26日 (火) 09時00分

安く治したら担当医の給料あげるようにしたらいいんじゃない?

投稿: | 2016年7月26日 (火) 10時39分

医師にとってはいいかも知れませんが、患者にとってはあまりありがたくないでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月26日 (火) 12時40分

 かつて、「時間と手間はかかるがコストはほとんどかからない行為」しか まだやってないうちに死んじゃった で 散々叩きましたからね。DPCで絞っても、中ではレセプトに書かずに検査してるッテことでしょう?しばらくは。 設備の償却更新はできないからそのうち時間切れの撤退戦です。官僚は気が長いですよ。

 モノの更新はともかく、人材の更新が継続できさえすれば、そのうちに巻き返しができましょう。当面は、モノがなくてもそれなりに有用なことができる人材を「叩かずに」育てる環境が維持できるかどうかです。新専門師制度は、一部でも役に立ちそうですかね。都合の良いところだけ使えばよいと思うんだが。  

投稿: memento mori | 2016年7月26日 (火) 21時01分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/63960912

この記事へのトラックバック一覧です: 風邪など寝ていれば治るが推奨される時代に?:

« 高すぎると話題の新薬が医療現場に意外な影響を及ぼす | トップページ | 著名人遺族から終末期医療への問題提起 »