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2016年7月12日 (火)

健診で引っかからない人の方がむしろ異常

特定健診というものが義務づけられて以来、医療機関の外来で無症状の受診者がかなり増えているのではないかと思いますが、実際にこんなデータが公表されていました。

健診「合格」40歳以上は17%…健保連調査(2016年07月06日読売新聞)

 40歳以上のサラリーマンで、血圧や肝機能など健康診断の主要4項目が全て「基準値範囲内」の人はわずか2割にも満たないことが、健康保険組合連合会(健保連)の調査でわかった。

 健保連は、食事や運動など生活習慣の見直しによる改善を呼びかけている。

 健保組合は、大企業の会社員や家族約3000万人が加入している。このうち、433組合に加入する40~74歳の会社員270万4234人について、2014年度の血圧、脂質、血糖、肝機能のデータを調べた。

 その結果、4項目全て基準値範囲内の人は約45万人で全体の17%しかいなかった。半数にあたる約136万人は、1項目以上が「医療機関の受診を勧める数値」となっていた。「受診は必要ないが保健指導が必要な数値」の人は約89万人(33%)いた。

つまり普通に生活している人々の実に8割以上が健診によって異常者にされてしまっていると言う言い方も出来るかと思いますが、もちろん大きな異常や重大な疾患の初期を拾い上げているケースも少なからずある一方で、健診が不要な病人を増やしているのではないかと言う声も根強くあるのは確かですよね。
この辺りは実際に早期からの医療介入によってその人個人の健康寿命が延びる等の効果に加えて、財政面のメリットとして言われるように生涯医療費が安上がりになるのかどうかも今後の検証課題になるかと思いますが、一方で素朴な疑問として感じるのは臨床検査の正常値とは健康な人の95%が当てはまる値だとされていますが、大部分の人が引っかかってしまう場合正常異常の線引きとしてどうなのかです。
他方で健康上問題が起こる数字をもって正常異常の境界線とすべきだと言う考え方もあるはずですが、これも先のように治療介入を行うことによるメリットがコストやリソースの消費を上回るものなのかどうかも問題で、健診の基準値なども未だにどこからを異常とすべきか議論の余地が多く、また立場によっても考え方が異なってくるようです。

10年ぶりに見直されるか? メタボ健診 高リスク非肥満者への対策を巡り2つの意見(2016年7月7日日経ビジネス)

 2008年に始まったメタボ健診・特定保健指導は、生活習慣病の前段階である内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)に焦点を当てたもの。いま、5年ごとに行われてきた実施計画の見直しの時期を迎え、腹囲や体格指数(BMI)を第一基準としたこれまでの評価基準では不十分との声が高まっている。
 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授の門脇孝氏は、「心血管イベント発症のリスクが高い肥満者の拾い上げには成功したが、非肥満者でリスクが高い群に対する取り組みは不十分だった」と指摘する。「血糖、脂質、血圧、喫煙のリスクを抱える非肥満者にも、生活習慣病予防に関する取り組みを積極的に行っていく必要がある」という考えだ。

非肥満者でも高リスク群が存在

 門脇氏の発言の裏付けとなっているのは、同氏が研究代表者を務めた「特定健診・保健指導におけるメタボリックシンドロームの診断・管理のエビデンス創出に関する横断・縦断研究」の結果だ。この研究は、12の国内コホート研究データを用いて、心血管疾患の発症を8~12年間前向きに追跡したもの。
 現行の評価基準(表1)を用いて男性1万4068人、女性1万7039人を分類し、データを解析した結果、腹囲とBMIの基準をどちらも満たさず(非肥満者)、血糖や脂質、血圧、喫煙歴などのリスク因子もない群を対照群とすると、腹囲かBMIの基準値を満たし(肥満者)、リスク因子を1つ以上持つ群(リスク数1群)では、心血管イベントのハザード比が3倍近くになることが示された(図1右)。
 また、腹囲やBMIの基準値を満たしていない非肥満者でも、リスク因子を持つ群では心血管イベントのハザード比が高いことが明らかになった。リスク1群では、男性1.78、女性2.12。リスク因子を2つ以上持つ群(リスク数2以上群)では、男性1.91、女性2.54と、肥満者と同様に高いハザード比になった(図1左)。
(略)
 門脇氏らによる研究結果を受け、厚労省健康局の「特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会」は、2018年からのメタボ健診の実施計画を見直す目的で、今年1月に議論を開始。腹囲を対象者選定の最初の基準にするのではなく、エビデンスを重視し、血圧や血糖の高値といったリスク因子の数を基準にし、それに加えて腹囲を指標に対象者を選ぶべきという結論に達した。

保険者は現状維持を支持

 だがあくまで、この結論は健康局が開催した検討会での話。実施主体である保険者が制度としての実現性などを議論する目的で、今年1月から厚労省保険局が開催している「保険者による健診・保健指導等に関する検討会」では、既存の基準で継続すべきという意見が多数を占め、健康局の検討会とは異なり、基準の見直しは不要との結論に至っている。
 保険局の検討会での結論について、日本公衆衛生協会会長で同検討会の座長を務める多田羅浩三氏は、「メタボ健診の目的は症状の早期発見・早期対応ではない。症状を来す前に指導を行い、疾患の発症を予防するための取り組みだ。国民が自ら生活習慣を改善するのを手助けするものと捉えれば、既存の評価指標で十分と判断した」と語る。
 加えて多田羅氏は、メタボ健診と保健指導が高血圧、脂質異常症、糖尿病の上流にある内臓脂肪の蓄積解消に着目して始められた取り組みであることを強調。その他のリスク因子を抱えているとしても、非肥満者はそもそもメタボリックシンドロームの定義に該当しないので、「健康増進法に基づき、市町村が健康教育などを実施すればよい」と主張する。

 メタボ健診の実施者は、市町村ではなく国民健康保険、被用者保険(組合健保、協会けんぽ)などの保険者。市町村が行っている健康教育とは財源も位置付けも異なるため、実施の目的をきちんとすみ分けたいというのが保険者側の考え方だ。
 現在、メタボ健診の対象者約5300万人のうち、受診者数は約2500万人。保健指導対象者とされるのは約420万人だが、指導を終了しているのは約76万人のみ。「2兆円の医療費抑制効果をうたい導入した経緯を振り返れば、評価基準を変更して保健指導の対象者をいたずらに増やすのではなく、保健指導の利用率を高め、指導を完遂する仕組みづくりが求められている」と多田羅氏は話す。
 それぞれの検討会で、異なる論点から異なる結論が出されているメタボ健診の見直し。評価基準をどうするかについての最終結論はまだ出ていない。
(略)

現時点でどちらの考え方が妥当であるのかは議論も別れるところだと思いますが、健康被害を未然に防ぐと言う観点からは当然ながらリスク因子を抱えている人々はなるべく多く拾い上げるべきだと言う考えもある一方で、現状でもすでに当事者関係者の不平不満も多い基準をさらに厳しくした場合、下手をすれば健診受診者の限りなく全員が医療機関のお世話にならなければならないと言うことになるかと言う懸念もあります。
健診で引っかかった場合にどこから治療を行うべきなのかはガイドライン等の医学的指針や本人と医療側の考えに従って決まってくるのでしょうが、特に生活習慣病に関してはいきなり治療開始と言うことはそう多くはないはずで、多くの場合まず生活の改善を試みるところからと言うことになるのでしょうが、そのために医療機関を受診する本人の手間や外来リソースの消費等に見合った成果が挙げられているのかどうかです。
受診者の中には毎年同じように異常値で引っかかり、毎年同じように生活を改善しましょうで終わっている方も少なくないでしょうが、こうした方々に対してどこかで強制的に治療に入るべきなのか、医療機関以外での指導で済ませられないものなのかなど、引っかかった後の対応についても検討しておかないと、基準が厳しくなればなったで受診者本人も医師の側も不満が高まるばかりと言うことになりかねませんね。

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コメント

今年もコレステロールと尿酸引っかかりました。
医療費節約のためまだ病院かかってません。
こんな自分はほめられるべきでしょうか?

投稿: メタボリスト | 2016年7月12日 (火) 08時31分

どなたが あなた様を褒めるべきである とお考えか 
お考えを披歴していただくと、興味深い議論になると思われます。 

投稿: memento mori | 2016年7月12日 (火) 10時37分

だいたい指導で生活改善する人っているのか?
長年の習慣がそう簡単に変えられたら苦労ないって!

投稿: | 2016年7月12日 (火) 10時41分

病院てところは
病気が進んでから行くともっと早く来いと文句を言い
病気が軽いうちに行くとこの程度で来るなと文句を言うところです
検診をやって要受診の通知を出しておいて、行くと嫌な顔をされるところです
いったいどうしたいのかと思いますね

投稿: | 2016年7月12日 (火) 11時39分

健診の基準値自体も見直すべきかと思いますが、本人に治療する気の無い生活習慣病的異常の扱いは難しいですね。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月12日 (火) 13時03分

つかメタボ健診って必要⁇

投稿: | 2016年7月12日 (火) 13時16分

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