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2016年7月13日 (水)

てんかん患者はお上に届け出るべきか否かと言う議論

意識障害を来す各種疾患罹患者による交通事故の続発を受けて道路交通法や危険運転致死傷罪が改正されましたが、その結果とも言うべきこんな記事が出ていました。

免許更新うその記載で書類送検(2016年6月28日NHK)

運転免許を更新する際に提出する質問票にうそを記載して、その後、交通事故を起こした山形市の会社員が、道路交通法違反などの疑いで28日までに書類送検されました。
おととしの道路交通法改正によって、質問票にうそを記載すると、罰則が科せられるようになってから、書類送検されたのは、山形県内では今回が初めてです。

書類送検されたのは、山形市に住む50代の会社員の男性です。警察によりますとこの男性は、てんかんの治療中で、医者から、運転を避けるよう助言されていましたが、ことし2月に免許を更新する際、「病気が原因で意識を失ったことがあるか」という質問票の項目で、「いいえ」を選択しました。
しかし、免許更新からおよそ1週間後、上山市で、運転中に意識を失って交通事故をおこし、3人に軽いけがを負わせたとして道路交通法違反と危険運転傷害の疑いで、6月21日書類送検されました。
質問票にうそを記載した理由について、男性は「免許が更新できないと仕事ができなくなると思った」と話しているということです。

おととしの道路交通法の改正によって、運転免許を更新する際、質問票にうそを記載すると、最高で、懲役1年または罰金30万円の罰則が科せられるようになってから、書類送検されたのは、山形県内では今回が初めてです。
日本てんかん協会山形県支部の工藤昭二代表は「てんかんは、薬を飲んで規則正しい生活を送れば、症状を抑えられる病気です。てんかんで運転できない人に対しては、社会的な支援が必要だと思う」と話していました。
今回の書類送検について日本てんかん協会山形県支部の工藤昭二代表は「事故を起こさないために運転は控えるべきだと思うが、生活していく上で車は必要不可欠だ。てんかんは、薬を飲んで規則正しい生活を送れば、症状を抑えられる病気ということを社会が理解した上で、運転できない人に対しての支援が必要だと思う」と話しています。

5人死傷事故で懲役4年 運転中にてんかん発作の男 宮崎地裁「服薬怠り運転を非難」(2016年7月11日産経新聞)

 宮崎市で昨年3月、乗用車を運転中にてんかんの発作を起こし、1人が死亡、4人にけがを負わせる事故を起こしたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた無職、岡留富信被告(63)に宮崎地裁は11日、懲役4年(求刑懲役5年6月)の判決を言い渡した。

 判決理由で織川逸平裁判官は「主治医から注意を受けていたのに服薬を怠って運転した。認識の甘さは厳しい非難に値する」と指摘した。

 判決によると、岡留被告は昨年3月12日、宮崎市で乗用車を運転中、てんかんの発作で意識障害となり、前方や対向の車に次々と衝突。軽乗用車の男性=当時(56)=を死亡させ、男女4人にけがを負わせた。

てんかん協会はてんかんは薬を飲んでいればコントロール出来ると主張しているのですから、薬を飲まずコントロールを怠っている患者に対しては患者への偏見を助長すると厳しい態度で臨んでもいいように思うのですが、いずれにしても一度けいれん発作を起こしただけでずっと治療を受けなければならない、免許更新時なども申告をしなければならない等々と言われると、なんだかなあと感じるのも人情ではありますよね。
そうやって管理を怠った結果何ともなかったと言う人もいれば、どこかで発作を起こす人もいると言うことなのですが、単純に自己責任とばかりも言い切れないのは車の運転中であれば大抵は周囲にも被害を及ぼすと言うことで、やはり視力に障害がある人が眼鏡やコンタクトを必ず装着して運転する必要があるのと同様に、社会的責任と言うものも自覚した行動を取って頂きたいものだと思います。
ただこうした疾患管理の不良についてはたまたま事故などで見つかると言うのでは遅すぎると言うもので、予防的な段階で介入すべきだと言う考え方も当然出てくるのですが、本人と並んで最も状況が判っているだろう担当医などにとっては言わば患者を売るような密告めいたことをすべきなのかどうか葛藤もあると言うことなのでしょう、こんな話もあるようです。

てんかんなど「運転危険」診断、近畿2府4県で医師届け出1件のみ 改正道交法で新制度創設後(2016年1月5日産経新聞)

 てんかんなど意識障害の病気が原因の交通事故が相次ぎ、医師が任意で診断結果を警察側に届け出ることができる新制度を盛り込んだ改正道交法が平成26年6月に施行されて以降の1年間で、近畿2府4県でてんかん診断の届け出が1件にとどまることが5日、各府県警への取材で分かった。てんかん患者は全国で約100万人いるとされ、法改正後もてんかん発作などが原因の重大事故が各地で発生しており、新制度の事故抑止効果に疑問が残る形となっている。

 警察庁によると、改正道交法が施行された26年6月から27年5月までの1年間、てんかんや認知症など病気全体の届け出は全国で184件あった。警察庁は病種別の件数を明らかにしていないが、近畿の6府県警によると、計13件の届け出があり、てんかんは1件だった。近畿では認知症が6件で最も多かった。
 法改正以前は、警察側が病気の有無を把握するには運転手の自己申告に頼るしかなく、無申告のてんかん患者による事故が各地で相次いだ。23年4月には栃木県でクレーン車の運転手が発作を起こし、小学生の登校の列に突っ込んで6人が死亡。24年4月には京都・祇園で、軽ワゴン車の運転手が発作で暴走し、歩行者19人を死傷させるなどした。
 新制度に関し、事故の遺族は「自己申告では事故を防げない」と医師の届け出義務化を求めて署名活動したが、国側は届け出の義務化を見送り、医師が「運転が危険」と判断した場合、任意で警察側に届け出る新制度を盛り込んだ改正法が成立した。

賛否別れる新制度の“効果” 遺族「届け出義務化を」 医師側「患者との信頼崩壊」 

 新設された医師の任意届け出制度は、てんかん患者らが無申告のまま運転し続ける事態を食い止める役割が期待されていた。ただ、道交法改正後も届け出はほとんどなく、事故も多発。遺族らは届け出義務化の必要性を訴えるが、医師側は「義務化で、むしろ事故は増える」と否定。新制度の効果も不明で、賛否は分かれている。
 「この1年間で届け出を義務化していれば守れたはずの命がたくさん奪われてしまった。任意の制度では事故を防ぎきれないのは明らかだ」。平成23年4月、栃木県鹿沼市で小学生6人が死亡した事故で、当時小学4年だった長男を亡くした伊原高弘さん(44)はそう語気を強める。
(略)
 一方、医師で日本てんかん協会(東京)の久保田英幹副会長は「届け出を義務化すれば患者は病状を正確に医者に申告しなくなり、治療することもできなくなる」と主張する。
 久保田副会長は現在、てんかん患者約600人を抱えるが、患者の中には運転免許を失い失職する人もいるという。「患者に運転の危険性を説明することで運転をやめることを納得してもらっており、届け出が必要となるケースは生じていない」とした上で、「件数が少なくてもそれが危険というわけではない」と話した。

まあ久保田先生の前で「納得し」たはずの患者が全員きちんと運転免許を返納なりしたのかどうかを調べて見るのも興味深い結果になりそうだと思うのですが、事故被害者の立場に立てば当然ながら知っている情報を知らせないことで被害に遭うのはまっぴらだと言う考えが成り立つでしょうね。
医師の側から見れば守秘義務や患者との信頼関係等を考えれば診断即届け出とはならないでしょうが、そもそも法改正の内容を議論した場である有識者検討会でも「 医療関係者は、患者について力を尽くして治療すること、 患者を社会復帰させることが仕事の柱であるため、社会での 患者の活動による被害や、その被害を受けた者の苦情を受け 止めるという発想が欠けている部分がある」などと半ばあきらめられていたそうです。
全く医師の指導にも従わず治療も満足に受けずと言う患者は一定程度いるもので、大昔であれば医師が言わば首根っこをひっ捕まえて治療を受けさせていた、そして近年では患者の治療拒否の経緯等々をカルテに詳細記載して後は自己責任に委ねるようになった、そしてこれからはさらに一歩進んでその患者が治療を受けないことの社会的意味も考えながら対応すべきだと言うことになるのでしょうか。
その場合意識変革のモチベーションとして医学生に対する教育をどうこうする程度では不十分だと思うのですが、以前に病院から外出中の精神科入院患者が起こした殺人事件を巡って加害者、被害者双方の家族から病院が訴えられた事件のように、医療現場にとって大きなインパクトを残すような出来事があって初めて抜本的な意識改革が進むのかも知れませんね。

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コメント

当院もてんかんはあまり来ませんが糖尿病は多いです。
意識障害がぜったい来ないとは言えないですが。
それでも届け出る医師はほとんどいないんじゃ?

投稿: ぽん太 | 2016年7月13日 (水) 09時00分

リアルでもネットでも、てんかんと糖尿病が同じ土俵の上に乗っているということを理解していない人が多いように思われます。(ネットの場合理解していないふりかもしれませんが)
明日は我が身なのですけれどもね・・・

投稿: クマ | 2016年7月13日 (水) 10時36分

個人的な見聞の範囲内でも糖尿病による意識障害が事故に結びついたケースは一例二例に留まりませんが、医師を含めそのリスクをどこまで認識しているのかです。
どこかで誰かから医師相手の訴訟でも起これば、一気に意識改革が進む可能性がありそうに思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月13日 (水) 11時37分

先日蕁麻疹で受信した若い女性、「稀にショックを起こす事があるんでその時は救急車を…」と、テンプレ説明したところ「昨日から喉がイガイガする…」
慌てて基幹病院に押し付け、救急車で行くようムンテラしたのですが「昨日からずっとだし車で行く」、と聞き入れて頂けず、やむを得ず手持ちのエピペンを渡し、「使わなかったら返してね」と言って行かせました。

…もちろんカルテにはがっちり記載してますが、基幹病院からの返事は来ないしエピペンも返してもらえてないしで正直ガクブル…ババ引いたぁああああ!!!!

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年7月13日 (水) 12時16分

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