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2016年7月 1日 (金)

似非医学の被害者が訴えない理由

本日の本題に入る前に、日本医科大学武蔵小杉病院の腫瘍内科教授・部長である勝俣範之先生が、先日こんなコメントを出しています。

近藤理論を放置してはいけない(2016年4月12日日経メディカル)

近藤誠医師が提唱する“がん放置理論”を信じて、せっかく早期で発見できたがんを進行がんにしてしまう患者が後を絶たない。学術論文を引用しながら標準的治療の効果を否定し、誤ったインフォームドコンセントを広げる近藤理論に専門家は断固、反論すべきだと勝俣医師は主張する。
(略)
勝俣 近藤先生の主張は、がんの手術は寿命を縮めるだけ、抗がん薬は効かない、検診は無意味、がんは本物とがんもどきに分かれる――というものです。がんの臨床試験には不正があるとも言っています。つまりがんの標準治療の完全な否定です。
 トラスツズマブの臨床試験ではカプランマイヤー曲線が上に凸なので不正があったと主張しています。もし事実なら世界中で不正な乳がん治療が実施されていることになりますから大問題なはずです。僕は近藤先生が根拠として挙げている論文を読みましたが、不正な研究ではカプランマイヤーの曲線が凸になるとはどこにも書いていないのです。
(略)
――トラススツマブも話が象徴的ですが、近藤先生の本を読むといろいろな学術論文を引用しています。

勝俣 そこです。一般の方々は論文をたくさん引用しているからすごいことを言っているのではないかと思う。我々が見れば論文の読み方が偏っていて、レベルも低い。最初から結論ありきで偏った読み方をするから間違った結論に達するのです。
 標準治療を無視して、しかもお金を取って医療を行っているというのは海外では医師免許剥奪という話になりかねないし、弁護士も黙っていないということです。僕は患者さんにも訴訟してもいいですよと言っているのですが、患者さんは近藤先生の言う事を聞き入れた自分が悪いと、自分を責める人が多く、訴訟までに至った例はありません
 近藤先生の独特の診療スタイルなんですが、患者さんには手術は寿命を縮める、抗がん薬は効かないなどの持論を展開した後で、「あなたが決めてください」と言うのです。自分が決めたのだから、がんが進行しても、近藤先生を責める気にはなり難いようです。

―インフォームドコンセントの方法に問題がありそうですね。

勝俣 インフォームドコンセントを日本に広げたのは近藤先生という人もいますが、僕から見れば間違ったインフォームドコンセントを日本に広げたのが近藤先生です。20年前に近藤先生が広めたインフォームドコンセントはいわば「患者の自己責任型インフォームドコンセント」です。医師が責任逃れのために使うといっても言い過ぎではありません。
(略)
勝俣 放置していいというのは患者さんにとっては楽な選択肢です。手術にも薬物療法にも放射線治療にもメリット、デメリットがありそれを天秤にかけながら患者さんに説明して、治療を進めているのが我々です。ですから断定的なことは本来、患者さんに言う事は出来ないはずです。言う事が決まっていれば、患者さんの言う事に耳を傾けることすら必要なくなります。
(略)
 こうした医療が幅を利かせる点について標準治療を推奨する側にも反省すべき点があります。

――反省すべき点とはどのようなことでしょうか。

勝俣 まず根拠が希薄な医療に対して反論が十分であったかどうか。免疫細胞クリニックや近藤先生の放置療法に対して反証を挙げて、国民に情報提供して来なかった。国立がん研究センターや学会が行ってもいいはずです。これはメディアも同じです。また近藤先生の極端な主張が国民の一部に支持されている背景には身近にがんの治療で苦しんだ人がいる方も多い。十分な緩和ケアを受ける事なく、過剰な抗がん薬や過剰な治療をされてQOLを損なった方を見て来た方も多いはずです。だから近藤先生の意見にも正しい部分はある。しかし一部に共感して全部信じてしまうから間違った方向に行ってしまう。国民の皆さんには、十分に気をつけてくださいと言いたいのです。

勝俣先生のおっしゃることは医学と言う観点から見ればまことにいちいちごもっともなのですけれども、基本的にああいうものは宗教と一緒で事実がどうであるかと言った次元とは別な世界での話だと思いますから、宗教家に向かって神が実在すると言う根拠などどこにも存在しないと説くような空しさも感じるところでしょうか、ともかくも事実として近藤先生は訴えられていないと言う点には注目すべきですね。
とは言え先生も実例を挙げているように少なからぬ方々に健康被害が出ていることは事実ですし、医師免許を持っている人間が率先して国民の健康を害することをやっているとなれば通常は免許停止くらいはあってもおかしくないと思うのですが、これまた勝俣先生も言っているように近藤先生の商売のやり方は非常に巧妙なものですから、患者は悪いのは信じた自分と自責の念に駆られることで訴訟沙汰等には訴えないようです。
その点で「判断するのはご自分で」と言う近藤先生方式のインフォームドコンセント?はかなり厄介なものであり、さすがに長年この道で食っているだけに巧みに網をかいくぐれるよう洗練されてもいるのだと関心もするのですが、別に近藤先生に限った話でもなく今の時代に似非医療や代替医療、果ては拝み屋の類で健康被害が出ると言うことは決して少なくないし、その対策をどうすべきかと頭が痛い問題ですよね。
周囲も何かおかしいことをやっていると感じ、本人が見る間に衰弱していくのを目の当たりにしてどうしたらいいのかど右往左往はしても、本人がどうしてもそうするのだと言い張っている場合どう対処したものか迷うケースが少なくないと思いますが、周囲がどう動くべきかと言う点で先日もかなり判断に迷いそうなこんな事例が報じられています。

乳児への「予防接種拒否」で家裁が「親権喪失」決定…どんな背景があったのか?(2016年6月28日弁護士ドットコム)

 乳児への予防接種を拒否したことなどを理由に、九州地方の家庭裁判所が3月、児童相談所による母親の「親権喪失」申し立てを認めていたと共同通信が6月上旬に報じた。「親権停止」ではなく、予防接種拒否を理由にした「親権喪失」は極めて異例だという。
報道によると、乳児は昨夏、自宅玄関前に放置されていたことから、ネグレクトとして一時保護された。児童相談所は、乳児を親から離して里親委託しようとしたが、法定の予防接種を受けていないために、委託先を決められなかった。子どもに予防接種を受けさせるには原則保護者の同意が必要だが、児童相談所が再三、同意を求めても、母親は応じなかったという。
親権喪失は、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160628-00004826-bengocom-soci で、民法で規定されている。
家裁は、母親の予防接種拒否の意向は、思想・信条よりも、児童相談所への反発からと判断したが、「親権喪失」という異例の決定をどのように評価するべきか。榎本清弁護士に聞いた。

●家裁は、予防接種拒否だけでなくネグレクトを総合的に判断

通常、『予防接種の拒否』というケースは、親権停止が想定されています。しかし、今回の決定は『親権喪失』です。影響の大きい手段を取ったという点で、問題をはらむ決定です。
予防接種のような医療ネグレクトの場合は、親が同意して通常特定の医療行為がなされればよいわけです。つまり、2年以内に原因が消滅するため、親権停止という影響の小さい手段で対応可能です。もちろん、今回も、予防接種を受けさせれば問題は解決しますよね。このため、親権停止という取扱でも十分だったという考え方もできます」
しかし、それでも家裁は親権喪失に踏み切った。
「そうですね。今回のケースには、2つの特殊性があります。(1)前提として、予防接種拒否以前に、ネグレクトがあったこと(2)予防接種の拒否が医学・思想上の問題ではなく、児相職員への感情的な反発心を背景にするものであった――という点です。
医療ネグレクトについては、思想・信仰上の問題等のデリケートな問題を含むことが多く、その判断にも一定の配慮が要請されます。信仰による輸血拒否は、有名な事例です。予防接種にも同様の問題を生じうるところです。
しかし、今回は、(2)の理由から、予防接種の拒否に関する思想・信仰にどのように配慮するかという問題にはなりません。そして、(1)の状況と相まって、養育態度が著しく不適当という判断に至ったものと思われます」
(略)

今回の場合は制度上非常に現場は困っただろうケースで、そうであるが故にこうした処分が下された側面もあるのだろうと思いますが、予防接種などは昔から副作用渦と言うことに非常に神経質な方々も少なからずいらっしゃるわけですから、それこそ思想・信条により子どもに必要な医療行為を受けさせないと言う場合周囲はどう対処すべきなのかです。
この種のケースの実例として古来たびたび登場するのが思想・信条による輸血拒否を貫く宗教団体のケースで、親が熱心な信徒であり子どもへの輸血を拒否したため子どもの命が危険にさらされたと言う場合、実際に親権停止をした上で輸血により子どもが救命された事例がありますが、個人の思想信条に社会が介入する範囲として考えますとこれが親本人の命に関わる話であれば勝手にしなさいよでスルーされていたことでしょう。
その点で親子とは言え別人格に対して自分の一方的な思想信条を押しつけ危害を与えることは許されない、少なくとも判断力のある成人の場合であれば一見社会常識に反した行為でもかなりの自己裁量の自由が許されていると言うことですが、そうした観点から言えば冒頭の近藤先生の商売を患者の家族などが何とかしたいと考えてもなかなか難しいとも考えられますよね。
こうした場合患者本人には冷静な判断力がないと主張して強制的に治療に介入するか、あるいは患者に対する間違った入れ知恵によって患者が被害を受けた、その結果家族にとって心身の大きな損害が生じたと言う論法で民事に訴えるべきなのかと思うのですが、他方では家族も含めて近藤理論に最後まで納得し満足していると言うのであれば客観的にはどうであれ、それはそれで選択の自由として許容されるべきかなとも思います。

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コメント

http://www.data-max.co.jp/280628_dm1857_2/

投稿: | 2016年7月 1日 (金) 07時47分

ここまで近藤先生が野放しにされているのは、てっきり厚生労働省が黒幕についてて
癌治療におけるコストカッターの密命を受けているものだとばかり。。。

投稿: | 2016年7月 1日 (金) 08時15分

てか近藤先生ってまだ医療もやってるんですか?
てっきりもうコンサルティング業だけかと。

投稿: ぽん太 | 2016年7月 1日 (金) 08時36分

> 家族も含めて近藤理論に最後まで納得し満足していると言うのであれば客観的にはどうであれ、それはそれで選択の自由として許容されるべきかなとも思います。

 事前に患者側に対してこれ以上介入するのは、医療パターナリズムです。私はパターナリズムは必要だと思うのですが、現今、受け手のその気がないのならやる側が傷つく。その気にさせられなかった技量のなさ を恥じる時代も そろそろ過ぎたかな。

>根拠が希薄な医療に対して反論が十分であったかどうか。免疫細胞クリニックや近藤先生の放置療法に対して反証を挙げて、国民に情報提供して来なかった。国立がん研究センターや学会が行ってもいいはずです。
 ここで頑張るしかないのでは? 学会が及び腰なら個人でも。なとろむ先生のご努力には頭が下がります。 嫌う人も多いようですが、人それぞれできることをするだけ。

投稿: memento mori | 2016年7月 1日 (金) 10時43分

>「判断するのはご自分で」

コレは今時の医師なら誰でも言うのでは?私ですら言いますよ。

>なとろむ先生のご努力には頭が下がります。

なとろむ先生は本当に偉い、と私も思いますが、アタリマエじゃないから偉いんであって、アタリマエじゃない事をアタリマエに要求されるのはなあ…。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年7月 1日 (金) 11時41分

末端臨床医にとっては多忙な日常臨床の中で時間と手間をかけて洗脳を解いたとして、その患者が自分のところに押し寄せさらに時間と手間が掛かるようになると言うジレンマもあるかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2016年7月 1日 (金) 13時33分

ドロッポ先生の「アタリマエじゃない事をアタリマエに要求されるのはなあ…。」にレス。

 誰ぞ、要求していますか? 
 私自身はできることしかしませんから、他人様にそんな大それたことはもうしません。

 個人で動けばたたかれる正論wでも、学会員多数のコンセンサスとしての正論(があるもの)ならば、個人攻撃されずに押すことができる。なのに これが出遅れている(今後よくなる様子も見えない。悪くなりそうな材料は山ほど見える)

 一方個人でやれば、奉り褒め殺し。きき手に、「めんどい内容の吟味はいらんよ、まねできません、ゆうとけばよろし」という救済を用意し、モノを言うには 晒の苦痛を伴うのがアタリマエと 見せしめにする。目立たぬようにやれ(黙れ)と。 

 近藤/なとろむ両先生のどちらかが正しいか とは別個に

 アタリマエの内容を吟味しない風潮がアタリマエしてますねぇ。
  

投稿: memento mori | 2016年7月 2日 (土) 12時57分

>誰ぞ、要求していますか? 

言葉が足りませんでしたが、下記、勝俣範之先生のコメントの事です。
>>根拠が希薄な医療に対して反論が十分であったかどうか。免疫細胞クリニックや近藤先生の放置療法に対して反証を挙げて、国民に情報提供して来なかった。国立がん研究センターや学会が行ってもいいはずです。

>個人で動けばたたかれる正論wでも、学会員多数のコンセンサスとしての正論(があるもの)ならば、個人攻撃されずに押すことができる。なのに これが出遅れている

管理人様もご指摘ですが、それやっても個々の学会員には何のインセンティブもないんですよね…。
カテゴリー的には悪徳商法とか特殊詐欺の部類ですから、行政(厚労省よりはむしろ消費者庁か警察庁かw?)が主体で、積極的に啓蒙すべきだとは思いますが。
*もちろんその場合は学会も積極的に協力すべきですが、相応の報酬は要求すべきですね。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2016年7月 2日 (土) 17時18分

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